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電子負荷キットを作る[製作編]

  • 2016/02/09 13:49
  • カテゴリー:make:

 少し前の話になるのですが,SHOP-Uという面白そうな電子工作のお店で「Re:load 2」という電子負荷のキットを買いました。

 電子負荷?なんじゃそりゃ?

 電源に抵抗なりモーターなりの負荷を繋げば,当然電流が流れて,電力が消費されます。電子工作では通常,電気で動く物,すなわち負荷を作りますので,設計や実験,場合によっては実使用においても,少々のことでは性能が変化しない,理想的な電源を使います。

 この理想的な電源を,電圧を安定化したり,電圧を可変できたり,たくさんの電流を供給出来たり,ノイズが少なかったり,ショートなどでも安全なようにしたり,様々な回路を工夫して取り付け,実験器具として独立させたものが安定化電源器です。

 電子工作を始めると,欲しくなるのが安定化電源器なわけですが,これは前述のように電気で動く物を作るから欲しいわけです。

 それでは電気を供給する側を作る時には,なにが欲しくなるでしょう?

 そう,理想的な負荷です。電圧を変えても同じ電流が流れること,流れる電流を調整出来ること,電流が流れることでノイズなどを発生しないこと,壊れないこと,壊さないこと,という理想的な負荷があれば,電気を供給する電源器の設計や製作,実験が,より確実に,より素早く行えるようになるわけです。

 でも,普通は電源回路などを設計することはあまりしません。どんな回路でも電源は必要な物ですから,設計しないというのはおかしいのですが,昨今は三端子レギュレータを使うだけで性能のいい電源回路が出来てしまうので,設計すると言う手間をかけることは必要がなくなってしまいました。コピペで動いちゃうんですよ。

 しかし,そうも言ってられない場合があります。

 例えばACアダプタ。手持ちのACアダプタに,「6V-500mA」と書いてあるとしましょう。テスターでとりあえず出力電圧を測ると,6V出ています。さてこれで,このACアダプタは良品といえるでしょうか?

 次に,6Vで100mAを消費する装置に,このACアダプタを使うことは出来るでしょうか?

 まあ,実際にやってみりゃわかることだと言われればその通りなわけですが,そこをもうちょっと科学的に,論理的にやりたくなったら,もう上級者です。そして,そのために使う装置が,電子負荷と呼ばれるものです。

 ACアダプタについて誤解をしている人がたまにいるのですが,先程のように6V-500mAというのは,6Vの電圧が出てきて500mAまで電流が取れますよ,という意味ではなく,500mAの電流を引っ張った時に,6Vの電圧が出てきますよ,と言う意味が正解です。500mA以外の電流では,6Vとは限りません。

 特に安定化していないトランス式のACアダプタは,引っ張る電流によって電圧が大きく変動するのがあたりまえで,電流が小さい時には電圧が高めに出ます。ですが今普通に出回っているスイッチング式の場合は,あまり変動せず6Vくらいで安定化されています。

 ですから,テスターで電圧をみて6Vであることを確認出来たとしても,それでACアダプタが良品かどうかは,全然わからないのです。ちゃんと500mAの電流を流してみて6Vの電圧が維持されているか,熱くなったり唸ったり,煙が出たり,おかしな波形が出てたりしないかを,ちゃんと見ておかないといけないのです。

 同じ理由で,100mAの装置にこのアダプタが使えるかどうかは,100mAを流してみて,ACアダプタに異常がないことはもちろんのこと,その出力電圧がいくらかを見ないといけません。トランス式なら8Vくらい出ていることがほとんどでしょうが,それでもその装置が正しく動くのか,壊れないかをきちんと確かめないといけないのです。

 抵抗じゃだめなの?という質問が来そうですが,抵抗でもいいです。電池チェッカーなんかは,負荷として単純な抵抗を使っていることがほとんどです。

 ただ,駄目な場合もあります。抵抗は電圧が変わると流れる電流が変わります。だから電圧に関係なく一定の電流を引き出すという事が出来ません。
 
 そもそも電流の値を調整する仕組みも大変です。可変抵抗を使えばいいと思うかも知れませんが,可変抵抗も抵抗ですから電圧が変われば電流も変化します。加えて,吸い込んだ電流は熱になりますが,一般的に可変抵抗は,そうした熱を放熱出来ずに壊れてしまいます。

 もっというと,大きな電流を引っ張り込むためには,発生する膨大な熱をうまく発散させねばならず,そのための仕組みが抵抗だけではとても難しいということです。

 ということで,前置きが長くなりましたが,趣味で電子工作をやる人間にとっても,電子負荷があるとどれだけ便利で安心か,お伝えできたかと思います。

 では,「理想負荷」としての「電子負荷」は,どういう原理で動く物なのでしょうか。これは,電流を制御出来る素子,つまりトランジスタなりFETなりに電流を流すということと,その電流が一定になるよう,トランジスタを制御する回路をくっつけた物です。

 負荷に直列にトランジスタと電流検出抵抗を入れて電流を流します。電流検出抵抗の両端には電圧が発生するので,これをOP-AMPに戻してやり,基準電圧との差がなくなるように,トランジスタを制御します。これで一定の電流が流れてくれますね。そして基準電圧を可変してやれば,その電圧との差がなくなるように動きますから,電流が可変出来るようになるわけです。

 原理は簡単なのですが,市販品はとても大げさで高価です。電子負荷は概して大きな電圧を扱えて,かつ大きな電流を吸い込むことが出来るものが多いのですが,仮に30Vで3Aという,そんなに大きくもない電子負荷を作ろうとすると,実に100Wの熱をどこに捨てるかを考えないといけなくなります。これが,60Vで15Aなんて話になると1kWというトースターやホットプレート並の熱を長時間安定して,かつ安全に捨てることが出来ないといけないのです。

 私たちはアマチュアですので,そこまで大きな電力を扱う事はあまりありません。本業ではない我々が,本気の電子負荷を持つことはとてもしんどいことです。あれば便利なことは分かっていましたが,さすがの私も躊躇していました。

 ところが,小さい物でいいから電子負荷があったらなあと思っていたのは私だけはなく,世界中のホビーストが考えていたことのようで,SHOP-Uで売られていた「Re:load 2」も,そんな人が作った海外のキットでした。

 詳しい説明は,

http://www.arachnidlabs.com/blog/2013/02/05/introducing-re-load/

 を見て頂くとして,なかなか工夫のされている,真面目な面白いキットだと思いました。

 原理は先程書いたように比較的単純ですが,その分部品の選び方は結構難しいものです。

 設計者は,そこにきちんと根拠を与えて,部品を選んでいます。いいですね。

 まず,電力を熱に変えるデバイスには,MOS-FETのBTS117を選んでいます。BTS117は単なるN-chのMOS-FETではなく,そこに熱,過電圧や過電流,ESDの保護回路が入った一種のICです。大電流を扱う回路では,破壊や熱暴走が心配で,ここでヘマをすると命にかかわることもあります。

 BTS117やその大電流版であるBTS141は,そうした保護回路を内蔵することで,特別な配慮を必要とせず,安全なMOS-FETとして簡単に行うことが出来るという優れものです。

 今回使うBTS117の最大定格は,VDS=60V,ID=3.5A,P=50Wです。パッケージはおなじみのTO-220ですが,フィンが絶縁されていないので取り付け時は注意が必要です。

 そしてこのデバイスの便利なところ,サーマルプロテクションは150℃で動作するそうです。電流リミッタは7Aで動作という事で,安全対策もばっちりです。(実際,この保護回路のおかげで私は何度も救われています)

 そしてOP-AMPです。ここはなんでもいいように思うかも知れませんが,とんでもない。電流を引っ張る相手から動作用電源をもらえると便利ですが,その場合出来るだけ低い電圧から動作するOP-AMPでないとダメです。

 しかも,0Vから電源電圧まで,ギリギリまで出力の電圧が振れないと制御範囲が確保できません。いわゆるRail to RailというOP-AMPが必要なのです。

 また,出力電圧が制御に使われる関係で,オフセットが大きかったり,変動が大きいと問題です。だから,交流特性よりも直流特性の良い,低電圧動作のOP-AMPが必要になります。

 設計者はここに,MCP6002を使っています。なるほど,今回の目的ではぴったりなようです。電源電圧が6Vまでという制約はつきますが,もともとOP-AMPの電源用に三端子レギュレータ(LP2950)が用意されていますので問題なしです。
 
 とまあ,たったこれだけの回路でも,それなりに考えて部品を選ばないと失敗するわけで,その結果をキットにしてくれているととても便利です。これが基板や放熱器までついて$20,私が買った値段でも3000円ですから,安い物です。

 ギックリ腰やFMブースターのことでなかなか取りかかれなかったのですが,先日からようやく製作を始めました。

 まず,基本方針を決めましょう。電源の供給を外部にするか,内部で済ませるかを考えます。先程書いたように,電流を引っ張る相手からOP-AMPが動作する電源をもらうと便利になりますが,それではOP-AMPの動作電圧を下回る場合,動いてくれません。またLP2905という三端子レギュレータが壊れてしまう30V以上の電圧もかけられません。

 そこで,OP-AMPには他から電源を供給することにします。こうすると相手の電源電圧に無関係となりますから,0V付近からBTS117の定格である60Vくらいまで,印加できるようになるわけです。

 ただし,外部から電源が取れない場合も想定し,セルフパワーで動作するモードも用意しておきます。3.5V以上30V未満という入力の制約がつきますが,動く事が重要です。

 その電源ですが,嫁さんが持っていた携帯電話充電用のACアダプタをパクってきて使う事にします。いやなに,嫁さんは使い方が荒っぽいので,コネクタの根っこの部分が破れて,銅線がむき出しになっていたんです。修理しようと預かったのですが,コネクタをうっかり割ってしまい,修理不能になりました。

 嫁さんには「すで手遅れだった」と伝えて,こちらで処分することにしたのですが,これに普通のACアダプタのプラグを取り付けて再利用しようと,まあそういうことです。

 さて,これで5Vの電源は確保出来ました。ただ,こういう勝手なことをすると,またACアダプタの極性を逆にして壊したりしますので,ダイオードを一発いれて逆接続から保護しましょう。ついでに,このACアダプタは5.7Vですので,ダイオードを入れればちょうど5Vになって,好都合です。

 次に電圧計と電流計です。必ず必要となるものですから,内蔵できればとても便利です。ここにはSHOP-Uで売られている電圧計と電流計が1つにまとまったものを使います。でも,これが後で足を引っ張ることになるのです。

 電流調整用のボリュームは10kΩです。他の値のものなら信頼性の高いものが手持ちにあったのですが,回路図を見ると抵抗値の可変範囲がけっこうきっちり計算されているようなので,ここは素直に10kΩにしておきます。

 残念ながら密閉されていない16型のものしか手持ちはなかったのですが,これがかつて多回転型に交換した安定化電源器の電圧調整用ボリュームでして,そんなに悪い子のもなかろうということで,使う事にします。

 ケースは,リードのMB-3です。ちょっと大きいのですが,放熱器とパネルメータの取付を考えると,このくらいがいいところでしょう。デザインは無骨で面白くも何ともないのですが,安いからいいとします。それにしてもこんなものまで秋月で買えるようになってるとは,驚きです。

 さて,最大の問題である放熱についてです。同梱の放熱器は12Wが最大という事ですが,BTS117の最大定格は50Wですので,本来の実力は20Wくらいまではいけそうですし,もっと頑張れば30Wくらいまで頑張ってくれるかも知れません。20Wといえば12Vで1.5Aですから大したことではないように思いますが,安定してこの電力を吸い込むのはなかなか大変なことです。

 大きめの放熱器,出来れば空冷ファンもついていると安心なのですが,そういうのってCPUクーラーがぴったりです。しかし残念ながら,昔は売るほどあったクーラーも処分してしまい,手元には残っていません。

 悔しいのですが,放熱器も秋月で買うことにします。54x50x15mmのヒートシンクが110円でしたので,これにします。もうちょっと大きいといいんですけど,仕方がありません。

 このヒートシンク,スペックシートをみていると,熱抵抗が5.6℃/Wです。非常に乱暴な計算をすると,20W突っ込むと112℃の上昇があるわけですが,グラフをみていると20Wでおよそ90℃です。まあこのくらいがこの放熱器の限界でしょう。

 てことで,ざっくり熱周りの計算をしておきます。BTS117の放熱器なしの熱抵抗は75℃/Wだそうです。ということは,ざっと2Wで150℃になるわけですね。こりゃひどい。

 そこで放熱器を付けた場合を計算します。BTS117のジャンクションからフィンまでの熱抵抗は2.5℃/Wです。これに今回の放熱器の熱抵抗5.6℃/Wと,絶縁シートの3℃/Wを加算すると11.1℃/W。ざっくり11℃/Wが今回の熱抵抗です。

 なになに,10Wで110℃。15Wで165℃!あかんがな。

 ということは,周囲温度が25℃のとき,150℃になるのは11.3Wですか。うむー,全然ですね・・・

 おかしいと思うので,放熱器のスペックを,グラフから読み取ったものにします。これによると,80℃の上昇で16Wですから,熱抵抗は5℃/Wです。これで再計算するとトータルの熱抵抗は10.5℃/Wです。おまけして10℃/Wとして。周囲温度25℃のとき150℃になるのは12.5W・・・結構かなしいですね。

 てなわけで,連続使用可能な電力は,とりあえず10Wとしておきましょう。短時間で,かつ気温が低いときは実力で20WはOK,25Wでも短時間なら大丈夫なのですが,長時間の使用では危険なので,やっぱり10Wですね・・・

 ところで,ファンがついているCPUクーラーなんかだと,これが0.45℃/Wくらいになったりするそうです。ということは,トータルの熱抵抗は約6℃/W。周囲温度25度のとき150℃になるのは,20.8Wになります。おー。

 ようやく20Wを越えました。強制空冷,伊達じゃないですね。でも,逆に言うとこのくらいの放熱能力で大丈夫なのかなあ。CPUって,35Wとか50Wとか,それくらいのTDPだったように思うのですが・・・

 まあいいや,今回の計算結果をふまえて,ファンの取付を前提に考えてみましょう。ただし,実験して効果がなかったらやめます。

 基本方針が決まったので,ケースに穴を開けていきます。放熱器に3mmのネジを切り,ケースに取り付けます。

 パネルメータの角穴もあけて,2時間ほどで完成です。味も素っ気もないケースですので,いつものようにプリンタで正面パネルに張り付けるステッカーを印刷し,張り付けます。

 あとは部品をケースに取り付け,基板も固定して,配線をして終了です。気をつけないといけないのはFETと放熱器で,前述のように絶縁をしないといけませんので,ブッシングをFETのフィンにはめ込み,ここにビスを通して直接触れないようにします。そして背面には絶縁シートをはさみ,固定します。最後にテスターで導通していないかどうかを確認します。ここでミスをすると,FETや基板がぶっ壊れます。

 3Pのトグルスイッチを使って,外部電源モードとセルフパワーモードを切り替えます。もともと外部電源動作専用で作るつもりでしたが,それでも電源スイッチは必要になりますから,せっかくですので電源OFFの時にはセルフパワーで動くように工夫してみましょう。

 そのために3Pのトグルスイッチを用いるわけですが,ややこしいのはパネルメーターです。パネルメーターの説明書によると,外部電源モードとセルフパワーモードとで配線が違うとかかれています。具体的には,パネルメーターのGNDの配線を,外部電源モードでは配線をしないといけないのに,セルフパワーモードでは配線せずにオープンにしておく必要があるのだそうです。

 そのため,3Pのスイッチでは切り替えが出来ず,2階路3接点の6Pスイッチが必要になりますが,あいにく手持ちがありません。というか,あるにはあったんですが,壊れていました。

 しかし,パネルメーターのGNDを,常に配線しておいても動くんじゃないかと勝手に妄想して,3Pスイッチで進めます。(しかしこれが甘かった)

 配線をさっさと済ませて,まずはセルフパワーモードで動作させます。電源器を繋いで見ますが,パネルメーターが動きません。これは単純な配線間違い。さっさと修正して動かすと,おお,ちゃんと動きました。どんどん電流を吸い込んでいます。

 あれ,パネルメーターの電流の値が随分ずれています。3割も狂っていたら話にならないです。そこで,GNDの配線をオープンにしてみたら,ほぼぴったりな値になりました。ということは,やっぱりセルフパワーの場合にはここは配線したらダメなんですね。

 しかし,外部電源モードではGNDに配線しないといけないのですから,やっぱり2階路のスイッチがいるんですね。困った。

 スイッチを買うことも考えましたが,せっかく穴開けも取り付けも済んだのに違うスイッチを付けるのも面倒です。そこで,今回はリレーを使う事にします。秋月で売っていた100円弱のリレーを使います。このスイッチはリレーを動かすだけのスイッチとして動き,肝心の切り替えはリレーで行うわけですね。

 そうと決まればさっさと回路変更です。

 それにしてもリレーの「カチ」という音はいいですね。なんかやる気になってきます。

 配線完了。試して見ます。まずはセルフパワーモードですが,これは問題なし。電流計も電圧計もちょうどいい値を示しています。次に外部電源モードです。切り替えは小気味良く,まるでスポーツカーのシフトレバーのようです。

 あれ,電流計の値がおかしい。狂っています。まずは配線ミスを疑いましたが,どうも正しい様です。もしや,と思いリレーを介して繋がっているGNDをオープンにしてみたところ,ばしっと正しい値が出てきました。

 なんと,このパネルメーターは,どっちのモードでもGNDはオープンにして置く必要があるようです。騙された-。

 そうなると,もうリレーは必要ありません。3Pのスイッチだけで事足ります。また配線を戻し,今度こそ完成です。

 これで,外部電源モードとセルフパワーモードの両方で,同じ動作をすることが確認出来ました。さらに確認を進めて,外部電源モードでは0Vから動作することも確認,1Vで2Aを吸い込むことも出来ています。そして現在の所,12Vで1.5Aまでは,自然空冷だけでなんとか動作している感じです。

 と,ここまでで製作編はおしまいです。

 続きはチューンナップ編,目標30Wを目指して,試行錯誤をします。

FMブースターを作る

  • 2016/01/25 13:56
  • カテゴリー:make:

 2012年4月に,それまで東京タワーから送信されていた首都圏のFM放送がスカイツリーからに変更になったのですが,実はこの時送信出力が下がっていることは,案外知られていません。

 東京タワー時代には10kWだった出力が,スカイツリーに変わってから7kWになりました。スカイツリーになると,地上高が倍ほど高くなるので,視聴可能エリアは広がると言いますし,高層の建物が少なくなることで電波の障害も減るというのが目論見だったわけですが,私のようにもともと良好に受信出来ていた人にとっては,出力が下がってしまうことが目に見えた「改悪」になってしまいます。

 ですから,スカイツリーに移転したNHK-FMは受信レベルが下がってしまい,ノイズも増えました。一方,東京タワーにとどまった東京FMは,取り付け位置が300mほど高くなり,送信アンテナも性能の良いものになったことで,以前よりも良好に受信出来るようになりました。

 聞き流すだけならそんなに音質にこだわっても仕方がないのですが,録音するとなると話は別で,やっぱりいい音で遺したいものです。しかし,残すに値する番組を放送しているのは,今回悪化したNHK-FMだったりするので,私は正直困っていました。

 受信レベルが下がったことで,明らかにセパレーションが悪くなっているのがわかります。ステレオ受信時のノイズも増えています。

 少しでも受信レベルを稼ごうと,アンテナの向きを再調整してみたのですが,現在の位置が最良と分かって断念。結局年始の東京Jazzのダイジェストは,この状態で録音したのでした。

 ここで,ふと世の中にはアンテナブースターなるものがあることを思い出しました。

 私は実家にいた頃も,引っ越した後も,強電界地域で過ごしたのでブースターの世話になることはなく,作る事も買うこともしないですんだので,検討する事を忘れていました。

 でも,これを使うとテレビでもFMでも,受信状態が改善するというのが定説ですし,昔から「初歩のラジオ」あたりでの自作の定番になっていました。うーん,これは試してみたいところです。

 完成品を買えば楽ちんなんですが,適当な物が見つかりません。なら作るか,という話になるのですが,以前私はテレビ用のブースターを2度ほど作り,いずれもブースターではなくアッテネータを作ってしまい,以後高周波回路に対する苦手意識を拭いきれずにいます。

 以前は広帯域アンプをICで作ったわけですが,今回は80MHz付近の狭帯域アンプです。周波数も低いし,実装の難易度も低いでしょう。簡単な物を探して,作ってみようという気になったのでした。

 FMブースターの定番デバイスは,なんと言っても2SK241です。それなりにローノイズ,それなりにハイゲイン,安くて,しかもバイアスなしで動くという,もう魔法のようなデバイスです。

 以前はそれこそどこでも安く買えたデバイスだったのですが,ディスコンになってからは入手が徐々に難しくなり,GRランクはすぐに枯渇し価格が高騰,Yランクも昨年秋には大手部品店から姿を消し,いよいよ入手が難しくしまいました。

 私は高周波アレルギーがありますけども,壊れたラジオなどの修理用の部材として確保しておく必要性から,2SK241はいくつかのストックを持っています。これが使えると,ちょうどいいなと思っていました。

 長年電子工作をやっていますし,一応プロの設計者な私ですが,高周波は成功例がほとんどないので,ここは謙虚に誰かの回路をそのまま作ってみたいと思います。工夫するのは,デッドコピーがちゃんと出来るようになってからです。

 作ってみることにしたのは,CQ出版から出ていた「講習回路の設計・製作」という本に出ていた,FMブースターです。2SK241を使ったもので,コイルは手巻き,ゲインは20dBくらいということで,性能も十分で自作にもってこいです。

 最初の設計例という事で,設計のやり方が非常に丁寧に書かれています。いやー,これは勉強になるなあ。

 2SK241という高周波増幅用MOS-FETは,内部で2つのFETがカスコード接続されているという,ちょっと変わったデバイスです。回路記号では何の変哲もない3端子のMOS-FETに見えますが,中身はソース接地とゲート設置のFETが繋がって入っていて,高周波回路でもゲインが落ちないように工夫された回路を,たった1つのFETで構成できるようになっています。

 しかも,バイアスをかけなくてもドレイン電流が流れてくれるというデプレッション特性と,ゲートをプラス領域に振ってもドレイン電流が増えるというエンハンスメント特性の両方を持つという変わり種で,ゼロバイアスでも,バイアスを調整して任意の特性に追い込む事も出来るという,実に良く出来たMOS-FETです。

 このデバイスが登場した1980年代は,ICやLSIの進歩がすごかった時代でしたが,実はこうしたディスクリートデバイスもちゃんと進歩していたというのが興味深いですね。それまではJ-FETの定番である2SK19などを使ってましたし,もう少し高性能なものが欲しい時にはデュアルゲートFETを使っていましたので,外付け部品がほとんどいらず,実装も調整も楽ちんな2SK241は,まさに革命的だったんじゃないかと思います。

 2SK241は東芝のデバイスでしたが,その後日立や三洋からも同じようなFETが登場し,無線機やラジオによく使われたそうです。ですが,海外には相当品や同じ構造のFETは見当たらないそうで,どうも日本独自のFETということらしいです。

 日立はすでにルネサスになりとっくの昔にディスコン,三洋も今はなく,東芝も2SK241を廃品種にして久しい今,この一世を風靡したデバイスは人類史上から消えようとしているのです。

 まあ,時代の流れですので仕方がないです。手持ちの在庫を上手に使っていきましょう。

 FMブースター,早速部品集めです。

 デバイスは2SK241ですが,説明によると,ゼロバイアスで大きなゲインが取れるのはGRランクということです。在庫を調べてみると,Yランクは腐るほどあるのに,GRランクは中学生の時に何かを作るために買った2本が,外し品として残っているだけでした・・・

 Yランクで作るという事も考えましたが,外付け部品がほとんどない回路というのはデバイスの素性に頼った設計とも言えるので,ここは素直にGRランクを使う事にします。もう一度言いますが,工夫はデッドコピーが出来てからです。

 基板は,さすがに万能基板ではダメでしょう。しかしエッチングをするのは面倒です。なんかないかなとジャンク箱を漁っていると,幸いなことに手頃な大きさの両面銅箔のガラエポ基板が見つかりました。

 部品の数も少ないので,Pカッターで溝を掘り,さっさと基板を作ってしまいましょう。(やってみたら30分ほどでできちゃいました)

 コイルは0.8mmのホルマル線を巻いて空芯コイルにするそうです。ジャンク箱を漁っていると,オーディオ用のパワーアンプの出力に入れるLCフィルタ用に,でっかいトロイダルコイルが出てきました。これに巻いてあるのがちょうど0.8mmということで,ほどいて使います。

 入力と出力を分離する静電シールドに,銅板がいるそうです。これもジャンク箱を漁っていると,ちょうどいいサイズの銅板が見つかりました。いやー,うちのジャンク箱にはなんでもあるなあ。

 トリマコンデンサは先日秋月でいくつか買った物を使いますし,コンデンサや抵抗もチップの物が見つかったので,これでいきます。お,全部揃ってしまいました。

 部品が少ないので,組み立てはあっという間です。電流が10mAくらい流れることを確認してからシールド板を取り付けます。

 そこらへんに転がっているBNCコネクタをハンダ付けし,SSGを入力に,FMチューナーを出力に繋ぎます。

 さっと試してみると,とりあえず動いているようです。トリマの調整も書かれた通りに出来ますし,ゲインも取れているようですので,いい感じです。放送波を入れて見ると受信状態は随分と改善しているようです。

 手応えを感じた私は,これを金属ケースに入れる事にしました。いろいろ考えたのですが,以前デジットで買った訳ありアルミケースを使う事にします。

 あとは電源で,+10Vなのですが,ジャンク箱をまた漁っているとちょうど10V100mAというトランス式の小型のACアダプタが見つかりました。これにしましょう。

 と,ここで作業は中断,なんとギックリ腰で3日間布団から出られなくなってしまったからです。

 翌週,なんとか復活した私は,ケースの加工(訳ありケースは大きすぎるので,半分の大きさにぶった切りました)を行い,Fコネクタを取り付け,ケースへの組み込みも終わって,あとは最終調整というところまで来ました。

 さて,電源投入。しかし取り付けた電源LEDは光りません。もしやとおもってテスターで調べると,なんとまあ電源の極性が逆になっています。何度もかくにんしたのに,最後の組み立てで間違えていました。

 あわてて修正するも,もう増幅しなくなっていました・・・壊れたようです。

 あー,もうダメだ。やっぱり高周波は私には無理だ。

 壊れる部品はMOS-FETくらいのものですので,こいつが死んだに違いないのですが,今や貴重なGRランクです。うちにはあと1つしかありません。厳しい現実にめまいがします。ああ,なんと馬鹿なことをしたものか。

 それに,交換作業にはシールド板をよけて交換しないといけません。すでにギリギリのサイズのケースに組み込んでいるし,基板を小さめに作ったのでコイルの下にハンダゴテを差し込まないといけなかったりで,これはかなり厳しいです。

 でも,ここであきらめるわけにはいきません。失敗するかも知れないので,今回はYランクに交換です。これなら多少数があるので,やり直しも出来ます。

 やってみると案外簡単に交換ができました。電流も5~6mAと,Yランクらしい値になっていますので,これで動いたでしょう。SSGを繋いで,ちゃんと増幅していることも確認出来ました。ふう,よかったよかった。

 これで3つのとリマを再度調整するのですが,金属ケースにいれたことで動作が安定し,調整がさらに楽になりました。0dBEMFでも,ちゃんとシグナルが確認出来るくらいです。

 ぐいぐいと調整を追い込んで行って,ピークを掴んだところで終了。放送波を確認すると,受信状態がかなり改善しています。いいですね。

 ここまで来ると,基本的な性能を調べてみたくなるものですが,あいにく私には高周波用の測定器は揃えていません。そこでFMチューナーとSSGだけで出来るように,測定を工夫してみました。

 結果は以下の通りです。

・消費電流:5.7mA @9.45V

・ゲイン:77dBEMF - 54dBEMF = 23dB @83MHz
    82dBEMF - 81dBEMF = 1dB @76MHz
    78dBEMF - 63dBEMF = 15dB @80MHz
    78dBEMF - 72dBEMF = 6dB @90MHz

・帯域幅(-3dB):3.3MHz(81.6MHz~84.9MHz)


 どうですか,なかなかのものでしょう。NFは測定出来ないので作りっぱなしになりますが,2SK241のNFから考えて,まあ3dB程度というところではないでしょうか。

 この本の記事によれば,同じ回路を別の人が1つずつ作ってみたそうです。するとゲインは22dBと25dBになったということですから,私の23dBというのは悪くない数字です。なんというか,GRらんくかYランクかはあんまり関係ないようです。

 帯域幅については,記事では5.5MHzと4.0MHzですので,私の製作よりもずっと広いです。帯域が広いほどゲインは下がるので,私の場合は帯域が狭い代わりにゲインが高いという傾向があるんでしょう。

 この結果,76MHzではほとんどゲインがないという状態になっています。でもまあ,80MHzから87MHzくらいで10dBくらいのゲインがあれば,実用上は問題ないと思いますし,それに一番使うのが82.5MHzのNHK-FMですから,これで問題なし。

 ということで,ギックリ腰で中断するわ,中学生でもしないような凡ミスで振り出しに戻るわで,たかがこれだけの回路にどんだけ時間をかけているんだかと,情けなくなるFMブースターの製作ですが,結果を見れば上々で,FMチューナーのレベルメーターも振り切れ,セパレーションも良くなり,満足な状態を手に入れました。

 元々の電波が汚いせいもあり,もう少しノイズが減ればいいのになあと思うことはありますが,ここから先はいろいろ大変だと思うので,FMの受信の問題はここら辺で一区切りとしましょう。

 しかし,もう少しちゃんと測定をする環境を構築したいなあ・・・お,この本の最後の方に測定器の自作も出ているなあ・・・・作ってみるか。

VP-7722Aの再修理

  • 2015/12/28 21:54
  • カテゴリー:make:

 1ヶ月ほどから,産業廃棄物から不死鳥の如く復活を遂げた我が家のオーディオアナライザVP-7722Aの調子が悪く,どうしたものかと思っていました。

 VP-7722Aは完全独立2ch構成が特徴で,レベルはもちろん歪率もS/Nも左右同時に測定可能,しかも2ch独立を生かしてチャネルセパレーションも祖規定できてしまうと言う便利なオーディオアナライザです。基本性能はもちろん高く,歪率で言えば-120dBを測定可能ですし,測定可能な周波数範囲は40kHz程度まで伸びています。

 完全なハイレゾ環境の測定は無理ですし,近年では常識となったデジタルアンプの測定に必要なフィルタが装備されていないなどで,最前線の設計現場にはちょっと厳しいものがありますが,アマチュアにはもったいないくらい素晴らしい測定器です。

 で,そのVP-7722Aですが,ch2の入力がうまく動いていません。歪率を測定しようにも,3Vrms付近を入れるとカチカチとリレーが繰り返し動く音がして,測定結果がちらちらと動き,まともな結果が出ません。他の電圧であれば測定出来ることから考えると,どうも特定のレンジだけが測定出来ない状態になっているようです。

 歪率に限らず,レベルも測定不能ですし,2ch同時でなくてもch2だけを測定してもだめです。ch1は生きているので,また産業廃棄物になってしまうわけではないのですが,一度同時測定の便利さを知ってしまうと,もう元には戻れませんし,やっぱりきちんとメンテをして使いたいものです。

 ですが,なにせ相手は複雑で知られたオーディオアナライザです。前回の修理も奇跡的に修理出来たと表いるのに,今回は全然動かないわけではないので,故障箇所の特定にもそれなりの苦労をしそうな感じがします。

 とりあえずやってみるさと,ラックから取り出して分解を始めます。

 まず,どの基板の故障かを特定するために,ch1とch2のフロントエンド基板を入れ替えて見ます。結果,問題はch2の基板について回ることがわかったので,原因はこの基板にあるようです。

 また,他のレンジが動いていることを考えると,入力のアナログ回路は問題はないと思われます。リレーの音がカチカチすること,特定のレンジで値が出てこないことを考えると,レンジ切り替えのリレーに関係する故障であると目処が立ちます。

 とはいえ,リレーの駆動回路,駆動回路を動かすマイコン,リレーの出力の回路周辺など,リレーは広範囲の回路と繋がる部品なので,難しいことがわかっただけと言う気もします。

 しかし,相変わらず人の手を拒むような規模の大きなシステムです。途方に暮れて手の出しようがないと思っていても仕方がないので,とにかく基板を目視で確認して,問題がありそうな場所を見ていきますが,あいにく目視では異常なし。

 こういうのは案外,リレーが壊れていたりすんだよなーと思いつつ,ダメモトでいくつかあるリレーのコイルをテスターであたっていきます。大体120Ωくらいの抵抗値ですが,3つ目のリレーのコイルが10kΩ以上の値を示しています。

 こりゃおかしいですね。コイルが断線している可能性が大です。無限大にならずとも,ドライブ回路の抵抗値が見えてくるのでこのくらいの値になるのも無理はありませんし,これはリレーを基板から外して確認するしかありません。

 基板から外して確認すると,コイルの抵抗値が無限大です。ビンゴ,こいつが不良でした。ここまで,検討を始めてわずか10分。なんと簡単に問題が見つかったことか。しかし油断は出来ません。これで治るかどうかは,新しい部品に交換して動作するかどうかを見なければわかりません。

 交換しようにも,在庫がなければ買ってこないといけませんから,どんなリレーかよく調べてみます。壊れたリレーを見ると,黄色い小型のリレーで,松下電工の「DS2E-S DC5V」とあります。とりあえず5Vで動作する2回路のリレーのようです。

 ラッチングリレーやリードリレーならもうお手上げだったのですが,そういう感じでもなさそうです。手持ちを見てみると,こんなこともあろうかと秋月で買っておいた941H-2C-5Dというものが,どうも大きさからピン配置から機能や規格から,ぴったりのような感じです。1個100円なんだけど,大丈夫かなあ。

 コイルの抵抗値は140Ωとちょっと高めですが,問題ないでしょう。信号の切り替えに使うものですので,接点の容量の問題はないでしょうし,とりあえず交換してみましょう。

 結果ですが,修理出来ました。あっけないくらい簡単に直ってしまいました。

 後で調べてわかったのですが,この松下電工のリレーは有極性でかつ高感度タイプでした。交換した秋月のリレーは有極性ではないのですが,高感度タイプでした。これで問題なく動いてくれているのだと思います。もし,同じ物が簡単に買えるならいずれ交換しようとも思ったのですが,高感度タイプではないものばかりがひっかかり,同じ物は売っていないようです。

 秋葉原のお店をつぶさに見ていけばあると思いますが,まあそこまでしなくてもいいかなと。

 ここまでわずか15分。いやー,我ながら大したものだと自画自賛できるスピードです。

 しかし,私のことですから,これで終わるはずがありません。

 ついでに,動作不良になりつつあるパネルのスイッチを交換しようと考えました。チャタリングが強烈に発生して,スイッチが何度も押されたような状態になるのです。

 以前分解して部品取りにしたFMステレオエンコーダVP-7635Aから取り出したスイッチに交換するのですが,VP-7722Aの操作パネルの取り外しが結構大変でした。無理に引っ張ってしまって,フレキが切れる寸前です。

 なんとかスイッチを交換し,元通り組み直しますが,フレキの差し込みが悪いらしく,うまく動いてくれません。全然動作しなかったり,どのスイッチも連打されたりと散々ですが,どうにかやっつけました。この作業で2時間・・・なにをやってんだか。

 しかし,この結果,さらに確実な操作と動作が期待出来るようになりました。実は以前からch2のレンジ切り替えがうまくいかないときがあり,そういうときは一度入力を切断し,再度入れ直すと測定出来たりしたので,騙し騙し使ってのですが,今回の修理でこの問題も解消したところを見ると,以前からリレーの調子が悪かったんだろうと思います。

 こういう測定器を持っていることで,自作の幅は広がりますが,別の楽しみとして測定器を自分でメンテするというのもあります。なにせ相手は技術的な頂点に位置する測定器です。これを完全とはいえなくても,その人が必要とする精度や性能にまで追い込んで使うというのは,難しいしうまくいかない場合もありますが,単なる電子工作とは別次元の楽しみがあります。

 冷静に考えると,こういう産業機器とか測定器というのは,簡単に買い換えないで修理することが当たり前ですから,修理や保守はしやすいように出来ています。そのことを念頭に置いて,落ち着いてパズルを解いていくのは,実に面白い作業だと思います。

 またしばらく,このVP-7722Aには働いてもらえそうです。

トーンアームを交換

  • 2015/11/09 15:01
  • カテゴリー:make:

 アナログプレイヤーに関して,20年来のテーマになっていたのが,トーンアームでした。

 カートリッジはいくつか試した結果,自分の好きなものを2つ見つけることができましたし,イコライザアンプも何台が作ってみて,今の形に落ち着きました。

 ターンテーブルは一度故障したものを自分で修理する時に,きちんと内部を理解してメンテナンスしましたから,これも気になりません。そうすると,残るはトーンアームです。

 完全にメカで,電気的な要素がほとんどないものですから,私には門外漢もいいところで,現在の状態がいいのか悪いのか,交換すると何が違ってくるのかがさっぱりわかりません。

 理想的にはトラッキングエラーをゼロにできればいいわけですが,そうもいかないので費用だったり扱いにくさだったり大きさだったりというデメリットの許せる範囲で,個々人が折り合いを付けるものでもあります。

 そもそも,私のプレイヤーはジャンク品を買ってきたものです。機械的な精度を要求されるトーンアームが一番壊れやすく,初期性能を保っていない部分である事は容易に想像がつきます。

 そこで,トーンアームの交換をずっと考えていたのですが,なにせ高価なものです。そうそう簡単に交換出来ません。かといって安いものを探して取り付けてしまえば,現在ついている純正のトーンアームよりも,性能的に落ちてしまうかも知れません。

 「かも知れません」というのが実に微妙なところで,なにせ比較をしていないので,私もよく分からないのです。10万円ならいいのか,40万円ならいいのか,純正のトーンアームがどのくらいのレベルのものなのかも,わかっていません。

 それに,私は恥ずかしいことに,綺麗にメンテナンスされたハイエンドのアナログプレイヤーをほとんど使った事がありません。一番高だったのは叔父が持っていたプレイヤーでしょうが,それだってそんなに大したものではなかったと思います。

 そうなってくると,最初の交換は性能の保証された新品でと思う訳ですが,それにしても安いもので10万円です。一番安価なもので10万円ですから,これで高性能だとしたら,50万円のトーンアームの存在理由が問われてしまいます。

 しかし,中古品,ましてオークションなどは,見極めが出来るだけの能力がないので非常に危険です。

 いろいろ思案したところ,とりあえず安い上に評価が高く,特に海外の評判が良いSA-750Eにしようということになりました。フォノケーブルが安いもので8000円ですから,ざっくり予算としては,8万円までです。

 キャビネットもフォノモーターもこのまま使うので,憧れであったロングタイプを使う事はあきらめます。今ついている標準的な長さのものに近いものを探すと,これになりました。

 アナログプレイヤーの関連は,市場が小さいだけに,今ある在庫がいつまで買えるか分かりません。仮に買えても値段が倍になることもあったりするので,欲しい時に買う,もうこれしかありません。

 ところが,やっぱり10万円は高いなあと思う訳です。10万円で,使いこなしが楽しめるものならいいんですが,そういう感じのものではありませんし。

 と思って,いろいろ物色していると,非常に気になるトーンアームがひっかかりました。グレースのG-940というものです。

 品川無線という会社のブランドがグレースで,そんなに大きな会社ではありませんが,非常に優秀なカートリッジやトーンアームを製品群に持ち,オーディオブームだった1970年代から80年代に,大きな存在感を持っていたメーカーです。

 ここのトーンアームが優秀なことは私も聞いていましたが,具体的な話は何ひとつ知りません。そんな中で,G-940はシングルサポート,オイルダンプ式という強烈な個性を放っていることに気が付きました。

 トーンアームというのは,レコードに対して水平方向に動く部分と,上下方向に動く部分が必要です。水平方向は言うまでもなく,レコードの外側から内側に渦巻き状に刻まれた溝を,レコード針がトレースするのに必要な移動です。

 上下方向はレコードの反りに追従する必要があることと,適度な針圧をかけるために必要です。ですが,これ以上に必要な可動部分はないということでもあります。

 で,可動部分ですから,支点が必ずあるわけで,支点があればそこに必ず摩擦があります。摩擦があれば動きを妨げる力が働くことになるわけで,素人の頭で考えても摩擦は少ない方がいいとわかります。

 一方で,もしどんな振動に対しても完全に追従できてしまうと,レコード針の振動にも追従してしまうので,音が出ません。かといってどんな振動にも追従しないようにしてしまうと,25分で10cmほど移動することもできなくなり,レコードを再生出来なくなります。

 つまり音として拾い上げたい振動だけは動かず,それ以外の振動については動いて欲しい,そういうものが理想的なトーンアームです。なかなか難しいですよね。

 しかも,その周波数特性を決定するパラメータが,カートリッジ,キャビネットの材質,キャビネットの足,ターンテーブルの防振シート,トーンアームの関節の構造,それぞれの質量,密度,長さや節の数に関係するというのですから,もうたまったものではありません。

 こうした要素で,アナログプレイヤーにはシステム全体で非常に複雑なピークやディップを持った周波数特性があって,200g程度の塩ビの円盤から吸い出せる情報量に,差が出てしまうというわけです。

 当然,ちょっとした違いから出てくる音に変化がつくわけで,それが好ましいものになるように追い込んで行くのが,アナログプレイヤーの面白さでもあります。

 話をトーンアームに戻しますが,摩擦を減らすには支点を減らすのが一番です。水平方向と上下方向にそれぞれ1軸の間接があったら,全部で2つの支点があります。特に上下方向を点で支えるか,線で支えるかでまた違いがありますし,どっちの場合でも摩擦が発生する部分は2箇所出てきます。

 ちょっと考えると,やじろべえのような,1点でバランスを取って支える仕組みが一番いいと言うことに気が付きます。なるほど,これだと水平方向でも垂直方向でも同じように動き,同じ支点を共用しますので,無理がありません。

 しかし,やじろべえを作った子供の頃を思い出すと,うまくバランスを取らないと、落っこちてしまいます。それに,摩擦がほとんどなくなりますので感度は高くなりますが,追従して欲しくない周波数にもついていってしまうでしょう。

 最も大きな問題は,動いて欲しくない方向にも自由度があることです。トーンアームに欲しい自由度は水平方向と上下方向です。トーンアームがねじれる方向には動いて欲しくありません。カートリッジが斜めに傾いた状態になるとステレオ再生に問題が出ますので,実はこのタイプのトーンアームは,ステレオ時代に廃れてしまったという事実があります。

 そこで,動いて欲しくない周波数の「動きにくさ」を増やし,減衰させます。これがダンピングです。ダンピングにはいろいろ方法がありますが,摩擦を使う方法や油を使う方法などがあります。

 G-940というトーンアームは,このダンピングにシリコーンオイルを使う方式です。シングルサポートというのはやじろべえと同じく,1つの針の上にのっかる構造,そしてそこに制動用の硬いシリコンオイルをもちいて,ある周波数以上の振動には追従しないようにするわけです。

 これが,取り付けるターンテーブルやキャビネットが決まっている,同時にヘッドシェルやカートリッジも決まっているなら,話はそんなに難しくないでしょう。しかし,このトーンアームはユニバーサル型で,どんなものにも適合しなくてはなりません。

 カートリッジの大きさも重さも,重心の位置もバラバラです。これで,水平方向の長周期の追従性と,上下方向の数Hzの追従性を損なわず,それ以外の動きをがちっと規制するようにするのですから,そりゃ大変です。

 G-940は,その構造故に大変優秀なトーンアームとして,1970年代前半に登場して好評価を得,ベストセラーになったそうです。しかし,調整も難しかっただろうし,なにせシリコンオイルを使わないといけないという,難しい条件で性能を発揮するものだったのですから,ユーザーが気を抜いたらたちまち性能が出なかったのではないかと思います。

 当然,カートリッジを交換すれば複雑な調整をやり直さないといけないだろうし,経年変化も大きかったでしょうから,そういう面倒を嫌がる人には向かないでしょう。だから,この構造のトーンアームは,現在新品では手に入れられないはずです。

 なら,挑戦したくなるもの,これまた人情というもの。

 手に入れる方法は,とりあえず中古オーディオショップか,オークションです。一般的にオークションの方が安く手に入るものですが,質はもうまちまちです。それこそゴミ捨て場から拾ってきたようなものから,大事に個人で使っていたものまで様々です。

 私は,値段が上がる傾向のあるものを狙いました。他の知恵のある入札者にのっかってやろうと考えたのです。まあ,私のような素人が二人で競り合いをするようなことがあると,最悪なわけですが。

 で,落札したのが10月末です。はっきりいって中古ショップよりも高価な値付けになりましたし,届いたものは私に言わせれば価格以下のものだったので,かなりがっかりしたわけですが,まあ仕方がありません。それでも,新品を買うよりはずっと安くついたと,あきらめることにします。

 まず,全体に錆びだらけです。使わずに長期間放置されたんだろうと思います。また,タバコのヤニもついています。オーナーは喫煙者ですね。

 また,動作確認のためにオイルを入れたんでしょうが,抜くわけにいかないので天地指定で届いたのはいいものの,開封するとやはりオイルが漏れていました。漏れた分は拭けばいいのですが,残ったオイルがどれくらいあるかがわからないので,出来れば一度空っぽにして入れ直したいところです。

 とにかく,付属品が揃っているか,破損はないか確認です。見たところ大丈夫そうです。かなり劣化も進んでいるので,フォノケーブルはかなり厳しい感じですが,低容量ケーブルが必要なフォノケーブルは高価ですし,当面このまま使います。

 次に,可能な限り分解し,清掃です。パイプのメッキをピカールで磨きます。しかし今ひとつくもりが取れません。リューターを使ってみたのですが,手元が狂って回転部分が接触,ゴリゴリという嫌な音がして,傷がついてしまい,そのまま寝てしまった日もありました。

 そんなこんなで磨き終わりましたが,オイルをどうやって抜くかが次の問題です。

 分解は出来ればしたくないのですが,良く探してみると分解している人のブログが見つかりました。大いに参考になったのですが,これによると下側にあるプラスのビスをはずせば,支点部分が外れてオイルカップが出てくるようです。

 ということで,早速緊張しながら試したところ,残念ながらうまく分解することが出来ませんでした。無理をすれば壊してしまいそうでしたし,いじっている間にオイルもほとんどこぼれてしまったようなので,もうこのまま進める事にします。

 とりあえずレストアが終わったので,次は取付です。

 プレイヤーをラックから取り出し,今のトーンアームを外します。テンプレートを使って取り付け位置を決めますが,今の穴は使えそうにないので,新たに開ける必要があります。

 以前のトーンアームの取付穴から,斜めに2cmほど内側に入った所に穴を開ける必要があるのですが,そのままでは穴を開けることもできませんので,まずは塞ぐことにします。

 穴は径50mmで7mmほど掘り下げてあり,そこからさらに径25mm程で貫通しています。7mmの合板を2枚重ねてキャビネットを作ってあり,さらにその下におがくずを4cm固めて充填してあります。

 とにかく,トップにあいた50mmの穴を塞ぐ必要があるのですが,これがなかなか大変です。パテで埋めるわけにも行きませんし,7mmの合板で埋めるには,綺麗な円を切り出す必要もあります。

 そこで,今回は手持ちの関係から,3mm厚のMDFを,コンパスの形になったカッターナイフでコリコリと2枚ほど切り出しました。そして,0.4mm厚のプラ板を同じサイズで何枚か切り出して,両面テープで重ねて貼り合わせました。

 このままだと不格好なので,木目のシートを一番上のMDFに張り付けて,一応形になりました。このシートの色が全然あっていないので,いかにも塞ぎましたという不格好さが満載なのですが,わざわざ買うのも面倒だし,加工そのものは綺麗に出来ているので,ここに元々のトーンアームがありましたよ,という印も兼ねて,このままで進めます。

 そして,テンプレートで再度取り付け穴の位置を確認し,中心に6.5mmの穴を開けます。お,この作業中に娘がやってきました。しゃがみ込んで,私の作業を見ています。

 次にこの作業のために購入したホールソーを用意します。25mmにセットし,木目シートを少し大きめにカッターで切り抜いておきます。ホールソーの先端が広がって真円になっていないことも問題なので,ここは結束バンドで縛っておき,のこぎりが広がらないようにします。

 そしていざ,電気ドリルでゴリゴリと穴を開けていきます。予想以上に綺麗にあきましたが,娘もその音と穴に,びっくりです。

 25mmの穴が貫通したのですが,このままではおがくずが分厚く取り付けできませんから,そこは50mmほどでザグっておきます。キャビネットを裏返し,ゴリゴリと切り進めます。娘は音と木くずに驚いています。

 最後に,テンプレートに従って,アームレストを取り付けます。これは簡単ですね。

 これでとりあえず,トーンアームが取り付けられる様になりました。

 一方,ターンテーブルもメンテをしておきます。

 DP-2000ももう40年近く前の製品ですから,電界コンデンサくらいは交換しておきたいところです。久々に裏返し,ケースをあけて,電解コンデンサを交換していきます。

 ストロボスコープ用の平滑コンデンサと思われる4.7uF/250Vが液漏れをしており,容量を測定したら案の定抜けていました。これを交換すると,これまで問題になっていたストロボスコープのちらつきが治りました。

 困ったのは1000uF/63Vや,4.7V/160Vといった高耐圧品の在庫がなかったことで,これは通販で手配しました。

 動作を確認し,ケースを閉じて,フォノモーターはメンテ完了。すべての電解コンデンサを交換し,ハンダ付けも怪しいところはすべてハンダ付けをやり直しておきました。

 うっかり壊したインシュレータを修理したり,いろいろ面倒だったのですが,とりあえずキャビネットにすべてを取り付けます。

 トーンアームをラフに調整し,ラックに収める前にオイルを入れてしまいます。
あらかじめ購入してあったエーゼットの100000を0.5ml,シリンジで注入し,フタをして終了。

 次は調整です。ヘッドシェルを取り付け,オーバーハングを確認し,カートリッジを取り付けます。そしてトーンアームの高さを合わせて水平を出します。

 バランスウェイトを調整してバランスさせ,この状態でサブウェイトを調整し,ラテラルバランスを取ります。これでラテラルバランスが取れればいいんですが,駄目な場合はバランスウェイトを外し,偏心している取り付け軸をまわして,なんとか水平を出します。

 ついでにいうと,このG-940ってアンチスケーティングがないんですね。S字のアームだからインサイドフォースは発生するはずなんですが,振動ではなくて力ですし,オイルダンプがあっても駄目なものはダメだと思うんですが・・・

 まあ,インサイドフォースキャンセラーとか,アンチスケーティングとか,ほとんど影響しないから気にすることはないという意見もあるし,存在は認めつつも発生条件が複雑で,同じ設定でキャンセルなど出来るはずがない,という意見もあります。

 溝のないレコードでインサイドフォースを確認する方法にさえ,条件が違うから参考程度だという考え方もあるので,あまり気にしても仕方がありません。

 ME97HEを取り出して,トーンアームに取り付けます。ゼロバランスを取り,次にラテラルバランスを取ります。針圧をかけて,レコードを聴いてみます。

 見てみると,なんとかバランスし,綺麗にトレースしているようです。まるで滑るようにトレースしています。ラテラルバランスも取れているし,ゆらゆらと動く振動も制動がかかっている感じです。これが1点支持だと思うと,ちょっと感動します。

 肝心の音ですが,これは随分違うものです。しゃきっとエッジが立っていること,なによりトラッキングエラーが軽減され,これまでだと音が濁ったり歪んだりしていた内周部でも,音の劣化が軽減されています。

 高さの調整が難しかったこと,オーバーハングが15mmということで,これまでのトーンアームに比べて少し短いためカートリッジとシェルの取付をやり直す必要があったことなど,ちょっと面倒な事がありましたが,これも終了。

 最後に,アープリフターが勝手に降りてしまうという問題がありましたが,これはほっとくと針を壊してしまうので,改造を前提に分解して,簡単に降りないようにしました。

 一応これですべて調整が終わりです。

 音も満足,何より高いポテンシャルを持つトーンアームを使いこなす楽しみは素晴らしいです。滑るようなアームの動きはとても魅力的です。

 反りや偏心にもちゃんと追従しますし,意図的に与えた振動もきちんと制して,びしっとトレースしています。いいですね。

 ところでこのトーンアーム,カートリッジを交換するごとに,針圧はもちろん,ラテラルバランスも再調整が必要です。そして完全な水平を出すのが思った以上に難しく,水準器を使わなければ作業が進みません。

 しかも,カートリッジの標準針圧に対する,最適な針圧の差分が違っているので,本当に細かく調整して追い込まないといけません。最適値から外れた状態で,音に変化があるというのは予想外でしたが,特に大振幅時のトレース能力に差が出るようですので,きちんと合わせていかねばなりません。

 以前のトーンアームに比べると,針圧は重めにかける必要がありそうです。

 こういう作業を繰り返しているうちに,もうこのプレイヤーは,私以外には使えないものになってしまったことに気が付きました。これまではなんとか嫁さんまでは使えたのですが,こんな難しいもの,多分無理だと思います。

 そんなわけで,PV集が発売になり盛り上がっているビートルズのうち,2003年再販のLET IT BEを聞いてみましたが,どうも音が薄く,しかもビリビリと歪みがでています。

 音質云々以前の問題として,聞くレベルに達しておらず,これは調整ミスだと思ってあれこれいじってみましたが,全然解決しません。

 もしやと思って,無理をいって叔父から譲ってもらった,オリジナルの発売時のLET IT BEをかけてますと,歪みもなく,低音がどどーんと出てきて,ボーカルが艶やかに立体的に浮かび上がってきます。そうそう,これです。

 ビートルズの場合,生産国の違いによる音質の違いなんてのは当たり前の話ですし,よせばいいのにしょっちゅうリマスターをしては不評を買っていますから,少々のことでは驚きませんが,歪んでしまって聞くに堪えない状態が設定でも調整でもなく,レコード自身の問題で引き起こされていること意外でした。

 中学生の時の,アナログレコード(というかオーディオ)の私の原体験である,叔父のDP-3000とV15tywpeIIIによるLET IT BEと同じ感動を,音が出た瞬間に味わえたことはとてもうれしいものでした。

 ただ,カートリッジと針圧の関係がかなり複雑で,これまでのトーンアームと違って,バランスウェイトの目盛りに合わせればいいという話ではなさそうなので,針圧計を買って,1つ1つきちんと管理していこうと思います。

 今回の作業の,一番派手な木材加工をつぶさに見ていた娘が,アナログレコードの意味や価値に興味を持ったとき,このプレイヤーがどんな風に見えるのか,その音を聞きながらつくづく考えていました。とても楽しみなことです。

イコライザアンプのオペアンプを交換してみる

  • 2015/10/30 14:06
  • カテゴリー:make:

 昨今,アナログレコードがブームになっているそうです。

 日本国内でもそうですが,特にアメリカでの人気再燃が顕著で,昨年2014は役920万枚が販売されたという話もあります。日本では約40万枚ということで,絶対数はCDにまだまだ及びませんが,CDが毎年数を減らしているのに対し,アナログレコードは毎年まるで倍々ゲームのように数を増やしているところが,注目です。

 これをうけて,オーディオ業界も「アナログレコードプレイヤー」への再参入を試みるメーカーが増えており,日本のピュアオーディオメーカーからは何らかの形で市場投入のアナウンスがありますし,ガジェット系のメーカーからもいくつかの商品が販売されています。

 オーディオ業界はここ数年,ハイレゾオーディオをキーワードに久々の春を味わっているわけですが,もう1つの流れとしてのアナログレコードにも,期待がかかっているという感じです。

 CDが減少傾向で,代わりに配信が増えてきたことについては,オーディオは音楽を聴くものであって,実体を所有するかどうかがそれ程問題ではなくなったという,そういう消費者サイドの意識の変化があったんじゃないかと思います。

 一方で,所有することに意味があるもの,あるいは再生するのに独自の手間や作法があるもの,総じて「面倒くさいもの」が好ましいものだという価値観に照らしてみると,CDの小ささや簡便さというのは,所有に値しないものだった,ということになるのではないでしょうか。

 CDでのユーザー体験は,配信の音楽を聴くという体験と比較して,あまり差がありません。CDという実体を所有しないと出来ない,CDを再生するという体験はあまりに簡便すぎて,配信の音楽を再生する行為とそんなに変わらないということです。

 しかし,アナログレコードは,アナログレコードを再生するという体験が,配信のそれとは大きく異なるために,アナログレコードを所有することに,大きな意味があるんだろうと,思う訳です。

 大きさ故の,ジャケット写真の大きさや美しさも,評価されているメリットでしょう。CDは音質が配信と同程度(それ以下)なのに,中途半端に大きく,操作もボタンを押すだけでなにも面白くない,そんな存在です。そりゃ,消えてなくなるわけです。

 これを世代交代といってあきらめていたのが,当のメーカーやエンジニア達だと思いますが,ここしばらくのアナログレコードの再燃は,音楽という「中身」だけではなく、器そのものにも十分な価値があることを,証明していると思います。

 ですが,当然のことながら,1990年代から2000年代にかけて,CDの全盛期には,アナログレコードはもう絶滅すると言われていました。アナログレコードが絶滅すると,その再生装置も絶滅します。特にアナログレコードの再生には,交換針という消耗品も供給されねばならないし,そもそもプレイヤーが精密機械ですから,製造も修理も,一度止まってしまうともう再開出来ません。

 それでも生きながらえてきたのは,やはりDJ用途で使われるようになったから,が大きいと思います。私が一番うれしいのは,カートリッジ,とりわけMMカートリッジが生き残っていることです。

 MMカートリッジは針交換が可能な,比較的リーズナブルなカートリッジです。CDが出てくる前は主流だったこのカートリッジは,金型で大量生産せねばならず,それゆえに数が出るなら安価で供給出来ますが,数が出ないならさっさと生産中止になるものです。

 一方のMCカートリッジは,職人の手作りのようなものですから,極端なことを言えば1個からでも製造できます。その代わり,高価なものになりがちです。

 この2つは,良し悪しは別として,音質にかなり異なるキャラクターがあります。同じアナログレコードでも全然違う楽しみ方が出来るのは確かで,私もMMとMCは使い分けています。

 ですから,CDが主流になれば,もうMMカートリッジは手に入らなくなると思っていました。ですが,MMカートリッジの音の傾向と,その堅牢性が,DJたちに支持されるに至り,現在でも優秀なカートリッジが入手可能です。

 DJたちは,パッケージメディアの再生装置を,音楽を創る楽器にするという革命をやってのけましたが,その結果,貴重なMMカートリッジとアナログプレイヤーが残っているわけで,彼らが支えてくれなかったら今のアナログレコードブームは,なかったんじゃないかと思います。

 さて,前置きが長くなりましたが,私もCD全盛時からアナログレコードを細々と使って来たファンの一人です。とはいえ,あくまで趣味ですし,CDを否定しているわけではないので,アナログレコードはサブの扱いであって,プレイヤーはDENONのDP-2500という中級機の中古品,カートリッジもV15typeVxMRとDL-103がメインという,極普通のものです。

 それでも,アナログレコードの音質は楽しんでいますので,今後もちゃんと持ち続けていようと思うのですが,私のような電気設計者にとってアナログレコードの再生システムというのは,あまり手を出せる部分がないというのも,また事実です。

 アナログプレイヤーというのは,前述のように精密機器で,フィードバックを用いずに,絶対精度を追い込む事で成立させている,いわば旧世代のメカです。

 CDなんかは,サーボというフィードバックをふんだんに用いることで,機械的な精度を追い込む事なしに成立させることが出来ますから,お金のかかるメカの精度を高める必要がなく,とてもラフに作る事ができますから,安く簡単にたくさん生産できます。

 このサーボは,電気回路によって構成されるものですから,CDプレイヤーの主役は,なんといっても電気回路です。これがアナログレコードのプレイヤーになると,もう電気回路の入る余地はほとんどなく,完全にメカの世界です。

 これは,当時の技術レベルの問題でもあるのでやむを得ないのですが,そんな中で電気回路が大喜びするのが,イコライザアンプの領域です。

 詳しいとは省きますが,カートリッジの微少な出力電圧を増幅し,周波数特性を補正する役割があるこのアンプは,なかなか高度な技術が必要ですし,真空管はもちろん,その後のトランジスタ,FET,ICと,デバイスの進化でどんどん性能が向上したものでもあります。

 私のイコライザアンプはK&Rというキットメーカーのキットですが,高性能なオペアンプにDCサーボをかけたもので,非常に切れ味のいい,透明感のある音を聞かせてくれます。

 このオペアンプを,交換しようというのが今回の試みです。

 オリジナルは,一世を風靡したNE5532が使われています。大量に使われたのでとても安くなりましたが,1980年代に登場した時には高価で,それでもオーディオ用のオペアンプとしてそれまでの常識を覆しました。

 それから30年。すでにオペアンプが存在しないオーディオ機器は存在しないというくらいに,オペアンプは当たり前になりましたが,それでも性能向上は続いており,高性能,高音質をねらったものが,次々に出ています。

 NE5532の音は,私は嫌いではないのですが,もっと透明な音を期待して,MUSES8820に好感することにしました。

 オペアンプマニアじゃないので,とっかえひっかえするのはそんなにやりませんが,自分なりのオペアンプの傾向は持っているつもりですが,MUSESシリーズは高価なこともあり,試したことがなかったのです。

 秋月で通販をするついでに,その中でも安価なMUSES8820を買って,イコライザアンプに組み込むことにしました。どんな音になるのか・・・

 せっかく測定器があるので,さっと1kHzでの歪みとS/N,チャンネルセパレーションくらいは測定しておこうと思ったのですが,一部交換後に悪化した値があり,首をかしげてしまいました。

 交換前後で,このキットのスペックに達していないこともわかり,ちょっとがっかりでした。といいますか,ハムが結構でています。ケーブルの引き回しと言うより,電源トランスから誘導しているようです。

 これを本気で対策するとなかなか面倒な話になるので,これは次の課題として,実際に音を出してみます。

 ・・・お,なかなかいいですね。もともと変な味付けのない,素直で綺麗な音のイコライザアンプでしたが,それに磨きがかかったような感じです。劇的に変わったという感じはないのですが,歪みが大幅に減ったと感じるのが1つ,もう1つはなんというか,5532らしい音がなくなって,非常に聞きやすくなったという感じでしょう。

 ということで,アナログプレイヤーの使用頻度は低く,レコードも積極的に聞いているわけではありませんが,それでも全く使わないと劣化が進んでしまうのが,この世界です。使用可能なコンディションを維持するために,出来るだけ関心を持つことがひつようで,それが趣味の面倒臭さでもあるのですが,僅かなお金とわずかな手間で変化が楽しめるのは,面白いと思います。

 結局の所,趣味というのは手間をかけた分だけ面白いものなので,アナログプレイヤーについては,出来るだけ「変化」を付けていこうと思います。

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