MDR-M1STは次世代主力モニタの座につけるのか
- 2019/09/06 13:08
- カテゴリー:散財
新しいヘッドホンを買いました。ソニーのスタジオモニターである,MDR-M1STです。
先日出たばかりなのですが,(メディア関係者ばかりなのがきな臭いですが)大絶賛です。
私は昔からスピーカーよりもヘッドホンで音楽を聴く習慣がある人なのですが,ながら聴きを含むリスニング用にはスタックスのSR-303を,なんらかの作業のための確認用にはT50RPmk3nを使っています。
どちらも高解像度で周波数レンジも広く,位相の乱れがない優秀なヘッドホンで,音の傾向もよく似ています。違うのは音場の再現で,スタックスは目の前にぱーっと広がる空間的な音,T50RPmk3nは頭の中で鳴っている感じです。
この,音の近さというのは思った以上に重要な事で,ある音に注目して作業をするのに空間的である事はより神経を研ぎ澄ます必要がありますし,リラックスして音楽を全体として愉しみたいのに,音が近いというのは疲れてしまうものです。
用途で分けることはこのように必須とも言えますが,大事な事は違いがあって欲しいところと同じであって欲しところがあるということです。高音や低音の出方の傾向は同じであって欲しくて,ヘッドホンを交換したときに「あれっ」という違和感が一発入ることは,私はどうしても避けたいと思っています。
位相が揃っていることはヘッドホンにとどまらずオーディオ機器に最低限必要な性能だと思いますから,やっぱり音の近さが一番大きい差だと思います。
で,T50RPmk3nとぶつかるMDR-M1STを何故買ったかといえば,いわゆる業界標準(になるであろう)モニタを1つ手に入れておきたいということと,同じ理由で必要性を感じつつもどうしても気に入らず使う事がなかったMDR-CD900STへのリベンジです。
業界標準のモニタを手に入れて,それで評価することは,非常に客観的な結果を生み出すための第一歩になります。自分の気に入ったヘッドホンで調整をしても,その結果を「よい」と思ってくれる人は限られます。
かといって大多数が使っているヘッドホンなどわかりません。
そこで,プロがモニタに使っているヘッドホンを使うわけです。これで調整を行って破綻がなければ,とりあえず「いいわけ」が出来ますよね。
いいわけ,とはまた刺激的な言葉ですが,逆の言い方をすると自分の作ったオーディオ機器や音が業界標準のモニタで作られていないと,その段階でほとんど信用されないというのが現実です。
もちろん,最終的には好みの問題なのでどうでもいいといえばそうなのですが,そのモニタが業界標準になっているには相応の理由もあるわけで,そこである程度追い込めたら,私にも自信が付くというものです。
そういう理由で,宅録をする人やオーディオ機器の自作をする人の間では,好き嫌いとは別の軸で,MDR-CD900STを使う人が多いです。
私もそう考えたのですが,一度MDR-CD900STを使ってみる機会があったときに,30秒で「これかあかん」と投げ出してしまったのです。
耳殻を押さえつけるイヤーパッドは長時間の使用に耐えられず,典型的なかまぼこ形の周波数特性は,特に高域のつまり具合に我慢なりませんでした。
それまで聞こえていた音が聞こえなくなったこともそうですし,私がお金がなかったころに辛抱して使っていたヘッドホンとそっくりな音だったことが,つまらない過去を想起させたからかも知れません。
着け心地も悪く,頭にかぶると言うより頭を挟むという感覚は,非常に窮屈でした。
私は自分の耳はもう腐っていると思っているので,音質云々を評論する資格はないと思っているのですが,それでも音の違いは区別出来る場合はそれを信じて判断しています。そしてその判断は概ね最初の10秒で決着し,逆に30秒以上聞くとわからなくなってしまいます。
慣れてしまうんですね,スピーカーもヘッドホンも。脳が補正をかけてしまうからだと思うのですが,これを肯定するともうどんなヘッドホンでもええやんけ,となってしまいますし,補正も少ない方が疲れないと思いますから,最初に感じる違和感が少ない方が良いという判断は妥当だと思っています。さらにいうと,普段から良いものに慣れておく方がよいですよね。
ということで,慣れという観点でスタックスとT50RPmk3nはベストなタッグだと思っているのですが,もしかするとMDR-M1STは,ここに割って入ることが出来るかもしれないという期待があったのです。
レビューを見ていると,MDR-CD900STとは別物で違う音だとか,もっと高域が出ているとか,音が近いとか書かれています。着け心地もよいそうです。
なら,今ひとつ着け心地がよくないT50RPmk3nを置き換えることが出来るかも知れません。置き換えることができると,自分の作品にお墨付きも得やすいですし。
こういう長ったらしい理由で,MDR-M1STを買ってみました。
まず最初に注意点。理由は今ひとつわからんのですが,ソニーとしてはプロ用のモデルなので通常の1年保証はしません,ということです。壊れたらどんな場合も有償ですということなのですが,これは壊れやすいという意味なのか,プロはよく壊すという意味なのか,どうも釈然としません。
どっちにしても,無償修理期間がないことと修理費用が安くなっていることとはペアだと思う訳ですが,その事もアナウンスされていません。おそらく修理費用が安いということがないからでしょう。
本体価格も安いとは思えず,MDR-CD900STよりも随分高価です。壊れたら買い換え,あるいは消耗品として定期的に交換,という発想で使うにも,結構厳しいかも知れません。
まあ,単純に商流の問題でしょうけど。
もう1つ,ケーブルが6.5mmの標準プラグしか付いてきません。一般的な3.5mmはそのままでは使えません。
ケーブルの断線にもさっと対応出来るように,Lチャネルの片出しでケーブルを着脱できます。ケーブルはLとRがそのままで出ている4極のプラグを持っていて,バランスにも対応するのは結構なことです。
3.5mmのジャックに繋ぎたい(DR-100mk3です)私は,6.5mmを3.5mmに変換すると邪魔になることを知っているので,ケーブルを交換したいと思っていましたが,こういうのって結構高価なので困ります。
なにかいい方法はないかと探してみると,3.5mmの3極のプラグが両側についたケーブルがそのまま使える事に気が付いて,以後これで使っています。
さて,装着感からみてみます。
T50RPmk3nは重い上に剛性が低く,グニャグニャです。これを強く挟む込むことで固定し,強い側圧を軽減するために大きなイヤーパッドを使っています。アメリカンですね。
MDR-M1STは精密機械のような出来で,剛性感もそこそこありますがなにより精度が高く,かっちりとしています。軽いですし,これだと側圧が強くなくてもちゃんと装着出来ます。
イヤーパッドも近年のソニーのヘッドホンのように着け心地にこだわっていて,とてもよいです。ただ,ちょっと小さいので耳殻にあたってしまうことは避けられず,長時間の仕様で痛くなりました。
このあたりはさすがソニーです。
続けて音です。
がっかりしたのはここからで,やっぱりかまぼこ形でした。明らかにMDR-CD900STの延長線上にある音で,MDR-CD900STに慣れた人には全く問題ない音に聞こえるでしょう。
いくらMDR-CD900STとは別の機種だの併売するだのといっても,そこはやっぱり同じ方向です。うがった見方をすれば,MDR-CD900STを否定しきれなかったということかも知れません。
ただ,さすがだなと感心したのは,MDR-CD900STの傾向でありながら,実に自然に高音が伸びていて,解像度が劇的に上がっているということです。
特に高音は,いやらしい付け足しではなく,ごく自然に聞こえてきます。不思議な感覚といいますか,これまで聞いたことがない音と言いますか,とにかくこれは見事だと思います。
だから,MDR-CD900STとの互換性は高く,違和感なく移行できるのに,これまで聞こえなかった音が聞こえるようになるのではないでしょうか。
これが狙いだといえば,してやったりなのでしょう。
しかし私にはあまりにも違和感がありました。MDR-CD900STを気に入らない私が,その延長にあるこの音を受け入れるはずがありません。
それは私の好みとして置いておくとして,やはりドライバが40mmと今どきのヘッドホンとしては大きいとは言えず,どうしても小さい穴から絞り出されて耳に届いている感じがしてなりません。加えてダイナミック型特有の暴れ(というか破綻)も気になります。
これがスタックスやT50RPmk3nのような平面振動だと,耳と言うより頭の両側からまっすぐ平行に振動されるような感じで聞こえます。全帯域で伸びやかで,雑味がないのは,平面振動が理想的に起こっていて,チャンバー内の空気が等しく加圧されるからではないかと思います。
直径40mmくらいの振動面では,扇を広げるように圧力が伝わっていくのだと思うのですが,この差は特に周波数によって聞こえ方が違ってくると言う形で,聴感上意外にに大きく影響しそうな感じがします。
ということで,結論です。
MDR-M1STは,MDR-CD900STを置き換えることが可能なように配慮されています。
MDR-M1STは,MDR-CD900STよりも大幅に良くなっていて,きちんとハイレゾに対応しているばかりか,解像度も上がっています。
MDR-M1STは,着け心地も大幅に良くなっていて,長時間の使用にも十分耐えることが出来そうです。
しかし,MDR-CD900STが気に入らなかった人は,MDR-M1STも気に入らないと思います。
私は,確認用のモニタとして使う事はやめませんが,これをうちのメインにはしません。
しかしながら,世の中ではこういう音が,色づけのない素の音として認知されているんだなあと学ぶ良い機会になりました。なるほど。