連休最後の大仕事として,自作MOS-FETアンプの電源平滑コンデンサの交換を行う事にしました。
ある時,ヘッドフォンをつないでこのアンプの電源を入れると,かつてないレベルの猛烈なハム音がしました。耳障りでとても音楽など聴けたものではありません。
私は直感的に,パワー段の電源の平滑コンデンサ(22000uF)が寿命を迎えたのだと思いました。容量抜けによるハムは定番の故障です。
よくよく考えてみると,このMOS-FETアンプは1987年に作って以来,スイッチやボリュームを交換した以外に,部品の交換を行っていません。23年も経過していれば電解コンデンサは軒並み寿命を迎えているはずで,実害があってもなくても,交換しておいた方がよいに違いありません。
ということで,22000uFで耐圧35Vの電解コンデンサを2つ買おうと思ったのですが,アキバではなかなか見つからず,あっても結構高価ということで困っていました。こういうとき日本橋のデジットなんかにいけばお手頃価格で手に入りそうなのですが。
そこで先日アキバに行ったおり,秋月で10000uF-50Vの特価コンデンサを6個買ってきました。3個並列で30000uFです。1つ200円だったと思いますから,1200円で30000uFを2つ分調達出来たことになります。
ラグ端子が出ているタイプではないし,バンド固定型でもないので,基板に立てて使うしかありませんから少しケースに加工も必要でしょうが,それはまあいいでしょう。それより,耐圧50Vで30000uFというコンデンサをこの大きさで用意できることもメリットかも知れません。(ついでにこのコンデンサは一応日本メーカー品,105℃品です)
交換用のコンデンサは買ってきたものの,この強烈なハム音にはオチがあって,実は感度の高いバランスドアーマチュア型のヘッドフォンを初めてこのアンプでならした時に,それまでの低感度ヘッドフォンよりもハムが目立ったというだけの話でした。
実際,普段使っているヘッドフォンに戻せば,ハム音はいつもの通り,それほど気にならない程度です。しかし,一度気になり出すともう止まりません。コンデンサの交換と一緒に,ハム音の対策もやってしまいましょう。
・コンデンサの交換
コンデンサの交換は,従来の22000uFのバンド固定型2つを,立型の10000uF6個にするという大改造です。元のコンデンサのスペースにはそのまま収まりませんので,場所の確保が必要です。
幸い,電源トランス(タンゴのMG-200です)を少し手前にずらせば,電解コンデンサ6個をマウントした基板を配置する場所は確保出来そうです。この強烈に重たい電源トランスを手前にずらし,同時に配線をやりやすくするために,向きを90度回します。配置の変更によってハムが増えないかどうかは,事前に確認済みです。
トランスを固定するための自作のアルミ製の足を少し短く切って,場所を確保しました。この時パイロットランプのネオンランプのリード線が無理に引っ張られてしまい,あわや断線という感じでした。完成後ネオンランプが点灯しないことに気が付いて焦ることになった理由です。
コンデンサと一緒に買ってきた穴あき基板をカットして適当な大きさにして,空いたスペースに置いてみるとぴったりです。
この基板にコンデンサを取り付けますが,このコンデンサの足は太く,2mmの穴が必要です。コンデンサを並べて位置を決めたら,それぞれの足の部分の穴を2mmに広げます。そして合成ゴム系の接着剤でコンデンサと基板を接着しておきます。
配線はどうしようかと考えました。作業にかかる前はエッチングして専用の基板を起こすことも考えましたが,面倒なので却下。それで穴あき基板を使った訳ですが,2mmの穴を開けたことで端子をハンダ付けするスルーホールのランドも削れてなくなっています。
銅箔テープを使ってみるかと基板に貼り付けてみましたが,GNDに繋がる部分は銅箔テープでは面積が広く,ここはリン青銅板を端子にハンダ付けしてみることにしました。
するとこれが結構しっかりくっつくんですね。穴あき基板はスルーホールの基板ですので,リン青銅板の裏側からも基板にハンダ付け出来ますし。それで銅箔テープを剥がし,すべてリン青銅板で作る事にします。
足の部分に少し小さめの1.5mmの穴を開けて,足にぎゅーっとはめ込みます。この時めくれ上がったリン青銅板と一緒にハンダ付けすれば,がっちりくっつきます。放電用の3kΩの抵抗もこの基板にのせてしまい,あとは配線するときに便利なように卵ラグを基板に取り付け,四隅に3.2mmの穴を開けて完成です。
スペーサを介してケース内部に固定すると,一部リン青銅板が接触してGNDにショートしていることが分かったのでカッターで切欠いて対策。見た目にもなかなかスマートな大容量コンデンサが用意出来たのでした。
あとは配線をするわけですが,そんなに難しい部分の配線はありません。ただ,私は基本的に鈍くさい人なので,配線を間違えたりして何度もやり直す羽目になりました。先のネオンランプの配線も間違えてしまい,回り回って電源スイッチに並列に繋いだだけになっていました。そりゃ光るはずがありません。
コンデンサを入れ替える前のリップル電圧に対し,30000uFに増量したリップル電圧は2/3程の大きさに減少していました。ただ,この程度の減少であれば,元のコンデンサの容量が抜けていたとは考えられないと思います。いずれにせよ,リップルは減ったわけですから,これはこれで良かったと思います。
早速ヘッドフォンを繋ぎハムを確認してみますが,全く変化無し。ハムの原因がリップルでもコンデンサの故障でもないということになりました。
・ハム対策
以前ハムの対策をしたときは,配線の引き回しが原因で,電源トランスの周辺や2次側の配線に信号線を近づけたことでハムが乗っていました。今回もそのあたりを疑うべく,パワー段の入力の配線を動かしてみたり,トランスの位置を遠ざけたりと試行錯誤をすると,ハムがほとんど消えるような引き回しが見つかりました。さらにドライバ段とイコライザアンプの電源の配線を信号ラインから遠ざけることで,ほとんど聞こえなくなるほどになりました。
これで完璧だ,と喜んで電源を切ってみると,切った瞬間に左側だけブオーンと爆音でハムが出ます。1秒ほどで消えますがこれは話になりません。
厄介な解析になるかもと覚悟を決めますが,よくよく配線をみると,パワーアンプの入力のシールド線のGNDが,片側だけ浮いています。片側だけ浮かせるのはGNDのループを防いでハムを減らす定番の作戦ではありますが,私はなにを勘違いしたか,RCAピンジャックのGNDがケースに最終的に繋がらず浮いたままになっていました。その上,パワーアンプに繋がる配線だって,シールド側は回り回って電源の平滑コンデンサに繋がっていますから,電圧の変動があるとGNDも動いて,まともにハムが出るんですね。
とりあえず,RCAピンジャックをGNDに落としました。結果,ハムは小さく安定し,電源OFFでも静かに電源が切れるようになりました。
・調整
そして最終工程,調整です。このアンプの調整はちょっとややこしく,初段のJ-FET差動アンプのバランス調整,ドライバ段のPNPトランジスタ差動アンプのバランス調整と電流調整,終段のMOS-FETのアイドル電流の調整です。DCサーボはかかっておらず,初段の差動アンプに出力を戻して負帰還をかけているだけです。
深刻なのはオフセットがずれてしまい,出力に直流が出てしまうことですが,調整方法を書いた本を見ずに適当にいじっていたら,実はそれが誤りだったりしてちょっと混乱しました。
まず初段のJ-FETのバランス調整ですが,これはドライバ段のPNPトランジスタを外して調整しないといけないそうです。別にいいんじゃないかなあと思いましたが,そういうものらしいです。J-FETの負荷抵抗の両端の電圧をLとRで比べていましたが,Lは明らかにアンバランスでした。でも今回は面倒なので,調整はしません。
次にドライバ段の差動アンプです。まずバランスの調整をしますが,これがなかなか一致してくれません。なんとかだましだまし,電流の調整もしつつ無理矢理あわせ込みました。こんなに調整が面倒だったかなあと思うと,もしかすると故障している可能性も否定できませんが,面倒なのでパス。
最後に終段のMOS-FETのアイドル電流を調整して完成です。この状態で出力の直中電圧を測定すると数百mVも出ているのでやり直しです。この直流電圧がゼロになり,かつドライバ段がバランスし,かつその電流量がある範囲に収まるように,半固定抵抗を調整していきます。
なんとか左右でベストな位置を見つけて,調整を完了しました。この段階で作業開始から二日が経過していました。
意気揚々とケースを閉じると,またハム音がします。ケースを開けるとハム音が消えるので,鉄製の上ケースが磁気を誘導するようです。困ったものですが,小さいハムなのでもう許します。
ラックにセッティングするときの話ですが,腰を痛めつつあった私は,裏側の配線をしている最中に重いアンプを支えきれず,ずるっと滑らせてしまいました。その時ケースの角でスタックスのドライバアンプのパネルをギギギと擦ってしまい,大きな傷を付けてしまいました。つくづく私は鈍くさい男です。
配線を終えたつもりが,どう間違ったのか,どの機器を選択してもずっとチューナーからの音がなりっぱなしです。仕方がないので1つ1つ確認しながら配線をやり直すことにします。
ようやくすべての配線が終わり,高感度のヘッドフォンでハム音を確認します。するとまた盛大なハム音がします。今度はなんだろうと試行錯誤を行うと,原因はスタックスのドライバアンプでした。プリアンプから分岐してドライバアンプに繋げていますが,このドライバアンプのボリュームを最大にして電源を切ると,ハムが出るのです。
電源を入れるか,もしくはボリュームを最小にするとハムが消えます。ボリューム最小は入力がGNDに落ちるからですし,電源OFFだと入力が完全に浮いてしまうからで,こういうおかしな使い方をしている以上,仕方がありませんね。でも,ハムが消える方法が見つかったことは,非常に助かりました。
そもそも,ハムを少なくする配線方法を学んである程度出来るようになったのは,このアンプを作ったずっと後の話です。かといって今から配線を全部やり直すほどの根性もありませんし,そこまでするならケースと半導体を流用して全く新しいアンプを作り直す方が面白いでしょう。
この歳になると,1987年という私が高校生だったときに完成して今日まで稼働し続けていることが重要に思えてきて,あまり手を入れることはしないでおこうと思ってしまうものです。
今後のメニューとして,電解コンデンサを全て交換すること,抵抗を金属皮膜にすること,位相補償用のコンデンサをセラミックからマイカに交換すること,という定番の改造が出来ると良いかもしれません。フィルムコンデンサも,例えばWIMAのオーディオ用に交換するとか,それくらいはしたいですね。
実はこのアンプ,ハムが減ったことでサーッと言うノイズが非常に耳に付くようになりました。この手のノイズはトランジスタと炭素皮膜抵抗だと思われますので,まずは抵抗を交換してみようかなと思います。