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2014年07月の記事は以下のとおりです。

古いAMラジオの復活

  • 2014/07/29 13:58
  • カテゴリー:make:

 先日実家に戻った際に,私のがらくた箱から,古いポケットラジオを発掘しました。

 松下電器産業(現パナソニック)製の6石スーパーで,2SA101やら2SB172といった,当時としてはおなじみのゲルマニウムトランジスタが並んでいます。

 電池は006Pを使っていて,この後のトランジスタラジオが単三2本になったりすることを考えると,少なくとも国内向けとしては初期のものになるのではないかと思います。

 外観や回路構成,使っている部品などから推測するに,1960年頃のものではないかと思います。思いますという程度にとどまったのは,形式などが全く不明だからです。

 もともと,このラジオには,黒いケースが背面に取り付けられていました。電池を交換するのにこのケースを外してしまわねばならず,中の部品が全部あらわになってしまうという潔い設計なのですが,悪いことにこのケースがなくなっており,ここに貼られていたと思われる機銘板もなくなってしまったのです。

 このラジオは父が独身時代に買ったものだと思われるのですが,私が小さい時に,私の貴重なオモチャになっていました。小学校にあがるずっと前の話だと思いますが,ピンク色のペンでチューニングダイアルに落書きをし,さらに「あらいぐまラスカル」のシールを貼りまくっていましたし,革製の黒いソフトケースは早いうちに紛失,そして裏蓋もなくなってしまいました。

 裏蓋がなくなってからは基板がむき出しになってしまい,バーアンテナは断線し,部品は曲がり,動かなくなってしまったのですが,捨てることは特にせず,幾度も世代交代を重ねた私のがらくた箱に長年眠っていたのです。

 実家の荷物をいろいろ整理していて,野球ゲームや「さんすう博士」と一緒にこのラジオを見つけた私は,修理して動くようにすることを1つの使命ととらえました。いやなに,6石スーパーくらいなら修理は出来るはず,SGだってあるんだし調整だってちゃんと出来るはずで,むしろスーパーラジオの調整の練習になるんじゃないかと,そうやる気が出てきたのです。

 いろいろ片付いて,ようやくそのラジオの修理に取りかかることができたのですが,まず壊れているのはバーアンテナです。

 バーアンテナを見ると端子が4つあります。詳しい仕様は不明ですが,同調回路そのものの巻線と,トランジスタに繋がる巻線の2つが必ずあるはずなので,4端子という事はタップも出ていない素直なものだとわかります。

 基板とバーアンテナを繋ぐ配線が1つ切れているのと,アンテナコイルが途中で切れているのと,2つの断線が目視で分かります。見えない断線があるかも知れませんが,4つの端子の導通とインダクタンスを計ってみると,このうち2つは導通あり,残る2つはどこにも導通しません。

 そこで,導通しない2つの端子のそれぞれと,切れたアンテナコイルとの間で導通を見ると,片側は導通ありと出ました。

 推測すると,どうもこの切れた配線は,端子から遠いところに巻き終わりがあって,そこから伸ばして端子と繋がっていたものが,途中で切れてしまったもののようでした。

 そこで試しにこの巻線と端子を繋いでインダクタンスを計ってみると,ちょっと大きいのですが740uHくらいが測定されました。大きすぎるなあと思いつつ,とりあえずショートや断線,配線違いもなさそうということで,バーアンテナとして機能することを期待したい結果です。

 これで仮に組み立ててみると,最初はシーンと何の音もしなかったのですが,いじっているうちにノイズが出始め,バリコンを回すとうまくラジオが受信出来ました。ここまでくると,特に致命的な故障が起きているわけではないと言えるので,かなり気が楽です。

 ここで,レストアを以下の手順で進める事にしました。


・電解コンデンサの交換

 他はともかく,電解コンデンサはすでに50年近く経過してほぼ確実に劣化しているはずですので,これは問答無用で交換です。

 当時の電解コンデンサは今のようにE12系列ではないので,33uFではなく30uFなんですね。これは別に問題にならないくらいの差ですから,似た値のものにに交換します。

 結局交換したのは,1uFと10uF,30uFくらいだったように思います。電源に入っているパスコンがまさに30uFだったのですが,ここは手持ちの関係で47uFにしました。

 この頃の基板は片面で手描きですし,しかも大きな部品を無理に配置するのでかなり込み入ってますし,ジャンパ線も飛んでいます。古い電解コンデンサを外すのにジャンパ線を外したのですが,うっかりもとに戻す時の接続点を忘れてしまい,適当に付けたらどうやら出力段のトランジスタの動作点が変わってしまい,強烈に発熱してしまい,肝を冷やしました。ゲルマニウムトランジスタは,結構熱暴走しやすいと聞きましたし,そのくせ熱に弱い(80℃くらいで壊れるらしい)ので,ちょっとずつ音が小さくなり,触れなくなるほど熱を持ち始めたときには,もう駄目かと思いました。

 で,外した電解コンデンサを確認したのですが,30uFは容量抜けをおこしていて,すでにコンデンサとしては機能しなくなっていましたが,それ以外のものは初期の容量を維持しており,ちゃんと動いていたようでした。すごいですね。


・調整

 標準的なトランジスタ式のスーパーラジオの調整の経験をする,というのが1つのテーマですから,これはきちんとやっておきたいところです。ですが,いろいろ調べてみても,これだ!という決定版の方式がなかなか出てこないんですね。

 私が持っているラジオ関係の本は古く,真空管時代の調整方法が丁寧に解説されていますが,原理はともかく具体的な方法としてこれがトランジスタラジオにはそのまま適用できません。

 その後,ラジオは最新技術ではなくなりますし,IC化と無調整化が進み,1980年代の中頃にはラジオの作り方など雑誌にもあまり掲載されなくなりました。

 また,調整の方法も持っている測定器によって随分違い,放送波を受信して調整するものから,周波数カウンタを使うもの,SGを使うものなど,皆さんいろいろ工夫をしているようですが,ちょっと残念なのは「本来ならこうすべきなんだが」という部分があまり語られておらず,手順と結果だけ書かれているWEBが多いんですね。

 そこで今回は,古い文献を出来るだけたくさんあたり,自分なりに手順を考えてみました。

(1)まずなんでもいいから,放送を受信します。受信出来ない場合は調整不良か故障かわかりませんが,少なくとも受信が出来れば調整が進められることは確実です。

 実のところ,新品の部品を買ってきた状態なら,ある程度の範囲に入っているので,特に調整をせずともとりあえずどっかの放送局を受信出来ることが多いです。


(2)IFTの調整をします。まず,局発を止めるため,バリコンのうち局発側をGNDと繋いでショートします。

(3)次にSGを455kHzにセットし,1kHzを変調して出力させます。これをアンテナコイルの端子に繋いで,ラジオから1kHzが出ることを確認します。弱くてもノイズまみれでもかまいません。多くのラジオは455kHzが通ってしまうので,こうして音が出てくれるのです。

(4)検波するダイオードの入り口にオシロスコープをつなぎ,検波前の波形を見ます。いかにも振幅変調というような波形が見える場合もあると思いますが,今回見るべきなのは1kHzではなく455kHzですので,時間軸を切り替えておいて下さい。

(5)SGを操作し,変調をOFFにして搬送波のみにします。これで綺麗に455kHzがオシロスコープに出ているはずです。

(6)SGを操作し,波形が綺麗に見えるギリギリところまで振幅を絞って下さい。大きすぎるとあとの調整で変化が見にくくなるので,出来るだけ小さくしておくのが理由です。

(7)SGを操作し,周波数を455kHzの前後にふってみます。おそらく振幅が変化すると思いますが,一番大きくなる周波数が455kHz以外にあるかどうかを見ておいて下さい。

(8)SGを455kHzにあわせて,いよいよIFTの調整です。中間周波増幅が2段の一般的なスーパーラジオは,IFTが3つあります。上流から順に通過帯域が広くなっていくので,調整の順番は上流から下流に,です。

 IFTはコアの色で区別されているので,黄色,黒,白の順番で調整をします。この順番でコアを調整用のドライバーで回して,オシロスコープの波形の振幅が最大になるようにします。

(9)次に局発の調整です。(2)でバリコンの端子とGNDをしましたが,これを取り外して局発を発振させます。

(10)SGの出力に,別のアンテナコイルか400uHくらいのインダクタを繋いで,ラジオのバーアンテナに近づけて,結合させます。そしてSGを受信周波数の下限である531kHzにあわせて1kHzを変調して出力し,これを受信します。ピーと音が出ればOKです。

(11)ここで赤いコアの局発コイルを調整し,ピーという音が最大になるように調整をします。わかりにくければ検波後の回路にオシロスコープを繋いで,復調後の波形が最大になるようにしても良いかもしれません。

(12)次にSGを受信周波数の上限である1602kHzにあわせてこれを受信し,今度はバリコンの背中にあるトリマーコンデンサのうち,局発側を回して音が最大になるようにします。どっちが局発側のトリマーかわかりにくいと思いますが,アンテナコイルと並列に繋がっていない方の端子の近くにあるのが,局発側であることが多いです。

 IFTがすでに455kHzに調整されているので,局発と放送波の差が455kHzになれば最大音量になるわけですね。上限を合わせると下限でちょっと狂ったりするので,531kHzと1602kHzを何度か交互にあわせます。これで局発は調整出来ました。

(12)最後にトラッキング調整です。SGを531kHzにセットし,ラジオのバリコンを下限いっぱいに回し切っておきます。そしてバーアンテナのコアを抜き差しして,531kHzがきちんと受信されてピーという変調音が最大になるようにします。

(13)今度は1602kHzにSGをセットし,バリコンを上限いっぱいに回し切って,バリコンの背面にあるトリマコンデンサのうち,アンテナコイルに繋がっている方を回して,受信音量が最大になるようにします。

(14)これを何度か交互に繰り返し,最終的に531kHzから1602kHzまでの間でトラッキングがとれて,常にミキサーの出力が455kHzになるようにします。

(15)IFTや局発コイルは勝手に動いたりしませんが,アンテナコイルのコアは動きやすくてずれてしまうので,パラフィンか何かで固定します。

 これで調整完了です。531kHzから1602kHzまでの範囲で局発との差が常に455kHzになるようになっており,かつIFTは455kHzの帯域フィルタとして動作していますから,このスーパーラジオはその性能をいかんなく発揮しているはずです。


・清掃

 分解して出来るだけ綺麗に清掃するのですが,アルミに小さい穴をいっぱい開けた「ラス板」が使われていて,しかも不織布のテープ(ヒメロンといいます)が貼られているので,水洗いをすると良くないでしょう。

 そんなに汚れているわけではなさそうなので,メッキのくすみとラス板はコンパウンドで磨きます。油性ペンの落書きはアルコールとシンナーで拭き取ります。

 たったこれだけの作業ですが,随分手触りも良くなり,綺麗になりました。


・裏蓋の加工

 このままでも音は出ますが,なにせ背中がむき出しですので,調整がずれたり壊れたりします。背面が開放されると音も良くないので,出来れば裏蓋を復元したいところですが,代わりになりそうなものはぱっと思いつきません。

 手持ちのケースをいろいろ試したところ,厚みはともかく縦横だけはほぼぴったりのプラケースが見つかりました。どうやら数年前に買ったワールド工芸の10000型電気機関車の真鍮キットの箱だったようです。

 イヤホンジャックと音量つまみの部分を切り欠いてはめ込んでみますが,ちょっと無理をしているという感じはしつつも,なんとか様になっている感じです。使い勝手も音質も十分です。

 黒く塗装しようかと思いましたが,中がそのまま見えるというのも悪くないなと思い,そのままにしてあります。


 ということで,作業期間は4日ほどです。故障がなかったこと,調整がすんなりいったこと,ケースの加工が楽だったことで,予想以上に楽に終わりました。

 それにしても,この頃のAMラジオって音がいいんですよね。しっかり下支えしてくれる低音と聴き取りやすい中域がすばらしく,このサイズのラジオなのにもっと大きなラジオから音が出ているのかと思うほどです。

 まろやかさがあるように感じるのは,ゲルマニウムトランジスタのせいかもしれませんし,トランスを使った低周波回路のせいかもしれません。いやまてよ,セラミックフィルタに比べてダルな特性をもつIFTのせいかも・・・気のせいですね。

 つくづく思うのは,ラジオって50年以上前のものでも実用品になるんだなということです。テレビはすでにアナログ放送が停波しているので昔のものは映りませんし,携帯電話も停波しているので,昔のアナログは当然,次の世代のデジタルのものも全く動きません。PHSもそうですよね。

 カメラも,35mmのフィルムは売ってはいますが,APSとか110とか,すでに手に入らないものも多く,そういうものはすでに使う事ができません。

 20年前のパソコンはネットに繋がらず,そこに流れているデータを処理する力もないので,全く役には立ちません。

 その意味では,黒電話は今でも繋がって通話も出来るわけで,技術革新が進むことも素晴らしいが,完成されたシステムを維持していくこともまた素晴らしいと,思いました。

 余談ですが,10年ほど前にラジオがデジタル化されるという話が出た際。もしもAMラジオのデジタル化されたらゲルマラジオを作り,音が出るということに感動することがなくなってしまうのかなあと心配になったことがありました。

 ラジオの自作はなくならないでしょうけど,電子回路としてはおそらく最小規模で,電池も必要ないという摩訶不思議なゲルマラジオが動かなくなってしまうのは,とても寂しいなあと思っていたのですが,幸いにしてそういう事態は起こらず,相変わらず夏休みの工作にゲルマラジオは定番であり続けています。

テスターを新調しました

  • 2014/07/28 13:49
  • カテゴリー:散財

 テスターを新調しました。

 今回買ったのは,フルークの101というやつです。

 フルークって,この仕事をしていると,なんやかんやで一流品ですから,ものよりも持っている人のこだわりのようなものに興味がいきます。

 テスターは価格も安いものもありますし,一般の人にも手軽に買える測定器です。その割に測定出来る事が多くて,初めてハンダゴテを握る子供からこの道30年のプロまで,使って意味のある測定器です。

 ですが,その中でフルークは今ひとつアマチュアへの露出が少なく,また価格も高いので今ひとつな感じがありますが,経験とが上がるごとにフルークを知り,やがて欲しいと思うようになるわけです。

 とはいえ,所詮はテスターですし,高額なものは別にして,3万円くらいまでのものなら,基本性能や精度を見ても他社のものと比べてそんなに変わるものもなく,私などはむしろブランド志向でフルークを選ぶくらいなら,ちゃんと吟味したサンワが一番いいと思っています。

 そういえば,高校生の時に師匠と仰いだバイト先の店長さんに,テスター買ったと話をしたら,すかさず「どこの?」と聞いてきたので,サンワですと答えたら,ニコニコしながら「サンワならええね」と返してくれたことを思い出しました。

 いくら安くて高性能とはいえ,秋月オリジナルのポケットテスターで測定を平気な顔をして行っている人には,いくら仕事が出来ても首をかしげたくなるわけですし,その結果を求めている相手を安心させたり,信用してもらったりという,エンジニアとしての最低限の心遣いが出来ない人というのは,申し訳ないけど一緒に仕事をしたくないものです。

 先日,偶然計測器ランドのWEBサイトを見ていたら,フルークの廉価版が登場とあります。なになに,と見てみると,一番安い101というモデルで6000円弱じゃありませんか。

 106と107という上位機種もありましたが,それでも1万円までで,なかなか安いです。調べてみると低価格路線に打って出た戦略モデルなんだそうですけども,私の目には,一目でフルークと分かるあのデザインがポケットに入る超小型であることに,もうクラクラしました。

 ちょうどamazonのタイムセールをやっていたのでちょっとお安く買えたこともあり,101を注文しました。アンチフルークといっても良かった私が,まさかフルークを買うことになるとは・・・

 実は101と106,そして107の三機種は微妙に難しい差があるシリーズです。101が一番安く,106から107と値段が上がるのは分かるとして,106は101よりも上位なのに周波数もダイオードテストもデューティも測定出来ないとか,実は106は101よりも大きいとか,価格が上がるごとに機能が追加されるわけではないので,油断は禁物です。

 とりあえず107を買っておけば全部入りなので憂い無しというところなのですが,バックライトも必要なければ,本体よりも大きなストラップも必要ありません。なにより超小型のフルークというところにしびれた私は,電流が測定出来るからと大きくなってしまうことをどうしても許せなかったのです。

 かくして手元に届いた101ですが,軽くインプレッションを。

(1)大きさ

 手にすっぽりおさまるサイズのフルークはおそらく初めてであろうと思いますが,投影面積もさることながら,厚みも手頃で邪魔になりません。中央部がほんの少しだけくびれているのですが,ここが手にも馴染むので,使いやすいです。

 あらためて大きさを確認しましたが,やはり106や107ではやや大きいと思います。この101のサイズは絶妙なところなんでしょうね。


(2)使い勝手

 まず端子がパネル面ではなく,下側にありますので,リードが下から出てきます。これは結構面倒かなと思っていたのですが,全然大丈夫です。

 ロータリースイッチはさすがフルーク,とても良い感触です。ただ,OFFから1つ動かしたところがAC電圧なので,DC電圧を測定するときに「あれ」と思うことがありました。

 これはフルークのテスターに共通する仕様なのですが,電気工事士が使うことを想定して1つ目にAC電圧を置いているのかも知れません。国産を含め,多くのテスターがDC電圧を1つ目に置いていることを考えると,意地というかこだわりというか,そういうものを感じますが,私はあまり合理的だとは思いません。

 ディスプレイは大きすぎず小さすぎず,また表示内容も良く整理されており,視認性に優れています。ただし,あまり良質なLCDではないようで,見る角度がちょっと悪いと,急にコントラストが下がって見にくくなってしまいます。

 私がテスターで気にするポイントは2つあり,1つはディスプレイの更新周期と,導通を知らせるブザーが鳴るまでのタイムラグです。

 前者は,古いテスターは1秒に1回だったりするのですが,これくらい遅いともう変化を読み取ることは出来ないので,使い方は限られます。せめて1秒に2回くらいは欲しいところですが,この101は1秒間に3回です。

 あまり頻繁に更新されるとかえって測定が難しくなりますから,このくらいが一番適当じゃないかと思います。

 後者についてですが,これは十分速くて,問題なしです。実測で30ms程度とのことですが,使い勝手を悪くするレベルではないと思います。

 中には0.5秒くらいのタイムラグがあるテスターもあり,これはもう論外です。例えば50ピンのコネクタの接続チェックを行う時に,すべての端子を調べるのにかかる時間はタイムラグだけでトータル25秒も余計に待たされるわけですよ。テンポが大事な測定に,これはもう致命的です。

。ただ,導通の判定をいい加減にやっているから反応速度が速いテスターというのもあるはずで,これはこれで使う意味がありません。電気抵抗を測定するなり,流れる電流を調べるなり,電圧をみるなりで,きちんとした判定は不可欠です。

 101がこうした基準で導通を判定しているかどうかは,結局分からずなのですが,あまりいい加減な事はやっていないはずと,信じて使う事にします。


(3)分解能と精度

 6000カウントのテスターは今どきのエントリーモデルです。かつては4000カウントとか2000カウントのテスターもありましたが,それらを一通り使って見た経験から言うと,6000カウントは欲しいところですが,一方で6000カウントあれば十分という気もします。

 というのは,例えば4000カウントと6000カウントを比べて見ると,5Vを測定するとき,6000カウントだと5.000Vと表示されるのに,4000カウントだと5.00Vとなってしまうからです。

 どっちも1%とか2%の誤差を持つわけだし,最終的に大差ないように見えますが,デジタルテスターの場合,いわゆる測定誤差に加えて,一番下の桁が2から3くらいずれることを認めています。分解能が小さく,表示桁数が大きいとここが有利なのです。

 だから,仮にどちらのテスターも1%の誤差を持つもので,0.05Vの測定誤差を含んでいるとしても,そこから2カウントの誤差を考慮すると,4000カウントだと4.93V~5.07Vまでの中に真の値が,6000カウントだと4.948V~5.052Vの中に真の値があることになるわけで,その範囲がまさに桁違いなんですね。

 私などは古いタイプの人間ですので,アナログのメーターは読みやすくて好きです。最小目盛りの間の,どの当たりに針が来ているかをどんぶり勘定で判断し,それをサクサクと記録するだけです。最小目盛りを信用出来るようにするには,そのヒトケタ下を読まないといけないのですが,そんなもの,そもそも正確に読めるはずがありません。

 下の目盛りをちょっと越えているのか,真ん中よりもちょっと低いのか,真ん中をちょっと越えているのか,それとも上の目盛りにもうちょっとで届くのかという4つの程度を見て,それぞれ0.2,0.4,0.6,0.8とおけば,もうそれで十分ですから。

 話を戻しましょう。精度については101も106も107も同じで,DC電圧では0.5%+3カウントです。これはこの価格のテスターとしてはまずまずよい精度です。実用上も問題はありません。

 正しい方法ではありませんが,安定化電源にいくつかのテスターを並列に繋いで電圧を見てみましたが,HPの34401Aと比べても,小さい電圧から高い電圧までほぼ全域において0.01くらいの差しかありませんでした。

 ちなみに秋月のP-10は長く使い込んでいるせいもあって,値はもうボロボロでした。レンジによってはもちろん,測定電圧によって全然値がずれるので,もうリニアリティが破綻しているんだと思います。6000カウントのP-16ですが,これは思った以上によいもので,101とほぼ同じ値を示していて,リニアリティも問題ありませんし,更新周期も速くて,この値段なら実によいテスターと言えるでしょうが,残念なのはオートパワーオフの時間が短く,頻繁に電源が切れてしまうことです。解除の方法もあるのですが,私のP-16はこれが有効になりません。

 あと,うちで最古のデジタルテスターであるサンワのRD-500ですが,これもリニアリティが悪く,値があまり信用出来ません。もう30年近く前のものですし,今どき2000カウントで更新周期は0.5秒ですので,もう全然使い道がないのですが,実は導通ブザーの反応が速くて,とても重宝します。


(4)その他

 CAT3・600V対応とか,付属のテストリードが単品で買うと4000円を超えるよいものがついているとか,電池の交換をするのに裏蓋を全部外すのではなく,ロック付きのちゃんとした電池ブタがついているとか,安いとは言え,こういうところで手を抜かないところはさすがにフルークです。

 電流の測定が出来ないことを問題にする人は106か107を買えば良いと思いますが,振り返ってみると電流を測定する機会ってそんなにありません。その割には測定に危険が伴うものですから,「ないよりはあったほうがいい」という程度で電流測定機能を求めるのは,ちょっともったいないかなと思います。

 もちろん,電流の測定はとても大事な事です。ですから,そこはいい加減なものではなく,安全で精度の良い,しっかりしたテスターを1つ選んで,これに電流測定機能を求めるべきと思います。

 この101や106,107には,電流クランプが用意されています。5000円という値段でクランプメーターになるのですから,これはよいですね。私も先日クランプメーターを買わなかったら,きっとこれも一緒に買っていただろうと思います。

 価格が安いので交流電流しか測定出来ませんが,危険な電流測定がクランプで出来るのであれば,最初から電流測定機能などなくてもよいんじゃないかと思います。


(5)まとめ

 101,106,107の3つのうちどれを買うかですが,おすすめはやっぱり101です。小さい安いし精度は上位機種と変わりません。なくて困るのは電流測定機能くらいですが,電流の測定はそんなにするものではないし,電圧と抵抗をこの信頼性と安全性で測定出来るなら,この価格はとてもありがたいと思います。

 確かに,秋月をはじめとする安価で高性能なテスターはいくらでも見つかりますが,精度も怪しいし,そもそも本当に安全なのかという疑問があります。高いと入っても1万円までの測定器なら,思い切って良いものを買って欲しいなと,私は思います。

 さて,101が思った以上によいテスターだったので,P-10には引退してもらうことにしましょう。10年以上にわたってお世話になりましたが,もう電池も何度も液漏れして,精度もガタガタ。満身創痍で可愛そうなくらいですが・・・あ,乾電池のチェッカーがあるのはこのP-10だけでした。バッテリーチェッカーとして,もうちょっと頑張って頂くことにしましょうか。

周波数カウンタをさらに改良

  • 2014/07/14 16:19
  • カテゴリー:make:

 先日,何気なく秋月電子のWEBを見ていると,新商品の中にTCXOがラインナップしていました。温度補償型の高精度発振器をTCXOといいますが,これは本来特殊で高価で,また標準品として普通にお店に並んでいるものではありません。

 とはいえ,無線系では今も昔も必須と思われる重要な部品で,時々「残りもの」がこうして,安価に出てくる事があります。

 以前は12.8MHzのTCXOが安く手に入ったものですが,それも入手が難しくなり,私が以前レストアして完成させた周波数カウンタのタイムベースを,25年前の古い12.8MHzからPLLで10MHzにして搭載してあることは,ここにも書きました。

 10MHzのTCXOが手に入れば何の問題もないのですが,そういう話も期待薄で,まあとりあえず25年前のTCXOにPLLという若干不安な構成でもいいか,とあきらめていました。

 ところが,なんとまあ2個で350円という安価な価格で,TCXOが出ています。今どきの発振器らしく,面実装品です。

 周波数は10MHz,12.8MHz,20MHzの3種類。周波数の誤差は最大で2ppmで,肝心な温度特性は-30度から+85度の間で2ppmと,まずますの性能です。

 現在搭載しているTCXOは,温度特性が3ppmということですので,交換するだけで性能アップしそうな感じです。

 加えて,ケースを開けたときと閉じたときとで,測定値が変化することが先日わかったのです。10MHzのOCXOを測定していると,数Hzの変動がゆるやかにあります。温度のせいとは言い切れませんが,他に要因も見当たらないので,きっとそうなんじゃないかと思うのですが,仮に3Hz変動すれば3ppmですので,まあスペック内ですから,文句も言えません。

 ということで,こういうスポット特価品は買い逃すと後悔しますので,さっさと確保です。

 回路構成を少し考えましょう。この周波数カウンタは5Vで動いていますので,信号レベルも5Vでなければなりません。しかしこのTCXOは3Vで動きますので,10MHzのTXCOには3VのLDOを通して供給します。

 TCXOの仕様を見ると,2.9Vが標準とありますので,電圧可変型のLDOの電圧設定抵抗を多回転ボリュームにして,2.9Vに合わせます。

 TCXOを電源に繋いで,10MHzで発振していることを確認してから,手持ちの関係で74AHC04を繋いで見たところ,全然信号が出てきません。おかしいなあ,ちゃんとロジックレベルは確認したつもりだったのになあ・・・

 と思って遅ればせながら波形を確認してみると,TCXOの出力が1Vp-pくらいしかありません。あれ,どっか配線間違いしたかなと確認しましたがそういうこともなさそうです。あわてて仕様を見直すと,このTCXOの出力は0.8Vp-pと規定されていました。これで正しいんですね。

 思い込みで設計するとこういうことがあるから問題なのですが,通信機用のTCXOでこの出力仕様というのは標準的なものらしく,私の不勉強も露見してしまいました。恥ずかしい話です。

 対策を考えますが,振幅が0.8Vしかありませんので,ロジックICに確実にHとLを入力するのは難しそうです。そうなると,波形そのものを増幅してやる必要があります。

 10MHzという速くもないが遅くもないという信号を,ただ振幅だけ確保する増幅回路ですので,出来るだけ簡単に済ませます。2SC1815を使ったインバータですが,トランジスタがONするベース電圧としては0.8Vは結構ギリギリですので,しっかりベース電流を流すために,割と小さなベース抵抗にしないといけません。

 そして崩れた信号波形が出てきますから,ここはシュミットで波形整形です。74HC14を使う事にします。

 計算でざっくり抵抗の値を求めてバラックを組み,波形を見ながらカットアンドトライをして,次の段にひかえている74HC14の入力を確実にHとLに出来るあたりを探っていきます。ここでは,ベース抵抗を220Ω,コレクタ抵抗を1kΩにしました。ん?なんか不思議な値だなあ。まあいいか。

 これでようやく,TCXOが5VのTTLレベルに変換できました。

 さて,次です。この周波数カウンタは1/1024のプリスケーラを使って2.4GHzまでカウント出来るのですが,値を直読するために10MHzを1/1024した9.765625MHzをベースクロックにすることになっています。

 これまでは,10MHzこそTCXOでしたが,この9.765625MHzは通常の水晶発振子を使っていました。まあ,1/1024分周するので,タイムベースの誤差もそんなに小さくなくても良いかもしれませんが,そこは気分の問題です。例えばですね,2GHzの測定を行う場合,この周波数カウンタでは2MHzの周波数をカウントすることになります。水晶発振子の誤差が20ppmとすれば,2MHzの20ppmで4Hzの測定誤差が入ってきますから,実際の周波数に直すと4kHzの誤差となります。結構大きいですね。

 これがTCXOを使って2ppmに出来れば,誤差はヒトケタ下がり,400Hzの誤差となります。つまり,20ppmなら1kHzの桁は信用出来ないけれども,2ppmなら1kHzの桁が信用出来るようになるというわけです。

 ですが,こんな中途半端な値のTCXOは売っていません。困ったなと思いつつ,ならば手持ちのTCXOを改造するというのはどうだ,という発想にいたりました。

 手持ちのTCXOは,トヨコムの9.98MHzのものと,NECの15MHzのものの2種類です。前者の方が値が近いのでこちらを分解して,推奨を交換しましたが,残念ながら規定の値に調整出来ません。サーミスタは使われておらず,どうも水晶の温度特性を打ち消すようなコンデンサと組み合わせた回路のようです。そこでコンデンサを交換して無理矢理合わせましたが,今度は温度特性が無茶苦茶で,ちっとも安定しません。失敗です。

 それならとNECのTCXOを分解すると,こちらはサーミスタを2つ使ったオーソドックスなタイプです。温度変化するデバイスがサーミスタですので,コンデンサの温度依存性に頼る割合は小さいはずで,こちらの方が脈があります。

 水晶だけを交換しても規定の値にならないので,コンデンサを交換してなんとか値を出します。ドライヤーを使ったりして温度を振ってみたところ,変動は10Hz以内です。10MHzに対して10Hz以内という事は,1ppm以内の変動という事ですので,これはなかなか結構な性能です。

 ところが,このTCXOの出力は2V付近を中心に3Vくらいの振幅がでているようで,マイナス側にも触れています。さすが通信系のTCXOです。しっかり振幅が出ているので,ここは簡単に2.5Vでバイアスするだけで済ませます。これを74HC14で整形して完了。

 これでめでたく,10MHzと9.765625MHzのタイムベースが完成しました。

 あとは現在取り付けられているPLLによるタイムベースと交換するだけです。

 交換して電源を入れ,普通に動作することを確認してから,安定度を見ていきます。手持ちのOCXOを見ていると,24時間経過しても値が変動していません。以前ならなかなか値が落ち着かなかったのですが,今回は電源投入時から値が変動することはありません。

 もちろん,新しいTCXOの方がスペックは上なのですが,どうも以前のPLLに使っていた12.8MHzのTCXOは,随分と性能が落ちていたような感じです。

 もう1つのTCXOである9.765625MHzをどうやって合わせるかという問題が残っていますが,これはもう面倒なのでこの周波数カウンタで会わせてしまいます。

 2ppmのTCXOで別のTCXOを調整するのですから,結果は20ppmしか保証出来ないわけですが,そういうことをいっていても始まりません。

 こうして,レンジに寄らず,ある範囲に入った測定結果を出す周波数カウンタが出来ました。試しにSSGの周波数を測定すると,10MHzまでなら10Hzの桁までばっちり会っています。

 ここからまた24時間を運転し,OCXOの値の変動を見てみますが,1Hzの桁が全く動きません。OCXOの安定度がTCXOの10倍良いという事を考えると,値が変動しなかったというのは,TCXOが随分安定しているという事でしょう。

 この周波数カウンタ,キットを素組みしたときには値が動いて仕方がなく,PLLを使ったTCXOの10MHzタイムベースを用いたときには,2時間で数Hzの変動がありました。

 しかし今回は電源投入から24時間経過しても値は安定し,絶対値が3ppm程度しか信用出来ないとしても,温度による変化がほぼなくなったことで,とても良い結果が得られました。

 絶対値については,8桁精度の基準クロックがそもそもありませんし,そこまでの精度管理はしんどいので,私はさっさとあきらめているのですが,今回の10MHzのTCXOは調整の仕組みがないので,初期値が実力ではそれなりに追い込まれている上,経年変化も小さいと期待しており,使って見た結果もその通りになっているような印象です。

 繰り返しになりますが,9.765625MHzの改造TCXOも思った以上に安定しています。

 これまで,周波数カウンタは今ひとつ信用出来ない測定器と思っていましたが,これくらい安定してくれるのであれば,もっと積極的につかっていけそうです。

健康な私とお医者さん

 先日,人間ドックなるもので,初めて「問題箇所」を指摘されました。肝臓のある値が基準値を大きく超えているということと,便潜血があるという2点です。

 肝臓については,基準値を超えているという話ですから,その基準値の妥当性についても,もっというと検査の数値そのものの誤差や変動をどこまで考慮するかによって,OK/NGが変わってくると思うのですが,便潜血については出てるか出てないかの二択ですので,出ていると言われれば「何かの間違い」という話にはなりません。

 素人があれこれと気に病んでも仕方がないし,かといって放置するのがいいのかどうかもわかりません。ここは専門家である医者に判断してもらうのが得策でしょう。

 6月のある日の午後,予約を取って病院に出向いたところ,肝臓についてはその場で血液検査となりました。結果は問題なし。値は随分改善していましたし,お医者さんによるとそもそもこのくらいの値なら心配ないよ,ということでした。

 まあ,人間ドックは早期発見や予防に大変効果があるのですが,一方で病院にとっては貴重な収入源です。しかもここで「再検査」と出れば,多くはその病院で再検査を受けようとするでしょう。いきおい,基準値は厳しいものに設定されがちです。

 いや,それがいかんというわけではないのです。厳しめにすることで,確実なスクリーニングができます。疑わしいものは確実に引っかける,これが分野を問わず,予防ではとても良い方法なのです。(コストを度外視すれば,ですが)

 まあ,人間ドックの学会が出した基準値が他の学会の基準値と違うという事が先日のニュースでも報道されていたくらいですので,値の大小で一喜一憂することがどれほどバカバカしいか,わかろうというものです。

 しかし,便潜血は前述のように,出ているか出ていないか,です。出ていなければ見落としがあるかも知れませんが,出ているという以上「出ていない」ことには出来ません。

 ということで,私が相談したお医者さんは,速効で「大腸内視鏡,ポリープが見つかったら切除手術,よって1泊2日の入院,ここにサインを」と畳みかけてきます。気が付いたら入院の手続きをして帰宅し,3週間後の検査に怯える毎日を過ごすことになりました。

 結論から言うと,この検査では全く異常は見つからず,従ってポリープの切除も生検用の組織サンプルの採取もなく,なにも処置されずにその日のうちに「帰れ」と言われて夕方には自宅に戻ったのですが,日帰りでも入院という扱いになるので,私は生まれて初めて入院をしたことになるのでした。

 こんな風に,深刻な病気が見つからないのはいつものことなのですが,その度に予期せぬ事件が起きるのが私の面白いところで,今回はちょっと過去の経験を書いてみようと思います。


(1)首が曲がった

 中学生の時ですが,体の大きかった私は,組み体操の人間ピラミッドではいつも一番下の土台を割り当てられていました。それはそれで別にいいんですが,なにがまずいって,中学生ですから,崩れるときに面白がって下の奴を踏んづけたりするわけです。

 これは今にして思うと非常に危険なことで,いってみれば将棋倒しで大事故になるようなものと同じだと思う訳ですが,今から30年ほど前は大らかだったんでしょうね。

 で,いつものように土台をやり,いつものように崩れた時,誰かの膝が私の首を直撃し,私の首は曲がったままになってしまいました。痛くてまっすぐにできないのです。

 母親は心配になって私をかかりつけの病院に連れて行ったのですが,そこの院長がまじまじと私を見つめて,「痛いか」と尋ねます。

 痛いです,と答えたあと,先生はゆっくりと私の頭のてっぺんと顎を掴んだと思ったら,おもむろに反対側にぐいっとひねったのです。

 あまりの痛さに中学生の私は「痛いがなー」と叫んで手を払いのけたのですが,先生はふむふむ,といった面持ちで,「やっぱり痛いか」とつぶやきました。

 何をしたかったのか今でもわからんのですが,医療行為としてはこれで終わりで,検査も無し,湿布がでて終わりました。

 2週間ほどすると,徐々に首もまっすぐになってきましたが,ちょうどその頃撮影した,電話級のアマチュア無線の免許用の写真をみると,無理してまっすぐにしている様子がわかります。

 まあその,後遺症とかなくて幸いでしたが,今ならこでほっとくことはないでしょう。2週間ほど首が痛くてまっすぐにできないなんて,立派なけがですからね。それにしても,痛めた部分を無理にひねるなんて,絶対にやったらだめなことだと思うんですけど・・・ちなみにこの院長,私の尿路結石を「急性腎炎」と誤診し,以後私の生活を数年間不自由にさせた張本人でもあります。


(2)尿路結石で体育をサボる

 ある寒い朝,腰に鈍い痛みを感じた中学生の私は,腰をぐいっとひねって,「うおー」と言いながら大げさにその場に倒れ込みました。ところが,その鈍い痛みは弱くなるどころか徐々に痛みが増し,最終的には動く事すら出来ないほどの強い痛みになりました。

 ヒーヒーいってる私を,そばで見ていた弟は「いつまでやってんねん」という感じで私を半分無視していたので,自ら大声を出して母親を呼んだのですが,余りの痛みに腰は伸ばせず,立ち上がることも出来ず,抱えられるようにどうにか病院に到着したのです。

 病院では痛み止めの点滴がまず打たれ,私は次第に消えてゆく痛みの中で意識が薄れていったのですが,検尿の結果,大量の赤血球が検出されたという事でした。お医者さんの診断結果は,急性腎炎とのこと。毎週検査に来いということでした。

 母は,急性腎炎から慢性腎炎に移行し,あげくに人工透析,腎移植という大げさなシナリオを勝手に描いては戦慄していたようですが,本人はと言えば別に問題はなく,至って普通に元気にしていました。

 ただ,検査は毎回僅かずつでも赤血球が出ており,お医者さんは毎度毎度「うむー」とうなっていたのですが,一貫していたのは急性腎炎はここで食い止めなければ,慢性に移行してしまうので,とにかく減塩と運動の制限をしようということでした。

 ということで,体育はそこから基本的に見学。以後軽いものから授業に参加することにしましたが,私はこれを理由に,とにかく嫌で仕方がなかった水泳の授業を中学2年から高校3年まで,ずっと見学することになります。

 確か高校生になったときくらいの話だと思うのですが,ちっとも状況に変化がない私に「慢性になったかも」とお医者さんがいったことでちょっとした騒ぎになりました。

 ですがおしっこに砂粒のようなものが出てきたことから「尿路結石」じゃないのか,と詰め寄ったところ,渋々それを認め,これまでの診断が誤診であったことを認めたのでした。

 しかしですね,こんな美味しい免罪符を誤診ごときで手放す私ではありません。その後も学校には「腎炎」という病気を訂正せず,そのまま水泳の授業を休み続けました。

 腎炎でも出来るだけ頑張って授業は参加します,だけど水泳だけはやめときます,という積極姿勢を見せつつ,ちゃっかり水泳だけはサボるという技で私は高校3年間,一度もプールに入ることなく過ごすことに成功したのでした。

 当時の私としては,とはいえ本当に腎炎の可能性もあるわけだし,仮に誤診であったとするなら,そのことで受けた不自由を考えるとこのくらいのズルはいいよなあ,という気持ちもありました。

 この10年後,再発した私は,空豆のような自分の腎臓のレントゲン写真に,いくつかの石があることを見る事になり,この誤診が本当に誤診であったことを知る事になるのです。


(3)鉛筆がぐさっと足の裏に刺さる

 小学校の4年生の時だと思うのですが,当時通っていた学習塾で机を跨いで先生の所に行こうとしたとき,足を引っかけてしまいました。

 右足を降ろしたところで激痛が走り,私はその場に倒れ込みました。いつものように大げさに「うおー」といっていたのですが,なんだか本当に痛いし,周りの様子もおかしいので,私も心配になってきました。いや,本人は鉛筆の先がちょこんと当たったくらいのことと思っていたのですよ。そこは大阪人らしく「おいしいネタ」になると,大げさに振る舞っていたんです。

 そのうち,どうも鉛筆が足の裏にささっていて,抜こうとしての抜けないという話が聞こえてきました。私は傷みのせいで,目の前にあった机の脚にかじりつく始末。

 先生の自動車で病院につれていかれたのですが,痛みは変わりません。自分では全く見えませんし,どういう状況なのかもわかりません。

 病院に着く頃,仕事先から母親が飛んできてくれたのですが,私はもう何が何だかという状況です。まずレントゲン,そしてベッドに押さえつけられ,ペンチでその鉛筆を引っこ抜くようなのですが,途中で鉛筆は折れていて,足の裏からは少ししか飛び出していないようです。

 硬いものがするすると抜けたような感触があって,どうやら鉛筆が抜けたことは分かったのですが,地獄を見たのはここからです。なんだか分からないのですが,とにかく強烈な,過去に体験した事がないような激痛が襲いかかります。病院のベッドの柵に噛みついたり,暴れたりと,尋常ではない傷みを覚えています。

 ようやくこの地獄から解放され,落ち着いた頃に先生から説明を受けました。足の裏から5センチほど鉛筆が刺さっており,足の骨のアーチになっている部分にぶつかって止まっているということでした。

 もうちょっと強い力で刺さっていたり,あるいは骨を避けていたら,おそらく鉛筆は突き抜けていたのでしょうね。おそろしいです。先生も,うまく鉛筆が折れたおかげで大事に至らなかったということでした。

 で,お医者さんからではなく母親に聞いたのですが,私が経験したあの激痛は,鉛筆を抜いたあとに,鉛筆の破片が中に残っていないかを確かめるため,ピンセットを突っ込んでグリグリまさぐったらしいのです。そりゃー痛いわ。

 というかですね,抜いた鉛筆を見れば,残っているかいないか,分かるんとちゃうの?

 
 神経を切っているかも知れず,感覚がなくなるかもと言われたりしましたが,その後順調に傷はふさがり,特に化膿することも後遺症が出ることもなく,いつしか歩けるようになりました。今は傷痕だけが残り,歩くことも走ることも問題なく,痛みもありません。

 それにしても,大人の私があれを思い出すと,もう気を失いそうになるほど恐ろしいわけですが,子供だった当時,痛いことが終わってしまえば後は案外平然として,いつの間にやら治っていました。大きくなるほど臆病になるものなんですね。


(4)胃の内視鏡で死ぬかと思った

 ここで一気に時間が進みます。30歳前半のことですが,胃が重く苦しく,食欲が出ず,困っていました。公私ともにいろいろあって滅入っていたこともあり,これは胃を悪くしたのであろうと,病院にいくことにしました。

 最初は若い女の先生が,大した問診もせず,決まり通りに胃の薬を出して終わりで,これが2ヶ月ほど続いたのですが一向に症状は改善せず。ちなみにこの先生は「処理能力」が高く,他の数人の先生に比べて圧倒的に順番待ちの番号の進みが早いのです。

 ええかげんにせいよ,という空気を感じたのか,内視鏡検査をしましょうという話になりました。最初からそうしてくれれば,と思いつつ予約を取り,検査当日を迎えます。

 私は「おえっ」とえづいてしまう人なので,内視鏡はおそらく苦戦するだろうと思っていました。しかし何事も経験です。それに,内視鏡も年々改良が進み,かなり負担が軽くなっていると聞いていますし,これだけ進歩した医学の世界で,オエオエいうような話もなかろうと,安心していました。

 まず,検査室に通され,ゆったりとした背もたれある椅子に座らされました。そして,えづくのを防ぐ為に,喉の部分に麻酔をするといって,コップに入った麻酔をわたれました。

 これを口に含み,感覚がなくなってきた頃に内視鏡を突っ込もうという話です。

 看護師さんがいうには,ツバを飲み込む部分も麻痺するので,唾液が飲み込めずにそのまま気管に入ってしまうから,口にためておき,もしいっぱいになったら吐き出して下さいということでした。

 次第に喉の感覚が消えていき,唾液が口に溜まってきます。うかうかしていると勝手に流れ込んで盛大にむせてしまいます。

 そうしていると,私を担当するお医者さんがなにやら緊急事態とかで,病棟に走って行きました。私の周辺はなにやら騒がしくなり,私はぽつんと放置されてしまいました。ちらっと私を認めたある看護師は「急患が出たので待ってて下さい」と,満足に話の出来ない私から去っていきました。

 私は,軽いパニックになりました。唾液はどんどん流れ込んできます。その度に私は呼吸困難になり,ゴホゴホをむせて,唾液を吐き出すことになります。もはや唾液が溜まったかどうかも分からなくなっています。

 これは本当に死ぬかも・・・

 30分ほどの孤独な闘いを経て,徐々に感覚が戻ってきました。もう唾液も飲み込めます。やれやれ,助かったと思ったところに,先生が「おまたせー,さあやろうか」とやる気満々で戻ってきました。

 私は,麻酔をやり直してくれると思ったのですが,あっという間に私はベッドに横たわり,なにやらおかしなマウスピースを口に押し込まれて,モガモガいうのが精一杯です。そのうち,黒い細長いものが私の口に入ってきます。もう私は拒むことが出来ません。

 その頃,すっかり麻酔が切れていた私は,もうとにかくえづいてえづいて,大変でした。生まれてから,あれだけ連発してえづいたこともないと思います。もう涙でぐしゃぐしゃですし,じっとしていられません。

 見かねた看護師さんはまるで子供をあやすように,30歳を超えたオッサンの背中を「くるしいねくるしいね」と優しくさすってくれますが,かえって惨めになって,苦しさ倍増です。

 そんなこんなで,検査のことはちっとも覚えていません。苦しさに始まり,苦しさに終わった検査で,終わってからも私はしばらく放心し,ぐったりと動く事ができませんでした。

 後日結果を聞いたのですが「いやー綺麗なもんですよ」とお医者さんはいいます。ということで,私の胃は健康そのものということになりました。

 なにが幸いするか分からないのはこの後です。この先生は消化器系を専門とする先生で,しかも漢方を処方することに抵抗がない方でした。こういう場合は漢方を使ってみましょうか,ということで,私は漢方薬を飲み始めたのですが,これがまあ抜群に効いて,気分の悪さもなくなり,食欲も戻って,胃の悪さは完治したのです。

 

(5)嗚呼私の純潔

 腎臓に結石がある私ですが,大きくならないうちに出してしまうのがこの病気との上手な付き合い方です。

 20代後半のある夜,強烈な腹痛に身動きが出来ず,当時入っていた独身寮の寮母さんが救急車を呼んでくれました。

 深夜に大学病院にかかり,点滴とレントゲンで様子を見たのですが,やはり結石があります。ちょうどひまわりの種くらいのトゲトゲの石が,3から4ミリくらいのゴムホースに斜めに引っかかっている様子を想像して下さい。

 痛みはしばらく続きましたが,痛い場所が徐々に動くのが分かります。その後痛みが薄れたかと思うと,なにやら違和感があってトイレに行くと,ぽろっと石が出てきました。いやー,なにやら肉片がくっついてますよ・・・痛そうです。

 これを拾い上げて綺麗に洗って,お医者さんに持っていきました。成分を調べるという事だったのですが,その先生はなにやら偉い肩書きの先生のようです。

 もう痛みはないと伝えて,これで思った瞬間,「はい,そこになって」とベッドに寝転ぶよう促されました。

 おかしいな,もう痛みなんかないんだけどなあ,と思っていると,若い学生とおぼしき人達がぞろぞろと数人,入ってきます。

 先生が私を見下ろし,「パンツを脱げ」と言いました。

 は?と聞き返すと,イライラしながら「さっさと脱ぐ!」と私を急かし,気が付いたら私の下半身は大勢の男たちの目の前に晒され,隠すことを許されない私はなにも出来ずにただ横たわるだけでした。

 なにをされるのだろう,と不安に駆られていると,先生の背中に突如黒いオーラが立ち上り,おもむろにゴム手袋をきゅきゅっとしたかと思うと,私の足を広げ,私の「穴」に指を差し込んだのです。

 !

 私を取り囲む男たちの眼は,先生の華麗な指使いに注がれています。私は声を出すことも抵抗することも出来ず,なにをされているのかもわからず,ただただ,されるがままになっていました。

 男たちは,なにやら必死にメモを取っている様子。看護師さんは遠くで私を見ています。

 やがて。長く感じたその時間が終わり,先生の指が私から離れていきました。先生の「よし」という声と,達成感に充ち満ちたその表情が,私を見下ろします。

 事が済み,背中を向けた先生に,男たちが追随し,私はそのままの姿で放置されました。なにがなんだかわからず,何も出来ずに放心している私に,そっとタオルをかけてくれた看護師さんを見ると,彼女は私を哀れむ眼をしていました。

 先生曰く,背中からお腹の痛みは,直腸からの触診で異物感がないかどうかを判断するのだそうで,私の場合もこれで異常なしと判定することが「必要」だったとのことでした。結石だとはっきりしているんですが・・・

 まあその,偉い先生でしたし,学生をぞろぞろ引き連れていましたから,こういう触診を率先してやって見せてその重要性を説く姿は,今思えば立派なもんだと思う訳ですが,それならそれでそういう話を事前にしてくれればよかったと思うし,なにより患者の了解はなくても良かったんかいな,と疑問も感じます。

 かくて,私のバージンは,こうして奪われたのです・・・

 

またまたURLが変わりました

  • 2014/07/02 14:25
  • カテゴリー:備忘録

 またまた,URLが変わりました。

 新しいURLは,

http://gshoes.dyn.dhs.org/

 です。

 ダイナミックDNSをまた乗り換える必要が出たために,こういうことになりました。

 dyndnsからno-ipへ移行したのがこの春なのですが,昨日から艦長日誌が開けなくなっていました。

 IPアドレスを直接打ち込めば表示されるので,どうやらDNSだろうと調べてみると,なんとまあno-ipのトラブルというではありませんか。

 詳しい事情は私もよくわからないのですが,マイクロソフトがno-ipのドメイン管理権限を取得し,不正なトラフィックを制御する措置を執ったという事に関連があるようです。

 もともと,no-ipはマルウェアの拡散に使われることがあったりしたのですが,マイクロソフトによるとこうした声にも耳を貸さず事態を放置しており,裁判所に仮差し止め命令の申し立てが認められた6月30日に,無料ドメインの管理権限を取得,マルウェアのトラフィックを操作するシステムを構築し,稼働させたというのです。

 悪意のあるドメインだけに影響が出ているなら誠にめでたい話なのですが,問題は何も悪いことをしていないユーザーのドメインにまで影響が出ていると言う事実です。そして私のドメインも,これに引っかかったようです。

 なかには,no-ipの有料サービスを申し込んでいた人もこの影響で使えなくなっているケースがあるらしく,こういう場合ってno-ipからお金を返してもらえるのかどうか,ややこしい話になっています。

 マイクロソフトとしては,良かれと思ってやっているのでしょうが,問題はそのやり方です。悪い奴をつかまえるためには,善良な市民の犠牲も厭わないという姿勢です。極論すれば,犯罪者が逃げ込んだ町を町ごと焼き尽くすようなものです。

 ただ,その犯罪者をかくまうことにした町にも問題があるわけで,私はその町の住人に,わざわざ最近なったわけですから,ちょっと浅はかだったかなあというのが本音の所です。

 ということで,あまりドメイン名をコロコロ変えることは好みませんが,マイクロソフトに爆撃されてしまった町にはもう住めません。違う町に引っ越す事にしましょう。

 この例えで言えば,長年済んでいたdyndnsに立ち退きを迫られ,家を失った難民が数多く流れ着いたno-ipが犯罪者の巣になってしまい,マイクロソフトに吹っ飛ばされ,またも流浪の民となった,という感じでしょう。

 しかし,1つ大事な事があります。私は確かに流浪の民となりましたが,dyndnsにしてもno-ipにしても,そこに済むための対価を,支払っていないということです。(とはいえ,no-ipには対価を支払っても住めなくなったでしょうが)

 そんなわけで,新しいURLで引き続きよろしくお願い致します。

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