安価な地デジブースターを考えてみる
- 2009/11/06 17:06
- カテゴリー:マニアックなおはなし
PCでテレビを見ることも板に付いてきた今日この頃ですが,多摩川沿いに住む私としては神奈川県の住民にもかかわらず,テレビ神奈川が安定しないという問題点にいまいちすっきりしていません。
地方UHF局(テレビ放送からVHFが廃止された暁にはこの表現はどうなるのでしょうね)にそんなに躍起になるのもどうかと思うのですが,なにげにテレビ神奈川は面白い番組をやっているので,実は気に入っています。
例えば「岡崎五郎のクルマでいこう」は全国枠でないのが惜しい良い番組だと思いますし,「天体戦士サンレッド」も楽しみにしています。実家にいた頃はずっと見ていた「探偵ナイトスクープ」もテレビ神奈川で放送されています。
そんなわけで民放では最も見ているテレビ神奈川ですが,私の環境では少し受信レベルが低く,アンテナブースタなしではドロップがひどくて,満足に見ることが出来ません。
そこで半信半疑で導入したのが,YAGIのDPW02というアンテナブースタです。ゲインは低く,その代わりノイズも小さいという「もうちょっと足りない」という用途に向けたアンテナブースタだそうですが,私が購入した6月時点のamazonの価格が約4300円とリーズナブルなわりに,私の環境では劇的な改善が見られました。
ただ,安定受信ギリギリのところのようで,天候が悪いときなど,一瞬ですがドロップが起きているような感じです。別に実害もないのでほっときゃいいんですが,夜も眠れないくらい気になるのはやはり性格の問題でしょうか。
アンテナブースタにもうちょっとゲインがあったら違うかも,そんな素人的な考えが浮かんで,少しamazonを散策してみました。すると,以前は見つからなかったユニデンのRB30Uというアンテナブースタが,非常に安価に出ているではありませんか。
約3200円という値段ですが,ゲインは標準で30dB,NFは3.0dB以下というスペックです。ゲインは連続可変出来るようになっているので,安い割には使い道が広そうです。
一方で私が今使っているDPW02ですが,ゲインは12から15dB,NFは2.0dB以下とローノイズが光るスペックです。価格は当時は4300円ですが,現在は3600円くらいまで値下がりしているようです。うむー。
ノイズの差というのは実は結構大きいことが後々わかるわけですが,ゲインがこれだけ違ってくると,受信安定性も多少は良くなるんじゃないかと思いました。これも後々誤りであることがはっきりとします。
そもそも,アンテナブースタというのは,テレビの手前に置いて使うものではなく,アンテナの直下に置いて,ケーブルや分配機による損失をカバーするために入れる一種のバッファと考えるべきものです。弱った電波を増幅する機能は確かにありますが,テレビの受信には電波の強さだけが重要なのではなく,ノイズの少なさ,平たく言うと電波の質こそ重要です。
私のようなアパートでは,各部屋に分配するロスを補うためすでにブースタが入っているはずで,そこから何十メートルも同軸ケーブルで引き延ばされた後の電波を,室内のブースタで再び増幅したところで,一緒にノイズも増幅することになってしまい,電波そのものは強くなっても電波の質は改善しません。
このあたり,なかなか直感的にモヤモヤするのですが,自分自身へのまとめとして書いておきます。同じくモヤモヤしている方は,辛抱して読んでスッキリしてください。
まず,SN比についてです。信号とノイズの比率として馴染みのある数字ですが,通信分野ではSをキャリアの強さとしてCN比,もしくはCSNと書くことも多いようです。
SN比は電力比で示され,信号レベルをS,ノイズレベルをNとした場合,
SN = 10*log(S/N) (dB)
となります。ま,これはいいですね。
次に雑音指数NFです。NFはある系における,入力と出力のSNの比を示します。つまり,その系を通ることで増える(もしくは減る)雑音がどれくらいあるのかを示すわけですね。入力の信号レベルをSin,ノイズレベルをNin,出力の信号レベルをSout,ノイズレベルをNoutとすると,
NF = (Sin/Nin) / (Sout/Nout)
= (Sin*Nout) / (Sout*Nin)
となります。もちろん,それぞれの入力は電力です。
もし,ある系が発生させるノイズがゼロだったとすると,ノイズの量は増えも減りもしませんから,入力と出力のSNが変化しない,つまりNF=1(=0dB)となります。
さて,アンテナブースタ,同軸ケーブルや分配器など,チューナーまでのトータルのNFを考えてみます。なぜなら,結局のところ電波の品質,すなわち受信レベルというのは,系全体のNFが低いほどよいことになるからです。
今,直列に繋がっている機器のそれぞれのゲインをG1,G2...とし,それぞれのNFをF1,F2...とします。全体のNFをFTとすれば,
FT = F1 + ((F2-1)/G1) + ((F3-1)/(G1*G2)) + ((F4-1)/(G1*G2*G3)) + ...
+ ((Fn-1)/(G1*G2*...G(n-1)))
となります。(各値はdBではなく真数です)
これを見て分かるように,NFに対する個々の機器のゲインの影響は後段になるほど小さくなります。また,初段のNFとゲインがもっとも系全体のNFに影響を与えることもわかります。
ということはですね,同軸ケーブルのようにゲインは1以下,ノイズは増えるという装置を初段に置いてしまうと,後段でいくら高性能なブースタを入れてもほとんど効果がない,ということになるわけです。
逆に,初段にブースタをいれてしまえば,後段に分配器や同軸ケーブルを入れても,あまり影響を受けなくなります。同軸ケーブルの長さを無視できる,分配する数を気にしなくてよい,というのが,アンテナブースタの本来の役割であることがおわかり頂けるでしょう。
参考までに,いくつかのデータを紹介しましょう。
まず,パッシブな機器のゲインとNFに対する考え方ですが,例えば分配器は2分配の場合に,4.0dBほどの損失があります。1つのエネルギーを2つにわけるのですから,損失が3.0dB以下つまり半分以下になることがないのは,ごく当たり前の話ですね。
それで,この分配器のゲインはというと,-4.0dBとなります。ではNFはどうかというと,これは4.0dBとなります。結構なノイズ源になっていますね。
同じように同軸ケーブルはどうかというと,BS用の5Cタイプ(直径5mmの太いやつですね)で,10mあたり約2dBの損失があります。安いケーブルは損失が大きく,高いケーブルは損失が小さいので,長く引き延ばすなら高価なケーブルを使わないとダメだとわかります。
もし20mも伸ばすと,そのゲインは-4.0dBとなり,NFは4.0dBまで悪化します。これはなかなか強烈です。
チューナーにも損失があります。空から飛んでくる電波のエネルギーを消費して信号を得ているわけですから,これも当たり前の話です。いわゆるゲルマラジオってやつは電池がいらないラジオですが,これは電波のエネルギーだけで音まで鳴らしてしまうゆえ,音も小さく感度も低いわけです。
そのチューナーですが,損失は通常5.5dBと言われています。
ここで分かるのですが,各部屋に分配されたその先で,複数のテレビやDVDレコーダを繋いで電波が弱った時に,各部屋でブースタを用いると効果がある場合があります。
もちろん,チューナーの手前にブースタが入っていてもあまり効果がない,というセオリーが変わるわけではありませんが,それでも複数のチューナーを接続して電波が減衰してしまうような状況だと,室内のブースタでもそれを補う役割くらいは期待できるということです。
さて,2分配器を入れ,同軸ケーブルを20m伸ばした先にチューナーを1つ繋げたケースで,トータルのNFをこれらの数字を使い,ちょっと計算してみると,さっと21.88となります。13.4dBというところでしょうか。
ここでゲイン30dB,NFが3.0dBのブースタを用意します。最初にアンテナ直下にブースタをいれて,そこから2分配器と同軸ケーブルを経た場合のNFは,ざっと2.02です。ブースタのNFが3.0dB,つまり約2ですので,2分配しても20m伸ばしても,ほとんど悪化していないことがわかります。これはすごい。
次に2分配器から20mの同軸ケーブルを経て,チューナーの手前でようやくブースタを入れた場合を計算します。すると12.52となります。ブースタなしより幾分良くなっていますが,やはりアンテナの直下が一番良いというのがよくわかります。
では,今度はブースタをローゲイン・ローノイズのものに変えてみましょう。ゲインは12dB,NFは1.5dBとします。ゲインは先程のブースタの1000倍に対し,16倍まで低くなっています。これだけ低いとさすがに芳しくない結果が出るかと・・・
まず,アンテナ直下に入れてみます。先程と同様に計算すると,2.70となります。このブースタのNFは1.5dB,つまり約1.4ですのでゲインが低い分,かなり悪化しているのがわかります。16倍程度のゲインだと,2分配とケーブルの損失を補うのは,けっこう重たい仕事だということになりますね。
次に,このブースタをチューナーの手前に入れてみます。先程同様計算すると,9.73となります。
比べてみましょう。
ブースタの種類 アンテナ直下 チューナー手前
----
ブースタなし 21.88 -
ハイゲイン 2.02 12.52
ローゲイン 2.70 9.73
ハイゲインのブースタの場合,アンテナ直下で効果てきめん,です。ローゲインのブースタではゲインが小さく,後段のロスを補いきれないようです。
しかしチューナーの手前に入れた場合逆転します。ローゲインはノイズの小ささを武器に,ハイゲインよりもいい値を出してきます。
つまり,今回のケースでは,アンテナ直下に入れるならゲインが高い方がよく,チューナーの手前にいれるならゲインよりもノイズの小ささが重要だ,と言うことになります。いやー,面白いですね。
で,この結果ですが,私の実験でも同じような傾向になりました。
アンテナブースタを,現在使っているローゲイン・ローノイズであるDPW02から,ハイゲインのRB30Uに交換し,受信レベルが最も高くなるようにゲイン調整つまみを調整して比べたところ,若干ですがRB30Uの方が受信レベルが下がりました。ほんのわずかですし,どちらのブースタでもドロップなど発生しなかったのですが,値が揺らぐ際の中心値が少しだけRB30Uの方が低い傾向を示しました。
またRB30Uのゲインを最大(つまり30dB)にすると受信レベルが低下し,映像が出なくなってしまいました。かといって最小(つまり10dB)にすると,これもまた受信レベルが低下して,映像が出なくなりました。ゲインを最大にした場合の受信レベル低下の原因が,チューナーへの過大入力によるものなのか,それともトータルのNF悪化によるものなのかは,信号レベルの測定を行っていない(測定したいなあ)ので,今回の検討だけではちょっとわかりません。
受信レベルが最大になる時のゲインについても,実測する手段がなかったのですが,DPW02と同じゲインになっていると仮定した場合,結果として受信レベルがやや低くなったという傾向から考えると,ノイズが多いか少ないかが決め手になっているんじゃないかと推測できます。
計算した値そのものにあまり自信はありませんが,結果は式の意味自体は反映していると思います。ゲインやNFなどの指標が,アンテナブースタを適材適所に用いるために不可欠な情報であるという事を,今さらながらに知りました。
しかし,RB30Uが1つあれば,アンテナ直下でもチューナの手前でも,ゲイン調整つまみをうまく使えば,どちらでも実用上問題のない程度に利用出来る,ということもまた事実ですので,今から買うならRB30Uをおすすめしておこうと思います。安いですし。
さてさて,私の環境ではDPW02の方が僅差で良い結果になったわけですが,そうするとRB30Uが余ってしまいます。これは年末年始に,実家の地デジアンテナ大作戦のために取っておくことにします。
実家の地デジ化は,難視聴対策による共聴システムが地デジに対応しておらず,対策の予定も未定であるため,室内アンテナによる不安定な状態で暫定的に行ってあります。
室内アンテナですから,部屋を閉め切ることが多く,雨や雪などで天候が不順になりがちな冬には厳しいと思うのですが,難視聴対策のための共聴システムの地デジ対応は全国的にもようやく問題提起がなされたばかりと,遅れている分野です。
役所をあてにしていてはせっかくの地デジテレビがもったいない。待っていても結局自前でアンテナを用意しろと言われる可能性もなくはないので,もう自分でやっちゃいます。
ただ,今の私の鈍くささで実家の屋根の上に登れば,間違いなく命を落とすでしょうから,ベランダ設置タイプのアンテナを利用する予定で,少し前に新発売となったDXアンテナのUAH800を手配しました。
これは通常の八木アンテナの20素子相当の性能を持つ平面アンテナで,この種のものとしては際立った性能を持っています。もう八木アンテナなどは,価格の安さを除いてはメリットなどないんじゃないかと思うほどです。
これを2階のベランダに取り付け,恒久対応としようと考えています。
しかし,従来の共聴システムと入れ替えてしまうと,アナログ放送がみれなくなってしまいますので,これを生かさねばなりません。実家の配線の状態がよく分からないので今は結論を出せませんが,今は取り外して使っていないCSアンテナ用の配線がベランダに残っているはずで,これでとにかく室内まで引っ張り込み,ここにアンテナブースタを入れてから,地デジテレビが設置された部屋まで引っ張ろうと思います。
しかし,ベランダとは言え,真冬の作業は寒いだろうなあ。風呂場の天井裏にある分配器やブースタに手を出すのも嫌だなあ。