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トーンアームを交換

  • 2015/11/09 15:01
  • カテゴリー:make:

 アナログプレイヤーに関して,20年来のテーマになっていたのが,トーンアームでした。

 カートリッジはいくつか試した結果,自分の好きなものを2つ見つけることができましたし,イコライザアンプも何台が作ってみて,今の形に落ち着きました。

 ターンテーブルは一度故障したものを自分で修理する時に,きちんと内部を理解してメンテナンスしましたから,これも気になりません。そうすると,残るはトーンアームです。

 完全にメカで,電気的な要素がほとんどないものですから,私には門外漢もいいところで,現在の状態がいいのか悪いのか,交換すると何が違ってくるのかがさっぱりわかりません。

 理想的にはトラッキングエラーをゼロにできればいいわけですが,そうもいかないので費用だったり扱いにくさだったり大きさだったりというデメリットの許せる範囲で,個々人が折り合いを付けるものでもあります。

 そもそも,私のプレイヤーはジャンク品を買ってきたものです。機械的な精度を要求されるトーンアームが一番壊れやすく,初期性能を保っていない部分である事は容易に想像がつきます。

 そこで,トーンアームの交換をずっと考えていたのですが,なにせ高価なものです。そうそう簡単に交換出来ません。かといって安いものを探して取り付けてしまえば,現在ついている純正のトーンアームよりも,性能的に落ちてしまうかも知れません。

 「かも知れません」というのが実に微妙なところで,なにせ比較をしていないので,私もよく分からないのです。10万円ならいいのか,40万円ならいいのか,純正のトーンアームがどのくらいのレベルのものなのかも,わかっていません。

 それに,私は恥ずかしいことに,綺麗にメンテナンスされたハイエンドのアナログプレイヤーをほとんど使った事がありません。一番高だったのは叔父が持っていたプレイヤーでしょうが,それだってそんなに大したものではなかったと思います。

 そうなってくると,最初の交換は性能の保証された新品でと思う訳ですが,それにしても安いもので10万円です。一番安価なもので10万円ですから,これで高性能だとしたら,50万円のトーンアームの存在理由が問われてしまいます。

 しかし,中古品,ましてオークションなどは,見極めが出来るだけの能力がないので非常に危険です。

 いろいろ思案したところ,とりあえず安い上に評価が高く,特に海外の評判が良いSA-750Eにしようということになりました。フォノケーブルが安いもので8000円ですから,ざっくり予算としては,8万円までです。

 キャビネットもフォノモーターもこのまま使うので,憧れであったロングタイプを使う事はあきらめます。今ついている標準的な長さのものに近いものを探すと,これになりました。

 アナログプレイヤーの関連は,市場が小さいだけに,今ある在庫がいつまで買えるか分かりません。仮に買えても値段が倍になることもあったりするので,欲しい時に買う,もうこれしかありません。

 ところが,やっぱり10万円は高いなあと思う訳です。10万円で,使いこなしが楽しめるものならいいんですが,そういう感じのものではありませんし。

 と思って,いろいろ物色していると,非常に気になるトーンアームがひっかかりました。グレースのG-940というものです。

 品川無線という会社のブランドがグレースで,そんなに大きな会社ではありませんが,非常に優秀なカートリッジやトーンアームを製品群に持ち,オーディオブームだった1970年代から80年代に,大きな存在感を持っていたメーカーです。

 ここのトーンアームが優秀なことは私も聞いていましたが,具体的な話は何ひとつ知りません。そんな中で,G-940はシングルサポート,オイルダンプ式という強烈な個性を放っていることに気が付きました。

 トーンアームというのは,レコードに対して水平方向に動く部分と,上下方向に動く部分が必要です。水平方向は言うまでもなく,レコードの外側から内側に渦巻き状に刻まれた溝を,レコード針がトレースするのに必要な移動です。

 上下方向はレコードの反りに追従する必要があることと,適度な針圧をかけるために必要です。ですが,これ以上に必要な可動部分はないということでもあります。

 で,可動部分ですから,支点が必ずあるわけで,支点があればそこに必ず摩擦があります。摩擦があれば動きを妨げる力が働くことになるわけで,素人の頭で考えても摩擦は少ない方がいいとわかります。

 一方で,もしどんな振動に対しても完全に追従できてしまうと,レコード針の振動にも追従してしまうので,音が出ません。かといってどんな振動にも追従しないようにしてしまうと,25分で10cmほど移動することもできなくなり,レコードを再生出来なくなります。

 つまり音として拾い上げたい振動だけは動かず,それ以外の振動については動いて欲しい,そういうものが理想的なトーンアームです。なかなか難しいですよね。

 しかも,その周波数特性を決定するパラメータが,カートリッジ,キャビネットの材質,キャビネットの足,ターンテーブルの防振シート,トーンアームの関節の構造,それぞれの質量,密度,長さや節の数に関係するというのですから,もうたまったものではありません。

 こうした要素で,アナログプレイヤーにはシステム全体で非常に複雑なピークやディップを持った周波数特性があって,200g程度の塩ビの円盤から吸い出せる情報量に,差が出てしまうというわけです。

 当然,ちょっとした違いから出てくる音に変化がつくわけで,それが好ましいものになるように追い込んで行くのが,アナログプレイヤーの面白さでもあります。

 話をトーンアームに戻しますが,摩擦を減らすには支点を減らすのが一番です。水平方向と上下方向にそれぞれ1軸の間接があったら,全部で2つの支点があります。特に上下方向を点で支えるか,線で支えるかでまた違いがありますし,どっちの場合でも摩擦が発生する部分は2箇所出てきます。

 ちょっと考えると,やじろべえのような,1点でバランスを取って支える仕組みが一番いいと言うことに気が付きます。なるほど,これだと水平方向でも垂直方向でも同じように動き,同じ支点を共用しますので,無理がありません。

 しかし,やじろべえを作った子供の頃を思い出すと,うまくバランスを取らないと、落っこちてしまいます。それに,摩擦がほとんどなくなりますので感度は高くなりますが,追従して欲しくない周波数にもついていってしまうでしょう。

 最も大きな問題は,動いて欲しくない方向にも自由度があることです。トーンアームに欲しい自由度は水平方向と上下方向です。トーンアームがねじれる方向には動いて欲しくありません。カートリッジが斜めに傾いた状態になるとステレオ再生に問題が出ますので,実はこのタイプのトーンアームは,ステレオ時代に廃れてしまったという事実があります。

 そこで,動いて欲しくない周波数の「動きにくさ」を増やし,減衰させます。これがダンピングです。ダンピングにはいろいろ方法がありますが,摩擦を使う方法や油を使う方法などがあります。

 G-940というトーンアームは,このダンピングにシリコーンオイルを使う方式です。シングルサポートというのはやじろべえと同じく,1つの針の上にのっかる構造,そしてそこに制動用の硬いシリコンオイルをもちいて,ある周波数以上の振動には追従しないようにするわけです。

 これが,取り付けるターンテーブルやキャビネットが決まっている,同時にヘッドシェルやカートリッジも決まっているなら,話はそんなに難しくないでしょう。しかし,このトーンアームはユニバーサル型で,どんなものにも適合しなくてはなりません。

 カートリッジの大きさも重さも,重心の位置もバラバラです。これで,水平方向の長周期の追従性と,上下方向の数Hzの追従性を損なわず,それ以外の動きをがちっと規制するようにするのですから,そりゃ大変です。

 G-940は,その構造故に大変優秀なトーンアームとして,1970年代前半に登場して好評価を得,ベストセラーになったそうです。しかし,調整も難しかっただろうし,なにせシリコンオイルを使わないといけないという,難しい条件で性能を発揮するものだったのですから,ユーザーが気を抜いたらたちまち性能が出なかったのではないかと思います。

 当然,カートリッジを交換すれば複雑な調整をやり直さないといけないだろうし,経年変化も大きかったでしょうから,そういう面倒を嫌がる人には向かないでしょう。だから,この構造のトーンアームは,現在新品では手に入れられないはずです。

 なら,挑戦したくなるもの,これまた人情というもの。

 手に入れる方法は,とりあえず中古オーディオショップか,オークションです。一般的にオークションの方が安く手に入るものですが,質はもうまちまちです。それこそゴミ捨て場から拾ってきたようなものから,大事に個人で使っていたものまで様々です。

 私は,値段が上がる傾向のあるものを狙いました。他の知恵のある入札者にのっかってやろうと考えたのです。まあ,私のような素人が二人で競り合いをするようなことがあると,最悪なわけですが。

 で,落札したのが10月末です。はっきりいって中古ショップよりも高価な値付けになりましたし,届いたものは私に言わせれば価格以下のものだったので,かなりがっかりしたわけですが,まあ仕方がありません。それでも,新品を買うよりはずっと安くついたと,あきらめることにします。

 まず,全体に錆びだらけです。使わずに長期間放置されたんだろうと思います。また,タバコのヤニもついています。オーナーは喫煙者ですね。

 また,動作確認のためにオイルを入れたんでしょうが,抜くわけにいかないので天地指定で届いたのはいいものの,開封するとやはりオイルが漏れていました。漏れた分は拭けばいいのですが,残ったオイルがどれくらいあるかがわからないので,出来れば一度空っぽにして入れ直したいところです。

 とにかく,付属品が揃っているか,破損はないか確認です。見たところ大丈夫そうです。かなり劣化も進んでいるので,フォノケーブルはかなり厳しい感じですが,低容量ケーブルが必要なフォノケーブルは高価ですし,当面このまま使います。

 次に,可能な限り分解し,清掃です。パイプのメッキをピカールで磨きます。しかし今ひとつくもりが取れません。リューターを使ってみたのですが,手元が狂って回転部分が接触,ゴリゴリという嫌な音がして,傷がついてしまい,そのまま寝てしまった日もありました。

 そんなこんなで磨き終わりましたが,オイルをどうやって抜くかが次の問題です。

 分解は出来ればしたくないのですが,良く探してみると分解している人のブログが見つかりました。大いに参考になったのですが,これによると下側にあるプラスのビスをはずせば,支点部分が外れてオイルカップが出てくるようです。

 ということで,早速緊張しながら試したところ,残念ながらうまく分解することが出来ませんでした。無理をすれば壊してしまいそうでしたし,いじっている間にオイルもほとんどこぼれてしまったようなので,もうこのまま進める事にします。

 とりあえずレストアが終わったので,次は取付です。

 プレイヤーをラックから取り出し,今のトーンアームを外します。テンプレートを使って取り付け位置を決めますが,今の穴は使えそうにないので,新たに開ける必要があります。

 以前のトーンアームの取付穴から,斜めに2cmほど内側に入った所に穴を開ける必要があるのですが,そのままでは穴を開けることもできませんので,まずは塞ぐことにします。

 穴は径50mmで7mmほど掘り下げてあり,そこからさらに径25mm程で貫通しています。7mmの合板を2枚重ねてキャビネットを作ってあり,さらにその下におがくずを4cm固めて充填してあります。

 とにかく,トップにあいた50mmの穴を塞ぐ必要があるのですが,これがなかなか大変です。パテで埋めるわけにも行きませんし,7mmの合板で埋めるには,綺麗な円を切り出す必要もあります。

 そこで,今回は手持ちの関係から,3mm厚のMDFを,コンパスの形になったカッターナイフでコリコリと2枚ほど切り出しました。そして,0.4mm厚のプラ板を同じサイズで何枚か切り出して,両面テープで重ねて貼り合わせました。

 このままだと不格好なので,木目のシートを一番上のMDFに張り付けて,一応形になりました。このシートの色が全然あっていないので,いかにも塞ぎましたという不格好さが満載なのですが,わざわざ買うのも面倒だし,加工そのものは綺麗に出来ているので,ここに元々のトーンアームがありましたよ,という印も兼ねて,このままで進めます。

 そして,テンプレートで再度取り付け穴の位置を確認し,中心に6.5mmの穴を開けます。お,この作業中に娘がやってきました。しゃがみ込んで,私の作業を見ています。

 次にこの作業のために購入したホールソーを用意します。25mmにセットし,木目シートを少し大きめにカッターで切り抜いておきます。ホールソーの先端が広がって真円になっていないことも問題なので,ここは結束バンドで縛っておき,のこぎりが広がらないようにします。

 そしていざ,電気ドリルでゴリゴリと穴を開けていきます。予想以上に綺麗にあきましたが,娘もその音と穴に,びっくりです。

 25mmの穴が貫通したのですが,このままではおがくずが分厚く取り付けできませんから,そこは50mmほどでザグっておきます。キャビネットを裏返し,ゴリゴリと切り進めます。娘は音と木くずに驚いています。

 最後に,テンプレートに従って,アームレストを取り付けます。これは簡単ですね。

 これでとりあえず,トーンアームが取り付けられる様になりました。

 一方,ターンテーブルもメンテをしておきます。

 DP-2000ももう40年近く前の製品ですから,電界コンデンサくらいは交換しておきたいところです。久々に裏返し,ケースをあけて,電解コンデンサを交換していきます。

 ストロボスコープ用の平滑コンデンサと思われる4.7uF/250Vが液漏れをしており,容量を測定したら案の定抜けていました。これを交換すると,これまで問題になっていたストロボスコープのちらつきが治りました。

 困ったのは1000uF/63Vや,4.7V/160Vといった高耐圧品の在庫がなかったことで,これは通販で手配しました。

 動作を確認し,ケースを閉じて,フォノモーターはメンテ完了。すべての電解コンデンサを交換し,ハンダ付けも怪しいところはすべてハンダ付けをやり直しておきました。

 うっかり壊したインシュレータを修理したり,いろいろ面倒だったのですが,とりあえずキャビネットにすべてを取り付けます。

 トーンアームをラフに調整し,ラックに収める前にオイルを入れてしまいます。
あらかじめ購入してあったエーゼットの100000を0.5ml,シリンジで注入し,フタをして終了。

 次は調整です。ヘッドシェルを取り付け,オーバーハングを確認し,カートリッジを取り付けます。そしてトーンアームの高さを合わせて水平を出します。

 バランスウェイトを調整してバランスさせ,この状態でサブウェイトを調整し,ラテラルバランスを取ります。これでラテラルバランスが取れればいいんですが,駄目な場合はバランスウェイトを外し,偏心している取り付け軸をまわして,なんとか水平を出します。

 ついでにいうと,このG-940ってアンチスケーティングがないんですね。S字のアームだからインサイドフォースは発生するはずなんですが,振動ではなくて力ですし,オイルダンプがあっても駄目なものはダメだと思うんですが・・・

 まあ,インサイドフォースキャンセラーとか,アンチスケーティングとか,ほとんど影響しないから気にすることはないという意見もあるし,存在は認めつつも発生条件が複雑で,同じ設定でキャンセルなど出来るはずがない,という意見もあります。

 溝のないレコードでインサイドフォースを確認する方法にさえ,条件が違うから参考程度だという考え方もあるので,あまり気にしても仕方がありません。

 ME97HEを取り出して,トーンアームに取り付けます。ゼロバランスを取り,次にラテラルバランスを取ります。針圧をかけて,レコードを聴いてみます。

 見てみると,なんとかバランスし,綺麗にトレースしているようです。まるで滑るようにトレースしています。ラテラルバランスも取れているし,ゆらゆらと動く振動も制動がかかっている感じです。これが1点支持だと思うと,ちょっと感動します。

 肝心の音ですが,これは随分違うものです。しゃきっとエッジが立っていること,なによりトラッキングエラーが軽減され,これまでだと音が濁ったり歪んだりしていた内周部でも,音の劣化が軽減されています。

 高さの調整が難しかったこと,オーバーハングが15mmということで,これまでのトーンアームに比べて少し短いためカートリッジとシェルの取付をやり直す必要があったことなど,ちょっと面倒な事がありましたが,これも終了。

 最後に,アープリフターが勝手に降りてしまうという問題がありましたが,これはほっとくと針を壊してしまうので,改造を前提に分解して,簡単に降りないようにしました。

 一応これですべて調整が終わりです。

 音も満足,何より高いポテンシャルを持つトーンアームを使いこなす楽しみは素晴らしいです。滑るようなアームの動きはとても魅力的です。

 反りや偏心にもちゃんと追従しますし,意図的に与えた振動もきちんと制して,びしっとトレースしています。いいですね。

 ところでこのトーンアーム,カートリッジを交換するごとに,針圧はもちろん,ラテラルバランスも再調整が必要です。そして完全な水平を出すのが思った以上に難しく,水準器を使わなければ作業が進みません。

 しかも,カートリッジの標準針圧に対する,最適な針圧の差分が違っているので,本当に細かく調整して追い込まないといけません。最適値から外れた状態で,音に変化があるというのは予想外でしたが,特に大振幅時のトレース能力に差が出るようですので,きちんと合わせていかねばなりません。

 以前のトーンアームに比べると,針圧は重めにかける必要がありそうです。

 こういう作業を繰り返しているうちに,もうこのプレイヤーは,私以外には使えないものになってしまったことに気が付きました。これまではなんとか嫁さんまでは使えたのですが,こんな難しいもの,多分無理だと思います。

 そんなわけで,PV集が発売になり盛り上がっているビートルズのうち,2003年再販のLET IT BEを聞いてみましたが,どうも音が薄く,しかもビリビリと歪みがでています。

 音質云々以前の問題として,聞くレベルに達しておらず,これは調整ミスだと思ってあれこれいじってみましたが,全然解決しません。

 もしやと思って,無理をいって叔父から譲ってもらった,オリジナルの発売時のLET IT BEをかけてますと,歪みもなく,低音がどどーんと出てきて,ボーカルが艶やかに立体的に浮かび上がってきます。そうそう,これです。

 ビートルズの場合,生産国の違いによる音質の違いなんてのは当たり前の話ですし,よせばいいのにしょっちゅうリマスターをしては不評を買っていますから,少々のことでは驚きませんが,歪んでしまって聞くに堪えない状態が設定でも調整でもなく,レコード自身の問題で引き起こされていること意外でした。

 中学生の時の,アナログレコード(というかオーディオ)の私の原体験である,叔父のDP-3000とV15tywpeIIIによるLET IT BEと同じ感動を,音が出た瞬間に味わえたことはとてもうれしいものでした。

 ただ,カートリッジと針圧の関係がかなり複雑で,これまでのトーンアームと違って,バランスウェイトの目盛りに合わせればいいという話ではなさそうなので,針圧計を買って,1つ1つきちんと管理していこうと思います。

 今回の作業の,一番派手な木材加工をつぶさに見ていた娘が,アナログレコードの意味や価値に興味を持ったとき,このプレイヤーがどんな風に見えるのか,その音を聞きながらつくづく考えていました。とても楽しみなことです。

イコライザアンプのオペアンプを交換してみる

  • 2015/10/30 14:06
  • カテゴリー:make:

 昨今,アナログレコードがブームになっているそうです。

 日本国内でもそうですが,特にアメリカでの人気再燃が顕著で,昨年2014は役920万枚が販売されたという話もあります。日本では約40万枚ということで,絶対数はCDにまだまだ及びませんが,CDが毎年数を減らしているのに対し,アナログレコードは毎年まるで倍々ゲームのように数を増やしているところが,注目です。

 これをうけて,オーディオ業界も「アナログレコードプレイヤー」への再参入を試みるメーカーが増えており,日本のピュアオーディオメーカーからは何らかの形で市場投入のアナウンスがありますし,ガジェット系のメーカーからもいくつかの商品が販売されています。

 オーディオ業界はここ数年,ハイレゾオーディオをキーワードに久々の春を味わっているわけですが,もう1つの流れとしてのアナログレコードにも,期待がかかっているという感じです。

 CDが減少傾向で,代わりに配信が増えてきたことについては,オーディオは音楽を聴くものであって,実体を所有するかどうかがそれ程問題ではなくなったという,そういう消費者サイドの意識の変化があったんじゃないかと思います。

 一方で,所有することに意味があるもの,あるいは再生するのに独自の手間や作法があるもの,総じて「面倒くさいもの」が好ましいものだという価値観に照らしてみると,CDの小ささや簡便さというのは,所有に値しないものだった,ということになるのではないでしょうか。

 CDでのユーザー体験は,配信の音楽を聴くという体験と比較して,あまり差がありません。CDという実体を所有しないと出来ない,CDを再生するという体験はあまりに簡便すぎて,配信の音楽を再生する行為とそんなに変わらないということです。

 しかし,アナログレコードは,アナログレコードを再生するという体験が,配信のそれとは大きく異なるために,アナログレコードを所有することに,大きな意味があるんだろうと,思う訳です。

 大きさ故の,ジャケット写真の大きさや美しさも,評価されているメリットでしょう。CDは音質が配信と同程度(それ以下)なのに,中途半端に大きく,操作もボタンを押すだけでなにも面白くない,そんな存在です。そりゃ,消えてなくなるわけです。

 これを世代交代といってあきらめていたのが,当のメーカーやエンジニア達だと思いますが,ここしばらくのアナログレコードの再燃は,音楽という「中身」だけではなく、器そのものにも十分な価値があることを,証明していると思います。

 ですが,当然のことながら,1990年代から2000年代にかけて,CDの全盛期には,アナログレコードはもう絶滅すると言われていました。アナログレコードが絶滅すると,その再生装置も絶滅します。特にアナログレコードの再生には,交換針という消耗品も供給されねばならないし,そもそもプレイヤーが精密機械ですから,製造も修理も,一度止まってしまうともう再開出来ません。

 それでも生きながらえてきたのは,やはりDJ用途で使われるようになったから,が大きいと思います。私が一番うれしいのは,カートリッジ,とりわけMMカートリッジが生き残っていることです。

 MMカートリッジは針交換が可能な,比較的リーズナブルなカートリッジです。CDが出てくる前は主流だったこのカートリッジは,金型で大量生産せねばならず,それゆえに数が出るなら安価で供給出来ますが,数が出ないならさっさと生産中止になるものです。

 一方のMCカートリッジは,職人の手作りのようなものですから,極端なことを言えば1個からでも製造できます。その代わり,高価なものになりがちです。

 この2つは,良し悪しは別として,音質にかなり異なるキャラクターがあります。同じアナログレコードでも全然違う楽しみ方が出来るのは確かで,私もMMとMCは使い分けています。

 ですから,CDが主流になれば,もうMMカートリッジは手に入らなくなると思っていました。ですが,MMカートリッジの音の傾向と,その堅牢性が,DJたちに支持されるに至り,現在でも優秀なカートリッジが入手可能です。

 DJたちは,パッケージメディアの再生装置を,音楽を創る楽器にするという革命をやってのけましたが,その結果,貴重なMMカートリッジとアナログプレイヤーが残っているわけで,彼らが支えてくれなかったら今のアナログレコードブームは,なかったんじゃないかと思います。

 さて,前置きが長くなりましたが,私もCD全盛時からアナログレコードを細々と使って来たファンの一人です。とはいえ,あくまで趣味ですし,CDを否定しているわけではないので,アナログレコードはサブの扱いであって,プレイヤーはDENONのDP-2500という中級機の中古品,カートリッジもV15typeVxMRとDL-103がメインという,極普通のものです。

 それでも,アナログレコードの音質は楽しんでいますので,今後もちゃんと持ち続けていようと思うのですが,私のような電気設計者にとってアナログレコードの再生システムというのは,あまり手を出せる部分がないというのも,また事実です。

 アナログプレイヤーというのは,前述のように精密機器で,フィードバックを用いずに,絶対精度を追い込む事で成立させている,いわば旧世代のメカです。

 CDなんかは,サーボというフィードバックをふんだんに用いることで,機械的な精度を追い込む事なしに成立させることが出来ますから,お金のかかるメカの精度を高める必要がなく,とてもラフに作る事ができますから,安く簡単にたくさん生産できます。

 このサーボは,電気回路によって構成されるものですから,CDプレイヤーの主役は,なんといっても電気回路です。これがアナログレコードのプレイヤーになると,もう電気回路の入る余地はほとんどなく,完全にメカの世界です。

 これは,当時の技術レベルの問題でもあるのでやむを得ないのですが,そんな中で電気回路が大喜びするのが,イコライザアンプの領域です。

 詳しいとは省きますが,カートリッジの微少な出力電圧を増幅し,周波数特性を補正する役割があるこのアンプは,なかなか高度な技術が必要ですし,真空管はもちろん,その後のトランジスタ,FET,ICと,デバイスの進化でどんどん性能が向上したものでもあります。

 私のイコライザアンプはK&Rというキットメーカーのキットですが,高性能なオペアンプにDCサーボをかけたもので,非常に切れ味のいい,透明感のある音を聞かせてくれます。

 このオペアンプを,交換しようというのが今回の試みです。

 オリジナルは,一世を風靡したNE5532が使われています。大量に使われたのでとても安くなりましたが,1980年代に登場した時には高価で,それでもオーディオ用のオペアンプとしてそれまでの常識を覆しました。

 それから30年。すでにオペアンプが存在しないオーディオ機器は存在しないというくらいに,オペアンプは当たり前になりましたが,それでも性能向上は続いており,高性能,高音質をねらったものが,次々に出ています。

 NE5532の音は,私は嫌いではないのですが,もっと透明な音を期待して,MUSES8820に好感することにしました。

 オペアンプマニアじゃないので,とっかえひっかえするのはそんなにやりませんが,自分なりのオペアンプの傾向は持っているつもりですが,MUSESシリーズは高価なこともあり,試したことがなかったのです。

 秋月で通販をするついでに,その中でも安価なMUSES8820を買って,イコライザアンプに組み込むことにしました。どんな音になるのか・・・

 せっかく測定器があるので,さっと1kHzでの歪みとS/N,チャンネルセパレーションくらいは測定しておこうと思ったのですが,一部交換後に悪化した値があり,首をかしげてしまいました。

 交換前後で,このキットのスペックに達していないこともわかり,ちょっとがっかりでした。といいますか,ハムが結構でています。ケーブルの引き回しと言うより,電源トランスから誘導しているようです。

 これを本気で対策するとなかなか面倒な話になるので,これは次の課題として,実際に音を出してみます。

 ・・・お,なかなかいいですね。もともと変な味付けのない,素直で綺麗な音のイコライザアンプでしたが,それに磨きがかかったような感じです。劇的に変わったという感じはないのですが,歪みが大幅に減ったと感じるのが1つ,もう1つはなんというか,5532らしい音がなくなって,非常に聞きやすくなったという感じでしょう。

 ということで,アナログプレイヤーの使用頻度は低く,レコードも積極的に聞いているわけではありませんが,それでも全く使わないと劣化が進んでしまうのが,この世界です。使用可能なコンディションを維持するために,出来るだけ関心を持つことがひつようで,それが趣味の面倒臭さでもあるのですが,僅かなお金とわずかな手間で変化が楽しめるのは,面白いと思います。

 結局の所,趣味というのは手間をかけた分だけ面白いものなので,アナログプレイヤーについては,出来るだけ「変化」を付けていこうと思います。

ScanSnapのUSBコネクタを交換

  • 2015/09/16 15:21
  • カテゴリー:make:

 ある日曜日の夕方,意を決してPDF化することにした,裁断済みの電気電子系の古い本を目の前にして,私は途方に暮れていました。

 ScanSnapが認識されないのです。

 私はScanSnapはUSBによる有線接続を使っています。WiFiは速度も遅いですし,無線ですから電波の状況で通信の品質が変わってしまいます。滅多なことはないと思いますが,あとで「実はデータが化けていました」と発覚しても,手遅れです。

 USBでと繋ぐとはいえ,私のMacBookProはUSB2.0までですから,残念ですがUSB3.0に対応したScanSnapは,オーバースペックです。そのかわり,USB2.0なら細くて曲がりやすいケーブルが使えますので,これを使っています。

 おかしいなあと思いながら,なんどかUSBケーブルを抜き差ししますが,やっぱり認識しません。もしかして,ScanSnapのUSBコネクタが基板から剥がれてしまったり,異物を噛んだりしているのではないかと,コネクタを覗き込んでみて,私は目が点になりました。

 コネクタがこわれています。中心にあるプラスチックが折れてしまっていて,ここに差し込まれていた4つの電極がぴーんと飛び出しています。

 これでは,USBケーブルを差し込んでも動かないはずです。

 そういえば,とその日の朝に掃除機をかけた際,見慣れない青色のプラスチック片がカーペットに落ちていたのを思い出しました。ははーん,これか。

 いや,以前から。いつか壊れるだろうなと思っていたのです。USB2,0のコネクタならがっちり繋がるケーブルですが,USB3.0のコネクタに差し込んだUSB2.0のケーブルは,妙にグラグラと動きます。外側で固定すると言うより,コネクタの中心にあるプラスチックで支えるような感じがして,ここに何かぶつかったら壊れるだろうなと思っていました。

 思っていたなら丁寧に扱えばいいのですが,そうしないのが私の鈍くさいところで,結局掃除機が何度もぶつかって,折れたのだと思います。

 困りました。

 今日のうちに,新たに4冊ほどスキャンしたいと思っていたのです。あいた時間でささっとスキャンできる効率の良さが,スキャン速度が高速化されたIX500の良いところなのに,壊れてしまえば話になりません。

 そこで,普段は使わないWiFiを使う事にしました。一時しのぎです。

 夕方には3冊ほど,WiFi接続で何の問題もなくスキャンできた(通信速度の遅さ故に,スキャンが終わっていてもデータ転送中になっていましたが,それは仕方がありません)のですが,夜に続きをやろうとすると,突如転送が先に進まなくなったりします。

 こうなると,ScanSnapManagerはうんともスンともいわなくなるし,これまでスキャンしたデータはぶっ飛ぶしで,作業が全然先にする見ません。

 転送が止まっているときに,ScanSnapをちょっと動かすと点灯が再開されたりするので,おそらく電波の状況が悪くて,転送速度がほとんど出ないのでしょう。やっぱりWiFiはダメだなあと思いました。

 ただ,転送されたデータを念のため全ページ確認しましたが,問題は見つかりませんでした。正しく転送できないなら,転送を止めてしまうと言う考え方なんだと思いますが,もしこれがなかったら,本当に1枚1枚目を皿のようにして確認しないといけなかったところですから,助かったです。

 さて,とりあえず急ぎのスキャンは済んだのですが,今後どうするかを考えないといけません。これはやはり,修理しないといけないだろうと思うのですが,メーカーに修理に出すというのもなんだか面白くありません。

 壊れたコネクタの交換だけの話ですから,自分で交換しちゃいましょう。

 ただ,気がかりなのは,USB3.0のBコネクタなど,ばら売りされているのをほとんど見たことがないので,手に入るのかどうかです。

 そもそも,MicroUSBや,typeCコネクタが話題になっている昨今,Aコネクタならまだしも,Bコネクタなど完成品に搭載されているケースも少ないのに,コネクタだけ売っているところがあるのかどうか,不安でした。

 その不安は的中し,私が知るパーツ屋さんで,売っていたのは千石電商だけでした。しかも467円。高い!送料もいれれば1000円近いです。うーん。

 しかし,秋月も共立もマルツも若松も売っていません。千石のサイトを見ても写真が出ていないので,どんなものか不安がありつつ,仕方がないので注文しました。

 もう1つの手としては,もうUSB2.0専用と割り切って,入手の容易なUSB2,0のBコネクタを付けてしまうことです。

 さっとScanSnapを分解し,基板を取り出し,壊れたコネクタを基板から取り外してみます。

 そしてなぜか手元に転がっている新品のBコネクタを基板に差し込んで見ると,問題なく取り付け可能です。このままハンダ付けしてしまいたい衝動にかられます。

 しかし,いずれMacBookも買い直すだろうし,そうなるとUSB3.0に対応することになるでしょう。USB2.0では,スキャン速度よりも転送速度の方が遅い場合があるにはあって,紙は全部排出されているのに,データは転送中ということがしばしば起こっていますから,USB3.0になるならそれが望ましいわけです。

 そうこうしている間に千石からコネクタが届きました。あれこれ考えましたが,とりあえずそのまま使えそうなものだったので,基板にハンダ付けし,元のように組み立て直して,完成です。

 今回は光学ブロックを触っていませんので,面倒な調整もなく,ただ元に戻すだけです。

 この状態で,とりあえずUSB3.0での動作テストをしますが,問題なし。修理に出すともっとかかると思いますが,それでも送料込みで1000円近くかかってしまって,まあなんと馬鹿な話かと思います。

 USB3,0のカードも安定動作をしてきたし,せっかくだからScanSnapもUSB3.0で常用することにしましょうか。

 ところで余談ですが,本当にUSB3.0のBコネクタが千石からしか買えないのかと,google先生に聞いてみました。すると,10個で1296円というお店が見つかりました。1つ130円ですから,まあそんなもんかな,という値段です。ここに送料もかかりますから,2000円ほどかかってしまうと思いますが,単価は確かに安いです。

 千石のものは,ちゃんとコネクタが青色なのですが,この安いものは黒色のようです。ここにこだわらないなら,お買い得だったかも知れません。


 

MSG2170をめぐるすっきりしない結論

  • 2015/08/31 15:40
  • カテゴリー:make:

 MSG2170ですが,注文したクリックなしのロータリーエンコーダが届きましたので,早速取り付けてみました。

 作業そのものはとても簡単で,動作を確認すると一応動いているようです。これで1周48パルスという高分解能なロータリーエンコーダとして動作します。

 問題がないわけではなく,まずA相とB相のパルスが立ち上がる(下がる)タイミングが等しくない(と思われる)ため,偶数から奇数への変化角度と,奇数から偶数への変化角度が異なります。

 気にならないと言えば気になりませんが,ロータリーエンコーダだけで微調整を行うようなシーンでは,数字の変化にムラがあるように見えますから,やりにくいです。

 しかし,もう面倒ですからこのままとします。48パルス/1周ですから,ざっと大まかな調整に使うつまみで,微調整はキーで行うということにしないといけませんから,割り切ります。というか,これにそこまで時間を使えません。

 先にハンドソープでしっかり洗浄したフレームでパネルをしっかり固定し,ゴム足などを組み付けた筐体の上下のフタを取り付けて,一応完成です。

 早速,ステレオモジュレータの調整をして,その素性を見てみましょう。

 FMステレオの方式をここでくどくど述べませんが,パイロット信号の位相がきちんとあっていないと,セパレーションが悪化します。そこで,ステレオモジュレータでは必ず位相合わせの作法があります。

 MSDG2170では,オシロスコープをX-Yモードにしておき,X入力に背面のPILOT OUTを,Y入力に正面のOUTPUTを繋ぎます。

 そして説明書にあるように,まずはパイロット信号だけを出力して,オシロスコープに出てきた楕円が,左上から右下に向かう斜めの一直線になるように,SCOPE PHASINGという背面のツマミを回します。

 次に,L-R(SUB)信号を出力してやると,蝶が羽を広げたような絵が出てきますので,これが二重にならず,また中央部が菱形ではなく点になるように,PILOT PHASEを回します。

 作業を一通り進めてみましたが,幸いなことにSCOPE PHASINGも綺麗に一直線になりましたし,その後のPILOT PHASEも,菱形が点になるくらいに追い込めました。

 実は,これまで使っていたVP-7635Aでは,こんな風に綺麗にならなかったのです。最初のSCOPE PHASINGはそれなりに出来たのですが,肝心のPILOT PHASEが全然ダメで,菱形が点になりません。つまり,パイロット信号と出力信号の位相差が小さく出来ないということで,最終的にチャンネルセパレーションの悪化に繋がっていたはずです。

 VP-7635Aでも55dB程のセパレーションが測定出来ているので,ここからさらに追い込めたMSG2170は,これ以上の性能を持っているはずだと,私はワクワクしました。

 さて,一度電源を切り,VP-7635Aを入れ替えます。VP-7635Aはすべての操作がボタンで行え,マイコンを内蔵していないので,1つのボタンに複数機能の割り当てがあるケースはほんの僅かです。

 これはこれでとても楽ちんで,気に入っていたのですが,基本性能に疑問符がついていることもあるし,せっかくMSG2170を割高な価格で手に入れたのですから,ここはVP-7635Aに引退して頂く事にしましょう。

 接続はとても簡単です。MSG2170のOUTPUTをVP-8191Aの外部入力に繋ぐだけです。
 

 設定は,MSG2170が本来DARCエンコーダですので,なかなか項目も多く面倒です。しかも,VP-7635Aと違ってマイコン制御(68000で制御しています)ですから,階層化されていて使いにくく,多機能化によって増えた設定項目を整理するためとはいえ,私はあまり歓迎できません。

 私は,DARCエンコーダとしての機能は使いませんので,L-MSKに関する設定はすべてOFFか無視です。大事なのはMAINメニューとSTEREOメニューです。

 STEREOメニューでは,出力を90%,パイロット信号を10%にします。これ,人によっては出力を100%にするようなのですが,出力とパイロット信号の合計が100%になるように設定しないといけません。パイロット信号は10%と決まっていますので,出力は90%にすることになります。

 DARCエンコーダとして使う場合には,L-MSKが10%ですので,パイロット10%とあわせると20%,よって出力は80%に設定します。

 MAINメニューで大事なところは,出力レベルです。VP-8191Aの外部入力は,変調度が100%になるようなレベルで突っ込んで上げる必要があります。誤差は±2%ということですが,この範囲が直感的に分かるように,OVERとUNDERのLEDが装備されており,この2つが消えている状態になるよう,MSG2170の出力レベルを調整します。

 私の場合,出力信号をMAIN(L+Rですね)で6.5Vp-pに設定するとうまくいきました。

 この状態でVP-8191Aを83MHz,75kHz変調,出力90dBにしてKT-1100Dに繋ぐと,ちゃんとステレオ受信しています。とりあえずMSG2170は動いているようです。

 ここで,KT-1100Dの調整をやり直します。全開は真夏のクソ熱いときにやりましたので,涼しい時にやる方が気分がいいです。

 フロントエンドは概ね全体の調整から動いてません。DCC基板も問題なさそうでしたが,ミスでVRを触ってしまい,調整をやり直す羽目になりました。

 そして,注目のMPXの調整です。

 ・・・うーん。

 どうも期待外れです。セパレーションを調整しても,54dBくらいで頭打ちになるんです。おかしい。だってVP-7635Aでもこのくらいの数字で,VP-7635Aよりも位相が揃っているはずのMSG2170が,同じ程度問いのは腑に落ちません。

 もしかするとKT-1100Dが54dB程度だということでしょうか。いや,KT-1100Dは,うまく調整すると70dBのセパレーションをたたき出すはずです。せめて60dBくらいになってくれないと・・・

 ということで,あわててF-757を持ってきました。こいつはVP-7635Aでも58dBくらいの測定値が得られています。MSG2170ではどうだったかというと,ほとんど同じ値,58dBでした。

 ここから得られる結論は,KT-1100Dのチャンネルセパレーションは54dBしかないということ,VP-7635Aは60dB近いセパレーションを持っていたこと,MSG2170は少なくともVP-7635Aと同じ程度の力があるということ,です。

 あー,もったいない。じゃVP-7635Aのままでよかったじゃないか。

 それにしても,KT-1100Dですよ。いきなり測定もしないで部品を交換しまくったので,最初からどこか壊れていたのかも知れませんし,間違った部品に交換されたものもあったかも知れません,元に戻そうにも,古い部品は捨ててしまったし,回路図もありません。お手上げです。

 まあ,そんなことを言っていても仕方がありません。出来るだけいい数字に調整して終わりにしましょう。で,調整した結果が,以下です。

  WIDE
歪率 MONO:0.0165% L:0.126% R:0.129%
セパレーション L->R:54.78dB R->L:54.12dB
S/N MONO:73.1dB L:64.7dB R:64.7dB

 NARROW
歪率 MONO:0.033% L:0.134% R:0.136%
セパレーション L->R:52.2dB R->L:50.5dB
S/N MONO:73.6dB L:64.6dB R:64.6dB

 参考までに,全開の測定値が以下です。

  WIDE
歪率 MONO:0.025% L:0.12% R:0.12%
セパレーション L->R:53.7dB R->L:53.6dB
S/N MONO:72dB L:63.2dB R:63.2dB
キャリアリーク 67.3dB

 NARROW
歪率 MONO:0.035% L:0.12% R:0.12%
セパレーション L->R:50.2dB R->L:50.3dB
S/N MONO:72dB L:63.2dB R:63.2dB


 なんかあれですね,モノラル時の歪率が0.016%と大幅に改善したことと,S/Nが全体的に1dB程改善している以外は,すべて悪化しています。悪化といってもほとんど誤差のようなものでしょうから,要するにMSG2170で調整しても,KT-1100Dの実力は変わらなかったということになります。

 なんかがっかりです。

 がっかりしながら,KT-1100Dのフタを閉じて,電源を入れて様子を見ることにしました。かなりの発熱があり,機内温度が上昇することが分かっていたからです。

 1時間ほどしてから,セパレーションをもう一度測定してみると,なんと33dB。20dB近くも悪化しているではありませんか。出力に電圧計を繋いで,出力の出ていない方のチャネルの出力を見ていると,54dBのセパレーションが出ているときの出力が1.4mV程度(20*log(1.4/665)=53.5dB)なのに,今はその10倍ほど出ています。(20*log(14/665)=33.5dB)

 あわててフタを開けてみると,すーっと出力電圧が下がっていきます。1.4mVに下がるには時間がかかりますが,どんどんセパレーションの値も改善していきます。

 フタを閉じれば,またどんどん悪化していきます。いやはや,こんなに温度変化があるものなんですか?

 いくらなんでもこれはひどいということで,あちこち部品を触っていたら,C100(だと思う)の1uF-50Vの電解コンデンサを指で触ると,セパレーションが急激に悪くなることを発見しました。

 そこで,このコンデンサを同じ1uFのフィルムに交換しますが,指で触って変化することはなくなっても,温度による変動は相変わらずです。

 こうなったら,十分内部を暖めて,この状態で調整をするしかないと考えたのですが,なにせフタを開けるとすぐに温度が下がってしまうので。何度か繰り返してようやく,2時間放置しても54dB程度になるように調整出来ました。

 しかし,これでは,セパレーションが最良点になるまでに1時間以上かかってしまう上,電源投入時には30dB程度とラジカセ並みになってしまうのが大問題です。それに,なんどか試していると,40dBくらいでとまってしまい,そこから下がっていかないこともありました。

 さらに,筐体をポンポンと叩くと,セパレーションが悪化します。叩いた衝撃で無音のチャンネルになにか信号が出てくるようです。

 コイルの振動ならやむを得ないかと思ったのですが,検波基板についているC19という電解コンデンサを指で弾くと出てくることが判明。しかし,これを対策するわけにもいかず,とりあえずこのままです。

 また,値が下がらないときにDCC基板の裏側を触ると下がったこともありました。

 いずれにせよ,故障していると考えた方がいいのかも知れません。
 
 うーん,どうしたものか。すっきりしない結論になり,私もなんだか消化不良で気持ち悪いです。


 

結局FE103Enに交換した

  • 2015/08/26 12:58
  • カテゴリー:make:

 ということで,捨てるにはあまりに惜しい出来となった,ステレオ誌別冊ムックの付録,バックロードホーンのエンクロージャキット。どうしたものかと考えていたのですが,ここはやっぱり毒を食らわば皿までと,FE103Enを買うことにしました。

 土曜日の午前中に注文,日曜日の昼過ぎには届きました。もはや自分で買い物に行くのが,バカバカしくなってしまいます。お値段は約5300円だったと思います。

 かくいう私,フォステクスが好きな割には,フォステクスのユニットを買うのは始めてです。先日書きましたが,なにせ木工が下手で,エンクロージャをわざわざ作っても,残念な結果にしかならないことがわかっていますから,ユニットだけ買っても仕方がないことを,痛いほど知っています。

 普通,大人になると賢くなるものですが,私の場合,若い頃の方が賢かったようです・・・


 そんなこんなで,手元に届いたFE103Enは,しっかり重たく,クリーム色のコーンが実にさわやかで,とてもいい音がしそうです。

 もうすぐ4歳になる娘に「スピーカー一緒に作るか」と声をかけると,ぴょんぴょん走り回って,作る作ると大喜びです。黄色が良かったけど茶色の絵の具しかなかったんでしょ?次は黄色にしようねと,先日色塗りをしたときの会話を覚えています。

 リビングにP1000を取り付け済みのエンクロージャを2つと,箱に入ったままのFE103Enを持ってきます。あとはプラスドライバーです。新聞を広げて,エンクロージャを置いて作業開始です。

 娘は興味深そうに,私のやっていることを見ています。エンクロージャは出来上がっていますから,「作る」といっても,交換作業だけです。

 4つのネジを外します。しかしP1000はニスのせいでくっついていて,外れません。娘に「ありゃ~」と言いながら外れないと言うと,娘もおどけて,困ったようなリアクションを真似しています。面白いですねえ。

 四苦八苦していると,ピリ,という音がして,ユニットが緩みました。これで外れそうです。娘も大げさに喜んでいます。でも,P1000のフレームの跡が残っています。

 ユニットを外して,配線を外す作業を,娘も注意深く見ています。不思議とやりたいとは言い出しません。ようやくエンクロージャを分離したP1000を床に置きましたが,娘が持ちたいというのでいいよというと,右手でがしっと掴んでいます。

 ああああああー,エッジに親指がーーーー!

 それはこうやって持ってよ,と教えると,教えたとおりに持ってくれます。重たいでしょうというと,余計に頑張って持ち上げようとします。

 そして外したビスを,スピーカーのマグネットのくっつけて「おもろいでしょ」というと,目をきらきらさせて「やりたい」と言い出しました。ちょっと遊んでもらいました。

 危ないからこっちに貸して,片付けるから,というと,あっさりとスピーカーを渡してくれました。
 
 次はFE103Enの取付です。マグネット径が大きくなっているので取り付けにくかったのですが,無事にケーブルを取り付けて位置決めをし,新しいビスで締め付けます。残念ながら,P1000のフレームの形状とFE103Enの形状が異なるため,P1000のフレームの跡はFE103Enでは隠れませんでした。

 ビス留めをします。今回はワッシャも入っていましたが,娘はこのワッシャに興味があるようで「これはなに」と聞いてきます。

 私はウソをつくのが嫌ですし,適当にごまかすのも嫌なので,これはワッシャというのだとと言いました。そしてビスに通して使うのだと,偉そうに説明をしました。

 なんとか1つ目が完成し,次は2つ目です。

 2つ目は簡単に外れて,交換もスムーズです。位置決めもさくっと進みました。娘は私の作業を見たり,ネジとワッシャで遊んでいます。

 ここで,参加意識を持ってもらう作戦に出ます。「じゃ,ネジにワッシャを通して渡してよ」とお願いすると,わかったと,目を輝かせて通したものを,手渡ししてくれます。

 ばっちりばっちりとお礼を言って,これをぎゅぎゅっと回してユニットを固定していきます。結局2本ほどしか用意してもらえなかったんですが,それでも「完成したよ」というと,わーいと一緒に喜んでくれました。

 じゃ早速音を出すか,とリビングのCM1をどけて,このスピーカーにつなぎ替えます。CM1に比べて小振りで,威圧感が少ないですし,色もCM1に比べて濃いので,リビングがスッキリします。むき出しのFE103Enも綺麗ですし,見た目はこっちの方が楽しいですね。

 そして音を出します。

 うーん,確かにP1000に比べれば,高音もスッキリ出ますし,ボーカルの定位もよいです。アンプのと相性は良さそうで,無難になっているのは分かるのですが,どうも,低音が不足していて,CM1に比べるまでもなく,今ひとつだとわかります。

 しかし,ならしていくうちに,なんだかとても心地よくなってきました。CM1はとてもストレートなモニタースピーカーですから,情報量も多く,誇張がありません。

 ですから,いい音だなと思う反面で,結構疲れるというのと,やっぱりアンプの性能差がよく出てきてしまうんだなと思いました。

 このFE103Enバックロードホーンは,CM1よりも帯域が狭く,まあラジカセに毛が生えた程度な感じがしますが,1時間ほど慣らしていくと元気で明るく,さわやかな音になってきたように思います。耳が慣れたんでしょうね。

 情報量は確かに少ないのですが,各々の楽器の定位はしっかりしているし,動きません。ボーカルには奥行きもツヤもありますし,派手さはないけどとても溌剌としてて,とても好ましいです。

 なんといっても聴き疲れしません。いつまでも聞いていたいという気持ちがするのと,アンプの悪いところがウソのように見えなくなります。まあ,それだけ情報量が少ないということでしょうが・・・

 バックロードホーンらしい音になっているのかといえばそうではないと思いますし,FE103Enの本当の能力を発揮できているかといえば,全然そんなことはないでしょう。でも,リビングにはこんな感じの音がふさわしいんだなあと,気が付きました。CM1で聞いていたら,やっぱり楽しくないのですよ,リビングでは。

 お,娘も踊りまくっています。楽しそうです。夕食を作っている嫁さんの所に走って行って,自分が作った事をアピールしています。

 てなわけで,うちのリビングは,CM1からFE103Enバックロードホーンに変わりました。小型でスケール感もありませんが,リビングにはぴったりです。昨日特に好印象だったのは,カーペンタースであったことを,書いておこうと思います。

 もし,私が中学生くらいで,この音を手に入れていたら,きっとその後のオーディオとの向き合い方は変わっていたんじゃないかと思います。お金をかけることだけがすべてではないし,お金をかけなくても,これだけの音が手に入ったんだろうと思いますが,そうした出会いも運だったというのも,また認めざるを得ません。

 思えば,私が使っていたオンキョーのS-4000というスピーカーも,大きいだけで今ひとつなスピーカーでした。それでも頑張って慣らしていたのですが,定位も悪く,レンジも狭く,大きさから来る安定感だけが取り柄だったように思います。

 私が始めて手に入れたHiFiスピーカーがこれでしたから,これがいいものか悪いものかは,わかりません。しかし,FE103Enを聞いてみれば,明らかににFE103Enの方がいいとわかります。

 ああ,苦手でも,FEシリーズで自作を1回やっておくべきだった・・・

 さて,そうするとCM1をどうするか,です。これはやっぱり元の検討部屋に戻すべきでしょう。そうすると,PE101をどうするかという問題が出ますが,まあそれはおいおい考えましょう。

 CM1はならしにくい,CM1はモニターだ,CM1は楽しくない,という意見に対して,認めた上で「それがどうした」と居直っていた私でしたが,ようやくにしてその意味が分かった気がします。

 

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