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2024年01月の記事は以下のとおりです。

年末年始の修行

 この年末年始は長いお休みを頂いた上に,娘がほぼ家におらず,随分のんびりとさせて頂きました。ふとしたきっかけでひたすらアナログレコードをかけまくっていた年末年始でした。

 デジタル音源,特に配信では音楽を集中して聴かないことに私は以前から気が付いていたのですが,アナログ,それもノイズや針飛び,録音時のレベルの確認でリアルタイムで音をモニターし続けなくてはならないレコードの再生や録音に伴う時間的肉体的な制約は,期せずして新たなる音楽の発見の機会となることがあります。

 私はこれを,良い意味でも悪い意味でも「修行」と呼んでいますが,修行である以上まとまった時間は必要ですし,健康状態も精神状態も良いものでなくてはなりません。この年末年始はその絶好の機会であったということが結果的に言えそうです。

 そのふとしたきっかけというのが,嫁さんが「サウンドバーガー」を買ったことでした。オーディオテクニカのサウンドバーガーは1980年代に登場した小型のレコードプレーヤーですが,1980年代らしい知恵と工夫によって安価で手軽にもかかわらず,音も操作性も優れている名機です。それが昨年復刻したことは話題になり,当初限定生産だったものが常時販売されるようになったことも記憶に新しいところです。

 さすがにカートリッジの世界的メーカーで,今でもカートリッジを生産し続けるオーディオテクニカだけあって,搭載されたカートリッジは同社の金看板であるVMカートリッジですから,音質的にも問題はありません。

 今どきのオーディオ機器らしく,Bluetoothでワイヤレス,バッテリーはリチウムイオン電池で長寿命と,まさに現代にアップデートされたサウンドバーガーですが,見た目は当時のままのかわいらしさと実用性を備えており,久々に「わかってるなあ」と唸ったプロダクトでした。

 嫁さんがこれを買った理由というのが,手持ちのレコードを聴きたかった,というものでした。私のプレイヤーはややこしく,およそ手軽に聴けるような代物ではなかったからなのですが,その結果彼女が押し入れから発掘してきたレコードに,なかなか面白そうなものが揃っていたので,ここは気合いを入れて24bit/96kHzで録音しようという話になったのです。

 その作業が一段落して,今度は自分のレコードラックを探してみると,録音を済ませていないレコードがチラホラと発掘されました。

 はて,と経緯を思い出すと,話は高校入学時まで遡ってしまいました。

 父が知り合いから,当時ですらすでに粗大ゴミ扱いされるような古いシステムコンポを私の入学祝いにと調達してきました。

 体よくゴミ処理を押しつけられたんだなと今ならわかりますが,お人好しで物を知らない父親は,ご丁寧にお金まで払って嬉々として持ち帰っては,私にそのお金を請求して喜んでおりました。正直クズだと思います。

 とはいうものの,当時の我が家にはまともなオーディオ機器はなく,ヘッドシェルを交換出来るベルトドライブのレコードプレイヤーや25cmウーファーを持つスピーカーなどは,その金額でも十分元が取れると私も判断してお願いした経緯があったりします。

 そのプレイヤー(オンキヨーのCP-6000Aだっと思う)は性能的にもゴミ同然なのですが,とにかくカートリッジを交換出来るものとして私に新しい世界を見せてくれたことは確かで,ここから私のカートリッジを探す旅は始まったといえるでしょう。

 余談ですが,初めて購入したカートリッジ「VMS30mk2」は,このプレイヤーのために購入したものです。ただ,思ったほど音質が変わらず,その理由が結局の所プレイヤー(トーンアーム)の基本性能とイコライザアンプによるものであるとわかるのは,もう少し後になります。

 で,父親は変に気が回る人だったので,せっかくプレイヤーを手に入れてもレコードがないのは寂しかろうと,何枚か用意してくれました。(ちなみにこの代金は請求されませんでした)

 ただ,そこは父親らしく,これらが当時隆盛を誇っていたレンタルレコード店の在庫処分品だったのです。いわゆるレンタル落ちというやつで,それもトコトン売れ残ったものでした。当時はCDへの移行期でもあり,こうしたレンタルレコードの処分があちこちで見られたものです。

 1枚1000円(これは正直ぼってますね)から3枚1000円に手書きで書き換えられた値札が妙にリアルだなと思うのですが,問題はそのラインナップです。演歌しか知らない父親が精一杯頑張った結果選んだのは,松山千春となんと三田村邦彦。松山千春はともかくとして,三田村邦彦ってアルバム出してたんだ・・・TDKコアから出ていますが,大丈夫かTDK?

 布施明もありました。ちょうどアメリカに移住し,帰国直前に作ったアルバムのようです。彼はこのあと離婚して,破格の慰謝料を請求されるんですよねー。

 そんな「猫またぎ」な有名人に加えて,生沢祐一のデビューアルバム・・・加えてモンタ&ブラザースのラストアルバム・・・

 更に面白いのは,黒人アーティストの見分けがつかない人らしく,マイケル・ジャクソンと間違えて買ってきたと思われるジャーメイン・ジャクソンのデビューアルバム。漂うコレジャナイ感に窒息寸前です。

 そしてとどめを刺すのが大量の12インチシングル。初耳の方もいらっしゃるでしょうが,30cmのLPレコードを45回転で再生するフォーマットを12インチシングルと呼んでいて,当時ちょっとしたブームになっていました。

 シングルで45回転と言えばいわゆるドーナツ盤のEPレコードですが,45回転という高速でLPレコードと同じ大きさの円盤の外周部にカッティングして高音質を狙い,かつ収録時間も10分近いということで,新しいシングルとして注目を集めていたのです。

 ジャケットもLPと同じで視覚効果抜群,お値段も1200円程度といいお値段で売れるとあって,一時代を作ったメディアでした。

 ただ,そんなものを父親が知るよしもありません。案の定,12インチシングルをLPレコードと信じて,これはお買い得だと大量に買ってきたのでした。

 当時から私はフルアルバム信奉者かつオリジナル原理主義者でしたので,12インチシングルの,原曲にない間延びした間奏であるとか,イントロの前の変な朗読とか,そういうものをとにかく毛嫌いしていましたから,もう見るのも嫌で捨ててしまおうかと何度も思ったものでした。

 それが今,まだ目の前に残っています。どれどれ・・・

 The JacksonsのBest4You,・・・マイケル若いなー。
 鈴木茂のBeing70's・・・あのはっぴいえんどの鈴木茂のレアシングル!
 Face To FaceのTell Me Why・・・こんなバンドしらんな。
 ラッツ&スターのグラマーGUY・・・裏ジャケの汚い写真はどうにかならんか。

 そう,これらは何度も聴こうと覚悟を決めては,とうとう音を出すことが出来なかった,そんな苦杯の歴史そのものでした。しかし,今の私は年齢を重ね,おかしなこだわりもなくなっています。再生してみましょう。

 まずThe Jacksons。これはいい。本物ですから当然ですが,有名な4曲を安価なパッケージにした良心的な企画で,非常に素晴らしいです。

 鈴木茂は,今聴いてみるとそんなに悪くはありません。当時は退屈だったんじゃないかと思われる曲調ですが,ベテランらしく良く出来た楽曲で,もっと評価されてもよいと思います。

 Face To Faceは,当時アメリカでも流行っていたシンセサイザーを多用したポップとロックの中間で,粗製濫造な感じは否めません。今さら学ぶものもなし。

 最後にラッツ&スター,さすがに和製ソウルの先駆者だけに良く出来ていますが,やっぱり裏ジャケが汚すぎて直視できません。

 とまあ,気を取り直していろいろ調べてみると,12インチシングルというのは日本独自の文化だったようで,海外では珍しい物なんだそうです。なので,The Jacksonsのような有名どころではマニアがレアアイテムとして集めているらしく,それなりの価格で取引されていることがわかりました。ありがとうDiscogs。

 ところで,これとは別に始めた修行があります。

 一昔前,会社では主に女の人を中心とした「千趣会」がはびこっていました。今でも千趣会と言えばカタログ販売の大手ですが,1970年代でもそれは変わらず,むしろ買い物の方法が限られていた当時において職場斡旋のカタログ販売というのはありがたいものだったらしく,独自企画のシリーズ物などはそれなりに数が出たようです。

 折も折,当時は百科事典ブーム。読みもしない百科事典を全巻揃えて応接間にどーんとおくという見栄っ張りなことをやるのがステータスシンボルだった時代だけに,毎月1枚,様々な音楽を家庭に送り込むという企画は今では考えられません。

 そんな企画の1つが,「虹の音楽シリーズ」で,今でもヤフオクあたりでは定番の遺品処理の対象として安価に流通しているようです。

 他例に漏れず,我が家にもそんなレコードが全巻揃っていたわけですが,その内容はやっぱり今ひとつで,よほどNHK-FMの方が楽しく様々な音楽が楽しめたと思います。こうした企画ものというのは,結局の所選曲がすべてであると我々を諭すのでした。

 もちろん,オリジナルが収録されているものもありますし,そうでないものは大御所の石丸寛率いるケイ・ストリングスによる演奏ですのでハズレはありませんが,繰り返すように選曲がいまいちなことと,やっぱり録音が1960年代のそれということで,音源としてどうも物足りません。

 そんなアルバムが14枚あったわけですが,この中で2枚だけ,幼少期の私がよく聴いたというものがあります。「Beautiful Nippon」と銘打ったわらべ歌と,ビートルズナンバーの2つで,どちらも石丸寛とケイ・ストリングスです。

 母が言うには,言葉も満足に話せないころの私がこのレコードを聴くと首を前後に振った(いわゆるヘッドバンキングですな)そうで,まだ若く幸せだったころの母の日常を思うと,ちょっともの悲しくなります。同時に私のまさに音楽の原体験とも言えるのですが,そんなレコードだからもう傷だらけです。

 この2枚は他の12枚とは別に保管されていたので,実家の処分を行ったギリギリのタイミングで発掘されたため,私の手元にも遅れて届いたという経緯があるのですが,他のレコードは一度も再生していなかったものが大半で盤面も良好だったのに,この2枚については傷と汚れがひどい状況でした。

 特にわらべ歌については大きなキズで針飛びが起きるほどでした。しかし,これは復活させたいところです。

 とりあえず針飛びを起こさない程度に修復できることは分かっているので,顕微鏡を見ながらまち針を使って溝を修復します。音質云々は諦めて,とにかく連続して最後まで再生出来ることを目指した結果,これは上手くいきました。

 後はバランスウォッシャーで丁寧に清掃し,再生します。

 うーん,確かによく聴きました。なつかしい。

 わらべ歌も今聴いてみると,なかなか高度なアレンジで聴き応えがありますし,ビートルズナンバーも,これこそ私のビートルズの原点で,Please Mr.Postmanなんかはこっちの方がいいんじゃないかと思うほどです。

 使っている楽器がロックのそれではないので残念ですが,Hey Judeなんかもちゃんと要所を押さえていて,オリジナルに対するリスペクトを失ってはいません。このあたりが,歯医者さんで流れてくるイージーリスニングとは違う所です。

 これらの修行が一段落してみると,急に寂しくなって嫁さんと一緒に渋谷に出かけて,新しいレコードを買ってくる始末(リー・リトナーのジェントル・ソウツ)です。

 そしてそれも終わって,もう満腹となった時,またも嫁さんがレコードを押し入れから引っ張り出してきました・・・なになに,The Beach Boysだと!

 まだまだ修行は終わりそうにありません。

 

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