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2012年01月の記事は以下のとおりです。

シャーシパンチを知っていますか

 シャーシパンチという工具をご存じでしょうか。

 アルミなどの金属の板に,大きめの丸穴を開ける工具です。通常,丸穴を開けるというとドリルを思い浮かべますが,これはドリルではなく,一種のプレス加工です。

 仕組みは簡単で,穴を開けたい金属板を,穴の直径のくぼみを持つウスと,それより少しだけ小さいカッターで挟み込み,カッターをネジを使ってジワジワと押し込んで,切り抜きます。ウスもカッターも鋼で出来ていて,ウスには軸をねじ込むネジを切ってあります。

 もともと真空管のソケットの穴を早く綺麗に開けるために用意された専用工具といってもよく,7ピンミニチュア管のソケット用の16mm,9ピンミニチュア管ソケット用の21mm,GT管のソケット用の30mmなどを一発で開けることの出来る優れものです。

 その昔は定番の工具として知られ,真空管の時代が終わると特殊な工具となりましたが,真空管のアンプ製作には必須の工具ですので,それなりの知名度があります。

 20mmくらいまでの穴ならテーパーリーマーで8mmくらいの穴を少しずつ広げていきますが,やったことのある人ならお分かりのように,なかなか綺麗に広げるのが難しいのです。力加減が強すぎると花びらのような形に広がりますし,かといって弱すぎると,金属がカットされずにバリとなって残ってしまいます。

 調子に乗って広げるとすぐに大きすぎる穴になってしまいますし,断面もテーパーがついてしまいますので,板の表と裏で微妙に穴の大きさが違うのです。

 30mmにもなるとリーマーでも無理で,小さい穴を円周に沿って開けてこれをニッパーで繋げ,丸ヤスリで仕上げるという手順になりますが,完全に手作業ですので綺麗に穴が開くわけでもなく,しかも小穴をたくさん開けるので,板の歪みも結構出ます。なにより,その労力が大変で,1つや2つならいいですが,これを10個も20個もヤレ,と言われれば,もうへばってしまうでしょう。硬質のアルミや鉄なら途中であきらめてしまうかも知れません。

 工場では欲しい穴径や形状の金型を作り,これをプレス機を使って打ち抜いていくわけですが,金型を起こすなど素人には無理ですし,プレス機など置く場所もなければ,危険ですしうるさいです。

 そこでシャーシパンチです。径の違う丸穴用に数種類の金型をあらかじめ作っておき,これをプレス機の代わりにネジを使って締め込んで打ち抜きます。

 とても便利な工具だったのですが,いよいよ入手が難しくなってきているような感じです。

 私が入手したのは今から15年ほど前で,ホーザンのK-82という安価なものを買いました。下穴用のテーパーリーマーのような余計な工具も付属しておらず,穴径も3種類のみですが,たしかこれを1500円ほどで買った記憶があります。

 その前に,同じホーザンから出ていたミニパンチを中学生の時に買いましたが,ちょうど9mmや10mmといった穴を綺麗に開けることが出来ずに四苦八苦していた時に,同じ趣味を持つ友人に「こんなのがある」と教えてもらって,その便利さに驚嘆したという経緯がありました。

 シャーシパンチも,別に真空管の工作を行うために買ったわけではなく,大きな穴を綺麗に開けたいという事から,買うことにしました。事実,RCAのピンジャックなどは,10mmでは穴の内側にGNDが接触してしまいそうな感じですが,16mmだと上手く取り付けられます。(本当は13mmのミニパンチがベストかなあ)

 さて,このシャーシパンチですが,ホーザンはK-81,K-82,K-83というラインナップを古くから持っていたのですが,K-81もK-82もすでに廃番となり,入手出来ません。K-83は5種類もの穴を開けることが出来るのと,下穴用のテーパーリーマーまで揃っていますが,お値段は1万円近くします。電気ドリルが数千円で買えるこの時代に,とても高価な工具になってしまいました。

 エンジニアからもT-15というシャーシパンチセットがありました。値段は5000円ほどで安価ながら,ホーザンのK-83とほぼ同じ内容ですので,こちらがおすすめと言いたいところなのですが,驚いた事にこれは昨年秋に廃番となっていて,今は店頭の在庫だけになっているようです。

 エンジニアは後継品を用意していませんので,結局ホーザンのK-83のみになります。

 そもそも消耗品でもなく,需要が激減しているであろうシャーシパンチが絶滅することは想像に難くなく,もし欲しい方は今のうちに買った方がよいのではないかと思います。

 私は実物を見たことはありませんが,その昔「スコヤパンチ」なるものもあったそうです。シャーシパンチは丸穴を開けるものですが,スコヤパンチは角穴を開けるものです。スコヤ,というのは,英語のスクエアがなまったものです。

 真空管ラジオ,特に5球スーパーがメインだった時代には,IFTの角穴を開ける必要がありました。ですが角穴は丸穴よりも難しいでわけで,これを一発で開ける工具はさぞ重宝したことでしょう。しかし,真空管でラジオを作る事がほぼなくなった時代に,それこそオーディオアンプには全く使い道のない角穴を開ける専用工具が絶滅するのは至極当たり前のことで,今実物を見るのは至難の業でしょう。(なんとgoogleでもひっかかりません)

 また,先程のミニパンチも絶滅しました。私はホーザンのものしか知らなくて,K-71,K-72,K-73の三種類があったことを覚えています。K-71は7mmと8mm,K-72は9mmと10mm,K-73は12mmと13mmだったように思います。

 私はK-71とK-72を持っているのですが,K-71は3mmもあるアルミを無理に抜こうとして,ネジを折ってしまいました。代わりになるものもなく,部品の供給もないので復活の目処は立っていません。

 K-72はよく使う工具ですが,ある時9mm側のウスに10mmのカッターをねじ込んでしまい,カッターを壊してしまいました。新品をもう1セット買いましたが,もったいなくてこちらはほとんど使わずに,壊れてしまったカッターを騙し騙し使っていますので,あまり綺麗に穴が開きません。

 出来ればこのミニパンチを再販して欲しいのですが,なにぶん廃盤になってから15年以上経つようですし,絶望的だなあと思っています。

 個人的に思うのですが,切る,開ける,磨く,という作業に,これほど多種多様な工具が存在するのは,作業効率の向上や仕上がりの綺麗さというメリットを追求したゆえで,お金のない子供の頃には,それらの工具をそもそもしらないか,知っていても高価で手が出ないものです。

 そんな子供の工作は,あり合わせの材料とあり合わせの工具で行いますので,どうしても綺麗に仕上がらないものです。

 しかしある時,そうした専用の工具を手に入れると,ビックリするほど作業が楽で,かつ綺麗に完成することを知ります。そして,工具が欲しくてたまらなくなるのです。

 良い工具を揃えることは,工作を素早く,綺麗に,かつ安全に行う秘訣といってよいでしょう。

 シャーシパンチもその1つだと思うのですが,1000円ちょっとで買えた工具が,今や1万円です。工作を取り巻く環境がどんどん悪くなっていくなあと,残念な気持ちです。

 一方で,電気ドリルなどのパワーツールは,安く簡単に買えるようになってきました。パワーツールが安くなるのは数が出るのと,中国などで生産されるからでしょうが,私に言わせると一体誰がそんなに電気ドリルを買っているのか,そんなもん普通の人に使う機会があるのか,と思ってしまします。加えて,やっぱり安物は使い心地も悪いし,効率も落ちるし,仕上がりも汚いので,使い物になるのは相変わらず高価なものしかなかったりします。

 まあ,パワーツールは目立ちますし,わかりやすいし,とりあえず買っておこうという人がいるのはわかりますが,工作の基本は手動で動くハンドツールです。ハンドツールに良質なものがないと,裾野が広がって行かないよなあと,心配になります。

 その意味では,ホームセンターも随分様変わりしたものだと思います。私が子供の頃は,どんな工具もそれなりに高価でしたが,買って失敗することは少なかったと思いますけど,今は安いものがある代わりに,それらは大体失敗します。またそれらは概して長持ちしないものですが,工具に対する愛着がわかないという意味でも,今の子供達はかわいそうだなあと思ったりするのです。

加湿器導入

  • 2012/01/23 16:42
  • カテゴリー:散財

 加湿器を買いました。

 先週ニュースでも報道されていましたが,関東地方は雨が降らず,乾燥した日が続いています。しかも今年は子供が生まれたこともあって,贅沢にエアコンを使って暖房をしています。

 このことで初めて経験したのですが,エアコンで暖房すると,20度を超えたあたりから湿度が30%くらいになるんですね。そして30%になるとさすがに,手足がカサカサになるし,喉も苦しくなります。

 これがガスストーブなんかだと燃焼時に水蒸気も発生するので加湿の必要性もないのですが,エアコンは純粋に温度だけを上げるものですから,空気中の水分量にはなんら変化がありません。
 
 この季節になると,加湿器の話があちこちで出てくるわけですが,その度に自分には関係ないと思って来ました。しかし,それは要するに私が暖房を弱めに入れる人だったから顕在化しないだけの話だとわかって,得心した次第です。

 加湿器には原理が異なる様々な種類があります。違いを説明したWEBページなどが簡単に見つかるのでここでいちいち説明はしませんが,1980年代に一世を風靡した超音波型は,カビやカルシウムなどもそのまままき散らすので却下。

 沸騰型は消費電力が桁違いに大きく,電気代がかかる上にブレーカーが心配で他の機器の同時使用に気を遣う必要がありますし,足下に置く機器ゆえに倒したときが心配ということで,論外。

 そうすると気化型とハイブリッド型になりますが,静かで穏やかに湿り,無理矢理に湿気を加えるという無茶をしないところが気に入って,気化型にすることに決めました。別に急激に湿度を増やしたいわけではないので,ハイブリッド型までは考える必要もないでしょう。

 気化型は消費電力も小さく,音も静かなのですが,ぬらしたフィルタに風を当てるというローテクゆえに,それなりの性能を出すには大型になりがちです。それが欠点なのですが,加湿器など無理に小型のものを選んでしまうと,水タンクも小さくて何度も水を補給せねばならず,実に面倒です。大きさには目をつぶりましょう。

 気化式のメリットにはもう1つあり,空気清浄が期待できます。原理的にぬらしたフィルタにゴミやホコリがくっつきますので,衛生的といえるでしょう。また,メーカーによってはナノイーやプラズマクラスターイオンなどの抗菌機能を搭載するので,循環する空気を改質する力があります。

 まあ,空気清浄機ではありませんのでそんなに大したものではないでしょうが,鈍くさいウイルスがナノイーで1つでも多く死んだら,ラッキーです。

 この手のローテク家電は,大手メーカーから弱小メーカーまで様々です。お値段もまちまちで,2万円を超えるものもあるかと思えば,その十分の一くらいで買えるものもあるので,どれを買うか迷ってしまいます。

 安いものでいいかとおもっていたら,amazonのレビューで「臭いが強烈」「喉を痛めた」などと,もはや欠陥としか思えないことが書いてあります。本当かどうかはわかりませんが,水を使うものは必ず不潔になるので,それが原因であるとするなら話になりません。

 そこで,高価でも大手メーカー品を選びました。またしてもパナソニックの「FE-KXG07」です。

 FE-KXG05との違いは,加湿能力の差です。07の方が高い能力をもっています。大きさはどちらも同じ,消費電力も加湿能力の制御も似たようなもので,金額もわずかに高いだけです。もともとリビングで使う予定でしたので,まよわずFE-KXG07を選びました。

 この機種の特徴は,お手入れが簡単なことです。水を使えば必ず不衛生になるので,掃除をしたかどうかが安全に快適に使えるかどうかの分かれ目です。その掃除が簡単にできることは,必須の機能だと言い切ってよいでしょう。

 なお,amazonでこの機種を買いましたが,ここ数日100円単位の値下げが行われており,私が買ったときより数百円も安くなりました。参りました。

 さて,届いてみると,想像以上の大きさです。とてもこれを担いで部屋を移動することは考えられない大きさです。取っ手もありませんし,持ちにくい形をしています。不便だなあと思ったのですが,冷静に考えてみると水タンクが10リットルの容量ですので,満タンにすれば軽く10kgをこえるわけです。

 これを頻繁に動かすかといえば,それはないです。据え置きと割り切ることで,他の性能に妥協がないなら,正しい判断でしょう。

 ただし,ACケーブルがちょっと短いです。据え置きは結構ですが,大きなものを足下に置くことになるので,必ずしもコンセントが近いところにあるとは限りません。私の場合,ACケーブルの長さが設置の制約になってしまいました。

 早速つかってみましょう。水をタンクに入れ,スイッチをいれます。基本的には60%の湿度に保つおまかせモードが一番良さそうです。

 確かに急激な加湿は行われませんが,確実に空気の乾燥が収まってくるのがわかります。50%くらいになると,そこから60%になりにくいようですが,別に50%になってくれていれば快適ですので,気になりません。

 加湿器から出てくる風は結構強いのですが,音は静かですし,その空気も潤いがあって,少しヒンヤリしているために,とても気持ちいものですし,好みの問題でしょうが湯気が出ないことは,見た目にもむしろメリットと言えそうです。

 ということで,かなり大きく邪魔になることと,少々高価であったことを除けば,かなり満足な商品です。お手入れのしやすさはこれから経験することになるでしょうが,どういう工夫が成されているのかもよく見ておきたいと思います。

 もう1つ,加湿をするということは,それだけ結露が出やすいという事です。窓ガラスは結露で水がたくさん付きますし,カメラなど,寒い部屋や屋外から持ち込んだときなど,注意が必要です。

 湿気と結露で多くのものをダメにしてきたこの人生,除湿器こそ必要でも,まさか加湿器をこの私が買うことになるとは,まさか思っていませんでした。

 それゆえに,どういう時に必要で,その効果がどれくらいあるかを体験した事はなかなか興味深いことであったと思います。これでインフルエンザの対策になるなら,安いものです。

コダックの破産とフィルムの守り方

 名門コダックが,破産法を申請するというニュースが届きました。

 少し前から何かあるごとに破産の話が出ていたので,今さら驚くような話ではありませんが,つい先日組織の再編で伝統のフィルム部門を廃止し,民生部門と産業部門に分けたところでしたから,複雑な思いです。

 こういうニュースが出ると,こぞって出てくるのが経営面での失敗に関する記事です。それは同業の富士フイルムの成功と比較し,コダックの失敗を異口同音に(そして誇らしげに)語るものです。

 彼らは,おそらく写真愛好家ではないし,コダックのファンでもないでしょう。コダックが果たした役割やコダックの理念などを,むしろ邪魔なものと考えているのではないでしょうか。

 もっとも,経営という切り口で語るときに,趣味の問題や過去の歴史に感傷的になることこそ問題でしょう。ならば,そういう立場にない私のような自由なアマチュアが,コダックを語らねばなりますまい。

 コダックには,3つの顔があると思います。

 1つは,圧倒的な技術を持つ会社であることです。技術で新しい世界を切り開いてきたパイオニアという顔です。

 ロールフィルムという携帯性に優れた写真用フィルムの登場は,写真を一部の専門家から写真を趣味とするアマチュア,さらには写真を趣味にはしないが記録を残したいと考える大衆に開放するきっかけになりました。

 写真用フィルムとして最も普及した35mmのフィルムも,もともとは映画用の70mmフィルムを半分にして使い始めた人がいて,その後これを小型カメラに応用した人がいた事が誕生したのですが,明るいところでもフィルムが交換出来るようにパトローネ呼ばれる使い捨てのカートリッジにフィルムを詰め込んだ,現在の形に仕上げたのは他ならぬコダックです。

 それまで,暗室が必要で,またそれなりの技術も必要だったフィルム交換を,そこらへんのおばちゃんでも出来るようにしたことは,誰もが写真家になれる,というコダックの理念に沿うものでした。

 ISO400を実現した高感度フィルムTRI-Xは,それまで撮影不可能だった少ない光りの中でも世界中の出来事を記録し続けましたし,世界初のカラーフィルムKodaChromeによって,人類は初めて色を残すことが出来るようになりました。

 その後の超微粒子フィルムの開発とそれを生かしたフォーマットの小型化(110ポケットフィルムやAPS)はもちろん,現像システム,カメラ,レンズ,印画紙,PhotoCDといった電子写真など,写真に関する標準は,ほとんど全てコダックから生まれ,他社から生まれたものはコダックと違うという理由で,死ぬ運命にありました。

 フィルムの発展によって膨大な記録が画像で残され,そしてそれら画像によって獲得した新次元の説得力は,報道のあり方を根本的に変えました。やがてそれは大衆の意識と世論を変え,特にベトナム戦争後の民主主義のあり方を根底から変えてしまいました。

 もう1つは,消費者に対する,新しいマーケティングを行った,優れた商売人としての顔です。

 消費者は,カメラやフィルムを求めているのではなく,映像記録を簡単に行うことを求めている,という今なら当たり前の考え方を,100年も前に掲げたコダックが,当時いかに先駆的であったかです。

 コダックが発売した「ザ・コダック」という革命的なカメラに与えられた,「シャッターを切るだけ,あとはコダックがやります」というわかりやすいキャッチコピーは,まさにこれを体現しています。

 100枚撮りのフィルムを詰め込んだカメラを消費者は購入し,写真を撮った後コダックに送ると,現像されたフィルムと,新しいフィルムを詰めたカメラが手元に戻ってきます。

 フィルムの装填も現像も,専門知識や設備のない人には出来ません。また,広大なアメリカで,これらを行う拠点をくまなく整備するのは非現実です。こうして,それこそ子供や女性まで,写真を撮るなんて考えも及ばなかった人々の身近なところまで,日々の記録を残すという写真の楽しさが,やってきたのです。

 カメラやフィルムの性能をアピールするのではなく,その結果得られる消費者のメリットを訴求する,これがコダックの商売でした。

 そしてこれは同時に,コダックにとっても大変おいしい商売です。新しいフィルムの入ったカメラが手元に届いた以上,普通はこのフィルムでまた写真を撮るでしょう。するとまた現像とフィルムの装填が行われ,これがずっと繰り返されます。つまり,一度顧客になった人を,ずっとつなぎ止めておくことが出来るのです。

 カメラはただ同然の価格で販売しても,ちゃんとフィルムと現像で利益が出ます。この仕組みは,コダックというより,フィルムをビジネスにする会社の基本方針となります。

 なんと素晴らしいビジネスモデルでしょうか。


 最後の1つは,従業員を家族と考え,手厚く守る,優しい会社の先駆という顔です。コダックは1920年までに,当時としては画期的な退職年金,生命保険,障害補償などの福利厚生を実施,同時に従業員に対する利益配分を方針として掲げました。

 また,従業員が安心して働ける環境の構築に熱心で,安易に工場を移転させたり閉鎖しないで,地元ロチェスターの雇用の創出,終身雇用を守り,可能な限り解雇せず,地域,従業員,そして経営者との関係を良好に保ってきました。

 こうした今なら当たり前の企業のあり方を先取りしたコダックは,超優良企業として世界的に知られるようになります。

 コダックほど長く続いた強力な独占企業で,この3つを特徴として挙げることが出来る例は,希ではないかと思います。

 一方で,覇者の奢り,あるいは小回りの利かない企業体質が競争力を削いでいたことは事実で,よく言われるようにデジタル写真への移行の失敗,卓越したフィルム技術を生かした別事業への転換などが出来ず,フィルムの凋落と運命を共にすることになってしまったことは,否めません。

 フィルムメーカーの,写真文化に対する責任感の強さには感服するものがあり,コダックは利益を度外視してこれまでフィルムの生産を続けてきましたし,富士フイルムも他で儲けたお金をフィルムの維持にあてるなど,利益追求だけでは絶対に残せないフィルムの芸術性や文化的な側面,そしてその役割を本当に理解してくれているのだと,私などはうれしくなります。

 例えば,日本画や陶芸などで使われる特殊な道具や消耗品を,需要が少ないとか儲からないという理由でやめてしまったら,それらの芸術は途絶えてしまいます。フィルムが儲かる工業製品だった時代はともかく,儲からなくなったときにそのフィルムを続けるかどうかは,銀塩写真をその会社がどう捉えているか,とてもはっきり分かるテストと言えるでしょう。

 ただ,コダックは,それを存続させる事に,無頓着でした。自らの使命感の強さ故にフィルムを作り続けたのであったとしても,ただただ赤字で作り続けるだけで,存続するための手を講じないままであったなら,それは最終的にその責任を果たせません。

 私を含めた,写真と写真文化を愛する人間が望んだものは,コダックではなく富士フイルムのありかたであったはずです。コダックのやり方では,結局誰の期待にも応えることが出来ないのです。

 富士フイルムは,企業としての存続という当然の目標からさらに,なぜ自分達が存在し続けなくてはいけないのかというところにまで,考え抜いたのではないかと思います。

 そして,その答えとして,優れたフィルムを供給出来る力を持つ希有な存在として生き残る責任を自覚し,一企業の問題を写真文化の存続にまで昇華させ,フィルムに利益を依存しない体質を作ったのかも知れません。だとすれば,これぞ社会的使命果たそうとする,優れた企業のあり方ではないでしょうか。

 私が,コダックという名門が立ちゆかなくなった現実を見て思うのは,経営の失敗や企業体質の問題という,ステレオタイプな分析でではなく,写真文化の守り方を間違ったんだなあという失望感です。

 デジタルカメラによって劇的に写真は安く,手軽になりました。すぐに写真を見ることが出来たり,あっという間に遠方に届けることも出来ますし,高価で何日もかかった大判への引き延ばしも,家で簡単にできるようになりました。

 一方でコニカが写真から遠い存在になり,街の写真屋さんがどんどん消えて,いずれ現像も手軽に出せない時がやってくるでしょう。これらと同時に失うものがあることを,もう一度考える機会になるかもしれません。

2011年の散財を振り返る

 月並みな言葉ですが,2011年は大変な年でした。大きな地震,大きな台風といった自然災害から,放射能汚染の恐怖や交通機関の麻痺という人的原因に由来する混乱,そしてヨーロッパの経済不安やタイの洪水,一向に良くならない景気といった具合に経済面でも,とても暗い年だったように思います。

 そんな中,我々には子供が授かり,不安と期待に忙しくする毎日です。利己的な本音の吐露をお許し頂ければ我々にとって,2011年には子供が生まれた事を越える事件はありません。

 余談ですが,数々の歴史的な出来事をお腹の中で体験し,母親の不安も喜びもその時々に感じてきたであろう子供が,罪のない無垢な表情を我々にふと見せるときに,むしろ直視しがたいもの悲しさを感じることが多くなりました。

 といいつつ,2011年も私はいろいろ散財をしました。年初に当たり,昨年を振り返ってみたいと思います。


・何にお金をつかったか

 昨年は,どうも電子部品や測定器にお金をかけたように思います。ディスコンになった半導体,春に作ったガイガーカウンタや夏休みに作った歪率計や周波数カウンタを完成させるために揃えた部品,ベンチ型のマルチメータなど,電子工作関連の買い物が多かったように思います。

 この手の買い物は,買ったときより,買った後の方が時間がかかるわけで,その意味でも随分と楽しませてもらいました。時間がなにかとないなかで,もっとじっくり味わえば良かったと思うこともありますが,完成して一段落したときの喜びというのは,とても心地よいものがあります。これはいつになっても変わりません。

 測定器はともかく,部品ですからそんなに高額にならないだろうというのは甘い考えで,1回の買い物が5000円を簡単に超えるのがこの世界です。単価は小さくとも,数を買えばびっくりするような値段になるものですから,この点は反省すべきですね。


・ガジェット編

 カメラ関係は概ねそれまでの機材に不満もなく,揃えたいレンズも特になかったのですが,子供が生まれることを理由に,手軽で高画質,でも本音のところは面白いオモチャとしてPENTAX Qを買いました。嫁さん用にと買ったのですが,嫁さんはややこしいカメラに思ってしまったようで,年末に投げ売りされて衝動買いした5000円のOptioRS1500しか使わなくなってしまいました。

 PENTAX Qはまだ謎の多いカメラです。JPEGで出した画像は修正の必要がないことも多いですが,いざ修正をしようとすると結構簡単に破綻します。それで念のためRAWでも出しておくのですが,RAWからの現像を手間をかけて行っても,良く出来たJPEGにかなわなかったりするので,まだまだ撮影者の意図を反映させるほどの技が私にないということでしょう。

 案外面白いと思ったのは,動画機能です。使わないだろうと思った機能ですが,綺麗に動画が手軽に撮れることで,結構使うようになりました。

 ところで嫁さんにあげたOptioRS1500ですが,使って見ると結構楽しいカメラで,画質も十分。5000円なら文句なしです。大事な事は,カメラが身近にあることです。

 ガジェットと言えばIDEOSです。常時接続の3G回線を持つ必要性から,当時もっとも維持費の安い選択肢を選びましたが,結論からいうと安いなりのもので,過度な期待は禁物です。通信速度の遅さよりむしろ,安定して繋がらないことが多いために突然の切断にビクビクしながらの通信を強いられていますし,IDEOSは小型ですが,あまりに端末自身の能力が低すぎて,もうAndroidだと思わないで割り切って使う必要性すら出てきました。アプリのアップデートも極力しないように使っています。

 そうそう,Nintendo3DSを地震の後に買いました。結局ほとんど使っていません。プチコンが動いたことでなんだか目的を達成してしまったような気がしています。まあ,2月発売予定のキラータイトルでどうなるかわかりませんが・・・


・工具・測定器編

 工具は,リューターを買いました。HP-200SGというなかなか良いもので,基板の穴開け用に小口径の超硬ドリルまで揃えましたが,実は昨年の出番はゼロです。リューターを使うような作業がなかったこともありますが,リューターのようにゴミが飛び散る工具は,ちょっと使いにくいのが現実です。

 一方,中古で買ったベンチ型のマルチメータDL2050が,もはや手放せない存在です。テスターでもよいのでしょうが,電圧や電流といった基礎的な測定が,決まった位置に必ずある測定器で行える便利さは想像以上のものがあります。検討開始は,ハンダゴテの電源と同時に,マルチメータの電源をいれるようになりました。ただ,どうも精度に自信がなく,無理をしてでも新品を買えば良かったかなあと思ったりしています。

 そういえば,お気に入りのデジタルオシロのHP54645Dにオプションを増設し,FFTが出来るようにもしましたが,こちらもやはり使い道がなくて,ほとんど使っていません。もったいないことをしたかなあと思っています。


・家電編

 地震の後の電力不足は,電気大好きの私にとっても深刻でした。もし停電して冷房が使えなかったらどうしよう,などと考えていたら,わずか3Wの消費電力の扇風機「GreenFan2」が大変に魅力的に見え,春のうちに買うことにしました。

 デザインはみんなが言うほど良いものでもないと思うのですが,風の質の高さと消費電力の低さには満足していて,背面のプラスチックのフタが撮れてしまったという問題で交換になることさえなければ,是非おすすめしたい家電の筆頭に来たと思います。

 これに組み合わせる非常用電源として,PD-350というポータブル電源を買いました。200Whの鉛蓄電池を備えたものですが,インバータ出力が150Wと小さく,実は照明器具と扇風機くらいしか動かせないため,大きさと価格,そして廃棄の面倒臭さを考えると,無駄な買い物だったと言えるかも知れません。

 電動歯ブラシも長年使ったブラウンのものから,パナソニックのEW-DL11に買い換えました。さっさと結論から言えば,電動歯ブラシなどは,慣れてしまえばどれも同じです。


・コンピュータ関連編

 タイの洪水が大騒ぎになる前に,2.5TBのハードディスクWD25EZRXを6480円で買えたことはラッキーでしたが,1年ほど前にMacBookProのメモリを増設したことくらいで,以前のようにコンピュータの部品やオプションを買わなくなりました。

 そんな中で,ちょっと面白いのはPogoplugです。まだまだ不安定で,手間をかけてやらねばなりませんが,大容量のHDDを繋いだ時の便利さは特筆すべきものがあります。とにかくここに突っ込んでおきさえすれば,関係者がいつでも見る事が出来るという楽さは,その手間を越えるものです。

 ・・・といいたいところですが,ちょうど年末の夜に,突然HDDがクラッシュ,復旧できない状態に陥りました。幸い失ったデータはなく,ほぼ元通り復活出来ましたが,最終的にHDDを修復できない状態を起こした大容量ストレージを接続したPogoplugに対する信用は地に落ち,Pogoplugはストレージと言うより,たんなるデータ交換ツールになりそうな感じです。

 ところで私のものではありませんが,嫁さんにiPad2をプレゼントしたのも昨年のことです。以後嫁さんはiPad2をずっとそばに置き,なにから何までこれで行っています。私自身はiPadにそれほど興味がないのでよく知りませんが,いろいろ不満もあるようです。

 ただ,嫁さんのメインマシンはかなり昔のMacBookですし,大きさと重さを考えると,iPad2は必須アイテムだったと思います。

 嫁さんが入院中にiPad2を持ち込んでいたのですが,生まれたばかりの子供の写真のうち,このiPad2で撮影された1枚が,とても良い写真で,見る度に唸っています。パーソナルなツールは常に手元にあるので,そこにカメラが付いていることの価値はとても高いと思います。


・電子工作編

 前述のように,昨年は電子工作の充実した年でした。主要部品だけ集めたものの一生完成しないだろうとなんとなく思っていた歪率計は無事に完成,気になっていた秋月の8桁周波数カウンタキットのレストアも終了し,念願だったTCXOを源発振に持つ高精度化も実現でき,常用ツールに昇格しました。

 また,手放しで喜ぶような事ではないのですが,ガイガーカウンタも自作しましたし,ちょっとしたことでは中国製の容量計の精度を追い込む改造も出来ました。

 主にケース加工の話ですが,年末にはStereoの付録が実用レベルに組み上がり,現在もメインシステムとしてCM1をほぼ毎日鳴らしています。

 1つ目新しいことがあるとすれば,インクジェットプリンタを使ってパネルに貼り付けるシートを印刷するという,試してみたかった手法が身についた事が進歩でしょうか。

 懐かしのインスタントレタリングは需要が激減しすでに入手困難になっています。ただ,仮に入手が可能であっても手間がかかる,文字の形や大きさが自由に選べない,綺麗に貼り付けられない,耐久性に劣るといった欠点があって,私もこの20年使った事がありません。

 最近は,発色のいいしっかりしたフィルムにインクジェットプリンタで印刷を行い,表面を耐候性に優れた保護フィルムで覆うという,なかなか本格的なステッカーの自作キットが売られていて,これを使うととても綺麗にパネルが仕上がります。

 金属の表面のヘアラインをそのまま使うことは出来ませんが,その代わり手間も汚れも危険性もあってその上綺麗に仕上げるのが難しい塗装をせずとも,美しい着色とレタリングが出来るのですから,これは使わない手はありません。

 結局,自作品の見た目というのは,パネルの綺麗さに寄るところが大きくて,最近は細かい事に気を遣わなくなった私でも,やっぱりパネルが綺麗だと人に見せるのも恥ずかしくありません。

 ちょっと本題からそれますが,この方法を簡単にまとめます。まず,穴開けが終わったパネルを,スキャナで取り込みます。これは実物のデータを原寸で取り込み,パネルの形状や穴の位置を決めるためです。

 まあ,きちんと寸法が出る加工をすれば,別にこんな事をしなくてもよくて,直接図面を作って行けばいいんですが,私のように鈍くさい人間は,どうしてもずれてしまうので,こういう現物合わせしかありません。アマチュアの手作りだから許されているわけですね。

 で,取り込んだ画像をPhotoshopなどで加工していきます。まず色を抜き,白黒の2値画像にし,パネル外形と穴をはっきり確定させます。それが出来たら,あとはツマミなどを別のレイヤーに置き,文字を入れていきます。シートは白色ですから,最終的に何らかの色が塗られますが,その色との兼ね合いも重要ですね。

 これまで難しかった塗り分けも問題なく可能ですし,ディスプレイの穴など,どうしても綺麗に加工することが難しい大きな角穴は,少し大きめに開けておき,シートを上から貼ることで綺麗に仕上がります。あと,後で貼り付けるときに迷わないよう,基準となる点や線を見えない位置に用意して置くとよいです。

 画像が出来たら印刷をします。印刷が出来たら少し大きめに切って,乾いてから保護フィルムを貼ります。この時,誇りや気泡が入るとみっともないので,注意します。

 完成したら,直線を出す必要がある角穴のくりぬきは先に定規とカッターで行い,ボリュームの軸穴などは隠れるのでそのままにして,パネルに貼り付けます。

 大きめに切ったフィルムをパネルの裏側に折り返すのもよし,パネル外形に合わせて切るのも良し,です。そして隠れてしまう穴を貼り付けた後に切り抜いて完成です。

 とても簡単な方法ですし,作業そのものはとても楽しいものです。試行錯誤も出来るし,仕上がりも綺麗ですが,シートがやや高価なので失敗すると精神的ダメージが大きいですから,慎重にしたいところです。

 そうそう,もう1つ電子工作のトピックでは,古い部品を少しずつ集めるようになりました。というのも,私が昔少ないお小遣いから厳選して買った電子工作の本や,最近買うようになった古い本に載っている記事が,いよいよ部品の入手が問題で作れなくなって来ていると感じたからです。

 2SC1815までディスコンになる現在,ゲルマニウムトランジスタなども今が入手の最後のチャンスでしょう。決して安くはないのですが,役立ちそうな部品は見つけたところで少しだけ買うようにしました。

 気をつけたのは,部品を買っただけでは価値がないので,きちんと整理し,すぐに使う事が出来るようにしておくことです。また,使いこなすためにデータブックも可能な限り用意して,詳細な仕様を手に入れて置くことも望ましいのですが,当時のデータブックはなかなか大変で,高価で入手困難ですから,よく考えて買うことにしています。

 それもまあ一段落で,主な部品についてはだいたい揃ったと思います。この部品で新規に工作をする事も出来ますし,これまでに作ったものや,昔の家電製品の保守にも使えます。例えばCMOSの4000シリーズだけでも何百も種類もあり,きりがないのですが,置き換えが不可能なものを出来るだけ揃えておきたいと思います。


・総括

 思い起こせば,それは本当に欲しいものなのか,無理に欲しいと思って買う機会を作ろうとしてなかったか,と問われて,答えに窮するものも多かったと思います。少々浮かれ気味なところもあったのですが,今年はしきい値を上げて,本当に欲しいもの,必要なもの,他に変わるものがないものに絞り込んで,無駄なお金は使わないようにしたいと思います・・・

 と,そんな時に限って,家電が壊れたりするんだよなあ。

Stereo付録のLXA-OT1を組み立てる

  • 2012/01/05 13:34
  • カテゴリー:make:

ファイル 541-1.jpg

 昨年末のことですが,「ステレオ」という雑誌にディジタルアンプが付録で付いてきました。最初はノーマークでしたが,友人から「なかなかよさそう」という話を聞いて,買うことにしました。

 付録のアンプ基板はその名も「LXA-OT1」。実に覚えやすい名称ですが,なんとラックスの設計になるとのことです。部品点数も少ないし,コストのかなりの制約もあるでしょうから,出来る事も限られているとは思いますが,音の方向性や定数の決め方,部品の配置方法などは,やはりラックスの文化を反映しているのではないかと,期待したいところです。

 パワーアンプICはSTマイクロのTDA7491で,最近の定番になりつつあるようです。元々テレビのオーディオアンプとしてこの手のICは新しいものが次々生まれていますが,TDA7491もその1つでしょう。しかしその素質はかなり高いレベルにあるとの評判です。

 本来,このアンプに直接ライン入力を入れても良いはずなのですが,わざわざオペアンプによるプリアンプを前段に入れています。ぱっと回路図を見るとゲインは1.118倍という事ですので,ほとんどバッファのような感じですね。

 ちょっと面白いなと思ったのは電源の部分です。付属のACアダプタはスイッチング式の安定化電源で,12Vの出力があります。これからまず抵抗分割で6Vを作り,プリアンプ用のオペアンプの中間電位を作っています。

 さらに12Vからツェナーダイオードで3.3Vを作っています。この3.3VはTDA7491のミュートとスタンバイの制御用端子を叩くための電圧で,特になにかを駆動しているようなものではありません。

 この3.3Vを使ってトランジスタによるスイッチを動かし,スタンバイに入れることで電源をOFFにするという仕組みを使っています。パワーアンプ用の12Vを直接ON/OFFするのではなく,12Vは常に通電してありますが,スタンバイ時の消費電流は限りなくゼロに近いので無視できます。

 こうすることで大電流用の大きなスイッチは必要なく,また電源ON/OFF時のポップノイズをある程度防ぐことを狙っているのでしょう。実際,かなり小さいポップノイズに収まっています。

 そしてこの信号でLEDのON/OFF制御も行っています。このあたり,中途半端なアマチュアが作ると,ついつい手を抜いたりする部分ですが,さすがにちゃんと作られています。いいですね。

 前述のオペアンプはわざわざDIPのパッケージをソケットを使って実装してあり,交換可能になっています。マニアックですね。このくらいのオペアンプの使い方で,そんなに音質が変わるとも思えませんし,いわばオペアンプの味をわざわざ付けるような回路ですから,本当にここまで必要なのかどうかは,ちょっと疑問が残ります。

 そのオペアンプには,NJM4558Dという定番が使われていますが,丁寧に回路を組んであるので,どんなオペアンプが挿されても問題なく動作するのではないでしょうか。

 音質に影響しそうなコンデンサ類は,特にオーディオ用のものではないし,国産品でもありませんが,そこはコストとの兼ね合いです。気になる人は自分で交換すればよいだけの話です。効果がありそうなのはC9とC10,C4とC11,C45とC6がまず挙げられると思います。

 私の場合は,コンデンサの交換は見送りました。交換用の部品が手元になかったですし,わざわざ買って交換しても気のせいで終わりそうな予感がしたからですが,オペアンプについては,死んでも使い切れない程の数を在庫しているOPA2134に,とりあえず交換しておくことにしました。NJM4558Dの元気のある音も好きなのですが・・・

 で,基板むき出しのバラックで鳴らすのも気が引けたので,最初からケースに入れて使う事にしました。大阪の部品屋さんで適当なアルミケースを探し,ついでにデテントタイプの2連ボリューム,40mmの大型ツマミ,そしてオルタネートタイプの押しボタンスイッチ,RCAの2Pジャックと出力用のスピーカターミナルを手配しました。

 数日後部品が届いたので確認すると,なんと押しボタンスイッチがオルタネートタイプではありませんでした。私の注文ミスです。いやー,押しボタンスイッチはしょっちゅう買い間違いしますね。

 もともと,内部にサブパネルを用いて,ボタンの頭の部分だけパネルから飛び出させるつもりでいましたから,この使い道のないスイッチを分解して,ボタンの頭だけを取り出し,これを手持ちの感触のいいスイッチに取り付けて見ました。かなり大型のスイッチなので場所は取りますが,基板を横にして格納できたので,スペースは十分そうです。

 そして40mmのツマミです。アルミの無垢からの削りだしは高すぎるので,安い台湾製のものを買ったのですが,これってボリュームの軸がローレットを切ってあるもの専用であることをうっかりしていました。一緒に買ったボリュームはストレートの軸なのではまりません。

 そこで,ツマミの穴を6mmのドリルで軽くなめて,ボリュームの軸に圧入する方法で対応します。これも適当にやったのでセンターが出ず,ぱっと見はわからないのですが,ツマミを回すと偏心していることがばれてしまいます。

 ただ,このケースに40mmはちょっと大きすぎました。30mmも一緒に買いましたが,これは小さすぎます。35mmならちょうど良かったのですが,まあ今度アキバに行ったときにでも,良さそうなものを探してきましょう。

 LEDは頭が1.5mmになっているオレンジをパネルに差し込んで使いますが,このLEDはおとなしい発光で頭の形状も好ましく,私のオーディオ機器用電源ランプはこれで統一しています。これに手持ちのパネル取り付け型のDCジャックと電源強化用に追加する3300uFの電解コンデンサを用意して,部品は揃いました。

 それで,冬休みに入った12月26日の朝から3時間ほどの作業で穴開けを行い,組み込みをしました。パネルには最初から大きな傷があり,そのままでは使えそうになかったので,前回の周波数カウンタのパネル用にプリンタで印刷してステッカーを作り,これを貼り付けることで対応しました。レタリングも出来るので一石二鳥ですが,銀色のパネルも捨てがたく,ちょっと惜しい気がしています。

 基板からボリュームとスピーカ端子,RCAジャック,LEDとDCジャックを取り外します。そしてNJM4558Dを抜き取って,OPA2134に交換します。

 あとは穴を開けたパネルにステッカーを貼り,部品と基板を組み付け,配線を進めます。配線作業は翌日の朝に持ち越しましたが,のべ3時間ほどで完成です。電源スイッチも案外綺麗にまとまって,押し心地もばっちりです。

 作例をいくつかネットで見ていると,最初から基板についているボリュームの軸を延長し,ツマミを取り付ける例がありました。これだと,背面から端子を出す位置に基板を置いても,フロントパネルにツマミを配置できますし,電源スイッチ用の穴を開けることも必要ありません。随分簡単にケースに入れることが出来るのですが,私にはその発想は最初からありませんでした。

 さて,配線のチェックをして電源を入れてみます。波形を見ると,無負荷ではキャリアと思われる300kHzがちょっと漏れているようです。全然問題ないレベルですし,負荷を繋げば消えるかも知れないので私は気にしません。むしろ直流がのってスピーカを燃やしてしまう事が心配でしたが,これも問題なし。

 もともとこのアンプは,昨今の電力事情を勘案して使用を自粛していた300Bシングルアンプの代わりに,うちで一番いい音が出るB&WのCM1を鳴らす常用アンプを想定していましたから,ちゃんと動くことがなにより求められます。

 真空管のアンプは通常スピーカを危険に追い込むような故障(あくまで故障であって調整不良や設計ミスは論外です)はほとんどないので安心していましたが,ディジタルアンプを含む半導体アンプは,このあたりを少し気にかけておくべきでしょう。

 完成したので,置き場所を確保して設置し,スピーカとプリアンプをつなぎ直して,いよいよCM1を鳴らします。

 第一印象は,あまりに普通,という印象でした。CM1は結構立派に鳴っていますので,まず第一関門は突破。300Bのアンプに比べてとてもソリッドで,ゴツゴツした印象を持ちますが,だからといってスピード感があったり切れ味の鋭さがあったりというわけではなく,本当に普通です。

 ハムやノイズも全然なく,実に安定で快適ですが,どうも面白味に欠けます。特にボーカルの表現力が乏しいのですが,その代わり大きな編成のオーケストラなどでも表情を変えず,300Bのアンプのように音を上げるようなことはありません。実のところ,300Bのシングルアンプの個性の強さと好ましさを再認識することになりました。

 ですがなにより,この音でこの消費電力の小ささですからね,大変なものです。どんなソースでも普通に鳴って,CM1をちゃんとドライブ出来るのですから,オマケとバカにせず,しっかりしたケースに入れて良かったと思います。

 以後,毎日のように使っています。冬休みの間,テレビも面白くないし,ながらが出来るので,ずっと毎日NHK-FMを聴いていたのですが,それこそあらゆるジャンルの音をしっかり鳴らしてくれました。300Bのように得手不得手が目立つ訳ではありませんし,消費電力の低さで長時間使用も気にならず,精神的な負担の軽さもあってとても快適です。

 聞くところでは,すでに在庫が払拭しているらしく,今から手に入れるのは難しいかも知れません。もし手に入れるチャンスがあったら,わずか3000円弱ですので,手に入れられることをおすすめします。

 ・・・でも,私が今回のアンプを完成に持って行くのにかかった費用は,アンプの3000円に,ケースや端子類で3000円ちょっとですので,合計6000円ほどです。ケースが安かった上,配線材料は手持ちのものがありましたからこのくらいで済んでいますが,実際はもう1000円ほど余計にかかるでしょう。

 このくらいの金額になると実は完成品が買えますし,もう少し出せば穴開け加工済みのケースまで付いたキットが買えたりします。ケースの加工を楽しみと考えるか,手間と考えるかで変わってくると思いますので,結局バラックで鳴らすのが一番賢い使い方だったのかも知れません。

 冬休みの工作としては簡単なものでしたが,実用性も高く,使って楽しいものですので,私として大変満足です。

 そうそう,せっかく作った歪率計で歪み率を測定しようかと思ったのですが,なんとこのアンプはBTL接続でGNDが浮いているため,現状の歪率計では測定出来ませんでした。最近のアンプは電源電圧が低いのでBTLが普通になっていますから,せっかく作った歪率計に出番がなく,ちょっと悲しいところです。

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