フィンガードラム,FGDP-30を買った
- 2024/08/30 11:43
- カテゴリー:散財, マニアックなおはなし
昨年秋に発売と共に話題になり,現在も品薄が続いているヤマハのフィンガードラムFGDPシリーズですが,情けないことに私はチェックが漏れており,この面白そうな電子楽器の存在に気が付いたのは,つい先日のことでした。
そもそも,フィンガードラムというのが1つのジャンルを作っていることすら私は知りませんでした。このジャンルが確立したのは4x4のパッドで本物顔負けのプレイをするプレイヤーが出てきた事にあるそうですが,今を去ること35年,私の高校の時の友人はRX5というヤマハのドラムマシンをリアルタイムで演奏し,その華麗なタム回しに心奪われましたし,私自身も鍵盤でドラムを演奏することには何の抵抗もなく,自慢ではありませんが実はそこそこ出来たりします。
もちろん難しいフレーズは無理ですし,体に入っていないリズムは叩きようがないのですが,一般的な8ビートは複数のパターンを心得ていますし,フィルインもいろいろ出来るようにしています。また,同時になるはずのない音には気を付けているので,ハイハットとスネアとか,3つのタムを同時とか,そういう人の能力を超えた演奏はしないようにしています。
もともと,打ち込みでもドラムのトラックは鍵盤でリアルタイム録音する人でしたが,それがフィンガードラムという言葉を与えられているとは知りませんでしたし,当然人前で演奏するようなことは,ウケ狙い以外では考えもつきませんでした。
35年もこんなことをやってますので今さら違和感もないのですが,確かに鍵盤でドラム演奏というのは慣れないと難しいかも知れません。バスドラムとスネアドラムが隣り合っているので,左の人差し指でスネアを叩こうとすると,バスドラムは自ずと左の中指か薬指で叩くことになります。
ハイハットは右の人差し指,クラッシュシンバルは右の中指か薬指,タムは左の人差し指,中指,薬指ということになりますが,こういう配列ではミスタッチも多いです。
もったいないのは親指がフリーになっていることですが,もともと人間には手2つと足2つしかありませんので,小安日を使わずとも数はそれなりに足りてたりします。
思い通りに指が動くようになると,あとはリズム感を養うことと多くのパターンを体に刻む作業という事になるのですが,これもまた興味がないとなかなか出来ないもので,私の場合はPOPとROCK,HR/HMくらいしかこなせないままです。
こうして30年,密かに体得した一芸であるフィンガードラムをですね,専用機で演奏出来るようになるとは思わなかったのですよ。だって,もう練習しなくてもそれなりに演奏出来ちゃう私に取って,専用機があればもういきなりデビューですからね。
で,話題になっているヤマハのフィンガードラムですが,FGDP-30とFGDP-50の2機種です。FGDP-50は上位機種で,バンドエイドのようなLCDを備えているあたり,往年のRXシリーズを彷彿とさせます。
一方のFGDP-30は見るからに廉価版。出来るだけややこしいインターフェースを廃して,シンプルに徹するのはいいのですが,機能を盛り込みすぎて限界を超えるのがいつの物ヤマハの悪いところ。シンプルな操作のためには機能を絞る必要があるのに,機能をモリモリ盛ってUIをシンプルにするという自殺行為で本当に散っていったプロダクトは,1つや2つではないでしょう。
しかし,お値段を見ると納得する物があります。FGDP-30は25000円,FGDP-50は4万円。この価格帯の楽器で15000円の差は大きいです。本当はFGDP-50で一本化して32800円くらいが適当だったように思うのですが,思うにこの2つは全く別物と考えた方がよさそうな気がします。
上位機種のFGDP-50は,プレイバックサンプラーがあったり,ディスプレイがあったりと機能的にも優れていますが,なんといってもこれ一台でセッションが可能なように,他のパートを含むデモ曲が入っていて,ドラムだけ抜いて自分の演奏を重ねることが出来たりする点が面白いです。
どっちにするかちょっと迷いましたが,フィンガードラム専用機に多くを求めるのは間違いだろうと考えて,シンプルなFGDP-30にしました。といいますが,入手可能だった機種がこれしかなかったので,他を検討しても仕方がありません。
で,先日のハモンドオルガンを買った楽器店のポイントが残っていて,これに期間限定のポイントをあわせると5000円分くらいのポイントがあります。調べてみるとFGDP-30なら在庫あり。面白そうなアイテムが2万円で即納,運命的なものを感じてポチってしまいました。
とはいえ,届くまではなかなか不安でした。ヤマハの楽器と私はどうも相性が悪く,体に馴染みません。もともと縁遠いメーカーでしたが,手に入れてもすぐに手放すことが多かったように思います。SEQTRAKも結局体が受け付けず,1年未満で売却しましたし。
それに,ただのおもちゃなら2万円は出せません。しかしヤマハの楽器の音は素晴らしいので,MIDIの音源として使えるなら買いでしょう。また,フィンガードラムに最適化されたパッドも良い評判ですので,入力デバイスとしても魅力的です。
調べてみると外部音源としても,入力デバイスとしても使える事がわかりました。これで一安心ではあるのですが,ヤマハだけに油断大敵です。
ということで,翌日届いたFGDP-30ですが,なかなかこいつは大変な代物でした。
(1)大きさ,重さ,質感など
想像以上に大きくて,想像以上に重いです。ただこれは悪いことではなく,しっかりした剛性感を持たせる工夫でしょうし,実際に少々激しいドラミングにびくともしない安定感があります。
これが安物っぽいプラスチッキーな筐体だと,演奏中に勝手に動いてしまうようなことがあるでしょう。打楽器としての重厚さを持たせる事に成功しているあたり,さすが総合楽器メーカーだと思います。
(2)音の良さ
ヤマハの楽器には,音の良さで裏切られたことはありません。安い物から高いものまで,電子楽器からアコースティックまで,本当に音にハズレがありません。この優等生ぶりが損をしているんじゃないかと思う事もあるのですが,価格以上の音質と,価格に関係なく使える音に整っている点で,実際に手に取って使ってみると本当にヤマハの楽器には隙がないと感じます。
FGDP-30も他例に漏れず,音は抜群にいいです。もちろん,2万円そこそこの楽器ですので多くを望むことは出来ませんが,パッドを触った時の音が期待を越えるというのは驚きに繋がります。楽しいです。
プリセットされているいろいろな音の完成度も高く,これは本当にドラムが好きな人が作ったんだなあと思わせるものがあります。
また,往年のRXシリーズの音も入っているのですが,これがまた良く出来ていて,ニヤニヤしてしまいます。そうなんです,RX5なんかは12ビットだったので,結構音がざらつくんですよ。このあたりも良く再現されています。
あと,シンセドラムです。シモンズなんかのあの特徴ある音を,こうして手元で再現出来るなんてのは,ちょっと夢みたいです。そもそもシモンズってちゃんと使える状態でどれくらい残っているんでしょう。
仮にフィンガードラムをマスターできなくても,この音の良さで2万円や安いくらいです。私のようにドラムに詳しくなく,セッティングやエフェクトなどがすでに完成済みでセットとして揃っているわけですから,これをそのままDTMのシステムに組み込めば,ドラムパートは安心です。
(3)パッド
パッドは本当に,本当に良く出来ています。最初,リモコンのようなゴムボタンなのかなと思っていたら,へこまないんですね。クリック感がありませんが,長時間の演奏ではかえって指が疲労しますので,このパッドは本当によく分かっている人が考えたんだなあと思います。
聞けば,FGDPシリーズを作り上げた人はフィンガードラムのベテランだそうで,いわば大先輩からのプレゼントですね。
感度もリニアリティも抜群で叩きやすく,表現がしやすいです。また,パッドの位置に関係なく同じ強さなら同じ音が出てくるので,これもかなり苦労されたんじゃないかと思います。素晴らしいです。
加えて,アフタータッチです。パッドを押し込めばチョークになりシンバルの音が止まります。私はこれまで,いろいろなMIDIインプリメンテーションチャートを見てきましたが,ポリフォニックアフタータッチを送信する機器を初めて手に入れました。こんな使い方があるんだなあと感心。
スネアも,跳ねるように演奏するときと,指をパッドにおいたままにした場合とで,響きがちゃんと違ってきます。クラッシュシンバルの連打(シンバルロールというそうです)も見事に再現出来ます。これ,鍵盤ではまず無理ですし,普通のドラム音源では再現出来ずに困るところです。
とにかくこのパッドは,本当によく出来ています。FGDPシリーズの良さは,このパッドに集約されているのではないでしょうか。
(4)演奏のしやすさ
FGDPシリーズは世界初のフィンガードラム専用機ですので,パッドの配列などは「やったもん勝ち」です。4x4のパッドや鍵飯が標準だった世界に,いきなりこの配列ですから,これまでにフィンガードラムをやっていた人からは反発もあるでしょうが,新規のユーザーを重視したという姿勢が見て取れます。
これだけパッドの配列が変わり,またこの配列を前提とした運指があるという事実は,私のように鍵盤で経験していた人には,一種の覚悟や判断が求められます。
私が仮にフィンガードラムの熟練者であるなら,自分の慣れた運指で叩けるようにアサインを変えればいいと思います。逆に全くの初心者なら,ヤマハのお奨めする運指をマスターすれば怖い物はありません。
しかし,私のように中途半端な人はどうしたらいいのか・・・我流で先に進めば限界があるのは明白ですし,さりとて今さら全くの初心者として修行を積むのもしんどいです。というかちょっと片手で8ビートをやってみましたが,厳しいものがありました。
我流で可能な範囲で楽しく遊ぶか,本気で取り組むかなのですが,これはまだ結論が出ていません。
我流で進めるにはアサインを変える必要がありますが,ディスプレイのないFGDP-30では厳しい作業になるでしょう。しかも,変更するのはノートナンバーだけではなく,音量やパン,感度やチョークのグループ割り当てなども全部変えないといけないですし,悪いことに現在の値を一覧で見ることが出来ないので,1つ1つメモを取る必要があるでしょう。ここまでの情熱を私は維持出来るのか・・・
ということで,今はとりあえず本体を右に90度回して叩いています。ただ,これだとタムが叩きにくくて困るので,なんとか解決策を見つけたいところです。
(5)楽しさ
これはもう,文句の付けようがないくらい楽しいです。ドラムはギターやピアノと違って,叩けば音が出て,アンサンブルがすぐ出来ます。赤ちゃんにだって音を出す楽しみがわかってもらえる楽器ですが,これが電子工学とリンクすると,こんな面白い楽器になるんです。
意外にバカに出来ないのが内蔵スピーカーの音の良さです。こんな小さいスピーカーでは,ドラムのキモである低音もさっぱりで,オマケのような物だろうと思っていたのですが,これがなかなかしっかりといい音を出しています。大口径スピーカーではないし,ステレオでもないのですが,ドラムの美味しい音をきちんと出してくれているので,本当によく頑張っていると思います。
試しに,外部入力から聞き慣れた音楽を入れてみて下さい。驚くほどいい音がしますよ。
さて,少し慣れてくると,外部から入力した音楽に合わせて叩くことも出来ます。これがまた楽しく,CD1枚を最初から最後まで通しでドラムを叩くということが,簡単にできてしまいます。他の楽器だとなかなかこうはいきません。
そして,決まったタイミングで正確にパッドを叩くという基本が出来たら,次には強弱を付けたり,微妙なタイミングのズレを持たせたりという,いわゆる「ノリ」を表現する練習になりますが,FGDP-30は生意気なことに,こうしたノリを求める表現にも十分に対応出来るだけの器を備えています。すごいです。
スネアを左右のスティックで短い時間差で叩くのをフラムといいますが,これが再現出来ることにも驚きました。これで,叩く場所による音の違いが連続的に表現出来たら,もうフィンガードラムでバンドに加入できますよ。
(6)残念なところ
この値段ですから多少の問題は目を瞑りますが,やはりディスプレイは欲しかったです。それからBluetoorth。今どきワイヤレスではない音源などあり得ません。まして指を激しく動かす楽器ですので,ワイヤレスで繋がらないと演奏に集中出来ないでしょう。
MIDIが標準でついてこないのも問題です。USBを経由すればMIDIを扱えますが,USBは必ずホストが必要になるので,繋ぎたいものが繋がりません。増えていったUSB-MIDIが,気が付いたらデバイス側のUSBばかりじゃありませんか?
変換ケーブルでもいいので,MIDIが欲しかったです。そうするとぱっとシンセサイザーに繋いだり出来ますし。
それから,今どきmicroUSBはないです。Type-Cでないと販売出来ない地域も出てくると思うんですが,大丈夫ですかヤマハさん?
今後に期待出来る物として,PCやスマホでパッドの割り当てを帰る事の出来るエディターがあります。FGDP-30は2つしか設定を残せないので,PCで外部の機器で管理することが必要だと思いますし,ディスプレイのないことはPCと繋がることで解決するわけですが,こうしか外部機器との連携を是非実現して欲しいです。
でも,ヤマハの悪い所って,面白い商品が出ても単発で終わり,基本的に売りっぱなしになっちゃうんことだと思います。あまり期待しないで待つことにしましょう。
(6)まとめ
FGDPシリーズは間違いなく面白い楽器です。これまでヤマハが何度かトライしてきた非鍵盤楽器のなかでも,圧倒的に実用的で,圧倒的に楽しい楽器になっていると思います。キワモノではなく即戦力として,面白いではなく楽しい楽器が,FGDPシリーズです。
問題はFGDP-30にすべきかFGDP-50にすべきかですが,これはもう予算だけで決めて下さい。FGDP-50の方が絶対にいいです。見た目もそうですが,ディスプレイがあること,単体でセッションが出来る事は,この商品の価値を十分に高めてくれると思います。
もちろん,FGDP-30でも十分に楽しいですから,25000円で買って損をしたと思う事はないでしょう。
私はヤマハの楽器とは縁がなくて,手元に残っているヤマハの楽器はほとんどないのですが,FGDP-30だけは長く楽しめそうです。他社が触発されてこれを越える物をこの価格で作ってくるかどうか,あるいはヤマハ自らが進化させてくるかどうかが,今からとても楽しみです。