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我が家がひかりで繋がった

 我が家に,光ファイバが繋がりました。

 私がまだ小学生だったころ,電話は電気から光になり,銅で出来た電線に変わって光ファイバなる物に置き換わると聞かされていました。ひかり・・・なんと未来的な響きである事よ。

 思うに,ひかりという言葉に未来性を感じるのも昭和生まれの性でしょう。今は無線が通信においては最もホットな技術ですが,もともと電気とは別物である(実は同じ電磁波であるわけですが)あの身近な光が通信に使われるなんてのも,なかなか興味深い話だと個人的には思います。

 バックボーンは早くから光に移行して我々の生活を支えているわけですが,一昔前にFTTHと呼ばれ,光ファイバ普及の最大の関門であった個人宅への光ファイバの引込も今や普通に行われる時代です。

 我が家はずっとADSLでした。個々に引っ越してからは安定して下り10Mbps出ていますし,なにより安価でした。プロバイダ料金まで込みで2000円ちょっとというのは,とても負担が軽くて助かっていました。

 しかし,ADSLはアナログ電話の設備をそのまま使ったサービス故に安価だったわけで,それらを新しい物に更新して維持し続ける事を前提にしないからこそ,この値段だったわけです。

 だから,NTTがアナログ電話をやめるつもりである以上,ADSLはいずれ廃止される運命にあります。残念ながら,とても気に入っていた我が家のADSLも,来年4月にハイされるという案内が届きました。

 夫婦がテレワークを使う状況にあることで,ADSLではちょっと物足りなくなっているのも事実です。ギリギリまで粘ることも考えましたが,これを機会に光に移行することにしました。

 私はhi-hoをダイアルアップの時代から使っており,最安ではないにせよダイアルアップとモバイルのダイアルアップ,そしてADSLまで全部基本料金だけでOKというつぶしの利くサービスに満足していました。

 メールアドレスも変えたくないですし,ワンストップで手続きが出来るhi-hoひかりというサービスをさっさとお願いすることにします。

 これ,確かに最安ではないのかもしれませんし,速度も速くないと評判ですが,下回りはNTTの1GbpsでIPoEも無料でOK,ADSLからの移行で工事費用なども無償になるので,トータルで考えるとそんなに悪くない選択肢です。他のプロバイダに乗り換えると解約に新規手続きと面倒な上,移行の間にネットと電話が使えなくなる時間が長く発生するかも知れません。それは,在宅勤務の我々には致命的な問題です。

 ADSL廃止の連絡が来たのが9月30日,以前から案内が来たらすぐに光への移行をしようと考えていたことから10月1日は移行の手続き,10月13日に工事完了と開通という手順を経て,現在光ファイバでネットワークに繋がっています。

 工事は本当は午後予約で,13時から17時までのどこかで,という話だったのですが,当日午前中にキャンセルが発生し,ここで工事をしてもらえたことで午後には開通していました。助かりました。

 感慨も深く,光で繋がったネットワークを使ってみても,そんなに高速だという印象もありません。常時10Mbpsほど出ていれば普段の生活に問題はなく,時々我慢すればそれで平和に暮らせていたわけですので,まだ高速だという恩恵を受けているという感じはしていません。

 速度を測ってみれば,お昼すぎだと下りで300Mbps程度,上りで100Mbps弱です。上りの遅さは気のせいのレベルではないと思うのですが,これが夜になると1/10くらいまで悪化しますので,体感としても依然とそんなに変わりません。

 ということで,毎月の費用も上がる上に,2時間以上かかった工事を経て,実際に変わったことはほとんどなく,なんだか物足りない気持ちです。

 今回の移行は,速度などのサービスに不満があったわけでも,新しい事がやりたかったわけでもなく,ただ相手の都合に合わせて行っただけのものです。確かに高速にはなったのかも知れませんが,遅いことに不満がなかった以上,高速であることを意識するシーンは少なく,これが手応えのなさに繋がっているのだと思います。

 ADSLに移行したとき,何よりうれしかったのは常に繋がっていることでした。ダイアルアップから常時接続というのは,もう劇的なユーザービリティの進化だったのです。

 光ファイバによるユーザビリティの進化は,速度だけです。私自身がADSLの速度に合わせて生きてきた以上,急に10倍速くなったと言われても,そりゃ持て余しますわね。

 OSのアップデートとか,大容量のデータのダウンロードとか,動作配信などがあれば実感するでしょう。高速であることを活かしたサービスの利用も自然に進むと思いますし,私がと言うより周囲が光ファイバを前提にサービスを組み立てるでしょうから,今のうちに移行する事は損だとも思いません。

 さて,本命のIPoEへの移行は,開通後1週間ほどかかってようやく申し込みが出来るとの話です。最初からIPoEで開通すれば済む話だと思うのですが,それはダメなんだそうです。

 聞けば600Mbpsも夢ではないとの話。それだけ出れば体感速度も変わるでしょうし,家の中と外を区別しないと言う,全く新しい概念でコンピュータと向き合う事になります。これはとてもワクワクすることです。

 PPPoEなどという30年も前の仕組みからはさっさと足を洗い,本来のシンプルな接続方法であるIPoEに移行する事で,気分的にも次世代通信環境の整備が終わる感じがしています。

 IPoEは,いわば屋外にイーサネットを這わせて,NTTにあるルータに直接つなぐようなものです。家にあるマシンのすべてがそれぞれ直接繋がるようなイメージですから,銅線,無線,そして光と,3種類の物理層で家の外と中を,文字通り区別することがなくなります。

 IPv6,IPoE,そして500Mbpsオーバーの通信速度という3つが揃えば,確かにネットワーク環境は完全に世代が変わったと思えます。すべてのコンピュータがユニークなアドレスを持ち区別なく繋がって行く世界は,すぐそこまで来ています。

 1987年に1200bpsで始まった通信は,1991年に14.4kbps,1998年には56kbpsになりました。

 2001年には1.5MbpsでADSLで常時接続,2006年に12Mbpsになって,2020年にようやく1Gbpsの光ファイバです。

 インターネットが民間に開放されるまで,パソコンが繋がることのメリットはフリーソフトが手に入るということくらいで,そもそもの用途が限られていました。しかし,今やインターネットに参加しないことは考えられず,それはコンピュータとしての価値を左右するほどの問題です。

 ようやく常時接続の必要性が生まれ,あとは速度向上が応用範囲を広げてきました。

 あらゆる情報が数値化され,数値化されればネットワークで時間と距離を超えて共有出来る,もちろん誰かが最初にネットワークを敷設してくれるから可能になることなのですが,最終的に大多数の人達が大きな利益を享受出来ます。

 我々の体は物理的な存在ですから,これをなくすことは出来ません。しかし,その制約を最初に一度だけ越えておけば,後は体を意識しなくて済むと言う話はとても面白く,私にとっては歓迎すべき世界だなと,今回つくづく思いました。

 問題は,その最初に一度だけ越えねばならない壁を,誰がどうやって越えるのかです。私の工事でさえも,人一人が2時間の間,電柱に登って降りてを繰り返していました。これでようやく私は自分の体の制約を超えることが出来たわけです。

 その「誰か」が公平な方法で選ばれる必要があるでしょう。勝手に独りでにインフラは整備されません。誰かが人知れず物理的な作業を行って整備されるものであることを忘れないようにしたいと思います。

 

キッチンの水栓を交換することで考えた

 コロナですっかりカタツムリになってしまった私ですが,毎日の夕食を担当するなかで劣化がひどくなってきたものに,キッチンの水栓があります。

 そりゃもう7年も使っているんですから,悪くもなるでしょう。

 一番ひどいのは,シャワーとストレート,そして浄水の3つを切り替えるレバーが,ギーギーと鳴くようになり,気持ちよく切り替える事が出来なくなってしまったことです。

 切り替えそのものは出来ているので実用上はなにも問題はないのですが,レバーが重くなったことに加え,クリック感がなくなりきちんと回しきるのが大変になったこともありますし,気分的にもよくありません。

 この部分の分解清掃をやってはみたものの,効果は数日で薄れてしまいます。

 ならばと,子部分の部品交換を考えたのですが,シャワーの付いたヘッドを丸ごと交換しないといけないらしく,あろうことか24000円もするというんですよ。

 高いなあと思いつつ,ちらっとamazonがお奨めする物を見ていると,水栓丸ごとでも2万円まで買えるようです。もともと6万円ほどする物ですからね,パチモンかも訳ありかも知れないですし,取り付けをどうするんだという話もあるので,あまり真面目に見ることはしません。

 しかし,このヘッドの交換を検討する時に,TOTOのWEBで後悔されている部品構成図などを見ていると,この製品の後継機種をたどっていけるようになっており,まさにこの機種が18000円ほどで買えることが分かりました。

 水栓は10年くらいでもう使えなくなるものと考えても良いので,交換出来ればそれは歓迎すべき事なのですが,古い物が製造中止で安く出ているかと思って探してみると,それはむしろ高価なくらいです。

 どちらかというと,現行商品が安く出ているようなので,思い切って交換してみることにしました。後継品種ですから,基本的にはリプレース可能でしょう。

 交換前の機種名は「TKHG38P」,後継の現行品は「TKS05308J」らしいです。

 取り付け穴も同じ,配管の長さはちょっと違うのですが,まあどうにかなるでしょう。

 デザインは大きく変わっているので慣れるのに時間はかかるでしょうが,悪い物ではなさそうです。

 TOTOのWEBサイトに取説など一式アップされているので到着までの時間で予習しておきます。

 ということで,土曜日の午前中に,新しい水栓が届きました。欠品がないかを確認し,揃っていることを確認出来たら作業開始です。

 まず古い水栓を取り外します。いやー,綺麗に使っているつもりでも汚いですね,水回りは触るのが嫌になります。

 先に配管を外します。この時代の水栓はワンタッチカプラーなる物で配管されているので,これを流用出来れば簡単だったのですが,現行品には採用されず,ナットで接続するタイプに戻っていますから,カプラーごと外してしまいます。

 シャワーの接続も外してしまい,その後水栓の下部にあるネジをアレンキーで外して,慎重に引き抜きます。おお,なんだかイカの解体みたいです。

 取り付け用の台座も流用出来そうにないので外して,新しい物に交換です。これは簡単簡単。

 続けて新しい水栓を取り付けてしまいます。配管を穴に通し,台座にネジ留めします。配管を通すのがちょっと面倒ですが,別に問題はありません。

 次からはもうシンクの下側の作業で,座りっぱなしです。配管を上手く取り回し,ナットで接続していきます。実は過去の水栓がシンクの裏側の面から370mmの位置に接続点があったのですが,新しい物は400mmを指定しています。3cmの違いならどうにかなるだろうと思っていたのですが,あまった配管を取り回すにはちょっと中途半端な長さで,冷水側の配管を少し急に曲げてしまい,折り曲げ跡を作ってしまいました。

 問題なさそうなので気にせず先に進めます。シャワーの接続も終わると,後はもう開栓しても問題はありません。きちんと水が出てきて,漏れないことを確認したら,あとはもうお片付けです。

 ここまで1時間ほど。さすがに予習をしただけあって,スムーズに作業が進みました。

 使い勝手は大きく変わりましたが,あっという間になれてしまいますし,快適な操作性なのでなにも文句はありません。通常,6万円の定価に工事費用が数万円で合計10万円コースだろうと思うのですが,最終的に2万円以下で済んでいます。

 「安く上がって良かったですよ」という話をしたいわけではなく,私が考えたのは,一体何が適正な価格なんだろうか,と言う疑問です。2万円なら私のように壊れる前に交換しようと思う人がいるでしょう。5万円なら壊れてからの交換になるでしょうが,納得して出せる価格ではないでしょうか。

 しかし,10万円の出費というのは,ちょっと抵抗がありませんか?いや,積み上げれば仕方がない金額になるんだろうし,工務店の方々がぼっているっていう話をしたいわけではなく,あくまで私の金銭感覚で10万円は簡単に出ないよという話です。

 10万円が納得出来ないからやめときます,という話にならないのが住宅設備関連です。水道が壊れてしまえばそりゃ生活が出来ませんから,30万円ですと言われても出さざるを得ませんよね。

 こういうことを悪用する人々がいても,不思議じゃないかも知れないと私は思ったのです。

 私の推測はこうです。工務店は本来,工事を2万円くらいで引き受けていたら赤字です。そこで,品物の利益でそれを補填します。2万円くらいで仕入れるが出来る水栓を,メーカーの標準小売価格である6万円で売るのです。

 これになにも問題はありません。かつての水道工事というのは現物合わせが主体となる大変な作業ですので,以前なら納得する人も多かっただろうと思います。

 しかし,2つの変化が訪れます。1つは工事を簡素化するために,メーカーの製品が標準化を進めていき,取り付けに際する現物合わせを極力排除したことです。このことで作業時間は短縮され,交換品の在庫も流用も持てるようになり,しかも作業スキルによって仕上がりが変わったり,スキルの低い人でも工事が出来るようになりました。

 しかし一方で,誰でも出来るようになったことから,素人でも簡単にできてしまうようになりました。

 2つ目の変化は,製品の購入です。かつては工務店しか買うことが出来なかった住宅設備関連品ですが,どういうルートか楽天でもamazonでも買うことが簡単になりました。

 買うことが出来るようになったと言うだけではなく,とても安いのです。おそらく,工務店への卸値に近い価格ではないかと思います。工務店の中には,amazonから仕入れる人もいるんだとか。

 こうして,独占されていた製品の購入が開放されたこと,そして工事も素人に出来るくらいに簡素化されたことで,一気にDIYに敷居が下がったのです。

 私は水栓の交換に1時間ほどかかっていますが,交換しようと決めてからわずか24時間です。工事の決定から支払い,そして工事完了まで1日ですからね,プロの頼むよりも早いというメリットも大きいのです。

 こうして環境が整ったことで,消費者としては選択肢が一気に増えました。安いけど手間がかかる,高いけど楽ちん,様々な選択肢がある事は,消費者にもメリットがありますし,選んでもらうための競争が起きますから,業界全体が良くなる方向に向かうことは疑いようがありません。

 そう考えると,これまでがおかしかったんだなあと気が付きます。そしてそれらが変化し,現在の地点に来ることが出来た要因に,製品のメーカーが進めた工事の簡略化と独占販売をやらなくなったことがあり,結局メーカーなどの大きな会社が作った道筋に流れていくんだなあと思いました。

 今年でなんと20周年を迎えたamazonがあけた風穴には多種多様なものがあり,誰かがそれをまとめるだろうと私は期待しているのですが,絶版の本さえ注文を受けては後になってごめんなさいをするいい加減さに辟易したサービス開始直後のamazonが懐かしく思い出されます。

 必要不可欠なインフラとして定着したamazonですが,実はもっともっと根深いところで,それまでの商習慣を数多く壊していることに改めて驚くと共に,その多くが直接には消費者のメリットになっていることを思うと,amazonというプラットフォーマーが消費者の見方でいてくれて良かったなあと,思わざるを得ません。

 そう,高度経済成長期ではなくとも,明日は今日よりも良くなっている,は,ちゃんと実践されていたということです。

 さて,ここでもう1つ見えにくい問題を議論せねばなりません。

 そう,ゴミの問題です。工務店に対して支払う費用には,廃棄物の処理費用も含まれます。今回の水栓も,工務店に工事を依頼すれば古い物は当然引き取ってもらえます。

 しかし,amazonへの支払いは当然品物の代金だけであり,ゴミの処理費用は含まれません。素人のDIYではこのゴミの処理が問題です。

 個人が出すゴミで,事業者が仕事で出すものではありませんから,余程の事がなければ個人のゴミとして処理できるので心配ないのですが,本来事業用ゴミとして処理されるものが個人のゴミとして出てくるようになるのが当たり前になると,ゴミを処理する地方公共団体の処理能力が想定を越えることもあるだろうなと思ったりします。

 また,大きい,重いなどで粗大ゴミになれば当然有償ですし,そこに化学物質や有害な物,あるいはリサイクルが義務づけられているような物が含まれれば,個人で出すゴミとはいえ,産業廃棄物として処理しないといけないケースも出てきます。これらの処理費用は安くはありません。

 ここまで考えると,実は工務店に頼むことが割高になるとは言えないケースも出てくることに気が付きます。さらにいうと正規の方法で処理されることで,環境負荷を下げることにもなる場合があるでしょう。

 さて,どうします?

 

日本カメラ博物館とワークショップ

 子供が自らの最大の関心事となり,かつ生活の中心に居座っていると,子供の「夏休み」がまるで自分の夏休みのような感覚に囚われます。いやはや,面白いものです。

 その開放感も,高揚感も,なにやら自分の事のような気分です。自分の生活はなにも変わっておらず,大人には夏休みはないのに,まるで夏休みを過ごしているような気持ちになるのはなんだか得をしている感じがして,これも子供を持つことの特権の1つかなあと思ったりします。

 もちろん,子供は自分で面白い事を見つけてきますし,勝手に面白おかしく夏休みを過ごしてくれるものなのですが,大人は大人の仕事として,子供たちの手の届かない範囲にある「面白い事」を,ぐっと彼らの近くに引き寄せることも,やるものです。

 だからこそ,夏休みになるとあちこちで子供たちを対象としたイベントが開かれるわけで,本気のものから形だけのものまで,それはもう玉石混淆です。

 私は出不精ですし,暑いのも人混みも嫌いなので,子供を外に連れ出す事はあまりありません。学校や地域でちょっとしたイベントが行われることもあり,夏休みはそれはそれで毎日忙しいわけですが,今年に限っていえば,子供が通っている小学校で夏休み期間中に工事があり,イベントのすべてが行われないことになったのです。

 このイベントは近隣の小学校と合同で行われていたのですが,我々の学校で開催できなくなったことで,我々の子供が他の学校のイベントに参加出来なくなってしまうという事態まで招きます。その大人の論理の全開っぷりに,誰のためのイベントやねんと,思ってしまいます。

 なんと世知辛いことか。

 実際には私の想像も及ばない事情があって,やむなき判断という事なんでしょうが,残念な事に本来味方であるべき大人に,こうして「世知辛い」なんていわせてしまうあたり,推して知るべし,というものです。


 そんなわけで,一番割を食っている子供に何かをしようと奮起した私は,ふと目にしたイベントに足を運んだのでした。

 日本カメラ博物館にて,8月17日に行われた「暗室で写真影絵アートを作ろう」です。

 写真影絵アートはフォトグラムとも呼ばれている,印画紙の上にものを置き,上から光を当てて現像し,影絵を作るという立派な芸術作品です。

 ピンホールカメラだのカメラの分解だのというわかりやすいワークショップはすぐに満席となっていましたが,私に言わせればこれらは比較的簡単で,どこでもやろうと思えば出来ます。その気になれば,家でも出来ますし。

 しかし,フォトグラムはそうはいきません。

 今や貴重となった大きなサイズの黒白印画紙がまず必要ですし,光源である引き延ばし機も必要です。現像液や停止液,定着液といった薬剤も必要ですし,これらを扱うために上下水道が完備した作業スペースが必要です。

 しかも,そこは真っ暗でなければなりません。

 そんな場所,あるかいな!

 それだけではなく,これらを使うこなすための指導をする人もいないと困ります。しかも専門的な知識や技術が必要で,そこら辺のおっさんをつかまえてきて,頭数だけ揃えて済ませるわけにはいかんのです。

 どうですか,これは激しく大変そうでしょう。

 しかも,出来上がる作品は写真用の印画紙を使うだけに,白は純白,黒は漆黒と,見事なコントラストを駆使できます。拡大して投影するのではありませんから,くっきりとエッジも立ち,素晴らしい解像感が得られます。影絵という言葉に連想される,あのぼやーっとした投影とは,もう格が違うのです。

 事実,これは芸術家が作品作りとして取り組むもので,子供の遊びではありません。

 これを,かの聖地「日本カメラ博物館」がやってくれるというのですから,たまりません。まるで子供をダシにしたみたいで,私がワクワクしていることが,なにやら後ろめたい気持ちでした。

 8月17日は,東京でこの夏一番の猛暑となった日です。体温を超える気温で,天気予報のお姉さんは「なにもしなくても熱中症になる」と,いわれたところでどうにもしようのない警告を繰り返していましたが,幸いにして誰も倒れることなく,無事にカメラ博物館でワークショップに参加してきました。

 印画紙は四つ切りとキャビネを何枚かもらえるのですが,最初は持参した小物が,どんな影絵を作るのかを試してみる感じで,創造というより実験という感じです。

 しかし,何枚か作るうち,それらを工夫して並べて,物語を考えたりある状況を再現したりと,表現を始めるようになります。そうです,これこそ芸術です。

 慣れない暗室で,薄暗い赤い光を頼りに,触ったこともない液体と格闘し,出来上がった作品は,子供たちにも大いに驚きと感動を与えたようです。

 後述しますが,娘は私が高校生の時に愛読した「究極超人あーる」を,暇さえあれば読んでケラケラ笑っています。わかりやすいギャグで笑っているだけだった娘も,そのうち「暗室って暑いの?」とか「バットってなに?」などと聞いてきます。

 一応説明をしますが,こういう部分はその当時から,写真を嗜むものだけが理解出来る,いわば作者からのメッセージだったわけで,デジカメしか見たことがない8歳の子供が,現物も見ないで理解出来ようはずがありません。

 そんな口惜しい思いをしていた私も,今回のワークショップでは現物を見て触って,使う経験をしてもらえます。これほど血肉になる体験は他にないでしょう。

 私が知る「臭くて暑くて狭くて汚くていつもなぜか薄暗い」暗室とはおよそ反対の,実に快適な暗室での2時間余りの作業はあっという間に終わってしまい,娘は無事に夏休みの自由研究としてキャビネサイズの組み写真を完成させたのでした。

 このワークショップ,形だけの参加費が必要なのですが,そのこともあってか隣接する博物館にも無料で入館できます。特別展も子供向けでしたし,私は私で図録がほしかったので,ちょっと遅くなってしまうのですが,博物館にも立ち寄ることにしました。

 そうするとまあ,娘はどういうわけだか,大はしゃぎです。

 一時期流行したステレオ写真が面白いらしく,ずっと見ています。私にもしつこく見ろ見ろといってきます。

 そしてカメラの展示です。

鰯水のF-1ってどれ?
曲垣が使っていたAE-1はこれだ!
成原博士が持って池から出てきた「ハッセル」と「ローライ」というのは,これな。
えりかが持ってきた6x9のカメラって,こんなに大きいのよ

 とまあ,こんな調子で,あーるの世界が目の前に現れます。私もクラクラしてきました。

 かなうなら,17歳の私に,やがて君の娘は8歳になると,一緒にあーるの話で盛り上がることになるぞ,だから毎日楽しみに生きろよと,教えてあげたいです。

 なお,鰯水のF-1はNewF-1で,博物館にあったF-1とは違っていました。説明に書かれていた当時の価格が鳥坂さんのF3に比べて随分安いのに気が付き,「なんだ安いのか」と小馬鹿にしていたあたり,本能的に鰯水を小馬鹿にする鳥坂さんとお金にうるさい小夜子の両方の素質を持っているように思えてなりません。

 そして,子供向けに,古いカメラを実際に手に取って動かせるようになっていて,物珍しい娘は出ているカメラをひととおり触って喜んでいました。

 いわゆる一眼レフは見慣れているし,私のF3やF2を触っているので珍しいこともないのでしょうが,およそカメラに見えない2眼レフのリコーフレックスを,どうやったら動かせるのか不思議でならないようでした。

 かくいう私も2眼レフは扱ったことがありません。説明書きを見ながら恐る恐る,親子で2眼レフを触って見ます。6cmx6cmの正方形のファインダースクリーンに投影される天地逆転の画像の緻密さに驚き,鉄板を組み合わせた四角柱を上から覗き込むようなカメラが存在したことにも,好奇心が刺激されたようでした。

 そうして,想像以上に有意義で楽しかったカメラ博物館を後にしたのは,到着から3時間半も経過してのことでした。よく遊んだと思います。

 娘は今,家の大きなテレビに映る,呑み鉄本線日本旅で頻繁に登場するキハ40の走行シーンを,自らの愛機であるチェキで一瞬のシャッターチャンスをものにしようと格闘しています。面白い事に,撮影結果について彼女なりの振り返りがあり,これは今ひとつ,これは惜しいと,厳しめの自己評価を続けています。これはもう,立派な撮り鉄です。

 よく,世の親は,子供に芸術性を伸ばして欲しいというわけですが,それは私も同様です。ただ,それは子供のためという話だけではなく,私自身が彼女の作品をもっともっと見たいと思うからです。

 おそらくですが,成長に伴って,その作品はあるフォーマットに従うようになり,形式的な要素を強めることになるでしょう。それはそれで面白いのでしょうが,私個人は子供の自由さや柔軟性からくる予測不能な世界を見てみたいと思っていて,近い将来確実に見ることが出来なくなる前に,たくさん見ておきたいなと思っています。

 そのための表現手段,あるいは道具として,色鉛筆や折り紙があるのと同じように,デジタルカメラがあるというのは,興味深いことだと思います。ボタンを押せば写真が撮れる,しかしその結果には彼女なりの成功と失敗があります。果たして,ボタンを押すだけのカメラを小馬鹿にするマニアたちは,この成功と失敗の線引きを,どう考えるのでしょうか。

 

XC-HM86の修理~その2

 なかなか便利で使い勝手も良く,音質も満足しているパイオニアのXC-HM86ですが,CDのトレイが出てこなくなり,修理を依頼したところ,傷だらけになって戻ってきたという話を先日書きました。

 この話の顛末です。

 戻ってきたXC-HM86は,まず油や指紋でベタベタに汚れており,触る気が失せました。渋々拭き取って改めて見てみると,その前面パネルに1cmほどの大きなキズがある事に気が付きました。

 自分がつけたキズの可能性を考えましたが,こんなに目立つところに自分でキズを付けた記憶はないし,キズが付いていたという記憶もありません。家族もそういっています。

 輸送中のキズについても考えましたが,こういうことを避けるために,わざわざ全面を段ボールで覆って発送しましたから,それもちょっと考えにくいです。

 おかしいなと思ってあちこち注意をしてみると,あるわあるわ,小さなキズがあちこちにあります。

 前面パネルの1cmのキズを筆頭に,角をぶつけた箇所が2つ,ボリュームツマミに打ちキズ,,上面の操作ボタンにも打ちキズ,ディスプレイに縦方向の擦りキズ,背面にひっかき傷と,全部で20ヶ所ほどありました。

 それだけならいいんですが,さらによく見ると,ACコードのストッパー(ほら,ACコードの根元についている,抜けどめがあるでしょ,あれです)の一部が,被せた上ケースの内側に入り込んでいます。このことで背面パネルは内側に湾曲しています。

 うわ,これは安全上の不安もあるな・・・

 さらによく見ると,基板を交換したときのネジの締め方が強いようで,パネルが歪んでいました。これはひどい。

 ということで,パネルのキズで相当がっくりしていた私は,再修理をしてもらっても駄目だろうという気持ちになってきました。

 キズだけなら,再修理で構いません。むろん,どっちがつけたキズなのかで揉める可能性はありますが,購入してからまだ半年も経っていないものとは思えない傷の付きっぷりから,私ではないと認めてもらえると思います。

 しかし,ACコードの問題は,私が中をあけてみることが出来ないものである以上,ずっと不安を抱えて使い続けるのはかなりしんどいものがあります。

 ネジの締め方による歪みもそうですし,そもそも汚れた手でベトベトに人の持ち物を汚しておいて,そのまま返してくるような人が再修理をしたとしても,気持ちよく,不安なく使い続けることはもはや不可能だと,一晩考えて思ったのです。

 これは,とりあえず新品への交換を希望しよう。ダメモトだけど,こちらの気持ちは伝えよう,その上で,一流の担当者に丁寧な修理をしてもらおう,とそんな風に思って先方と相談しました。

 終始紳士的な対応をして下さったその担当者は,とりあえず現物を見るまでなんとも言えないので,まずは送り返して欲しいといってきました。とても丁寧な方でしたが,私を疑うようなことも,出来るとも出来ないともいわず,とにかく見てから判断したいと安請け合いすることも逆に突っぱねることもしませんでした。

 これも,先方にすれば安易に約束をせずに冷静に判断するために必要な時間で,怒っているだろう相手の頭を冷やしてもらう時間を稼ぐ意味でも,悪い言い方をすれば時間稼ぎとも言える,とても賢い作戦だと思うのですが,同時に私にとってもメリットがあります。

 出来る事は出来る,出来ない事は出来ないときちんという姿勢は,とてもよいことです。

 すぐに返送の宅急便を手配してくれました。送ったのが先週の土曜日でしたが,水曜日に経過を確認するために電話をし,週末までにという返事をもらった後,木曜日の夕方にもらった電話の折り返しを,金曜日の朝にしました。

 すると,新しいものへの交換品が手に入ったので,今日送りますというお返事です。交渉した方とは別の人と話をしましたが,平謝りでした。

 私は私で,無理を言ってすまなかったとお礼を言って,翌日無事に新しいものを受け取ったのです。

 新品ですからなにも問題はありません。

 品薄の中ようやく届いた以前の機械には愛着があり,さみしい思いがするのは事実ですが,やっぱり気分の問題もありますし,こうして私の所に来たのもまた何かの縁です。大事に使っていこうと思います。

 こういう場合,双方の意見が食い違って揉めることが多く,私も覚悟はしていました。それは立場の違いからくるものですし,相手にも出来る事と出来ない事があるわけで,特に厳しいオーディオ業界なら当然のことと思います。

 考えてみると,修理を受けて返すだけでも何万円もかかっています。保証期間内だから私は1円も支払っていませんが,それが最終的に全部無駄になり,あげく新品に交換されたわけですから,手続き上は私の持ち物を買い取り,新しいものを提供したことになるわけで,それはもう大変な金額になるはずです。

 XC-HM86はそもそも高価なものではなく,実売も安いですから,これ1台で稼げる利益も少ないでしょう。今回の私の対応にかかったお金を取り戻すだけで,一体何台のXC-HM86を売らねばならないのかと考えると,私も悪いことをしたなあと思うのです。

 でも,ここで思うのは,そもそも保証期間内に壊れてしまったことがすべての始まりです。壊れた原因はICの不良でした。数円程度のICだと思いますが,これが半年で駄目になったことで,これだけ大きな話になったことを,よく考えて欲しいと思うのです。

 販売店は在庫が,メーカーは品質が業績の足を大きく引っ張ります。それだけ大きな負担になると言うことですが,裏を返すとこれらを少しでも改善すれば,目に見えて数字が良くなるという事です。

 私の事例を正当化するものではないですし,まして私が役に立ったなどというつもりは毛頭ないのですが,今回の件では結局誰も得をしていない,みんな不幸になるケースだったことを思い出して頂きたいなと,そんな風に思いました。

 そして最後に,これまでとても良い印象を持っていたオンキョーのサービスが,一度地に落ちてしまいましたが,今回の無理をきいて下さったことで,規則に縛られるのではなく,個々のケースでユーザーの気持ちを最大限汲もうとする姿勢は健在でした。ありがとうございました。

 

 

XC-HM86の修理~その1

 この春に購入したパイオニアのネットワークオーディオ,XC-HM86ですが,故障したので修理に出しました。

 9月中頃の話です。嫁さんがCDを聴こうとトレイを開けるボタンを押したのに,うんともすんとも言わないと言い出しました。

 あれ,トレイが開かないような条件ってそんなに複雑だったっけな?

 おおむね,ベルトが切れたか,ギアが引っかかってしまったか,まあそんなところでしょう。

 しかし,本当にうんともすんとも言いません。ベルトが切れるなりギアが引っかかったりしたなら,モーターの唸る音や振動が出ているはずなのに,全く動いている気配がないのです。

 トレイが開かない条件も調べて見ましたが,そんなものはなさそうです。

 保証期間が過ぎていれば自分で調べて見るのですが,これはまだ半年しか使っていない,保証期間内のものです。自分でいじくって壊してしまうのもバカバカしいので,サービスセンターに電話してみました。

 いろいろやりとりがあったのですが,パイオニアのオーディオ製品は持ち込み修理が基本なので,販売店もしくはサービスセンターへの持ち込みをして欲しいということです。遠方や時間がないなどの事情で配送を使うことも出来ますが,その場合往復の送料は保証期間内でも,ユーザーが負担しなければなりません。それも3000円近い負担だったと思います。

 いやまあ,これは20年前なら当たり前なんですけど,外資系のメーカーはもちろんだし,ニコンなども保証期間内は無償だったりした記憶があるので,今どきのサービスは物流込みで考えるものだと,そんな風に暗黙で思っていたのです。

 そういえば,ヤマト運輸が新しい商材として,メーカーのサービスの集配を代行するサービスを展開していました。ゆくゆくはサービスのものも請け負うというものでした。

 これは,ユーザーにしかメリットがないもののように思いますが,そうでもありません。メーカーに取っては,全国にサービスセンターを配置して維持する必要がなくなります。修理のための部品や道具,資料はもちろん,人もサービスセンターの分だけ必要になるので,とても重たいです。

 しかし,配送が使えればサービスセンターは1箇所でも,全国のユーザーに同じレベルのサービスが提供出来ます。

 もちろん販売店経由で送ってもらえばサービスセンターは1つでも良いのですが,販売店経由だと時間もかかるし,販売店の仕事も増えますし保管場所も必要になりますから,あまり喜ばれません。無論,販売店もただでやっているわけではないので,当然手数料を支払うわけですけど,結局メーカーも販売店も,ついでにいうと時間もかかるし,販売店が近くになかったりすると,ユーザーにとってもうれしくない方法です。

 ここに商機があると思ったヤマト運輸はすごいですよね。感心します。

 こうすると,販売店は売ることに専念出来るし,ユーザーは全国どこでも家にいながらサービスを受けられるし,メーカーはサービス拠点を減らせる上,投資を集中して1箇所のサービスセンターを強力なものに出来るしで,みんなハッピーになります。

 だから,パイオニアくらいの会社なら,当然やってると思っていた訳です。しかしそうではなかったと言う事実をしり,なんだかさみしくなりました。

 そんなことをいっていても仕方がないので,いよいよ修理をお願いし,引き取りの手配までお願いしようとしたとき,電話の向こうの担当者が,ついぽろっとこんなことを言いました。

 「10月1日から,サービスが新しい会社に移管されるのですよ。」

 そう,パイオニアの音響機器部門は,オンキョーに譲渡されました。しかしサービスの統合はまだ行われていなかったのです。そしていよいよ,今年の10月から統合されるという話だったのです。

 「うーんと,それはつまり,修理の条件や仕組みは,オンキョーさんに準じたものになるということですか?」

 と,全然つまりになっていないような質問を,私はしれっとしてみたんですが,答えは「そういうことになります」でした。

 むむむ,実はオンキョーはサービスについては進んでいて。メールと配送でのやりとりがメインで,保証期間内は往復の送料もかからないのです。

 ここで私は少し考えてから,「そういうことなら,ややこしいので,修理を10月1日以降にします。」と話して,その場での手配を取りやめました。

 そして10月初旬。時間が出来たあるとき,パイオニア製品のサービスのホームページのリンクを探し,サービスの依頼をしました。するとオンキョーのサービスに飛んでいきました。メールで依頼できるようです。

 当然のように依頼をすると,すぐに「これはパイオニア製品なのでこのメールでは受けられない,このURLに書かれているところに電話しろ」と返事が来ました。

 URLはさっき私が見ていたホームページです。

 でたよ,たらい回し・・・

 悔しいので,電話をしました。

 事情を説明すると,先方は落ち着いて「お客様はメールでやりとりをされたいのですよね?」というので,いや,メールにこだわっていないが,保証期間内の配送料は無料だと書かれているので,それに準じて欲しいのだというと,それはすでにやっています,との返事。

 そういうことなら文句はありません。さっさと引き取り日時を決めました。そして最後に,

「ところで最初に伺うべきだったのですが,何が壊れたんですか?」

 というオチまで付いて,この電話は終了です。

 後日,指定した日に壊れたXC-HM86を引き渡して10日経過,トレイのモーターの駆動用ICが壊れていたそうで,保証期間内だから基板ごと交換しますと電話がありました。配送料も含め,私の負担は一切ありませんとのありがたいお話。

 9月に頼んだか,あるいは10月まで待ったかで,これだけの差が出てしまうことに,知る事と知らないことの差というのは大きいものがあるなあとつくづく思いました。

 細かい話をすると,実は9月中はフリーダイアルだったので,電話代はかかりませんでした。しかし,10月になるとナビダイアルになるので,1分で20円もかかります。都合15分ほど電話をしたので,電話代は300円ほどかかってしまいました。

 だから完全に無償になったわけではありませんが,配送によって全国どこでも同じサービスが提供されるには,全国どこでも電話が同じ料金でかけられねばなりません。

 ここをフリーダイアルにするのも手ですが,必ずしも保証期間内の話ではないわけで,電話をナビダイアルにするのは理にかなっています。

 戻ってきたXC-HM86は,当たり前のようにきちんと治っていることを期待していました。しかし・・・

 

 この顛末は,後日に。ちょっとだけ書いておくと,傷だらけ,指紋だらけ,ACコードの組み付けミス,LCDの傷と,一瞬自分のものとは思えないほど,変わり果てた姿で戻ってきました。さて・・・


 ・・・ここでちょっと思い出を。

 オンキョーのサービスについては,大昔,30年ほど前にもお世話になっています。

 中学生だった私は,父親がどこからか見つけてきた,古いシステムコンポを安価で買うことになりました。オンキョーのライセンスというシリーズで,下から2番目の4000シリーズというものでした。

 1970年代の製品で,もともと安価なものだったので,アンプもサンヨーの厚膜ハイブリッドICですし,カセットデッキもドルビーすらなく,チューナーも平凡なバリコン式でした。ターンテーブルもDCモーターによるベルトドライブで,ゴロとひらうよな安物でした。

 スピーカーも今思えば大したものではなく,音も特に印象に残っていないほどなのですが,それでも25cmと10cmの2ウェイはうちでは一番良いものだったので,アンプを自作しても使い続けていたのです。

 その自作アンプを調整中に,うっかりDCを出してしまい,片側のウーファーを焼き切ってしまったのです。

 さあ困った。それなりに気に入って使っていましたし,代わりののものに買い換えるほど経済的にゆとりはありません。それに,今ほど小型スピーカーの性能が良くなくて,良いものは大きいという常識がまかり取っていた時代でもありましたから,このくらいのスピーカーには選択肢が少なかったのです。

 そこで,ダメモトで修理を相談してみたのです。

 ビンテージでもなく,高価でもなく,廉価なシスコンのセット商品の,しかも古いものの片側のウーファーが断線したスピーカーを,修理してくれるはずはありません。

 当時高校生だった私が電話をしてみると,すでに交換用のスピーカーユニットは在庫がなく,通常の修理は出来ませんが,ちょっと検討してみるので,折り返しますというお話です。

 しばらくして,折り返しの電話を頂きました。しわがれた職人気質っぽい声の主は,私に信じられない事を言いました。

 ボイスコイルを巻き直すので,ユニットだけ外して近所のお店に持っていって下さい,と。

 ただし,できるだけ頑張りますけど,左右で音が若干変わってしまうことはご容赦下さい,と付け加えます。

 費用はいくらですか,と聞けば,5000円だといいます。

 ボイスコイルを巻き直す修理が可能なことも驚きですし,それをこんな安価に,しかも安物のスピーカーにほど越してくれることも,そしてユニットだけ送ってくれればいいという話も,なにもかも想像を超えた提案でした。

 私は即座に了解し,隣町の量販店にスピーカーを持ち込みました。店員さんの不思議そうな顔を今でも覚えています。

 そして2週間ほどして修理が完了。引き取って元の箱に組み込み直して音を出してみますが,全く以前と同じです。

 ここに,私の不注意で壊してしまったスピーカーは,職人の手で修理されたのでした。

 オンキョーがスピーカーに定評のあるメーカーである事は当時も知られていましたが,ちゃんとボイスコイルを巻き直す事が出来るメーカーである事も分かりましたし,それをそこらへんの高校生の依頼で行う体質に,私は深い感銘を受けました。

 こうしてオンキョーの社風に非常に良い印象を持った私は,就職先にオンキョーを選ぶのですが,私の時は就職難という事もあり,オンキョーから今年は採用しないと,丁寧なお返事を頂きました。

 結局違うメーカーで働く事になった私ですが,地元の企業だったということもあり,今に至るまでオンキョーにはとても良い印象を持っているのです。

 当時のシスコンもすべて廃棄し,取説の一部と,これも無理を言って送ってもらった当時のカタログくらいしか手元に残っていません。思い出深いそのスピーカーも,実家の建て替えに伴い,廃棄しました。

 その後,結局あまり縁がなくて,オンキョーの製品を買うことはなかったわけですが,こうしてまたサービスのお世話になったことに,私はなんだかうれしいものを感じました。

 今回も,サービスの担当をしている人から電話を頂きました。相変わらずしわがれた声の,職人のような声で,ぶっきらぼうですが親切な電話でした。昔々の事を,私はふと思い出しました。

 

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