バランスドアーマチュア初体験
- 2011/01/27 13:20
- カテゴリー:散財
3回目は,久々に買ったインナーイヤーのヘッドフォンです。
先日,あるパーツ店のblogを見ていると,ZERO AUDIOというブランドで,新しいヘッドフォンが発売になったと紹介がありました。ケーブルで知られた協和ハーモネットのオーディオブランドがZERO AUDIOで,ここが昨年末に発売したのがZH-BX500とZH-BX300という,ヘッドフォンです。
価格は前者が8000円ほど,後者が5000円ほどですが,この価格にしてバランスドアーマチュア型だというから驚きです。バランスドアーマチュア型が高級なヘッドフォンに使われるようになり,今や高級品の代名詞となった観すらありますが,それがこの価格で味わえる,しかもそれなりに評判も良いという事で,これは一発衝動買いです。中野のフジヤエービックで7100円でした。
そもそもバランスドアーマチュアってなんだ,という恥ずかしいレベルの私は,まず勉強することにしました。
電気を音にするのですから,電気の強弱で振動板を振動させて,それが空気を振動させて音になるという原理はとても単純ですが,現在主流のダイナミック型は永久磁石が作り出す磁束の中に電磁石を置いて,この電磁石発生した磁力の強弱によって電磁石の位置が変化し,これにくっついた振動板が振動するという仕組みです。
大事な事は,電磁石が動くという事です。
一方,マグネチック型と呼ばれるものもあります。オーディオ用ではなく,ラジオ用に売られている片耳だけのイヤホンは,このマグネチック型だったりするのですが,永久磁石の周りに電磁石を巻き付けておき,その上に振動板となる鉄の薄い板を置いたものです。
磁石によって振動板は一定の力で吸い寄せられていますが,電磁石に信号が流れ,磁力が発生すると,磁石からの磁束に変化が生じ,振動板を吸い寄せる力も変化します。これが空気の振動を生むわけです。
ここで大事な事は,電磁石は動かないという事です。
マグネチック型は,ダイナミック型が登場するまで,主流だった方式でした。大きなスピーカーだってマグネチック型で作られていましたが,さすがに鉄の薄い板を大きくするわけにも行かないので,紙で出来たコーンにロッドと呼ばれる針金をくっつけ,この針金を振動板の代わりに置いた鉄片に繋ぎました。
鉄片は動くため可動鉄片とよばれますが,これをアーマチュアといいます。
ダイナミック型はいわばリニアモータで,振動板を軽く作ったり,大きなストロークを得られたりと,周波数特性が非常に広いことが特徴です。一方のマグネチック型は動く範囲が小さく,ストロークを大きくできないことや,振動板を軽く出来ずに高域が出にくいということで,帯域が狭く,なんとか音声帯域をカバーするのがやっとだったといわれています。
ラジオのスピーカーはマグネチック型だったのですが,オーディオが音声から音楽を扱うようになり,Hi-Fiになるに従い,広帯域を再生できないマグネチック型が消えて,ダイナミック型に切り替わっていきました。
なら,イヤホンだってダイナミック型にすればよかったのに,と思うかも知れませんが,ダイナミック型は原理的に強い磁石が必要になるため,小型化が難しかったのです。近年の強力な磁石が誕生して,ようやく小型化が可能になったと言う方が正しいです。
マグネチック型は磁束の変化で振動板を動かすのですから,原理的にそんなに強い磁石を必要としません。それで小型ならマグネチック型が使われ続けていたのです。
マグネチック型にはもう1つ欠点があります。それはひずみです。ダイナミック型は,フレミング左手の法則に従って,流れる電流に比例して動きます。ゆえにひずみは出にくいです。
マグネチック型は,磁束の変化で吸引力が変化し,それが振動板を振動させるわけですが,厄介なことに吸引力の変化は,磁束の変化の二乗に比例するのです。つまり,原理的に比例関係にないことから,二次高調波というひずみを発生させてしまいます。
この欠点を解決するための仕組みが,バランスドアーマチュアと呼ばれるものです。
可動鉄片を磁石で挟み込み,それぞれに電磁石を配置します。2つの磁石の磁力がバランスしてゼロになる所に可動鉄片を置けば,この部分にかかる磁力はゼロになります。従来のマグネチック型では,常に磁力がかかっていたのに比べると,大きな違いです。
電磁石に信号が流れると,表側の磁力が強くなる時,裏側の磁石には磁力が弱くなるようにすれば,片側の磁石が引っ張り,もう片側が押すようになります。これにより,二乗に比例する二次高調波成分は打ち消され,純粋に信号の変化に比例して振動板が動くようになるのです。
うーん,なんだか狐につままれているような気がしてきました・・・
ですが,いわばプッシュプルということですので駆動力は倍になり,感度はダイナミック型に比べて大きくできます。もともとマグネチック型の発展型だったわけで,超小型に出来るという素性の良さに加えて,ひずみを押さえ,また小さい電力で大きな音を出せるというこの方式は,補聴器用のイヤホンとして決定版となりました。
声を明瞭に再生することをテーマに改良が重ねられたわけですが,強力な磁石が利用出来るようになるなど,Hi-Fi用として利用出来るだけの周波数帯域を持つことも可能になりました。
そこで近年,小型であること,軽量であること,感度が高く小さな音を再現できること,そして(おそらく歪みを打ち消している事が理由なのでしょうが)解像度が高い事を積極的に利用して,高級なヘッドフォンとして理世売れるようになってきたのです。
構造が複雑で小さいため,精度が要求され量産に向かず,高価になりがちという事もありますし,超小型であることを生かし,2Wayや3Wayのスピーカーのように帯域ごとに2つ,3つを搭載するものまであったりして,ますます高額になる傾向があります。
基本的な性能から言えば,ダイナミック型の方が安く,しかも低域から高域までバランスを持つように作る事ができるのでしょうが,ダイナミック型にある大味な感じとは対照的に,繊細で解像度の高い音を得る方法として,好まれているのだと思います。
私個人は,ダイナミック型の躍動感,低域から高域までカバーする広帯域が好きで,もともと小さいものに豊かな低音は望めないということから,大きなヘッドフォンに抵抗もなく,バランスドアーマチュアにはあまり興味を持っていませんでした。
しかし,インナーイヤーのヘッドフォンが,かつては1万円でも高級だったのに,最近は3万円で中級,5万でようやく高級という状況を知り,やはりその原動力となったバランスドアーマチュア方式というものを体験してみたいと思っていたところでした。
そこに登場したのが,実売8000円のバランスドアーマチュア型,ZH-BX500だったというわけです。
さて,届いたZH-BX500を,早速試して見ます。小さく,軽いのはさすがです。金属製の筐体も高い質感を持っていて,装着感も良好です。耳の中に吸い付くような感じがあって,密閉感も非常に高いものがあります。
なんといっても小さいために,耳への負担が小さい事はうれしいです。
音を出してみますが・・・あまり良くないです。
全体に奥行き感が小さく,平面的に聞こえます。ボーカルも奥行きがなく,随分手前にいるように聞こえます。
低域の細さと,高域のだら下がりが,帯域の狭さを印象づけます。私が長く愛用しているATH-CK7と,最近のリファレンスであるQC15と比べると,パワー感やタイトなベースが聞こえてきません。元気がないです。
そしてスタックスを使って見ると,ぱーっと頭の中に空間が広がり,その中でびしっと楽器が定位しています。この表現力はやはりすごい。
ZH-BX500も,2時間ほどならしている内に随分馴染んできたようですが,それでも前後の奥行きが乏しく,平面的な音になっている傾向は変わりません。
高域が強いとは言え帯域は狭いので,サシスセソが濁ることはありません。中域に大きなピークがあるようなおかしな癖もないので,音そのものは大変素直です。
また,よく言われる解像度は確かに高いと思います。感度の高さもあってのことでしょうが,ノイズがよく聞こえるになったことと,音が消える瞬間の歪みが良く聞こえるようになりました。
また,楽器の個性を良く表現していて,情報量の多さには多少の疲れを感じるほどです。
位相特性も良好のようで,楽器の位置が動きませんし,周波数によって位置が変わることもありません。
総じて,まるで測定器のようなヘッドフォンだと思います。音を楽しむ,声の豊かさを味わう,そうした用途にはちょっと厳しいですが,解像度の高さと情報量の多さは,他にないものを持っていると思います。
惜しいのは,明らかに高域の帯域が不足していていることでしょうか。低域のエネルギーは原理的に望めないとしても,この高域の伸び不足にはフラストレーションを感じます。
ZH-BX500の良いところは,
・小さく軽く,装着感の良さからくる,体への負担の小ささ
・感度の高さと歪みの小ささからくる,小音量時の再現性の高さ
・感度の高さからくる,アンプの消費電力削減
・解像度と低位の良さ
・色づけのない,素直な音
・価格以上の音
悪いところは
・低域の貧弱さ
・高域のだらしない落ち方
・一聴して感じる帯域の狭さ
・奥行きがない,平面的で,ヘッドフォンの欠点がそのまま出ている空間再現能力
というところでしょうか。
他のヘッドフォンと性格がかぶらないので,これはこれで私の常用モデルとなりそうですが,それにしてもこんな味付けのないヘッドフォンがこれだけ話題になるというのは,なんだか日本のオーディオファンもよく分からないものです。