9月の末に持ち込んだ大量の本も,ようやくあと1日あれば全てスキャンが完了する,と言うところまでやってきました。思えば長い道のりでした。季節は進み,日差しがまだまだ厳しい9月から,もの悲しい秋,年末年始,そして雪のちらつく厳しい寒さ,と,この数ヶ月の時間は決して平坦ではありませんでした。
1月中に終わるというのは,実はほぼ予定通りという事もあり,私は1月最後の土曜日に,スキャンをしているMacBookProをスリープから解除しようと,気分良くLCDを開きました。
電源は入り,HDDも回転しているのですが,全く画面が出てきません。キーボードもトラックパッドも反応がなく,画面は相変わらず真っ黒のままです。MacBookAirから画面共有でアクセスするも反応無し。
これはもう再起動しかないな,とCOMMAND+OPTION+POWERでリセットを押してみますが,これも反応無し。いよいよ最後の手段ということで電源ボタンを長押しして,電源を落とします。
ま,この手の問題はままあることです。
気を取り直して電源ボタンを押します。
DVDドライブが「うぃーん」と音を立てて起動し,HDDに回転がかかって,電源が入った事が分かりますが,いつもの起動音が鳴る前に電源が落ちてしまいます。
私の背中にも冷たい汗が落ちていきます。
壊れたようです。
落ち着け。こういうときは,PRAMリセットです。
しかし,電源がすぐに落ちるのでリセットがかかりません。電池とACアダプタを外してしばらく放置しPMUをリセットするも,変化なし。相変わらずすぐに電源が落ちます。
電源ボタンの長押しをすると電源は落ちないのですが,スリープのランプが点灯して何の反応もないままです。結局完全に壊れたという感じです。
うわーーーー,これは大変なことになった。大事に使っていたのになあ。
困ったときのgoogle先生に相談すると,先生は「このマシンは無償修理対象かもよ」と教えてくれました。
私のMacBookPro,MB134Jは2008年の生まれです。このマシンはGPUにGeForce8600Mを搭載していますが,なにやらこのGPUの一部にパッケージングの問題のある不良品が混じってしまったとのことで,発熱によってチップが破損してしまう場合があるそうです。
Appleはこの問題をリコールすることはなかったのですが,GPUの問題が原因で壊れた場合は,無償で修理することにしました。当初購入から2年だった期間は,現在4年まで延長されており,実質GeForce8600Mを搭載するMacBookProは全機種対象になっていると考えて差し支えありません。
対象となる症状は,画面が真っ黒になる,画面が乱れる,ということですが,この場合でもMac自身は動作しているんだそうです。私のように動作しなくなってしまうのは,厳密には対象外となります。
でも,バスにくっついたLSIが壊れてしまっても,ハングアップしないで壊れた部品がないまま動作するシステムにするには,わざわざそういう設計にしないとダメだと思うのですが・・・結構大変だと思いますよ。
気の動転した私は,もう少し悪あがきを行う事にします。
・・・もしかすると,電池が怪しくなったからかもしれないなと,ふと予備に買ってあった新品の電池を箱から取り出して装着しようとしました。
果たしてその電池は,美しく,グラマラスな三次元曲面を描いていました。
膨らんでいます。それもふたが開いて,中身が見えるほどです。
いやあああああああ
まるでハマグリのような電池を,恐る恐る手にとって嫁さんに見せると,「妊娠したのね」と笑っています。
1万円以上の電池が,あっけなく死にました。なんと不憫なことよ。
いやいや,こんな事をやってる場合ではありません。MacBookPro本体をなんとかせねば。
google先生は言います,無償修理になった人もいれば,電源入らずになったケースでは有償修理になった場合もある,と。電話の対応よりもどうもGeniusBarへ持っていった方が良さそうという事も耳打ちしてくれました。
私はあわてて,その日のAppleStore渋谷の,GeniusBarの予約を確認しました。いつもいっぱいの予約で結局あきらめてしまうGeniusBarですが,今日に限って夕方があいています。よし,16時30分に予約です。
予約の際に,画面が黒くなって再起動をかけたら電源が入らなくなったことと,電池が膨らんでしまったことを書いて送っておくっておきました。こうしておくと話がスムーズに進むのでおすすめという話を以前耳にしました。
Appleの場合。有償修理は定額料金です。特別なケースやモデルごとの金額は知りませんが,MacBookProの場合約5万円だそうです。5万円でMacBookProが買えるわけでもないし,まだまだ使う気でいましたから,有償でも修理しようと覚悟は決めていいます。
しかしその前に,xxxやyyyでzzzなファイルを,なんとしてもHDDから消してしまわねばなりません。これは,私という個人の,人間性と尊厳にかかわる大問題です。
嫁さんは「男の人ってのは大変だねえ」とニヤニヤしています。そんなの誰も気にしないよ仕事だもん,と嫁さんは言いますが,一方で「サービスセンターに持ち込まれた,xxxなレンタルビデオを噛み込んだままのビデオデッキの話ってのも良く聞くよねえ」と,私を崖っぷちに追いやる発言。
あと3時間。3時間もあればどうにかなると,私はマッハの速度でMacBookProを分解します。
取り出したHDDをUSB経由でMacBookAirにつなぎ,外付けの別のHDDにつないでコピーを取ります。そしてオリジナルは消去。神業の速さです。
そしてまた組み立てます。私の目の前には,以前と同じく,MacBookProが鎮座していました。どうやってばらしたのか,どうやって組み立てたのか,もう全然覚えていません。
なんだかんだで予約時間に遅れそうになりながら,何食わぬ顔で渋谷のAppleStoreに到着します。名前を呼ばれてからしばらく待たされた後,初めてGeniusBarに座ります。
向かいのお兄さんは,私のメモを既に読んでくれていたようですが,一応私に症状を尋ねます。
私は,ウソにならない範囲で,画面が黒くなり,電源を切って再起動をしたら,電源がすぐに切れるようになったと答えました。
確かに,これはウソではないですが,正しいわけでもありません。
スリープから復帰させようとしたら画面が真っ黒のままだったので,電源を切りました。その後電源を入れてもすぐに切れるようになったというのが正しい言い方でしょう。
しかし,この言い方では,厳密にはAppleの無償修理の条件には合致しません。人によっては有償修理になってしまうかも知れません。
私は,Macのハードウェアについては素人ですが,半導体の使いや壊れ方には一般的な見解を持って仕事をしている人です。熱なり静電気なり,半導体が壊れる条件はいろいろありますが,壊れてしまったあとの状態として,内部でショートをおこし,大きな電流が流れてしまうと言う壊れ方は珍しい物ではありません。
この場合,正しい動作はしないのは当然としても,電源がショートするのですから,大電流が流れて電源電圧が上がらず,回路によっては保護回路が働いた上で,電源が切れてしまいます。
今回の電源の切れ方というのは,まさにそれだと思うのです。
また,GPUとはいえ,コンピュータ内部で繋がっている部品です。壊れてしまえば,他の回路に影響を与えて,システム全体が動作しなくなることはむしろ普通の事です。
私の場合,スリープからの復帰で画面が真っ黒,システムは一切反応せず,再起動後は電源が入らないというものでした。GPUが熱によって壊れた場合,こうならないと断言できないし,むしろこういう結果になることは,十分な可能性があると私は思います。
お兄さんは私の話を聞いて早速電源を入れようとしますが,一瞬で電源が切れるため手も足も出ない様子です。それでも機種を特定して,引き出しから「nVidia」と書かれたUSBメモリを差し込んで,ここからの起動を試みます。
すでに無償修理対象の機種あることはわかってらっしゃるようですが,いかんせん電源が入らね,該当するかどうかの判断が出来ません。
しばらくして,お兄さんは手を止め,私に言います。
-- お客様の場合,最初に画面が出なかったと言うことから,GPUの問題である可能性があります。電源が入らなくなったことは別の要因で起こっているのかもしれないけども,GPUのせいで壊れた可能性もあります。どちらにしても確認が出来ないのでわかりませんが,今回は無償修理とさせて頂きます。
同じように壊れていても,画面が出ないままシステムが動作する場合に限って無償修理で,それ以外は有償というのは,ちょっとおかしいかも知れません。ただ,我々はこの件でお金儲けをしたいわけではなく,お客様にちゃんとしたMacを使って頂きたいと思っているのです。だから,今回は無償で結構です。
電池についても,無償で交換します。電池は大なり小なり膨らむものですが,外装が割れてしまうほど膨らんだものは交換させて頂いています。
こんな話があって,結果的に私の修理は,全て無償ということになりました。水濡れがあったりすると10万円かかるらしいですが,それは私の場合ありません。
もしも,全然GPUに関係のない故障で電源が入らなくなった場合でも,極端な話HDDの入れ替え中に基板をショートさせて壊したような場合でも,同じことをいえば,無償修理になってしまったことになります。
私の場合,本当に画面が黒いままスリープから復帰せず,次から電源が入らなくなったので,やっぱりGPUが故障原因じゃないかとおもっていますが,電源が入らなくなってしまうという症状は少ないようです。最初は電源が入らない場合でも,PRAMをクリアすれば起動したとか,そういう話は見つかったのですが,私のように結局電源が入らないケースというのは,そう多くはないのではないかと思います。
今になって考えると,お兄さんはGPUに関係のない故障かもしれない,あるいは私がネットで仕入れた知識で無償になるようなウソを言っているのかもしれないという疑いの中で,私の話を信じ,5万円という決して安くはない修理費用をゼロにしてくれたのです。
これは,結構重たい話です。単純な損得では割り切れません。
それはそれとして,GeniusBarは今回初体験だったわけですけども,噂通りの,心地よい対応を頂きました。狭く,人でごった返した騒々しい室内で,決して落ち着くわけではありませんし,非常にてきぱきと短時間で処理されていく様子は,さながら病院のようです。
じっくり長い時間をかけてくれるというサービスとは異なるのに,この手際の良さでなぜこれほど心地よいと感じるのか,非常に不思議なものがあります。
単純に,私が望む結果以上の対応をしてもらったからでしょうか。そんな損得の話だけで,私は心地よいと感じたのでしょうか。対面なら安心?国内メーカーのサービスセンターだってそうですよね。
彼らにだってできる事とできない事があります。現場に権限がないことだってあるだろうし,仮に修理を行うにしても,1ヶ月以上かかるような特殊な修理だってあるはずです。
でも,GeniusBarの悪い評判を聞くことはほとんどありません。
GeniusBarに来る人は,たいてい困ってやってきます。困っている人をサポートすることをテーマに動いているのがGeniusBarです。彼らは,このことを誇らしく思っているのではないでしょうか。
またAppleStoreのスタッフの中でも,資格を持つ,精鋭でなければ,GeniusBarの担当にはなれないといいます。GeniusBarでお客さんの対応ををするということは,非常に名誉なことであり,同僚からの尊敬も受けるものであるわけです。
そう考えると,なるほど,彼らが彼らの仕事に胸を張り,困ってやってくるお客さんがホッと安心して「よかった」と店を出て行く姿を見ることがどれほど価値のあることなのか,それは創造に易いことです。
自然と彼らのペースになっていることに,時々気付いていました。何度も言うように,それも全然不快ではありません。
こうしてテーブルの向かい側に座っている彼らに任せておけば,やがて最善の方法によって問題は解決するのだという安心感と期待感が,電話をすればピックアップしてくれる便利な修理サービスを使わず,あえてAppleStoreまで持ち込もうという人が多い理由なのかもしれません。
ということで,土曜日に預けてきたMacBookProですが,修理が終わったという連絡の電話がかかってくるのを待っています。修理が終わったら,会社からの帰りに寄り道して,引き取りに行く予定です。
つくづく思うのは,メーカーに取っては数多くの中の一台,に過ぎないものでも,使っているユーザーにとっては,まさに特別な一台なのですね。当たり前の事ですが,手元からなくなる不便さも深刻なら,5万円の修理代が無償になるということも,やはり個人レベルでは大変な事件です。
早く戻ってくることを願っています。
さて,その「妊娠した」電池ですが,あわてていたので写真を撮らずにAppleStoreに行ってしまいました。GeniusBarで気が付いたので,手元にあったIDEOSで写真を撮りました。

画質が悪いのはお許し下さい。