エントリー

2024年06月の記事は以下のとおりです。

RealForceのキートップ交換でUS配列に

20240626203105.jpg

 私が現在愛用しているキーボードの1つに,東プレのRealForce(89U,テンキーレス)があります。

 おそらくもう20年は使っていると思いますが,相変わらずPCを使う時の相棒です。時々掃除をする程度ですが,故障がないのはもちろん感触の変化もそんなに感じません。

 仕事に使うキーボードを選ぶにあたって,どうしても静電形の感触が忘れられず,選んだのがRealForceでした。当時としては高価な2万円だったと思います。(ちなみに買ったのは今はなき秋葉原のクレバリーでした。合掌)

 静電形と言うことになると,HappyHackingKeyboardがもう1つの選択肢となるわけですが,これはコンパクトで格好良く,しかもUS配列ですのでかなり迷ったのですが,更に高価だったことに加えてカーソルキーなどの特殊キーは残しておきたかったこともあって,RealForceのテンキーなしになりました。

 ただ,当時のRealForceのテンキーなしモデルには,USキーボードの配列がなく(もともとなかったのかお店で扱ってなかっただけなのかわかりませんが,どっちにしてもそのとき選べなかったことは確かです),本当はUS配列が欲しかったのに,日本語配列でもどうにかなるだろうと,諦めてJISキーボードモデルを買ったのでした。

 20年も使うと,こんな風に黄ばんできます。キーの表面も減ってテカリが出てきています。なんやかんやで一番長く付き合っているのが,仕方なく選んだJISキーボードというのも,人生どうなるわからんもんです。

 20240626084243.jpg

 これまでにも書きましたが,USキーボードにはJISにはない特徴があり,慣れの問題とは言いながらも私はやっぱりUSキーボードの方がしっくりきます。

 括弧は()も[]も{}も,左右に並んでいるのがいいです。JISは[]と{}が上下なので面倒です。()もUSはJISに比べて1つ右にずれていますので,実はJISとUSで同じ指ではタイピング出来ませんし。

 ;と:をSHIFTで打ち分けるというのも心地よいですね。その点で言えば'と"も同じです。ああ,=と+も-と_も\と|も同様です。

 そして真打ち,@です。@など昔は出番のない記号だったのに,atと発音が同じという理由で今や引っ張りだこ。毎日のように使う記号だけに,さっとSHIFTを小指が押してから「ああこれはJISだった」とはっとすることも多く,やっぱりUSキーボードの方が楽だなあと思います。

 一方で,USキーボードにはRETURNが1段分の高さしかないことが私には不満で,JISのように大きな面積のキーでもいいと思っています。海外のマシンにもそういうキーボードは多かったですしね。

 なにより,JISはキーの数が多すぎます。そんなに使いません。日本語の変換にかんするキーが多すぎて,スペースバーが小さくなっています。これじゃスペースキーじゃないですか。スペースはバーであるべきなのです。

 しかし,Windowsはキーボードを切り替える機能がありません。macOSは差し込んだキーボードごとに配列を覚えておいてくれるのですが,Windowsにそんな気の利いたことを期待するのも間違っています。

 だから,PCはJISで,それ以外はUSでという棲み分けが私の中にはずっとありました。

 しかし,先日からUSキーボードを改めて使ってみると,やっぱり使い心地がよいのです。気になって調べてみると,今はJISとUSを一発で切り替えられるアプリケーションがフリーで存在することもわかりました(ULE4JISと言います。素晴らしいソフトをありがとうございます>作者の方)

 HappyHackingKeyboardProはさらに高価になり,今や3万円を越えるキーボードになってしまいました。そこで,RealForceを和洋折衷のキーボードにするべく,ちょっと改造を考えてみました。

 といっても大した事ではなく,HappyHackingKeyboardProのキートップを,RealForceに移植するだけです。ひらがなの刻印がなくなり格好良くなるだけではなく,@や;いったキートップもUSのものになります。

 そんなキートップを都合良く買えるのかというと,これが簡単に買えます。PFUの直販サイトで7000円弱です。昔は4000円ちょっとだったと思うのですが,これも値上がりしましたね,仕方がないことですが・・・

 RealForceとの互換性ですが,全く問題ありません。接続部分も大きさや厚みなども全く同じですので,交換可能です。

 ただ,特殊キーの一部やスペースバーについては大きさが異なるので,これは交換出来ません。あと,グレーの色合いが異なるので,特殊キーは交換前後で色が変わってしまいます。一般キーのホワイトは同じ色ですので問題ありません。

 ということで,交換作業をさくっと終わらせます。

 どうですか,交換後のキーボードは。

20240626084627.jpg
 ・・・
 ・・・

 ・・・正直,あまり変わらないなあ。もっと格好良くなるかと思ったんですが,そうでもないですね。やっぱUSキーボードの格好良さは,Enterキーとスペースバーが「らしさ」を作るんでしょう。

 でも,使い心地は激変です。こっちの方が抜群に使いやすくて,自分はUS配列が体に染み込んでいるのだなあと思った次第。運転の上手な人は右ハンドルでも左ハンドルでも問題なく乗りこなしますが,私はそういう人ではないようです。

 残念なのは,まれにULE4JISがいつの間にかJIS配列に戻ってしまっていることがあり,再起動をしないといけなくなることでしょうか。なにがきっかけで戻ってしまうのかさえわかればいいのですが,これは注意しておかねばならないでしょう。

 そうそう,もう1つ大事な事を書き忘れていました。キートップを交換したら,キーの感触も改善し,まるで新品のような打ち心地になったのです。

 1つは表面がすり減って指先のツルツルした感じが元のようにザラザラになったことで,新品のような気分になったこと(キートップは新品ですから当たり前か),もう1つは,キーによっては音が静かになったことがあると思います。

 静かになる理由はわからないのですが,最近キートップの微妙な重さの違いや精度の違いが感触に大きく左右するのではという仮説を立てている私としては,すっと飲み込める現象です。

 まあ,それは気のせいかも知れないですが,キートップがすり減ったことを消耗した,あるいは劣化したと考えるならば,それを交換するのは正しいメンテナンスのあり方でしょう。20年も使えばそりゃすり減るものも無理はありません。

 キースイッチそのものが相変わらず元気というのはさすが東プレですが,本当は軸の部分などもメンテすると使い心地が甦るんだろうと思います。そこまでするかどうかは別として,すでに体の一部となったこのキーボード,黄ばみもすり減りも勲章として,今後も胸を張って使い続けていくんのでしょう。

 

素敵な17,PENTAX 17

 フィルムカメラを復活させるという,日本の大手カメラメーカーがやるようなことではないプロジェクトが立ち上がり,言葉は悪いですが半信半疑で眺めていた私は,先日そのプロジェクトが成就したことを知りました。

 PENTAX17の発売です。

 いやその,本気で驚いたというわけではなく,昨年の秋頃には多分出るだろうなあと思っていたのですが,こういうのって土壇場でコケたりするものですし,やっぱり発売にこぎ着けたことには素直に感動しました。

 うがった見方をすればですが,ちょいちょいプロジェクトの進捗状況を公開することで,上層部も含めて引っ込みがつかなくなくなるように,中の人が仕向けたのかも知れませんし,とはいえビジネスの現場は情でどうにかなるような甘いものでもないので,進捗状況の公開とそれに対する反応の良さがあったことは想像に難くないです。

 もちろん,一番頑張ったのは関係者で,それは技術的なことはもちろん,営業的な話,そしてなにより商品企画の話と,あらゆる面で逆風が吹く中,よくもここまでやる遂げられたと,拍手するしかありません。

 もう一度書きますが,好きだからOKとか,熱意があれば大丈夫とか,情熱は他人を動かすとか,そういう話が日本人は好きですが,それをやって会社が潰れたらなんにもならんわけで,ビジネスの判断というのは実にシビアです。

 でも,それでも,会社は人の集まりで出来ています。人間が人間の熱意に動かされないわけはなく,それぞれの立場の違いはあれど,みんな同じ景色を見ていたことが,なんともよい話ではないかと私は思います。

 こういうとき,あまり話に上りませんが,説得される側,つまり経営判断をする側の人も,きっとこういう話って大好きなはずです。でも,それだけではダメな立場にある人は,なんだかんだと上手くいく理由を考えて,この話を形にしたのでしょう。

 さて,今回登場した奇跡の一台,フィルムカメラの新製品「PENTAX17」ですが,これがまた往年のPENTAXファンを唸らせる,そんな実にニヤニヤするカメラになっています。

 表向き(でもないか)若い人向けということになっていますが,PENTAXも若い人だけではなく,きっとお金を持っている年寄りが懐かしいといって買ってくれることを期待しているのでしょう。そんな年寄りにも刺さる工夫があります。

(1)デザイン

 いや,これ,やっちまった,というやつだなと最初は思いました。だって,ファインダーが中央部にあるんですよ,眉間にしわを寄せたようなデザインは,違和感があるだけではなく,被写体が怖がるんじゃないかと,私はちょっと嫌悪感を持ちました。

 ファインダーを中央に持つカメラは別に珍しいものではなく,GR1だってそうですし,一眼レフはほとんどすべてがそうです。でも,ことさらそれを注腸するのはどうかなと思います。

 カメラのレンズは,人間の瞳を連想させると言います。ファインダーはレンズではありませんが,ガラス製であり,その向こうには本物の瞳があるという点で,実はもっとも視線を感じる部分じゃないかと思うのです。

 それがこれだけ被写体に主張されれば,やっぱり緊張しますよね。私がこのカメラを向けられたら,申し訳ないけどぎょっとします。

 小型で手におさまるサイズ,上面から見るとSPなどのオクタゴン(8角形)ですし,PENTAXらしい張り皮,右側のグリップは80年代を彷彿とさせます。

 背面のフィルムフォルダーも実にキャッチーですし,なによりカメラらしくレンズが一番偉いという主張がたまりません。

 しかしなあと思うのは,肩がすぼまっているデザイン,これって80年代のPENTAXにも良くあったデザインですが,単純に好みの問題でこれは好きにはなれません。

 あと,色も今ひとつ。シャンパンゴールドみたいなカラーは,90年代や2000年代を思わせますが,このカメラってそれがテーマなんですか,と問いたいところです。

 ここは重厚な塗りのブラックか,梨地のシルバーです。と書いていて思いついたのですが,GR1へのオマージュなら,肩がすぼまっていてもマグネシウム独特の梨地も許せます。色はもちろん,GR1と同じ,グレーがかったシルバーです。

 あー,これなら欲しい。


(2)ハーフサイズ

 最初に触れないといけないのは,なんといってもフォーマットの話,そうハーフサイズというやつです。

 昔々,オリンパスPENやリコーオートハーフなどで一定の支持を集めたハーフサイズですが,もともとフィルムが高価だったことから,倍の枚数の撮影が出来ることでお得感があり,それでよく売れたんだそうです。

 ですが,フィルムの値段が下がってしまえばハーフサイズのメリットはなくなり,むしろ画質の問題というデメリットが目立って来ます。

 あと,これは実感としての話ですが,往時の同時プリントの代金というのは現像代の大体500円くらい)に,一枚30円のプリントです。36枚撮りならざっと1500円ですが,このうち1000円がプリント代です。

 これがハーフで72枚撮りなら,実に2500円。1本フィルムを現像すると,2500円かかるわけです。普通の人は,現像とプリントの違いを明確にはせず,プリントも現像の工程の1つと思っています。それに現像だけに出来ると知っても,ネガを現像したところで全く写真を鑑賞出来ないので,話になりません。

 確かに,フィルム代と現像代はハーフサイズでも同じですので,1枚あたりのコストは半分になりますが,プリントはハーフサイズでも1枚あたりの金額は同じですから,枚数が倍になったらプリントの枚数も倍,従って代金も倍です。

 私などは,ハーフサイズというのは,むしろお金がかかるという印象しかなく,また現実的に72枚もの写真を撮りきるのが難しいことから,現像に出したいがために無駄なショットを増やすことになるという点で,なにか大切なものを失っているんじゃないかと思った記憶があります。

 もちろん,これは80年代,90年代の話です。今は同時プリントはしないのが普通ですし,フィルムの値段も60年代,あるいは70年代に匹敵するくらい高価になっています。手軽に現像に出せる環境でもなくなっているので,フィルムと現像のコストが下がる事は,むしろハーフサイズ全盛期よりも大きな意味を持つようになったと思います。

 加えて,フィルムの性能向上でハーフサイズでも十分高画質であること,フィルムの給装方向から縦長のフォーマットが標準いになることは,今だからこそハーフサイズであることが強みになるといってよいでしょう。

 縦長,もう普通になってますよね。一番の功労者はスマートフォン(少し遡ってガラケーでもいいんですが)の写真でしょうが,チェキも大きな貢献を果たしていると思います。

 今だから欠点のない,むしろメリットばかりになるハーフサイズ。これは大正解だと思います。


(3)レンズ

 レンズは25mm/F3.5で,35mm換算だと37mmあたりになります。これも昨今ブームになっている40mm付近に持ってきたあたり,なかなか憎いです。私も40mmは大好きです。

 明るさはF3.5ですのでやっぱり暗いと思います。思いますが,これもフィルムの性能向上で,ISO400でも十分な画質ですので,F3.5でも困ることはないというのが判断にあったのかも知れません。

 しかしですね,40mmでF3.5はいかにも惜しいのです。開放で被写体を浮かび上がらせるには,やっぱりF2.8は欲しいです。明るさにしてもF2.8とF3.5の違いを意識させられるシーンは,夕方とか雨の人か,案外日常に転がっているものです。

 後述するように,ゾーンフォーカスという仕組みもF3.5になったきっかけのように思いますが,Rollei35にもF2.8の高級モデルがあるように,ここはF2.8にして欲しかったと思います。

 それと,レンス構成です。PENTAX17は,いわゆるトリプレットです。トリプレットは大変合理的で高画質なレンズ構成ですので,これで直ちにダメとはいいません。でも,やはりもう1枚増やしてテッサーにして欲しかったと思います。

 テッサーの高画質は,トリプレットとは別の次元といっていいので,ぱっと見の印象で違いがわかります。当然テッサーも検討したと思いますが,もしもフィルムだから,ハーフサイズだから,ゾーンフォーカスだから,若い人だから,のどれか1つでもトリプレットにした理由になったのだとしたら,その段階でPENTAX17は失敗作だったと断言してもよいでしょう。

 ということで,私個人は,やはりRollei35の経験から,テッサーであって欲しかったと強く思います。


(4)露出とフォーカス

 コンパクトカメラですので,露出は基本的にはオートです。それでも,絞り開放を優先するモードや低速シャッター速度を優先するモードなど,カメラの理屈を詳しく知らなくても多彩な表現が出来るようなモードを用意しているのはさすがだなと思います。

 欲を言えば,マニュアルモードがあったらなあとか,せめて絞り優先が欲しいなあとか思うかも知れませんが,そこはほら,コンパクトカメラですので,こうして複数のプログラムラインをダイヤルで選択できるというのは,とてもよい仕組みだと思います。

 フォーカスは繰り返しているようにゾーンフォーカスです。私,ゾーンフォーカスが苦手です。難しい操作はいらないし,速写性に優れているので,良い仕組みだとは思うのですが,私個人はゾーンフォーカスの歩留まりの悪さに閉口します。

 目測が下手くそだからに尽きるのですが,ハーフサイズにした理由が高価になったフィルムを大切に使うことになるのだとしたら,ゾーンフォーカスではなく距離計を持たせるか,AFにすべきだったと思います。そう,AFです,AF。

 昔のコンパクトカメラにもちゃんと二重像式の距離計が備わっていたことを考えると,PENTAX17でも決して無茶な話ではないと思います。全く個人的な値頃感で言えば,今回のPENTAX17お値段なら,距離計があったら即買いだったと思います。

 ですが,距離計連動型はなにかと難しいですよね。特に作るのは大変だと聞きます。だからこそAFです。思うに,フォーカスをマニュアルで操作することを,若い人はきっと楽しんでいないんじゃないかと思います。というか,そもそも写真を撮るのにフォーカスを合わせる必要があるとは思ってない人も多いんじゃないでしょうか。

 考えてみて下さい。チェキや写ルンですに,ピントを合わせるという儀式がありますか?

 80年代以降のコンパクトカメラでAFではないモデルって,ほとんどありませんよね。一眼レフなら言わずもがな,です。

 フィルムカメラが楽しい,というなかに,巻き上げやメカシャッターの感触,独特の色合いや粒状性があることは言うまでもありませんが,フォーカスが楽しいというのはマニアだけじゃないでしょうか。

 露出と言えば,シャッターです。絞り兼用のビハインドザレンズシャッターということですので,シャッター速度と絞りは独立して設定出来ないはずです。かつて多くのコンパクトカメラが採用したシャッターと同じであれば,絞らないとき(開放に近い時)は高速シャッター,絞った時は低速シャッターになるという原理的な性質をそのまま「プログラムモード」として利用していると思います。


(5)操作性

 操作性,もっというと上面のデザインは,これはもう最高でしょう。

 AOCoマークなどはちょっとうるさすぎるし,本来の意味を持たない,いわばWindowsマシンに貼り付けたリンゴのシールみたいなこっぱずかしいものだと思いますが,これを付けられるのはPENTAXだけですから,大目に見ましょう。

 巻き上げレバーはAuto110,巻戻しクランクはMEあたり(LXと言う人もいますがもうちょっと古いモデルのように思います),シャッターボタンはMZシリーズですね。個人的にはSFXもどっかに入れて欲しかったですが,まあマイナー機種ですので仕方がありません。

 あと,SPの美しさは,レンズが少し左に寄っているところにあると思うので,PENTAX17でも少し左よりにしたらSPのように美しくなっただろうと思います。

 まあ,デザインの素人の私がいうようなことではないですね,すみません。

 操作性とは違うのですが,あまり皆さん突っ込まないこととして,電池寿命が短いことを指摘しておきたいです。

 CR2という高容量のリチウム電池を使っておきながら,フィルム10本というのは,ちょっと寂しいです。いや,ハーフサイズであることを考えると,実質20本ですし,半分がストロボによる撮影ですから,ストロボを使わないならもっと持つのですが,CR2が高いこと,そして案外入手が難しことを,もう少し考えて欲しかったと思います。


(6)価格

 これも怒られることを覚悟で言いますが,やっぱりちょっと高いです。値頃感は6万円まで,欲を言えば5万円までなら,私も即予約したと思います。

 いや,実売88000円というのがこの時代では破格であることも十分理解していますし,新品で全国どこのカメラ屋さんでも買えて,保証もあって修理もメーカーで出来るという新品として当たり前の事をフィルムカメラでやると言うのに,この値段ではむしろ安いことも承知しています。

 でも,やっぱり,88000円で手に入る体験として,これはちょっと高いです。

 この値段なら,若い人はスマートフォンを買い換えるでしょう。

 円安が憎いですね・・・1ドル120円くらいだったら,あるいは69800円や59800円もあったかも知れません。


(7)戯れ言

 えとですね,私はレンズ交換式も少しだけ期待していたのです。技術的に難しい薄々分かっていますが,マウントはPENTAX Qと同じで,イメージサークルはハーフサイズという新しいレンズラインナップでPENTAX17を作ってくれたら,どんなに面白かったかと思います。

 可能なら,その新レンズはPENTAX Qでも使えたりするんですよ。ワクワクしてきませんか。考慮すべきはマウント径とバックフォーカス,そして電気接点です。

 これが出来たら,超小型レンズ交換式フィルムカメラが完成するわけで,もしかしたらレンズでも儲かる仕組みが作れたかも知れません。


(8)買うのか?

 うーん,買いません。

 理由は,ハーフサイズの高画質なカメラはすでに持っていることが大きいです。唯一無二の存在でないものに,やっぱり9万円は出せないです。

 PENTAXであることも引っかかっています。メーカーの修理が出来ることが新品としての価値の1つと言われていますが,PENTAXの修理ってそんなに胸を張っていいものでしたっけ?

 私は,PENTAXに修理を頼んでも,絶対に1回では片付かず,くだらないミスで再修理になることを何度も経験しているので,彼らの修理レベルには疑問を持っていますし,そのおかげでPENTAXという会社の製品に対する信頼もどん底にあります。

 よって,10万円近いものをPENTAXで買うつもりはありません。他人に勧めることも出来ません。

 もし,売れのこって3万円とか4万円で処分されるようなことがあれば,買うかも知れません。それは,修理が出来る事,保証があることに相当する金額を引いたお金しか出せないと思うからです。

 いまやPENTAXの修理が,リコーで行われるものではなく,すべて外部の業者に投げられていることを,どれほどの人が知った上でPENTAX17を賞賛しているのでしょうか。修理に出す度にその質が目に見えて低下して,一向に上向く気配がないことを経験した人が賞賛しているのでしょうか。

 発表から2日,すでに想像を超える売れ行きで予約を締め切ったという話を聞きます。予約出来ても発売日に手に入るとは限らないというアナウンスもメーカーから出ています。

 原因はきっと企画台数を小さく見積もったからじゃないかと邪推します。私のような人間がなびいていないのですから,まだそんなに数が出ているわけでもないんじゃないでしょうか。

 嫌な言い方をしますが,昨今の日本のカメラメーカーの商売の仕方を見ていると,飢餓感を煽ってるんじゃないかと,うがった見方をすればあるかも知れません。少し冷静になって,本当にこのカメラで幸せになるのかどうか,考える時間を持ってもいいんじゃないかと思います。

AppleKeyboardをUSBでつないで,ああいい気分

20240618133833.png 

実家の整理をしたとき,古いMacintosh関連のものもいくらか出てきました。今にして思えばもったいないことをしたと思うのですが,当時はとにかく捨てないと,という気持ちが勝ったこともあり,なにを捨てたかよく覚えていないほどです。

 そんな中,奇跡的に生き残った物に写真のAppleKeyboardがあります。

 ある世代以前の方にはとても懐かしい物のはずですが,MacintoshSE,MacintoshIIが登場した時に用意された標準的なキーボードの,日本語版です。モデルナンバーはM0116Jです。

 1986年に登場,日本のアルプスが製造を請け負ったものなのですが,この,今で言うメカニカルキーボードはそんな経緯もあり,キースイッチはアルプス製です。接続はもちろん,ADBです。ADBはキーボードやマウスなどの今で言うHIDをデイジーチェイン出来るインターフェースで,ケーブルでごちゃごちゃする机の上を実にスッキリさせることが出来ました。国産機になれていた私は,当時この段階でアメリカ,そしてAppleの配慮にクラクラしたものです。

 この当時の製品にはありがちですが,紫外線による黄変が進んでおり,当時の美しさは失われていますが,それでもフロッグデザインによってデザインされたキーボードは,ただのキーボードを越えた美しさを放っています。

 さて,このキーボード,どうも私が最初に手に入れたMacintoshSEと一緒に買った物のようなのですが,大切に当時の元箱に入れてありました。ほら,白い段ボールに赤い林檎の印刷があるやルです。

 キーの配列も標準的で,コマンドキーが左右にあり,カーソルキーの配列も綺麗なAppleExtendedKeyboardIIに乗り換えるのはその後なのですが(余談ですがAppleKeyboardもAppleExtendedKeyboardもそれぞれIIに世代交代したとき,AppleKeyboardIIはメンブレン式になってしまったのに対し,AppleExtendedKeyboardはスイッチが変更になったもののメカニカルのままだったので,私はこちらに乗り換えました),乗り換え後も大切に元箱に入れて保管してあったようなのです。

 箱入りですから紫外線も浴びておらず,驚くほど美しかったのですが,実家から持ち帰るときに箱を捨てて中身だけで持ち帰ったことから,急激に黄変が進んでしまいこのざまです。

 捨てるに惜しいからと持ち帰ったはいいものの,ADBを持つ本体など捨ててしまって持っていませんし,今さら買うようなことも考えられません。そのうち中古で売ってしまうか,などと思っていた所,先日ぱっと閃いたのが,ADBをUSBに変換すればこのキーボードが現役に復帰出来るんじゃないのか,ということでした。

 世界中にADBのキーボードを愛する人がいるはず,今ならきっと感嘆に実現出来るはずだとサーべて見ると,iMateという私も知っている往年の変換器が高値で取引されているという話でした。

 もう少し調べると,キーボードの自作で定番化していたSwitchScienceのProMicroを使ったものが公開されていました。もともとArduinoですが,32U4を搭載したマイコンボードとして使うもののようで,書き込めばすぐに使えるバイナリも用意されています。

 ならこれを使ってみようと,ProMicroを早速手配。昔は安かったそうですが,今ではAliExpressで頼んでも1つ700円を超えます。送料を無料にしたかったので無理に3つ買い,届いたのが一昨日のことでした。

 まずはArduinoIDEをインストールし,初期不良がないか動作確認です。ちゃんと動作したので次に進んで,バイナリを書き込みます。これ,コマンドラインから書き込むのってなかなか面倒で,IDEが吐き出したバイナリのフォルダを探し出し,ここに書き込みたいバイナリをおいて,コマンドラインから書き込むのですね。

 試行錯誤を少ししましたが,無事に書き込めたようです。

 はやる気持ちを抑えられず,とりあえず部品集めです。ADBのコネクタはMiniDINの4ピンですが,ちょうどいい物が手持ちにありません。S端子のビデオケーブルを見つけましたが,悪いことに輝度と色のGNDが内部で繋がっているものだったので今回の用途には使えません。

 さらにジャンク箱をゴソゴソ探したところ,8ピンのMiniDINの壊れた奴が見つかりました。なにを思ったか端子が3本しか残っていません。残りの5本はどうしたんだよ・・・昔のわたし。

 ですが,ADBは1選式のシリアルインターフェースです。実は3本あれば問題なく使えます。(もう1本はPowerKeyです)

 そこで急遽ピンを組み直し,MiniDINの4ピンのコネクタを作りました。1本足りませんが,ここを使わないPowerKeyにあてがえば3本で問題ありません。

 このコネクタに3芯のケーブルを繋ぎます。そしてProMicroのジャンパをショートしてVccに5Vが出るようにした上で,VccとGND,そしてDataを繋ぎます。

 Dataは32U4のPD0が割り当てられていますが,ProMicroでは3というシルクがあるランドに出ています。ここをVccから1kΩでプルアップして接続すれば完成です。

 中国からの荷物を受け取ってから40分ほどで完成。なんの問題もなくあっさり動いてしまいました。

 30年ぶりに味わう,AppleKeyboard。なんと心地の良いことか。

 コマンドキーとスペースの間に”`”キーが挟まっていて,ここがミスタッチを連発することになるかもなあと思っていましたが,やはり体は覚えているもので,ちゃんと親指がコマンドキーの真ん中をとらえていました。なにも引っかかる物はなく,とても快適に使えます。

 音は大きいのですが,しっかりした剛性感も,手に馴染む湾曲の具合も,またちょうどいい傾斜も,やっぱりからだが覚えているんだなあと思います。カーソルキーもストレスなく使えますし。

 今日の艦長日誌はこのAppleKeyboardを使って書いていますが,もう毎日使いたいキーボードです。当時は本当にいいキーボードが作られていたんですね。コストダウンばかりが能じゃないんだと思いました。

 とまあ,AppleKeyboardを絶賛するのは,過去の記憶や慣れの問題もあるので偏りがあると自覚しているのですが,それにしても昔のキーボードのなにがそんなに魅力的なのかなとつくづく考えてみました。

 スイッチについては,今も昔もCherryの同じ物が買えますので,スイッチが今と昔で変わったという線はないでしょう。ならやっぱり剛性感でしょうか,それも大きさから来る安定感や接地感でしょうか。

 気付いたことは,キートップです。キートップの肉厚が太く,重くてしっかりしているのです。私のAppleIIplusのキーボードも実に心地よくタイピング出来るのですが,やはりキートップが分厚く重く,押し込んだ時と離したときの慣性が,最近のキーボードとは違うと気が付きました。

 先日のワイヤレスキーボードも心地よかったのですが,これもキートップが重いものでした。一方d,今常用しているキーボードは,スイッチこそCherryのものですが,やっぱりキートップが軽くて完成が小さいのと,おそらく材質がABSではないせいで,音も軽いんだと思います。

 重さとバネの力からその物体の運動は定義されるわけですが,おそらくキーボードについても同じ事が言えて,わずかな違いであっても,人間の体はその僅かな違いを感じ取り,心地よかったりそうでなかったりという感覚を得るのでしょう。

 昨今キーボードブームなわけですが,ともすればスイッチばかりに目が行きがちちな中,形状も含めてもっとキートップにこだわってもいいのではないかと思います。

 ということで,うちのキーボードのもう1つ選択肢が増えました。しかも極上です。とはいえ,私の中では未だにPC-9801Rシリーズ用のキーボードが一番だという意識が残っており,これをUSBか出来たらいいなあなどと思っていますが,悲しい事にPC-9801のキーボードは捨ててしまって手元には残っていません。ああなんと残念な事か。

 私の当時のPC-9801のキーボードは,CTRLキーとCapsLockが左右に並んでいるというPC-9801の最大の問題点を改造で解消したもので,CTRLキーを大型化してありました。キートップはEWS4800のキーボードから移植したもので,使う事のないCapsLockは存在が消されているというキーボードです。

 とにかく快適に使うことにこだわったキーボードだったのですが,音もそんなに大きくなく,滑らかで1.5倍は速くタイプできる,良いキーボードだったと思います。そしてCTRLキーが大きくて使いやすくて,UNIXでも便利,カタカナ入力でも便利と,本当に捨てなきゃ良かったです。

 今回作ったADB-USB変換基板のファームウェアには,そのPC-9801のキーボードをUSBにするものも用意されています。もしPC-9801のキーボードが手に入ったら作って試してみましょう。

 

T50RPmk4のバランス入力端子をMDR-1A互換に改造

 先日手に入れたフォステクスのT50RPmk4。バランス接続を行う為の3.5mmジャックのアサインを変更し,MDR-1Aと同じにする改造をやりました。

 別案として,改造ではなく,変換ケーブルを作る事も考えました。部品も揃っていたのでやろうと思えば出来たのですが,それだとやっぱり取り回しが悪くて嫌になることが目に見えています。

 T50RPmk4を分解して調べてみると大した改造もしなくて済みそうで,いざとなったらすぐに元に戻せそうです。

 ということで改造に踏み切りました。いやー,届いたその日に改造とは。

 改造の方針ですが,T50RPmk4とMDR-1Aの本体側のジャックのアサインの違いである,根元のR-とL-が入れ替わっているのを,MDR-1Aにあわせてしまいます。問題は,その作業をどんな風に行うか,です。

 下の写真はL側の基板です。写真が下手で申し訳ない。

20240614150408.jpeg

 基板の下側に4つのランドがあり,L側はこのうち右の2つが使われています。白が-,青が+,それぞれがドライバと繋がっています。

 一方でR側は下のようになっています。

20240614150409.jpeg

 R側はL側と違って,下の4つのランドの左側2つを使っています。今回はR-とL-を入れ換えますので,左から一つ目と右から二つ目を図のように入れ換えると上手くいきます。

 具体的には,まずL側は白い線を外して左端にハンダ付けします。次にR側は白い線を外し,右から二つ目にハンダ付けします。これだけです。

 改造によるデメリットはなく,付属のアンバランスのケーブルも当然使えますし,音質の劣化なども理屈の上ではありません。(ただ,渡りケーブルって結構抵抗値が大きいので,左右のジャックを差し替えると音が変わるかも知れませんが,それは無改造でも同じ話です)

 当然のことですが,純正のバランスケーブルは全く使えなくなります。

 MDR-1Aが2014年,フォステクスのバランス接続のアサインが決まったのは2017年のT60RPがきっかけですから,これだけの時間差ならMDR-1Aにあわせてくれてもよかったように思います。実質的にMDR-1Aのアサインが標準になっていますしね。

 ということで,作業そのものは5分もかかりません。分解もこれまでのT50シリーズと基本的には同じ方法ですので,イヤーパッドを外して上下左右の4本のビスを外してしまえば,パカッと本体が2つに分かれます。

 するともう先程の基板が見えてきますので,ハンダゴテで筐体を溶かして泣いてしまわないように慎重に配線を入れ換えます。

 終わったら組み立て直してテスト。まあ,間違いようがない改造です。

 ということで,改造によってバランス接続が出来るようになったわけですが,さすがにその差は歴然。セパレーションが上がった事で,それぞれの楽器の輪郭が明確になりました。これだけ違うと,出来るだけバランスで繋ごうと思うようになりますね。

 そんなに難しい改造ではなく,元に戻すのも簡単,綺麗にまとまるのに副作用はありませんので,同じような問題で頭を抱えている方がいらっしゃったら,この方法で解決するのもありだと思います。


 ところで,数日使ってみてT50RPmk4の印象が変わって来ています。楽器の分離の良さや定位,すーっと高音が伸びて行く感覚はさすが平面振動板と思うのですが,あれほど違和感を感じずに使っていたMDR-M1STが,もう我慢ならないほど嫌な音になっていました。

 いやほんと,慣れるって恐ろしいと思うのですが,今慣れているヘッドフォンから別のヘッドフォンにしたときに,やはり差が大きなと思うものほど,それに慣れたときの反動は大きいもので,戻したときに「ひどい音だ」と思う前に,変えたときにも「こりゃひどい」と思うものです。

 今回のケースだと,MDR-M1STからT50RPmk4に変えたときに「こりゃひどい」と思ったなら,T50RPmk4に慣れた頃にMDR-M1STに戻して「嫌な音だ」と思う事に何の不思議もありません。

 しかし,今回は違っていました。MDR-M1STからT50RPmk4に変えたときには,高域が良く出ているなという印象こそあったものの,とてもバランスが良い音に聞こえたのです。この段階で私は,MDR-M1STに近い音にチューニングされていて,モニターヘッドフォンというのは,最終的に同じような音に収れんしていくのだなと思ったのです。

 しかし,T50RPmk4にすっかり慣れてからMDR-M1STに戻すと,もうその違いが絶望的で,本当に嫌になるほどでした。高音がどうの低音がどうのという話ではなく,もう音がざらついているというか,聴くに堪えないというか,そんな印象に変わっていたのです。

 理由はよくわかりませんが,とりあえずT50RPmk4が,現在のうちの常用機になることは決定しました。MDR-M1STは決して悪いヘッドフォンではないと思うし,そこは間違っていないと確信もするのですが,どうもT50RPmk4に前にはくすんで見えるということだと思います。

 

さようなら,東芝未来科学館~その5

 東芝未来科学館の5回目,身近な家電品です。

(9)国産初の電気冷蔵庫 SS-1200(1930年)

 加熱,冷却は今では当たり前で珍しくもないのですが,考えてみるとこれは大変なことです。発熱も吸熱も化学的あるいは物理的な性質に頼るほかありませんが,エネルギーの供給をどうするかという問題と,温度をいかに制御するかという問題が解決しなければ,利用することが出来ません。

 どちらも強い要望があり,つまりは商売になるからということで開発が進んだ結果だといえるのですが,それにしてもものを燃やしたり,抵抗に電気を流せば済む発熱に対し,吸熱はなかなか大変だったろうなと思います。

 この電気冷蔵庫は現在主流のヒートポンプ式で,原型はアメリカGE社のものです。当時の小学校の先生の年収に匹敵する金額だったというから,どんな人が買った(買えた)のでしょうか。

 戦後の高度経済成長期に電気冷蔵庫が一気に普及し現在に至るわけですが,そのことで食品の売り方や買い方が大きく様変わりします。夕飯を作り始める直前に近所の魚屋や肉屋にその日の分だけ買いに行き,買ってきたらすぐに調理を始めるという方法しかなかったものが,現在は一週間分の買いだめが可能にほどになっています。まさに冷蔵庫さまさまです。

 とはいえ,それまで家庭に冷蔵庫がなかったのかいえばそうでもなく,氷を入れて冷やす冷蔵庫は普及していました。氷ですから,定期的な供給が不可欠ですので,そのために街に一つは必ず氷屋さんがあったと聞きます。

 私が子供の頃はまだ氷屋さんがありましたが,それもいつしかなくなってしまいました。氷で冷やす冷蔵庫もギリギリ見た事があるのですが,容量も今の独身者用の冷蔵庫よりももっと小さく,現在の冷蔵庫に求められる役割を果たせるようなものではありません。どんな使い方をしていたのか,知りたい所です。

 さて,このSS-1200ですが,せっかくだからとアテンダントの方が特別に扉を開いて見せてくれました。それがこの写真です。

20240617111129.JPG

  中を見るまではドキドキしていましたが,開けてみると案外普通。アテンダントの方も「普通でしょ」と言われたことを記憶していますが,それだけ冷蔵庫の基本機能に変わりはないということでしょう。

 ただ,すごいなと思ったのは製氷皿があることでした。つまりこの冷蔵庫は氷が作れるという事なのですが,氷は庶民にとって手軽なものではなく,一般家庭で常備できるようになるというのは画期的なことでした。

 氷式の冷蔵庫は当然氷など作れるはずがありません。だからこそ氷屋さんが商売として成り立っていたわけですから,電気を使って冷却することの目に見える進歩は,おそらく氷が家で作れることにあったのだろうと想像します。


(10)ゆで卵器 BC-301(1959年)

 20240617111233.JPG

 卵は昔から日本人のタンパク源として重用されてきました。ゆで卵は食べやすく,持ち運びも困らず,高度経済成長くらいまでは歩きながら食べられるファストフードのような役割を果たしていたと聞きます。

 私もゆで卵は好きですが,難しいのは作ること。茹でると言いつつ適当に茹でてしまうと半熟だったり(私は柔らかいのはだめなのです),殻がくっついてむけなかったり,白身が飛び出してしまったりと,上手くいった試しがありません。

 それ以前にそれなりの時間がかかり,調理中完全に眼を放すわけにもいかないところが,私に取ってあまり親しみのある調理方法ではない理由かも知れません。

 このゆで卵器は1959年ですので,高度経済成長前夜の商品。戦後の電力不足が落ち着き,各家庭で灯りとラジオ以外に電気を使う製品で生活を豊かにと言う機運が高まると共に,各家電メーカーも創意工夫を凝らし,あの手この手で新商品の開発に夢中だった時代です。

 ジューサーや餅つき機などのこうした電気を使ったニッチな用途向けのキワモノ商品のうち,結局生き残ったのは炊飯器くらいのものだと思うのですが,このゆで卵器は今でも欲しいと思わせる商品です。

 だって,ここに水と卵を入れて放置するだけでゆで卵が出来上がっているんですよ,こんな便利はものはないでしょう。


(11)芝浦電気扇 C-7032(1928年)

 これは日本で最初の扇風機とは違って,一般家庭に普及し始めた頃のものです。原理的には現在売られているものと変わらず,交流100Vで動作し,風量の調整も首振りも可能なものです。これ,戦前の100年近く前のものですからね,

 その意味では,これをここで採り上げることもないのですが,アテンダントの方の計らいで,実際にうごかして頂いたので採り上げました。

 動いてしまえば今の扇風機となにも変わりません。風邪もしっかり来ますし,首も振ります。独特の風斬り音も今のものとそんなに変わりません。

 20240617111323.JPG

 感心したのが,現在一般家庭に普通に供給されている交流100Vで動作するということです。例えばですね,20年前の携帯電話を持っていたとして,これが今使えますか?

 カセットテープはまだいいとして,オープンリールテープが出てきても,これを再生することはかなり難しいはずです。

 ブラウン管のテレビはどうですか?ミニディスクだって大変でしょう。フィルムのカメラでも,110フィルムと呼ばれたカートリッジフィルムを使うポケットカメラなんか,かなり難しいんじゃないでしょうか。

 そう,大切に持っていても動かす事が出来ないのが当たり前であるなかで,今もそのまま一般家庭で使えることを目の当たりにすると,システムの継続性がいかに大切な事かを痛感します。


(12)マツダ電気蓄音機オリオン800号(1933年)

 1933年といえば,日中戦争が起こる4年前,そろそろ世の中がきな臭くなり,対象から昭和の初期にかけての自由な空気が変わるころです。

 真空管の発明に端を発したエレクトロニクスは,リアルタイムで音声を飛ばすラジオと,過去の音声を何度も再生出来るレコードの2つのオーディオ製品を一般的なものにしました。

 とはいえ,本場アメリカでも高価だったものが,当時100%もの関税をかけて輸入されたされたのですから,まさに家一軒のお値段。そこにさらにレコードを買う必要も出てくるとあれば,本物のお金持ちしか買うことが出来ません。

 ゼンマイとラッパを持つ蓄音機の価格よりもずっと高価だった電気蓄音機がこうした立派なキャビネットにおさまっているのはそうした理由からでしょうが,これも偶然実際に音を出してくれている場面に立ち会うことが出来ました。

20240617111422.JPG

 当然SP盤なのですが,これが想像以上にいい音がするんですよ。もちろんノイズも多いし,強弱はつかないし,高音は出ないのですが,低域の豊かさと中域の艶やかさは素晴らしいものがあります。これを100年前の人が聞いたら,そりゃー感激するはずです。

 ちゃんと調べていませんが,当時の高級電蓄では2A3がよく使われたと聞きます。これももしかしたら2A3かも知れません。

 

 本当はもっともっと紹介したいのですが,きりがないので今回で最後です。

 繰り返しになりますが,今回紹介したものだけでも,東芝という会社が果たした先駆的な役割は大きなものがあると思います。

 我々はあまりその事実を知りませんし,東芝も声高に言いはしません。ですが,私のような興味のある人が知っているというだけではもったいなく,もっと広く知られてもよいと思います。。

 東芝という会社は我々からとてもとても遠いところに行ってしまいましたが,身近だった時代でさえも控えめだったことは否めません。今からでも構いません,日本の電気は全方位で東芝が先頭に立ってきたと,胸を張ってアピールしてくれたらなあと,そんな風に思います。

 

ページ移動

  • ページ
  • 1
  • 2
  • 3

ユーティリティ

2024年06月

- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ユーザー

新着画像

過去ログ

Feed