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MZK-MF150の回収騒ぎ

 先日,テレビを無線LANに繋ぐために購入したプラネックスのMZK-MF150ですが,4月の末にリコールがかかっていました。知りませんでした。

 小型のモバイルルータとしても人気の機種ですが,実のところ単純なメディアコンバータとしてもとても安い製品であり,私は4月中頃にamazonで約3000円で買いました。

 もう1つ無線LANに繋ぎたいものがあったので2つ目を買おうと本日探してみると,amazonにはなぜか在庫がありません。おかしいなあ,終息品で処分価格が出てたのかなあと思ってさらに調べてみると,なんとまあ回収騒ぎになっているではありませんか。

 ユーザー登録もしてあるので,こういうのは連絡が欲しいところですが,偶然とはいえ回収しているというのですから,これはもう聞き捨てなりません。もう少し調べて見ると,あるユーザーが分解して,電源ラインに入っている電解コンデンサの極性が逆になっていることを発見し,メーカーに報告していたようです。

 電解コンデンサの逆接続ですので,最悪の場合電解コンデンサが破裂します。アルミ電解コンデンサで良かったですね,これがもしタンタルコンデンサだったら,発煙発火間違いなしでした。

 とはいえ,もしもアルミ電解コンデンサが破裂すると,パン,と言う派手な音と煙,そして得も言われぬ悪臭が襲いかかります。また,破壊に至らずとも逆接続された電解コンデンサは,電解コンデンサとしては正しく機能せず,所定の静電容量を持つ部品として動いてくれません。電源ラインに入っているということですから,電源のインピーダンスを下げる役割は期待できず,結果として電源の質が低下して,安定した動作をしなくなるでしょう。

 うちは24時間繋ぎっぱなしにしているので,発煙発火が怖いです。賃貸ですから,ボヤなど出されてしまってはたまったものではありません。社会的に抹殺されます。

 もう1つ買えなかったことのがっかり感に加えて,リコールの手続きが面倒という事でなんだかとても嫌な気分なのですが,とりあえずプラネックスのサイトからフォームを使って連絡です。保証書をスキャンしたPDFからシリアルナンバーを調べて送ると,10分ほどしてメールに返事が来ました。早い対応におどろきましたが,内容はやはりリコール対象であるとのこと。

 手順としては,対策済みのMZK-MF150の本体のみが送られて来るので,交換対象の本体を添付されている着払い伝票で送り返す,のだそうです。こちらとしては使用できない時間がゼロになるという,ありがたい対応です。

 ただ,気になるのは,電源ラインに入った部品の極性の問題だというのに,現在問題がなければ使い続けても結構だ,と言う点です。規定よりも短い時間で壊れてしまうような設計が行われており,しかも壊れるときに事故が起こる可能性がある今回の場合,特に電源というエネルギーの大きな部分での事故は被害も大きくなる傾向があるだけに,即刻使用を中止するというアナウンスが適当ではなかったかと思います。

 幸い,実際の事故が起こっているわけではないようですが,逆接続した電解コンデンサの劣化が進んでいるのは疑いようがありませんし,煙が出たり動かなくなってしまうという問題の可能性をゼロに出来ない以上は,やはり慎重になるべきかなと思う訳です。

 とりあえず週末に受け取ることが出来れば早く片付いていいのですが,どんなもんでしょうね。

 プラネックスはあまり良い評判を聞かないメーカーではあるのですが,どういうわけだか私はここで失敗したことがなく,安い上に結構信用していたりします。私としては,3000円程度で買えるメディアコンバータの供給元として,早くMZK-MF150の販売が再開されることを願っています。

 うーん,でも,今回の回収騒ぎで,この製品で稼いだ利益など吹っ飛んだと思われるので,このまま対策して販売を再開するくらいなら,さっさとディスコンにして後継品を5000円くらいで売り始めた方が得ですわね。ということは,もう3000円でメディアコンバータが買えるチャンスは当分ない,ということになりますか・・・どうするかなあ,もう1つ買っておけば良かったかなあ。

Die Young

 書かずにはいられないので少しだけ書くことにしました。

 ヘビーメタルを代表するヴォーカリスト,ロニー・ジェイムス・ディオ(Ronnie James Dio)さんが,現地時間の5月16日午前7時45分に亡くなりました。67歳でした。

 昨年11月には胃がんであることを公表していたわけですが,結局病魔には勝てなかったということでしょうか。

 昨日,Twitterで死亡説がだーっと流れ,これをマネージャーでもある奥さんが即座に否定,一度は沈静化した話が今日になって本当だったということになり,私もHeaven and Hellな気分です。

 67歳を若いというのも無理がありますが,彼の場合は衰えを知らず,小さな体から飛び出すハイトーンと声量は健在でした。

 そのヴォーカリストとしての能力はもちろんですが,中世をテーマにした世界観はその様式美でうるさいだけのヘビーメタルに一定の流れを作ったと感じます。

 過激な歌詞やステージ上のパフォーマンスに,なにやら暴力的,あるいは気味の悪さを感じることもあるわけですが,本人さんは至って普通の気のいいオッサンで,ファンを大切にし,メンバーを尊敬し,あれだけの大スターでありながら低い目線で常に生き続けた,人徳の人でもあります。

 特に,映画「メタル ヘッドバンガーズ・ジャーニー」でのインタビューは,およそヘビーメタル界の大御所という風格以上に,慈愛に満ちた一人の男として,彼の人となりをよく示していると思います。私は彼をこの映画のインタビューで2度好きになりました。

 私ごときがごちゃごちゃ書くのも憚られるのでこのくらいにしておきますが,ロッカーとしてだけではなく,虚勢を張らず,素直に優しく生きた人として,彼に憧れ,その死に哀悼の意を表すものです。R.I.P

ゴミと商品の境界面

 さて,引っ越しを目前に控えて,持ち物を減らそうと言うことはまず真っ先に考えることです。

 私の場合,特にものが多いですから,捨てる,持っていくの判別をシビアにしないと,引っ越しも大変なら新生活も代わり映えのないつまらないものになってしまいます。

 ところが昨今,ものを捨てるにもお金がかかる世の中です。当たり前のことなのですが,この際だから捨てようか,と言う程度のものの場合は思いとどまってしまうこともしばしばです。

 ところが,以前通販で家電品を買ったある業者のメールマガジンを見ていると,この業者が買い取りまでやっていると目に付きました。

 今時家電品の買い取りなど珍しくともなんともないのですが,買い取りリストがあるというのでちょっと覗いてみたところ,私の処分したいと思っていた古いものでもリストにばっちりのっています。

 例えば,PanasonicのDMR-HS2。DIGAなどと呼ばれる前の製品で,HDD/DVDレコーダとしては第二世代目にあたる骨董品です。HDDはわずか40GB。DVD-Rへのダビングも実時間がかかる上,番組表も取得できないのでタイトルはリモコンで全部手で打ち込む必要があり,言うまでもなくアナログチューナーしか搭載しないものです。今これが動いているのは世界中に何台あるのだろうかと思うほどです。

 実際,私は地デジに移行してからはPCベースで視聴と録画を行っていて,テレビは単体では持っていません。毎日の9時のニュースを毎日上書き録画して使う用途だけに使っていました。

 そうした使い方のDMR-HS2も,2011年のアナログ放送終了時点で,本当にゴミになります。ドライブも弱ってきていますし,なにより40GBしかないHDDが致命的で,唯一の個性であるDVD-RAMについても,こんな遅くて面倒臭いメディアを誰が使うのか,と思うと,もうこれが捨てる時期に来ているのは明白です。

 箱無し,傷ありで見積もりを取ると,なんと2000円になるといいます。粗大ゴミとして500円払って処分することを考えると,破格のお話です。

 このお店は,3点以上だと業者が取りに来てくれます。そこで値段が付かないことも考慮に入れて,以下の4つを最終的に買い取ってもらうことにしました。

・DMR-HS2(HDD/DVDレコーダ)
  箱無し,傷あり  2000円
・Playstation2(SCPH-15000)
  箱無し  500円
・PDV-20(ポータブルDVDプレイヤー)
  箱無し  500円
・HT-KT215(5.1chシステム)
  箱無し,傷あり  1500円

 まあ,安いんだか高いんだかよくわからん値段が出てきましたが,ポータブルDVDプレイヤーを除いて,それぞれ処分は面倒なものばかりです。ただでもいいや,くらいの気持ちで買い取りをお願いします。

 土曜日に佐川急便の態度の悪い兄ちゃんが取りに来て,4品目を2箱にまとめた状態をみて,1つしか持って返らないと訳の分からんことをほざきます。

 先方に確認してくれというと,怒って伝票を投げつけ,乱暴に2箱抱えて出て行きました。頭に来たので業者に電話しますが,土日はお休み。なんかばからしくなって,ほっときました。あるいは佐川に電話することも考えましたが,あと少しで引っ越しですから,もうほっときゃいいです。

 1週間近く経ってメールで連絡がありました。最終見積もりの結果です。

・DMR-HS2  1500円
  音声/映像ケーブル欠品,リモコンの電池欠品

・Playstation2  300円
  ユーティリティディスク欠品

・HT-KT215  1000円
  説明書汚れ,ネジ欠品,スピーカーパッド欠品

・PDV-20  500円

 合計3300円です。いやー,手間賃ですね,これは。しかもここから振り込み手数料を差し引くと言うんですから,参りました。

 ざっとみて,ほとんど言いがかりだよなあと思うものもあります。DMR-HS2のケーブルは確かに私は入れた覚えがあります。アンテナケーブルと一緒に縛ったので,アンテナケーブルが欠品してないなら,映像/音声ケーブルも欠品になるはずありません。

 それに,リモコンの電池欠品って・・・腐った電池でも入れて置けばよかった。この2つで500円も値下がりするって,どういう計算だ?

 プレステ2のユーティリティディスクは仕方がありません。これがないとDVDプレイヤーとして機能しませんし,実は引っ越しの片付けの初期段階で,ディスクをさっさと捨ててしまったので,あきらめましょう。PS2は最近よくゴミ捨て場で見ますが,あんなものでも拾い集めれば,昼飯代くらいにはなるかも知れないです。

 5.1chのアンプとスピーカーのセットHT-K215ですが,ネジは仕方がないとして,スピーカーパッドってのは要するにスピーカーに貼り付けるゴム足です。そんなもん,消耗品ですからね,それに説明書汚れってなんだ???

 そしてPDV-20です。これは最初,アンテナケーブルと車載用アダプタが欠品していると言われて,300円と見積もられました。ところが,アンテナケーブルが付属するのはPDV-20ではなく,液晶付きのPDV-LC20TVだけです。車載用アダプタについては両機種ともオプションです。説明書が共通なんですよね,やるんじゃないかと思っていたミスを,見事にやらかしてます。

 早速「おかしい」と連絡して,すぐに訂正,500円になりました。200円くらい別にかまわないと思ったのですが,こっちが時間をかけて付属品などをかき集めて,それでわずか300円とはなめてると思ったので,きちんとさせて頂きました。

 この最終見積もりでいいですよ,と翌週の土曜日にメールをしたのですが,次の火曜日に最終見積もりが再送されてきました。いい加減な業者だな,まったく。

 それでもう一度この見積もりでいいですよ,とメールしたら,すぐに3132円が振り込まれていました。

 今回3000円で処分した品々は,今使っているものではありませんから,ただちに生活が変化するものでもなく,いざ処分しようとすると同じくらいの金額がかかってしまうものなので,悪い話ではなかったかなあと思います。欲を言えば,4500円くらいになってくれると,ちょっとしたお小遣いになったかなあと思うのですが,贅沢は言いません。

 ただ,配送業者に1回,見積もりで1回,振り込みで1回,大丈夫かそれで・・・と思うようなことがあったので,こういうところに個人情報を送ることが安全なのか,甚だ疑問です。

 ゴミ同然のものを真面目に査定して買い取ってくれたという結論は変わらず,こういう所も案外珍しいのかも知れませんが,おそらく私はここは二度と使わないと思いますし,新品の購入もここではもうしないと思います。

さようならラジオ技術

 ラジオ技術,と言う自作オーディオの専門誌があります。1950年代に創刊された歴史のある雑誌ですが,戦後の産業の代表であるエレクトロニクスの発展を色濃く映してきた雑誌です。

 当時の最先端技術であるラジオの回路技術や自作,修理についての情報は需要も多く,それらを扱う専門雑誌はいくつもあったのですが,ラジオの時代が終わり,テレビからオーディオ,コンピュータへとエレクトロニクスの主役が移っていくに従い,子供向けに軸足を移すもの,コンピュータやディジタル技術に追随するもの,そしてマニア向けのピュアオーディオに特化するものと,分化していきました。

 結果として,ピュアオーディオに特化した趣味性の強いラジオ技術と無線と実験が生き残っているわけですが,そのラジオ技術も現在出ている2010年2月号で1つの節目を迎えることになったようです。

 2006年あたりから,店頭売りをやめ直販のみにするという方針を告知,長く読者に予約を募っていたのですが,とうとう来月号から切り替わることになりました。

 2008年頃から,「切り替えられるだけ十分な予約が集まっていない」という理由で,何度も予定を変更して直販への切り替えを延期してきたので,もうこのまま切り替えなどないのではないか,もしかすると切り替えることなく休刊するのではないかと心配をしていたのですが,いつもの本屋さんに立ち寄ると,来月から切り替わるという案内が出ていました。

 店頭販売分の最終号は,私にとっての最終号と同じ意味を持ち,内容の如何にかかわらず買うことにしていましたので,さっと手に取りレジへ向かいました。

 ラジオ技術は,80年代にはマニアックすぎてさっぱり理解出来ず,また面白いとも思えませんでしたが,90年代に入ってからは,大変面白く読んでいました。

 無線と実験と双璧をなし,間違いなく日本の自作派を支え,その先端を切り開いてブームを作り上げた立役者だったと思います。

 例えばロシア製真空管6C33C-B,例えば中国製の50CA10,例えばCS8412,例えば2ndPLLと富士通のバリメガモジュール,てな具合に,その時々の自作派が,メーカー製のオーディオ機器に対抗するための創意工夫を総動員した時期の,まさに発表の場であり,流行の発信地であったように思います。

 また,黒田先生のトランジスタアンプ設計法は今なおディスクリートアナログ回路のお手本となっていますし,海老沢先生のカートリッジの話は資料としても一級品です。これらもラジオ技術と言う雑誌の大きな功績でしょう。

 メーカー製の製品の解析を行ってみたり,まだまだ取り扱いの少なかった海外の高級オーディオ機器の紹介を行うなど,多様化するオーディオという趣味に1つの提案を行った点も,評価されるべき点です。

 さらに,トーンアームやスピーカユニットから自作するようなチャレンジ精神あふれる記事が度々出ていたことも印象的で,高価な海外製機材を美しい写真と提灯記事で紹介するだけの,カタログ以下のオーディオ雑誌を鼻で笑うかのような誌面には,居心地の良ささえありました。

 残念な事に,ここ数年はそうしたアグレッシブな記事も少なくなり,読者と執筆者双方の高齢化が進んだことを思い知らされます。近年の真空管アンプブームやアナログレコードの復権,団塊世代のリタイヤなど追い風になる要素は多くあり,無線と実験がそれなりの鮮度を保っていることに比べると,この辺でもう勝負あったかな,という気もします。

 手元にある2010年2月号を見てみると,大手オーディオメーカーの広告は,アキュフェーズ,オーディオテクニカ,マランツのわずかに3つ。広告収入を柱として運営する雑誌という形態がすでに破綻していることは明確で,よくこの満身創痍の中で店頭売りが出来るものだと感心します。

 2年の購読をすると,1冊1000円になります。1冊の価格が1500円ですので随分安くなりますし,出版側としては2年分の前払いを手にすることが出来るわけで,資金的にも楽になることでしょう。(後になるほどきつくなるのですが)

 直販に切り替えるという事は,実際に売れる数が少ないにもかかわらず,流通にのせて本屋さんに並べるため,売れないことが分かっていてもそれなりの数量を印刷せねばならないという最悪の状況に終止符が打てることを意味します。

 本屋さんにおいてもらっても,売れなければ返品されますし,返品されればバックナンバーとして保管されるか,大多数は廃棄されます。出版とは倉庫業だ,という人がいるくらい,在庫という問題が重いのです。

 ラジオ技術の場合,1991年からのバックナンバーが手に入るそうです。いくらなんでも月刊誌で20年近くも前の雑誌が手に入るというのは,ちょっと異常です。

 予約販売に切り替えて,お店に並べない事にすれば,まずたくさんの量を印刷しなくても,予約されている分だけ用意すればいいことになります。返本のリスクもありませんので,在庫も持たずに済み,廃棄もしなくて済みます。

 しかし,多くの人の目に触れなくなりますので,広告収入は地に落ちるでしょうし,新規の読者を開拓できません。読者の中心が高齢者であるラジオ技術の場合,読者数は今後減ることはあっても,増える事はもうないでしょう。

 さらに,定期購読で安定した数が確保出来るなら,内容については今以上に無頓着になる可能性も否定できません。かつて,これらの自作雑誌は新しい回路が発表され,フォロワーが生まれ,1つの潮流となったものですが,そういう流れはもう期待できないかも知れません。

 私自身は,とりわけ最近のラジオ技術に対して,読むべき所は1つもないと思っています。当然予約はしません。細かくは書きませんが参考にも資料にもならない内容に1500円の価値はないと,その凋落ぶりには目を覆うばかりです。


 さて,今,私の左側には,日経エレクトロニクス,ラジオ技術,トランジスタ技術の3つを重ねて置いてあります。3冊の雑誌が,やせこけてしまったことに,改めてはっとさせられました。

 従来通りの雑誌という形態では難しい事であっても,新しい方法でその役割を果たせないものかと,雑誌社も模索をしていると思いますが,購読者が受益者として直接その費用を負担する仕組みによってでも,なんとか存続してくれればと思います。


 ラジオ技術社がインプレスグループの一員となり,由緒ある社名をインプレスで始まるカタカナの名前にした段階で,もう一区切り付いていたのかも知れませんが,私にとっては,本屋さんで中身を見てから買うという買い方の出来なくなった今が,お別れの時期だと思っています。

 もちろん,雑誌そのものは存続しているし,ファンもいれば執筆者の先生も創意工夫を懲らした工作を紹介されることと思いますが,私としてはここでお礼を言っておきたいと思います。

 長い間,ありがとうございました。ラジオ技術は,私にとってお手本でした。

その無念さたるや

 あまり詳細を書いてしまうと特定されてしまうので適当にぼかして書くしかないのですが,年明け早々,悲しい知らせを受けました。

 私が学生の時に3年半ほど働いていた日本橋のパソコンショップで,事務を担当してくださっていた方が,昨年の12月23日になくなったとの連絡を,とても親しくしてくださった当時のお店の社員の方から頂きました。癌とのことでした。

 詳しいことは私も分かりませんが,とても綺麗でエレガントな女性で,暴言をさくっと吐くのですが嫌みはなく,しかも筋が通っていて反論不可能という,極めて賢い常識人で,二十歳そこそこだった私など,全く相手にされなかった覚えがあります。

 大阪の女性だけに華やかな印象で,私が長年使っているG-SHOESというハンドルネームは,実はこの方が黄金のパンプスを華麗に履きこなしてらっしゃったことに由来します。(と書くと変態っぽいのですが,お店の仲間内でおもしろがって作ったハンドルネームでしたから,変態と言うより中二病という感じでしょうか)

 基本的には売り場には立たず,事務所で伝票やお金まわりの処理を行う裏方さんでした。俗に商流といわれる,ものとお金と伝票の流れは彼女から教わりましたし,現金,クレジットカード,分割払い,売り掛け,代引き,手付け金などお客様にものを買って頂くときに考えなくてはならないお金の種類も,やっぱり彼女から教わりました。

 商売人なら当たり前の知識ですから何をたいそうに,と思われるでしょうが,それまで全く縁のなかった私がこれらをすんなり飲み込めたのは,暗記を求めるのではなく,理由や理屈をきちんと,しかしとてもシンプルに説明してくださった事があります。

 彼女は商業科を出ていたはずなので,教科書に出てくるような小難しい簿記や会計の話も出来たでしょうが,あえてそこは「大阪のおばちゃん目線」でわかりやすく,「~しないと誰々が困りはるやろ」と,理由を語るにも決してお高くとまることのない方でした。

 なにせ,「とにかくそういうものだ」という言い方をすることも,私の記憶する限りなかったように思います。これは本質を理解し,かつ説明が上手だったということの証ですが,こういう人というのは,なかなかいないものです。

 私よりも5つほど年上だっただけのように思いますが,すでに大金の動くパソコンショップの財布の紐を任される人で,歴代の店長も我々下っ端も,みなが全幅の信頼をおいていたわけですが,あの無理のない自然な清潔さというのは,人を見たら泥棒と思えと幼いことより親に教え込まれた(なんちゅう親ですかね)私が見た,初めての泥棒の可能性ゼロの人だったと思います。

 あの当時にして,愛車の三代目ソアラを駆り,タバコをスパーっと豪快に吸う若い女性でしたが,それもまた様になっていて,明るくサバサバとし,曲がったことが嫌いで,頭の回転が速くて賢く,ユーモアに富んで話し上手ということで,必ず一度は彼女に憧れるというのが,新人さんの通過儀礼でした。

 私は,といえば,綺麗な人だなあとは思いましたが,前述のようにはなっから相手にされていないので,寂しいことに「はしか」にかからせてもらえませんでした。それでも兄弟店の事務をしていた仲の良い女性と「黙ってたら男前やのに」と,実に絶妙な表現で私のことを評していたそうですので,まんざらではありません。

 彼女についてはいろいろ面白い話があります。

 店員が昼食に出るなどでちょっと売り場が手薄になったときや,レジが混雑した時などは,ささっと雰囲気を読み取り,自主的にお店に出てレジを担当してくれたこともしばしばあったのですが(このあたりも彼女の賢さを物語ってますね),うちのお店に女性の店員などいないと思い込んでいるお客さんが大多数でしたし,しかもお店の空気がぱーっと変わるほどの美人がてきぱき仕事をしているとくれば,自ずとお客さんの視線が彼女に集まります。

 しかし,そんな彼女は滅多に表に出てきません。いつしか彼女はうちのお店の「レアカード」になっていました。いるんだかいないんだか,噂に過ぎないのではないか,実在しないんではないか,幻なんじゃないか,など,いろいろな憶測を生んでおり,中には我々に彼女は何者だ,と聞いてくるお客さんもいたほどです。

 当時我々のお店が開設していたパソコン通信のホストの掲示板でも,まれに彼女が話題に上ることがありましたが,全く見たことがないという多数派が見たという人を嘘つき呼ばわりしたり,見たという人も一度限りで二度と見ていないと言い出したりと,その神秘性もまた魅力を高める要因になっていたようです。

 彼女はパソコンの事はよく分からないようでしたが,X68000のユーザーとPC-9801のユーザーの違いくらいは分かっていたようですし,スケベなゲームやCD-ROMなどにも一定の理解があったようです。ただ,彼女自身はそんなものにありがたがって何千円も支払う人を個人的な理由によって嫌ってもいました。

 ある時,閉店後に棚卸しを行うことになりました。

 ご存じの方も多いと思いますが,棚卸しは在庫のすべてを数える作業ですから,皆で分担してもとにかく時間と手間がかかります。

 彼女は事務仕事の合間をぬって,売り場で先行して棚卸しを少しずつ進めてくれるという気の利きようがまた素晴らしかったのですが,開店中に数えた商品が売れてしまったら数え直しですので,基本的にデッドストックとなっているものを数える必要があります。

 事務専任で,パソコンの事がわからんという人が,なぜデッドストックを察知して数える事が出来るのかと,デッドストックを仕入れてしまった担当者は毎度毎度震え上がっていたのではないでしょうか。

 そしていよいよ閉店後,棚卸しがスタートします。彼女はパソコンが詳しくないということで,微妙な違いで別商品にしないといけないような商品は割り当てられず,はっきりと商品名が書かれているソフト売り場が担当になります。

 棚卸しは原則的に二人一組で,一人は品名と数を声に出し,もう一人はそれを台帳に記入するという流れになります。

 これは当時の店長の嫌がらせの一環だったと思われるのですが,彼女の割り当てられた棚が,当時流行していたアダルトCD-ROMの棚を含んでいました。(店長は偶然だとしらを切っていましたが)

 彼女は読み上げ担当だったのですが,タイトルからしてすでに十分にいやらしいアダルトCD-ROMの商品名を臆せず読み上げて,粛々とこなしていきます。そして時々,「どーするの,こんなに仕入れて」と不良在庫に苦言をつぶやきます。

 それはもう,男の私が見ていても,大変に男らしい立派な仕事っぷりでした。


 いろいろ思い出しましたが,全然悲しくありません。いなくなったなんて,絶対ウソです。しばらく会っていないだけで,ちゃんと大阪にいる,とそんな風に自然に思っています。でも,そんなことない,もう彼女はなくなったのだ,と,何度も何度も思い直します。

 彼女のお葬式は,年末に行われたそうです。知っていれば私も駆けつけたと思うのですが,残念な事に知ったのは年が明けてからでした。

 親しかった先輩店員さんは,私にいいます。彼女のお葬式に,当時のメンバーが一堂に会した,当時の会長,社長,常務や店長,彼女が新人として指導をした若手も含め,それぞれみんな行方知れずになっていた人々が集まり,みな口々によくもこれだけ集まったものだと,驚いていたと。

 そして,不謹慎だけど,彼女が集めてくれたんだと思う,と,そんな風に続けました。最後に,彼女は太陽だった,と。

 私がこのお店を辞め,東京で就職したすぐ後に,大阪地区での店舗の再編が行われ,私がいたお店は閉店し,彼女も別のお店に移りました。しかしその後会社そのものにいろいろあって,行き詰まってしまいます。同業の会社から支援を受けて再スタートを図りますが,結果として大半の店舗は閉店,大阪地区も例外ではなく,完全撤退となりました。

 これをきっかけに,当時仲間は全員散り散りになり,その消息はほとんど分からなくなってしまったのです。私も東京に来ており,地理的な距離には勝てず,あれだけ親しくしていた当時の仲間とも,連絡を取ることが出来ずにいました。

 いや,私にその気があれば,会うことも出来たはずです。それをせずにここまで来た私が,一番罪深いのかも知れません。

 私が以前活動していたハードロックバンドのメンバーは,このお店の関係者が中心となっています。何度も何度も再結成の話が出つつ,実現に至らずに来ましたが,今度こそ再結成しなければならないと,そんな風に思いました。

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