古いAMラジオの復活
- 2014/07/29 13:58
- カテゴリー:make:
先日実家に戻った際に,私のがらくた箱から,古いポケットラジオを発掘しました。
松下電器産業(現パナソニック)製の6石スーパーで,2SA101やら2SB172といった,当時としてはおなじみのゲルマニウムトランジスタが並んでいます。
電池は006Pを使っていて,この後のトランジスタラジオが単三2本になったりすることを考えると,少なくとも国内向けとしては初期のものになるのではないかと思います。
外観や回路構成,使っている部品などから推測するに,1960年頃のものではないかと思います。思いますという程度にとどまったのは,形式などが全く不明だからです。
もともと,このラジオには,黒いケースが背面に取り付けられていました。電池を交換するのにこのケースを外してしまわねばならず,中の部品が全部あらわになってしまうという潔い設計なのですが,悪いことにこのケースがなくなっており,ここに貼られていたと思われる機銘板もなくなってしまったのです。
このラジオは父が独身時代に買ったものだと思われるのですが,私が小さい時に,私の貴重なオモチャになっていました。小学校にあがるずっと前の話だと思いますが,ピンク色のペンでチューニングダイアルに落書きをし,さらに「あらいぐまラスカル」のシールを貼りまくっていましたし,革製の黒いソフトケースは早いうちに紛失,そして裏蓋もなくなってしまいました。
裏蓋がなくなってからは基板がむき出しになってしまい,バーアンテナは断線し,部品は曲がり,動かなくなってしまったのですが,捨てることは特にせず,幾度も世代交代を重ねた私のがらくた箱に長年眠っていたのです。
実家の荷物をいろいろ整理していて,野球ゲームや「さんすう博士」と一緒にこのラジオを見つけた私は,修理して動くようにすることを1つの使命ととらえました。いやなに,6石スーパーくらいなら修理は出来るはず,SGだってあるんだし調整だってちゃんと出来るはずで,むしろスーパーラジオの調整の練習になるんじゃないかと,そうやる気が出てきたのです。
いろいろ片付いて,ようやくそのラジオの修理に取りかかることができたのですが,まず壊れているのはバーアンテナです。
バーアンテナを見ると端子が4つあります。詳しい仕様は不明ですが,同調回路そのものの巻線と,トランジスタに繋がる巻線の2つが必ずあるはずなので,4端子という事はタップも出ていない素直なものだとわかります。
基板とバーアンテナを繋ぐ配線が1つ切れているのと,アンテナコイルが途中で切れているのと,2つの断線が目視で分かります。見えない断線があるかも知れませんが,4つの端子の導通とインダクタンスを計ってみると,このうち2つは導通あり,残る2つはどこにも導通しません。
そこで,導通しない2つの端子のそれぞれと,切れたアンテナコイルとの間で導通を見ると,片側は導通ありと出ました。
推測すると,どうもこの切れた配線は,端子から遠いところに巻き終わりがあって,そこから伸ばして端子と繋がっていたものが,途中で切れてしまったもののようでした。
そこで試しにこの巻線と端子を繋いでインダクタンスを計ってみると,ちょっと大きいのですが740uHくらいが測定されました。大きすぎるなあと思いつつ,とりあえずショートや断線,配線違いもなさそうということで,バーアンテナとして機能することを期待したい結果です。
これで仮に組み立ててみると,最初はシーンと何の音もしなかったのですが,いじっているうちにノイズが出始め,バリコンを回すとうまくラジオが受信出来ました。ここまでくると,特に致命的な故障が起きているわけではないと言えるので,かなり気が楽です。
ここで,レストアを以下の手順で進める事にしました。
・電解コンデンサの交換
他はともかく,電解コンデンサはすでに50年近く経過してほぼ確実に劣化しているはずですので,これは問答無用で交換です。
当時の電解コンデンサは今のようにE12系列ではないので,33uFではなく30uFなんですね。これは別に問題にならないくらいの差ですから,似た値のものにに交換します。
結局交換したのは,1uFと10uF,30uFくらいだったように思います。電源に入っているパスコンがまさに30uFだったのですが,ここは手持ちの関係で47uFにしました。
この頃の基板は片面で手描きですし,しかも大きな部品を無理に配置するのでかなり込み入ってますし,ジャンパ線も飛んでいます。古い電解コンデンサを外すのにジャンパ線を外したのですが,うっかりもとに戻す時の接続点を忘れてしまい,適当に付けたらどうやら出力段のトランジスタの動作点が変わってしまい,強烈に発熱してしまい,肝を冷やしました。ゲルマニウムトランジスタは,結構熱暴走しやすいと聞きましたし,そのくせ熱に弱い(80℃くらいで壊れるらしい)ので,ちょっとずつ音が小さくなり,触れなくなるほど熱を持ち始めたときには,もう駄目かと思いました。
で,外した電解コンデンサを確認したのですが,30uFは容量抜けをおこしていて,すでにコンデンサとしては機能しなくなっていましたが,それ以外のものは初期の容量を維持しており,ちゃんと動いていたようでした。すごいですね。
・調整
標準的なトランジスタ式のスーパーラジオの調整の経験をする,というのが1つのテーマですから,これはきちんとやっておきたいところです。ですが,いろいろ調べてみても,これだ!という決定版の方式がなかなか出てこないんですね。
私が持っているラジオ関係の本は古く,真空管時代の調整方法が丁寧に解説されていますが,原理はともかく具体的な方法としてこれがトランジスタラジオにはそのまま適用できません。
その後,ラジオは最新技術ではなくなりますし,IC化と無調整化が進み,1980年代の中頃にはラジオの作り方など雑誌にもあまり掲載されなくなりました。
また,調整の方法も持っている測定器によって随分違い,放送波を受信して調整するものから,周波数カウンタを使うもの,SGを使うものなど,皆さんいろいろ工夫をしているようですが,ちょっと残念なのは「本来ならこうすべきなんだが」という部分があまり語られておらず,手順と結果だけ書かれているWEBが多いんですね。
そこで今回は,古い文献を出来るだけたくさんあたり,自分なりに手順を考えてみました。
(1)まずなんでもいいから,放送を受信します。受信出来ない場合は調整不良か故障かわかりませんが,少なくとも受信が出来れば調整が進められることは確実です。
実のところ,新品の部品を買ってきた状態なら,ある程度の範囲に入っているので,特に調整をせずともとりあえずどっかの放送局を受信出来ることが多いです。
(2)IFTの調整をします。まず,局発を止めるため,バリコンのうち局発側をGNDと繋いでショートします。
(3)次にSGを455kHzにセットし,1kHzを変調して出力させます。これをアンテナコイルの端子に繋いで,ラジオから1kHzが出ることを確認します。弱くてもノイズまみれでもかまいません。多くのラジオは455kHzが通ってしまうので,こうして音が出てくれるのです。
(4)検波するダイオードの入り口にオシロスコープをつなぎ,検波前の波形を見ます。いかにも振幅変調というような波形が見える場合もあると思いますが,今回見るべきなのは1kHzではなく455kHzですので,時間軸を切り替えておいて下さい。
(5)SGを操作し,変調をOFFにして搬送波のみにします。これで綺麗に455kHzがオシロスコープに出ているはずです。
(6)SGを操作し,波形が綺麗に見えるギリギリところまで振幅を絞って下さい。大きすぎるとあとの調整で変化が見にくくなるので,出来るだけ小さくしておくのが理由です。
(7)SGを操作し,周波数を455kHzの前後にふってみます。おそらく振幅が変化すると思いますが,一番大きくなる周波数が455kHz以外にあるかどうかを見ておいて下さい。
(8)SGを455kHzにあわせて,いよいよIFTの調整です。中間周波増幅が2段の一般的なスーパーラジオは,IFTが3つあります。上流から順に通過帯域が広くなっていくので,調整の順番は上流から下流に,です。
IFTはコアの色で区別されているので,黄色,黒,白の順番で調整をします。この順番でコアを調整用のドライバーで回して,オシロスコープの波形の振幅が最大になるようにします。
(9)次に局発の調整です。(2)でバリコンの端子とGNDをしましたが,これを取り外して局発を発振させます。
(10)SGの出力に,別のアンテナコイルか400uHくらいのインダクタを繋いで,ラジオのバーアンテナに近づけて,結合させます。そしてSGを受信周波数の下限である531kHzにあわせて1kHzを変調して出力し,これを受信します。ピーと音が出ればOKです。
(11)ここで赤いコアの局発コイルを調整し,ピーという音が最大になるように調整をします。わかりにくければ検波後の回路にオシロスコープを繋いで,復調後の波形が最大になるようにしても良いかもしれません。
(12)次にSGを受信周波数の上限である1602kHzにあわせてこれを受信し,今度はバリコンの背中にあるトリマーコンデンサのうち,局発側を回して音が最大になるようにします。どっちが局発側のトリマーかわかりにくいと思いますが,アンテナコイルと並列に繋がっていない方の端子の近くにあるのが,局発側であることが多いです。
IFTがすでに455kHzに調整されているので,局発と放送波の差が455kHzになれば最大音量になるわけですね。上限を合わせると下限でちょっと狂ったりするので,531kHzと1602kHzを何度か交互にあわせます。これで局発は調整出来ました。
(12)最後にトラッキング調整です。SGを531kHzにセットし,ラジオのバリコンを下限いっぱいに回し切っておきます。そしてバーアンテナのコアを抜き差しして,531kHzがきちんと受信されてピーという変調音が最大になるようにします。
(13)今度は1602kHzにSGをセットし,バリコンを上限いっぱいに回し切って,バリコンの背面にあるトリマコンデンサのうち,アンテナコイルに繋がっている方を回して,受信音量が最大になるようにします。
(14)これを何度か交互に繰り返し,最終的に531kHzから1602kHzまでの間でトラッキングがとれて,常にミキサーの出力が455kHzになるようにします。
(15)IFTや局発コイルは勝手に動いたりしませんが,アンテナコイルのコアは動きやすくてずれてしまうので,パラフィンか何かで固定します。
これで調整完了です。531kHzから1602kHzまでの範囲で局発との差が常に455kHzになるようになっており,かつIFTは455kHzの帯域フィルタとして動作していますから,このスーパーラジオはその性能をいかんなく発揮しているはずです。
・清掃
分解して出来るだけ綺麗に清掃するのですが,アルミに小さい穴をいっぱい開けた「ラス板」が使われていて,しかも不織布のテープ(ヒメロンといいます)が貼られているので,水洗いをすると良くないでしょう。
そんなに汚れているわけではなさそうなので,メッキのくすみとラス板はコンパウンドで磨きます。油性ペンの落書きはアルコールとシンナーで拭き取ります。
たったこれだけの作業ですが,随分手触りも良くなり,綺麗になりました。
・裏蓋の加工
このままでも音は出ますが,なにせ背中がむき出しですので,調整がずれたり壊れたりします。背面が開放されると音も良くないので,出来れば裏蓋を復元したいところですが,代わりになりそうなものはぱっと思いつきません。
手持ちのケースをいろいろ試したところ,厚みはともかく縦横だけはほぼぴったりのプラケースが見つかりました。どうやら数年前に買ったワールド工芸の10000型電気機関車の真鍮キットの箱だったようです。
イヤホンジャックと音量つまみの部分を切り欠いてはめ込んでみますが,ちょっと無理をしているという感じはしつつも,なんとか様になっている感じです。使い勝手も音質も十分です。
黒く塗装しようかと思いましたが,中がそのまま見えるというのも悪くないなと思い,そのままにしてあります。
ということで,作業期間は4日ほどです。故障がなかったこと,調整がすんなりいったこと,ケースの加工が楽だったことで,予想以上に楽に終わりました。
それにしても,この頃のAMラジオって音がいいんですよね。しっかり下支えしてくれる低音と聴き取りやすい中域がすばらしく,このサイズのラジオなのにもっと大きなラジオから音が出ているのかと思うほどです。
まろやかさがあるように感じるのは,ゲルマニウムトランジスタのせいかもしれませんし,トランスを使った低周波回路のせいかもしれません。いやまてよ,セラミックフィルタに比べてダルな特性をもつIFTのせいかも・・・気のせいですね。
つくづく思うのは,ラジオって50年以上前のものでも実用品になるんだなということです。テレビはすでにアナログ放送が停波しているので昔のものは映りませんし,携帯電話も停波しているので,昔のアナログは当然,次の世代のデジタルのものも全く動きません。PHSもそうですよね。
カメラも,35mmのフィルムは売ってはいますが,APSとか110とか,すでに手に入らないものも多く,そういうものはすでに使う事ができません。
20年前のパソコンはネットに繋がらず,そこに流れているデータを処理する力もないので,全く役には立ちません。
その意味では,黒電話は今でも繋がって通話も出来るわけで,技術革新が進むことも素晴らしいが,完成されたシステムを維持していくこともまた素晴らしいと,思いました。
余談ですが,10年ほど前にラジオがデジタル化されるという話が出た際。もしもAMラジオのデジタル化されたらゲルマラジオを作り,音が出るということに感動することがなくなってしまうのかなあと心配になったことがありました。
ラジオの自作はなくならないでしょうけど,電子回路としてはおそらく最小規模で,電池も必要ないという摩訶不思議なゲルマラジオが動かなくなってしまうのは,とても寂しいなあと思っていたのですが,幸いにしてそういう事態は起こらず,相変わらず夏休みの工作にゲルマラジオは定番であり続けています。