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2026年01月の記事は以下のとおりです。

東京からの脱出 : Day2 ~ 富山で過ごす

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Day2 : 2025年12月27日
富山地方鉄道 10:50宇奈月温泉発 11:34新魚津着
魚津市内を散策しつつ寿司屋で昼食
あいの風とやま鉄道魚津駅に戻りタクシーで魚津水族館まで移動
魚津水族館から徒歩で富山地方鉄道西魚津駅まで移動
富山地方鉄道 15:24西魚津発 16:20宇奈月温泉着

 さて,翌日はゆっくり目覚め,のんびりと支度をしてから朝食を頂きに食堂へ行きます。朝食はバイキング形式ではなく,伝統的な日本食で,それも目当てで この宿を選びました。塩鮭とご飯と味噌汁に海苔と卵にお漬物。それでも我々の日常に比べてとても贅沢な朝食です。

 しかしここでも期待を越えた朝食が出てきました。焼き魚だけではなくつくねやお野菜の蒸し物,湯豆腐,その他朝ご飯とは思えないような品数と物量で,正直かなり無理をしてお腹に収めます。小食な娘が早々とギブアップするのは予想していましたが,私のような成人の男がかなり大変な思いをして完食することは想像していませんでしたし,ついでにいうと他のテーブルではご飯のおかわりが普通に行われていたことに,自分の食べる量が少なくなっていることを実感しました。

 そしてこの満腹感が,この日の昼食の印象を左右します。

 2泊3日の2日目,丸一日富山にいる事の出来る日です。しかし何の予定も考えていません。そんなにギチギチと予定を詰め込むのも面倒ですし,そもそも予定を考える事からも逃げたくてここまで来たのです。

 そんな中,妻が頑張ってくれました。宇奈月温泉から新魚津まで移動し,ここにある水族館を見ようではないかと。水族館にハズレはありません。

 お天気も良く,心配していた前の晩の雪も除雪されていましたし,距離も思ったほど短いことがわかって,宿から宇奈月温泉駅まで歩くことにしました。これが大正解で,冷たい日本海側独特の空気が気持ちよく,見通しの良い山と空が日本海側独特の色合いで綺麗に映えています。足下には黒部川。なんと楽しい散歩でしょう。

 駅に着くと,昨日の写真にあった元京阪の車両が止まっていました。これに乗り込み,この電車の終点である新魚津まで,出発です。

 天気の良さも手伝って,景色も楽しく,気が向いたら本に目を落としつつ,到着したのが11時半過ぎです。旧北陸線時代にほとんどの特急が停車した典型的な地方都市の趣は,貨物列車のために用意された多数の線路とポイントで演出されて,鉄道好きの心を否応なく盛り上げてくれます。

 ちょっと瞬間接着剤が必要になり,駅から少し歩いたところにあるコンビニに入ると,これがなかなか面白いのです。普通のコンビニと思いきや,さすが駅近くのコンビニだけあってお土産も充実しています。

 富山らしくよもぎ餅や昆布餅が手頃な値段で売られていたり,どっかで見たようなロゴで「STAR UOZU」と書かれたTシャツとか,ブラックラーメンなども並んでいます。こういうところで買うお土産というのは,小綺麗ではないかも知れませんがもらった方は面白いものです。お餅を三種類ほど買って店を出ました。

 次に立ち寄ったのが地元のスーパー。ナショナルブランドの商品は東京と同じかやや高めなのですが,さすがに魚介類は安い上にどれも美味しそう。これが魚津の日常なのだと思うと,羨ましいと思うほかありません。甘エビ,カニ,ブリ,鰆が実にリーズナブルな値段で並んでいます。

 野菜も果物もなかなか美味しそうでお手頃価格です。いや,東京がおかしいのでしょう。東京では美味しいものが食べられます。しかしそれは高価で,特別な場所で食べるもので,普段食べるものとは違います。普段食べるものこそ美味しいものというのは,実はとても贅沢なことだと思います。

 こうして富山の人の日常を垣間見て,スーパーを後にします。

 そうこうしている間にちょうど昼食の時間です。富山湾寿司なる物を食べないことには,と富山の観光案内のホームページに吹き込まれた我々は,それがどんな物かをあまり予習せず,少し奥に入った住宅街のお寿司屋さんの富山湾寿司と,先程のスーパーの中にあるラーメン店のブラックラーメンの2つを候補に,歩きながら考えました。

 私は暖かいものが食べたかったのでラーメンに1票を投じたのですが,10票を保有する絶対権力者の娘が富山湾寿司に票を投じたことであっけなく決着,先程のお寿司屋さんに入りました。

 10貫のお寿司にブリ大根がついて3800円と,それなりにリーズナブル。とはいえ,他のランチメニューが軒並み1000円とか1500円であったことを考えると,これだけちょっとお高めの価格設定で,やはりこれは観光客を狙ったものだとわかります。

 それも含めて注文するのですが,実はこの時我々3人はまったくお腹が空いておらず,富山基準の3人前は無理だろうと考えて2人前にしましたが,それは正解でした。というのも,量が多かったと言うよりは,あまり美味しくなかったのです。ブリ大根はなるほど美味しかったと思いますが,ブリの頭の部分でそれほど食べるところがあったわけではありません。お寿司そのものも,もちろん東京で食べるものに比べて美味しかったのは当然ですが,かといって宿の食べ物と比べればもう全然です。

 しかもお店の人も結構無愛想だったのですが,大した問題ではないですし,地元の人に愛されるお店というのはそういうもので,一見さんの観光客にいちいち愛想を振りまくようなものでもないので,気にはしていません。でも,観光客かどうかは関係なく,無視されるとか相手にされないとかは,普通に失礼なことだとは思います。

 今ひとつな感じがしつつ,魚津駅に戻ります。幸いタクシーが1台止まっていました。お,運転手さんは居眠りをしています。いいですねー,こういうの。

 コンコンと窓を叩いて起こし,水族館までとお願いして5分ほどで魚津水族館に到着。富山湾と水産物の富山県唯一の水族館であると同時に,現存する最古の水族館だそうです。そして全面アクリル製トンネルの設置も日本初とのこと。

 それ以前に地域に愛される水族館であり,小さい子どもを連れた家族,カップル,高校生の集団など,なかなか賑やかな雰囲気が好感触です。

 とはいえ正直なことをいうと,それほど期待していませんでした。水族館はどこも最近派手になっていて,お金も手間もかかり,規模も大きなものになっていないと生き残れません。富山市内から手軽に来ることの出来る場所にあるわけではなく,建物も古く,お世辞にも綺麗で清潔な感じがしないわけですから,そんなに珍しくもない魚がチョロチョロといる程度だろうと思っていたのです。

 しかし,それは違いました。まず,コンセプトがすごい。水族館ですから,そこにいるのは魚ですが,生きて動いている魚であると同時に,それは食べ物なのです。富山湾にいる魚を食べる,これがブレない水族館でした。

 その予兆は,すでに手にした入場券からわかります。

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 いやいや,入場券の写真に甘エビの寿司(しかも卵のせ)は強烈です。我々がなにを見に来たのか,わかってないんとちゃうかい?

 見学をすると,やたらと「食べる」が目に付きます。まあ,食べ物が泳いでいるんだから,そりゃ食べるわな。

 しかし,我々家族はこれを見て言葉を失います。

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 オオグソクムシを食べる,だと?

 しかも,蒸し焼き,揚げ焼き?食べる気満々やんか。

 それで美味しかっただと?いや,ここ水族館でしょ?しかも飼育員二人で食べてる。

 圧倒されました。海にいるものならなんでも食べる。美味しく食べる。それが富山なのです。

 他にも,リュウグウノツカイを食べてみたり(体長3mもあるのに脳みそは17mmしかないとか,ひどい言われようでした),いちいちその味をまずかったと書いてくれていたりして,とにかく富山湾と食べる事からブレないことに,真面目な話,富山がますます気に入ったのでした。

 ひととおり見学を済ませ,徒歩で富山地方鉄道の西魚津駅に向かいます。15分ほどゆっくり,時々見える日本海縦貫線の貨物列車に声を上げながら,人が全くいない農道を歩いて,無人駅の西魚津駅に到着です。娘は無人駅の存在に驚いた事でしょう。

 電車の到着までに30分ほどありますから,写真を撮ったり少し散策したりと言うのが,無人駅の自由度です。一度ホームに入ってしまうと出られない有人の駅とは違って,この開放感も無人駅の魅力だと思います。

 途中,並走するあいの風とやま鉄道を疾走する貨物列車を大慌てで撮影,かつて北斗星で活躍したEF510 500番台の雄姿が冬の富山を疾走,いやー,青の車体の格好いいことよ。

 時刻表どおりに到着した電車に乗って宇奈月温泉駅まで約50分,のんびりとローカル私鉄の旅です。宇奈月温泉駅からは雪も溶けて歩くのも楽になったので,疲れていたけど徒歩で宿まで歩きました。

 そしてその日の夕食に我々はまた驚かされます。前日に魚がいいか肉がいいかと聞かれたのですが,魚がいいと答えたところ,初日を越える質と量が出てきました。これ,お金は大丈夫なんか?

 ノドグロを筆頭に,まさに言葉通りに甘い甘エビ,溶けるようなイカ,脂ののったブリと,食べきれないほどの舟盛りが出てきました。さらに毛ガニ。これも無言で食べ尽くします。ブリ大根も並んでいます。

 やっと食べたと思ったら,氷見産の牛の一口フィレステーキが・・・富山の人の一口は我々よりも相当大きいようです。私はレアはダメな人だったのですが,これまで食べたことのない新しい食べ物に遭遇し,気が付いたら平らげていたという感じでした。

 食べ物については私は詳しくないですしその素晴らしさを伝えるほどの言葉を持ちませんが,1日目もすごかったけど,2日目はさらにすごくて,普通なら食べきれない量を,おいしさで食べきったという感じです。これぞ非日常。まさに板長の本気を見せて頂きました。お酒は黒部の銀盤というそんなに高くないお酒を熱燗で頂きましたが,これもまたとても美味しくて,食べる事と飲むことに私のすべてを捧げた2時間でした。

 

東京からの脱出 : Day1 ~ 富山に向かう

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 家族で富山に行ってきました。先にいっときます,冬の富山は本当にいいです。

 きっかけは,東京からの脱出。右を向いても左を向いても自分の事しか考えていない人が自分勝手に闊歩し弱者のみならず弱者への思いやりすらを弱みにつけ込む。そんな山手線の駅を降りて会社までの道すがら,沸々と湧き上がる紫色の煙のような負の感情が,会社の自席に着いた途端に「もうええ加減にせえよ」に昇華し,その刹那東京からの脱出を,ひったくるように渇望するに至ったのです。

 大げさですけど,こんなことってあるんだなと思いました。何事も悪い方に考え,慎重に慎重に,衝動的な判断に身を委ねないことを常としてきた私ですが,瞬発力に背中を蹴飛ばされることのなんと心地の良いことか。

 とはいえ,それまでに旅行が許される条件が整っていたことも大きくて,本当に突発的だったかと言われれば実はそんなこともないのかも知れません。

 それは娘の手術が終わって1年経ち,日常を取り戻しつつあることもそうでしょうし,家族が揃って年末年始を過ごす機会が,今後減ることはあっても増える事は決してないという現実的な見通し,本人の病気や親の介護などの自分ではコントロール出来ない,しかし必ずやってくる面倒ごとが今は成りを潜めているということ,なによりこれまで一度も家族で旅行はおろか,帰省も含めて揃って外泊をしたことがないという異常な事実に対する負い目も,今回の判断のしきい値を引き下げてくれました。加えて年末の連休が長いことも,ひょっとしたら昨今の国際情勢から海外からの観光客が減るんじゃないかという期待も後押ししました。

 こういう判断は得てして良い結果を生むものです。ならば後戻りできないように,その場で妻に連絡,相談と言うより半ば決定事項として伝えて快諾を得ると,具体的な行動として場所の選定です。

 これも衝動的に,富山に決め打ち。妻は寒さが苦手で暖かいところに行きたがるのですが,私はなぜか冬は寒いところに行きたくなるのです。いや,スキーとか冬山登山とか死ぬほど嫌いですよ。

 母親が福井の出身で冬の北陸には特別な思いがある私にとっても,冬の富山は未経験です。でも,富山の話は良いことばかり。

 いわゆる観光地は少ないですし,特に冬は雪に閉ざされて身動きが取れません。もちろん日本アルプスにアタックする人には特別な意味を持ちますが,我々家族がそんなことをするはずもありません。

 しかし,富山は海の幸と綺麗で美味しい水があります。異口同音に刺身とお寿司のおいしさを聞きますし,水の美味しい所の日本酒はまた絶品で,これも大変な評判です。

 東京からの脱出,美味しい料理に美味しいお酒。そして雪を蹴散らして進む新幹線の開業と,もはや冬の富山こそ私たちが目指すべき非日常であると確信しました。

 しかしこの時すでに12月10日。年末の家族旅行など出遅れも甚だしいです。
 あわててその週の土曜日に近所のJTBで相談。自然な流れで富山に決まりました。

 問題は富山のどこに行くのかですが,私は富山のことはほとんど知りません。富山と言っても広いです。どこに泊まるのがいいのか,そこで何をすればいいのか,どうやって行けばいいのか,全くわからないのです。

 わからないことはプロに任せればいいです。無理をせず専門家に頼る,信頼することもまた心地の良いことです。

 こちらの希望を伝え,果たして彼女が提案したのは,宇奈月温泉でした。

 さすがに名前くらいは聞いたことがあるのですが,どこにあるのかよく分かりません。地図を見ると富山の東側,富山市からはそれなりに離れていて,いわゆる黒部の近くのようです。有名な黒部峡谷鉄道はここから出ています。冬の間は運休するので今回は体験する機会がありませんが,海と言うより山なんだなという事はなんとなくわかります。

 そう,北陸の山と空の境目は,独特の色合いをしているのです。ワクワクするじゃないですか。

 宿を起点に観光地を巡ることはせず,宿そのものを楽しみ,のんびり滞在したいという事,何をするにもエレベータにまず乗り込むのではなく,宿を歩き回って,できれば階段で動けるくらいであること,畳に布団がいいということを伝えて,宿も決まりました。

 希望していた12月26日という出発日と2泊3日という期間もうまく叶い,少しお金はかかりましたが,あとは病気や怪我をせず,夫婦げんかも慎んで当日を無事に迎えるだけです。

Day1 : 12月26日
はくたか565号 13:24東京発 15:41黒部宇奈月温泉着
富山地方鉄道 16:17新黒部発 16:45宇奈月温泉着

 東京駅を新幹線のホームは人で年末年始独特のワクワク感と共にごった返していて,心なしかみんな穏やかな顔をしています。混雑するホームでさっと道を譲る人,ぐずる子どもにも優しい人,互いに会釈を交わす・・・ゆとりがあるっていいですよね。

 噂に聞いていた,外国人観光客のマナーの悪さを見ることもなく,初めて使った北陸新幹線は快適そのものです。これだけ快適だと旅の風情も感じず,在来線の窮屈さやのんびりさがかえって懐かしく感じるくらいです。移動を積極的に楽しむと言うよりも,やはり移動を移動として割り切って快適に短時間で片付けることに長けた新幹線に,私はそれほど悪いイメージがありません。

 東京は晴天で気温も高かったのですが,黒部宇奈月温泉駅を降りるとしっかりと吹雪き,鉛色の空が広がっています。長野あたりからあやしくなり,糸魚川では明らかに寒そうだったわけですが,実際に富山まで来ると本当に寒くて凍えそうです。富山地方鉄道の新黒部駅への乗り換え,そして電車を待つ間,正直この旅行は失敗かも,と心配になりました。

 新黒部にやってきたのは,雪まみれになったかつての「レッドアロー」です。おお,写真でしか見た事がない西武の特急電車にこんなところで乗る事になるとは・・・

 富山地方鉄道は私の期待を遙かに超える地方鉄道っぷりで,駅はほとんど無人駅,車両は古くて傷んでおり,なんだか別世界です。しかし粗末に使われているかと言えばそうでもなく,駅はどの駅も同じ程度に維持されていますし,車両ももともと古いものが,厳しい風雪に晒されて傷んでいるだけで,大切に足として使われていることがわかります。

 車内も,例えばシートはすり切れていたりはしますが,それも年月相応に痛んでいるだけであり,乗客のマターの悪さや無関心さに起因するような傷み方はありません。まさに足として,乗客にも大切にされていて,というよりもそれが日常的に当たり前になっている毎日を想像させる電車でした。

 どんどん日は落ちて行きます。車窓はいかにも日本海側の農村に新雪が重なっていく様子です。揺れる電車,妙にふわふわのシートは,決して快適とは言えません。

 娘は電車に酔ったといってました。終点の宇奈月温泉の途中はどうも急な曲線が多く,揺れも大きく,停車駅も多かったですから,私もちょっと気分が悪くなりました。

 駅に降り立つと雪が積もっています。寒いです。駅員の少ない(というより一人しかいない)改札に不慣れな観光客が列びます。改札では乗ったときに取った整理券を見せて,往復乗車券を買うのがポイントです。片道720円の区間を5日間有効の往復乗車券を買うと1400円。20円しか安くならないと嘆くなかれ,実は特急料金100円が無料になるのです。しかも半券付きで使用後にも手元に残ります。これは買うしかないでしょう。

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 改札を出ると,各旅館の旗を持った迎えの人にところに銘々近寄る光景がいかにも温泉街ですが,我々もそうやって自分たちの宿,「サン柳家」の用意してくれた車に乗り込みます。暗いし寒いし雪は降っているし,道はわからないしで,もう車でなければたどり着かないのでは思うほど,心細いものでした。

 当たり前ですが,宿に着くと女将と若女将が出迎えてくれます。商売ですけど,うれしいものです。こういうのはなくなって欲しくないですよねえ。

 なんだかんだで自分たちの部屋に座り込んだのが17時半過ぎ。1時間ほどしてから夕食です。夕食は個室の用意があったのでそちらで頂く事になっています。

 料理のことを事細かく書くのはもう無理なほど,品数の多さ,圧倒的な物量,しかもどれもたまらなく美味しく,貝類が全くダメな私がバイ貝の刺身をうまいといっては食べ,もう何十年も口にしなかったカニを無言で食べ,あろうことかカニ味噌まで食べるに至り,いつもならグロいとか目が合ったら怖いとか言って箸も付けなかった鯛の兜煮をバラバラにしながら食べる姿に家族は「こいつ別人ちゃうか」と思ったらしいです。(この鯛の兜煮はこの宿の名物らしく,わざわざこれを目当てに来る人もいるとか。実際私はこんなにうまい煮付けを食べたことはありません)

 それくらい,おいしいのでした。おいしいというより,臭みがなく,うまみが凝縮されていたとでもいうのでしょうか。以前,いわゆる珍味がダメだという話をしたときに,本当に美味しいものを口にしていないからだと,したり顔である人が言ったことにむっとしたことがあるのですが,それは本当だったと思いました。

 そして,これがまだまだ序の口であることを後に知る事となります。

 おいしいこと,品数,手のかかり具合,物量があることはもちろんなのですが,価格も安いのです。東京にいてここ数年の物価高に苦虫を噛み潰すような思いで毎日を過ごしているせいか,富山だけは物価高は起きていないのではないのかと思うことが度々ありました。もちろん実際にはそんなはずはなく,電気料金もガス料金も,飲み物もお米の値段も上がっているはずですし,寒冷地の冬の生活コストはもともと多くかかるものです。

 ですが,やはり目の前にあるものから感じるのは,数年前のコスト感覚です。ひょっとすると本当に物価高の影響が少ない地域なのかも知れませんが,仮にそうだとしても外から来る観光客にまでその恩恵を与えることはしなくとも,東京と同じような価格までふっかけたところで,誰も文句は言わないだろうと思うのです。

 それは自販機のペットボトルの水の値段も,ビール1杯の値段も良心的であるということを通じて,歓迎されているなあと感じる機会でもあり,こういうことに無欲であること,あるいは外の人に対して優しい(というより公平である)ことも,富山の地域性なのかも知れないなと思いました。

 そんなことを考えながら2時間ほどで富山の海の幸をたらふく食べ,部屋に戻ってこの日は終了。ニュースでは東京はこの冬一番の寒さだったといっており,無事東京脱出に成功したと,私はほくそ笑んでいたのでした。

 翌日は丸一日富山にいる日になります。最寄り駅まで移動できるのか,最寄り駅から移動できるのか,果たして天気はどうなるのか,無事に時間を潰せるのか,はたまた宿でひたすら読書に励むことになるのか,どうなることやらわからず,満腹と疲れで,ぐっすり寝てしまったのでした。

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