microKEY AirにMIDI OUT端子を増設する
- 2025/10/01 15:17
- カテゴリー:マニアックなおはなし, make:
2年ほど前のことですが,Jupiter-Xmを弾いて憂さ晴らしをすることを続けていた時期がありました。
とても楽しく弾いていたんですが,1つだけフラストレーションを感じたのが,鍵盤の音域の狭さでした。これほどの表現力を持つシンセサイザーが37鍵というのは厳しすぎる。せめてもう1オクターブ,49鍵なら文句はない(見た目も格好いいし)と常々思っていました。もしJupipter-Xmの派生モデルとして49鍵のモデルが出たら予約して買い換えます。
まあ,そんな世の中にないものを期待して待ち続けるのもむなしいですから,当座49鍵のミニ鍵盤を外付けにしようと考えました。しかし,49鍵になるともう実質KORGのmicroKEYシリーズしか選択肢がありません。
せっかくだからとワイヤレスMIDIを経験してみようと,microKEY Airを買ったのはいいのですが,結論からいうとJupiter-Xmには繋がってくれませんでした。
BluetoothLEも,USBも,microKEY Airは「受け身」専用だからです。接続のためには,USBならHOSTが,BluetoothならSOURCEがいないと繋がりません。しかし,Jupiter-XmもmicroKEYもUSBはDEVICE,BluetootはSINK専用です。
だーっ,もともとMIDIには主人も従者もなく平等でINとOUTを繋げば即動くのが利点だったのに,物理層がUSBやBluetoothになった途端に仕切るのはPCがやってくれるだろうと受け身になって,結局DEVICEやSINK機器だけが集まっては互いの顔を見合わせて途方に暮れることの,なんと多いことか!
USBで繋がるMIDI機器がほとんどになったのですが,これもPCを核にしたシステムを前提としているからであり,鍵盤を音源を分離するというMIDIの最初の理念からは変質を遂げているのがわかります。もう,MIDIに期待される役割が変わってしまったということでしょうか。
しかしですよ,せっかくハードウェアのシンセサイザーを鳴らすのに,わざわざPCを立ち上げて鍵盤を繋ぐなんて,そんなアホな話がありますかいな。
と,憤りを強く感じた私が2年前に採った作戦が,Jupiter-XmにSOURCEになるBluetoothを装備することで,そのためにWIDI MasterというMIDI-Bluetooth変換器を買ったのでした。
当時のの艦長日誌を見ると,これはこれで使いやすく,レイテンシも少ないとあります。便利だという事で使い続けることになるかと思えば,実は全然使っていません。
というのも,他の機器との併用を考えると,もうなにがなにやらわからなくなってしまったからでした。microKEY Airを複数の機器とペアリングして使うと,以後はどの機器につながっているかわからない上に,選択的に接続機器を選ぶ手段もないのです。
MIDIならケーブルを繋ぐだけなのに,ワイヤレスにすると繋いで音を出すだけでこんなに困るなんて,話になりません。WIDI Masterも設定にスマートフォンが必要だったりするのでとにかく面倒。ケーブルならINとOUTをさっと繋ぐだけなのに・・・
ということで,microKEY AirもWIDI Masterも使うことはなくなりました。
ですが今年,PRO-800を買ってから,事情が変わってきました。PRO-800から音を出すのに,音源を内蔵するJupiter-Xmを引っ張り出すのもおかしいですし,かといってPCを起動してmicroKEY Airと繋ぐのもバカバカしいです。私はただ,PRO-800で音を作りたいだけなのです。
話は2年前と同じ道をたどります。USBホストとMIDIを変換するコンバーターを探してみると,さすがに2年の年月のおかげもあり,完成品も6000円弱で手に廃しそうですし,自作についてもRaspberryPiを使って簡単に作る事が出来そうです。
しかし,私は2年前とは違う発想にたどり着きました。
私がもしmicroKEY Airの設計者だったら,キットレガシーなMIDI信号を内部に持たせるだろう,なぜならデバッグやちょっとした実験に便利な上,その信号を用意することはとても簡単でコストもかからない・・・
そこでさっさとmicroKEY Airを分解し,あちこちの波形を見てみました。するとMIDIの信号があっさり見つかりました。32usのタイミング,8ビットのシリアル。鍵盤を押したりベンダーを動かしたらバラバラと出てくる波形なので,間違いはないでしょう。
ただ,振幅は3.3Vなので,このままではMIDI機器に繋ぐことは出来ません。5mAのカレントループであるMIDIインターフェースの物理層を作る必要があります。
内蔵することを前提にチップ部品で物理層の回路を真面目に作り,これを介してバラックでPRO-800に繋いで実験してみると,あっさり音がなりました。やはりmicroKEY Airは内部にMIDI信号を宿しておりました。
ここまでくると,microKEY AirにMIDI OUT端子を装備するための改造をきちんとやろうという気持ちになります。
まず最初に端子をどこに出すかです。標準であるDINの5Pは取り付けられそうな場所がなく断念しました。3.5mmのジャックならなんとかなりそうです。幸いMIDIも正式に3.5mmや2.5mmのジャックによる接続も規格化されたので,ケーブルは新規に用意することになりますが,これで綺麗にまとめましょう。
microKEY Airを分解し,左側のこの位置にジャックを取り付けました。
次に回路です。昨今,マイコンのポートの起動能力がそれなりにあるので,5mAのカレントループをマイコンのポートで直接実装することが一般的になっています。
簡単で結構な方法なのですが,実は今回はMIDI OUTをBluetoothモジュールへの信号からもらう事になるので,ドライブ不足が心配です。そこで真面目にトランジスタでドライブすることにしました。
教科書通りにオープンコレクタのトランジスタに電流を吸い込ませるわけですが,このトランジスタはmicroKEY Airの内部信号で直接駆動出来ません。と言うのも論理が反転しているからで,インバータが必要です。
ここで,74HC04なんかを選んでしまうと,3.3Vで動かないのでアウトな訳ですが,手持ちのTC7S04Fは3Vから動くので問題なし。これと,やはり手持ちの汎用トランジスタである2SC2412で作る事にします。
抵抗は供給側も吸い込み側も5V時代は220Ωでしたが,3.3Vではそれぞれ33Ωと10Ωです。低抵抗なので電力が心配ですが,5mAならチップ抵抗でもとりあえず問題ありません。(ただしショートを考慮すると0.5Wを見込まないといけないですから,正しい設計では御法度です)
上の写真が作った基板です。この大きさだと,ペダル用のジャックに貼り付けられるほどの大きさです。
さて,信号ですが,以下の位置から取り出します。
試しに3.5mmのTRSとDIN5Pの変換ケーブルを作って動作確認をしましたが,全く問題なし。49鍵のMIDI OUT付きミニ鍵盤が出来上がりました。見た目もPRO-800とマッチしています。
ただ,本気で使うにはちょっと難ありで,microKEY Airの問題ではあるのですが,まず鍵盤の質が良くありません。指の腹の位置が支点から近く,ベロシティが調整しにくいのが致命的です。
トランスポーズも専用ソフトからは出来るのですが,単体では出来ません。
それでも,ちょっと音を出したい時,音を作りたいときには重宝するので,microKEY Airは以前よりもずっと活躍してくれそうです。
ところで,ここまで出来るとちゃんとした3.5mmのMIDIケーブルが欲しいじゃないですか。ちょっと高いなと思いつつ,amazonで3.5mmのTRSとDIN5Pのオスのケーブルを900円ほどで買いました。
ところがこれが全く動いてくれません。調べてみるとピン配置がデタラメで,全くMIDIとは違います。コネクタの配線を変更出来ないのでゴミになるところなのですが,どうせゴミならとDIN5Pのコネクタをカッターで分解し,配線を変更して使っています。
ちょっと不細工ですが,大きくなったり太くなったりせず,普通に使えるようになったのでこのまま使い続けるつもりですが,それにしてもひどい話だと思います。ちゃんとMIDIケーブルと書いてあるんですよ,これ。