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ほんまかいな,1万円のオシロスコープ

 先日,セールの終わったamazonをだらだら見ておりますと,10999円でポータブルオシロが出ておりました。ああ,よくある自作キットに毛の生えたやつね,と思っていたのですが,よく見ると帯域120MHz,500Msps/sと,ちょっと気になる記述が。

 詳しく見てみると,1chしかないとはいえ,本当に120MHzの帯域で最大500Msps/sとあります。BNC入力で付属品に1:10のプローブが1本ついてきますし,もちろん今どきのポータブルですのでリチウムイオン電池内蔵でバッテリー駆動です。

 これが1万円?ほんまかいな?

 ついでいうにと,違う業者からだと思いますが,派生品と思われる120MHz,300Msps/sのものが3万円で同じページに出ています。

 私は,これまで,オシロスコープなどの測定器は結局入力のフロントエンド部分のアナログにお金とノウハウが必要で,ここが適当で済むものなら安くなるが,ここをきちんと作らないといけないものは値段が下がらない,と信じて生きてきました。

 実際,今でも200MHzと500MHzの価格差は大きいですし,2chと4chの価格差も大きいです。お金をかければ性能アップ,逆にある程度の性能を期待するならお金をかけずに済ませられないのがアナログ回路で,これは今も昔もそれほど変わりません。

 ですが,120MHzで1万円です。これ,本当だったら価格破壊もいいところですよ。仮に中古でも安いと言えるでしょう。

 1chというのが惜しいですが,この帯域を持っていればアマチュアの作業の大半はこなせます。20年前なら10万円以上の出費は必要だったでしょう。(私は30年前,100MHzの2chのオシロに20万円の予算を組みました・・・)

 同型機はAliexpressでも売られているようですが,それでも日本円で11000円以上します。一体どうなっているのかわかりませんが,こういうものは買って試してみたくのが,これ人情というもの。無駄遣いと分かっていますが,意識が戻ったら手元に届いておりました。

 先に書いておくと,面替えを含めた同型機はすでに2019年頃から出回っており,アメリカあたりでは$70程度で手に入っていたようです。現在のレートなら9500円ほどですから,この金額は別に誰も損をしていないようです。

 さらにいうと,当時からすでに評判は悪かったみたいで,後述する私の指摘はすでに過去に散々語られたものであることも付け加えておきます。

 ・・・さあ,開封です。

 まず,小さいです。もっと大きなものを勝手に想像していましたが,本体も画面の大きさもゲーム&ウォッチくらいのものでした。ただ厚みは3cmくらいはあります。質感は低く,1万円でも高いと思わせるものでした。

 動かす前に,さっと仕様の確認をしておきましょう。帯域幅120MHz,500Msps/sのサンプルレートを持つ,1chのオシロスコープです。垂直感度は50mVとありますので,なんと以前購入したHO102の100mVよりも良好ですが,一般的なちゃんとしたオシロスコープが10mVであることを考えると,まだまだです。(しかもあとでわかったことですが,レンジとしては100mVで,50mVというのはソフトで処理しているらしく,実力は100mVです。なんじゃそりゃ)

 起動は下部にあるスライドスイッチで電源をONすることで行います。電源OFFもこのスイッチで行いますが,特に終了処理を行うものではなく,本当に電源をカットするものだと思います。

 トリガはオートとノーマルとシングルなのでこれはごく普通。トリガのレベルは設定可能ですし,スロープも立ち上がり/立ち下がりどちらも設定可能なので,これはまあそれなりでしょう。トリガは機能や仕様もそうなのですが,実際の使い心地を決めるのはその切れ味です。先人の解析によるとトリガはソフトウェアで行っているそうで,切れ味は期待出来ません。

 なにより問題なのは,使ってみると分かるのですがトリガのかかる条件がちょっと特殊です。ソフトウェアでトリガをかけるからだと思うのですが,1画面分の取り込みの中で,トリガレベルを横切ったものを表示する仕様になっているらしく,1画面内でトリガレベルを横切らないような場合にはトリガがかかりません。

 これはもう論外で,もし私の推測が正しいなら,トリガがなんたるかを全く理解していません。切れ味云々以前の話です。トリガがまず最初にかかって,その後に画面に表示されるからこそ,波形の変化部分を拡大して見ることが出来るわけで,それが出来ないというのは話にならないと思います。

 測定はあらかじめ設定しておいた電圧や周波数は表示されますが,なんとカーソル測定がありません。これも言語道断です。立ち上がり時間や特定のパルスの幅を測定出来ないなんていうことになると,オシロスコープとしての使い道が極端に狭まります。

 さらに致命的なのは,設定の記憶です。画面の明るさやBEEP音などの初期設定は覚えておいてくれるのですが,x10やDCカップリングといった設定や,垂直軸のオフセットやレンジといった操作上の設定が電源を入れ直すとリセットされます。せめてユーザーセッティングのセーブとロードがあれば毎回の起動時にロードする手間をかけても設定が復帰出来るのでまだましなのですが,スカッと消えてしまわれれば,実使用上かなり厳しいです。

 付属品ですが,100MHzでも1本1000円という激安プローブで知られたTP6100という中国製のプローブの,さらにコピーと思われる素性の分からない程度の悪いプローブがついてきました。

 一応矩形波による調整は出来たので故障はないと思いますが,本当に100MHzの帯域を持っているのかどうかは怪しいです。

 さて,問題の周波数帯域です。一応内蔵された発振器による1MHzの矩形波は綺麗に見えましたので,10MHzくらいの帯域はあるようなのですが,先人の解析によると30MHzがいいところだそうで・・・

 私が実際にSGから入力を入れて確認してみると,-3dBになる周波数は36MHzでした・・・

 まあ,そりゃそうか,1万円で本当に120MHzだったらすごいなと思いましたが,そんなはずはあるわけなく,実力は35MHz程度ということでした。もうここまで嘘だとすがすがしいですよね。

 しかしこれも考えようによっては,100MHzのオシロでも20MHzの帯域制限を設けて低い周波数の観測を行いやすくする機能があるくらいですから,もともと30MHzで帯域制限されたオシロスコープだと思って使えば,5MHzくらいのクロックの古いシステムだったら十分にデバッグ出来るのではないでしょうか・・・

 この時気が付いたのが,周波数表示の誤差の大きさです。10MHzを入れたら10.8MHzと測定値が表示されるのですが,これって8%もの誤差があります。これだと40MHzを突っ込んだら43.2MHzとなるわけで,もう違う周波数を示しているといっても言い過ぎではありません。消費税かいな!

 スペックで規定された誤差は6%で,これもかなり大きいなあと思う訳ですが,そのスペックさえも満たしていないというのは話にならんという感じです。

 そうなると垂直軸の誤差も気になります。5Vを突っ込んでみたところ,表示された電圧は4.75Vでした。誤差5%ということで,一応スペック内に入っていますが,5Vで4.75Vというのはちょっと現実的には厳しい感じがします。

 そして500Msps/sというスペックですが,これも嘘っぽいです。波形の取り込みをSTOPしてから波形を拡大する機能がない(これはこれで話にならない)ので直接確かめる方法がなくはっきりしないのですが,先人の解析でも使われているADコンバータがAD9288のクローンなので最高でも100Msps/sが限度で,ICのランクによっては80Msps/sや40Msps/sというものもあるので,最悪40Msps/s程度の可能性もあると思います。

 しかし,説明書に「ソフトウェアによる500Msps/s」とありますので,等価サンプリングを行っているのは間違いないと思います。実際,50MHzの正弦波も正弦波として表示出来ていましたから,100Msps/s以下でのサンプリングということはないと思いますし,一方で12MHz程度の矩形波も矩形波っぽく表示されているので,60Msps/s程度の実サンプリングが行われていると考えて良いように思います。

 ということで,まとめてみると,帯域幅は35MHz程度,誤差は大きい,波形そのものは35MHzの範囲であれば意外にまとも,でした。

 しかしトリガは全然だめで,1画面取りこんで変化する部分があればそこでトリガ,という仕組みでは掃引速度を上げて取り込むことで変化部分を拡大するというアナログオシロスコープのころから当たり前のように出来た事が出来ませんし,かといって取りこんでから拡大というデジタルオシロで当たり前のことも出来ないのでは,変化部分を見ることが出来ないオシロスコープということになってしまっています。

 さらにいうと,強制同期でとにかく波形を出すということも出来ず,波形が全然出てこないということになると,波形が出ているかどうかもはっきりしない訳ですから,これはもう強制同期式の昔々のオシロ以下,ゴミレベルです。

 それでも,ファームウェアのアップデートがあれば改善されてるかもと期待したのですが,先人の解析によるとMCUがロックされており,ファームウェアの書き換えは出来なくなっているとのこと。それでも彼はオープンソースのファームウェアを作って公開するという強烈な仕事をやってのけていますが,これも新品のMCUに載せ替えるという作業が先に必要です。

 よって派生機種やコピー機種が多数あるにもかかわらず,ファームウェアのアップデートは出来ず,大改造をしない限りはこのまま使うことを余儀なくされます。

 これは,大失敗かも。1万円を本当に無駄遣いしたかも知れません。

 正直に言って,途中でやる気が失せて評価や確認作業を一度打ち切ってしまいました。これは3000円でもいらないです。

 そんなことを言っていても仕方がないので,なんとか使い道を考えます。まず電池駆動で小型ですので,フィールドで使える事は間違いないでしょう。帯域はそれでも35MHzほどありますからクロックで5MHzや8MHzくらいならなんとか見えるでしょう。ただし波形の拡大は出来ないので,立ち上がり時間などは観測出来ませんが,よく考えたら帯域が30MHz程度では立ち上がり時間の測定など最初から出来ないので,そこは割り切りです。

 クロックが発振しているか,PWM出力が出ているか,GPIOが動いているかなどの確認は出来そうですが,これまで散々述べたように,トリガの制約からキャプチャされない理由が信号が来てないからなのかトリガをかけ損なっているからなのかがわかりませんので,確認には使えません。うーん。

 カーソル測定が出来ないので周期的な波形の観測に限定されるとして,それだともうオーディオ帯域の観測にしか使えません。つまり3000円ほどで売っているキットのポケットオシロか,PCのオーディオ入力を使ったソフトオシロで出来る事しか出来ないでしょう。

 テスタ代わりに電圧や時間の測定に使おうと思えば誤差が大きすぎるのでこれもアウト。

 うわー,これはホントにゴミですわ。私が買う前に残り7台,その後ずっと6台残ったままになっていることからも,そのゴミっぷりがうかがえます。みんなよく知っていますねぇ。

 ちょっと小さめの扱いやすいサイズで帯域が35MHzというあたりをメリットと考えて使い潰すしかありません。

 ということで最後に,実測した波形です。Si5351Aを使って作成した12.288MHzを,比較的まともなオシロスコープであるHO102と比較してみました。左側が今回のオシロスコープ,右側がHO102です。

 20230310142314.JPG

 HO102は帯域制限なしで,オーバーシュートもアンダーシュートも比較的良く見えています。周波数測定も波高値も十分実用になる精度だと思います。

 これに対して今回のオシロスコープはというと,波形そのものは30MHz程度で帯域制限がかかっていると考えればそれなりに頑張っていると思いますが,周波数表示は13.3MHzと8%もの誤差があります。

 ただ,12.288MHzでちゃんと矩形波っぽいものが出ていると言うことなので,実サンプルレートはその4から5倍くらいはありそうです。このあたりを頭にいれて使う分には,結構使い道があるかも知れないです。

 

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