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2016年02月の記事は以下のとおりです。

標準電圧発生器で遊んでみよう[測定編]

 前回紹介した標準電圧発生器ですが,こういうものを手に入れたらとにかく測定してみたくなるのが人情です。てなわけで,うちの測定器どもで手当たり次第に試してみることにします。

 まず最初に,この標準電圧発生器の,製造元での実測値を書いておきます。

2.50165V
5.00302V
7.50454V
10.00533V

 これとの比較を,私の手元にある電圧計の測定値で行います。数字は左から測定値,実測値との差分でmV,そして差分を%で表したものです。


・HP34401A(Hewlett-Packard,6.5桁1200000カウント)

 まず,うちの代表選手,HPの34401Aです。ジャンク品でしたから,全然信用出来ませんけど,そこは天下のHP,それなりにいい数字を出してくれていたので,どんなもんか気になっていました。

2.50165V    0mV    0%
5.00338V    0.36mV    0.007195654%
7.50529V    0.75mV    0.00999395%
10.00644V    1.11mV    0.011094087%

 お,いいじゃないですか。特に2.5Vなんて,ぴったり一致しています。他の電圧も,そんなにずれていませんし(でもスペックからは外れてます),10Vなんて1mVくらいの差しかありません。引き続きうちのキャプテンに残留決定です。


・DL2050(ケンウッド,5.5桁120000カウント)

 私が最初に買ったベンチ型のマルチメータ,ケンウッドのDL2050。計測器ランドでまともに買ったきちんとした計測器で,34401Aを手に入れるまでは「なんて素晴らしいんだろう」と思っていました。今は欠点ばかりが目立つ,かわいそうな子です。

 34401Aと違って1桁少ないマルチメータですので,そもそもの実力が違うと言えばそうなのですが,小数点以下4桁も出ていれば普通は困りません。

2.5012V    -0.45mV    -0.017988128%
5.0026V    -0.42mV    -0.008394929%
7.5041V    -0.44mV    -0.005863118%
10.005V    -0.33mV    -0.003298242%

 おお,いいじゃないですか。差分だけで見れば34401Aよりも小さいです。10Vで0.3mVしか差がありません。どの電圧でも常に0.4mV前後の差になっていることが少々気になるところですが,なんか,惚れ直しましたよ。よし,バンバン使おう。


・101(FLUKE,3.75桁6000カウント)

 次,うちのハンドヘルド型の常用機として購入した,フルークの101です。腐ってもフルーク,フルークを持ってないエンジニアは偽物とまで言われる極端なブランド信仰に屈して買ってはみたものの,こいつは値がずれているだけではなく,起動時に「Err」と謎のメッセージを表示するという体たらく。あてにしないで見てみましょう。

2.493V    -8.65mV        -0.345771791%
4.989V    -14.02mV    -0.280230741%
7.47V    -34.54mV    -0.460254726%
9.97V    -35.33mV    -0.353111791%

 うーん,微妙なところですね。例えば5Vですが,差分は-14mV。0.2%ほどのズレですので0.5%以内というスペックに入っていますし,実用上も全然OKといえばOKなんですが,でも5Vに対して4.9Vですから,シビアに使えないと判断せざるを得ない場合も出てくるレベルです。

 まあいいか,かわいいから許す。(結局それかい)


・STA55G(ソニーテクトロニクス,3.75桁4000カウント)

 お次はソニーテクトロニクスのSTA55Gです。あのテクトロニクスがソニーと一緒にやっていた時代の産物で,波形を見る事の出来るテスターとして登場したものの,オシロスコープとしては画面が小さく解像度が低く,しかも帯域1MHzで全く役に立たず,テスターとしても中途半端で,でかい,高価,単三電池が6本もいるのにすぐに電池が切れると,まさにいいことなしの黒歴史です。

 とはいえ,テスターは当時としては高性能の証であった4000カウント,TrueRMSで交流も実効値で測定可能,測定周期もとても高速で,2回/秒の更新が当たり前だった当時としては,第一印象でエンジニアの心を掴みました。

 何度も書きましたが,私はこれを計測器ランドの特売で購入,その足で友人とブルーノート東京に出向いて,クロークに計測器ランドの紙袋を自慢げに預け,友人に冷たい目で見られたという過去があります。

2.495V    -6.65mV        -0.265824556%
4.99V    -13.02mV    -0.260242813%
7.49V    -14.54mV    -0.193749384%
9.98V    -25.33mV    -0.253165063%

 お,購入からもう20年も経過しているのに,なかなかやりますね。101よりも整った値で,これくらいなら気にしないで使えそうです。


・RD-500(サンワ,3.5桁2000カウント)

 私が高校生の時に初めて購入したデジタルテスターです。テスターとしても2台目になるもので,非常に長い付き合いのあるかつての常用機でした。

この手のテスターは当時,同じデザインで色違いのものが,あちこちのメーカーから出ていたものです。デジタルテスターのワンチップLSIは,アメリカではインターシルが先行していたのですが,このLSIは9Vの電源が必要で,006Pか単三電池6本を使わざるを得ませんでした。

 そこへ,当時飛ぶ鳥を落とす勢いの日本が,3Vで動作する超低消費電力のLSIを開発,単三2本で動くテスターは言うまでもなく,ボタン電池搭載のカード型やペン型という多彩なバリエーションと圧倒的な低価格で市場を席巻しました。

 RD-500も,どっかのOEM(おそらく日置)だと思うのですが,30年もしぶとく私のそばにいてくれました。どれどれ・・・

2.45V    -51.65mV    -2.064637339%
4.93V    -73.02mV    -1.459518451%
7.41V    -94.54mV    -1.259770752%
9.89V    -115.33mV    -1.152685619%

 うーん・・・こりゃだめですね。実はRD-500は何度か修理をしていて,その度に適当に基板上の半固定抵抗をいじくっていたりしました。それで初期精度など全く出ていないんですが,それにしてもこれはいかん。いかに3.5桁とはいえ,2%もずれていたら苦しいです。

 これは,再度調整をして,リベンジさせたいです。

 ちなみに,こいつが優れているのは,導通チェッカーの反応速度が高速で,音だけ聞いていればすぐに判断出来たというのが理由です。このおかげでどれだけ作業が捗ったか知れません。


・DT3100(不明:ソアーのOEM)

 何度かここにも書いたと思うのですが,デジタルテスターなのにバーグラフ表示という,なんだかよく分からないテスターです。1980年代中頃にソアーから登場したものなのですが,数字表示とバーグラフ表示の悪いところを引き継いだ可愛そうな奴で,結局バーグラフが普通のデジタルテスターの表示に追加されるという,至極まともな進化を遂げて,絶滅しました。

 このテスターは私にとって3台目にあたるものです。一度完全に壊れたのを修理しました。ソアーのOEMで,輸出専用機です。

 デジタルテスターは数字で測定値を直読出来るのが最大のメリットなのに,それが出来ないなんて何のメリットがあるんだよ・・・誰か注意しなかったのでしょうか。

2.54V    38.35mV        1.532988228%
5.05V    46.98mV        0.939032824%
7.59V    85.46mV        1.138777327%
10.12V    114.67mV    1.146089134%

 バーグラフ表示とは言え,セグメント表示ですので,読み取る人によって結果が違うというアナログっぽいことは起こりません。誰が読んでも,数を正しく数えられる人なら,正確な値を読み取ることができます。

 で,この結果です。まあ,RD-500とそんなに時期的に変わりませんし,経年変化もあると考えればこんなものなのかも知れませんが,それにしても常用するには厳しい数字です。


・MT-2000(マザーツール,3.5桁2000カウント)

 昔,2代目シビックに乗っていた頃,突如やってくるバッテリー上がりに備えるためにテスターを常備する必要があって,購入した手帳型のポケットテスターです。LR44が2つで動くのですが,交換したのは購入後20年経過してからというのがすごいです。

2.47V    -31.65mV    -1.265164991%
4.97V    -33.02mV    -0.660001359%
7.46V    -44.54mV    -0.593507397%
9.96V    -45.33mV    -0.45305852%

 意外や意外,結構頑張ってます。どの電圧でも40mV前後の誤差となっているので,低い電圧の測定ほど誤差が大きくなっていますが,10Vで0.5%以内ですから,なんとかなんとか踏みとどまっているという感じでしょうか。


・P-16(秋月電子,3.75桁6000カウント)

 みんな大好き秋月電子のオリジナルで,性能とお値段から考えるとこれ以上の選択肢を考える必要がないとさえ思われる,P-16です。まさかの6000カウントで多機能,安くて小さくて電池も長持ちと素晴らしいテスターなんですが,その安さ故に測定結果を信用してもらえないという不運がつきまといます。

2.502V    0.35mV    0.013990766%
5.004V    0.98mV    0.019588169%
7.51V    5.46mV    0.072755958%
10.02V    14.67mV    0.146621851%

 おいおいちょっとまて,なんという精度ですか,これは。2.5Vではまさかの0.014%ですよ。たった0.35mVのズレですよ。それも,桁数が少ないから出たズレで,桁数にあわせて丸めると,ドンピシャじゃありませんか。フルークなんて目じゃないっす。

 いやはや,これはもう誤差なしといってもいいくらいです。問題は,どれを買ってもこの精度かどうかわからないという,ばらつきの問題があるわけですけど,こうやって基準となる電圧を持っている人なら,P-16はお得なテスターだと思います。

 残念なのは測定周期が長いことで,測定のレスポンスを期待する人は買ってはいけません。というか,もう売っていないんですね,これ。


・P-10(秋月電子,3.75桁4000カウント)

 かつて一世を風靡した名機中の名機,P-10です。今はディスコンになっていますが,登場時は高性能,多機能,高速レスポンス,しかも1000円という低価格で,騙されてもいいからお布施と思って買って,いつの間にか常用機にしてしまったひと仮続出しました。

 およそ老若男女,みんな使っていたテスターだと思うのですが,後継のP-16の登場で惜しまれながら消えていきました。

 P-10はP-16に比べてカウント数は少ないのですが,バッテリーチェッカーがとても便利ですし,測定周期が短いのでテンポ良く測定が出来ます。しかもデフォルトでオートパワーオフが無効になっており,いつの間にか消えているという面倒なことがありません。それでも電池はとても長持ちなので,良い設計だなあと思います。

2.475V    -26.65mV    -1.065296904%
4.97V    -33.02mV    -0.660001359%
7.46V    -44.54mV    -0.593507397%
9.94V    -65.33mV    -0.652951977%

 カウント数が少ないので誤差が大きくなる傾向はあるのですが,それでも1%未満です。とはいえ,ズレは結構大きいですから,まあ特別高精度だという物でもないでしょう。

 購入から時間が経過しているし,酷使しましたからこれくらいのズレで収まっているなら,よく頑張ったということでしょうか。


・BX85TR(サンワ,アナログ)

 参考までに,アナログテスターも調べてみます。私が持っている唯一のアナログテスターにして,私が最初に購入したまともなテスター1号機,そして今もって私の宝物である,サンワのBX85TRです。

 こいつはね,いいテスターですよ。センターメーターとかロジックアナライザとか,そういうのはどうでもいいんです。とにかく精度やレスポンスが,メーターの性能に完全に依存するアナログテスターは,もうメーターが命です。

 桁数とか測定周期とか,そういうのと無縁なアナログテスターはどんな結果になるんでしょう。

2.51V    8.35mV        0.333779705%
5.01V    6.98mV        0.139515732%
7.49V    -14.54mV    -0.193749384%
10.0V    -5.33mV        -0.053271606%

 最初にことわっておきたいのは,アナログテスターですので,値を読み取るときにも誤差が出てしまうので,測定者によって値が変わってきますという事です。それに,目盛りと目盛りの間を10分割するなんて無理で,4分割くらいがいいところでしょう。相当丸め込まれていますが,それにしてもなかなかの精度じゃないですか,これ。

 アナログテスターは,メーターが命だと言いましたが,もっというと読み取りをする人のスキルにも精度が依存します。自慢をするわけではないのですが,そこらへんのデジタルテスターが真っ青になるような値を最終的に読み取れているというのは,なかなか驚きです。

 今回,久々にアナログテスターを引っ張り出しましたが,デジタルテスターとはもう完全に別物ですね。脳みその別の部分が働いているのがわかります。


・M4650CR(METEX,4.5桁20000カウント)

 秋月で20年以上前に買った,当時の秋月としては高級機に分類される多機能テスターです。今でもMETEXという韓国のメーカーは存在しますが,値段があわなくなってきているのか,存在感が薄くなっています。

 国内メーカーのものよりはるかに安価で,多機能という事で買いましたが,導通テスターのレスポンスがあまりに遅くて使い物にならず,ほとんど使わずに放置していました。

2.502V    0.35mV    0.013990766%
5.004V    0.98mV    0.019588169%
7.506V    1.46mV    0.01945489%
10.007V    1.67mV    0.016691104%

 げ,すごいじゃないですか。これ,丸め込んだらほぼ誤差ゼロですよ。20000カウントでよくぞここまで頑張った!

 しかも多機能でhFEもコンデンサの容量も周波数も測定出来ます。表示も大きいので見やすいのですが,測定周期の遅さなど世代の古さは拭えず・・・まあ電池くらいは入れておきましょうか。


・10XL(Wavetek,3.5桁2000カウント)

 日本ではあまり知られていないと思いますが,海外では非常に有名なWavetekの製品で,ベストセラーである10XLがなぜか私の手元にあります。電気工事など強電の人向けに作られた堅牢性と安全性がとてもしっくりくるいいテスターではあるのですが,さすがに設計の古さは否めません。

2.49V    -11.65mV    -0.465692643%
4.99V    -13.02mV    -0.260242813%
7.48V    -24.54mV    -0.327002055%
9.98V    -25.33mV    -0.253165063%

 なかなかやりますね,低めに出る傾向がありますが,0.3%程度のズレであれば問題のない凡庸なレベルという感じでしょう。ただ,他に魅力のあるテスターではないので,やっぱり使い道がないなあと思います。

 ところで,10XLって販売期間が長いせいか,いろいろな色のものがあるようです。うちのはネイビーブルーです。


・MS2008A(HYELEC,3.5桁2000カウント)

 すっかり忘れていたのですが,2014年に買ったクランプメーターにも電圧測定機能がありました。メーカーはHYELECとあるのですが,型番からMASTECHのものであることは明白です。というかOEMなら型番くらい変えて下さい。

 電圧測定機能はどっちかというとおまけのようなもので,今さら2000カウントです。ですが,ないとあるとでは大違いという事で,早速試してみましょう。

2.50V    -1.65mV    -0.065956469%
5.00V    -3.02mV    -0.06036354%
7.51V    5.46mV    0.072755958%
10.02V    14.67mV    0.146621851%

 おお,これはいい。2.5Vと5Vはどんぴしゃ,7.5Vも無視できるレベルで,10Vも問題なしです。すごいです。

 これ,安かった割には良く出来ていて,クランプと画面の両方にライトがついているし,クランプを使わない測定機能だとクランプ側のLEDが消えるとか,細かいところまで作り込まれています。

 小さいですが持ちやすく,画面も見やすいし,立派なキャリングケースもあるしで,MASTECHなかなかいいですよ。今はちょっと高くなっていますが,私が買ったときも3000円ほどだったとおもいます。

 今さらですが,クランプで測定出来る電流が交流だけなのが残念で,こんなにクランプメーターが便利なんだったら,直流も測定出来るものを(少々高くても)買っておくんだったと後悔しています。

 今から買うか!


・FD-730C(サンワ,4.5桁20000カウント)

 おまけで,会社で使っているテスターも調べてみました。私はカスみたいな出がらし底辺エンジニアですので,会社から支給された測定器って,これだけです。とほほ。
       
2.504V    2.35mV    0.093938001%
5.008V    4.98mV    0.099539878%
7.512V    7.46mV    0.099406493%
10.016V    10.67mV    0.106643159%

 買ってから15年は経過していると思うのですが,なかなかいいですね。使い勝手も良くて電池も長持ち,同僚達はこれ見よがしに肩で風を切りながらフルークを使ってブイブイいわしてますが,この結果をみるとフルークなんぼのもんじゃい,と思います。個人的にも1つ買っておけば良かったかなあ。

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 と,うちにあるテスターを手当たり次第に調べてみました。まあ当たり前の事なのですが,どうにもならないくらいずれてしまった物はなく,テスターっていつからこんなに安く高精度で,長持ちする物になったんだろうなあと感じました。

 今回,こういうことを手間をかけてやってみたわけですが・・・

(1)アナログテスターは結構すごい

 デジタルテスターと違って,測定者が値を読み取るときの誤差が存在するのは避けようがありませんが,実際に読んでみるとその誤差の小ささに驚きます。

 考えようによっては,アナログテスターと値を読んで数字で書いてくれる人がワンセットになって箱に入った物がデジタルテスターなわけで,値を読んで数字を書いてくれる人の読み取り精度も,デジタルテスターの性能の一部なんですね。

 そこを人間がやるアナログテスターは,訓練次第で誤差を小さく出来ると言う話ですから,これは面白いですよ。

(2)桁数が少なくてもいい場合がある

 桁数が多い=いいものだ,と直感的に考えてしまう我々ですが,例えば5.012Vが真の値だとして,これが3.5桁のテスターなら5.01Vと出ればドンピシャとなります。ですが,これが4.5桁のテスターで5.014Vと表示されてしまうとドンピシャではなくなります。

 3.5桁は5.010Vから5.014Vまでの範囲のどれか,という言い方をしているに過ぎませんのでドンピシャではないのですが,それを言い出したらきりがありませんし,そもそも普通我々が実験をしていて,5.01Vで足りない事ってあんまりありません。

 そんなわけなので,桁数が多い方がいいものだ,という考え方ではなく,自分に取ってどれくらいの性能が必要になっているのかをよく考えて選ぶのが正しいと思いました。

 ついでに言うと,桁数を切り替えられるベンチ型のテスターでも,桁数を減らせば高速動作が可能になりますので,測定対象に応じて適切に選びましょうねというお話です。

(3)でもカウント数は大事かも

 (2)と矛盾するように思うかも知れませんが,表示桁数を気にするよりも,カウント数の方が実際には影響が大きいと思います。例えば真の値が5.012Vの場合,同じ3.75桁のテスターであっても,4000カウントだと5.01V,しかし6000カウントでは5.012Vとなってしまいますからね。

 これ,表示桁数が1つ減るという問題は実は些細なことで,1つのレンジで測定出来る範囲が狭いか広いか,と言う話が大事です。出来るだけ小さいレンジで測定するのが誤差を小さくするための鉄則と,皆さんも習ったと思いますが,まさにこの話です。

 4000カウントだと,3.999Vを越えると次のレンジ(例えば39.99Vまで)に切り替わってしまうのですが,6000カウントなら5.999Vまで同じレンジで動いてくれます。

 まあ,レンジごとに誤差が違っているし,小さいレンジの方が誤差が大きい場合もあったありするので,一概には言えないというのもまた事実なんですが・・・

(4)もう桁数はどうでもいい

 桁数というのは,内部表現であるBCDで考えた場合,4bitで一桁と数えます。ですから一番左側になる桁が-1から1までを表現するためには2bit必要です。4bitのうち2bitしか使っていないので,これを1/2桁と書くようになりました。

 -3から3までを表現するには3bit必要ですから,4000カウントのテスターを3/4桁というのですが,6000カウントのテスターについても,1桁に満たないという意味で3/4桁と書いてあるケースが散見されます。

 桁数とカウント数が一致していた時代なら別に良かったのでしょうが,もう桁数があてにならない以上,もう桁数を語るのはやめましょう。


 あー,疲れた。

標準電圧発生器で遊んでみよう[考察編]

  • 2016/02/17 09:07
  • カテゴリー:make:

 さて,電子負荷キットがめでたく完成し,我が家の測定器戦列に加わったわけですが,この時同時に同じお店から,「標準電圧発生器」なるものを買ってありました。

 これ,キットでも部品セットでもなく,完成品です。透明なアクリルで出来た高級感など全くない筐体で,当然のように中国製なのですが,なんと4000円もする高級品です。

 なんでそんなものを,と思われたかと思いますが,その名の通り,標準電圧を発生させる,いわばモノサシです。

 実はこれ,なかなかこの値段では手に入りにくいものです。

 電圧というのは身近な数値で,乾電池は1.5Vですし,コンセントの電圧は100Vです。で,それを測定する機材としてテスターがあり,電子工作に興味を持てば,まず最初に手にする測定器だったりするので,初心者の頃からとにかく電圧だけはどんどん測定することになります。これはもう大昔から変わりません。

 初めてのテスターを手に入れて,大喜びでそこら中の電圧を無闇に測定しまくった経験を皆さんもお持ちかと思いますが,その後テスターがもう1台増えると,新しい疑問が吹き出します。

 そう,2つのテスターの示す値が違うのです。

 どっちが本当だ?

 いやどっちも間違っているのでは?
 
 とりあえずもう1台テスターを買って試して・・・なんてことを長年繰り返して,気が付いたら身の回りはテスターがゴロゴロしているわけですよ。困った事です。

 そんなあなたに,これ,標準電圧発生器です。

 非常に高精度な電圧を安定して発生させるこの装置を使って,テスターの数字が正しいかどうかを確かめてみるのです。標準電圧に比べて大きくずれていたら,そのテスターは信用出来ないということになります。

 とはいえ,そんなに高精度な電圧なんて,簡単に手に入るのでしょうか?そう,簡単には手に入りません。まず,絶対的な精度があります。同じ5Vといっても,5Vと5.00000Vとでは,全然意味が違います。

 仮にその精度を実現した電圧があったとしても,それがずっと,長い間変化しないように作ることはとても難しいことです。電池だって,使わなくても勝手になくなってしまいますよね。世の中,変わらないことがどれほど難しいことか。

 加えて,気温や湿度,気圧の変化だって電圧に影響を与えてしまいます。もしかしたら強力な電磁波(電波)でも変動するかも知れませんし,その電圧を発生させる仕組みによりますが,元々の電源の変動が影響することだって考えられます。

 高精度になってくれば,地磁気の影響だって受けるだろうし,もっといえば人体の影響だって避けられないでしょう。もう,泥沼です。

 まあ,さすがにそこまで気にし出すともう切りがないのでそこそこにするとしても,それでもやっぱり大変です。こういう,絶対精度と経年変化を抑えた「標準電圧」は,電圧計の校正などに使われますが,とても高価ですし,精度の維持管理がとても大変です。

 これを,そこそこの精度でいいからという制約で,モノリシックICにしたものがあります。そう多くはないにせよ,機器に組み込んだ高精度な標準電圧が欲しい時だってあるんですね。

 そのICとしてよく知られたものが,アナログデバイセズのAD584です。なかなか高いICですが,今回の標準電圧発生器は,このICを使っています。だから4000円でも安いと思って買いました。
20160217092101.jpg
 さて,届いてみると,透明アクリルの板きれを組み合わせて作ったオモチャのような外見と,そんなに高級な部品を使っていない感じがして,どうもあやしい感じです。裏側には電圧の実測値がボールペンで書かれています。どれどれ・・・

 気温21℃で,測定日時は2015年とだけ書かれています。それぞれの実測値は,

2.500V・・・2.50165V
5.000V・・・5.00302V
7.500V・・・7.50454V
10.00V・・・10.00533V
20160217092100.jpg
 これが,シールに書かれた日時に,彼らの34401Aで測定された電圧です。その34401Aが十分な精度を持ち,管理されているのであれば,この標準電圧発生器の電圧もそれなりに信用出来るというわけです。

 さて,うちのテスターどもを確かめる前に,あらためてこの標準電圧発生器を考察してみることにします。

 まず,心臓部のAD584KHですが,メタルCANパッケージで,精度は2.500Vで±3.5mV,5.000Vで±6mV,7.500Vで±8mV,10.000Vで±10mVという仕様になっていて,2ランクあるAD584のうち上位ランクになります。
20160217092102.jpg
 温度安定性については,0から70℃までの範囲で15ppm/℃。いやーやりますね。なになに,レーザーウェハトリミングで出力レベルと温度係数を調整ですか,むむー,しびれますね。

 私の手元にある標準電圧発生器の誤差は,現地で測定された34401Aが誤差ゼロと仮定すれば,2.500Vで+1.65mV,5.000Vで+3.02mV,7.500Vで+4.54mV,10.000Vでは+5.33mVです。いずれもスペック内に入っています。

 ちなみに今日現在の某部品通販会社の価格は1個で3633円,メーカーの100個時の価格は18.03ドルです。これが完成品でしかも実測値つきなら4000円というのは十分安いです。

 AD584KHはメタルCANパッケージで,プラスチックのAD584KNとスペックを比べても,同一です。ではわざわざなんでメタルCANを用意するのか,と言う話なんですが,これはもう長期信頼性と堅牢性が気になる方向け,です。

 メタルCANパッケージは溶接で封止するため,完全な防湿が可能です。半導体は,素子の酸化や劣化が問題となってメタルCANパッケージが使われていた時代が初期にあったのですが,その後プレーナプロセスの登場で酸化や劣化をほぼ無視できるようになり,安価なプラスチックパッケージに移行しました。

 ただ,このプラスチックというのは水分を通しますので,半導体は湿気に晒されることになります。それでもほとんど影響がないのですが,ごく僅かに性能を変化させるため,その変化が問題となるような高精度な世界では,長期間にわたる信頼性を確保するために,こうしてメタルCANパッケージが選べるようになっています。

 もちろん,光,電磁波,機械的衝撃,磁気などにも強いことは言うまでもありません。ただ,このパッケージはピンが細くて長く,曲がりやすいこともあって,自動で基板に取り付けできません。大量生産品には使えないんですね。

 さてさて,ICの性能が高ければそれでOKかというと,そんなに甘い世界ではないわけで,ここまでくると実装や回路の工夫が,精度を左右します。

 まず,電源です。電源をACアダプタなんかから取ってしまうと,電圧の変動やノイズといった電源品質が,精度の足を引っ張ります。理想的には電池ですが,その電池だって乾電池では内部抵抗が高いし,電圧が安定しません。

 そこで,内部抵抗が低く,電圧変動の小さい電池として,リチウムポリマー2次電池が使われています。3.7Vで580mAhと,この回路では大きすぎる容量を持っているのですが,あまり小さいと使い勝手も悪いし,電圧変動も出てくるので,これを選んだのかも知れません。ちなみに充電は外部から5Vを供給することで行います。充電中は動作しません。これも,設計者がよく考えて作った結果だと思います。

 1つのボタンで電源と電圧切り替えを行うのですが,当然マイコンが入っています。また電池の充電回路も入っているので,システムとしてはそれなりに完成されていて,電圧だけ出ればそれでいいやという適当な作りにはなっておらず,ちょっと感心しました。

 些細なことですが,電圧表示のLEDに赤を使っているところもうれしくて,中国製にありがちな超高輝度なギラギラした青色なんかを使っていると,もうゲンナリです。

 次に基板です。両面基板ですが,しっかりとGNDを取ってありますし,配線も太く,それなりに考えられていると思います。職人が引くもはや芸術的とも言える高精度アナログ回路のパターンというわけではありませんが,それはもう高望みでしょう。

 面白いのは,AD584KHの周りに3mmくらいの穴が8個あいていることです。これ,おそらくですがパッケージの周囲の風通しを良くすることで,IC自身が発生する熱を放熱しているんではないかと思います。

 残念な所があるとすれば,出力端子でしょうか。普通のバナナプラグが刺さるような安物の端子で,配線もラグにハンダ付けです。せっかく高精度なものを使っているのだから,ここは圧着か直出しでしょう。

 それと,基板の洗浄がちょっと不足です。AD584KHの足下に,白いフラックスが残っています。こういうのが案外,精度を落としたり長期的な信頼性を悪化させたりするんです。

 とまあ結局の所,校正され管理された正確な電圧計で測定した値を,温度や経年に対して出来るだけ維持して持ち歩くための「箱」がこの標準電圧発生器です。絶対精度で一喜一憂するよりも,変化しないことを評価したいです。

電子負荷キットを作る[発動編]

  • 2016/02/15 14:26
  • カテゴリー:make:

 前回は,電子負荷キットRe:Load2を作って動作の確認まで行いました。最大で18W位を吸い込む事が出来,外部電源モードでは0Vから動作してくれます。

 ただ,12Vで1.5Aも吸い込むと,数分でサーマルシャットダウンが動作して,電流を吸い込まなくなります。

 こういう保護回路が入っているのが,BTS117の素晴らしいところで,もしなにも入っていない普通のFETだと,壊れるまでそのまま突き進んでしまいます。かといって保護回路を別途用意するのはなかなか面倒なので,これは本当にありがたいです。

 で,安定して吸い込めるのは,やっぱり12W程度な感じです。少し大きめの放熱器を,アルミのケースにがちっと取り付けているので12Wくらいはなんとかなっている感じですが,それでも非接触型の温度計でFETの表面温度を測ると100℃を越えています。

 放熱器の表面温度は60℃ほどですが,ここも出来れば45℃くらいに押さえたいところです。

 ということで,自然空冷ではこの程度ですから,強制空冷を検討します。

 まず,手持ちのファンを探してみます。探してみると,40mmのファンが3つ出てきました。いずれも20年近く前のものです。電圧は12Vですから,5Vで回すとかなりゆっくりでしょう。ここまで電圧が低いと,そもそも回るのかさえ怪しくなります。

 回してみるとゴリゴリと嫌な音がします。軸受が駄目になっていますね。ちょっと油を差してやると,ぐぐーんと回転数があがります。5Vまで電圧を下げると,ゆっくりですが,回ってくれています。

 風量は少ないのですが,これを放熱器にセロテープで貼り付けてみます。早速実験です。結果は,20Wまでならなんとか大丈夫,25Wになるとダメでした。まあ,気休めに近いです。

 次に,秋月で一緒に買ったファンです。25mmという小型のものですが,電圧は5Vです。回してみると,小さいのにしっかり回っています。

 同じようにセロテープで取り付けますが,さすがに20mmでは放熱器のフィンの全部に風は当たりませんので,部分的に冷えるだけという感じです。

 結果は,先程とあまり変わりません。25Wだとだめです。FETの表面温度も100℃を越えています。

 ならばと,この小型ファンを2つ並べてみました。並べると50mmですので,54mmの幅のあるこの放熱器にはぴったりサイズです。

 回してみると,さすがにうるさいです。2つのファンが微妙に違う周波数を出しますので,変なうなりが出ています。不快です。

 ですが,効き目はさすがにあります。20Wなら全然余裕,25Wでも大丈夫です。FETの表面温度も100℃を越えません。しかし30Wはダメです。5分くらいなら大丈夫ですが,それではこわくて実験に使えません。

 ならばと,先程の40mmのファンを12Vで動かしてみます。かなりの風量ですから,期待出来そうです。結果は,30Wもなんとか大丈夫でした。FETの表面温度も100℃までに入りますし,温度上昇も緩やかでした。本当は,どこかで熱的に平衡する温度まで測定したかったのですが,時間切れでした。

 ということで,今回の結論としては,放熱器全体に風を当てること,風量は出来るだけ増やすことです。頑張れば30W動作は可能です。

 しかし手持ちのファンでは12V駆動せざるを得ず,そうすると嫁さんからパクったACアダプタが使えないという悔しい事態になりますので,この際5V駆動のファンを買うことにしましょう。なんか,本末転倒な気がしますが,それはおそらく気のせいです。

 早速探してみると,50mmで5V駆動というファンがamazonで見つかりました。そんなに安いわけではありませんが,500円弱です。50mmあれば,放熱器のほぼ全体に風を当てることができますし,5V動く物ですので,今のACアダプタをそのまま使っても十分な風量を確保できるでしょう。

 マーケットプレイスなので時間がかかることは覚悟していましたが,発送済みのメールを見ていると,なにやら見慣れない中国語っぽい運送会社が2週間以上かけて運んでくれるんだそうです。

 どうも中国から発送されるものらしく,未だにトラッキングができません。なんとなくなのですが,このまま無事に届かないんじゃないかという気がしてきました。

 ちょっと他を探してみようとgoogle先生に聞いてみたら,なんとまあこの電子負荷を買ったSHOP-Uさんで取り扱いがあるじゃありませんか。しかもお値段は400円弱。メール便でお願いすれば400円台で買えます。

 もうね,届くかどうかわからないものを3月上旬まで待つなんて,バカバカしくってできません。1000円でファンを買ったと思って,SHOP-Uに注文。この土曜日に届いてしまいました・・・

 ねじ穴の位置の関係で,放熱器にネジを切って取り付ける方法が採れないとわかり,どうした物かと考える事10分,3.5mmというちょっと太めのビスで,フィンに直接ねじ込んでみます。

 穴を開けることもせず,ちょっと不安ではありますが,かなりがっちり固定できているのでこれで良いことにします。いやー,アマチュア精神炸裂です。

 そしてケースの背面に小さい穴を開けて,ここから配線を通し,5Vに繋ぎます。

 ちょっと回転数が低めで,風量も少ないなと言う印象があるのと,それと回転数が結構不安定で,ムラがあります。向きを変えても回転数が変わりますし,まあ中華クオリティってこんなものかも知れません。しかし,空冷のファンが死んだら,装置そのものも死んでしまう場合が多いと思うんですが・・・

 さて,これで実験です。まず30W。15Vで2Aを吸い込んでみましたが,ファンなしだと数分でアウトだったのに対し,1時間以上の連続動作もOKでした。FETの表面温度を測定すると106度でほぼ均衡しています。熱的に安定しているので安心です。

 ここで欲を出し,16Vで2A,32Wを吸い込んで見ましたが,これも大丈夫。17Aで2Aだと数分でシャットダウンするので,実力として32Wまではなんとか大丈夫,安定動作は30Wまでというのが,この電子負荷の仕様となります。

 ところで,30Wを吸い込んでいるときにスイッチを切り替え,セルフパワーにしてみました。すぐにシャットダウンすると思ったのですが,ファンが突然強烈に回り出してしまいました。びっくりしてすぐに電源を切断したのですが,冷静に考えたら当たり前です。

 外部電源モードでは,電子負荷本体とパネルメーター,そしてファンにも5Vが供給されています。これはいいですよね。

 これがセルフパワーモードになると,入力された電源が,電子負荷本体とパネルメーターにも供給されるようになります。セルフパワーモードでの入力電圧の制限(最大30Vまで)というのは,この電子負荷とパネルメーターの最大定格から来る物です。

 で,ファンの電源をこれらと並列に取っているのですから,セルフパワーモードでは入力された電源の電圧がそのままファンにかかるわけです。15Vを入れればファンも15Vでブン回るんですね・・・こりゃいかん。

 シリーズレギュレータで5Vに落とす事も考えましたが,そうすると外部電源モードで5Vを得るために,ACアダプタは8V近い電圧のものが必要になります。しかも,セルフパワーモードの動作下限である4Vが,ファンを回すために8V付近まで上がることになります。こりゃだめです。

 では,セルフパワーモードではファンを回さないようにすればいいんじゃないかと思いました。セルフパワーモードではファンの電源ラインを切断すればいいのです。

 しかし,そうは問屋が卸しません。

 今回使った切り替えスイッチは1回路2接点の3Pのものです。前回の検討で,一度はリレーを使ってパネルメーターの接続を切り替える作戦を立てて配線をしたところ,結局切り替えの必要がなくなって,リレーを外した経緯がありました。

 しかし,ファンを止めるには2回路必要です。ダイオードを使ったりしてなんとか1回路で出来ないか考えてみたのですが,やはり無理。かといって2階路のスイッチは手元にありませんので,ここは再び,リレーを使う事にしました。

 なんだか鈍くさい話なんですが,実はリレーを使う事のメリットがないわけではありません。

 リレーは,ACアダプタの5Vで動作します。したがってACアダプタが外されて外部電源が切れてしまえばリレーも動作しなくなり,スイッチの位置に関係なく自動的にセルフパワーモードになってくれます。

 リレーでなく,2回路のスイッチを使うと,ACアダプタが外れてしまっても外部電源モードの配線のままなので,全く動作しないという状態が起こってしまうのです。

 ということで,リレーを使うことでより完璧になりそうです。こらそこ,笑わない。

 いいじゃないですか,リレーも1つ100円もしないんですから。2回路のスイッチって結構高いですよ。300円とか400円とかしますし。安いしいいんですよ,これで。

 さっさと配線を変更して,外部電源モードもセルフパワーモードもちゃんと動作することを確認し,これで電子負荷は完成です。

ファイル 794-1.jpg

 なかなかコンパクトにまとまりました。ACアダプタの試験とか,電源回路の試験とか,いろいろ面白く使えそうです。

 以下は背面の様子です。放熱の奥行きが小さく,ファンも薄型ですので,最終的に飛び出す量がそんなにおおきくありません。
 
ファイル 794-2.jpg

 何だかんだで30Wを吸い込む物ですからね,長期試験とかいって繋ぎっぱなしにすると,それがそのまま電気代として見えちゃうので要注意です。それに,不用意に放熱器に触るとやけどします。ファンを回さないと60℃くらいになったりしますので,びっくりします。ファンを回せば冷えますが,ファンがむき出しなのでちょっと怖いです。

 ま,そういうのをそのままにしておくのも,アマチュアの特権ですね。

秋月で通販するということ

  • 2016/02/10 13:29
  • カテゴリー:make:

 電子負荷の検討を続けたいところですが,注文したファンが届くのに少し時間がかかりそうなので,先にこっちを書いておきます。

 その電子負荷キットを完成させるために,ケースなどを秋月で買うことにしたわけですが,秋月は送料が別途かかるので,まとめ買いをする癖がついてしまいました。

 このまとめ買いのクセは,私が中学生の時からついたものです。当時大阪に住んでいた私は,秋葉原など見たこともなく,まるで桃源郷のような場所だと聞かされていました。

 その秋葉原でも特に知られた部品屋さんが秋月電子なわけで,確かにここで売られている物を日本橋で買うと数倍の価格になったり,そもそも買えなかったりする上に,基本的には貴重な「資料」がついてくることが,我々ホビーストには重要でした。

 日本橋でも,いわゆるジャンク品は売られていましたが,いくら安くても使うために必要な資料や仕様書がないことが多く,結局知ってる人だけが大喜びという,間口の狭い世界だったのです。スキルはあるけど情報がないということで,腕に覚えのあるホビーストが,涙をのんでいた時代でした。

 そこへ行くと秋月は,トランジスタ1つにもデータブックのコピーを添付していて,使いこなしのスキルがあればどんどん面白い事ができました。

 今と違って,インターネットがなく,それ以前の話として部品メーカーも資料を積極的に出さなかった時代です。部品の仕様書を出すのは,その部品を正規に購入して使う技術者だけ,と言うスタンスのせいで,一般の人はもちろん,学生など門前払いでした。

 だからこそ,初歩のラジオやトランジスタ技術と言った「誰でも手に入る情報源」が重要な位置付けを保てていたわけですが,情報流通の範囲が制限されて差が作られるというのは,いい意味でも悪い意味でも一種の職業上の特権だったといえばそうかも知れません。

 私などは,情報がないせいで悔しい思いをしてきた人でしたし,展示会でも追い払われる経験をしましたから,学生の時に手に入れた技術情報はそれこそ宝物でしたし,情報をもらえる立場,是非見に来て下さいと言われる立場になることを目指して,この仕事を選んだようなものです。

 情報がなければどんな素晴らしい部品でも,ただのゴミになります。しかし資料を作る側にしてみると,それも結構な手間とお金がかかるので,ただでばらまくなどは考えられなかったでしょう。事実,家電メーカーのエンジニアには無料で配られるデータブックの中には出版社を市販されるものもありましたが,1冊数千円で売られていました。

 だから,秋月で買ったものの価値は,その部品と共に,一緒についてくる資料にも存在しました。今でもちゃんとファイルに綴じてありますし,あの独特の,蛍光ピンクや水色のインクで印刷された,いかにも切り貼りしましたという資料は,見ていてワクワクするものがあります。

 その秋月が大阪にいた私からとても遠いと感じたのは,秋葉原にあるという物理的な距離と同時に,どんな小さな物をかっても送料は一律600円という仕組みのせいでした。(秋月がとても面白かったのは,送料が余った場合に,他の部品を同封して返してくれたんですね。その部品は完全に向こうにお任せですから,何が来るのか楽しみだったのです。)

 今でこそ送料600円はリーズナブルと言えますし,今は500円ですから値下がりしているというのもびっくりですが,当時は郵便だけが通販の流通を担っていた時代で,この600円というのもほぼ切手代だったわけです。

 600円といえば,秋月なら,それこそたくさんの部品やキットを買うことが出来る値段です。送料まで考えたら,日本橋で買った方が安くなる物もありましたが,だからといってこの600円は秋月の儲けにならないわけで,なんだか理不尽だと思った記憶があります。

 ついでにいうと,送料だけではなく,支払いの手数料もバカになりません。当時は現金書留か振替くらいしかありませんでしたから,お金を払うことに何百円も取られていたのです。

 そこで,欲しいものをリストアップしておきまとめ買いをすることをするようになりました。店頭で特価品を買うことはもともと出来ませんから,常時在庫の定番品しか買えません。それでも十分面白かったのが,当時の秋月でした。

 ここから一歩進めて,友人に声をかけて共同購入もやりました。同じような思いの友人を何人か集めると,簡単に合計金額が1万円を越えるので,子供だった私はドキドキしたものです。

 そうしたクセが抜けきれず,秋月で買うときにはまとめ買い,と,自然に発想するようになりました。

 個人的には,秋月のような単価の安いお店では,送料別がいいと思いますし,そういうお店を積極的に選んで買い物をしています。amazonでも,ちょっとした部品を買うことが出来る時代になりましたが,送料無料というシステムのせいで,価格に送料が乗っていますから,単価が高いため,数を買うと大変な価格になります。

 そんなわけで,長々と秋月でたくさん買い物をする「言い訳」をしてきたわけですが,今回も余計な物をあれこれ買って,随分高額になったことを白状しておきます。

 今回高かったのは,やっぱオシロのプローブです。今どき1000円で2本買えるプローブですが,500MHzのプローブはやっぱり高いです。メーカー純正品なら数万円しますが,消耗品であるプローブにこんな値段は出せません。

 ということで,秋月で2465A用に昔に買った500MHzのプローブでしたが,同軸ケーブルが細くて断線しやすいのも広帯域のプローブの運命でして,あまり使わないうちに2つとも壊れてしまったのです。

 いつも使うわけではない2465Aですので,1本だけ購入し大事にとってあった純正のプローブを1本だけ出してきてその場しのぎをしていました。しかしこのまとめ買いの機会に2本買いましょう。いつの間にか最新版に商品が入れ替わっていて,コネクタ部分の大きさが随分小さくなっています。でも,ケーブルは弱いままだろうなあ。

 プローブ2本で8400円。高いような安いような・・・でもまあ,最近はなんだかんだで2465Aを使う事が増えましたし,いいか。

 あとは,先日電解コンデンサの交換やメカのメンテをやったDTC-59ESJ関連です。ちょうどいいコンデンサがなかったという理由で交換をサボっていた,電源周りの大容量コンデンサですが,本当はこういうところから劣化が進むので,真っ先に交換したいところです。

 事実,ロットによっては激しい漏液でやる気も失せるほど,ということですので,私のように漏液しやすいコンデンサが使われていないもので,やっぱり交換したいと思っていました。

 しかし,やっぱり,6800uFの25Vと,5600uFの35Vは,秋月には売っていません。そこで,回路図を見ながらちょっと考えてみました。

 まず,6800uFについては,デジタル系の5Vを作る電源です。25Vという耐圧は非常に妥当ですが,ここは10V程度の電圧なので16Vでもギリギリ大丈夫と踏みました。なら,8200uFで16Vというものが特価(105℃品なのにたった50円)で出ていますのでこれを使いましょう。

 次に5600uFの35Vですが,これはアナログ系の12Vを作るもので,正負両電源なので2つ必要です。ここも16V程度がかかるだけですので25V耐圧なら十分なのですが,案外売っていないものです。

 いろいろ考えた結果,15000uFの35Vが450円でしたから,これを2つ使う事にします。一応オーディオ用なんだそうですが,まあそんなことはどうでもいいです。

 さすがに5600uFが15000uFですので,ちょっと大きすぎかなあとは思いますが,突入電流が大きくなってしまうことと,電源OFF時に電荷が抜けるまでの時間がかかること以外は,むしろリプルが減ったりしてありがたいものですので,これでいってみましょう。

 それから,ACコードです。まるで電動工具かと思うような太くて取り回しの悪いコードが筐体から直接出ているせいで,とても煩わしかったのですが,ここを3Pのコネクタに付け替えて,市販のACケーブルをそのまま使えるようにしようと思っていました。

 ですがあいにく,コネクタの在庫を使い切ってしまったので,一緒に買いました。3つ買ったのですが,1つは皿ビス用にざぐったところ,失敗して割ってしまったので廃棄しました。もったいない。

 これだけの作業をささっとすませて,本当にもうDTC-59ESJの改造はおしまいにします。

 さて,今回の買い物のメインは,実は他にあります。Si5351というICと,その周辺部品なのですが,この部品が私が長年悩んできた問題を一発で解決してくれる可能性があります。

 決して簡単に使えるデバイスとは言えませんが,ぼちぼち検討していこうと思います。

電子負荷キットを作る[製作編]

  • 2016/02/09 13:49
  • カテゴリー:make:

 少し前の話になるのですが,SHOP-Uという面白そうな電子工作のお店で「Re:load 2」という電子負荷のキットを買いました。

 電子負荷?なんじゃそりゃ?

 電源に抵抗なりモーターなりの負荷を繋げば,当然電流が流れて,電力が消費されます。電子工作では通常,電気で動く物,すなわち負荷を作りますので,設計や実験,場合によっては実使用においても,少々のことでは性能が変化しない,理想的な電源を使います。

 この理想的な電源を,電圧を安定化したり,電圧を可変できたり,たくさんの電流を供給出来たり,ノイズが少なかったり,ショートなどでも安全なようにしたり,様々な回路を工夫して取り付け,実験器具として独立させたものが安定化電源器です。

 電子工作を始めると,欲しくなるのが安定化電源器なわけですが,これは前述のように電気で動く物を作るから欲しいわけです。

 それでは電気を供給する側を作る時には,なにが欲しくなるでしょう?

 そう,理想的な負荷です。電圧を変えても同じ電流が流れること,流れる電流を調整出来ること,電流が流れることでノイズなどを発生しないこと,壊れないこと,壊さないこと,という理想的な負荷があれば,電気を供給する電源器の設計や製作,実験が,より確実に,より素早く行えるようになるわけです。

 でも,普通は電源回路などを設計することはあまりしません。どんな回路でも電源は必要な物ですから,設計しないというのはおかしいのですが,昨今は三端子レギュレータを使うだけで性能のいい電源回路が出来てしまうので,設計すると言う手間をかけることは必要がなくなってしまいました。コピペで動いちゃうんですよ。

 しかし,そうも言ってられない場合があります。

 例えばACアダプタ。手持ちのACアダプタに,「6V-500mA」と書いてあるとしましょう。テスターでとりあえず出力電圧を測ると,6V出ています。さてこれで,このACアダプタは良品といえるでしょうか?

 次に,6Vで100mAを消費する装置に,このACアダプタを使うことは出来るでしょうか?

 まあ,実際にやってみりゃわかることだと言われればその通りなわけですが,そこをもうちょっと科学的に,論理的にやりたくなったら,もう上級者です。そして,そのために使う装置が,電子負荷と呼ばれるものです。

 ACアダプタについて誤解をしている人がたまにいるのですが,先程のように6V-500mAというのは,6Vの電圧が出てきて500mAまで電流が取れますよ,という意味ではなく,500mAの電流を引っ張った時に,6Vの電圧が出てきますよ,と言う意味が正解です。500mA以外の電流では,6Vとは限りません。

 特に安定化していないトランス式のACアダプタは,引っ張る電流によって電圧が大きく変動するのがあたりまえで,電流が小さい時には電圧が高めに出ます。ですが今普通に出回っているスイッチング式の場合は,あまり変動せず6Vくらいで安定化されています。

 ですから,テスターで電圧をみて6Vであることを確認出来たとしても,それでACアダプタが良品かどうかは,全然わからないのです。ちゃんと500mAの電流を流してみて6Vの電圧が維持されているか,熱くなったり唸ったり,煙が出たり,おかしな波形が出てたりしないかを,ちゃんと見ておかないといけないのです。

 同じ理由で,100mAの装置にこのアダプタが使えるかどうかは,100mAを流してみて,ACアダプタに異常がないことはもちろんのこと,その出力電圧がいくらかを見ないといけません。トランス式なら8Vくらい出ていることがほとんどでしょうが,それでもその装置が正しく動くのか,壊れないかをきちんと確かめないといけないのです。

 抵抗じゃだめなの?という質問が来そうですが,抵抗でもいいです。電池チェッカーなんかは,負荷として単純な抵抗を使っていることがほとんどです。

 ただ,駄目な場合もあります。抵抗は電圧が変わると流れる電流が変わります。だから電圧に関係なく一定の電流を引き出すという事が出来ません。
 
 そもそも電流の値を調整する仕組みも大変です。可変抵抗を使えばいいと思うかも知れませんが,可変抵抗も抵抗ですから電圧が変われば電流も変化します。加えて,吸い込んだ電流は熱になりますが,一般的に可変抵抗は,そうした熱を放熱出来ずに壊れてしまいます。

 もっというと,大きな電流を引っ張り込むためには,発生する膨大な熱をうまく発散させねばならず,そのための仕組みが抵抗だけではとても難しいということです。

 ということで,前置きが長くなりましたが,趣味で電子工作をやる人間にとっても,電子負荷があるとどれだけ便利で安心か,お伝えできたかと思います。

 では,「理想負荷」としての「電子負荷」は,どういう原理で動く物なのでしょうか。これは,電流を制御出来る素子,つまりトランジスタなりFETなりに電流を流すということと,その電流が一定になるよう,トランジスタを制御する回路をくっつけた物です。

 負荷に直列にトランジスタと電流検出抵抗を入れて電流を流します。電流検出抵抗の両端には電圧が発生するので,これをOP-AMPに戻してやり,基準電圧との差がなくなるように,トランジスタを制御します。これで一定の電流が流れてくれますね。そして基準電圧を可変してやれば,その電圧との差がなくなるように動きますから,電流が可変出来るようになるわけです。

 原理は簡単なのですが,市販品はとても大げさで高価です。電子負荷は概して大きな電圧を扱えて,かつ大きな電流を吸い込むことが出来るものが多いのですが,仮に30Vで3Aという,そんなに大きくもない電子負荷を作ろうとすると,実に100Wの熱をどこに捨てるかを考えないといけなくなります。これが,60Vで15Aなんて話になると1kWというトースターやホットプレート並の熱を長時間安定して,かつ安全に捨てることが出来ないといけないのです。

 私たちはアマチュアですので,そこまで大きな電力を扱う事はあまりありません。本業ではない我々が,本気の電子負荷を持つことはとてもしんどいことです。あれば便利なことは分かっていましたが,さすがの私も躊躇していました。

 ところが,小さい物でいいから電子負荷があったらなあと思っていたのは私だけはなく,世界中のホビーストが考えていたことのようで,SHOP-Uで売られていた「Re:load 2」も,そんな人が作った海外のキットでした。

 詳しい説明は,

http://www.arachnidlabs.com/blog/2013/02/05/introducing-re-load/

 を見て頂くとして,なかなか工夫のされている,真面目な面白いキットだと思いました。

 原理は先程書いたように比較的単純ですが,その分部品の選び方は結構難しいものです。

 設計者は,そこにきちんと根拠を与えて,部品を選んでいます。いいですね。

 まず,電力を熱に変えるデバイスには,MOS-FETのBTS117を選んでいます。BTS117は単なるN-chのMOS-FETではなく,そこに熱,過電圧や過電流,ESDの保護回路が入った一種のICです。大電流を扱う回路では,破壊や熱暴走が心配で,ここでヘマをすると命にかかわることもあります。

 BTS117やその大電流版であるBTS141は,そうした保護回路を内蔵することで,特別な配慮を必要とせず,安全なMOS-FETとして簡単に行うことが出来るという優れものです。

 今回使うBTS117の最大定格は,VDS=60V,ID=3.5A,P=50Wです。パッケージはおなじみのTO-220ですが,フィンが絶縁されていないので取り付け時は注意が必要です。

 そしてこのデバイスの便利なところ,サーマルプロテクションは150℃で動作するそうです。電流リミッタは7Aで動作という事で,安全対策もばっちりです。(実際,この保護回路のおかげで私は何度も救われています)

 そしてOP-AMPです。ここはなんでもいいように思うかも知れませんが,とんでもない。電流を引っ張る相手から動作用電源をもらえると便利ですが,その場合出来るだけ低い電圧から動作するOP-AMPでないとダメです。

 しかも,0Vから電源電圧まで,ギリギリまで出力の電圧が振れないと制御範囲が確保できません。いわゆるRail to RailというOP-AMPが必要なのです。

 また,出力電圧が制御に使われる関係で,オフセットが大きかったり,変動が大きいと問題です。だから,交流特性よりも直流特性の良い,低電圧動作のOP-AMPが必要になります。

 設計者はここに,MCP6002を使っています。なるほど,今回の目的ではぴったりなようです。電源電圧が6Vまでという制約はつきますが,もともとOP-AMPの電源用に三端子レギュレータ(LP2950)が用意されていますので問題なしです。
 
 とまあ,たったこれだけの回路でも,それなりに考えて部品を選ばないと失敗するわけで,その結果をキットにしてくれているととても便利です。これが基板や放熱器までついて$20,私が買った値段でも3000円ですから,安い物です。

 ギックリ腰やFMブースターのことでなかなか取りかかれなかったのですが,先日からようやく製作を始めました。

 まず,基本方針を決めましょう。電源の供給を外部にするか,内部で済ませるかを考えます。先程書いたように,電流を引っ張る相手からOP-AMPが動作する電源をもらうと便利になりますが,それではOP-AMPの動作電圧を下回る場合,動いてくれません。またLP2905という三端子レギュレータが壊れてしまう30V以上の電圧もかけられません。

 そこで,OP-AMPには他から電源を供給することにします。こうすると相手の電源電圧に無関係となりますから,0V付近からBTS117の定格である60Vくらいまで,印加できるようになるわけです。

 ただし,外部から電源が取れない場合も想定し,セルフパワーで動作するモードも用意しておきます。3.5V以上30V未満という入力の制約がつきますが,動く事が重要です。

 その電源ですが,嫁さんが持っていた携帯電話充電用のACアダプタをパクってきて使う事にします。いやなに,嫁さんは使い方が荒っぽいので,コネクタの根っこの部分が破れて,銅線がむき出しになっていたんです。修理しようと預かったのですが,コネクタをうっかり割ってしまい,修理不能になりました。

 嫁さんには「すで手遅れだった」と伝えて,こちらで処分することにしたのですが,これに普通のACアダプタのプラグを取り付けて再利用しようと,まあそういうことです。

 さて,これで5Vの電源は確保出来ました。ただ,こういう勝手なことをすると,またACアダプタの極性を逆にして壊したりしますので,ダイオードを一発いれて逆接続から保護しましょう。ついでに,このACアダプタは5.7Vですので,ダイオードを入れればちょうど5Vになって,好都合です。

 次に電圧計と電流計です。必ず必要となるものですから,内蔵できればとても便利です。ここにはSHOP-Uで売られている電圧計と電流計が1つにまとまったものを使います。でも,これが後で足を引っ張ることになるのです。

 電流調整用のボリュームは10kΩです。他の値のものなら信頼性の高いものが手持ちにあったのですが,回路図を見ると抵抗値の可変範囲がけっこうきっちり計算されているようなので,ここは素直に10kΩにしておきます。

 残念ながら密閉されていない16型のものしか手持ちはなかったのですが,これがかつて多回転型に交換した安定化電源器の電圧調整用ボリュームでして,そんなに悪い子のもなかろうということで,使う事にします。

 ケースは,リードのMB-3です。ちょっと大きいのですが,放熱器とパネルメータの取付を考えると,このくらいがいいところでしょう。デザインは無骨で面白くも何ともないのですが,安いからいいとします。それにしてもこんなものまで秋月で買えるようになってるとは,驚きです。

 さて,最大の問題である放熱についてです。同梱の放熱器は12Wが最大という事ですが,BTS117の最大定格は50Wですので,本来の実力は20Wくらいまではいけそうですし,もっと頑張れば30Wくらいまで頑張ってくれるかも知れません。20Wといえば12Vで1.5Aですから大したことではないように思いますが,安定してこの電力を吸い込むのはなかなか大変なことです。

 大きめの放熱器,出来れば空冷ファンもついていると安心なのですが,そういうのってCPUクーラーがぴったりです。しかし残念ながら,昔は売るほどあったクーラーも処分してしまい,手元には残っていません。

 悔しいのですが,放熱器も秋月で買うことにします。54x50x15mmのヒートシンクが110円でしたので,これにします。もうちょっと大きいといいんですけど,仕方がありません。

 このヒートシンク,スペックシートをみていると,熱抵抗が5.6℃/Wです。非常に乱暴な計算をすると,20W突っ込むと112℃の上昇があるわけですが,グラフをみていると20Wでおよそ90℃です。まあこのくらいがこの放熱器の限界でしょう。

 てことで,ざっくり熱周りの計算をしておきます。BTS117の放熱器なしの熱抵抗は75℃/Wだそうです。ということは,ざっと2Wで150℃になるわけですね。こりゃひどい。

 そこで放熱器を付けた場合を計算します。BTS117のジャンクションからフィンまでの熱抵抗は2.5℃/Wです。これに今回の放熱器の熱抵抗5.6℃/Wと,絶縁シートの3℃/Wを加算すると11.1℃/W。ざっくり11℃/Wが今回の熱抵抗です。

 なになに,10Wで110℃。15Wで165℃!あかんがな。

 ということは,周囲温度が25℃のとき,150℃になるのは11.3Wですか。うむー,全然ですね・・・

 おかしいと思うので,放熱器のスペックを,グラフから読み取ったものにします。これによると,80℃の上昇で16Wですから,熱抵抗は5℃/Wです。これで再計算するとトータルの熱抵抗は10.5℃/Wです。おまけして10℃/Wとして。周囲温度25℃のとき150℃になるのは12.5W・・・結構かなしいですね。

 てなわけで,連続使用可能な電力は,とりあえず10Wとしておきましょう。短時間で,かつ気温が低いときは実力で20WはOK,25Wでも短時間なら大丈夫なのですが,長時間の使用では危険なので,やっぱり10Wですね・・・

 ところで,ファンがついているCPUクーラーなんかだと,これが0.45℃/Wくらいになったりするそうです。ということは,トータルの熱抵抗は約6℃/W。周囲温度25度のとき150℃になるのは,20.8Wになります。おー。

 ようやく20Wを越えました。強制空冷,伊達じゃないですね。でも,逆に言うとこのくらいの放熱能力で大丈夫なのかなあ。CPUって,35Wとか50Wとか,それくらいのTDPだったように思うのですが・・・

 まあいいや,今回の計算結果をふまえて,ファンの取付を前提に考えてみましょう。ただし,実験して効果がなかったらやめます。

 基本方針が決まったので,ケースに穴を開けていきます。放熱器に3mmのネジを切り,ケースに取り付けます。

 パネルメータの角穴もあけて,2時間ほどで完成です。味も素っ気もないケースですので,いつものようにプリンタで正面パネルに張り付けるステッカーを印刷し,張り付けます。

 あとは部品をケースに取り付け,基板も固定して,配線をして終了です。気をつけないといけないのはFETと放熱器で,前述のように絶縁をしないといけませんので,ブッシングをFETのフィンにはめ込み,ここにビスを通して直接触れないようにします。そして背面には絶縁シートをはさみ,固定します。最後にテスターで導通していないかどうかを確認します。ここでミスをすると,FETや基板がぶっ壊れます。

 3Pのトグルスイッチを使って,外部電源モードとセルフパワーモードを切り替えます。もともと外部電源動作専用で作るつもりでしたが,それでも電源スイッチは必要になりますから,せっかくですので電源OFFの時にはセルフパワーで動くように工夫してみましょう。

 そのために3Pのトグルスイッチを用いるわけですが,ややこしいのはパネルメーターです。パネルメーターの説明書によると,外部電源モードとセルフパワーモードとで配線が違うとかかれています。具体的には,パネルメーターのGNDの配線を,外部電源モードでは配線をしないといけないのに,セルフパワーモードでは配線せずにオープンにしておく必要があるのだそうです。

 そのため,3Pのスイッチでは切り替えが出来ず,2階路3接点の6Pスイッチが必要になりますが,あいにく手持ちがありません。というか,あるにはあったんですが,壊れていました。

 しかし,パネルメーターのGNDを,常に配線しておいても動くんじゃないかと勝手に妄想して,3Pスイッチで進めます。(しかしこれが甘かった)

 配線をさっさと済ませて,まずはセルフパワーモードで動作させます。電源器を繋いで見ますが,パネルメーターが動きません。これは単純な配線間違い。さっさと修正して動かすと,おお,ちゃんと動きました。どんどん電流を吸い込んでいます。

 あれ,パネルメーターの電流の値が随分ずれています。3割も狂っていたら話にならないです。そこで,GNDの配線をオープンにしてみたら,ほぼぴったりな値になりました。ということは,やっぱりセルフパワーの場合にはここは配線したらダメなんですね。

 しかし,外部電源モードではGNDに配線しないといけないのですから,やっぱり2階路のスイッチがいるんですね。困った。

 スイッチを買うことも考えましたが,せっかく穴開けも取り付けも済んだのに違うスイッチを付けるのも面倒です。そこで,今回はリレーを使う事にします。秋月で売っていた100円弱のリレーを使います。このスイッチはリレーを動かすだけのスイッチとして動き,肝心の切り替えはリレーで行うわけですね。

 そうと決まればさっさと回路変更です。

 それにしてもリレーの「カチ」という音はいいですね。なんかやる気になってきます。

 配線完了。試して見ます。まずはセルフパワーモードですが,これは問題なし。電流計も電圧計もちょうどいい値を示しています。次に外部電源モードです。切り替えは小気味良く,まるでスポーツカーのシフトレバーのようです。

 あれ,電流計の値がおかしい。狂っています。まずは配線ミスを疑いましたが,どうも正しい様です。もしや,と思いリレーを介して繋がっているGNDをオープンにしてみたところ,ばしっと正しい値が出てきました。

 なんと,このパネルメーターは,どっちのモードでもGNDはオープンにして置く必要があるようです。騙された-。

 そうなると,もうリレーは必要ありません。3Pのスイッチだけで事足ります。また配線を戻し,今度こそ完成です。

 これで,外部電源モードとセルフパワーモードの両方で,同じ動作をすることが確認出来ました。さらに確認を進めて,外部電源モードでは0Vから動作することも確認,1Vで2Aを吸い込むことも出来ています。そして現在の所,12Vで1.5Aまでは,自然空冷だけでなんとか動作している感じです。

 と,ここまでで製作編はおしまいです。

 続きはチューンナップ編,目標30Wを目指して,試行錯誤をします。

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