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2024年01月29日の記事は以下のとおりです。

実に微妙なSEQTRAK

 毎年恒例のNAMM SHOWの足音が聞こえてくるこの時期になると,世界中の電子楽器メーカーから新製品が発表になります。ここ10年ほどは大きなメーカーではなく,小さなメーカーが発表する物にも面白いものがあり,油断なりません。

 そんな1月17日,日本が誇る総合楽器メーカーにして,電子楽器の最先端を走る,VOCALOIDの生みの親,ヤマハから,興味深い楽器が発表になりました。

 SEQTRAKです。

 姿形からはどんな楽器か想像できません。鍵盤はなく,ディスプレイもありません。光り物は存在をアピールせず,どちらかというとツマミ類が目立ち,それらがグレートオレンジというかわいらしい色に塗られた横長の筐体にならんでいます。

 お値段55000円。安くはないけど,高くもないという印象・・・

 なになに,直感的な操作でアイデアをすぐに形にするミュージックプロダクションスタジオ?よくわからん。

 こういう商品は何が出来るかを知るのはなかなか難しく,従ってスペックを見ていきます。とりあえずAWM2の128音ポリというのはわかった。4オペのFM温顔があることもわかった。で???

 パッと頭に浮かぶのはQYシリーズです。VHSカセット(といっても多くの方はわからんでしょうが)サイズにシンセサイザー,ドラムマシン,シーケンサーを統合して,いつでもどこでも電車の中でも音楽制作が可能なガジェットとして登場した初代QY-10を皮切りに,小型のオールインワン音楽制作マシンとしてよく使われたシリーズです。

 とはいうものの,MIDI機器を繋いで本気で音楽を作っている人やキーボードを自在に演奏出来る人は案外持っておらす,持っているのはギタリストなんかの非キーボーディストで,しかし結局彼らはQY-10の複雑な操作をマスターできずに,後輩に法外な値段で売りつけることが散見されたように思います。私の周りだけかも知れませんが。

 かくいう私もQY-10には興味を持ったものの,店頭で音を聴いて買うのをやめました。その後QYシリーズは何世代か出たようですが,その頃にはすっかり興味を失っており,気が付いたら新品を買うことは出来なくなっていたのです。

 そう思うとQYシリーズを買わなかったことが悔やまれてきます。実際,大げさなMacなりPCを立ち上げてケーブルを配線し,大きな鍵盤に向かい合って「やるぞーいっぱーつ」と音楽を作ることはなかなか面倒になっています。

 見ればSEQTRAKなるものは小さく,電池で動き,音もなかなか良さそうな感じです。しかも128音ポリですから,同時発音数のやりくりをしなくても済みそうです。

 予約開始は1月19日,発売は1月26日という事ですが,きっと初回は売り切れ必至でしょう。QYシリーズも迷っているうちに買い逃しているわけですから,ここは買って後悔するべきではないかと予約をし,あれよあれよという間に1月26日に品物が届いてしまいました。

 もちろん,購入(予約)までのマニュアルは目を通し,動画も見てはみましたが,やっぱりよく分かりません。私の疑問は主に2つ,シンセサイザーのトラックが2つ,FM音源を入れても3つしかないのにどうやって音楽をつくるんだという点と,パターンを16個しか並べることの出来ないシーケンサーでは窮屈過ぎて音楽なんか作れないだろうということでした。

 ついでにいうと,ベースとメロディをどうやって打ち込むのかもさっぱりです。

 でもまあ,BluetoothMIDIにも対応するし,USBもついているんだから,最悪MICRO KEY2 Airを繋いでスタジオ用最小セットとして練習に使えるかもなと,割と簡単に考えていました。

 届いたところで私は,途方に暮れてしまいました。

(1)このマシンはループ音楽を作るものだった

 なにを今さら,な話で恥ずかしいのですが,このマシンはループで音楽を作る繰り返し演奏マシンです。さらにいうと自動演奏を行うためのマシンではなく,バッキングを延々ループで演奏させ,プレイヤーはリアルタイムで音色を変化させたり並べるパターンを変更して「パフォーマンス」する道具です。

 なので,アイデアを形にといっても,そのアイデアが荘厳なオーケストレーションだったり,複雑なコードプログレッションだったり,100年に一度のメロディラインだったり(大げさですが閃いた瞬間は本当に100年に一度と勘違いするものです)すると,このマシンでは全然形に出来ません。


(2)実は何にも繋がらない

 少なくともV1.10では,BluetoothMIDIもWiFiもUSBも,外部のキーボードやシンセサイザーに繋がりません。あくまでPCやスマホの専用アプリと接続するためのものと割り切った方が良さそうな感じです。

 以前にも書きましたが,私はコルグのMICRO KEY2 Airを持っています。しかし,USBかBluetoothでしか繋がらないという制約が弱点となり,ほとんど使い物になっていません。(キーそのものも弾き心地が悪いですが)

 これがSEQTRAKで使えると便利だと思ったのですが残念ながらBletoothでもUSBでも接続出来ませんでした。

 ならばとMIDIとBluetoothMIDIを変換するコンバータをSEQTRAKに付けてみたのですが,あいにく電源供給の問題から機能せず,こちらもアウト。

 こういう時,レガシーなMIDIというのは繋げばとりあえず音が出るという汎用性があり,信頼出来るんですよね。

 結局,MacをハブにしてSEQTRAKとMICRO KEY2をそれぞれUSBで繋ぎ,ようやくSEQTRAKに鍵盤を繋ぐことが出来たのでした。

 ここで分かった事があるのですが,リズムトラックのMIDIチャネルがちょっと使いにくくて死にそうでした。

 SEQTRAKはトラックごとにチャネルを分けています。このルールで行けばKICKはCH1,SNAREはCH2と言う具合になるのもわかるのですが,伝統的にリズム楽器は同じチャネルでノートで鳴らし分けますから,本当にトラックごとに楽器を分けられてしまうと打ち込む気が失せてしまいます。

 出来ればチャネル10にリズムキットを組んでもらって,GM準拠の配列でノートに振り分けておいて欲しいです。アップデートに期待です。

 それからシンセパートです。こちらもトラックが2つしかないので2つのチャネルしか使えません。これだと実質2つの音色しか使えませんから,ベースとコードを割り当てたらもうメロディーを割り当てられません。これじゃーマルチ音源としても使い物にはならないです。128音ポリが泣きます。


(3)音は結構すごかった

 そのシンセパートですが,音の良さに正直驚きました。AWM2は音が薄くて私は気に入りませんでしたが,それはもう昔の話。クオリティも高いですし,波形編集のセンスも抜群で,使える音がバンバン入っています。ストリングスもブラスも素晴らしいですが,トランペットやバイオリン,ギターと言った単独の楽器がこれほど使える音で入っているとは思いませんでした。バンドを始めた高校生は迷わずヤマハの10万円クラスのシンセサイザーを買うのが良いと思います。

 それからFM音源です。4オペといえばOPNやOPMのイメージしか持っていなかったので,これほどしっかりしたいい音が出るとは思ってませんでした。すみません。

 というのも,おそらくですがエフェクトの品位が良いからだと思います。個人的に,ヤマハのエフェクターは昔から好きで,空間系のエフェクトが好みでした。それは今回のSEQTRAKでも変わらないと思います。

 これにミニ鍵盤を組み合わせて鞄に突っ込めば,持ち運びに困らない練習セットが完成するでしょう。音も抜けがいいのでアンサンブルでも負けないと思います。


(4)アプリは必須,でも重すぎ

 操作系が独特で,ヤマハの狙いはこんな操作系でもマニュアルを見ずにサクサク操作できて思い通りに使える事にあったのでしょうが,それはどだい無理な話で,何をやっているのかさっぱりわかりません。

 ボタンもツマミも多すぎるし,今どんな状態にあるのかもわかりません。LCDなどのディスプレイをあえて搭載しなかったのはシンプルさを追求したかったんだと思いますが,ではなぜもともとディスプレイを持たなかった電子楽器に,今は巨大なディスプレイが搭載されるようになったのかを,本家本元らしく考え直して欲しいと思います。

 で,そのディスプレイの代わりとなるのが,アプリです。私はMac版を使いましたが,もう重いのなんの。M1を搭載したmacBookAirなのでまだまだ現役だと思っていますが,それでこの重さはもう市場に出したらダメなレベルです。

 しかし,このアプリがないと効率が悪くてなにもする気が起きません。ないと困るのに使うと困るという最悪の状態は真っ先に解決されねばならないでしょう。

 なお,接続はBluetoothでもOKなのですが,データのやりとりにWiFiを使うので,結局WiFiの世話になることになります。面倒くさくて死にそうです。


(4)てことで

 自分で鍵盤を弾ける人にとっては苦行です。自分のやりたいことがさっと出来ない事へのフラストレーションは想像以上の苦しさで,なにゆえこんな窮屈な仕組みに従って自分の好きな音楽を作らねばならんのだと怒りさえ感じました。そもそもこれは制作なのか,演奏なのか?

 思うに,良かれと思って作った箱があまりにきっちりしすぎていて,そこからはみ出すようなことは全く出来ません。そういう制約を超えたところにハック魂がみなぎる物なんでしょうが,それってこの商品のコンセプトとしては完全にハズレです。

 私は結局,MacでDP11を立ち上げ,MICRO KEY2とSEQTRAKをUSBで繋いで,SEQTRAKの内蔵音源を楽しみ,そこから沸いたインスピレーションで音楽を作り始めました。結局時間切れで完成しなかったのですが,いったい私はこのマシンで何をやっているだろうと,なんだかバカバカしい気分になりました。

 いやね,16パターンしか並べる事の出来ないこの手のマシンだからこそ,出来る音楽があります。無限トラックかつ無限小節はあまりに制限がなさ過ぎて,手の付けようがないものです。

 だから音源には妥協せず,パターンとトラックに「繰り返し」に特化した制限を与えたSEQTRAKは一つの解だとは思いますし,私だって仕組みに従えば,自分一人では決して作る事のない種類の音楽を作ることが出来る事を,すでにSEQTRAKで実際に体験済みです。

 でも,これって,AメロがあってBメロがあってサビの部分でドドーンとストリングスで盛り上げて,みたいな全体の進行や構成を作り上げるという,一番の楽しみが失われているように思いません?

 マニュアルを見ていれば,キーやスケールを編集できるのはもちろんのこと,コードの構成音を自由に変更出来たりするので,実はかなり奥深い事まで可能です。

 しかし,シンセサイザー2トラックに16パターンという一番厳しい枠は絶対に越える事が出来ず,はっきりいって128音ポリも細かい編集機能も,全部オーバースペックじゃないかと思います。これ,本当に楽しいですか?

 しかも入力された音には強弱がつきません。MIDI経由なら大丈夫ですが,単体で出来ることは同じベロシティ,ジャストタイミングの無機質な音を出すだけです。それが個性となる音楽なら何も問題はありませんし,それはそれで楽しいでしょう。

 でも,やっぱりアイデアを形にするには,制限が厳しいように思います。

 小節数は120小節くらい,コードをそこに並べていく事の出来るモードが欲しいなあと思いますが,多分それはSEQTRAKのあり方を根本的に変えてしまうので,無理な注文でしょう。

 音の良さは抜群だと思うので,惜しいです。

 KORGのkaossilatorも結局イライラして終わったなあ。ああ,やっぱり,この買い物も失敗か・・・

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