PC-386BookLもビネガーシンドロームの餌食に
- 2024/12/30 12:56
- カテゴリー:マニアックなおはなし
LCDに確実に発生する,そしてとても恐ろしい現象,ビネガーシンドローム。ある時期に生産された映画や写真のフィルムに頻発し,一度発生すると修復の手段はなく,情報を救い出す方法はありません。
見た目の悲惨さに加えて,その強烈な臭いはまさに死の臭い。どれほどの関係者が心を折られてきたかわかりません。
そしてその恐ろしいビネガーシンドロームは四半世紀を経て,LCDにも発生しています。言うまでもなく,LCDは機器の小型化と低消費電力化を高い次元で達成させて立役者ですが,同時にその機器の寿命を決定するものにもなったというわけです。
汎用の部品と違い,LCDはほぼカスタムメイドです。劣化したLCDは交換以外に方法がなく,従ってLCDが劣化した機器を救う手立てはほぼありません。
ビネガーシンドロームで劣化するのは主に偏光フィルム,それものり付きの物ですので,これを交換することで復活させることが出来る場合もあります。しかしそれは運が良ければの話です。ゲームボーイのように数が出ていて,かつ今でも需要があるものは偏光フィルムが手に入るのですが,多くのLCDでそれは望めないでしょう。
私の場合,ワンダースワンシリーズすべてと,ゲームボーイアドバンスがビネガーシンドロームの餌食になっていました。一説では,ビネガーシンドロームが1つ発生すると,周囲のLCDにも伝染するらしいので,結果的に全滅になるそうです。
これは偏光フィルムを交換,あるいはLCDを最新のIPAに交換することで解決したわけですが,コロナの間に失血を注いで復活させたPC-386BookLが,まさかのビネガーシンドロームにやられていました。
ビネガーシンドロームに特徴的な,あの酸っぱい臭いと共に,なぜか斜めに入る傷のようなものが見つかったので,先日勇気を持って分解しました。
予想は的中し,派手なビネガーシンドロームに蝕まれていました。
PC_386BookLのLCDは640*400ピクセルのSTNのモノクロです。DSTNというちょっと珍しいタイプで,画面の上下を分割し,200ラインのLCDを2枚同時に駆動するという形で400ラインを実現します。
なんでそんなことをするかといえば,STNは200ラインくらいが駆動限度だからです。
STNでピクセル数の多いLCDを作る必要がなくなった現代において,完全にロストテクノロジーになったと言えるでしょう。
偏光フィルムは通常のSTN用の物で十分なので,試しに手持ちの偏光フィルムで端っこを剥がして見てみると,綺麗に表示が出ます。容易に手に入る偏光フィルムで修理可能です。
喜んでA4サイズの偏光フィルムを注文,届いた時点で早速作業開始です。
LCDを分解し,偏光フィルムを剥がします。面積が大きいため,ビネガーシンドロームで発生する酸っぱい臭いも尋常ではありません。思わずむせてしまいました。
あらかじめサイズを合わせて切っておいたフィルムを綺麗に貼ります。ホコリが入らないように,汚さないように貼るのですが,想像以上に綺麗に貼ることが出来ました。
ここまで実にスムーズで,ウソのようです。
仮組みして動作テストを行うと,悲しい事に左の縦2ラインが表示されていません。どうも壊してしまったみたいです。
どうせ,フレキがLCDのガラス面から剥がれたんだろうと,最近手に入れたフレキを熱で溶着する真鍮製のコテ先を取りだし,交換したハンダゴテでフレキに熱をかけました。
試してみると・・・なんということか,さらに状況が悪くなっています。左は縦に?ライン,中央に8ラインが2本,これはもう完全に死んでます。
おかしいなあ,こんなところ触っていないんだけどなあ,と改めて確認すると,なんとフレキが切断していました。熱を加えるときに他のフレキも含めて曲げたのですが,フレキの劣化が進んでいて,一度折り返しただけで切れてしまったようなのです。
万事休す。
こうなると,もう手はありません。フレキはドライバIC(フリップチップ)の基板の一部として出ていますので,この部分だけを交換したり,手配選するのはどう考えても無理です。
仮に手配選できても,このフレキはポリイミドに銅箔のタイプではなく,フィルムにカーボンのタイプです。ハンダ付けなど全く不可能です。
ああ,なんということか。
ゴミも入らず,綺麗に貼れて,しかも今出ている下半分の表示は非常に綺麗で,STNならではの味があります。これで使える事を夢見ていたので,とてもがっかりしました。
そもそも,このPC-386BookLも,これまでとても頑張って死の淵から甦らせてきたものです。ほとんど意地と言ってもいいほどで,今の私に同じ事をやれと言われても,絶対に無理だと思います。
その修理範囲に,LCDも入っていました。LCDの駆動回路はCRT用とは別に用意されていて,パターン切れで清浄な画面が出ない物を波形を追いかけて修理しました。LCD用の電源も壊れていたので修理,LCD自身もキズがあったのでフィルムを貼って対策しました。
これだけやったのも,あのSTNの表示が見たかったから。1990年代の雰囲気は,あのコントラストが低く,視野角の狭い,青と白色のLCDに宿っているのです。
しかし,とうとうビネガーシンドロームに屈しました。
ジャンクのPC-386BookLを探してみましたがあいにくありません。仮にあってもLCDは同じように劣化しているはずで,今回と同じように鳴ってしまうことも避けられないでしょう。
仕方がありません,オリジナルのLCDを使うことは諦めます。
なんと恐ろしいことか,ビネガーシンドローム。私から大好きな物をどんどん奪っていきます。
そして,その恐ろしい魔の手は,PC-8201にも・・・続く。