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2008年03月18日の記事は以下のとおりです。

D-70完全復活への道

 先々週の土曜日から,D-70のオーバーホールをやっていました。

 考えてみるとD-70が登場したのが1991年,今年でもう17年にもなるんですね。この間のシンセサイザーの進歩って意外なほど少ないなあと思ったりするのですが,それでも17年です。毎週必ず持ち歩いていたシンセサイザーですので,もうガタガタです。

 しかし基本的に物持ちのいい私のことです。鍵盤をへし折ってしまったりタバコを落として焦がしてしまったり,ピッチベンダーのレバーを折ってしまうというような,定番の破損は全くありません。20年前に買ったD-20だって実家で健在です。

 ところが,D-70にはとても悔しい経年変化があります。

 キーの下側に付いているウェイトが剥がれてしまうのです。

 そう,単純に金属のおもりが外れてしまうだけなら良いのですが,D-70の場合はもっと致命的です。エポキシ系の接着剤で貼り付けてあるのですが,この接着剤が経年変化で溶け出して,まるで飴のようにウェイトと一緒に垂れてくるんです。

 この接着剤が非常にくせ者で,固まったり乾いたりしないので,いつの間にやらキーボードの下にたまっていたり,内部に広がったりしているのです。

 目に見える白鍵は言うに及ばず,隠れている黒鍵も同じように溶け出しているようで,ネバネバと粘度を持つこの接着剤のなれの果てが内部で他の部分とくっついて,私のD-70もいくつかの鍵盤が上がってきません。

 ほっとけばほっとくほど被害が広がり,白鍵のウェイトが4つまで剥がれ落ちた時,私は決意しました。何とかせねば・・・

 D-70はキーが外れやすいので,何度か自分で修理した事があります。分解そのものは慣れた物なのですが,76鍵ですのでそれなりに場所がなければ作業が進みません。

 まず裏返して,メイン基板とオーディオ基板,カードスロット基板を外します。その後キーボードユニットを外します。

ファイル 184-1.jpg

 キーボードユニットを固定しているネジは上部のフレームに4箇所,左右のプラスチックの部分に2箇所と,あの重さと衝撃を支えるにはどう考えても役不足だと思うのですが,冷静に考えるとキーボードは底板に多くの太いネジでしっかり固定されます。ということは,底板を取り付けずにねじったりすると,簡単に壊れてしまう構造なんですね。注意しなければ。

 せっかくなので基板の写真を撮っておきます。これはメイン基板です。

ファイル 184-2.jpg

 横幅がちょうどラックマウントケースにぴったりなので,このまま音源モジュールに出来るのではないかと思ったくらいなのですが,それなりの回路規模なようです。

 真ん中の四角いのがメインCPUで,インテルの80C196KBです。その右側に縦長にマウントされている3つのQFPがどうもSuperLA音源チップのようです。その下側にはエフェクト用のチップとDRAMがあります。さらに右側には波形を取り込んだROMがあります。全部がとは言えませんが,おそらく4MビットのROMですので,これが6つで24Mビット。ざっと3Mバイトの波形メモリです。

 CPUの上側にはおそらくMIDIインターフェースに関係すると思われるICがあります。その左側にはメインCPU用のメモリです。8ビットバスのROMを2つ使い16ビットバスに合わせています。

 変更のあったEPROMが2つとマスクROMが2つありますが,その下側に256kビットのSRAMが用意され,各種の不揮発データが格納されています。下側にあるコイン電池がバッテリバックアップを行っています。CR2032です。

 その左側にはメモリカードのインターフェース,下側にはおそらくキーボードインターフェースを司るICがあります。

 そうそう,基板の右上に白いケースに入った大きな部品がありますが,実はこれ,LCDのバックライト用のインバータです。D-70のLCDは東芝製のモジュールなのですが,バックライトが搭載されたものです。この時期の,このくらいの大きさのLCDに使われていたバックライトがELです。

 昨今の有機ELとは全く違うもので,こちらは無機ELです。輝度が低く,寿命も短いのですが,薄くて手軽だったこともあり,よく使われました。

 D-70は使用中に「チー」という音が耳障りなシンセサイザーなのですが,その音はこのインバータから出ています。困ったものです。

 こうしてみると,音源チップは多くが富士通製,マスクROMはシャープと東芝が供給しています。海外製の主要半導体はCPUと,アナログボードにあるDAコンバータくらいのものでしょうか。

 さて,修理作業です。まず最初に方針を立てるのですが,76個すべての鍵盤の接着剤を剥がして接着し直すのが一番いいのはわかるのですが,さすがにそれは大変です。しかし,いつ接着座卯が溶け出すかわかりません。

 そこで,鍵盤にシリコーン樹脂のコーキング剤を充填することにしました。ちょうどお風呂用のものが余っていたので,これでいきましょう。接着剤が溶けてしまっても,最悪外に出てくることは避けられるでしょう。

 そうと決まれば分解開始です。キーボードユニットからキーを取り外します。ユニットを裏返し,両面テープで接着された固定用のプラスチックを外して,キーを手前に少し引っ張れば「パチン」と外れてくれます。ステンレス製の板バネをなくさないように注意します。

 白鍵だけではなく黒鍵も同様に外れます。こうして76個すべてを取り外すのですが,予想以上に被害が大きいことに愕然とします。

ファイル 184-3.jpg

 これはある黒鍵の裏側なのですが,中からウェイトが出てきてしまっています。もちろん接着剤も外に溶け出していて,垂れています。おかげで鍵盤が上がってこず,しかも衝撃吸収用のフェルトもダメにしていました。基板にもついています。

 こうやって外れてしまっているものは完全に取り外して接着し直します。その上でコーキング剤を充填して乾くのを待ちます。

 何日か経過して確認すると,なかなか良い感じです。

 早速キーボードユニットを組み立てていきます。

ファイル 184-4.jpg

 あらかじめ接着剤が染みこんだフェルトを交換し,清掃を終えたフレームに,まず黒鍵を取り付けて,その後白鍵を取り付けていきます。これを延々繰り返し,76鍵全部取り付けたら,先程外した固定用のプラスチックを両面テープで貼り付けて完成です。

 これで修理完了と喜んで組み立てていきましたが,キーボードユニットを左右のプラスチックにネジ止めするときに,ネジロック剤を使ったところ,プラスチックが溶けて折れてしまいました。

 ポリパテと瞬間接着剤で修理・補強して再度組み立て。しかし,一部に音が出ないキーがあります。

 うーん,困った・・・そんなことを言っていても始まりませんので検討開始です。8個飛びに音のでないキーがありますので,これをヒントに調べていくと,キースイッチのフレキシブル基板のパターンが切れてしまっていました。接着剤が垂れてたまっていた部分が切れていたので,非常に深刻です。

ファイル 184-5.jpg

 わかりにくいですが,家にあるねずみ色のゴムがキースイッチです。カップの内部には,前後に2つの導電ゴムがあり,しかも奥側ゴムが手前側のゴムより下に飛び出ています。

 このカップを上から押すと,その押す速度の違いが奥と手前の接点がそれぞれ導通する時間差となります。こうして鍵盤の叩く強さを検出するのです。

 その下にあるのが,おそらく2素子内蔵のダイオードで,エポキシ樹脂で固めてあります。なぜこのダイオード必要なのか,面倒なので考えていませんが,配線本数を減らしていることには間違いないと思います。

 今回切れたパターンを修復するために,エポキシ樹脂を削ってダイオードの足を露出させ,細い線を直接ハンダ付けしました。裏側のコネクタにハンダ付けして,一応修理は出来ました。試してみると,一応すべてのキーで音は出ます。

 今度こそと組み上げてみますが,今度は1つだけ音が出ない部分があります。キーを取り外して直接ゴムキーを押せば音が出るので,どうもキーの組み付けがまずかったようです。

 なんどかそうした調整を繰り返し,とりあえず完成。やや不安があるのは仕方がありませんが,鍵盤が壊れたシンセサイザーはもう捨てるしかないので,直ってよかったです。

 そして最後に,バッテリバックアップの電池を交換して終了です。

 何年かぶりにD-70を演奏してみましたが,今にして思うとかなり個性的なシンセサイザーです。相変わらず細かい泡のようなJP-STRINGSは秀逸ですし,いかにもLA音源というベルやチャイムの音も健在。

 U-20の上位機種として生まれながらも,マーケティング上の問題からDシリーズの頂点となった異端児D-70は,特に歴史刻まれることなく忘れ去られた機種の1つではありますが,私にとってはやはり思い出深いシンセサイザーで,何が何でも修理しなければと言う重いも強くありました。

 シンセサイザーを維持するのは,自分でメンテが出来るか,もしくはメンテできる人を確保できるか,そのいずれかの能力を持つ人しか基本的には許されません。少なくとも自分が持っているシンセサイザーについては,きちんと修理が出来るようになっておこうと,そんな風に思います。

 ちなみに,これをきっかけに他の音源モジュールのバックアップ用バッテリも交換しておきました。

 VintageKeysPlusは,BR2320というちょっと変わった電池が使われていましたが,無理矢理CR2032を取り付けました。D4はタブ付きのバッテリが直接ハンダ付けされていたので,これを取り外してソケットを取り付け,CR2032をはめ込みました。

 A-880とMatrix1000はCR2032に交換するだけです。これでもう5年は安心です。

 残念なのは,エフェクタのSE-50の電池が切れていて,メモリが吹っ飛んでいたことでしょうか。まあ,ノイズまみれのエフェクタですので,余り出番はありませんから,これはこれでいいとしましょうか・・・

 あとは実家のシンセサイザーをどうするか,ですね。もう電池が切れているだろうなあ。

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