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とうとう手を出したRoland Boutique,楽しいけど不満の多いJD-08

  • 2026/02/10 15:32
  • カテゴリー:散財

 日本の電子楽器メーカーが,往年の名機を復刻させる話はもはや珍しい物ではなくなりました。コルグがMS-20の復刻を2013年に手がけたかと思えば,YAMAHAとRolandは2015年にそれぞれrefaceとBoutiqueで,名機を復刻します。

 共通するのは気軽に買える安さと小ささです。明らかにステージや音楽制作で機材としてではなく,当時憧れた人たちがついつい買ってしまうことを狙ったものだと思うのですが,中身は本格的で,小さいから安いから,と妥協を強いるようなことがありません。

 その当時に高価な機材に憧れた人たちに買ってもらうには,音や機能に妥協があってはいけませんし,同時に置き場所に困らないようにしないといけません。若いときとは違って,年齢を経ると楽器に人生のすべてをかけられなくなっているものです。

 とまあ,私もこうした復刻シリーズにピクピク来ていた人ですが,結局使わなくなることが目に見えていましたし,小さいとはいえ演奏にも保管にもそれなりの場所が必要になることから,ぐっと堪えておりました。

 しかし,とうとう誘惑に負けてしまいました。買ったのはRolandのJD-08,JD-800の復刻版です。

 実のところ,Roland Boutiqueシリーズには「惜しい!」と思うところがあって,最終的に踏みとどまることが出来ていました。Jupiter-8の復刻であるJP-08は4音ポリであることが致命的だと思いましたし,D-50の復刻であるD-05は別にハードウェアシンセでなければならない理由が見いだせずにいました。

 そもそも限定販売であることが気に障っていて,そういう売り方はオリジナルに失礼だろうと思っていたのです。

 加えて専用キーボードのK-25mの存在です。これとRoland Boutiqueを組み合わせるとA4ファイルサイズのとても可愛い本気のシンセサイザーが完成するのですが,キーボード部分は共通で,本体をとっかえひっかえして楽しめるようになっています。うーん,これは買い集めろという事か・・・

 オリジナルを熱い情熱で維持することを最右翼とすれば,対極に位置するのは合理的にソフトシンセで揃える事です。Jupiter-XやXmのように,1台のハードウェアシンセに複数のオリジナルのエンジンを持つ機材を持つことはやや左,Roland Boutiqueのような小型の復刻機を複数揃える事は少し右という感じでしょうか。

 私はコレクターではありませんので,触って楽しい事や所有欲を満たすことだけではなく,実際に使えることを基準に考えたとき,JP-08やD-05は今ひとつだったわけで,私がJupiter-Xmを買ったことは自然な流れでした。

 そんなわけで気にかけることもなくなっていたRoland Boutiqueシリーズですが,先日偶然JD-08とJX-08を見た事で,少し調べてみたわけです。JD-08は当時一世を風靡した説明不要の名機JD-800の復刻で,オリジナルであるJD-800が出たばかりの当時,ステージ用に新しいシンセサイザーを一大決心して買うにあたり,30万円は出せないなーと,少し安かったD-70を買ったことを思い出させる,小さな心の傷でもあります。

 JX-08のオリジナルはJX-8Pというこれまた名機ですが,アナログシンセのブームがやってきた時期でも不人気のシリーズでした。というか,JX-8Pが評価されるようになったのってここ最近の話ですし,そもそもその評価ってどこからきたものか私にはよく分かりません。

 そんなJX-8Pを私は一時期使っていました。痩せたデジタルシンセの音に加えるべきアナログシンセとして,OberheimのMatrix-1000を導入したわけですが,エディットが本体だけでは出来ない事にフラストレーションがたまり,鍵盤付きでエディットが出来るアナログが欲しいと言うことで,1990年頃最も安く買えたポリシンセがJX-8Pでした。39800円で買った記憶があります。程度は悪かったですが・・・

 いざ使ってみると,確かにウォームな音が大変好ましい上に,FM音源に対抗しようと鋭角的なサウンドも工夫して出るようになっていました。いい音がするなあと思った一方で,Matrix-1000と同じくアナログシンセの終着点として,同じような傾向が見られたことで手放してしまいました。

 ただ,その事を後悔しているのもまた事実で,買い直そうにも10万円近くに値上がりしていること,仮に頑張って買っても置き場所を確保出来ないことから,もうあきらめるしかないと思っていたのです。

 そこへJX-08です。JX-08もどうせ妥協の産物だろうと思っていたらさにあらず,オリジナルを越える20音ポリというではありませんか。この1点だけでもオリジナルを越えるわけで,オリジナルを所有していた私が手に入れる有力な理由になります。

 さらに調べてみると,JX-08はそんなに割引をしていませんが,どういうわけだかJD-08は結構な割引をしています。55000円に10%のポイントですから5万円を切ります。

 JX-8PもJD-800も,私のJuoiter-Xmで再現可能ですが,JX-8Pはかつて持っていたのに対し,JD-800は持っていたことはありません。音もJD-800の方が多彩ですし,1990年代らしい音が出ます。JX-8Pはいい音だとは思いますが,やはりアナログの限界を超えられません。

 私の興味はJD-800の復刻であるJD-08に向かいます。なになに,128音ポリとはオリジナルを超越してるな,音色データに互換性はないのか,など,いろいろ調べていきます。

 そして気が付いたら,ポチっていました。JD-08と専用のキーボードであるK-25mです。

 早速使ってみると,これがまたとても楽しく,時間があっさり溶けていきます。娘に使ってみてよと渡してみたところ,やはり娘の時間も溶けてしまいます。ここ数日どっぷりとJD-08を触って楽しみましたが,がっかりしたこと,期待外れだったこともそれなりに合ったことも事実です。

 JD-08が登場してからかなり時間が経過しています(2021年発売だそうですから5年ですか)が,いつものように勝手気ままにレビューです。

(!)質感,外観

 JD-08本体は金属製の筐体で,結構しっかり作られていますし,ずっしりと重たく本物のシンセサイザーであることを強く主張していて,所有欲を満たしてくれます。加えてJD-800の個性である多数のスライダーとボタンが一回り小さく作られていながらも整然と並んでいて,実にかわいらしいく,かつ格好いいんです。

 しかも,最もJD-800らしい斜めに並んだボタンもパネルデザインに取りこまれていて,一目でJD-800の復刻だと分かるようになっています。使ってみれば分かりますが,このサイズだと斜めにボタンを配置する意味など全くないにもかかわらずです。

 ボタンの押し心地はとても良く,オリジナルを越えたかも知れません。ランプのオレンジも本体色のガンメタリックによく似合っています。特筆すべきはスライダーで,長さは短くなっているし,ツマミも小さくなっていますが紛れもなくJD-800のスライダーです。このサイズによくもまあ,押し込んだなと感心します。

 しっかりした筐体でたわむこともなく,操作もやりやすいのでデジタルシンセで音作りを楽しむというJD-800のコンセプトは間違いなく「復刻」したと言えると思います。

 ところでBoutique用のキーボードであるK-25mですが,これもしっかり作られているので価格相応の質感は保っています。キーも演奏しやすく,こちらもたわんだりしませんし,華奢な感じはしません。

 本体を斜めにセットすると,スライダーがたくさん並んだJD-08がさらに格好良く,シンセサイザーという音を創る楽器と向かい合っている感じがたまりません。


(2)音

 JD-08の音は,そのまんまJD-800といってよいと思います。オリジナルを使っていない私がJD-800にいかに近いと語っても説得力を持ちませんが,D-70を使い込んだ人からすると,1990年代の空気がきちんと出てくる音です。

 ヘッドフォンで聞けば,似ている似ていないという話以上に,いい音だなと感心します。芯のあるしっかりした音も,包み込むような音も,鋭角的なデジタルサウンドも,きちんと出てきます。この小さい箱からこれだけ本気の音が出るなんてすごいなと,その違和感が楽しさを倍加します。

 調べた限りですが,WGの波形はオリジナルと全く同じ,プリセットされたパッチもインターナルについては完全に同じで,これに加えてJD-08用に数個新しいパッチがBバンクに登録されています。この新しいパッチは明らかに1990年代のものとは傾向が違うので,同じシンセサイザーでも時代を経るとこんなに使われ方が変わってくるんだと思いました。


(3)操作性

 JD-08は小さいので,操作はかなり大変です。ツマミが小さいだけではなく,スライダの長さが短いので,ちょうどいいところで止めるのが難しいです。しかし感触は良く,オリジナルをよく再現していると思います。大事な事は,あの膨大なパラメータに向き合って,デジタルシンセの音を作っていこうという気持ちにさせるかどうかです。

 見た目も含めてですが,JD-08は本当によくJD-800の個性を再現していると思います。


(4)気になったこと

 と,散々褒めたところで,悪かったこと,気になったことをここから書き連ねます。

1.25鍵は少なすぎだ
 まずこれ。薄々覚悟はしていましたが,やはり25鍵では音作りで音を出すときくらいしか使い物にならないです。音域が狭いと言うより,両手で演奏出来ないです。せめてもう1オクターブ欲しいです。

 加えて,オクターブ動かす事がさっと出来ません。後述するペダルがない事もあいまって,音域の狭さも克服できません。


2.ベンダーレバーがないのは話にならん

 せめてリードシンセをと思いましたが,ピッチベンダーもモジュレーションもありません。初期のBoutiqueには本体に2つのスライダが用意されていたのですが,JD-08to
JX-08はスペースの関係からか,スライダが廃止されています。

 確かにA4ファイルサイズにするにはK-25mのサイズをこれ以上大きくできないのでしょうが,だからといってシンセサイザーをシンセサイザーたらしめるピッチベンドーとモジュレーションがないのは,あまりにひどいと思いました。

 なにもホイールを2つ用意しろとは言いません。JD-800らしく,というよりローランドらしく,ピッチベンドとモジュレーションを一体化したレバーを小型にしてK-25mに搭載して欲しかったです。


3.ペダルはどこに?

 これもK-25mへの不満になるのですが,ホールドペダルがないのはもう致命的でしょう。せっかくの128音ポリが泣いています。せめてホールドペダルの代わりになる,ホールドボタンがないと使い物になりません。


4.こんなスピーカーならない方がまし

 スピーカーがあるのは便利に思えるかも知れませんが,帯域が狭くてJD-08(おそらく他のBoutiqueもそうでしょうが)の音の良さを殺しています。しかもモノラルで,本体の底面にあるので聞こえにくく,本体を寝かせてしまうと音が籠もり,本体を立てると自分ではなく他に向いて音が出ますから,結局ヘッドフォンなり外部のモニターで音を聴くことになります。これならない方がましかと思いました。


5.キーボードのローカルオフがないのはなんでだよ

 DTMで入力用のキーボードとして使おうにも,ローカルオフがないのでキーボードと音源を切り離せず,シーケンサーからのループバックで動じに音が出てしまいます。私はローカルオフの設定がないシンセサイザーを初めて見ました。正直呆れました。


6.なんでマルチモードがないのよ

 せっかく128音ポリなのに,マルチモードがなく,シングルモードだけなんだそうです。シングルモードはステージで演奏するのに適したモードなのに,ベンドもモジュレーションも出来ずペダルもない25鍵のJD-08がステージで満足に使えるはずはありませんし,むしろJD-08の音の良さをマルチモードで存分に使いたいと思う方が自然なはずで,なにやってんだと思いました。


7.エフェクターの制限が厳しいなあ

 シングルモードしかないJD-08ですが,内蔵シーケンサーが2トラック仕様であることからでしょうか,2パートのマルチティンバーになってます。ただ,パートAとパートBはエフェクタの扱いが違っていて,リバーブなど空間系のエフェクトはパートAしかかかりません。

 てことはなにかい,パートBはベース専用ってかい?


8.4パートはあるように見えるけど実はバグで本当は2パート

 パートAのMIDI CHは2,パートBは3なのですが,いろいろ実験しているとMIDI CHが4と5でも音が出ることが分かりました。それもパートAやパートBと同時にならすことが出来るので,もしかして4パートかもと喜んだのですが,音色の切り替えが出来ずデフォルトののこぎり波しか出ませんし,エフェクトも全くかかりません。あげく,パート切り替えスイッチを一度でも押すとCH 4と5は二度と音が出なくなります。

 DTM Stationというサイトでは4パートと紹介されているので信じたのですが,海外のサイトではこの4パートはバグだと言われていますし,公式には2パートとありますので,やはりバグのようです。


9.JD-800の音色データと互換性がないのは悲しい

 せっかくJD-800をここまで再現出来ているのに,音色データに互換性はありません。なにもシステムエクスクルーシブでオリジナルから流し込めるところまでを期待してはいませんが,せめてソフトシンセのJD-800と音色が共用出来るくらいの工夫は欲しかったです。


10.マニュアルが不親切過ぎる

 音の作り方,活用方法,設計思想などが書かれていないのは残念とは言え,復刻版である以上は仕方がないのかも知れません。しかし,ボタンの説明がないのはあまりに手を抜きすぎです。私は「MANUAL」というボタンの機能が分からず,散々試した後にJD-800の取説を熟読してようやくその機能と使い道を知解しました。

 JD-08は復刻機ですが,それ以前にそれ単体で動作する工業製品です。そこに備わったボタンの説明はひととおり行われてしかるべきでしょう。それがJD-800から引き継がれた物か,JD-08になって用意された物か,私にはわかりません。


11.電源を切っても覚えているパラメータがどれかわからん

 例えばマスターチューニングは電源を切っても設定は残ります。しかし選んだパッチナンバーやキートランスポーズは初期化されます。JD-800とは異なるメモリシステム(例えばパッチはJD-800はインターナルとコモン,JD-08はAからDまでの4バンク)ですし,メモリが消えるというのは致命傷なので,何が残るのか残らないのか,残せないのかは明記すべきだと思います。


12.付属品に電池4本と書かれているけど?

 些細なことですが,取説にもホームページにも,付属品として単三電池4本と書かれています。しかし私のJD-08には入っていませんでした。別にいいけどね。


13.ディスプレイへのリスペクトが足りない!

 JD-800の顔の特徴は,ツマミとボタンとスライダにありますが,同時にオレンジ色のバックライトのLCDと赤の2桁7セグも重要な役割を果たしています。スライダで音色エディットが出来るからといってLCDがいらないという話ではないことを物語っていますが,JD-08は4桁の7セグです。

 無理矢理アルファベットを表示するのでわかりにくいですし,情報量がそもそも少ないのでなにをやっているのかさっぱりです。8桁2行(最悪1行でもいい)の小型LCDか,せめて16セグメントLEDにしてくれないと実用性を損ないます。

 のみならず,オレンジ色のバックライトがJD-800らしさの1つであることを分かって欲しかったです。兄弟機のJX-08だって,オリジナルのJX-8Pは16セグメントのディスプレイを持っていたのですから,ここにこだわらないのはおかしいと思います。


14.キートランスポーズがどうにも中途半端

 キートランスポーズは私にとってはありがたい機能なのですが,JD-08は深い階層に入っているので簡単に変更出来ません。設定があるだけましかも知れませんが,オリジナルの様に独立したキーにして欲しかったと思います。

 さらに,このキートランスポーズの設定はK-25mだけに有効で,USBやMIDIで繋げたキーボードでは無効です。まあこれは,キーボード側でトランスポーズしろよという意思表示なんだろうと思えば納得も出来るのですが,もうちょっと使いやすくして欲しかったなと思います。


 というわけで,近年の私にしてはたくさんの不満が噴出しました。ファームウェアで改善出来ることは少なく,ハードウェアの,それも基本的な仕様やコンセプトに起因する問題点ばかりです。ここを妥協したら実用性が損なわれるとか,ここはこだわるべきだとか,そういう悩みもなかったくらい,あっさりとあきらめている部分も感じます。

 表示の問題はLCDでも良かったはずで,なぜ4桁の7セグというオリジナルにはない仕様をわざわざ実用性が損なわれるのに突っ込んできたのか,ピッチベンドとモジュレーションこそがシンセサイザーのアイデンティティなのになぜないのかとか,大事なところが抜けているように思えてなりません。

 JD-800の復刻として,かなりいい線までこだわっているのに,主に実用性に関する部分でのツメの甘さが散見されるのは,Roland Boutiqueというシリーズが「コレクションアイテム」だといっているように思えてなりません。小さいけどちゃんと使える事がこのシリーズの面白さですし,またそこが評価されているはずですから,フォームファクターを換える必要があるベンダーレバーは別にしても,せめてディスプレイには妥協して欲しくなかったです。

 とにもかくにも,JD-08です。発売5年でまだ在庫があるようですし,値下がりもしています。中古価格も安くなっているところを見るに,今ひとつ不人気のようです。無理もないと思いますが,音そのものは抜群ですし,操作も楽しく,時間が溶けていくのは前述の通りです。

 おそらく新品が安く買えるのは今しかないでしょう。気になっている人は迷わず買って下さい。でも,JD-800を再現するのに他の方法もあります。Jupiter-XmやFANTOMでも再現出来ますから,それでも良いかもしれません。

 

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