エントリー

カテゴリー「make:」の検索結果は以下のとおりです。

キッチンの水栓を交換することで考えた

 コロナですっかりカタツムリになってしまった私ですが,毎日の夕食を担当するなかで劣化がひどくなってきたものに,キッチンの水栓があります。

 そりゃもう7年も使っているんですから,悪くもなるでしょう。

 一番ひどいのは,シャワーとストレート,そして浄水の3つを切り替えるレバーが,ギーギーと鳴くようになり,気持ちよく切り替える事が出来なくなってしまったことです。

 切り替えそのものは出来ているので実用上はなにも問題はないのですが,レバーが重くなったことに加え,クリック感がなくなりきちんと回しきるのが大変になったこともありますし,気分的にもよくありません。

 この部分の分解清掃をやってはみたものの,効果は数日で薄れてしまいます。

 ならばと,子部分の部品交換を考えたのですが,シャワーの付いたヘッドを丸ごと交換しないといけないらしく,あろうことか24000円もするというんですよ。

 高いなあと思いつつ,ちらっとamazonがお奨めする物を見ていると,水栓丸ごとでも2万円まで買えるようです。もともと6万円ほどする物ですからね,パチモンかも訳ありかも知れないですし,取り付けをどうするんだという話もあるので,あまり真面目に見ることはしません。

 しかし,このヘッドの交換を検討する時に,TOTOのWEBで後悔されている部品構成図などを見ていると,この製品の後継機種をたどっていけるようになっており,まさにこの機種が18000円ほどで買えることが分かりました。

 水栓は10年くらいでもう使えなくなるものと考えても良いので,交換出来ればそれは歓迎すべき事なのですが,古い物が製造中止で安く出ているかと思って探してみると,それはむしろ高価なくらいです。

 どちらかというと,現行商品が安く出ているようなので,思い切って交換してみることにしました。後継品種ですから,基本的にはリプレース可能でしょう。

 交換前の機種名は「TKHG38P」,後継の現行品は「TKS05308J」らしいです。

 取り付け穴も同じ,配管の長さはちょっと違うのですが,まあどうにかなるでしょう。

 デザインは大きく変わっているので慣れるのに時間はかかるでしょうが,悪い物ではなさそうです。

 TOTOのWEBサイトに取説など一式アップされているので到着までの時間で予習しておきます。

 ということで,土曜日の午前中に,新しい水栓が届きました。欠品がないかを確認し,揃っていることを確認出来たら作業開始です。

 まず古い水栓を取り外します。いやー,綺麗に使っているつもりでも汚いですね,水回りは触るのが嫌になります。

 先に配管を外します。この時代の水栓はワンタッチカプラーなる物で配管されているので,これを流用出来れば簡単だったのですが,現行品には採用されず,ナットで接続するタイプに戻っていますから,カプラーごと外してしまいます。

 シャワーの接続も外してしまい,その後水栓の下部にあるネジをアレンキーで外して,慎重に引き抜きます。おお,なんだかイカの解体みたいです。

 取り付け用の台座も流用出来そうにないので外して,新しい物に交換です。これは簡単簡単。

 続けて新しい水栓を取り付けてしまいます。配管を穴に通し,台座にネジ留めします。配管を通すのがちょっと面倒ですが,別に問題はありません。

 次からはもうシンクの下側の作業で,座りっぱなしです。配管を上手く取り回し,ナットで接続していきます。実は過去の水栓がシンクの裏側の面から370mmの位置に接続点があったのですが,新しい物は400mmを指定しています。3cmの違いならどうにかなるだろうと思っていたのですが,あまった配管を取り回すにはちょっと中途半端な長さで,冷水側の配管を少し急に曲げてしまい,折り曲げ跡を作ってしまいました。

 問題なさそうなので気にせず先に進めます。シャワーの接続も終わると,後はもう開栓しても問題はありません。きちんと水が出てきて,漏れないことを確認したら,あとはもうお片付けです。

 ここまで1時間ほど。さすがに予習をしただけあって,スムーズに作業が進みました。

 使い勝手は大きく変わりましたが,あっという間になれてしまいますし,快適な操作性なのでなにも文句はありません。通常,6万円の定価に工事費用が数万円で合計10万円コースだろうと思うのですが,最終的に2万円以下で済んでいます。

 「安く上がって良かったですよ」という話をしたいわけではなく,私が考えたのは,一体何が適正な価格なんだろうか,と言う疑問です。2万円なら私のように壊れる前に交換しようと思う人がいるでしょう。5万円なら壊れてからの交換になるでしょうが,納得して出せる価格ではないでしょうか。

 しかし,10万円の出費というのは,ちょっと抵抗がありませんか?いや,積み上げれば仕方がない金額になるんだろうし,工務店の方々がぼっているっていう話をしたいわけではなく,あくまで私の金銭感覚で10万円は簡単に出ないよという話です。

 10万円が納得出来ないからやめときます,という話にならないのが住宅設備関連です。水道が壊れてしまえばそりゃ生活が出来ませんから,30万円ですと言われても出さざるを得ませんよね。

 こういうことを悪用する人々がいても,不思議じゃないかも知れないと私は思ったのです。

 私の推測はこうです。工務店は本来,工事を2万円くらいで引き受けていたら赤字です。そこで,品物の利益でそれを補填します。2万円くらいで仕入れるが出来る水栓を,メーカーの標準小売価格である6万円で売るのです。

 これになにも問題はありません。かつての水道工事というのは現物合わせが主体となる大変な作業ですので,以前なら納得する人も多かっただろうと思います。

 しかし,2つの変化が訪れます。1つは工事を簡素化するために,メーカーの製品が標準化を進めていき,取り付けに際する現物合わせを極力排除したことです。このことで作業時間は短縮され,交換品の在庫も流用も持てるようになり,しかも作業スキルによって仕上がりが変わったり,スキルの低い人でも工事が出来るようになりました。

 しかし一方で,誰でも出来るようになったことから,素人でも簡単にできてしまうようになりました。

 2つ目の変化は,製品の購入です。かつては工務店しか買うことが出来なかった住宅設備関連品ですが,どういうルートか楽天でもamazonでも買うことが簡単になりました。

 買うことが出来るようになったと言うだけではなく,とても安いのです。おそらく,工務店への卸値に近い価格ではないかと思います。工務店の中には,amazonから仕入れる人もいるんだとか。

 こうして,独占されていた製品の購入が開放されたこと,そして工事も素人に出来るくらいに簡素化されたことで,一気にDIYに敷居が下がったのです。

 私は水栓の交換に1時間ほどかかっていますが,交換しようと決めてからわずか24時間です。工事の決定から支払い,そして工事完了まで1日ですからね,プロの頼むよりも早いというメリットも大きいのです。

 こうして環境が整ったことで,消費者としては選択肢が一気に増えました。安いけど手間がかかる,高いけど楽ちん,様々な選択肢がある事は,消費者にもメリットがありますし,選んでもらうための競争が起きますから,業界全体が良くなる方向に向かうことは疑いようがありません。

 そう考えると,これまでがおかしかったんだなあと気が付きます。そしてそれらが変化し,現在の地点に来ることが出来た要因に,製品のメーカーが進めた工事の簡略化と独占販売をやらなくなったことがあり,結局メーカーなどの大きな会社が作った道筋に流れていくんだなあと思いました。

 今年でなんと20周年を迎えたamazonがあけた風穴には多種多様なものがあり,誰かがそれをまとめるだろうと私は期待しているのですが,絶版の本さえ注文を受けては後になってごめんなさいをするいい加減さに辟易したサービス開始直後のamazonが懐かしく思い出されます。

 必要不可欠なインフラとして定着したamazonですが,実はもっともっと根深いところで,それまでの商習慣を数多く壊していることに改めて驚くと共に,その多くが直接には消費者のメリットになっていることを思うと,amazonというプラットフォーマーが消費者の見方でいてくれて良かったなあと,思わざるを得ません。

 そう,高度経済成長期ではなくとも,明日は今日よりも良くなっている,は,ちゃんと実践されていたということです。

 さて,ここでもう1つ見えにくい問題を議論せねばなりません。

 そう,ゴミの問題です。工務店に対して支払う費用には,廃棄物の処理費用も含まれます。今回の水栓も,工務店に工事を依頼すれば古い物は当然引き取ってもらえます。

 しかし,amazonへの支払いは当然品物の代金だけであり,ゴミの処理費用は含まれません。素人のDIYではこのゴミの処理が問題です。

 個人が出すゴミで,事業者が仕事で出すものではありませんから,余程の事がなければ個人のゴミとして処理できるので心配ないのですが,本来事業用ゴミとして処理されるものが個人のゴミとして出てくるようになるのが当たり前になると,ゴミを処理する地方公共団体の処理能力が想定を越えることもあるだろうなと思ったりします。

 また,大きい,重いなどで粗大ゴミになれば当然有償ですし,そこに化学物質や有害な物,あるいはリサイクルが義務づけられているような物が含まれれば,個人で出すゴミとはいえ,産業廃棄物として処理しないといけないケースも出てきます。これらの処理費用は安くはありません。

 ここまで考えると,実は工務店に頼むことが割高になるとは言えないケースも出てくることに気が付きます。さらにいうと正規の方法で処理されることで,環境負荷を下げることにもなる場合があるでしょう。

 さて,どうします?

 

レトロPC救済作戦

 1980年代,90年代のリバイバルが,あちこちで活況です。ここ数年くすぶっていたレトロPCやレトロゲーム機ブームも定着した感があり,本家のゲームメーカーがミニ版を発売するに至って一般化した感じも拭えません。

 ただ,ミニ版で遊んでいるうちはいいんですが,やはり本物がいい,などと言い出すとその敷居は高く,多くの人は途方に暮れるでしょう。

 一番の問題は,ディスプレイです。

 コンスーマーゲーム機(ゲームコンソールといいます)は,余程の事がない限りコンポジットビデオ出力がありますので,最新のテレビでも接続出来るものが多いはずです。

 しかしこのコンポジットビデオ出力というのは,さすがにNTSCという過去の遺跡であり,これで表示される画面のひどさというのは,その当時の人々でさえも辟易していました。

 レトロPCになるとさらに事情は深刻で,MSXやPC-6001などのマシンはコンポジットビデオ出力でなんとか出来ても,RGBディスプレイを用いるPC-8801シリーズやX1シリーズ,そもそも水平同期周波数が15kHzですらないPC-9801やX68000などは,どうやっても今のテレビには繋がりません。

 そりゃそうです,当時だってこれらのマシンは特殊なテレビしか接続出来ず,基本的には専用のディスプレイとセットで使っていたのですから。

 問題はこの専用ディスプレイです。RGBであること,最低15KHz,24kHz,31kHzの3つの水平同期周波数で同期がかかることが必要ですが,人類はディスプレイをLCDに移行させた段階で,すでにこの機能を手放してしまっています。

 LCDはCRTと原理的に異なります。RGB方式というのは,いわばCRTを直接駆動する方式ですから,その画質は高くとも,LCDとは相容れない方式なわけです。

 ですのでここに辻褄合わせの回路が入り込むわけですが,これがまた高価でややこしい代物です。しかも画質がかなり劣化します。それで救えるのがレトロPCなんですから,誰が対応するのかという話です。

 この手の需要に応え続けたのが,電波新聞社のスキャンコンバータシリーズです。VGAのPCがまだ存在し,VGAのアナログRGBならまだ使える時代に,レトロPCやゲーム機のRGB信号を変換する装置ですが,目的が目的ですので,その画質やレイテンシにはこだわりがあり,現在も高い評価を得ています。

 発売時期が古いことで部品の入手が厳しくなったらしく,すでに販売が終了しているものも多いのですが,一方でディスプレイ本体よりも高かったりするお値段も,本当のマニアでないと買わないという特殊な機材になっていました。

 画質はともかく,とにかく表示出来るディスプレイはないものか,当時のCRTを使い続ける人々は,いつ火を噴くともわからない時限爆弾を抱えて,焦っていました。

 そんな中で,数年おきに出てくるのが,15kHzが映ったよ,という声です。

 それは,三菱のLCDが密かに対応していたとか,ある中国製の安価なディスプレイに繋いだらOKだったとか,そういう話です。しかし,X68000のあるモードには対応しないとか,複合同期信号に対応しないとか,なにかと問題があり,完璧な対応は非常に難しいものでした。

 しかしここ最近,またこの界隈が賑やかになってきているようです。理由は,11から13インチクラスの1920x1080のLCDパネルが安くなったこと,接続がeDPで統一されてきていること,そして安価なLCDドライバを用いた,汎用性の高いLCDドライバ基板がたくさん出回るようになり,ガレージメーカーを含めた有象無象なディスプレイが,1万円程度で出てくるようになったことがあります。

 もちろん,これらは中国製ですし,玉石混淆です。でも,当たりが出たときは大きくて,X68000に妥協なく完全対応するディスプレイが現れた時にはお祭り騒ぎになりました。

 私は,今さらX68000の実機で遊ぶこともないわな,とこの祭りに乗り遅れてしまったのですが,冷静に考えてみると実家にはPC-6001mk2,X1turbo,X68000,SegaSaturn,Dreamcast,何枚かのゲーム基板と,RGB目白押しです。

 これらをどうするか,以前から頭の痛い問題ではあったのですが,今回,ふとしたことをきっかけに,これらのヘリテージをいかに残すかを真面目に考える事にしました。

 これらのRGBを問題なく受けられるLCDは,今もあるにはあります。しかし,大きかったり高価だったりとなにかと制約があります。11インチから13インチまでのLCDで,使わない時は片付けられるものが理想ですが,この理想を安価に具現化し,かつてCocopar旋風を巻き起こしたCoCoperのTX133019はすでに廃番。

 これにかわる,現在入手可能なLCDは,なかなか見当たりません。

 ですが,探して見るものです,WIMAXITというブランドのM1160という11インチのLCDが,15kHzのRGBに対応するという情報を得ました。

 少し前によく見たサブディスプレイですが,ブランドも値段もピンキリです。形が同じだからとか,値段が似ているからとか,そういう話で選んでも15kHzに対応しないことも,情報として出てきました。

 私が購入したときは13800円ほどだったのですが,今はもう少し安くなっているようです。

 届いたので早速動作確認です。HDMIで繋げば,メガドラミニもファミコンミニもPS3も問題なし。すでにこれだけで満足している私がいます。あーゲームって楽しい。

 いかんいかん,15kHzに対応しているかを調べないといけません。しかしあいにく,15kHzのRGBを吐き出す機器が手元にはありません。

 ふと目をやるとPS2があります。これを使いましょう。

 amazonで安いコンポーネントケーブルを購入,届いたら分解してコネクタだけを残しあとは捨てます。

 ここにVGAコネクタを繋いで,M1160に接続します。

 だめです,映りません。まったく映像が出ません。入力がないと判断されています。同期信号まわりですね,これは。

 念のため,RGB-VGA変換基板として一部の間で定番化しているGBS-8800でも試しますが結果は同じ。まだあきらめるには早そうです。

 いろいろ調べていくと,PS2の複合同期信号のレベルが低いのが原因だったようです。PS2では21ピンRGBを前提しにしているので,同期信号は複合同期信号で1Vp-pもあれば十分同期がかかります。

 しかし,VGAの同期信号は,複合同期でもTTLレベルです。こりゃダメなはずです。

 周波数もたかだか15kHz程度ですから,ゲートを一発通せば済む話なのですが,垂直同期も必要になることを想定し,ここは贅沢にも定番シンクセパレータLM1881を使います。

 LM1881を使えば,1V程度のビデオ信号から,TTLレベルの複合同期信号と垂直同期信号を簡単に得られます。今回はこれを使いましょう。

 さっさと回路を組み立てて接続するとあっさりPS2がRGBで表示されました。

 うれしくて縦画面にしてレイフォースをクリアしてしまいました。死ぬほどコンティニューしましたが。

 あいにくX68000がないので24kHzと31kHzを確かめられませんが,まずは15kHzが通ってめでたしめでたしです。

 さて,こうなると音が欲しいですね。

 M1160は,過去にはオーディオ入力を持っていたようですが,私のモデルはここがヘッドフォン出力になってしまっています。ヘッドフォン出力を維持したままライン入力を増設することも考えましたが,中に入っていた基板をじっと眺めていると,どうやらこのヘッドフォン出力の端子をライン入力にするためのジャンパ設定がありそうだと気が付きました。

 抵抗を外しヘッドフォン出力用の電源を切断し,ヘッドフォン出力への配線を切り替えてライン入力にジャンパを設定しました。ここで失敗したのですが,ヘッドフォン端子の配線を少し工夫しないと,入力が有効にならないことがわかり,しばらく悩みました。答えはジャックに来ている信号の1つをGNDに落とす事でした。

 これで,PS2が楽しめるようになりました。うれしくておもわずギャラクシーフォースIIをすべての機種分やりこんでしまいました。

 DreamcastはVGAアダプタがあるので問題なし,SegaSaturnやPC-6001mk2も15kHzなので大丈夫でしょう。X1turboは24kHzが微妙ですが,15kHzだけでも御の字です。

 X68000こそ問題なのですが,これも試してみるしかありません。

 残念なのはコンポジットビデオが入らないことです。これが入ればPC-6001やApple][やM5もいけるんですけど,これはもうコンバータ使って繋ぐほかないと思います。

 てなわけで,レトロPCやレトロゲームをかなり救える環境になりました。実はSCSIをCFにする基板も買ってあるので,X68000を復活させる日も,そう遠くはなさそうです。

 

時間泥棒,NanoVNA

 コロナ騒ぎでもう大変な3ヶ月でした。私個人もそうですが,子供の学校が始まらなかったりと,これまでの非日常が日常化する怖さを感じます。

 一度日常になると,元に戻ることはすなわち変化になりますので,これはこれで大変です。こうして日常と非日常が個々人の認識もろとも引き摺り回されてしまうことへの不安が,今の私には大きいです。

 閑話休題。

 先日amazonをダラダラ見ておりましたら,NanoVNAなるものを見つけてしまいました。小型液晶をもつスタンドアロンの測定器で,値段は6000円から7000円とくればよくある中国製の安価なもの,を想像します。

 そう,オシロスコープなんかもそうでしたし,LCRメータであるとかHFEチェッカなんかもそうです。

 特にオシロスコープはその当時インパクトがあり,数万円(それでも数万円ですからね)を出せない今ひとつ電子工作に忠誠を誓えない人達が,このくらいの値段ならと飛びついて買っては,オシロスコープかっちゃったよと自慢げにいう,あれです。

 私も買ってはみましたが,1chしかなく,帯域も200kHz程度,プローブが付属していない事には目を瞑ることができる(別売りですといえばいい)のですが,代わりにBNCコネクタとミノムシクリップが繋がったケーブルが1本付属という,まあなんというかひどい物でした。

 これじゃ,初心者は1:10のプローブの重要性を知ることもなく,音声帯域の波形をちょろっと見える事がオシロスコープの仕事だと勘違いして終わってしまい,見えない物を見ることと,とらえられない物をとらえる,という2つの重要な能力を体験出来ないまま終わってしまいます。

 もっとも,これらを「すごい便利だ」と思えるような問題の解決に使うには,相応の実力を持っていて,それなりに難易度の高い実験をしないといけないわけで,測定器などは誰でも買える値段になってしまうことに,あまり意味がないように感じています。

 NanoVNAについても,私は似たような物だと思っていました。

 VNA,ベクトルネットワークアナライザ,という測定器は,多くの測定器が安価になりアマチュアが一家に一台を標榜できる昨今において,最後の憧れ,見果てぬ夢と目される,測定器です。

 もう名前からして,数学と物理に苦しんだ人々が嘔吐しそうなわけですが,ある一部の人種からすると,もうこれなしでは生きられない,無人島に1つ持っていく物があるとすれば迷わずこれ,といった倒錯した意見が堂々と出てくる程,御利益の大きな代物のようです。

 主として高周波の世界において,革命を起こした測定器がこのVNAで,ここに至るまでのスペクトルアナライザやネットワークアナライザなどの最終進化形が,これと言ってよいのではないでしょうか。

 価格も大きさも破格で,安い物でも50万円以上,高いものだとまさに青天井でベンツが変えてしまうほどのお値段ですし,大きさだって小さめの電子レンジくらいの大きさのものはざらにあります。

 その上,校正キットという標準器のセットがまた高価でこれだけを買うにもそこら辺のオシロスコープくらいの値段がします。

 そう,かつてのラジオ少年が憧れた,まさにプロの道具として憧れる,最後の測定器なのです。

 これがですね,7000円です。画面にはいっちょ前にスミスチャートまで出ています。

 ということで,気が付いたらポチっておりました。

 話が前後するのですが,VNAを簡単にご説明しましょう。VNAを知らない人でも理解出来る範囲で,かつこれだけ知っていればとりあえずVNAってなに?と奥さんや子供に聞かれても大丈夫です。

 コンデンサやコイルに交流を突っ込むと,入り口と出口で振幅と位相が変わります。これはいいですよね。つまり,コイルやコンデンサを交流で扱う場合,2つの情報を一緒に考えないと,真の姿が見えないわけです。

 これに比べると抵抗ってのは楽ちんで,直流でも交流でも位相は変わりませんから,振幅だけ見ていれば問題ありません。

 で,2つの情報を一気に扱うのが,ベクトルという数でした。これは中学生で倣うわけですが,当時は当然ピンと来ません。だけど,コイルやコンデンサのように振幅と位相が同時に変化する場合,片側だけを見ても意味はなく,両方同時に見るからこそ意味があることは,なんとなくわかって頂けるでしょう。

 で,電気の世界では,この2つの量を複素数という数字で書き表すしきたりです。実数と虚数の2つの和として1つの数字を表します。

 複素数なんて知らないで死ぬ人も世の中にはいるくらい,実生活に縁遠いわけですが,最初は数学者のお遊びだった「二乗するとマイナスになる数」が,実はベクトルを表すのに超便利だと後々わかった,と言う程度に覚えておいて下さい。

 ものすごくざっくり言うと,複素数のうち我々が見慣れた普通の数字である実数は振幅を,想像の世界である虚数は位相を表すように割り当てるとすごく便利になりました,と思ってもらってよいと思います。


 さて,VNAは,コイル,コンデンサ,抵抗を含む回路を調べる機械です。入り口に信号を入れ,どんな信号が返ってくるかを調べて,その回路の素性を調べてやろうというものです。

 コイルやコンデンサが相手ですので,入力は交流でなければなりません。また,回路の入り口の抵抗(インピーダンス)がVNAの出口のインピーダンスと一致していないと,反射が起きて信号が戻ってきてしまいます。これは高校の物理で習いますかね。

 難しいという人は,長縄を柱にくくりつけて,片側の手を揺すって波を1つ送り込んで下さい。おそらく波はつつーっと長縄を走り,柱にぶつかって跳ね返ってくるでしょう。これです,これ。

 もし,柱にくくりつけるんではなく,別の人に持ってもらい,一緒に手を動かしてもらえたら,跳ね返ってこないです。これがかのインピーダンスマッチングです。(おおっ)

 VNAは,こういうことを調べながら,どういう回路かを見極める測定器なのですが,これまでは振幅なら振幅だけ,位相なら位相だけしから調べることが出来ませんでした。

 例えばフィルタを調べるなら,周波数ごとの振幅を調べれば通過帯域がわかります。しかし,位相がどうなっているかがわからないと使い物になりません。

 これを一気に一発で調べるのが,VNAなのです。

 VNAでは,回路をブラックボックスとし,入口と出口の2つの口に,信号を入れたり出したりして,4つの測定値を得ます。

 入り口に信号を入れ,入り口から跳ね返ってくる信号の比率,入り口に信号をいれ,出口に出てきた信号の比率,出口に信号を入れ入り口に漏れてくる信号の比率,出口に信号を入れ跳ね返ってくる信号の比率です。これをSパラメータと呼んでいます。

 本物のVNAではこの4つを一気に測定し,中の回路がどうなっているのかを明らかにします。後述しますが,NanoVNAでは,このうち2つしか調べることが出来ません。

 まあ,ここまでわかればとりあえずよし。

 スミスチャートについては,見た目のアレ具合がアレなのでアレなんですが,わかってしまえばなんと言うことはありません。

 とりあえず,測定器の出力インピーダンスと一致した抵抗を繋ぐと,チャートのど真ん中に点が出てきます。抵抗の値が違ってくると点が左右に動きます。

 コンデンサが入ってくると点が下にずれてきます。コイルが入ると今度は上にずれてきます。そして周波数ごとにこの点をいくつも書いていくと,その回路にどんなコンデンサがいて,どんなコイルがいて,それらの周波数ごとの特性がどうなっているかが,手に取るようにわかるわけです。

 先程,インピーダンスマッチングの話をしました。出力と入力のインピーダンスが一致していると反射が起きない,つまり入れた電気が無駄なくすーっと全部入ってくれるわけですが,これってスミスチャートでいえば,チャーのど真ん中ですよね。

 なので,VNAを使ってスミスチャートを描いてみて,その点が使いたい周波数でど真ん中に点が集まれば,見事にインピーダンスマッチングが出来ているとわかるのです。

 どうです,すごいでしょ?

 さてさて,そんな盆と正月が一度に来たようなめでたいVNA,私はかつてRFワールドという雑誌で斡旋していた,PC接続型のVNAである,ziVNAuというものを買っていました。15000円もする校正キットも一緒に入手していたのですが,今ひとつピンと来ないまま,ほとんど使わず放置していました。

 やっぱりよく分からなかったということと,触っていて楽しいと思えなかったからです。

 そこへ,このスタンドアロンのNanoVNAです。これを使えば,VNAをもっと楽しめるかもしれないと直感が働き,買うことにしたのです。

 NanoVNAは,もともとそのRFワールドにも寄稿するようなベテランのエンジニアの日本人が数年前にコツコツと作られたものなのですが,オープンソースにしたことで中国の業者が安価に作って売っています。

 これをけしからんと見るか,よくやったと見るかは人それぞれですが,私はこれが法に触れない限り,よくやったと言いたいです。

 さて,届いたNAnoVNAはシールド板を備えて,ABS製のケースに入っています。ファームもその時最新のもので1.5GHzまで測定出来るという触れ込みです。高周波はややこしいので,ケースに入ってシールドがされているものを,少し高くても選ぶべきと思います。

 7100円だったと思うのですが,校正キットまで含んでこの値段ですからね,びっくりです。

 NanoVNAはSi5351Aを発振器に持ち,50kHzから300MHzまでをスイープして解析を行います。300MHzから900MHzまでは3次高調波を,900MHzから1.5GHzまでは5次高調波を使って測定するのですが,基本波を除去しないので,そこは注意が必要です。

 ダイナミックレンジは70dB程度で,本物のVNAにはかないませんが,それでもそのあたりをよく分かって使えば十分です。

 測定出来るSパラメータはS11とS21のみ。2ポートのVNAで必要最低限とも言えますが,S11だけでもSWRを見る事が出来ますし,S12やS22はアクティブデバイスを測定しない限り必要性は低いと思いますし,ちょうどいい割り切りでしょう。

 ついでに言うと周波数スイープの測定点は108しかなく,かなり荒い印象です,これだとちょうど変化が大きくなる周波数を見逃してしまうかも知れません。

 そうやってあれこれとnanoVNAを触っていると,あっという間に4時間くらい経過していることに気が付きます。まさに時間泥棒,特に何かを測定しようとか,なにかを調べようと思っているわけではないのに,これだけ面白いと思えるのも久々です。


 で,S11を測定する機能でアンテナアナライザにするというのはVNAの定番です。S11は反射ですので,SWRはもちろん,マッチングの具合もスミスチャートで見られるというのですから便利なことこの上なしです。

 手元にあった,多バンド対応のロッドアンテナを繋いで,遊んでみました。長さを変えると共振点が変わり,SWRがが小さくなる部分が変化します。使うバンドによって長さを調整するという根拠が眼で見てわかります。

 次に,FMアンテナの向きを調整する装置としての活用です。これはS21にポートにアンテナを繋ぎ,レスポンスを見るということで可能になります。いわばスペアナ代わりなのですが,スペアナと違って絶対値が測定出来ませんので,あくまで相対的なレベルの大小で済むような用途,今回のようなアンテナの向きを確かめるような場合にのみ有効です。

 まずがSGに繋いで,ちゃんとS21が動くかどうかを見ます。最初はスパンが大きく,上手く中心周波数をつかまえる事が出来なかったのですが,上手く調整するとちゃんと信号の周波数でスパッと縦線が立ち上がって来ます。よしよし。

 周波数変調をかけると,ちゃんとかけた分だけ側波帯が広がって表示されます。立派にスペアナとして機能しているようです。

 今度はFMアンテナを繋いでみます。そうするといくつかの周波数でピークが確認出来ます。そう,放送局をちゃんと拾い上げてくれています。こういうのをバンドスコープというんだそうですが,どこに受信すべき信号が出ているかを視覚的に見せてくれるので,アマチュア無線では便利なんだそうです。

 こうしてみると,80.0MHz,81.3MHz,そして82.5MHzと,主要な放送局がちゃんと入感しています。それぞれの強度が最強になるようにアンテナ向きを調整すれば安心です。(まだやってませんけど)

 さらに,PCソフトを使って外部から動かしてみました。PCのソフトには2種類あるのですが,私はnanovna-serverというものを使いました。

 あくまでUI部分をPCで行うだけのものですが,それでもチャートを重ねるのではなく別々の図として出してくれるを見やすくなり,なかなか便利だと思います。


 ということで,価格以上の価値を持っていると断言出来るNanoVNA。いろいろ制限はありますし,そもそも帯域も狭いと思いますが,一応使い物になる校正キットも込みでこの値段というのは破格で,興味があるなら迷わず持っておくことをお奨めしておきます。

 高周波が苦手なあなたも,スミスチャートも複素数もさっぱりなあなたも,何はともあれNanoVNAを触って見て,実際に体験する中で理解を深めてはいかがでしょう。

 

TIのICが秋月で買えない

 何を今さら,という感じのニュースらしいのですが,たった今知った事なので私はとても驚いています。

 ついさっき,秋月電子のサイトでTIのオペアンプを見ていました。いつもは見る事のないQ&Aを眺めていると,9月と10月に追記されたものが目に付きました。

 ディスコンでもないのに在庫限りなのはなんで?

 ・・・え,どういうこと?

 秋月電子からの回答は,なんでも,TIがエンドユーザーを特定出来ないお店には販売させないという方針を取ったとのことで,これにより秋月では販売出来なくなったそうです。

 ちょっと待って下さい。

 TIはICの発明者を擁していたほどの半導体の老舗にして名門で,古くはシリコントランジスタで存在感を高め,74シリーズのロジックで世界を制覇,1990年代からDSPに軸足を移したかと思えば近年はアナログICに舵を切り,名だたるアナログICメーカーをことごとく傘下に収めた,超巨大半導体メーカーです。

 正直にいえば,私にとってのTIは廉価版オペアンプとセカンドソースのメーカーであって,安く安定して手に入る製品を用意してくれていることが最大の価値でした。

 個性が強い,超高性能なICは,TIには結びつきません。

 様々な機能を持つ面白いICが揃っていて,データシートを眺めているだけで楽しかったナショナルセミコンダクタ,オーディオ用のAD/DAコンバータで先頭を走り,強烈な性能のオペアンプに憧れたバーブラウンも,すでにTIに買収されてしまいました。

 TIの資金力と人材をもってすれば,ナショナルセミコンダクタもバーブラウンも主要製品は安定供給されるだろう,特にアマチュアにも優しかったナショナルセミコンダクタが安定的に存続することは大歓迎だと思っていたのですが,まさか市中の部品屋さんで買えなくなってしまうなんて,想像もしていませんでした。

 調べてみると,この方針が出始めたのは今年の3月頃。すでにこの頃から一次代理店以外の流通が止まりつつあることがわかります。特に我々アマチュアが親しんでいた秋月電子やマルツ電波からは,買えないものが出始めていました。

 根拠のない噂話ですが,事の発端はある中国の代理店が,最終製品に搭載すると見せかけて安く購入した部品を高い値段で流してボロ儲けしていたことにTIの幹部が激怒,その部品が誰の手にあるのかを完全に把握出来ないところには売らないと決めたらしいです。

 まあ,こういう面白い話には嘘も混じるものですが,特に中国の「偽物」にはどの半導体メーカーも顧客も頭を痛めているのが現状で,TIが手間暇かけてきちんと流通を管理するという今回の決定によって,偽物が一掃される可能性があります。

 少なくとも,市場に流通している部品はすべて正規品と言うことになるので,顧客は安心してTIの製品を買うことが出来るようになります。これは大きなメリットです。

 でも,電子工作を楽しむ子供たちにとっては,そんなことは理解出来ません。

 TIの製品は,高価で超高性能なものばかりでなく,また特殊なものばかりでもなく,昔から汎用品として長く使われてきたものも多くあります。入手しやすい,安く買える,性能が間違いないということでTIを使ってきた製作記事の執筆者も多く,この方針変更はそうした信頼を根底から覆すものです。

 もっとも,そうした汎用品はTI以外からも販売されるので実害はないのかも知れませんが,他社を買収し市場を独占した会社は,その決定が与える影響を熟慮して欲しいのです。

 その上で,中小企業やアマチュアなどの弱者を救うのも,お金のある大きな会社の仕事の1つにして欲しいなあと思うのです。

 TIのケースでは,TI自身が直販サイトを立ち上げています。誰でも買うことが出来ますが,さすがに1個からというわけにはいきません。送料もそれなりにかかりますし,単価もあまり安いわけではなく,問題のは納期です。店頭でその場で買えるほどの迅速さは当然なく,1週間も程もかかってしまうようです。

 ならdigikeyなどのTIが認めたディストリビュータ経由で買えばいいんじゃないか,と思う訳ですが,クレジットカードと海外発送が前提になっていることを考えると,中学生くらいの子供が秋葉原でTIのオペアンプを2つ買って帰るということが出来なくなってしまうことはまず間違いありません。

 こうして,私にとっては子供の頃から馴染みのあったTIが,とても遠い存在になってしまうのです。残念でなりません。

 思えば,1980年代までの日本のメーカーの半導体がこんな感じでした。小さい部品屋さんはNECや東芝,日立といった巨大企業と直接取引できるわけはなく,代理店の商社が間に入って,小さな部品屋さんに卸していました。

 基本的に自社の最終製品のために半導体を作っていた日本のメーカーは,汎用品よりも特定用途向けの半導体に面白いものが多かったのですが,それゆえに代理店が扱わないものも多くあって,結局部品屋さんの店頭に日本のメーカーの半導体が並ぶことは少なかったのでした。

 だから,興味を持った製作記事に日本のメーカーのICが使われていると(そしてそれらの多くはキーデバイスだったりする),絶望的な気分になったものです。

 日本の半導体メーカーの力が落ちて,面白いものも安いものも海外のメーカーのものになって,ことアマチュアの半導体の入手は随分と楽になったと思っていたのですが,今回のように最大手のTIが部品屋さんに部品を売らせなくするという話になると,時代が逆戻りしてしまったように感じます。

 TIのように高性能アナログICをいわば寡占しているメーカーが,他に変わるもののないナショナルセミコンダクタやバーブラウンを買ったのですから,買った側にも一定の責任が発生すると私は考えています。

 資金力に任せて市場を独占した上で,市場をコントロールすることに問題があるという考え方は,各国の独占禁止法の根拠となっているわけで,今回のケースでは,TIという会社が中小企業を顧客と見なさないことに,企業の責任が問われるんじゃないかと思うわけです。

 データシートの配布については,著作物であるデータシートを勝手に配布していることに私は問題を感じていたし,公式のホームページに行けば手に入るものであればその方が安心だし確実なので歓迎すべきことだと思います。

 しかし,TIもそうなのですが,かつては日本語のデータシートを用意していても,今は日本語を用意しないことも多く,最新版をダウンロードしたら英語のみだったという事は頻繁に起こります。

 加えて,ディスコンになったもののデータシートもダウンロード出来ない場合が多いです。部品屋さんにしてみれば,自分達が今売っている商品のデータシートを提供出来ないことは確かに問題でもあります。

 ということで,TIのような最大手が流通に縛りを入れて来たことに私は警戒心を解くことが出来ません。他の会社が追随しないことを願うばかりです。

 

EL34シングルを三極管接続で味わう

 ある知り合いから,真空管アンプの修理の依頼を受けました。

 私はアマチュアなので,基本的に修理や製作代行などは受けないことにしているのですが,今回は音が小さくなって困っていて,誰か修理出来ないかという話をしていたということから,引き受ける事にしました。

 どうも,エレキットのTU-879Sというキットを改造したものを,譲ってもらったという話です。真空管をオリジナルの6L6GCからEL34に交換してあることは以前聞いていましたが,それ以外の改造があるかどうかは,全く聞いていませんでした。

 夏の暑い中で真空管アンプの修理をするのは,ほぼ罰ゲームなので,ちょっと急いでおくってもらったところ,確かに無茶苦茶小さい音です。

 どうせEL34の寿命だろうと思っていたのですが,手持ちの新品に交換しても状況は変わらないので,やっぱりどこかが壊れているんだろうと思います。

 あいにく回路図や説明書がなく,当然改造箇所も不明なので,5極管シングルアンプという前提条件で確認をしていきます。

 まず,底板を外すと,なにやら手が入った基板が見えてきます。そう,修理というのは経験上,目視で見つかったりヒントになることが実に多く,電圧を見たり波形を見るのは目視で目処を付けた場所にすると,効率よく進むのです。

 で,基板を外して裏返して見ると,真っ黒に焦げた抵抗と基板が・・・

 抵抗はスクリーングリッドに電圧を印加する抵抗で,3.3kΩです。5W品なので酸化金属被膜でしょう。これが真っ黒になっています。外して抵抗値を見ると無限大になっているので,完全に焼き切れています。

 5W品ですし,酸化金属被膜抵抗は熱に強いので,焼き切れるというのはかなりの電流が流れたからなのですが,スクリーングリッドに本当にそれだけの電流が流れると,かなり大変なことになっていたはずです。

 そしてさらに深刻なものを見つけました。左右両チャネルのカソード抵抗が一度焼損して,基板ごと燃やししまっているようなのです。もともとこのカソード抵抗は330Ωが基板の表面に付いているのですが,この個体では270Ωの赤茶色の酸化金属皮膜抵抗が基板の裏面についていました。

 改めて基板の表面を見ると,基板が真っ黒に焦げています。裏面を見返すとパターンも剥がれてしまっていて,ハンダ付けで修復しているようです。

 こりゃーいかん。

 真空管が内部でショートしたというなら,両方同時に燃えることはないでしょう。悪いケースで想像すると,高音質化を狙ってプレート電流を増やそうとして,カソード抵抗を小さくしたところ,副作用で真空管の暴走を押さえられず,プレート電流が増加して抵抗が燃えてしまった,ということでしょうか。

 この時スクリーン電流も増加して抵抗が焼損した可能性もなくないでしょうが,それだったら同時に交換されないといけませんので,スクリーン電圧を印加する抵抗の焼損は別の時に発生したのでしょう。

 調べてみると,あるメーカーがこのキットを改造したカスタムモデルを出していたようで,これがEL34への交換とプレート電流の増加をうたい文句にしていました。とりあえずこれを真似したんじゃないかと思います。

 もちろん,わかってやっているなら構わないんですが,抵抗の取り付け方を見ていると,基板に密着させていたりして,どうも高圧大電力を扱う事になれていないような感じがします。

 少し浮かせておくというのは,大電力を扱う人なら反射的にやることですし,そうでなくても組み立て説明書に書かれていることなので,説明書もちゃんと読まずに作るような,結構自信家だったんじゃないかと想像します。(でなければ,自分で作り,なおかつ改造し,あげく煙が出たものを修理までした真空管アンプを他人にあげるなど怖くてできないと思いますし)

 また,電源スイッチのスパークキラーもどっかのWEBサイトに書かれていた定番改造ですし,入力のカップリングコンデンサを外してしまうことも行われていました。

 その割にボリュームは元のまま交換されず,入力セレクタはLINE1とLINE2が逆に配線されていたりと,ちょっと首をかしげる箇所も多いです。

 さて,とりあえず持ち主に許可を取り,修理を進めます。あいにく酸化金属皮膜抵抗は在庫が多くないので,いくつか注文をします。数日後に届き,早速スクリングリッドの抵抗を新品に交換します。

 まずこの段階で,EL34は正常に動作をするようなったみたいです。音がちゃんと出て,各部の電圧もおそらく正常と思う値を示すようになりました。ここで一度オーディオ特性を見てみると,歪率はそこそこ,しかし低域が300Hzくらいまでしか出ていません。

 うーん,なにかある。

 続けて安全のため,カソード抵抗をオリジナルの330Ωに戻します。基板の表面に取り付け,パターンを修復しながら取り付けます。

 おや?テスターでパターンを追いかけていくと,どうもカソード抵抗に並列に入っているはずのコンデンサが,繋がっていないようです。なるほど,それで低域が出なかったんですね。

 そこで,330Ωに交換する時にちゃんとコンデンサを繋げてやります。

 ここでもう一度通電し測定をしますと,カソード電流は50mAちょっとになりました。EL34にしては少な目ですが,安全なのは事実です。

 さて,オーディオ特性を取ってみると,やはり低域がぐっと伸びて20Hzくらいまで出るようになりました。

 ね,300Hzくらいしか出ない修理になっていることに気が付かないのに,いっちょ前に入力のコンデンサを外してあるんですよ。おかしいですよね。

 さて,一通り電圧と電流を測定し,オーディオ特性も取ったところで,返却前提でヒアリングです。

 ・・・しかし,どうにも音が悪い。長時間聞き続けることが困難なほどです。自作の6V6シングルと交換しても一目瞭然。というか比較しなくても音が悪いとはっきりわかるレベルです。

 気のせいかと思って嫁さんにも聞いてもらいましたが,確かに悪いと。

 原因の1つは,ボリュームでした。音を小さくしたかったので絞って使っていましたが,そのせいで音質の劣化がひどく,加えて左右のギャングエラーも大きいため,これは交換しないといけません。

 それでも,どうも音が良くないのです。なんというか,平面的というか,ボーカルに艶がないというか,ただ音が出ているだけというか・・・ペラペラでどうにも聞いていられません。

 これを真空管アンプの音だといわれてしまうことは,さすがに私にも悲しいものがあります。

 そこで,一念発起です。他人の改造を批判しておいて,自分はさっさと改造するのかという後ろめたさもあるのですが,そこを差し引いてもこの音のアンプをこのまま返してしまうことは,もう罪です。

 改造すると決まったら,それはもう私が良いと思う音質へ向かう道です。私が目指す音になるように,回路の修整を入れていくことになります。

 スピード感よりも滑らかさ,切れ味よりもきめの細やかさ,広帯域より立体感,周波数より位相というのが私の目指すもので,真空管でいえば多極管より三極管です。

 多極管は電力効率はよいけど音質は今ひとつ,一方の三極管は電力効率は悪いのですが,音質は実に豊かで,真空管ならではの音を奏でます。

 多極管というのは,そもそも三極管の電力効率を改善した真空管で,出力が大きく取れる代わりに歪みも多く,音質の劣化があります。ゲインが取れるので大量の負帰還を使って歪率を改善すると,周波数特性などもぐっと改善されて,数字が大幅に良くなるのです。現在の半導体アンプと似たような考え方です。

 三極管は電力効率が悪く,突っ込んだ電力から取り出せる出力が少ないのですが,その代わり音は素直で無理をしていません。歪みも波形の上下が対象に崩れる2次高調波が多く,適度な歪みであればむしろいい音に聞こえるくらいです。

 そして,ゲインが小さいから負帰還をあまりかける事が出来ず,結果として真空管そのものが持つ個性がそのまま出てきます。まさに大吟醸です。

 で,せっかく真空管なんだから,真空管アンプを三極管以外で作るなんてのは愚の骨頂。多極管を大量の負帰還で使うなら,半導体で作るのが一番です。

 てなわけで,改造の方針が出ました。三極管接続です。

 多極管のスクリーングリッドをプレートに直結すると,三極管と同じ特性を示すようになります。もちろん本来の使い方ではないので,その特性は好ましいものではない場合も多いのですが,幸いなことにEL34は昔から三極管接続の音が良いことで知られていますし,メーカーのデータシートにも動作例が出ているくらい,メジャーなものです。

 安全のため,スクリーングリッドを直結せず,100Ωでプレートと繋いでみます。

 結果,プレート電流は65mAに増加しました。かなり増えてしまいましたが,データシートの動作例にも出てくるくらいの値ですし,まあ良いとしましょう。もちろんプレート損失にはまだまだ余裕があります。

 各部の電圧を測定し,オーディオ特性を取ります。

 歪率は悪くなっています。三極管接続にすることでゲインが下がり,負帰還も小さくなったんでしょう。帯域も狭くなっていて,高域は18kHz止まりです。DFも3.5程度とちょっと小さいので,負帰還を増やしてみます。

 帰還率を3.5dBくらいにして再度測定すると,1Wの歪率が0.9%程度になってくれました。高域も20kHzを少し越えるくらいになり,DFも6を越えるようになりました。いい感じです。

 改造前と改造後で2次高調波と3次高調波をそれぞれ比べてみたのですが,改造前は3次高調波が歪みの主成分であったのに対し,改造後は2次高調波が主成分になり,奇数次の高調波がぐっと減りました。

 しかし,3%歪み時の出力にはそれほど変化がなく,4W弱です。これなら実用上三極管接続にしたことのデメリットは表面化しないでしょう。帰還量を変えたので発振していないか気になりましたが,波形を見る限りそれも大丈夫なようです。

 気をよくした私は,小躍りしながらヒアリングに挑みます。

 おー,これはいい,劇的に変わりました。自作の6V6シングルには圧勝,聴き疲れせず,まろやかで,とてもふくよかになりました。立体的で,人の声がとても生々しく聞こえますし,高調波の少ない楽器(オーボエとかフルートとか)も,きちんと奥行きを保って聞こえてきます。

 DFが良くなったことで低域も締まって聞こえますし,他の音を邪魔しません。

 音量を上げてもこの傾向は変わらず,聴き疲れしません。どんどん音量を上げてしまいます。さすがEL34,三極管接続がこれほど良い結果を生むとは。

 ボリュームを交換したおかげでギャングエラーもなくなりましたし,小音量時の音質劣化も減りました。入力のカップリングコンデンサも追加しましたが,これによる音質の劣化はほとんど気が付かないレベルです。

 よし,これでいこう。

 嫁さんにも満を持して聞いてもらいましたが,一発で良くなったことに気が付いてくれました。その後,どういう訳だか睡魔が襲ってきて目が半開きになっていましたが・・・

 これで少しテストを続け,10時間ほど動かして安全性を確認出来たら,返送しようと思います。

 ふと気が付くと,300Bのシングルと同じ傾向の音になっていました。

 やっぱり,製作者の好みに収れんしていくんですね。気に入ってくれるといいんですが。

ユーティリティ

2026年04月

- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

検索

エントリー検索フォーム
キーワード

ユーザー

新着画像

過去ログ

Feed