電子負荷キットを作る[製作編]
- 2016/02/09 13:49
- カテゴリー:make:
少し前の話になるのですが,SHOP-Uという面白そうな電子工作のお店で「Re:load 2」という電子負荷のキットを買いました。
電子負荷?なんじゃそりゃ?
電源に抵抗なりモーターなりの負荷を繋げば,当然電流が流れて,電力が消費されます。電子工作では通常,電気で動く物,すなわち負荷を作りますので,設計や実験,場合によっては実使用においても,少々のことでは性能が変化しない,理想的な電源を使います。
この理想的な電源を,電圧を安定化したり,電圧を可変できたり,たくさんの電流を供給出来たり,ノイズが少なかったり,ショートなどでも安全なようにしたり,様々な回路を工夫して取り付け,実験器具として独立させたものが安定化電源器です。
電子工作を始めると,欲しくなるのが安定化電源器なわけですが,これは前述のように電気で動く物を作るから欲しいわけです。
それでは電気を供給する側を作る時には,なにが欲しくなるでしょう?
そう,理想的な負荷です。電圧を変えても同じ電流が流れること,流れる電流を調整出来ること,電流が流れることでノイズなどを発生しないこと,壊れないこと,壊さないこと,という理想的な負荷があれば,電気を供給する電源器の設計や製作,実験が,より確実に,より素早く行えるようになるわけです。
でも,普通は電源回路などを設計することはあまりしません。どんな回路でも電源は必要な物ですから,設計しないというのはおかしいのですが,昨今は三端子レギュレータを使うだけで性能のいい電源回路が出来てしまうので,設計すると言う手間をかけることは必要がなくなってしまいました。コピペで動いちゃうんですよ。
しかし,そうも言ってられない場合があります。
例えばACアダプタ。手持ちのACアダプタに,「6V-500mA」と書いてあるとしましょう。テスターでとりあえず出力電圧を測ると,6V出ています。さてこれで,このACアダプタは良品といえるでしょうか?
次に,6Vで100mAを消費する装置に,このACアダプタを使うことは出来るでしょうか?
まあ,実際にやってみりゃわかることだと言われればその通りなわけですが,そこをもうちょっと科学的に,論理的にやりたくなったら,もう上級者です。そして,そのために使う装置が,電子負荷と呼ばれるものです。
ACアダプタについて誤解をしている人がたまにいるのですが,先程のように6V-500mAというのは,6Vの電圧が出てきて500mAまで電流が取れますよ,という意味ではなく,500mAの電流を引っ張った時に,6Vの電圧が出てきますよ,と言う意味が正解です。500mA以外の電流では,6Vとは限りません。
特に安定化していないトランス式のACアダプタは,引っ張る電流によって電圧が大きく変動するのがあたりまえで,電流が小さい時には電圧が高めに出ます。ですが今普通に出回っているスイッチング式の場合は,あまり変動せず6Vくらいで安定化されています。
ですから,テスターで電圧をみて6Vであることを確認出来たとしても,それでACアダプタが良品かどうかは,全然わからないのです。ちゃんと500mAの電流を流してみて6Vの電圧が維持されているか,熱くなったり唸ったり,煙が出たり,おかしな波形が出てたりしないかを,ちゃんと見ておかないといけないのです。
同じ理由で,100mAの装置にこのアダプタが使えるかどうかは,100mAを流してみて,ACアダプタに異常がないことはもちろんのこと,その出力電圧がいくらかを見ないといけません。トランス式なら8Vくらい出ていることがほとんどでしょうが,それでもその装置が正しく動くのか,壊れないかをきちんと確かめないといけないのです。
抵抗じゃだめなの?という質問が来そうですが,抵抗でもいいです。電池チェッカーなんかは,負荷として単純な抵抗を使っていることがほとんどです。
ただ,駄目な場合もあります。抵抗は電圧が変わると流れる電流が変わります。だから電圧に関係なく一定の電流を引き出すという事が出来ません。
そもそも電流の値を調整する仕組みも大変です。可変抵抗を使えばいいと思うかも知れませんが,可変抵抗も抵抗ですから電圧が変われば電流も変化します。加えて,吸い込んだ電流は熱になりますが,一般的に可変抵抗は,そうした熱を放熱出来ずに壊れてしまいます。
もっというと,大きな電流を引っ張り込むためには,発生する膨大な熱をうまく発散させねばならず,そのための仕組みが抵抗だけではとても難しいということです。
ということで,前置きが長くなりましたが,趣味で電子工作をやる人間にとっても,電子負荷があるとどれだけ便利で安心か,お伝えできたかと思います。
では,「理想負荷」としての「電子負荷」は,どういう原理で動く物なのでしょうか。これは,電流を制御出来る素子,つまりトランジスタなりFETなりに電流を流すということと,その電流が一定になるよう,トランジスタを制御する回路をくっつけた物です。
負荷に直列にトランジスタと電流検出抵抗を入れて電流を流します。電流検出抵抗の両端には電圧が発生するので,これをOP-AMPに戻してやり,基準電圧との差がなくなるように,トランジスタを制御します。これで一定の電流が流れてくれますね。そして基準電圧を可変してやれば,その電圧との差がなくなるように動きますから,電流が可変出来るようになるわけです。
原理は簡単なのですが,市販品はとても大げさで高価です。電子負荷は概して大きな電圧を扱えて,かつ大きな電流を吸い込むことが出来るものが多いのですが,仮に30Vで3Aという,そんなに大きくもない電子負荷を作ろうとすると,実に100Wの熱をどこに捨てるかを考えないといけなくなります。これが,60Vで15Aなんて話になると1kWというトースターやホットプレート並の熱を長時間安定して,かつ安全に捨てることが出来ないといけないのです。
私たちはアマチュアですので,そこまで大きな電力を扱う事はあまりありません。本業ではない我々が,本気の電子負荷を持つことはとてもしんどいことです。あれば便利なことは分かっていましたが,さすがの私も躊躇していました。
ところが,小さい物でいいから電子負荷があったらなあと思っていたのは私だけはなく,世界中のホビーストが考えていたことのようで,SHOP-Uで売られていた「Re:load 2」も,そんな人が作った海外のキットでした。
詳しい説明は,
http://www.arachnidlabs.com/blog/2013/02/05/introducing-re-load/
を見て頂くとして,なかなか工夫のされている,真面目な面白いキットだと思いました。
原理は先程書いたように比較的単純ですが,その分部品の選び方は結構難しいものです。
設計者は,そこにきちんと根拠を与えて,部品を選んでいます。いいですね。
まず,電力を熱に変えるデバイスには,MOS-FETのBTS117を選んでいます。BTS117は単なるN-chのMOS-FETではなく,そこに熱,過電圧や過電流,ESDの保護回路が入った一種のICです。大電流を扱う回路では,破壊や熱暴走が心配で,ここでヘマをすると命にかかわることもあります。
BTS117やその大電流版であるBTS141は,そうした保護回路を内蔵することで,特別な配慮を必要とせず,安全なMOS-FETとして簡単に行うことが出来るという優れものです。
今回使うBTS117の最大定格は,VDS=60V,ID=3.5A,P=50Wです。パッケージはおなじみのTO-220ですが,フィンが絶縁されていないので取り付け時は注意が必要です。
そしてこのデバイスの便利なところ,サーマルプロテクションは150℃で動作するそうです。電流リミッタは7Aで動作という事で,安全対策もばっちりです。(実際,この保護回路のおかげで私は何度も救われています)
そしてOP-AMPです。ここはなんでもいいように思うかも知れませんが,とんでもない。電流を引っ張る相手から動作用電源をもらえると便利ですが,その場合出来るだけ低い電圧から動作するOP-AMPでないとダメです。
しかも,0Vから電源電圧まで,ギリギリまで出力の電圧が振れないと制御範囲が確保できません。いわゆるRail to RailというOP-AMPが必要なのです。
また,出力電圧が制御に使われる関係で,オフセットが大きかったり,変動が大きいと問題です。だから,交流特性よりも直流特性の良い,低電圧動作のOP-AMPが必要になります。
設計者はここに,MCP6002を使っています。なるほど,今回の目的ではぴったりなようです。電源電圧が6Vまでという制約はつきますが,もともとOP-AMPの電源用に三端子レギュレータ(LP2950)が用意されていますので問題なしです。
とまあ,たったこれだけの回路でも,それなりに考えて部品を選ばないと失敗するわけで,その結果をキットにしてくれているととても便利です。これが基板や放熱器までついて$20,私が買った値段でも3000円ですから,安い物です。
ギックリ腰やFMブースターのことでなかなか取りかかれなかったのですが,先日からようやく製作を始めました。
まず,基本方針を決めましょう。電源の供給を外部にするか,内部で済ませるかを考えます。先程書いたように,電流を引っ張る相手からOP-AMPが動作する電源をもらうと便利になりますが,それではOP-AMPの動作電圧を下回る場合,動いてくれません。またLP2905という三端子レギュレータが壊れてしまう30V以上の電圧もかけられません。
そこで,OP-AMPには他から電源を供給することにします。こうすると相手の電源電圧に無関係となりますから,0V付近からBTS117の定格である60Vくらいまで,印加できるようになるわけです。
ただし,外部から電源が取れない場合も想定し,セルフパワーで動作するモードも用意しておきます。3.5V以上30V未満という入力の制約がつきますが,動く事が重要です。
その電源ですが,嫁さんが持っていた携帯電話充電用のACアダプタをパクってきて使う事にします。いやなに,嫁さんは使い方が荒っぽいので,コネクタの根っこの部分が破れて,銅線がむき出しになっていたんです。修理しようと預かったのですが,コネクタをうっかり割ってしまい,修理不能になりました。
嫁さんには「すで手遅れだった」と伝えて,こちらで処分することにしたのですが,これに普通のACアダプタのプラグを取り付けて再利用しようと,まあそういうことです。
さて,これで5Vの電源は確保出来ました。ただ,こういう勝手なことをすると,またACアダプタの極性を逆にして壊したりしますので,ダイオードを一発いれて逆接続から保護しましょう。ついでに,このACアダプタは5.7Vですので,ダイオードを入れればちょうど5Vになって,好都合です。
次に電圧計と電流計です。必ず必要となるものですから,内蔵できればとても便利です。ここにはSHOP-Uで売られている電圧計と電流計が1つにまとまったものを使います。でも,これが後で足を引っ張ることになるのです。
電流調整用のボリュームは10kΩです。他の値のものなら信頼性の高いものが手持ちにあったのですが,回路図を見ると抵抗値の可変範囲がけっこうきっちり計算されているようなので,ここは素直に10kΩにしておきます。
残念ながら密閉されていない16型のものしか手持ちはなかったのですが,これがかつて多回転型に交換した安定化電源器の電圧調整用ボリュームでして,そんなに悪い子のもなかろうということで,使う事にします。
ケースは,リードのMB-3です。ちょっと大きいのですが,放熱器とパネルメータの取付を考えると,このくらいがいいところでしょう。デザインは無骨で面白くも何ともないのですが,安いからいいとします。それにしてもこんなものまで秋月で買えるようになってるとは,驚きです。
さて,最大の問題である放熱についてです。同梱の放熱器は12Wが最大という事ですが,BTS117の最大定格は50Wですので,本来の実力は20Wくらいまではいけそうですし,もっと頑張れば30Wくらいまで頑張ってくれるかも知れません。20Wといえば12Vで1.5Aですから大したことではないように思いますが,安定してこの電力を吸い込むのはなかなか大変なことです。
大きめの放熱器,出来れば空冷ファンもついていると安心なのですが,そういうのってCPUクーラーがぴったりです。しかし残念ながら,昔は売るほどあったクーラーも処分してしまい,手元には残っていません。
悔しいのですが,放熱器も秋月で買うことにします。54x50x15mmのヒートシンクが110円でしたので,これにします。もうちょっと大きいといいんですけど,仕方がありません。
このヒートシンク,スペックシートをみていると,熱抵抗が5.6℃/Wです。非常に乱暴な計算をすると,20W突っ込むと112℃の上昇があるわけですが,グラフをみていると20Wでおよそ90℃です。まあこのくらいがこの放熱器の限界でしょう。
てことで,ざっくり熱周りの計算をしておきます。BTS117の放熱器なしの熱抵抗は75℃/Wだそうです。ということは,ざっと2Wで150℃になるわけですね。こりゃひどい。
そこで放熱器を付けた場合を計算します。BTS117のジャンクションからフィンまでの熱抵抗は2.5℃/Wです。これに今回の放熱器の熱抵抗5.6℃/Wと,絶縁シートの3℃/Wを加算すると11.1℃/W。ざっくり11℃/Wが今回の熱抵抗です。
なになに,10Wで110℃。15Wで165℃!あかんがな。
ということは,周囲温度が25℃のとき,150℃になるのは11.3Wですか。うむー,全然ですね・・・
おかしいと思うので,放熱器のスペックを,グラフから読み取ったものにします。これによると,80℃の上昇で16Wですから,熱抵抗は5℃/Wです。これで再計算するとトータルの熱抵抗は10.5℃/Wです。おまけして10℃/Wとして。周囲温度25℃のとき150℃になるのは12.5W・・・結構かなしいですね。
てなわけで,連続使用可能な電力は,とりあえず10Wとしておきましょう。短時間で,かつ気温が低いときは実力で20WはOK,25Wでも短時間なら大丈夫なのですが,長時間の使用では危険なので,やっぱり10Wですね・・・
ところで,ファンがついているCPUクーラーなんかだと,これが0.45℃/Wくらいになったりするそうです。ということは,トータルの熱抵抗は約6℃/W。周囲温度25度のとき150℃になるのは,20.8Wになります。おー。
ようやく20Wを越えました。強制空冷,伊達じゃないですね。でも,逆に言うとこのくらいの放熱能力で大丈夫なのかなあ。CPUって,35Wとか50Wとか,それくらいのTDPだったように思うのですが・・・
まあいいや,今回の計算結果をふまえて,ファンの取付を前提に考えてみましょう。ただし,実験して効果がなかったらやめます。
基本方針が決まったので,ケースに穴を開けていきます。放熱器に3mmのネジを切り,ケースに取り付けます。
パネルメータの角穴もあけて,2時間ほどで完成です。味も素っ気もないケースですので,いつものようにプリンタで正面パネルに張り付けるステッカーを印刷し,張り付けます。
あとは部品をケースに取り付け,基板も固定して,配線をして終了です。気をつけないといけないのはFETと放熱器で,前述のように絶縁をしないといけませんので,ブッシングをFETのフィンにはめ込み,ここにビスを通して直接触れないようにします。そして背面には絶縁シートをはさみ,固定します。最後にテスターで導通していないかどうかを確認します。ここでミスをすると,FETや基板がぶっ壊れます。
3Pのトグルスイッチを使って,外部電源モードとセルフパワーモードを切り替えます。もともと外部電源動作専用で作るつもりでしたが,それでも電源スイッチは必要になりますから,せっかくですので電源OFFの時にはセルフパワーで動くように工夫してみましょう。
そのために3Pのトグルスイッチを用いるわけですが,ややこしいのはパネルメーターです。パネルメーターの説明書によると,外部電源モードとセルフパワーモードとで配線が違うとかかれています。具体的には,パネルメーターのGNDの配線を,外部電源モードでは配線をしないといけないのに,セルフパワーモードでは配線せずにオープンにしておく必要があるのだそうです。
そのため,3Pのスイッチでは切り替えが出来ず,2階路3接点の6Pスイッチが必要になりますが,あいにく手持ちがありません。というか,あるにはあったんですが,壊れていました。
しかし,パネルメーターのGNDを,常に配線しておいても動くんじゃないかと勝手に妄想して,3Pスイッチで進めます。(しかしこれが甘かった)
配線をさっさと済ませて,まずはセルフパワーモードで動作させます。電源器を繋いで見ますが,パネルメーターが動きません。これは単純な配線間違い。さっさと修正して動かすと,おお,ちゃんと動きました。どんどん電流を吸い込んでいます。
あれ,パネルメーターの電流の値が随分ずれています。3割も狂っていたら話にならないです。そこで,GNDの配線をオープンにしてみたら,ほぼぴったりな値になりました。ということは,やっぱりセルフパワーの場合にはここは配線したらダメなんですね。
しかし,外部電源モードではGNDに配線しないといけないのですから,やっぱり2階路のスイッチがいるんですね。困った。
スイッチを買うことも考えましたが,せっかく穴開けも取り付けも済んだのに違うスイッチを付けるのも面倒です。そこで,今回はリレーを使う事にします。秋月で売っていた100円弱のリレーを使います。このスイッチはリレーを動かすだけのスイッチとして動き,肝心の切り替えはリレーで行うわけですね。
そうと決まればさっさと回路変更です。
それにしてもリレーの「カチ」という音はいいですね。なんかやる気になってきます。
配線完了。試して見ます。まずはセルフパワーモードですが,これは問題なし。電流計も電圧計もちょうどいい値を示しています。次に外部電源モードです。切り替えは小気味良く,まるでスポーツカーのシフトレバーのようです。
あれ,電流計の値がおかしい。狂っています。まずは配線ミスを疑いましたが,どうも正しい様です。もしや,と思いリレーを介して繋がっているGNDをオープンにしてみたところ,ばしっと正しい値が出てきました。
なんと,このパネルメーターは,どっちのモードでもGNDはオープンにして置く必要があるようです。騙された-。
そうなると,もうリレーは必要ありません。3Pのスイッチだけで事足ります。また配線を戻し,今度こそ完成です。
これで,外部電源モードとセルフパワーモードの両方で,同じ動作をすることが確認出来ました。さらに確認を進めて,外部電源モードでは0Vから動作することも確認,1Vで2Aを吸い込むことも出来ています。そして現在の所,12Vで1.5Aまでは,自然空冷だけでなんとか動作している感じです。
と,ここまでで製作編はおしまいです。
続きはチューンナップ編,目標30Wを目指して,試行錯誤をします。