古いテスターMD-150Cをレストア
- 2023/11/01 14:37
- カテゴリー:マニアックなおはなし, make:
少し前の話になるのですが,古いテスターを手に入れました。サンワのMD-150Cです。
1982年生まれですから実に40年も前のもので,わずか3.5桁,レンジ切り替えは手動ですし,導通チェッカーもブザーもありません。当然容量計もダイオードチェッカーもありませんし,高圧に対する安全規格が出来る前なので,カバーなどの対策もないくせに1000Vまで測定可能という恐ろしい仕様です。
兄弟機としてMD-200Cがありますが,これはテスターの手前側にオプションを取り付けると,温度やhFEなどを測定する事が出来るという拡張性を備えていました。MD-150Cは拡張性がない代わりに,DC20uAのレンジを備えています。
今のテスターが持っていないもので,MD-150CやMD-200Cが持っているのは,その薄型のデザインでしょう。私は小学生だった当時,MD-200Cをみて格好いいなあと思ったのですが,それが今でも心のどこかに引っかかっていたようで,同じデザインを持つMD-150Cを手に入れた時は,久々にワクワクさせられました。
思えば,当時はアナログテスター最後の時代で,CMOSタイプのLSIによってデジタルテスターが作られるようになったこの時期,ようやく安価で実用の高いデジタルテスターが登場して,徐々に置き換わりつつありました。
アナログテスターは測定器の定番として,プロも現場で使っていますから,その形や操作方法はどれも同じようなものになっていて,あまり代わり映えがしなかったように思います。(しかしサンワのBX-85TRのようなアナログテスターは,薄型で色も形も格好良かったです)
しかし,デジタルテスターはメーターのような可動部がないので部品レイアウトの自由度も高く,高さに制約のある部品がなかったことから,大きさも厚さもデザインもいろいろ試せたんじゃないかと思います。
それから40年,今見るデジタルテスターは,どれも同じようなものになっています。プロが現場で使うと,安全で確実なデザインになっていくということでしょう。
MD-150Cは,そうした試行錯誤があった時代の製品です。なんと言っても厚さがわずか20mmしかありません。カード型のテスターならこれくらい珍しくもなんともないのですが,テスターリードが交換可能なテスターでこの厚さは今はもうないでしょう。
LCDは数字しか表示されず,単位の表示さえないシンプルなものですが,文字の大きさは今のテスターと変わりません。余計な情報が出てこないだけ視認性は高く,当時のLCDらしい独特の下地の色がレトロっぽくて好印象です。
レンジ切り替えは自動ではなく,アナログテスターと同じく手動切り替えです。しかしこのロータリスイッチは良く出来ていて,そのまま回せばクリック感がありますが,少し押し込めばクルクルと軽く回転するので,レンジ切り替えもスムーズです。しかも大きくて操作しやすいです。
電源スイッチは側面のスライドスイッチなのですが,これがまた使いやすいです。オートパワーオフがないのもよいです。
もう1つ特徴的なのは,抵抗レンジで印加される電圧を2種類から選ぶ事が出来ることです。Hiだと1.2V,Loだと0.35Vで,通常は精度と速度から1.2Vを使いつつ,回路に入ったままの状態で抵抗を測定するときや,定格電力の小さいものを測定するときなど,電圧を下げたいときにはLoに切り替えます。
この機能は使う人も少ないのか,今どきのテスターには搭載されていませんが,使いこなしという点で私は今でも欲しい機能です。
そしてなにより,この格好良さです。色はクリーム色で,僅か20mmの厚さに今のテスターに見慣れた目からは平べったく目に映る幅広のボディです。レンジ切り替えが手動ですから,機能ごとに淡い色でまとめられた,たくさんの文字がわかりやすく書かれたパネルが,いかにも測定器らしくてワクワクします。
この時代の測定器ですから,調整や自分で出来るように配慮されていました。内部の2つのVRで,直流電圧と交流電圧を調整する方法が説明書に記載されていました。
さて,手に入れたMD-150Cは随分汚れていて,触るのも憚られるほどでした。傷だらけでしたし,クリーム色の筐体はすっかり日焼けして茶色くなっていますし,パネルの文字も薄くなっています。テスターリードもありませんでした。
電池をとりあえず入れてみると動くようなので,早速分解して洗浄しました。そしてこの忌々しい日焼けをなんとかするために,レトロブライトを敢行しました。
結論から言えば今回のレトロブライトは失敗です。漂白の程度が上ケースと下ケースで違ってしまったので組み立てるとツートンカラーになってしまいました。
それに,パネルの文字はますます薄くなり,特に赤の文字はほぼ消えてしまいました。SANWAのロゴも消えましたし,淡い色のグルーピングもすっかりなくなっています。
かなりがっかりしましたが,これを対策するのは難しいので,LCDの上にかかっている風防を磨き,組み立てを済ませました。一通りの動作確認をした後調整を済ませて,精度の確認です。
もともと3.5桁ですから精度もクソもないのですが,一応いつものようにHP34401との比較をやってみたいと思います。
いつもの標準電圧発生器の出荷時の値は以下の様な感じです。
2.500V・・・2.50165V
5.000V・・・5.00302V
7.500V・・・7.50454V
10.00V・・・10.00533V
測定日からすでに7年も経過しているので,ズレていても仕方がないのですが,あらためて現在のHP34401Aを調べてみますが,1年前の値と比べてもほとんど変わっていません。
2.5018V
5.0034V
7.5052V
10.0063V
次にHP34401Aの現在の値と,MD150Cとの比較です。
2.50V -1.8mV -0.0719%
5.01V 6.6mV 0.132%
7.51V 4.8mV 0.064%
10.02V 13.7mV 0.137%
桁数が少ないのでどうしても差が出てしまいますが,それでもこの精度です。HP34401Aを3.5桁に丸め込んだら5Vと10V以外はドンピシャ,十分実用レベルです。
表示の更新速度はこの時代のものとしてはごく普通の2回/秒で,この点は少々残念ですが,連続した変化を読み取るにはアナログテスターを使えと,使い分けが当たり前だった時代であることを考えると,特に悪い物ではないように思います。
使い勝手でいえば,繰り返しになりますが横にある電源スイッチが使いやすいです。ロータリスイッチを回すタイプの淵源スイッチが多い中,片手で電源を入れることが出来るというのはなかなか便利です。
そんなわけで,制度面でも問題なく,電流を含めた豊富なレンジを持ち,使いやすく見た目も格好いいMD-150Cは出番が多くて,すっかり私の常用機になっています。これ一台で何でも出来るという絶対性能の高さはありませんが,ちょっとした測定に便利で,いつも私の手元においています。
逆の言い方をすれば,テスターなんてのはこの程度の性能があればそれでもう十分なんじゃないかということでしょう。
昨日,MD-150Cを使っていてふと思ったのは,高価でもこれを当時手に入れていれば,もしかしたら別の人生があったかもなあ,ということでした。高校生の時に手に入れた初めてのデジタルテスター(そして人生で2台目のテスター)であるRD-500も随分と活躍してくれましたが,これがMD-150Cだったら,もっと測定作業が楽しくなったんじゃないかと思ったのでした。