エントリー

2023年05月の記事は以下のとおりです。

5月の紫外線とレトロブライト

 多くの製品の筐体に利用されているプラスチックに,ABSというものがあります。粘りがあるプラスチックで,割れにくく,落としてもへこんだり形が変わったりしないし,衝撃を吸収して内部を守ってくれ,軽くて安くて様々な色に着色も可能と,誠にありがたいものなのですが,大きな問題の1つに黄変があります。

 その名の通り,黄色く変色してしまう現象で,古いプラスチック製品が黄ばんでいるのを見たことがある方も多いでしょう。白やクリーム色のプラスチックがまるで煙草のヤニで汚れたように黄色くなっているのを見ると,古さと同時に汚いものだという印象も受けてしまうものです。

 私のように古いPCやポケコン,ゲーム機に愛着を持つ人が増えていますが,そういう方々の頭痛の種がこの黄変で,かつては全塗装するしか解決出来ないと思われてきました。しかし全塗装は同じ色合いを出すのが難しいだけではなく,塗装によって変わってしまう表面の艶やざらつきなどの質感も失われてしまいます。

 しかし,2008年,ドイツのコモドール64のマニアの掲示板で,黄ばんだ部品を過酸化水素水に数日間漬け込むと白色に戻るという発見が偶然されたそうで,これが同じドイツのamigaの掲示板にも飛び火,これを知ったイギリスの化学者を中心に検討が進み,RetrObrightというプロジェクトでその方法が確立しました。

 この話は2010年頃には同じ悩みを抱える日本のマニアの間でも少しずつ広まっていきましたが,海外とは違って高濃度の過酸化水素水の入手が難しいなどの問題もあり,「ハイターEXパワー」を使って長時間(数日)日光に晒すという方法が一般的になって現在に至ります。

 私も2010年頃に,レトロマシンのレストアの最終関門が突破出来る画期的な方法として追試を行うつもりでいたのですが,いろいろバタバタとしていたこともあり,結局追試を行うことはありませんでした。

 しかし,先日手に入れたPC-1475Uのキーがあまりに黄色く(というより茶色)なっていたので,レトロブライトに取り組む事にしました。

 ABSの黄変には2種類あるそうです。1つはABSそのものの変色,もう1つは添加剤の変色です。このうちABSそのものの変色はもうどうにもななりません。

 しかし,添加剤による変色は元に戻せます。添加剤は酸化防止剤と難燃剤の分かれており,それぞれで白くなるメカニズムが違っています。酸化防止剤の変色は酸性溶液に漬け込み紫外線を当てることで元の色に戻るそうです。

 難燃剤の変色は,難燃剤に含まれる臭素が紫外線によって一酸化臭素となることで発生し,元に戻すにはより強い共有結合で水素に吸着させるんだそうです。

 この添加剤による黄変を一気に漂白するのに,過酸化水素水と紫外線暴露が効くらしく,これに漂白を加速するTAEDなどを加えたレシピが確立しており,これにUVランプや日光を数時間照射することで,元の色に戻せるわけです。

 繰り返しますが日本では,このレシピをそのまま再現することは難しいものがありました。しかし,過酸化水素水の濃度が低いことを除いて代用可能なものが,ハイターEXパワーと知られるようになり,日本でも多くの実施例が紹介されるようになってきました。

 しかし,濃度が低いことを長時間のつけ込みでカバーする日本の方法は樹脂の劣化や印刷のかすれを引き起こすこともあり,なからず成功するというものでもなさそうです。

 さて,5月と6月の紫外線は特に強いわけで,この紫外線を使わない手はありません。ドラッグストアでハイターEXパワーを買ってきて,PC-1475Uのキーをレトロブライトしてみることにしました。

 まず分解してキーを取り出します。これを薄いプラスチックの板に両面テープで貼り付けて,ジップロックに放り込みます。ここにハイターEXパワーを注いで屋外に放置,という作戦です。

 途中でキーが剥がれて浮いてしまう等の問題が発生したり,14時頃からスタートしたこともあって翌日の昼過ぎまで時間がかかったなどの問題もありましたが,翌日取り出して見ると,完全ではないにせよ,変色した茶色のキーがかなり元のグレーに戻っているようです。

 これ以上は印刷がかすれてしまうと判断し,ここで中止しました。のべ6時間ほどの照射でしたが結果は良好で,大変綺麗になりました。写真は処理前後の比較です。

20230508123010.jpg

20230508123030.jpg

 これに気をよくして,X1turboIIIのキーの黄変を処理してみました。SHIFTやリターンなどのグレーのキーが黄変しているので,これが綺麗になるならと慎重に作業を行いました。のべ5時間ほどの照射でしたが,これも綺麗になりました。

 これだけ綺麗になるならと調子に乗った私は,さらにレトロブライトを進めます。PC-2001のキーと,X-07のキーです。特にX-07のキーはひどく,これが白になるならとてにうれしいです。

 これは処理前の写真です。かなり黄色くなっているのがわかります。

20230508121743.jpg
 まずはX-07の予備のキーを処理。7時間ほど放置したところかなり白くなっています。

 翌日は昨日の続きと,PC-2001のキー,そしてX-07の実機のキーを漬け込みます。X-07の予備のキーは述べ15時間漬け込んだので,もう真っ白です。しかし,印刷も薄くなってしまいましたし,オレンジや青のプラスチックも白くなってしまいました。

20230508121744.jpg
 PC-2001とX-07の実機のキーは8時間ほどのつけ込みでしたが,やはり印刷のかすれや,プラスチック自身の退色が目立つようになっています。PC-2001についてはムラも出てしまい,完全に失敗といってよいと思います。

 印刷のかすれについては,どうも処理後の水洗の時に剥がれたものも多くあるようで,印刷が弱くなっていること,そして乱暴に扱うことでひどくなったようです。

 最後に,PC-386BookLのバッテリのケースが黄色くなっていたので,少し大きめのものをラップでくるんで処理できないかという実験を目的に処理してみました。これは6時間ほどの照射で十分白くなりました。心配していたムラもありません。

 総括すると,

(1)白以外の樹脂も白くなり退色する
(2)印刷が弱くなっているので少し乱暴に触ると剥がれたりかすれたりする
(3)ラップでくるめば十分
(4)5月の紫外線なら処理時間は5時間程度でも秋分

 という感じです。

 X-07は,結局予備のキーからも印刷がかすれていないものを選抜して組み立てることにしましたが,処理時間の違いから目で分かる程度の色の違いが目立ちますし,印刷のかすれも残っています。

 PC-2001はムラがひどく,その原因はわかりません。オレンジ色のキーも退色してしまっているので,さらに失敗だと言えるでしょう。なかなか難しいものです。

 大きなものは処理が難しいとは思いますが,キーや手のひらサイズものであれば,上手く処理できると思います。気を付けないといけないのは,成型色がそもそも白やグレーでないといけないこと,印刷が剥がれる可能性があることでしょう。

 過酸化水素水やTAEDなどの物騒な薬品に,強烈な紫外線を長時間浴びせるわけですから,プラスチックにとってはかなり過酷な状況でしょう。処理は最低限度にとどめ,やり過ぎはリカバー不能な失敗に繋がります。

 なにせお天気まかせですし,数時間から数日かかる処理です。失敗すると元に戻せませんし,処理後のABSが今後数年間でどんな変化をするのかもわかりません。

 気軽に試すものと言うよりも,最後の手段として考えた方がよいというのが,今回の結論です。

 

multiEVOの新しいアタッチメント

  • 2023/05/01 16:25
  • カテゴリー:散財

 電子工作が好きな私ですが,意外にメカ的な工作に興味があることを最近意識することが増えました。というのも,私は電子工作が好きな人は必ずケースや基板の加工から逃げられないので,自ずと切るとか開けるといった工作のために工具を揃える事が当たり前だと思っていたところ,最近は基板はCADで描いてしまえばあとは発注するだけ,ケースも加工しやすいケースを使えば済む,あるいはケースを使わない場合もあり,ということで,案外こうした加工に対する投資やこだわりがない人がいるんだと思ったことがきっかけでした。

 昔から,アマチュアの電子工作は性能はともかく,見栄えがさっぱりというのが定説で,我々のような旧世代のホビーストはそこをなんとかしようともがいてきました。

 作業が素早く終わるものは仕上がりも綺麗,というのが私が経験から導き出した結論で,つまりパワーツールを使えば早く,かつ綺麗に仕上がるということです。前後にギコギコ挽く手動ののこぎりよりもテーブルソーは圧倒的に楽に綺麗に仕上がりますし,紙やすりで表面を均すときもサンダーを使えば早く綺麗に出来上がります。

 そのパワーツールも近年値段が下がると共に,売っている場所も増えてきたことで,アマチュアには好都合な環境になってきました。ならば積極的にパワーツールを活用したいところです。

 そんなアマチュアの強い味方が,ブラック&デッカーのmultiEVOです。モーターが組み込まれた本体部に先端部のアタッチメントを合体させ,一台で何役もこなせる電動工具がmultiEVOで,私は10年前に初代のモデルを購入しました。

 ちゃんとした充電ドリルが欲しかったことと,実質数千円で新しいパワーツールが手に入るというメリットを存分に味わった10年で,ドリル,ドライバー,空気入れ,サンダー,レシプロソーと,本当に活躍してくれています。

 新しいアタッチメントが出るとmultiEVOはさらに加工範囲を広げることになるわけですが,今回新しく出たアタッチメントに,私は久々に物欲が強く喚起されました。

 「ディテールサンダーヘッド」と呼ばれるものがそれです。EDS183という型名の新しいアタッチメントは,私がベルトサンダーと呼んでいるもので,本来のベルトサンダーはもっと大型なので,ベルトサンダーというのは誤りなのかも知れませんが,昔からこの名前で親しんでいるので,もうこのままいきます。

 multiEVOの購入時に書いた10年前の日誌を読み返すと,この時新しいアタッチメントとして「ベルトサンダー」を希望していると書いてあります。出たら絶対に買うとまで言いきっています。

 そして10年後,本当に出てしまいました。

 実は,ベルトサンダーはすでにプロクソンのものを買っています。硬質のアルミのシャシーやケースに角穴を開ける時は,平ヤスリで削っていくのですが,これが時間がかかって疲れる上に,綺麗に仕上がりません。また,アルミのダイキャストを削る作業も同様で,鉄道模型の電動車にDCCデコーダを組み込むときには,いつも苦労していました。

 ある時,幅9mmのベルトサンダーを使わせてもらったら,ものの数分で綺麗に仕上がったことに驚き,早速購入を決めました。1万円ほどしたのですが,劇的に作業が楽になり,綺麗に加工出来るようになったのですが,やっぱりAC式であることが問題で,あまり使わなくなってしまいました。

 そこへ,長い間切望していた,multiEVOのベルトサンダーの登場です。昨今の価格高騰もあってか,10年前のように5000円未満で買えるような話はないのですが,それでもポイントを差し引くと実質6500円ほどで買えたことになりますので,まあ想定内です。

 取り寄せという事で時間がかかることを覚悟していましたが,案外早く届いたベルトサンダーですが,これまでのアタッチメントでも最も大きなものでしょう。実のところ,multiEVOのメリットは丸鋸にしても空気入れにしても,専用品より一回り小さい事にあり,これが使い勝手の良さにも繋がっていると思うのですが,ベルトサンダーについてはアタッチメントだけで専用品に近い大きさがありますので,これはちょっと残念なところです。

 実際に使ってみると,ベルトサンダーとしての実用性は十分です。パワーも回転数も十分ですし,速度調整が可能なところも,集じん器が繋げるところも好ましいです。パワーについてはプロクソンのものよりも強く安定していますし,発熱も小さいです。

 消耗品であるベルト状のサンダーも汎用品と互換性があるようですし,コードレスでさっと使ってさっと片付けることが出来るのも大きなメリットです。いや,これは本当に便利です。

 平ヤスリはヤスリ加工の基本で,直角を出すこと,水平を出すことが大切ですが,これがなかなか難しいです。案外見落としがちなのはヤスリの品質の良し悪しで,たかがヤスリですがその切れ味は千差万別です。

 よいヤスリに出会った人はヤスリがけが楽しみになりますし,悪いヤスリを使えば疲れるし綺麗に出来ないしで,苦手意識を持ってしまうものです。私はちょっと高価なヤスリを買ったことで作業効率も仕上がりも劇的に改善された経験があるのですが,その平ヤスリの加工がパワーツールで大きく改善されるというのは,本当に助かります。

 その昔,電子工作の本に出ていた作例は,綺麗に加工されたケースと共に写真に映っていました。この当時の電子工作の達人は,同時に金属加工や木工の達人でもあったのでしょう。

 私も,苦手な木工はあきらめるとしても,作品の見た目を左右する金属加工については腕を上げるべく長年練習を重ねてきましたが,金属加工には力がいりますので,子どもには難しいものもありました。工具も危険なものがあり,いなす力がないと大けがをします。

 大人になって金属加工が楽になったのは当然のことと言える理由がここにありますが,最近はそうした金属加工が作品の仕上がりを決定付けることもなくなってきているようなので,パワーツールはもっと大きな工作,それこそ家のリフォームなどを趣味とする人が中心になっているように思います。

 ボール盤や旋盤,フライス盤などの据え付けが必要な大型の加工機の導入はある程度の覚悟が必要になりますが,使わない時は片付けておけるハンドツール,しかもアタッチメントの交換でいろいろな加工に使えるmultiEVOは電子工作メインの人には1つの解であり,電子工作に限らず様々な日常の作業に使える事を考えると,この10年で買った工具のうちで最も満足しているものの1つなんじゃないかと思います。

 

ページ移動

  • ページ
  • 1
  • 2

ユーティリティ

2023年05月

- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ユーザー

新着画像

過去ログ

Feed