古書の値段と価値
- 2011/12/20 16:27
- カテゴリー:マニアックなおはなし
年末を迎え,そろそろ大掃除やら散らかった部屋の片付けやら,らやねばという気持ちが徐々に高まってくる時期になりました。
家にあった本屋雑誌の多くは,すでにScanSnapでPDFになっており,かなりの数が電子化されたのですが,空いたスペースに新しい本が入ってしまうので,結局あまりスペースが出来た気になりません。
そこで,折を見て,スキャンする基準の引き下げを行うのですが,現在残っている本は高価だったり思い入れがあったり,続き物で揃っているものだったりするので,ここで安易にスキャンして廃棄してしまうと,ちょっと後悔してしまいます。
特に,絶版となり古本としてそこそこいい値段で流通しているものもあるので,それらを「邪魔」という理由で安易に処分するのは,所有する人間の責務として慎むべき所でもあります。
ということで,この年末にまた基準の引き下げを行い,10冊程度のスキャンを行う予定でいるのですが,今回から念のため,amazonでの価格を調べてから判断することにしました。
するとまあ,ビックリするような値段の本が出てくるのです。ちょっと紹介しましょう。新品の価格よりも高い値段がついていて,これ以下で買うのはちょっと大変かなあと思うようなものを数点選んでみました。
・オーディオ系
オーディオ用真空管マニュアル 26000円
世界の真空管カタログ 6750円
オーディオDCアンプ製作のすべて 下巻 10800円
真空管オーディオハンドブック 12800円
クラシック・ヴァルヴ 13173円
ステレオ装置の合理的なまとめ方と作り方 3759円
内外真空管アンプ回路集 6249円
真空管活用自由自在 4366円
音楽工学 17980円
現代真空管アンプ25選 9798円
直熱&傍熱管アンプ 4800円
「オーディオ用真空管マニュアル」はラジオ技術社から出ていた時代から定番となっていたデータブックです。その後インプレスから発売になり,私はその頃に買いました。既に絶版となっているのですが,なにかというとこの本から引用されるので,未だに人気があります。それにしても,26000円はないですよね。
そもそも,20年ほど前ならいざ知らず,今は真空管のデータなどいくらでもネットで調べることが出来ます。データブックを持つ事の価値は確かにあると思いますが,それにしても26000円なんていう値段はちょっとなあ,と思います。
「オーディオDCアンプ製作のすべて」は,かの有名な金田アンプの本ですが,なぜか下巻の方が随分値段が高かったので上巻は挙げませんでした。どうも,自作オーディオの世界では,金田アンプは宗教的なようで,本も高値で取引されるし,部品も高値で偽物まで出回ります。恐ろしいことです。
この中で,「クラシック・ヴァルヴ」だけは良い本だとおすすめしたいです。無線と実験の連載で,著者のコレクションである珍しい真空管に,ヒーターだけともして撮影されたものなのですが,真空管の黎明期の貴重なものも多数あり,資料性は極めて高いと思います。
あと,「音楽工学」が目立つ値段ですが,これはオーディオの世界では古典的名著と言われたもので,かのオルソン博士によるものです。音や音楽を工学的見地で論じたものですが,この本によってオーディオの世界が電子工学の世界とリンクしたといって良いと思います。今は絶版ですが,やはりオーディオを長く趣味としている人間としては,原典に触れないで語ることには参りません。
・コンピュータ
Apple2 1976-1986 19950円
COMPUTER PERSPECTIVE 8000円
アップルデザイン 21800円
X68030 Inside\Out 6000円
Outside X68000 8000円
Inside X68000 6119円
わかるマシン語入門 PC-6001/6001mk2 5000円
マイクロコンピュータの誕生―わが青春の4004 14243円
復活!TK-80 7500円
レボリューション・イン・ザ・バレー 3800円
PC‐E550・PC‐1490U2活用研究 6145円
さすがといいますか,Appleとmacintoshに関係するものは,高値になる傾向があります。「Apple2 1976-1986」は写真が中心の本ですが,程度のいいApple2を探すだけでもそれなりに大変な21世紀に,ウォズへのインタビューを加えて発売されたことに,価値があると判断されていることを私はうれしく思います。
「アップルデザイン」は,もともと高価な本でしたが,それだけにあまり数も出ていないのかも知れません。アップルデザインといいつつ,フロッグデザインが中心となった本ですが,試作機やデザインコンセプトなど,興味深い写真も多くあります。でも,この値段はどうでしょうかね。
「マイクロコンピュータの誕生―わが青春の4004」は言わずとしれた,嶋正利さんの著作ですが,どういうわけだか復刊されることも,文庫になることもなく,随分前から高値安定という本です。怖いもの知らずの若者がアメリカに乗り込み,泥だらけになって世界を変える技術を開発するという,躍動感あふれる名著だと思うのですが,これが広く読まれないことはとても残念です。
あと,「COMPUTER PERSPECTIVE」ですが,これは本当に良い本です。もともとIBMが開催した展示会をまとめた本ですが,1890年代から1940年代のコンピュータを貴重な写真と共にまとめてあります。コンピュータの歴史書としては,この本が1つの基準になるのではないでしょうか。
「復活!TK-80」はそんな価値のある本とは思いませんし,X68000関連の本も,突然値上がりしたり二束三文になったりするのでなんとも言えません。ただ,「Outside X6800」と「X68030 Inside Out」は,ハードウェアの解析に普遍的な手法が記述されているので,とても参考になるものだと思います。
・カメラ
ニッコール千夜一夜物語 3900円
ニコンファミリーの従姉妹たち 3350円
カメラメカニズム教室〈下〉3500円
コンタックス物語 3800円
写真レンズの歴史 8000円
クラシックニコン完全分解修理手帖 9000円
「ニッコール千夜一夜物語」「ニコンファミリーの従姉妹たち」「カメラメカニズム教室〈下〉」「コンタックス物語」「写真レンズの歴史」はいずれもアサヒソノラマから出ていたクラシックカメラ選書です。アサヒソノラマが解散し,これらの本は引き継がれずに絶版となりました。
なかなかいいシリーズだったので残念なのですが,資料性に乏しい,定年したオッサンの回顧録に過ぎないなど,つまらない本は数百円で売られています。その一方で過去の名著の復活,カリスマ設計者の自伝や,熱狂的なファンがいるメーカーの本,資料性の高いものはちゃんと高値になっていて,ほっとします。
「ニッコール千夜一夜物語」「ニコンファミリーの従姉妹たち」はニコンの技術者が明かした裏話で,カメラやレンズを単なる工業製品としてだけではなく,それを作った人の想いや背景を丁寧に書き起こしていきます。特に前者は,すでにベテランとなった一流のレンズ設計者が「素晴らしい」と思った過去のレンズをとりあげ,その設計者と設計思想に,尊敬と感動をもって迫るすがすがしさがあります。
「写真レンズの歴史」は確かに名著で,今日のような高性能写真レンズに至るまでの流れが一望できるものです。レンズの発明や設計は,かつては個人の能力に強く依存していて,一握りの天才の存在がまさに世界を変えた時代が長くありました。工業製品であるレンズと設計者という個人をリンクし,かつその技術的な解説まで試みた本という点で,単なる年表に終わっていないことは高く評価されると思います。
・電子工作
アマチュア無線 自作電子回路 4500円
自作電子回路テキスト 6000円
ビギナーのためのトランシーバー製作入門 7989円
松本悟のデジタル・ゲーム製作集 6000円
エレクトロニクス333回路集 5250円
エレクトロニクス301回路集 6988円
電子工作もホビーですので,やはり著者のファンが欲しがる傾向が強いように思います。
「アマチュア無線 自作電子回路」「自作電子回路テキスト」はJA1FCZ大久保忠OMによる電子工作の本で,ミニコミ誌で連載された回路を掲載してあります。さすがFCZ研究所を主宰され,多くの自作アマチュア無線家を育てた方だと思いますが,だからこそこういう本を絶版で放置するのは惜しいと思うのです。
「ビギナーのためのトランシーバー製作入門」はJA7CRJ千葉秀明OMの本ですが,続編となるSSB編と共に名著だと思います。千葉OMは80年代からメーカー品に劣らない完成度を持つ自作アマチュア無線トランシーバーを高い再現性で実現していた方で,多くのノウハウを駆使して雑誌に多くの製作記事を発表されていましたが,この本はその集大成とも言える内容になっています。
「松本悟のデジタル・ゲーム製作集」は,初歩のラジオを中心に製作記事を発表された松本悟先生の本です。この頃,値段も下がって手に入りやすくなったC-MOSの4000シリーズを中心としたデジタルICを使って簡単なゲームを作る事がブームになりましたが,松本悟先生の設計した回路は非常に洗練されていて,独創的でありながら,再現性に優れていました。
最後の回路集の2冊ですが,1950年代から1970年代くらいまで,こういった回路図集が根強い人気を持っていました。プロの電子回路設計者がこれらの本を参考にしていたのですが,今眺めてみると,その当時の部品や回路技術がよく見えてきます。
・楽器
DXシンセサイザーで学ぶFM理論と応用 27666円
最新エフェクター入門―15センチのサウンド魔術師 7000円
楽器の世界も摩訶不思議です。今でもギターのエフェクタを作る工作の本はちょくちょく出ているのですが,楽器の世界は古いからダメ,という世界ではなく,古かろうが安かろうが,いい音がすればそれが正義ですので,古い本にも現役並みの価値があるわけです。
一方で,復刊することはほとんどなく,それは出版社が倒産したりするからかも知れませんが,どっちにしても音楽雑誌の出版社にとって,電子工作の本を作るというのは,その読者フォローも考えると,あまり積極的にはなれないのかも知れません。
「DXシンセサイザーで学ぶFM理論と応用」はヤマハから出ていた本で,著者の一人はFM音源の開発者である,かのジョン・チョウニング博士です。FM音源は現在でもソフトシンセを中心に使われている音源ですが,実はその音作りや基本原理をちゃんと解説した本は少なく,FM音源の初期に登場したこの本が現在でも教科書として使われているのです。
ちょっと考えてみると,今の若い人が体系的にFM音源を学ぶ機会はそう多くないはずで,言ってみれば40代に偏った技術なんではないかと思うのですが,この本を復活させることがFM音源というシンセサイザーを,人的に支えるために最低限必要なことではないかと,そんな風に思います。
「最新エフェクター入門」は誠文堂新光社から出ていた本で,初歩のラジオなどに掲載された回路が出ています。他のエフェクター自作本と違い,どちらかというとミュージシャン視点ではなく,音楽が好きで楽器も演奏する工作好きを対象にしたもので,ゲルマニウムトランジスタやビンテージワイヤを無闇に指定して再現性を引き下げるような今時の工作記事より,その合理性という点でとても好感が持てます。
実は,amazonでは価格が出ていなかったのですが「エフェクター自作&操作術 V3.1」も私は持っています。雑多な感じがしますが,とにかくたくさんの製作例が登場していて,元を正せばこの本に行き着く,という回路も珍しくありません。
出版社がもうありませんので,復刊は絶望的と思われますが,出来ればもっと多くの人の手に渡るとよいなあと思います。
・ゲーム
横井軍平ゲーム館 50155円
レイストーム (ゲーメストムック Vol. 53) 4200円
ゲームの世界もマニアックで,例えばBASICマガジンの別冊であるALL ABOUTシリーズの初期のものなどは,随分と高く出取引されているようです。
「横井軍平ゲーム館」は,ゲームウォッチやゲームボーイ,ワンダースワンの開発者として知られる任天堂の横井軍平氏を取材した本です。ほとんど同じ内容で復刊しているので値段も下がっただろうと思ったのですがそんなことはなく,こんな非現実な値段がついています。
私はこの横井軍平氏という人を技術者として師と仰いでいて,枯れた技術の水平思考を自らの指針として来ました。そのきっかけになった本ですが,まさかこれほどの本になっているとは思っていませんでした。
「レイストーム」は,当時死ぬほどやり込んだレイストームの本です。攻略本と言えばそうなのですが,今や伝説となったゲーメストの出版社,新声社のムックですから,復刊の見込みはありません。
とはいえ,もう過去のゲームですし,とっととスキャンして捨てようと思ったのですが,実はそれなりに値打ちがあると分かって残してあります。確かに,開いて見てみると,懐かしさがこみ上げてきます。
思い出せば,1995年頃までは,秋葉原でもゲームのお店が盛況で,たくさんの客がいたものです。本屋さんでも攻略本は重要な位置を占めていましたが,今はマンガの横っちょに,ごくわずかの本が列んでいるだけです。
・ガンダム
GUNDAM CENTURY RENEWAL VERSION―宇宙翔ける戦士達 7249円
ガンプラ・パッケージアートコレクション 5970円
ガンダムは息の長いコンテンツで,かくいう私も子供の頃には随分とはまったものでした。今にして思えば,モビルスーツが体系的に開発されて来たという歴史をちゃんと設定してあり,自動車や航空機,あるいはカメラや鉄道車輌のような整理された世界が作られていたことが,私の脳みそを刺激したんだろうと思います。
その設定を事後に後から裏付けた本が「GUNDAM CENTURY」ですが,1980年代初期に登発売されたこの本がようやく復刊したときに買った本が,もうこんな値段になっています。
まあその,2001年宇宙の旅とか,スタートレックのような本格的なSFと違って,科学的な緻密さをガンダムに期待するのは無理がありますが,スペースコロニーやモビルスーツという,ガンダムの鍵となる技術について,それなりの説明を行っていることは,とても面白いと思います。ガンダムを知るなら,楽しく読めるのではないかと思います。
もう1つ,「ガンプラ・パッケージアートコレクション」ですが,これはガンダムのプラモデルである「ガンプラ」のボックスアートを集めた画集です。もともとプラモデルのボックスアートには,それ単独で評価される作品性が存在しますが,私の場合それだけではなく懐かしさも手伝って買うことにしたものです。
私が言うまでもないことですが,ガンプラはボックスアートという点でも画期的でした。背景は暗い単色のトーンでグラデーションがかかっており,他のメカはほとんど描かれていません。
ミサイルが飛んだり,家を踏みつぶしたりと言った表現が全く行われず,暗く重厚なイメージを与えるボックスアートは,他のどれとも似ていない独自の世界がありました。つまり,見た瞬間にガンプラと分かるものだったのです。
「超絶プラモ道」などで,パチモノプラモの存在がにわかにクローズアップされましたが,中身はそれまで販売されていた怪獣のプラモデルそのままなのに,ガンプラブームがやってくると箱だけをガンプラ風にしたパチモノプラモがたくさん出てきます。
以後,プラモデルのボックスアートのあり方が大きく変わったと言ってもよいでしょう。ガンプラの前後でプラモデルは大きく変わりましたが,ボックスアートもその1つだったというわけです。
こうしてみると,高値になる本には,一定の規則性がありますね。1つは強い趣味性があること。そしてそれが大人のホビーであること。お金があるから高値になるのですね。
そして,学術的な資料性の高さよりは,著者やテーマなどに,個人崇拝があること。その人の本だからというコレクション性も重要な要素のようです。
そして,なにより中身が面白い事。面白いだけではなく,その面白さが語り継がれることです。同じように絶版になったシリーズでも,面白くない本はゴミですし,面白い本は宝物となります。無名のオッサンの自伝で,しかも似たような話が複数の本になっていたりすると,評価は下がるものです。
実は,今回調べる過程で,すでにスキャンして廃棄した本のなかに,随分と高価なものがいくつか見つかりました。悔しいなあと思っても後の祭りです。概して年月を経るほどに古書の値段は上がるものですし,廃棄した当時よりも今の方が値段が高いというのは,まあ当たり前の話ではあります。
9R-59とTX-88A物語 9800円
オペアンプIC実験と工作マニュアル 4000円
マイコン手づくり塾 4999円
マイコンストーリー 5200円
プロ電子技術者のコモンセンス 18000円
とまあ,いろいろ書きましたが,そもそも私は本を売ることはしない人ですし,私の本の価値は私が決めるものだと思っている人なので,どうでもいいことだということに,はっとさせられました。