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2025年12月02日の記事は以下のとおりです。

気象通報のおわり

 NHKのラジオ第2放送が来年2026年の3月末に廃止になることが決まったそうです。

 ラジオ第2は普段滅多に聞かないラジオの中でも,とりわけ聞く機会がないラジオで,私自身も廃止はやむを得ないかなと思うところがあります。

 驚くほど簡単な自作のラジオから出てくる声は,その電波の強力なNHKにほぼ限られ,さらに強力だったラジオ第2はゲルマラジオでも綺麗に受信出来ました。腕が上がって難しいラジオを作るようになればなるほど,ラジオ第2以外の放送局が増えていくという感じだったので,私のような子どもの頃からラジオを作ってきた人にとって,ラジオ第2というのは原体験というか故郷というか,そんなものじゃないでしょうか。

 さて,ラジオ第2は1931年に放送を開始したといいいますから,あと5年続けてくれていれば100周年というところだったのですが,中波ラジオの放送設備は規模も大きく維持もお金がかかりますので,民放はすでにAM放送をあきらめ,設備の軽いFM放送に移行しつつあります。ワイドFMという,わかったようなわからんキャッチで呼ばれているこのサービスですが,確かに音質もいいですし,実用面で言えばFMへの移行は悪い話ではないと思います。

 ただ,NHKだけは中波放送を続ける意向のようで,当分の間は小学生の夏休みの工作にゲルマラジオを作る事が出来そうです。(ただ,先日高速道路のトンネル内のラジオの再送信が廃止になるという話を見て,自動車のドライバーでさえもラジオを聞かなくなったのかと驚愕しました)

 ラジオ第2はもともと,すでに始まっていたラジオ放送から教育に関する放送を分離して立ち上げたもので,そういう経緯もあって現在も語学を中心とした番組が多いです。

 AM2波,FM1波という贅沢な媒体を維持し,様々な番組をもれなくカバーしていたNHKのラジオですが,リスナーの減少やラジオの役割の変化,そしてインターネットとスマートフォンの普及がとどめを刺すような形で,ラジオはとうとう削減に舵を切ったことになります。

 確かに,NHK-FMなどは,聞きたいと思う放送をやってないですもん。高音質という特徴を持つFMでは,放送の機材もエンジニアもスタジオも超一流。ライブ番組などは出演者も新人からベテランまで登場して頻繁に方法され,お金を出しても手に入らない音源が,それこそ垂れ流されていた時期が続いていました。なんと贅沢なことか。

 それが今や,トーク番組もばかりです。それだってインターネットラジオに移行していないだけましなのかもしれませんが,知らない音楽に出会うきっかけになったFM放送が,その役割を変えたのは,私は残念でなりません。

 こうして隙間の出来たFMに,ラジオ第2の番組の多くは移行する事になるそうです。語学番組がFMに移行するわけですが,これはこれで良いことかもしれません。発音は高音質で聴きたいですからね。

 そんななかで,移行されずに廃止されると言われている番組があります。1つは株式市況,もう1つは気象通報です。

 株式市況は1925年スタートしラジオ第2に移行して今日まで続く最長寿番組だそうで,すでに100年です。すごいなー。これは上場企業の株価を読み上げるだけの番組なわけですが,ネットでいつでも確認出来る株価を定時にラジオで放送する価値は確かに薄いように思いますし,同様の番組が他で放送されていることを考えると,そんなに悲観するようなことではないように思います。

 悲しいのはもう1つの,気象通報の廃止です。こちらは1928年に放送開始で,ラジオ第2に移行してから今日まで続く,これまた長寿番組です。聞いたことがないという人は実は少ないんじゃないかと思うのは,これ,天気図を手書きするための放送で,中学校の授業で聞かされたり書かされたりした経験のある人を以外に見聞きするからです。

 私もそうなのですが,私はもうちょっと濃い関係がありました。中学生の頃,電子工作(あわよくばパソコン,というかゲーム)がやりたくて入部した科学部で,まず最初にやらされたのが気象通報で天気図を書くことだったからです。

 お天気に全く興味がなく,天気図なんて新聞に出ているものをちょっと見る程度だった私が,いきなり白地図のような紙を渡され,お経のような声を聞き,理由もなく天気図を書けと突然言われたときの戸惑いを想像して頂きたいのですが,私以外の部員は何の疑問も持たずに,死んだ魚の目でその声を聞き,地図になにやら書き込んでいきました。

 雰囲気に飲まれた私も同じように,読み上げられた地名に風向,風速,天気,気圧,気温を書き込もうとするのですが,まずその地名がわかりません。石垣島?南大東島?ハバロフスク?アモイ?

 1つ分からなくなると,もうそこで置いていかれます。リアルタイム書き込みはそこで終了です。そうなると2回目,3回目の聞き直しを強要され,完成まで拘束され続けます。

 これが,部活の始まる16時からの,科学部の日課でした。

 ところが,中学生の柔軟性はすごいもんです。しばらくすると地名と場所は完璧に分かるようになり,読み上げの順番も覚えてしまうので,目と手が自然に次の地名に移動するようになります。

 とはいえ,天気がレアな「地吹雪」だったりすると,天気の記号がぱっと出てこずにリアルタイム書き込みから脱落することがありました。そんなとき,終わってから友人達と「いやー地吹雪はないわー」と文句を言い合うわけです。ああ,なんと不健全な中学生なことか!

 続いて船舶からの報告です。これは場所の指定を地名ではなく,緯度と経度で行います。当然毎日同じ場所からということはありません。これが始まる直前,皆にピリピリとした緊張が走ります。

 ここをなんとか切り抜けると,引き続き緊張を維持したまま漁業気象になるのですが,これは高気圧や低気圧の位置,前線の場所を読み上げていきます。聞き漏らさないようにゴリゴリと書き込んでいきます。

 そして最後の難関,等圧線です。等圧線は,その日の代表的な気圧の等圧線が通る緯度と経度を連続で読み上げていきます。素人はその緯度と経度に×印を付け,放送終了後に繋いで完成させるのですが,慣れてくるとリアルタイムに滑らかな等圧線を直接書くことが出来るようになっていきます。ここまできてようやく一人前。

 そして放送終了後の仕上げに,各地点の気圧と等圧線の関係から,他の気圧の等圧線を何本か滑らかに書いて完成となります。

 実のところ,私も半年ほどでここまですらすらと出来るようになっていました・・・

 出来るようになってしまうとこれがまた得意になるもので,あるとき理科の授業で天気図を気象通報から書く実習が行われたとき,同じクラスにいた私を含む3人の科学部員が,多くが脱落して行くのを尻目に,等圧線までリアルタイムで書いて行くのを見て,「すげー」と喝采を浴びたことを思い出します。

 そんな気象通報,中学三年間ずっと聞き続けていましたから,今でも親近感があります。娘にそんな話をしてもピンと来なかったようですが,中学生になり学校の授業で気象通報を聞かされて,ああこのことかと思ったらしく,私に「あれを聞いて直接地図に書き込めるなんておかしい」といってました。中学生の私に,将来そういう会話が自分の娘との間にあることを私は教えてあげたいです。

 もともとこの気象通報,天気図という画像情報を広範囲に確実に伝送するための唯一の方法でした。テレビもインターネットもなく,画像の伝送は新聞が最速だった時代において,新鮮な天気図を手に入れるには気象通報から天気図を書き起こすのが最も優れた方法だったのです。

 テレビが使える時代になっても,船舶で天気図を手に入れるのに気象通報は最善でした。テレビは遠距離で受信出来ませんし,受信出来ても詳しい天気図は出てきませんし,保存も出来ません。無線を使ったファックスは高価ですしいつも受信出来るとは限りません。一方で船舶の安全な航行には気象の情報は不可欠で,人の命がかかっているだけに,今日はまあいいや,というわけにはいきません。

 そこで気象通報です。毎日定時に確実に放送されますし,電波は中波のAMですから遠距離でも届きます。紙に書き起こした天気図は消えることはありません。じっくりこれからの天気の移り変わりを検討できます。

 いってみれば,天気図を書くために必要なパラメータを,あるフォーマットにエンコードしてシリアル通信で電波で送信し,受信者はデコードして元の天気図に戻すという作業を行うことで,画像伝送を行う仕組みだったわけです。

 そして私がやった訓練というのは,そのデコードをリアルタイムで行うだけの処理能力を身につける作業だったことになります。

 いってみれば特殊技能だったと思いますが,技術の進歩というのはそんな技能を陳腐化させていく歴史でもあります。スマートフォンがあればどこでも新鮮な天気図が手に入りますから,ここに至って気象通報の意味はなくなったといってよいでしょう。

 もちろん,すでに業務の無線では廃止されて久しいモールス信号による通信が,アマチュア無線では今になって主流になっていることを考えると,単に非合理的だからという理由だけで消えてなくなったりするわけではないのですが,趣味の話と業務の話はやっぱり別で,仕事の話は経済性が重要だと考えると,使う人が少なくなった気象通報を漫然とノスタルジーで続けるような話は,やっぱりないなあと思うのです。

 それともう1つ,これは当時の科学部の先生から聞いたんじゃないかと思うのですが,NHKのアナウンサーの教育にこの番組が使われると言う話でした。地名や数字をはっきりと,噛まずに正確に発音するだけではなく,聞き取りやすく,しかも20分という放送時間ぴったりに読み上げが終わるような速度でなければなりません。

 なので,アナウンサーの技術向上にもってこいだったらしいです。しかし,これも2016年頃に自動音声に切り替わってしまった事から,その役目をすでに終えていたことになります。

 
 そんな気象通報も,ラジオ第2放送の廃止と共に,終了の予定です。

 長く続いたなあと感心する一方で,さみしさというより,世代を超えた共通の話題がまた1つ減ることに,もったいないという気持ちがわいてきました。娘との共通の話題に間に合ったことは幸いなことでありました。

 最後の放送くらいは録音しておきましょうかね。

 

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