Rollei35を手に入れた
-> 未現像のカラーネガがたまってきた
-> でも現像に出すのが面倒くさい
-> モノクロなら自家現像できるのに
-> 10年ものの未撮影TRI-Xを5本ほど発掘
-> ダメモトでISO200に減感して撮影
-> 確かフジが薬品類を大量に廃番にしたときに買い置きしたものがあったはず
-> 発掘された現像剤や定着剤はことごとく酸化&吸湿で死亡
-> 仕方がないのでスーパープロドールを新規に買って現像
-> 買い置きしてあったナニワカラーキットも液が漏れている
-> あわててたまってたカラーネガも自家現像
-> 久々にやってみるとなかなか面白い,現像&定着の間は自己との対話
という流れで,流されるまま自家現像を再開することになったのですが,なかなかこれが面白いのです。最初は仕方がなく始めたものの,現像と定着の時間は付きっ切りですから,何もすることがない貴重なこの時間はまさに「自己との対話」の時間です。思索にふけるには短すぎるし1分ごとのインターバルも煩わしいですが,成果を求められない考え事というのは短時間でも楽しいものです。
そうこうしているうちに,デジタルに慣れきった緩んだ体を鍛え直し,本来の写真の面倒臭さを思い出すという修行の時間として,積極的に取り組むようになってきました。
とはいえ,持続可能な状態になっていないと長続きしません。費用の問題,手間の問題など,旧来の方法からの改善箇所はいくらでもあります。
その旧来の方法ですが,これがまた16歳の頃から変わってません。高校生で初めて写真部で試させてもらった現像のワークフローをそのまま移植し,それがずっと固定化しています。
タンクはキングのノーベルト式で1本ずつ現像するものです。現像はコストパフォーマンスでミクロファインの原液を600mlで4回回します。時間はあるけどお金のない学生らしく定着は時間のかかるフジフィックスです。
フィルムは成功体験から逃れられずTRI-Xで,コストに悲鳴をあげた私は100ftの長巻で1本200円以下で使っていました。
この流れをずっと維持してきたのですが,TRI-Xにミクロファインだと眠い画像になりがちなこともあり,正直に言ってあまり楽しいものではありませんでした。かといってD-76は普通すぎてつまらないし,スーパープロドールは粒子が荒れまくるし,他の現像剤は高価だし,で,結局このままになっています。
準備から道具を洗って片付けるまで含めると1時間コースとなるフィルムの現像は,なかなか時間のかかる優雅な趣味だと思うのですが,1時間で1本しか処理できないというのも,学生ならいいですが忙しい大人がやるには厳しいです。
10年もののTRI-Xの残りを使い切った(コントラストが下がり粒子も荒れて散々だった)こともあり,新たに長巻をいくつか買いましたし,ここで30年ぶりに自家現像の環境を見直すことにしました。目標は楽しさアップと効率化で持続可能性を高めること,です。
と,その前に高価になりすぎてしまったTRI-Xに代わるフィルムを探しましょう。ISO400で安いのは8000円程度のAGFA APX400です。定評あるフィルムですので,これを使う事も考えたのですが,ちょっと普通すぎるかなあと以下の3つを結局選んでみました。
(1)ORWO N74 plus
旧東ドイツのメーカーORWOのISO400のモノクロフィルムです。安いものではないのですが,独特の味があって好む人も多いとか。もともと映画用のフィルムをメインにしているメーカーということもあり,長巻以外は売っていないそうです。私は30ftのものを購入,7本くらい作れます。
(2)ORWO UN54
同じくORWOでISO100です。まだ現像していないのでなんとも言えませんが,粒子が細かく,きめの細かい画像を期待しています。乳剤を見ているとかなり緑がかっている感じです。
(3)Rollei RETRO400S
今回の本命です。お値段は9000円弱とこれもあまり安くはないのですが,ベースがクリアに抜けているので,スキャナとの相性が良いとのこと。確かに当たり前の話なのですが,なぜかモノクロフィルムのベースは紫だと信じて疑わなかったです。ベースの厚みが薄く,現像の時のリールへの巻取や,フィルムピッカーでフィルムを引っ張り出しにくいなど,ちょっと勝手が違います。
次に現像液。これまでミクロファインを使っていたのですが,どうも眠い画像になりがちでしたが,基本に帰ってD-76を使おうとしたところ,これが案外高価であることが判明します。しかも1ガロンとか,薬を溶かすことすらままなりません。
そういいつつミクロファインも値上がりしていて決して安いわけではないことを考え,仕上がりの良さと昨今の環境負荷の問題から,アスコルビン酸系のXtolを使うことにしたのですが,これがまた5リットルなんですね,
保存性の悪いXtolを5Lも作ってしまったら,早めに使い切るために希釈現像で毎回捨てることになりますが,それだとかえって環境負荷が重いです。残念ながら候補から外れました。
また,現像データが揃っている現像液が何だかんだで便利です。ミクロファインもスーパープロドールも安くて良い薬品ですが,なにせ日本国内しかユーザーがいないので,海外製フィルムのデータがほぼ全滅です。手探りで現像してデータを取るほどミクロファインが好きなわけでもありませんので,この2つは候補から落とします。
さて困った。自家調合も視野に入れるかと思っていた所,それまで目もくれなかったT-MAXデベロッパーがなかなか良いことに気が付きました。
1980年代後半,TRI-Xの後継と言われたT-MAXが発売になりますが,その高性能を発揮するには専用現像剤T-MAXデベロッパーを使う必要があると言われていました。しかしT-MAXデベロッパーは濃縮液で売られていて水で薄めるだけという手軽さの反面,価格はD-76よりずっと高いものでした。
手間はかからないが高価という,ブルジョアっぽい感じが嫌で私はずっと避けてきたのですが,大人になった今,時間はお金で買うものになりました。というか,D-76もXtolもそれなりにするので,T-MAXデベロッパーが極端に高いわけではありません。
ということで,保存性も良く,多くの現像データが公開されており,様々なフィルムとの相性も良いようで,仕上がりも問題なし,処理能力も高くて作るのに手間がかからないという優秀さで,現像液はT-MAXデベロッパーになりました。
定着液はスーパーフジフィックスですが,これも今や濃縮液の時代です。水で薄めたらもう完成。特に問題はありません。
さて,最大の問題は現像タンクです。これまで使っていたキングのノーベルト式は慣れているので買い換えなど全く考えてこなかった(中判に手を出さなかったのはこのタンクで現像できないから)のですが,もし1回の現像で2本のフィルムを処理できたらどんなにいいか,と考えるようになりました。
しかし,キングのノーベルト式で2本あるいは3本のセットは今や入手不可能です。
いろいろ考えた結果,世界中で定評のある,パターソンのタンクを買うことにしました。ちょっと高いですが,まあ死ぬまで使えるでしょう。
本当は3本のものが欲しかったのですが,タンクに別売りのリール3つを買うと2万円近くなるのであきらめ,リーズナブルな2本用のセットを買いました。
いわく,リールが秀逸で,巻取の失敗がないらしいです。
ということで,手元に届いてから私もやってみました。ノーベルト式では,まずパトローネを分解し,フィルムを巻いたまま取りだして右手に持ち,端っこをリールに固定したら,あとは少しフィルムを斜めに持ち,右手のフィルムは押し出し,左手のリールは巻取りと,うまく歩調を合わせながらクルクルと巻いていきます。失敗することはありませんが,仮に不安があったなら,簡単にリールからほどいて巻き直しが出来ます。
パターソンのリールは,フィルムの端っこをガイドに差し込み,リールの上半分と下半分を左右にねじるとフィルムがリールの両溝に入り進んでいきます。
これ,便利で確実に思えるのですが,薄いベースのフィルムだと引っかかってしまうことがありました。心配になってやり直そうにもリールからフィルムをほどくことが出来ません。
リールを分解しようにも外周のガイドがフィルムをくしゃくしゃにしますし,分解すればフィルムが一気にほどけてしまい,またくしゃくしゃになります。私はこれで何度も失敗し,ネガに折り目を付けた上に,キズやかぶり(フィルムの感光は機械的な力でも起こります)が発生しまい,散々でした。
ということで,N74 plusは21℃6分,RETRO400Sは21℃9分で現像,どちらも良好な仕上がりでした。タンクは見た目は大きいですが,内容量は500ml程度で小さく,かつてのノーベルト式が450mlで1本だったことを考えると,温度も変化しやすいでしょうし,現像液への負担がちょっと大きいなあという印象です。
それから,どうもリールから外すのが大変のようで,水洗後クリップで吊す時,かつてのように先にクリップで吊しておいてからリールからほどいていくことが出来ません。みんなどうしているんでしょうね。
N74 plusはとても優しい視線を感じる画質で,コントラストは低め,粒子は細かくはないですが荒れることはありません。ただ,ダイナミックレンジがやや狭いので被写体によっては眠い感じがあります。
私が気に入ったのはRETRO400Sで,広いダイナミックレンジに高コントラスト,明部は透明なベースのおかげでしっかり光が抜けて,暗部はコッテリと乗った分厚い銀が光を遮ります。その間のグラデーションがまた見事で,高精細であることと相まって,かなりの情報量を持っています。
粒子は十分に細かいと思うのですが,エッジが立っているのでざらついた感じが強く,ぱっと見ると荒いように見えるかも知れません。
とにかく,ベースフィルムが薄く透明である事で,銀のあるところとないところの明暗差が大きく取れ,結果としてグラデーションも豊富になることが,これほどモノクロフィルムを面白くするとは思いませんでした。この画質は,カラー画像から輝度情報だけを抜き取ったものとは本質的に違う,モノクロフィルムの画像だと思いました。
特にGR1との相性が良かったです。もともとGR1のレンズはシャープで高画質ですが,そのレンズの良さがこのフィルムだと際立って見えます。Rollei35では残念ながら凡庸な画像だったので,ちょっとがっかりでした。
ところでこのRETRO400Sは,赤外線領域まで感度があるそうです。赤外線フィルタを使えば簡易赤外線写真が撮れるくらい,と言われているのですが,そのせいでかぶりやすく,保存など管理に気を遣います。
それにしてもRETRO400SとT-MAXデベロッパーによる画質は,これまで私が手にしてきたモノクロ写真とは別の世界にあるものでした。
自分で現像出来る,低コストという理由で,カラーの代用としての役割を拭いきれなかった私のモノクロフィルム撮影は,ここへ来てようやくモノクロでなくてはならない理由を見つけたように思います。
モノクロフィルムが高価になった今,もはや自家現像が手軽に出来る事しかメリットがないと思っていましたが,この重厚感を見せられると,もっと使いこなしたくなってきます。
少しずつ日が長くなり,撮影可能時間も長くなってきました。夕方に撮影が出来ることはありがたく,楽しみな季節になってきます。それまでなんとなく使いこなせた感じがせず避けがちであったGR1にRETRO400Sを詰め込んで,どんどん持ち出してみようと思います。