コッタレスクランク抜きの話
- 2024/10/01 13:39
- カテゴリー:散財, マニアックなおはなし, make:
いきなりタイトルが専門用語で特殊工具の名前で恐縮ですが,1ヶ月前の私の記憶にも残っていなかった言葉なのに,ここで書いてみようと思ったにはそれなりの理由がありました。
夏頃から自転車のメンテを続けている話は備忘録も兼ねてここにも書いているのですが,いじればいじるほどあちこち悪いところが目については,調べてみると案外自分でなんとかなりそうだったりするので,キリがない状態が続いています。
これはもう素人を超えた領域だと割り切っても,部品も安く手に入り,作業もそんなに難しくないとわかれば手を出したくなるのが人情というもの。かくして我が家には交換用の部品が一山出来ている状態です。
先日はチェーンを交換したわけですが,なにせどの部品も20年以上前のものです。無条件に交換が必要なものだと思っていますので,(技術的にも経済的にも気分的にも)気になるものはさっさと交換するに限ります。
それに,ギア比については以前からずっと気になっていて,ちょっと低すぎて平坦な道で速度がのってきているときに,漕ぐ回数(ケイデンスというそうです)が多すぎて疲れていました。
現状のギアの歯数を調べてみたところ,前は36,後ろは14から28でした。ギア比は一番軽いところで1.286,一番重いところで2.571とやはり低めです。一漕ぎで2.5回転ではそりゃ漕ぎまくりですよ。
そこで,前のギアをもう少し歯数が多いものに交換することを考えました。COM70MのクランクはPCD110mmの5穴スパイダーですから,これに適合するギア(チェーンリングと言うそうです)を探します。
amazonをみていると,シマノの46Tが2000円ほどで買えるのでこれを注文しました。チェーンカバーがなくてズボンの裾が汚れそうですが,カバーは追々考えましょう。チェーンの長さも変わるかも知れないので,ピンも予備を買っておきます。
さて,これらの部品が届くまでに,とりあえずチェーンリングを外しておこうと,クランクに固定しているチェーンボルトを緩めて,チェーンリングとチェーンカバーを外してみることにしました。
しかし1本だけボルトが固着していてなかなか外れず,これはもうクランクごと外してしまうのがいいんじゃないかと,クランクを外すことに方針変更です。
ここで必ず必要になるのが,冒頭のコッタレスクランク抜き,なのです。
多くの自転車はクランクの端っこに四角い穴があいていて,ここに軸が圧入されています。これを抜くのは簡単ではありません。簡単に抜けたら危ないですよね。
そこで,クランクに切ってあるネジにはめ込み,四角い穴の内側から軸を別のネジで押し込んでクランクを軸から抜くという特殊工具を用意します。これをコッタレスクランク抜きといいます。
「コッタレス」ってのがなにやら気になるわけですが,cotterとはくさびのことで,昔の自転車はくさびを打ち込んでクランクを固定していたそうです。これがいらない仕組みとして一般化したのがコッタレスクランクというもので,これを抜くのがコッタレスクランク抜きというわけです。
ただ,このコッタレスクランク抜きは失敗がつきものらしく,クランクにこの工具をねじ込むのに失敗してネジ山を潰してしまえば,二度とクランクが抜けなくなります。
なので,精度の高い信頼性のあるしっかりした工具を買う必要があるのですが,私は数年前(そう,リアディレイラーを交換したときです)に,こんなこともあるかもとシマノのTL-FC10を買ってありました。
正直なところ買ったことすら忘れていて,工具箱に転がった見慣れない,一度も使ったことがない工具をみて,これなんだっけ?という感じだったわけですが,今回こんな所で出番が来るとは思ってませんでした。
で,早速使ってみることにしたのですが,なんとクランクにねじ込めません。錆やゴミで回りにくいのかもと力を入れてねじ込むとポロッと外れて,ネジ山が削れていました。
これはこのまま続けるとえらいことになると,反対側のクランクで試しますが同じです。他の自転車で試してみると,固いですが一応最後までねじ込むことが出来ますので,工具の不良ではなさそうです。
仕方がないのでチェーンボルトを緩める作戦にもう一度トライ。なんとか外してチェーンリングとチェーンカバーを取り外しました。
しかし,やっぱり気持ち悪いですよね。なので,amazonで安いコッタレスクランク抜きを買ってみました。シマノの工具で失敗したという話は皆無でしたので,ダメモトです。
左がシマノのTL-FC10,右がamazonで買った安い奴です。
届いた翌日,早速安い工具で試してみました。確かに固いのですが,しっかりかかっている感じがするので,ネジを切る要領で進めて戻してを繰り返し少しずつ回し進めると,最後までねじ込むことが出来ました。これは意外な結果です。シマノの工具ではダメだったものが,amazonの安物で可能になりました。こういうことがいやだったので,高いけどシマノの工具を買ったんだけどなあ。
このまま軸を押し出すネジを回して抜いてしまおうと考えたのですが,これが固くて回りません。あまり無理をすると工具やクランクを壊してしまいます。
よく見ると,安い工具のネジの先端にはなにもついておらず,シマノの工具は先端に軽く回る分厚いワッシャのようなものがついていて,軽く回るようになっています。
そこで安い工具を抜き,シマノの工具をはめ込んでみます。すると,一度工具がねじ込めたからでしょうが,あれほど入りにくかったシマノの工具もねじ込めるようになっているではありませんか。
しっかりねじ込めたことを確認して,恐る恐る軸を抜くネジを回していくと,実に軽くまわって,やがてクランクがあっさり抜けてくれました。簡単すぎてびっくりです。
反対側のクランクも同じように抜いて,難関だったクランク抜きが終わりました。同じ役割の特殊工具を2つも買わないといけなくなるとは思ってませんでしたが,シマノの工具だけではダメだったというのは,ちょっと意外な経験でした。
シマノの工具は精度も高く,ネジの山も綺麗に整っています。一方,安い工具はガタも多く,ネジの山も単純です。おそらくですが,アルミ製のクランクのネジ山が錆びて窮屈になり,精度の高いシマノの工具でははまらず,精度の低い安い工具だからこそねじ込めたのでしょう。
一度ねじ込めれば,ネジ山も綺麗に整いますので,これでシマノの工具もねじ込むことが出来たというわけです。まるでねじ切りのタップみたいです。
さて,チェーンリングの交換作業を外したクランクで進めようと眺めていたら,やっぱりチェーンカバーが必要だよなあと言うことになり,改めてamazonを調べみました。2000円ほどでPCD110mmのカバーが見つかったのですが,3000円ちょっとでカバー付きのチェーンリングとクランクのセットがあるじゃありませんか。MTB用だとこんなに安いのですね。
せっかくだからと,購入したのはシマノのFC-TY501の48Tの3段です。もともとCOM-70Mはフロントに変速がない自転車ですので,48Tのシングルとして変速なしでいいんじゃないかという発想です。
一応確認してみると,どうも軸の方も適合する物に交換しないといけないらしいです。この軸の部分を,ボトムブラケットといいます。
で,交換の評判がとにかく良いのが,このボトムブラケットという部品です。BBと略されることがあるほどメジャーでかつ最重要な部品の1つでです。
ここが重要な事はわかりますが,回転数は車輪の方が何倍も多いわけで,そんなに乗り心地に影響はないだろうと思っていたのですが,どの人も交換後の乗り心地を絶賛しています。それに,漕いだときのゴリゴリという感触の原因は概ねこの部品の破損にあるそうで,言われてみれば私のCOM70Mもゴリゴリという感触があったりします。
うーん,これを変えるにはどうすればいいのか・・・みんな気軽に交換してるし。
調べてみると,またもや専用の工具が必要らしいです。BBツールと言うそうです。
台湾製の品質の高そうなものが安くありましたのでこれを注文。しかし肝心のボトムブラケットは適合するBB-UN300(D-NL)というタイプが在庫切れで,すぐには手に入りません。
手をすぐに動かせないフラストレーションから,amazonをダラダラみていると,せっかくだから,せっかくだからと,いろいろな計画が頭に浮かんできます。気が付いたら,フロントの変速を新規に取付てみるとか,ペダルがもう回らないくらいにゴリゴリいってるので真っ先に交換しないといけないのはこれだろうとか,実はすり減っているリアのギアを交換するとか,そもそもブレーキワイヤを一度も交換してないよなとか,フロントの変速レバーを取り付けるにはグリップを壊さないといけないなとか・・・
調べてみるとどれもなんとかなりそうです。思いつきで部品を購入,翌日から着々と部品が届き,やがて山を作る事になるのでした。
とまあ,先行してボトムブラケットを外しにかかりますが,固着してびくともしません。軸に工具をしっかり固定するために,M8のボルトを注文しました。ほんとキリがない・・・
ボルトが届く間に,ペダルを外します。クランクも同時に交換するのですから,ペダルは外さなくてもいいんですが,ちょっと外してみたくなりました。ところがこれが一苦労です。モンキーレンチは分厚くて入らず,プライヤーは固着したネジに負けて変形してしまいました。
仕方がないのでペダルスパナを注文。翌日に作業を続行するも,なかなか外れずもはや全身運動になりました。苦労の末なんとか外せましたが,再利用するわけでもないので外して終わりという,むなしい結果に終わっています。
23年間ですからね,もうあちこち固着しているでしょう。すでにシートポストは固着していてサドルの高さは変えられなくなっていますし,毎度の交換作業の最初の難関が固着を緩めることにあるというのはなかなかしんどい話で,自転車屋さんを改めて尊敬しました。
でもまあ,そこは知恵と工夫です。他人の物ではなく自分の自転車ですから,もうやりたい放題出来ますし,部品もそんなに高価ではありませんから,思い切って作業が出来ます。大きなプラモデルでも作っている感じで楽しいのですが,予想以上に体力が必要で,結構疲れることに後で気が付きます。やっぱ自転車屋さんってすごいです。
さあ,ボトムブラケットが届いたらすべての部品が揃います。今回のメニューは,
・ボトムブラケット交換(BB-UN300 D-NL)
・クランクセット交換(FC-TY501)
・ペダル交換(三ヶ島)
・フロントディレイラー新設(FD-M310)
・スプロケット交換(MF-TZ510-7)
・前後ハブのグリスアップ
・ハンドルグリップ交換
・ブレーキワイヤ交換
と盛りだくさんです。気長にコツコツ進めるのがよさそうですね。もはやレストアと言ってもいいような感じになってきました。
これで3x7の変速で,ギア比は最高3.43,最小1.29と,ようやく今どきの自転車になり,坂道から平坦まで快適になるでしょう。走行に関係するボトムブラケットを交換しますし,ハブにグリスを充填しますので軽く回るようになるでしょうし,ペダルも思い切って評判のいい高級品を調達しましたから,走りは良くなるはずです。
それから,前回散々苦労したグリップですが,薄いゴム製だったので早くもねちゃねちゃしてきましたし,手触りも良くありません。そこでちょっとお高いものを選びました。寒くなるこれから,グリップの感触が悪いと乗る気もなくなりますし。
そういえばハンドルの高さも調整したいと思っていますが,必要かどうかも含めてもう少し検討が必要でしょう。
それにしても,ですが,自転車の工具というのは特殊なものばかりで,自動車で使うものや一般的な大工道具では間に合わないと聞きました。そんなことあるかいな,と思っていたのですが,実際にメンテを続けてみて,つくづくその通りだと思うようになっています。
プラスドライバーやメガネレンチはほぼ出番がなく,最も使う道具がアレンキーというのが最初の試練で,しかも8mmのアレンキーなんかあまりみませんから,ここでお手上げになったりします。
もちろんそれ以外に,ペダルスパナ,コッタレスクランク抜き,BBツール,ボスフリースプロケット抜き,チェーンカッターなど,その時しか使わない工具も多数です。そんなに高価ではないのが救いですが,置き場所の問題もありますし,自転車屋さんの存在意義という物を痛感します。
工具の難しさもありますが,屋外で使用され保管されるされる乗り物ですので,錆や固着も深刻で,その大きさや重さもあって,結局最後は体力勝負になります。
いつだったか,自転車屋さんは長く続けられない商売だと聞いたことがあるのですが,その理由が腰痛でした。屈んで作業し,力仕事ですから腰を痛めることも多いらしく,しかも屋外での作業は体に応えるので,若いうちにやめざるを得なくなることが多いんだそうです。
それでいて工賃は安いですし,肝心の自転車の販売は量販店はもちろん,スーパーでも,amazonでも買える世の中ゆえ,さっぱりでしょう。安い自転車を他で買われて,メンテだけ安い料金で請け負うというのでは,確かに割が合わないですよね。
子どもの頃の私にとって,自分の体ほどもある乗り物を楽々分解し組み立てる自転車屋さんは,まさに魔法使いでした。見よう見まねでやってみては失敗し,どうやったら上手くいくのだろうかと思い続けていました。
工具と部品が手に入り,ノウハウがネットに流れている今になって,その魔法使いになることの出来る時がやってきましたが,これを商売にすることがどれほど難しいか,やってみてわかるというものです。