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DL-103の針交換

 なんやかんやで私の話のネタになることが多い,浅からぬ縁の山下達郎さんが,満を持してアナログ盤で過去のアルバムを復刻させるというニュースを小耳に挟んだのが春頃のことだったと思います。

 なにもめんどくさいLPを,しかも4000円も出して買うもんか,と思っってほったらかしていたのですが,発売が近づくにつれ,どういうわけだか広告を目にすることが増えました。

 発売後も目につく広告に閉口し,ええいチラチラと鬱陶しいと,もう10年ぶりくらいに渋谷のタワーレコードに出向いて「FOR YOU」と「RIDE ON TIME」を買ってきました。そして,勢い余って「GREATEST HITS」まで予約してしまい,これで文句はなかろうと,私の中では解決済みの話になっていたのでした。

 時は流れ,9月末に予約していた「GRATEST HITS」が発売になったのですが,今年の夏は特に暑く,お作法の厳しいアナログ盤を聴こうという気が起きませんでした。それに,きっとこの暑さですから,カートリッジのダンパーのゴムがグニャグニャになっているに違いありません。もう少し涼しくなってから,という言い訳には十分です。

 かくして朝晩が少し肌寒く感じるようになった先日,ようやく重い腰を上げてアナログ盤を聴くことにしたのです。

 ところが,前回アナログ盤を聴いたのがもう4年も前の話。ちゃんと音が出るのかも怪しい中で,のんびりと準備を始めることにしました。カートリッジは邦楽ですから,もうDL-103一択です。

 身に覚えのないイコライザアンプの改造を分解して知った時には,「アルツハイマー病になるとこんな感じなんかなあ」と考えてみたり,グレースのトーンアームは右と左が逆になってることをすっかり忘れていたりと,なかなかスムーズに事が運ばない中でようやく音出しです。

 しかし,音を出してみると,左右の音量のバランスがおかしいです。片方だけ2dBくらいレベルが低いです。レベルを合わせてみても,どうも高音の伸びが悪く,周波数特性もアンバランスになっているようです。

 カートリッジをSPU#1に交換するとバランスは正常になりますので,問題はDL-103になると考えて良いでしょう。2時間ほど再生していると左右の音量バランスは1dBくらいになってきたのですが,相変わらずヌケが悪くて,これは我慢なりません。

 針の寿命でこういうことが起きるという話はあまり耳にしませんので,きっとダンパーの劣化か,内部機構の故障でしょう。

 こういう場合,カートリッジ本体の買い直しとなるわけですが,幸か不幸かDL-103はMCカートリッジで,針交換はすなわち本体交換です。MMカートリッジの針交換ほど安くはないのですが,本体を買うよりも随分安いので,DL-103所有者の特権とも言えるかも知れません。

 値段を調べると34000円ほど。うーん,以前このくらいの価格でDL-103を買った覚えがあるのですが,あれから何度も値上げがありましたし,致し方ないか・・・

 そんなことより,在庫です。在庫があれば店頭でその場で交換してもらえるはずですが,在庫というのはあくまで針交換用に準備された本体であり,通常の製品とは区別されています。交換品の在庫を持っているお店なんかそうそうあるわけなく,期待しないで調べていると新宿や秋葉原のヨドバシにあるじゃないですか。

 新宿なら1時間かかりません。DL-103を購入したのが2007年5月ということですので,今年で16年を経過していますから,新品に交換するというのも良い選択です。ちょっともったいない気もしますが・・・

 ということで,先日の日曜日の午後,DL-103の針交換品を購入してきました。

 久々の新宿だったので疲れてしまいましたが,戻ってきて早速取り付けて聴いてみましょう。

 どこかで読んだのですが,DL-103は,針交換をする度に感動する,らしいです。果たして,私も感動してしまいました。そう,DL-103の音です。

 新しいカートリッジに交換すれば,音が良くなって初めて感動するものです。しかし,今回はあくまでDL-103の元の音に戻っただけであり,良くなったわけではありません。それでもこの感動はなんでしょう,変わらないことに対する驚きでしょうか。

 工業製品ですし,ばらつきもあれば,長年の製造で材料が変更されることもあります。そんな量産品の宿命を乗り越えて,変わらないこと,つまりいつも同じ音を出すと言う安定性や信頼性を特徴の1つとしていることが,素晴らしいと感じました。

 DL-103の良さは,なにも足さずなにも引かず,刺激の少ない自然な音をそのまま出す事にあり,それはもちろん体験済みです。これい加えてよく言われるのが安定性や信頼性ですが,これを今回味わうことができたと思います。

 確かにMC-20もSPUも素晴らしいのですが,あれこれ交換しても結局最後にはDL-103に戻してしまいますし,録音していつも聴く音源にするときにはDL-103を選んでいますから,DL-103に対する信用というのは,絶対の物があるんだなと思います。

 悪く言えば地味な音ですから,DL-103には音をグレードアップするという魅力はありません。しかし,この高いレベルで標準器が存在し,それが長年変わらず生産されて入手が容易であることは,実は改良品を作る事よりも難しいんじゃないかと思いました。

 私のように,アナログ盤をたくさん持っておらず,聴く機会も環境もそんなに整っていない人間にとって,カートリッジを持つことの意味は,その違いを楽しむことにあります。

 違いを楽しむには,標準的なものが1つ定まっていなければなりません。それがこのDL-103なんだと思います。

 おそらくですが,針を折ってしまうとか,断線するとか,そういうことでもない限りDL-103の針交換品を買うことは,もうないでしょう。ですが,価格が上がっても,DL-103が作り続けられて,今と同じように入手も容易であることを願ってやみません。そう,日本にはDL-103があるのです。

 

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