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QuietComfort15を買う

  • 2010/01/18 15:47
  • カテゴリー:散財

 BOSEのノイズキャンセリングヘッドフォン,QuietComfort15(以下QC15)を買いました。アップルストアからWEBで購入,価格は値引き無しの39900円でした。即納だったので注文の翌日には届きました。

 なぜ,こんな高価なヘッドフォンを買う羽目になったのか,ですが,私の上に年末に引っ越してきた人の物音に,弱り果てているからです。

 今の部屋に入って8年にもなるのですが,これだけ物音の大きさにビクビクして過ごすのは初めてのことで,追い詰められるような恐ろしさにおびえているという感じです。

 もともと木造のアパートで,足音や扉の開け閉めが響くのは織り込み済みなのですが,かかとでドスンドスン歩く音がまず強烈で,天井の蛍光灯がビリビリと音を立てるほどです。最初は地震かと思いました。

 扉を閉めるときも,勢いよくパーンと閉めるので,それはもうすごい音がします。そしてじっとしていないらしく,ウロウロ歩き回るのですが,どこにいるのか手に取るように分かってしまいます。

 その割には夜は早く,11時に寝てしまうこともしばしばです。当然朝は早く,6時に起床,6時40分には出勤という感じです。私は8時まで寝ていられる恵まれた環境にあるのですが,仕方なく耳栓をして寝ていても,6時には必ず起こされてしまいます。

 どういうわけだか土日も出勤のようですし,出勤時間も帰宅時間もバラツキがあり,まだ規則性が飲み込めていません。二人いるときもあるようですが,平日は一人だけでいるようです。(ということも丸わかりなんです)

 自炊する人ではないようで,家にいるときでもお昼時と夕食の時間には1時間ほど外出してきます。

 てなわけで,まるでストーカーみたいな気分ですが,なにせ家にいても落ち着かず,一時食事も出来ないほどでした。12月の中頃から少しずつ荷物を運び始めたらしいのですが,その時から年末年始の間,毎日毎日不意にゴトゴトと音をさせ,その神出鬼没な攻撃に,さながらベトコンにおびえ心を病んでいくアメリカの新兵の気分でした。

 相手も悪気があってやってるわけではありませんし,朝6時の起床だって別に普通です。夜は早く寝てしまって夜中も静か,土日も不在が多いので,非常識と呼べるものは何一つなく,ただ,普通の足音が強烈だ,ということだけなのです。

 だから,苦情をいうのも難しく,ある程度の我慢は必要だろうと思う訳ですが,この部屋に来て8年,一人暮らしをはじめて15年になる私にとって,怖いと思うほど大きな歩く音は,未経験です。

 そういう歩き方をする人って,世の中にはいるでしょうし,今までそれで困ってこなかったのだろうから仕方がない気もしますが,誰かが下にいるかどうかを意識するまでもなく,いい大人が,大きな音を出して騒々しくドカドカ歩くということが,私にはみっともない事と思えてなりません。そういうことを気にしない親御さんだったんでしょうね。

 まあそれはそれとして,引っ越しをするにしてもすぐには無理,すでに会社から家に帰ることが嫌で,家にいてもずっと鼓動が早く,落ち着かない状況でいるのは体に悪いだろうと危機感が募っていました。

 寝るときは耳栓をして,かつ音が最も大きい扉の音から遠くなるように布団の向きを変えていますが,それでも目が覚めるくらいの音ですから,耳栓無しで過ごさねばならない起きている時間帯をどうにかしないと,もう参ってしまいます。

 そこで思いついたのが,ノイズキャンセリングヘッドフォンです。

 電子耳栓ともいうべき,最近流行っているこの電子機器ですが,私はかなり否定的な人でした。これは,電気の力を使って聴力を落とす機械です。不自然という直感的な気分が1つと,周囲からの情報を遮断するという事は,社会との関わりをカットするという意思の象徴的行為であり,それは自ら「孤独」を肯定し作り出しているという,究極の個人主義の形であると思ったからです。

 しかし,もともとノイズキャンセリングヘッドフォンは航空機の騒音をキャンセルして快適に過ごすことを目的に生まれましたし,戦闘機など軍事用途への応用では,パイロットの耳の保護が目的で採用されたりという,非常にまっとうな目的がその源流にあります。

 今回は,もう防ぎようのない「嫌な音」を防いで,心身ともに疲労するのを防ごうということですので,娯楽製品と言うよりも医療機器に近いという位置付けで,私は導入を真剣に考えることにしました。

 ノイズキャンセルヘッドフォンは今ブームですので,あちこちのメーカーから,高価なものから安価なものまで,それはもうたくさんの種類から選ぶことが出来ます。ただ,動作の確実な高価なものは実質2社で,BOSEとソニーです。

 ソニーは信号処理をDSPで行うディジタル方式で,実売が3万円ちょっとという感じです。性能の高さも定評があります。一方のBOSEはアナログ方式ですが,さすがに老舗ですし,30年もこの分野のリーダーだった会社ですから,作るものは確実でしょう。事実,BOSEのノイズキャンセリングヘッドフォンで,その消音効果に不満は一切耳にしません。

 BOSEではQC2,QC3,そしてQC15の3つが現在買うことの出来るものですが,QC3は耳の上から押しつけるタイプなので耳が痛くなり,長時間の使用には耐えられないと思われますので最初から除外。QC2とその後継のQC15になりますが,QC15は価格も下がり,電池も単4が1本であること,そして連続35時間動作するということで,申し分のない仕様です。

 私は,サーっというバックグランドのホワイトノイズがものすごく気になる人で,ノイズキャンセリングヘッドフォンがノイズを発生させてどうする,という笑い話に使うほどです。このノイズの大きさに関して言えば,ソニーの評判は今ひとつのようですが,対するBOSEは,最新のQC15についてはほとんど聞こえないとい話です。

 もう1つ,QC15は直販モデルなので,量販店では買えません。直営店では試すことも買うことも可能ですが,そんなにあちこちにあるわけではありませんし,もちろん値引きもポイントもありません。一方のソニーのものはどこでも手に入ります。この安心感というのは,心理的に結構大きなものがあります。

 散々悩んだのですが,QC15については悪い評判を本当に聞かないということで,もうこちらに決めました。あまり長い時間悩むことは,購入理由から考えて得策ではありません。とにかく急いで最高のものを手に入れることが,今回は重要なのです。

 BOSEの直販サイトへ行くと,納期が数日かかるという事で,次に探すのはアップルストアです。アップルストアではリアル店舗でも在庫があったりするそうなので,渋谷あたりに出向いてもよかったのでしょうが,24時間以内に発送可能ということで通販を使う事にしました。どのみち値引きもないのですから,もうどこで買っても一緒です。こういうのも気が楽なものです。

 さて,翌日届いたQC15,早速使ってみました。


(1)消音効果

 最初,すーっと周囲の騒音が消えたことに感心しましたが,私は耳栓をして眠る人なので,音がきこえないことを珍しがったり,とりたてて感動したりはしません。それで,実際に自分で扉の開け閉めをしたり,壁をコンコン叩いたりしてみましたが,どうもそうした音は良くきこえるんです。

 期待はずれかなと思ったのですが,そうした音を出していても,全然不愉快にならないことに気が付きました。

 つまり,私が嫌だと思っている低い音,特にドスンドスンという音については,確実に消えているんですが,扉が閉まるときのカーンという音や,人の話し声などはそれほど消えず,耳に入ってくるのです。

 また,近くで行われているマンションの工事の音も,ほとんどきこえなくなりました。特に重機のエンジン音は全くと言っていいほど聞こえず,金属があたるカーンという音くらいがきこえてくるので,工事をやっていることは分かりますが,不愉快な音は消えています。

 もともと飛行機のエンジンの音を消すために生まれたヘッドフォンで,特に不愉快な周波数の音を小さくすることが目的ですから,私が怖いとか不愉快と思う周波数成分を,きちんとカットしてくれているのでしょう。

 すべての音をカットしてしまうと,本当に周囲から切断されて社会性を失いますが,これは音として出ている情報のうち,人間が苦手な周波数成分をカットして,それ以外は聞こえるようにすることで,外部の状況を見失わず,また自我をきちんと保てるように絶妙な調整がなされているようです。

 技術的に全帯域を消すことも可能かも知れませんが,それこそ聴覚を失うに等しいわけで,外からの適当な情報の流入を防いでしまうと,その弊害の方が大きいはずです。QC15が見事だなと思うのは,ちゃんと外からの情報を通して使用者の実生活に支障のないようにした上で,不愉快だったり有害だったりする部分をきちんと消すことにあります。どこをどれくらい消せばよいのか,そこが各社のノウハウになるのでしょうが,QC15のそれはかなりのものがあるように思います。

 ここで,私はノイズキャンセリングヘッドフォンを,周囲の音を逆相で打ち消すという「音を消す装置」と思っていたことが間違いで,特定の周波数成分を取り除くものという認識に改めました。

 そもそも密閉型のヘッドフォンですので,スイッチをオフにしてあっても,かなりの音が遮断されます。だから,この段階でかなり情報量が落ちているとは思いますが,そこもまあ絶妙で,人の話し声や物音は消えません。

 不愉快な音の成分についてつらつら考えたのですが,危険な事,命にかかるような事が起きている,もしくは起きそうな時に出ている音に,どうも落ち着かないのではないかと思います。

 それはもう反射的な連想ともいえるのですが,例えば電話の呼び出し音や玄関の呼び鈴にどきっとしたり,扉をドンドンと叩く音に怯えたりという話は,実体験を持つ方もいらっしゃるでしょうし,そうでなくとも話くらいは耳にされたこともあるでしょう。

 そういう成分をカットすれば,安心して生活が出来ます。完全に音を消すとかえって危ないのは自明ですが,外で何が起きているかを知るくらいの情報はきちんと入ってきます。それがさらに安心と落ち着きに繋がります。


(2)バックグランドのノイズ

 ノイズキャンセリングヘッドフォンに付きものだったバックグランドのノイズですが,評判通りほとんど聞こえません。かなり優秀だと思います。


(3)装着感

 装着感も抜群です。パッドが柔らかすぎず硬すぎずで快適なこと,左右からの締め付けも適度で圧迫感は少なく,ヘッドバンドの位置もちょうど良いので,少々首を動かしたくらいでは外れたりずれたりしません。軽いこともあって,しっかり装着出来ている上に,付け心地もとても快適です。私はこれを4時間ほどしていましたが,付けていることを忘れるほどでした。


(4)音質

 音質については,私はそれほど求めていませんでしたから,まあどうでもよかったのですが,実際の所音を消してしまうと,テレビやオーディオの音はこのヘッドフォンを経由して聞くことになってしまいますから,実は音質は結構重要なポイントと言えます。

 QC15の音は,低音がやや強い傾向にあり,高域の伸びがないことと,解像度が低いことがまず最初に気になりました。ロックやポップスだと元気が良くてばっちりでしょうが,クラシックやジャズを聞き込むには,ちょっともの足りません。

 スタックスのヘッドフォンと比べるのも間違いですが,切れ味やスピード感は今ひとつな印象です。ですが,聴き疲れすることのない音で,中域の豊かさからくるボーカルの自然さには,とても心地よいものを感じました。

 加えて,ノイズキャンセルの効果も絶大で,静かな環境だけに良く音がきこえます。長時間の利用に対して,音で疲れるということが全くない味付けに,BOSEという会社のノウハウの高さを感じました。


(5)電池

 電池は前述の通り単4を1本です。QC2やQC3が専用の充電池だったことを考えると,非常に望ましい進化です。1本で35時間ということですから,1週間くらいはつかえるでしょう。私は付属のアルカリ電池がなくなったら使おうと,エネループを用意しました。


(6)外観,デザイン,質感

 外観は見たままですが,シルバーが目立つデザインはちょっとぎょっとするので,もう少し落ち着いたデザインにして欲しいと思いました。質感はもともと軽いこともあり,値段よりもちゃちに感じます。ソリッド感がないというか,しっかり感がないというか。決して悪いレベルではないのですが,中国製だといわれれば,その通りかなと思う感じでしょう。


(7)ケーブル

 ケーブルは160cmほどもあり,結構長めです。細いので取り回しは楽な方ですが,それでもテレビやPCに繋ぐと視野にケーブルが入ってきます。手に引っかかりそうで面倒臭いです。また,席を離れるとき,トイレに行くときなど,足先まで届くほど長いケーブルですから,はっきりいって邪魔です。

 大事な事なのですが,ケーブルを本体から外して使えます。本当に電子耳栓として使う事ができるのです。ケーブルが長いのは,ケーブルを外せるようになっているからだと思います。

 なお,ケーブルが外せるようになっているとはいえ,本体との接続は特殊な4極のプラグで,接続機器のインピーダンスに応じてゲインをHとLで切り替えるスイッチもついています。

 私がヘッドフォンを消耗品と考えるのは,ヘッドフォン本体は壊れてなくとも,ケーブルが壊れてしまって使えなくなってしまうからです。せっかく耳に馴染んだヘッドフォンですので手放すのは惜しく,その点プロ用のモニタヘッドフォンには,ケーブルを交換可能にしてあるものもあります。

 QC15もケーブルだけ別売りで購入可能ですので,長く使えそうです。


(8)付属品

 キャリングケース,飛行機の座席にあるジャックを変換するアダプタくらいのものです。キャリングケースは収まりも良く,使いたいと思ったのですが,ヘッドバンドの長さを最も短い状態にしないと収納できず,いちいち調整をしないといけないのは面倒なので,普段使いでは使わないことになりそうです。


(9)まとめ

 実は友人がWalkmanのXシリーズを持っており,週末これに搭載されているディジタルノイズキャンセリングを試してみる機会がありました。

 比べてみると,QC15よりも消えた音の成分が多いという印象です。嫌な低音もしっかり消えていますし,それ以外のものがぶつかる甲高い音も,室内モードに設定するとQC15より良く消えている感じがします。ノイズはやや多いのですが,気になるほどのレベルではなく,かなりよいと感じました。

 しかし,ノイズキャンセリングを行ったときの違和感というか,位相のズレのような感覚というのは,QC15以上のものがあります。QC15はすごく自然なのですが,ソニーのものはちょっとねじれたような感覚がありました。打ち消し用に作った波形の位相の違いでもあるんでしょうか。

 慣れの問題もあるとは思いますが,とにかく私はソニーのものは長時間はきついと思いました。QC15の情報の整理の仕方や装着時の違和感のなさ,快適さは,まさに特筆すべきものがあると思います。

 果たして4万円の価値があるか,といわれれば,これは難しいです。耳を大きな音から守る必要があるとか,工事現場が近く半年ほど毎日騒音に悩まされるとか,物音がうるさくて集中できないとか,そういう状況では確実に意味があると思います。

 特に,ノイズキャンセリングという機能に必要性がある人というのは,長時間の装着が避けられない人も多いことでしょう。装着感が優れていることは必須ですし,音も聴き疲れしないようになっていることは,長時間使用にとって最低限欲しい性能です。

 私自身は,これまで自分の部屋の真そばの3方向がマンションの工事だったことがあり,特に重機のディーゼルエンジンの音に随分と悩まされてきました。それがこれでスカッと消えたわけですから,どうしてもっと早くにこれを買って幸せにならなかったのだろうかと,後悔をしています。

 相手が原因で発生した不愉快に4万円かけて対策するという事に抵抗のある人もあるかと思いますが,相手に落ち度がなく,また社会というのは持ちつ持たれつな所がありますので,むしろ4万円くらいで問題が解決するなら安いものといえるかも知れません。

 最後になりますが,例えば子供の騒ぎ声が不愉快だからとこれを買っても,おそらくそれほど消えません。きっとがっかりすると思いますが,それを消さないこともBOSEのノウハウだと思うしかありません。また,これを装着して外出すると,音はそこそこ聞こえるので油断しますが,危険を察知するのに必要な成分の音が消えていて,エンジンの音とか電車の音などは消えて危険ですから,基本的に装着して出かけないことをおすすめしておきたいと思います。

 ところで,ケーブルの長さに面倒臭さを感じたときは,Bluetoothでワイヤレスにするとばっちりです。私も地デジマシンのUSB端子にドングルを取り付け,手元のステレオヘッドセットを使ってワイヤレス環境にしてみました。

 結果は上々で,もうあのケーブルをだらだら引っ張ろうとは思いません。ヘッドフォンを自由に選んで使えるステレオヘッドセットはまだ少々高価ですが,QC15との組み合わせは本当に快適です。

さようならラジオ技術

 ラジオ技術,と言う自作オーディオの専門誌があります。1950年代に創刊された歴史のある雑誌ですが,戦後の産業の代表であるエレクトロニクスの発展を色濃く映してきた雑誌です。

 当時の最先端技術であるラジオの回路技術や自作,修理についての情報は需要も多く,それらを扱う専門雑誌はいくつもあったのですが,ラジオの時代が終わり,テレビからオーディオ,コンピュータへとエレクトロニクスの主役が移っていくに従い,子供向けに軸足を移すもの,コンピュータやディジタル技術に追随するもの,そしてマニア向けのピュアオーディオに特化するものと,分化していきました。

 結果として,ピュアオーディオに特化した趣味性の強いラジオ技術と無線と実験が生き残っているわけですが,そのラジオ技術も現在出ている2010年2月号で1つの節目を迎えることになったようです。

 2006年あたりから,店頭売りをやめ直販のみにするという方針を告知,長く読者に予約を募っていたのですが,とうとう来月号から切り替わることになりました。

 2008年頃から,「切り替えられるだけ十分な予約が集まっていない」という理由で,何度も予定を変更して直販への切り替えを延期してきたので,もうこのまま切り替えなどないのではないか,もしかすると切り替えることなく休刊するのではないかと心配をしていたのですが,いつもの本屋さんに立ち寄ると,来月から切り替わるという案内が出ていました。

 店頭販売分の最終号は,私にとっての最終号と同じ意味を持ち,内容の如何にかかわらず買うことにしていましたので,さっと手に取りレジへ向かいました。

 ラジオ技術は,80年代にはマニアックすぎてさっぱり理解出来ず,また面白いとも思えませんでしたが,90年代に入ってからは,大変面白く読んでいました。

 無線と実験と双璧をなし,間違いなく日本の自作派を支え,その先端を切り開いてブームを作り上げた立役者だったと思います。

 例えばロシア製真空管6C33C-B,例えば中国製の50CA10,例えばCS8412,例えば2ndPLLと富士通のバリメガモジュール,てな具合に,その時々の自作派が,メーカー製のオーディオ機器に対抗するための創意工夫を総動員した時期の,まさに発表の場であり,流行の発信地であったように思います。

 また,黒田先生のトランジスタアンプ設計法は今なおディスクリートアナログ回路のお手本となっていますし,海老沢先生のカートリッジの話は資料としても一級品です。これらもラジオ技術と言う雑誌の大きな功績でしょう。

 メーカー製の製品の解析を行ってみたり,まだまだ取り扱いの少なかった海外の高級オーディオ機器の紹介を行うなど,多様化するオーディオという趣味に1つの提案を行った点も,評価されるべき点です。

 さらに,トーンアームやスピーカユニットから自作するようなチャレンジ精神あふれる記事が度々出ていたことも印象的で,高価な海外製機材を美しい写真と提灯記事で紹介するだけの,カタログ以下のオーディオ雑誌を鼻で笑うかのような誌面には,居心地の良ささえありました。

 残念な事に,ここ数年はそうしたアグレッシブな記事も少なくなり,読者と執筆者双方の高齢化が進んだことを思い知らされます。近年の真空管アンプブームやアナログレコードの復権,団塊世代のリタイヤなど追い風になる要素は多くあり,無線と実験がそれなりの鮮度を保っていることに比べると,この辺でもう勝負あったかな,という気もします。

 手元にある2010年2月号を見てみると,大手オーディオメーカーの広告は,アキュフェーズ,オーディオテクニカ,マランツのわずかに3つ。広告収入を柱として運営する雑誌という形態がすでに破綻していることは明確で,よくこの満身創痍の中で店頭売りが出来るものだと感心します。

 2年の購読をすると,1冊1000円になります。1冊の価格が1500円ですので随分安くなりますし,出版側としては2年分の前払いを手にすることが出来るわけで,資金的にも楽になることでしょう。(後になるほどきつくなるのですが)

 直販に切り替えるという事は,実際に売れる数が少ないにもかかわらず,流通にのせて本屋さんに並べるため,売れないことが分かっていてもそれなりの数量を印刷せねばならないという最悪の状況に終止符が打てることを意味します。

 本屋さんにおいてもらっても,売れなければ返品されますし,返品されればバックナンバーとして保管されるか,大多数は廃棄されます。出版とは倉庫業だ,という人がいるくらい,在庫という問題が重いのです。

 ラジオ技術の場合,1991年からのバックナンバーが手に入るそうです。いくらなんでも月刊誌で20年近くも前の雑誌が手に入るというのは,ちょっと異常です。

 予約販売に切り替えて,お店に並べない事にすれば,まずたくさんの量を印刷しなくても,予約されている分だけ用意すればいいことになります。返本のリスクもありませんので,在庫も持たずに済み,廃棄もしなくて済みます。

 しかし,多くの人の目に触れなくなりますので,広告収入は地に落ちるでしょうし,新規の読者を開拓できません。読者の中心が高齢者であるラジオ技術の場合,読者数は今後減ることはあっても,増える事はもうないでしょう。

 さらに,定期購読で安定した数が確保出来るなら,内容については今以上に無頓着になる可能性も否定できません。かつて,これらの自作雑誌は新しい回路が発表され,フォロワーが生まれ,1つの潮流となったものですが,そういう流れはもう期待できないかも知れません。

 私自身は,とりわけ最近のラジオ技術に対して,読むべき所は1つもないと思っています。当然予約はしません。細かくは書きませんが参考にも資料にもならない内容に1500円の価値はないと,その凋落ぶりには目を覆うばかりです。


 さて,今,私の左側には,日経エレクトロニクス,ラジオ技術,トランジスタ技術の3つを重ねて置いてあります。3冊の雑誌が,やせこけてしまったことに,改めてはっとさせられました。

 従来通りの雑誌という形態では難しい事であっても,新しい方法でその役割を果たせないものかと,雑誌社も模索をしていると思いますが,購読者が受益者として直接その費用を負担する仕組みによってでも,なんとか存続してくれればと思います。


 ラジオ技術社がインプレスグループの一員となり,由緒ある社名をインプレスで始まるカタカナの名前にした段階で,もう一区切り付いていたのかも知れませんが,私にとっては,本屋さんで中身を見てから買うという買い方の出来なくなった今が,お別れの時期だと思っています。

 もちろん,雑誌そのものは存続しているし,ファンもいれば執筆者の先生も創意工夫を懲らした工作を紹介されることと思いますが,私としてはここでお礼を言っておきたいと思います。

 長い間,ありがとうございました。ラジオ技術は,私にとってお手本でした。

買ったぞラムダッシュ

  • 2010/01/08 15:19
  • カテゴリー:散財

 正月に実家に戻った際,しばらくぶりに顔を合わせる弟と少し話をしました。実家までの途中で梅田のヨドバシに寄り道し,そこで髭剃り(とガンプラ)を買ってきたといいます。

 見るとそれは,昨今あちらこちらで目にするパナソニックのラムダッシュ。自動洗浄ではないタイプですが,基本仕様は最上位機のものと同等で,そのそり味は最高のはずと息巻いています。価格は2万円ちょっとという話です。

 なぜそれを?と尋ねると,彼はアトピーがひどくなり,医者から化粧品などの刺激物は厳禁,ヒゲも剃るな,と無理難題を突きつけられて困っていたそうです。しかしヒゲを剃らないわけにはいかず,肌に優しい髭剃りを探したところ,このラムダッシュに行き着いたというのです。

 私も彼もそうですが,ヒゲが濃いほうなので,深ぞりを求めてずっとブラウンのユーザーでした。しかしブラウンは肌への負担もそれなりにあり,私などは下手をすると血が出ることもあるほどです。切れ味と肌への負担は両立せず,どちらを重視するかで振動式と回転式を選ぶというのが,私の固定観念でした。

 ところがここ数年でパナソニックのラムダッシュが,その両立を果たしているという噂がチラホラと聞こえるようになります。髭剃りの世界はブラウンかフィリップスというヨーロッパ信仰が根強く,国産は電池で動く安物か,中途半端で無個性で,つまるところこだわりのない人が買う無難なもの,というイメージも私にはあります。

 そういえば昨年のタモリ倶楽部でも,フットボールアワーの岩尾さんがラムダッシュを絶賛していました(過去の最上位機種が木目調でセルシオみたいだったというのが笑えました)し,さすがに私もちょっと気になっていました。

 それにしても,あの醜悪なデザインはどうか。

 まるで蟻の頭のような大きなヘッドに,不気味な曲線で作られた細身のボディ,自動洗浄機の「いかにもパナソニック」といった何の変哲もないデザインとの不釣り合い加減。タモリ倶楽部での実演でも改めて分かったのですが,使っている様子があんなに滑稽に見えるとは。ついでにいうと,意味不明な「ラムダッシュ」というネーミングがこっぱずかしくて背中がむずむずします。

 一方で,私のブラウンの中級機種(BS7630)は購入から7年が経過し,電池も弱ってきていてそろそろ買い換えないといけないという切迫感がありました。それを見越して刃も2年近く交換していていないので,切れ味も最悪になっています。ここで機種選定に迷うくらいなら,もう1回だけ刃を交換しようと電気店に向かったのですが,弟のしたり顔と「いやー最高やな」という感想が,妙に気なり出しました。

 この際だし,買うか,ラムダッシュ。

 帰り道の家電量販店でふらふらと髭剃り器のコーナーを見ていると,弟が買った値段と同じくらいで売られています。私は以前のブラウンで憧れだった自動洗浄を買い,そこで期待以上の満足感を得た人なので,今回も自動洗浄モデルしか対象に入っていません。

 弟が言ったように,自動洗浄は通常モデルよりも6000円ほど高いのですが,毎日,しかも長く使うものだからこそ,自動洗浄は必須だと思っています。後で6000円足して自動洗浄に出来るわけでもないので,ここで迷う奴はチキンだと言い切ってしまいましょう。

 ということで,結局自動洗浄付きのES-LA72を購入。26800円でした。実はamazonで買うともう3000円も安いです。ヤ○ダ電機が安いなんてのは絶対ウソだと思います。

 まだ使い始めて数日ですが,こういうのは初期の印象がすべて。ファーストインプレッションを書いてみたいと思います。なお,そもそもオッサンの髭剃りの話ですので,綺麗なものではありません。ご了承ください。


・使い方

 これまで使っていたブラウンのものは3枚刃で前後対称でしたが,ラムダッシュは4枚刃で,前後は非対称です。ということは常に向きを意識して動かさないといけないので,これまでの調子で髭剃りを動かすわけにはいきません。これがなかなか難しく,これまでのようにスムーズに動かせません。

 この辺は慣れだと思うのですが,同じ振動式だと思って買い換えると,この違和感の大きさに驚かれると思います。

 印象としてはブラウンは線接触,ラムダッシュは面接触,これくらいの違いがあるように感じました。


・そり心地

 これはもう抜群です。噂に違わずと言いますか,2万円そこそこでここまで見事にそれるとは,日本人がこだわる民族だという事を再認識させてくれます。このそり味のためにヘッド部分に毎分14000回振動する小型リニアモーターとヒゲをつまみ出す振動モーターを2つも入れたわけですが,結果としてあの不細工なデザインです。設計者がそり味だけを追い求め,それ以外の要素に目もくれなくなっていく姿が目に浮かびます。この熱いこだわりっぷりこそ,日本人の仕事です。

 切れ味も爽快ですし,ヒゲの濃い部分にさしかかってもモーターの回転数が落ちない蹂躙っぷりも見事です。ヒゲの悲鳴が聞こえてきます。

 深ぞり性能も従来のブラウンのものとは比べものになりません。たぶんヒゲの伸び方からいって,2,3時間分は深く剃れているのではないでしょうか。


・肌への負担

 これこそ声を大にして言いたいところで,本当に肌への負担がありません。肌が全然痛くありませんし,ささくれだったりザラザラになったりもせず,本当にヒゲだけが切り取られたような感じになっています。

 これは2つの理由があるように思います。1つは切れ味がそもそもよいこと。もう1つはヘッドが大きく肌に触れる面積が大きいため,圧力が分散するということです。

 持ち方もあるのですが,気が付くとこれまでのように,ぐっと力を入れて押し当てていません。力を抜き,まるでなぞるように顔の表面を滑らせていくことが,とても自然に出来るようになっています。

 良く剃れるから余計な力を入れないし,しかも面で受けるから本当に肌に負担が小さくて済みます。また,深ぞりが出来るということから何度も何度も同じ場所を剃ることもなく,そういう点でも肌が傷まないようです。

 あと,内刃の往復速度が圧倒的に速く,ヘッドを動かす速度が高速でも十分深ぞりが出来ます。ブラウンの場合,あまり早いとそり残すのでゆっくり動かすのですが,結果として強く押しつけることにもなり,肌への負担が大きいのでしょう。

 それと,これまでずっと電気カミソリ用のプレシェーブローションを使ってきたのですが,これはやっぱりそり残しが減るからで,ラムダッシュに切り替える際,後述する洗浄液が汚染されることを避けるため,使わないようにしました。しかしそれでも全然剃れるのです。ローションを使わないで済むため,ますます肌が荒れなくなったということもあると思うのですが,こういう効果も期待できることを付け加えておきます。


・自動洗浄

 ラムダッシュというとその髭剃り性能に注目が集まりますが,私はあえて自動洗浄について考察したいと思います。

 結論から言うと,これはブラウンの方がよいです。ブラウンでは潤滑剤入りのアルコールで洗浄しますから,脂質も汚れも綺麗に落ち,殺菌能力も高く,嫌な匂いとは全く無縁です。また,洗浄後に乾くまでの時間も短く,洗浄中はアルコールのほのかな匂いが心地よいです。

 それに,カートリッジの交換ですべての液体とこれを蓄える機構が新品に交換され,しかも液体が通る途中の経路もアルコールという揮発性の液体が通るため乾きが早く,非常に清潔です。

 この点はなかなか重要だと思っていて,そもそもアルコールですから腐敗することもカビが発生することもないでしょうが,定期的にタンクも交換される仕組みというのは,タンク内部の衛生状態を気にしなくても良いという大きなメリットがあります。

 一方のラムダッシュですが,本来をウォッシャブルにした上で,水道水に専用の洗浄剤を溶かす形で洗浄液を作り,これを循環させてカートリッジ内部にあるフィルターでヒゲくずを集める仕組みです。いうなれば,洗浄能力は本体の「水洗いOK」によって成し遂げられており,自動洗浄機は洗剤を溶かして循環させ,ゴミを集める仕組みに過ぎないといっていいでしょう。ブラウンでは本体は水洗いできませんから,自動洗浄機によって文字通り洗浄されるという点で,設計思想からして異なります。

 メーカーの話では,アルコールでなくても同等の洗浄能力,殺菌能力があるということで,引火やこぼした場合の始末の悪さというデメリットの大きなアルコールを使わず,あえて安全な水を使う方式を選んだというのです。

 ただし,ブラウンがユーザーにほとんど気を遣わせずとも高い洗浄能力を実現しているのに対し,ラムダッシュは他の液体や薬剤,例えばシェービングローションとか他の洗浄剤,水気などが洗浄液に混ざると洗浄力が落ちたり雑菌が繁殖するため,それらをよく落としてから自動洗浄しなければなりません。

 さらに,そういう面倒な洗浄液を使っているにもかかわらず,タンクは洗浄機に存在していて,交換するわけではありません。カートリッジのフィルタが限界までヒゲくずをため込んだら,カートリッジの交換と一緒に,タンクから洗浄液を捨てる必要があります。そして,そのタンクは言うまでもなく再利用され,綺麗な水道水に入れ替えて洗浄機にセットされることになります。

 タンクは小さな口が開いているだけで,内部を洗浄できません。水に洗剤が溶けた洗浄液が1ヶ月もそこにとどまり,しかも不潔なゴミが溶け込んでいるわけですから,いずれ汚れて不衛生になることは避けられないでしょう。

 水がベースですので,乾くのにも3時間近くかかりますし,洗浄液が通る経路については,例えば冬場などはずっと濡れたままになることでしょう。私は,これはどう考えても気持ち悪いと思います。

 現時点では別に問題はありませんが,それでもブラウンの場合はさわやかな香りがしており,鼻の下を剃るときなど心地よいものですが,ラムダッシュはさわやかな香りもしません。大したことではないように思えるのですが,こうしたちょっとした心遣いというのが,ラムダッシュにはないように思います。

 まあそこは,自動洗浄を最初に実用化し,それをセールスポイントとして君臨するブラウンと,あくまでそり味に力点が置かれ,自動洗浄はどちらかというと営業面からの機能というラムダッシュとの,決定的な差だと思います。

 なお,私は実家にブラウンの水洗いOKの下位機種を常備しており,帰省の度にそれを使うのですが,ハンドソープでいくらしっかり洗っても,どうしても出てしまう洗い残しが原因で,あのいやな匂いを消すことが出来ません。

 これが自動洗浄になると全く臭わないのですから,やはり効果は絶大です。ラムダッシュでは水洗いOKの本体を自動洗浄するのですから,洗い残しなど出ないくらいしっかり洗浄してくれるのだろうし,殺菌も行うので匂いは出ないでしょうが,果たしてその洗浄液とタンクなどの機構がどれくらい衛生的に保たれるのか,ちょっと心配です。

 これはもうしばらく使ってみないとわかりませんね。

 ただ,いい面もあります。カートリッジが液体を含まないので,小さく軽いです。ブラウンのカートリッジは大きく重いので,買うのがはっきり言って面倒です。タンクごと廃棄しないので発生するゴミも(体積は)少ないです。


・充電

 ブラウンのものがニッケル水素電池であるのに対し,ラムダッシュはリチウムイオン電池です。電池の性能が圧倒的に良いことが,あのそり味に少なからぬ役割を果たしていると思いますが,充電も1時間で完了という素早さに加え,自己放電が少なく,メモリ効果もない上,小さく軽いというメリットの多い電池が採用されたことは大変意味があります。


・消耗品とコスト

 これまで使っていたブラウンの交換刃は内刃と外刃のセットで定価5775円です。1年半ごとの交換が推奨されています。一方のラムダッシュは4枚刃であることもあってか,内刃と外刃のセットで定価で7665円と高価です。しかも外刃は1年,内刃は2年が寿命です。

 もっとも,ブラウンだって最新機種のものはもっと高価ですから単純比較は出来ませんが,外刃は1年ごとの交換,内刃は2年ごとの交換が必要とあり,どちらの場合でも内刃と外刃の寿命を完全に使い切ることになる6年間でかかった交換費用は,ブラウンが5575円を3回で16725円,一方のラムダッシュでは内刃と外刃を2回,外刃だけを3回買うことになるので31395円と,倍近くかかります。いやー,これはかなりでかい差です。

 もし,ラムダッシュも18ヶ月ごとに内刃と外刃の両方を交換するとすれば,22995円となり,1.4倍程度まで小さくできます。外刃を毎年交換するというのは,なかなか負担が大きいことがわかります。

 参考までにamazonの実売価格で,どちらも18ヶ月ごとの交換を行った場合,6年後にかかった交換費用を計算すると,ブラウンが4158円の3回で12474円,ラムダッシュが5742円の3回で17226円で,1.38倍となります。

 また,ブラウンの現行機種で考えると,内刃と外刃のセットのamazonにおける実売価格が5663円ですから16989円となり,ほとんどかわりません。

 他方,自動洗浄用のカートリッジですが,どちらも約30日ごとに交換が必要ということで,3個入りの価格がブラウンの場合で実売価格は約2000円,ラムダッシュでは1800円程度ですので,これはそんなに変わりません。

 といいつつ,年間で7200円,6年では43000円もかかりますから,ばかにならないものですね。


・まとめ

 なによりそり味は最高,肌への負担は極めて小さく,いいことずくめのラムダッシュですが,ランニングコストは改めて計算すると結構大きいことに気が付かされます。それが抜群のそり味と引き替えになっているということでしょうが,購入前には本体丸ごとの買い換え周期も考える必要があったかも知れません。

 髭剃り器は本体を新しくすると,消耗品も高価になります。古い機種で満足であるなら,古い機種でも刃の入手は難しくありませんので,その時の価格で販売が続いている刃を交換して使い続けるのも,お得だったりします。

 そういう点で言うと,新しい髭剃り器への買い換えを安易におすすめできませんが,より深く剃る,より肌に優しい,という基本性能の向上の大部分を刃が担っていることを考えた上で,今より良いものを求めるならコスト負担を覚悟して買い換えると,納得のいく結果が得られるように思います。

その無念さたるや

 あまり詳細を書いてしまうと特定されてしまうので適当にぼかして書くしかないのですが,年明け早々,悲しい知らせを受けました。

 私が学生の時に3年半ほど働いていた日本橋のパソコンショップで,事務を担当してくださっていた方が,昨年の12月23日になくなったとの連絡を,とても親しくしてくださった当時のお店の社員の方から頂きました。癌とのことでした。

 詳しいことは私も分かりませんが,とても綺麗でエレガントな女性で,暴言をさくっと吐くのですが嫌みはなく,しかも筋が通っていて反論不可能という,極めて賢い常識人で,二十歳そこそこだった私など,全く相手にされなかった覚えがあります。

 大阪の女性だけに華やかな印象で,私が長年使っているG-SHOESというハンドルネームは,実はこの方が黄金のパンプスを華麗に履きこなしてらっしゃったことに由来します。(と書くと変態っぽいのですが,お店の仲間内でおもしろがって作ったハンドルネームでしたから,変態と言うより中二病という感じでしょうか)

 基本的には売り場には立たず,事務所で伝票やお金まわりの処理を行う裏方さんでした。俗に商流といわれる,ものとお金と伝票の流れは彼女から教わりましたし,現金,クレジットカード,分割払い,売り掛け,代引き,手付け金などお客様にものを買って頂くときに考えなくてはならないお金の種類も,やっぱり彼女から教わりました。

 商売人なら当たり前の知識ですから何をたいそうに,と思われるでしょうが,それまで全く縁のなかった私がこれらをすんなり飲み込めたのは,暗記を求めるのではなく,理由や理屈をきちんと,しかしとてもシンプルに説明してくださった事があります。

 彼女は商業科を出ていたはずなので,教科書に出てくるような小難しい簿記や会計の話も出来たでしょうが,あえてそこは「大阪のおばちゃん目線」でわかりやすく,「~しないと誰々が困りはるやろ」と,理由を語るにも決してお高くとまることのない方でした。

 なにせ,「とにかくそういうものだ」という言い方をすることも,私の記憶する限りなかったように思います。これは本質を理解し,かつ説明が上手だったということの証ですが,こういう人というのは,なかなかいないものです。

 私よりも5つほど年上だっただけのように思いますが,すでに大金の動くパソコンショップの財布の紐を任される人で,歴代の店長も我々下っ端も,みなが全幅の信頼をおいていたわけですが,あの無理のない自然な清潔さというのは,人を見たら泥棒と思えと幼いことより親に教え込まれた(なんちゅう親ですかね)私が見た,初めての泥棒の可能性ゼロの人だったと思います。

 あの当時にして,愛車の三代目ソアラを駆り,タバコをスパーっと豪快に吸う若い女性でしたが,それもまた様になっていて,明るくサバサバとし,曲がったことが嫌いで,頭の回転が速くて賢く,ユーモアに富んで話し上手ということで,必ず一度は彼女に憧れるというのが,新人さんの通過儀礼でした。

 私は,といえば,綺麗な人だなあとは思いましたが,前述のようにはなっから相手にされていないので,寂しいことに「はしか」にかからせてもらえませんでした。それでも兄弟店の事務をしていた仲の良い女性と「黙ってたら男前やのに」と,実に絶妙な表現で私のことを評していたそうですので,まんざらではありません。

 彼女についてはいろいろ面白い話があります。

 店員が昼食に出るなどでちょっと売り場が手薄になったときや,レジが混雑した時などは,ささっと雰囲気を読み取り,自主的にお店に出てレジを担当してくれたこともしばしばあったのですが(このあたりも彼女の賢さを物語ってますね),うちのお店に女性の店員などいないと思い込んでいるお客さんが大多数でしたし,しかもお店の空気がぱーっと変わるほどの美人がてきぱき仕事をしているとくれば,自ずとお客さんの視線が彼女に集まります。

 しかし,そんな彼女は滅多に表に出てきません。いつしか彼女はうちのお店の「レアカード」になっていました。いるんだかいないんだか,噂に過ぎないのではないか,実在しないんではないか,幻なんじゃないか,など,いろいろな憶測を生んでおり,中には我々に彼女は何者だ,と聞いてくるお客さんもいたほどです。

 当時我々のお店が開設していたパソコン通信のホストの掲示板でも,まれに彼女が話題に上ることがありましたが,全く見たことがないという多数派が見たという人を嘘つき呼ばわりしたり,見たという人も一度限りで二度と見ていないと言い出したりと,その神秘性もまた魅力を高める要因になっていたようです。

 彼女はパソコンの事はよく分からないようでしたが,X68000のユーザーとPC-9801のユーザーの違いくらいは分かっていたようですし,スケベなゲームやCD-ROMなどにも一定の理解があったようです。ただ,彼女自身はそんなものにありがたがって何千円も支払う人を個人的な理由によって嫌ってもいました。

 ある時,閉店後に棚卸しを行うことになりました。

 ご存じの方も多いと思いますが,棚卸しは在庫のすべてを数える作業ですから,皆で分担してもとにかく時間と手間がかかります。

 彼女は事務仕事の合間をぬって,売り場で先行して棚卸しを少しずつ進めてくれるという気の利きようがまた素晴らしかったのですが,開店中に数えた商品が売れてしまったら数え直しですので,基本的にデッドストックとなっているものを数える必要があります。

 事務専任で,パソコンの事がわからんという人が,なぜデッドストックを察知して数える事が出来るのかと,デッドストックを仕入れてしまった担当者は毎度毎度震え上がっていたのではないでしょうか。

 そしていよいよ閉店後,棚卸しがスタートします。彼女はパソコンが詳しくないということで,微妙な違いで別商品にしないといけないような商品は割り当てられず,はっきりと商品名が書かれているソフト売り場が担当になります。

 棚卸しは原則的に二人一組で,一人は品名と数を声に出し,もう一人はそれを台帳に記入するという流れになります。

 これは当時の店長の嫌がらせの一環だったと思われるのですが,彼女の割り当てられた棚が,当時流行していたアダルトCD-ROMの棚を含んでいました。(店長は偶然だとしらを切っていましたが)

 彼女は読み上げ担当だったのですが,タイトルからしてすでに十分にいやらしいアダルトCD-ROMの商品名を臆せず読み上げて,粛々とこなしていきます。そして時々,「どーするの,こんなに仕入れて」と不良在庫に苦言をつぶやきます。

 それはもう,男の私が見ていても,大変に男らしい立派な仕事っぷりでした。


 いろいろ思い出しましたが,全然悲しくありません。いなくなったなんて,絶対ウソです。しばらく会っていないだけで,ちゃんと大阪にいる,とそんな風に自然に思っています。でも,そんなことない,もう彼女はなくなったのだ,と,何度も何度も思い直します。

 彼女のお葬式は,年末に行われたそうです。知っていれば私も駆けつけたと思うのですが,残念な事に知ったのは年が明けてからでした。

 親しかった先輩店員さんは,私にいいます。彼女のお葬式に,当時のメンバーが一堂に会した,当時の会長,社長,常務や店長,彼女が新人として指導をした若手も含め,それぞれみんな行方知れずになっていた人々が集まり,みな口々によくもこれだけ集まったものだと,驚いていたと。

 そして,不謹慎だけど,彼女が集めてくれたんだと思う,と,そんな風に続けました。最後に,彼女は太陽だった,と。

 私がこのお店を辞め,東京で就職したすぐ後に,大阪地区での店舗の再編が行われ,私がいたお店は閉店し,彼女も別のお店に移りました。しかしその後会社そのものにいろいろあって,行き詰まってしまいます。同業の会社から支援を受けて再スタートを図りますが,結果として大半の店舗は閉店,大阪地区も例外ではなく,完全撤退となりました。

 これをきっかけに,当時仲間は全員散り散りになり,その消息はほとんど分からなくなってしまったのです。私も東京に来ており,地理的な距離には勝てず,あれだけ親しくしていた当時の仲間とも,連絡を取ることが出来ずにいました。

 いや,私にその気があれば,会うことも出来たはずです。それをせずにここまで来た私が,一番罪深いのかも知れません。

 私が以前活動していたハードロックバンドのメンバーは,このお店の関係者が中心となっています。何度も何度も再結成の話が出つつ,実現に至らずに来ましたが,今度こそ再結成しなければならないと,そんな風に思いました。

不況箱2010

  • 2010/01/06 11:08
  • カテゴリー:散財

 毎年毎年被害者を出している秋葉原のPCパーツ店,クレバリーの不幸袋。福袋ではありません,不幸袋です。

 販売開始から毎年すぐに完売してしまうという,その筋ではよく知られた人気商品ですが,あくまでネタとして人気なだけで,入っているものは本当にゴミです。クレバリーにしてみれば,毎度ゴミだと言っているのになぜか完売するので調子に乗ってしまったのでしょうが,今年はわざわざの話題づくりに躍起でした。

 いわく,稟議書を書いて予算を取っただの,数を増やしただの,ネットブックやCPU,DVD-Rのメディアなどそれとを分かるようにモザイクをかけてホームページに掲載してみたりだのと,今年は違いますぜ,と必死にアピールしていました。

 その甲斐あってか,各種ネットニュースでも紹介されました。

 かくいう私も,不幸袋にはなんどか手を出しそうになり,売り切れという結果にいつも命拾いをしてきた幸運な男なのですが,今年はちょっと違う,にすっかりだまされてしまいました。

 12月22日の夜9時から販売開始だったのですが,当日の私の帰宅は10時ごろ。もう完売しているだろうと思ってホームページを見てみると,まだ販売しているようです。もしやと思いカートに入れようとするとサーバーエラーが返ってきます。

 どうも,アクセス集中で,先に進めないようです。

 友人にもお願いし,二人でカートにいれようとしましたが全然ダメ,友人にはもう結構だとお断りをいれ,私は私で風呂にいってビールをのんでいました。

 12時過ぎにちょっと気になって覗くと,まだ販売中です。公式のtwitterによると,まだ20個ほどしか売れていないとのこと。アクセスが集中してやはり先に進めないようです。完売したというデマはこれで沈静化しました。

 こうなってくると,買えなかったら不幸になるような気がして,とにかくカートにいれてみます。何度か粘ってようやく入ったのですが,購入手続きでまたエラー。カートに入れるところまで戻され,再び苦労してカートにいれるとカートには2つ入っている有様です。

 それで1つ減らそうとするとまたエラー。こんなことを延々繰り返して,時刻は夜中の3時です。

 狭い関門を何度も突破し,激しい競争を勝ち抜き,希有な確立でようやくたどり着く,まるで卵子に群がる精子の気分で,リロードを繰り返します。

 blogやtwitterを見ていると,次々と「もう限界だ寝る」と同志達が脱落していきます。彼らの死を無駄にすまいと私はさらに頑張ります。しかして決済完了が3時半。やりました。敵の本拠地は陥落しました。

 送り先を1月1日にいるはずの実家にしようと思っていましたが,サーバがこんな状態ですので登録済みの自宅の住所に送ってもらうのがやっとでした。弟も実家に戻っているはずなので,年明けのネタとしてぴったりだとおもったのですが,やむを得ません。

 結果的に不況箱2010は,実家に届いたとしても,全く笑えるものではなかったことを,その数日後に思い知る事になります。

 さて,勝利の美酒に酔い,心地よい朝を迎えた私は,決済完了のメールを確認し,激しい闘いの繰り広げられたホームページをなにげなく見に行きました。


  國破れて 山河在り
  城春にして 草木深し
  時に感じて 花にも涙を濺ぎ
  別れを恨んで 鳥にも心を驚かす
  峰火 三月に連なり
  家書 萬金に抵る
  白頭掻いて 更に短かし
  渾べて簪に 勝えざらんと欲す

 無茶しやがって・・・顔を見たこともない同志達の顔が次々に現れては消えていきます。

 そんなこんなで12月25日には発送連絡があり,1月1日に代引きで届く佐川急便の荷物に,2997円を払うよう案内がありました。そう,この不況箱は2000円という安価な箱なのです。この段階で気が付くべきでした。

 そして実家で年末年始を過ごし,1月2日に自宅に戻った私は,1日遅れで不幸箱2010を受け取りました。

 ネットブックなど金目のものは入っていない(ということはこれから出るだろう),DVD-RやSDカードなどはポロポロと報告がある(ということはこのくらいの商品は普通に入っているはずだ)という程度の話は事前に気になって調べていたので,ワクワクして箱をあけます。箱が心なしか軽すぎることは,この時の私にはなんの警戒心も与えませんでした。

 あけて目に付いたのは,梱包材の紙。大量の紙です。ここでさすがの私も,不幸な未来がチラチラ見えるようになります。

 数十秒後,おそらく最低ランクの内容に,私は意識を失っていました。

 ・WEB2.0を極める(クソソフト,ベ○ト電器の値札付き)
 ・ナンバープレイスxペン(クソソフト,ビ○クカメラの値札付き)
 ・子供用サンダル(きもい虫のイラストつき)
 ・第2世代iPod nano専用アルミケース(今さら第2世代専用って)
 ・iWalk(第2世代iPod nano専用ヘッドフォン,どうしようもない)
 ・スキミングブロック(おサイフケータイに貼り付けるらしい)
 ・うちのこ登場!アンパンマン(絶句)

 「うちのこ登場!アンパンマン」は,ほぼ全員の箱に入っていたもののようで,一通り内容を紹介した後,最後に「そしてアンパンマン」と書くのが決まり事になっていました。今回の不況箱2010においては,この「アンパンマン」を全部の箱に入れたと言うことが,クレバリーの唯一の成果だったと言えるかも知れません。

 私としては,別にネットブックが欲しかったわけではありません。でも,PCパーツショップが用意した話題の商品で,PCパーツがゼロというのは,これはさすがにいかがなものかと。

 そもそも2000円ですから,笑って済ませることにしたわけですが,他の人の報告を細かく見ていくと,おでん缶やDVD-Rのメディア,SDカードなど,それでも1つくらいは使い物になるものが入っていたようです。

 メイド服や訳のわからんキーホルダーなど,本当にどうしようもないものも報告されているようですが,クレバリーの客層から言ってソフトの不良在庫以上のゴミはなく,それらが大きな顔をして箱の中に納まっているのを見ると,ふつふつと怒りがこみ上げてきます。

 かといって,あたりとされているフロッピードライブやらサウンドカード,マザーボードなどが入っていても使い道はないし,サーバー用やモバイル用のCPUなどでも困ったでしょうが,それでもPCパーツですからうれしかったでしょうね。

 数年前のとある地方都市のホームセンターが用意した福袋には,割り箸と爪楊枝が箱いっぱいに入っていたそうですし,それに比べればまだましなのかも知れませんが,そもそも福袋というのはそのお店に対する忠誠心から購入に至る商品だったりするので,福袋を作る側の面白さだけで安易にやっちゃうと,取り返しが付かなくなるように思う訳です。(AppleStoreのLuckyBagもしかり,です)

 手伝ってくれた友人はこの無残な結果をみて,「少しとはいえ協力して損した」と死者にむち打つ暴言を吐き捨てました。返す刀で「メイド服なら着てあげたのにねえニヤニヤ」と,そんな気などさらさらないのに,なお私にたたみかけます。「妹さんに着てもらった方がいい」と言い返すのが精一杯でした。

 ずばり,ゴミが大きな箱で送られて来ただけの話でした。友人の「反省した?」に,私はただ黙って頷くしかありませんでした。

 中にはお金を佐川さんに払う前に外で待たせ,開封して中身を確認してから「受け取り拒否」した強者(というかこれはさすがに人としてどうかと)もいたそうですし,これだけ焚き付けておきながらまともなものが入っていない上,某掲示板には明らかにウソと思われる大当たり報告が書き込まれていたりで,店員さんが抜き取ったんじゃないかとか,そもそもあたりなどなかったんじゃないかなどと,その界隈ではちょっとした騒ぎになっているようです。

 店員さんのtwitterでの書き込みが「客をバカにしてる」と怒りを買っていたりするようですし,こういう後味の悪い祭りは,どちらにとっても損だと思うのです。

 例年のように冗談と分かって買う人だけなら「またやられたぜセニョリータ」で済んだだろうと思うのですが,今年は話が一般人にも広まったことで,普通に怒る人が出てきてしまったことは,クレバリーとしても誤算だったんじゃないでしょうか。決してクレバリーにもいい話ではなかったはずですよ。事実,kakaku.comはひどい有様です。

 サーバの不調で一晩中リロード続け,あげく結局買えなくて悔しい思いをした人が一番得をしたというオチは,ちょっと悪ふざけが過ぎたんじゃないかなと,苦言を呈しておきます。こういうのは,ほら,泥を塗りつけるお祭りがあるでしょう,あのくらいにしておかないと。

 それで,ゴミはゴミらしく,さっさと捨ててきれいさっぱり忘れよう,と思ったのですが,その友人の妹さんのiPod nanoが第2世代であることが判明,ケースを差し上げる事になったのですが,ネタとしてiWalkとアンパンマンもご所望とのことで,躊躇なく差し上げました。Web2.0は断られたことを付け加えておきます。

 それにしても,限定200個といいつつ追加したそうですし,トータル300個として2つ2000円だと一晩でざっと60万円の売り上げですか。それも代引きだから現金みたいなもんですし。原価なんてただ同然でしょうから,確かにこれはやめられませんよね。でもね,一応,他店の値札は同業者への気遣いの1つとして,面倒でもはがしておきましょうよ。

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