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今度こそ,これが最後のテスターだ

 amazonがブラックフライデーのセールをやっていたのですが,コロナをいいことに引き籠もっていた私も,買い物による散財を堪能させて頂きました。

 その1つ,念願の日置のテスターを買った話です。

 買ったのは,日置の最高級モデルであるDT4282です。直販サイトで6万円という,ハンドヘルド型としては最高級機種になると言って良いでしょう。

 スペックは60000カウントの5桁表示(つまり4.5桁というやつですね),その上更新周期が0.2秒と高速で,直流電圧の精度が±0.025%と,ベンチ型に匹敵する性能です。

 交流は真の実効値で測定可能,周波数帯域は20Hzから100kHzまでOKなので,音声信号も扱えます。そして630Hzのローパスフィルタも設定出来るので,高調波が問題になるような用途にも対応出来ます。すごい。

 電流は10Aまで測定出来るということで,今どきの安全性を重視した(規制されたとも言う)テスタとしては破格の性能で,これ一台でなんでも測定出来ます。

 登場は2012年11月,登場時の値段は56700円だったと言いますから結構値上げされていますが,登場から10年を経ても最高水準というのはさすがです。

 2013年に発行された日置技報によると,内部は16bitのマイコンと24bitのADコンバータを組み合わせたものということで,汎用のワンチップLSIを使ったものでもありませんし,下位機種で採用された専用カスタムICでもありません。性能を追求した設計になっているようです。

 amazonのセールでは,これが38400円になっていました。ここからさらにポイントが戻ってくるので,実質35000円くらいになるでしょう。このスペックのテスターがここまで安い,しかもテスターを真面目に作り続けている日置のテスターですから,これは買うしかありません。

 おそらく人生最後のテスターを,日置のモデルに出来た事を,うれしく思います。

 さて,そのDT4282ですが,一言で言うと一昔前のベンチ型マルチメータの性能をハンドヘルドにした物,と言っていいでしょう。精度もそうですが,レスポンスや機能についても,ベンチ型に負けてはいません。

 とはいえ,そこは部品のサイズや安定度に制限が緩いベンチ型で,私のDl2050という古い中級機でも120000カウントと倍のカウント数ですし,精度もDT4282が0.025%±2カウントなのに対して,DL2050は0.012%+5カウントとこれもなかなかの精度を誇ります。

 拮抗しているのは更新周期くらいで,DT4282が60000カウントで5回/秒,DL2050が40000カウントで4.8回/秒です。(ちなみにDL2050は120000カウントでは2.2回/秒です)

 テスターって,初心者向けの本はよく見るのですが,それだとどのテスターを買っても同じに見えてしまいます。しかし,DT4282のような高級機から1000円ほどの安いものまで千差万別なのも,またテスターの世界です。

 何が違うのかは,メーカーのホームページを見てもよく分からなかったりします。もちろん精度など細かい数字を比べて一喜一憂するのもよいのですが,先に紹介した日置技法に掲載されたDT4282の記事を見てみますと,設計者のこだわりが熱く語られています。いいですね,こういうの。

 丸写しするわけにはいかないので,かいつまんで紹介します。肝心なことは,カタログデータを実現するためにどんな工夫をしたのか,という点を含む,カタログスペックに出てこないような技術が,どんな風に盛り込まれたのかという点です。

・使用温度範囲
 DT4282では-15℃~55℃と広く,フィールドワークにもへこたれません。ベンチ型では0℃~50℃程度なので,特に低温での動作がありがたいでしょう。もちろん,精度がこの温度範囲で保証されるようなことはなく,そのあたりはベンチ型の方が有利だったりします。


・警告表示
 DT4282はバックライトが白色で見やすいのですが,電圧や電流の過大入力があった場合には,バックライトが赤になります。導通テストやダイオードテストでも赤になるのですが,命がかかっている強電の世界では,危険なことを自分と周囲に知らせる機能というのはとても大事で,このあたりさすがにプロの道具だなと思います。まいったかフルーク!


・フィルタ機能
 高級なテスタには搭載されることが増えたフィルタは,DT4282にも搭載されています。カットオフは630Hzです。これ,近年のインバータを使った設備の点検には必要となるもので,ノイズをカットし正確な測定を行う為には必須だと思います。

・表示更新速度の切り替え
 DT4282は表示を0.2秒で更新する高速性が売りですが,値が揺らいでいるときなどゆっくり変化した方がいい場合もあります。DT4282でも低速モードに出来るのですが,問題はどうやって低速にしているかです。
 取説によると,5回の平均を行って更新を行うそうです。こういうことがちゃんと書かれているテスターは珍しいかもしれないですよ。

・導通チェック
 導通チェックって,抵抗レンジの流用だと思っている方が多いと思いますし,私もそう信じていたのですが,DT4282ではわざわざサンプリング周期を早めて,レスポンスを高速化する工夫を行っているそうです。芸が細かい。

・抵抗測定
 抵抗はオームの法則で簡単に測定出来るので,古来からテスターで測定出来るものとして備わっているものです。しかし精度の高い抵抗測定は案外面倒なもので,DT4282は4端子法こそ使えませんが,高安定な定電流回路で作った定電流で抵抗を測定します。こういう安いテスタは抵抗だけの定電流回路だったりしますので,ここは信頼出来ます。


・静電容量測定
 アナログテスタ時代には,大容量の電解コンデンサに限って,直流を印加してその最大の振れ幅で容量を測定するという恐ろしいものが備わっていたりしましたが,DT4282では高精度な基準抵抗と被測定コンデンサで構成されたCR発振回路の周波数を測定することで,結果を得ます。


・電源
 単三4本で動く,と言う話はごく普通なのですが,ちょっとすごいと思ったのは,電池が消耗していても測定値が表示されている限り,その測定値の確度を保証する仕様になっていることです。他の製品だと,電池電圧が低下したという警告が出ているときは,動作はするけど確度は保証しないというものがおおいのですが,DT4282は違います。


・ADコンバータのサンプリング周期
 ADコンバータのサンプリング周期を公開しているというだけでも感心しますが,その周期は100msということです。これは,商用電源の周波数である50Hzや60Hzのノイズを上手く除去できる周波数になっています。
 まあ,ベンチ型のマルチメータでは良く行われている工夫ですが,これがハンドヘルド型でも利用されているというのは興味深いと思います。


・端子シャッタ
 そう,これです,これ。日置のテスターの売りは,このロータリースイッチに連動した端子シャッタがあることです。

 例えば,電圧端子にテスタリードが刺さっていれば,シャッタが引っかかってロータリースイッチが電流レンジに切り替わらないようになっています。また,電流レンジに切り替えてしまえば,電圧端子はシャッタが閉まって,テスタリードを差し込むことが出来なくなります。

 電流と電圧の測定を1つの機器で行うものは,誤操作によって火災や感電と言った事故が起きます。私も何度か怖い思いをしましたが,気を付けていたもうっかりしてしまうもので,こうやって安全装置が無理なく働くようになっていると,とてもありがたいです。

・応答時間
 なかなかスペックを見ても実感がわかないのですが,確かにレスポンスは良いです。実際に入力を印加してから,真値±5カウントになるまでの時間が日置技報に書かれていますが,直流電圧では0.8秒程度,交流電圧では2秒ちょっと,抵抗では1秒程度となっています。これ,他社の似たような製品ではそれぞれ1.2秒,8秒,2.4秒となっていて,結構待たされます。

 数をこなすプロの現場で,値が落ち着くまで8秒かかるか2秒でいいかは大きな違いで,こういうところにプロの道具としてこだわった日置の良心が見え隠れします。


 とまあ,まるで日置の中の人のように書いていますが,自分が選んだテスターを褒めちぎりたいのは人情というもの。ではその実力を実際にみてみたいと思います。

 
 評価には,いつものように基準で圧発生器を使います。

 製造元による実測値は,

2.50165V
5.00302V
7.50454V
10.00533V

 です。

 これがそのまま維持されている可能性は低いので,うちの基準器であるHP34401Aで測定した結果が以下です。

2.5017V
5.0035V
7.5054V
10.0065V

 うーん。基準器がズレたのか,34401Aがズレたのか,実際には両方がズレた結果なんだと思いますが,実はこの測定値,2019年4月の値と同じです。2年以上経過しても測定値が変わらないって,すごくないですか?

 ただ,製造元による実測値からズレているのは確かなので,このくらいのズレがあることを前提にして,DT4282の実測値です。

2.5015V -0.2mV -0.00799%
5.0031V -0.4mV -0.00799%
7.505V -0.4mV -0.00533%
10.006V -0.5mV -0.00500%

 34401Aに比べて,少しだけ低めに出ているのがわかりますが,どの値もさすがです。桁数が多いことが精度を高めるのにまさに貢献している感じです。しかし,そこは60000カウントの制限で,7.5Vでは桁数が少ないことが目立ってしまいます。

 基準器は狂っておらず,34401Aが狂ったものと考えて,基準器の出荷時の実測値と比べて見ましょう。

2.5015V 0.15mV 0.00600%
5.0031V 0.08mV 0.00160%
7.505V 0.5mV 0.00666%
10.006V 0.67mV 0.00670%

 うーん,この結果を見ると,34401Aの方が狂っていると言った方が良さそうな気がします。いずれにせよ,34401もDT4282も,うちではダントツの精度を持っていると言うことがわかりました。

 うちは,一応34401Aに合わせることにしています。34401Aが一番カウント数が多く,かつ精度も高いと思われるからなのですが,DT4282はわずかな差があるとは言え,ほんの僅かですので,この2つは同一の測定結果を出すものとして,扱う事にしましょう。

 ちなみに,なんやかんやで出番の多いFLUKEの101を測定し直してみました。そういえばこれ,自分で校正したんですよね。

2.500V -1.7mV -0.0680%
5.002V -1.5mV -0.0300%
7.49V -15.4mV -0.2052%
9.99V -16.5mV -0.1649%

 2018年11月に校正したときの数値と比較すると,実はそんなに変化していません。いやはや大したものです。ちょっと不安だったのですが,これで一安心ですね。

 これを見ていると,やっぱり6000カウントでは7.5Vの測定が厳しい事がわかります。

 そして,amazonで1700円で買った中国製の101っぽいテスター,ZT109です。これも自分で校正しました。

2.501V -0.7mV -0.0280%
5.002V -1.5mV -0.0280%
7.504V -1.4mV -0.0187%
10.00V -6.5mV -0.0650%

 おお,いいですね。101よりも好成績です。これも2019年の11月に校正した結果と比べて見ると,ほとんど変わっていません。

 このテスタが優れているのは,4桁ですが10000カウントなんです。だから7.5Vでもちゃんと小数点以下3桁が出ています。そしてその値は結構信用出来るんですね。すでにこの段階で101に勝っています。参ったかフルーク!


 ということで,実際に何度か使ってみましたが,実に快適です。大きすぎる,重すぎるということで使いにくいかと思いましたが,立てて使うと言うことを今回初めて試して見たところ思いのほか快適,適度な重さは安定感を生み,リードが引っ張られて動いたりすることもありませんし,ロータリースイッチを回すときに片手を本体に添える必要もなく,使い勝手は素晴らしいの一言です。

 液晶も見やすく,特にバックライト点灯時の文字のコントラストが高いので,明るいところでも常用したいくらいです。測定対象にリードを当ててから視線を動かしているうちに値が安定するレスポンスの良さ,値の更新周期が早いことで電圧が安定しているのかそうでないのかもわかる情報量の多さも助かります

 地味に使い心地を向上させているのが,テスタリードの使いやすさです。フルークはごっつくて取り回しが大変,サンワは華奢すぎて使いにくく,日置のものはケーブルのしなりもリードの長さもプローブの太さも,そしてグリップが手に馴染む感覚も,これまで使ったテスタリードで最高の使い心地です。

 私がこれまで標準的に使い続けていたKEYSIGHTのものよりもずっといいと思います。(ただKEYSIGHTのものは先端にクリップを取り付けられるオプションも付属している割には安いので,便利なんですよ)

 テスタはあくまで道具です。しかし,DT4282は使うことが目的になってしまうような快適なテスタでした。いいものを買ったと思います。

 私は割とテスタをコロコロ買い換えていますが,本来は長く使えるものですし,手に馴染む一台を持つことがベテランの証でもあります。とすれば,最初に良いものを奮発し,手足のように自然に使いこなすようになることが理想なのかも知れません。

 

NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VRを買いました

 作例を示さないレンズのレビューというのも無意味に思えるのですが,個人的な買い物メモの延長にありますし,実際数年して読み返してみればいろいろ思い出すこともあり参考になるので,今回も書こうと思います。

 NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VR,買いました。(フードも買いました)

 発表時に予約したので,発売日に手に入れる事ができました。

 Zfcはすっかり私の手の届く範囲にいつもあり,ぱっと手に取って電源を入れては撮影するという習慣が出来上がっています。

 D850はZfcをもってしてなお最高画質,最高のフィーリング,そして最高の信頼性を備える最高のカメラだと思いますが,Zfcのカジュアルさと画質のバランスは,普段の生活の時間の流れの中にあいたくぼみに,上手く嵌合する感覚があります。

 カジュアルさだけでは成り立たないのがカメラの世界で,撮影結果を確認したときの,期待以上の画質を見て,また撮ろうという気にさせないといけません。

 それは,生活の一部である以上室内である事も多いですし,夜である事も多いです。そういう悪い撮影条件でも期待を越える結果を出してくれないと,カジュアルである個とは安物の烙印を押されておしまいになるのです。

 とまあ,そんなことを書けたのも,今回のNIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VRを使ってみたからです。


・質感,手に取った感じ

 さすがニコンと言うべきか,全身プラスチックのレンズなのに,このしっとりとした質感は素晴らしいです。デザインも今どきの洗練されたもので(とはいえこのデザインの流れはシグマが方向付けたものだと思います),装飾をなくしてもこの格好良さというのは,やはり基本がしっかり作られているからだと思います。

 でもですね,実売7万円のレンズですので,当たり前と言えば当たり前。これで2,3万円同等の質感だったらそりゃ問題でしょう。すでにマウントが金属ではなくプラであることに対する批判もあるわけですし,価格相応,あるいはそれ以下という評価に落ち着くことになると思います。


・重さ,取り回し

 18mmから140mmのAPS-Cですから,35mm換算では27mmから210mmをカバーする,いわゆる便利ズームです。その割には小さいです。小さいというのは長さもそうですし,直径もそうです。特に直径が小さいことは新鮮な気分にさせられます。前玉もこんなに小さくて,周辺が落ちまくりなんじゃないかと思いますが,そんなことはありません。

 望遠側にすると全長が伸びるレンズなのですが,それでも70-200のF2.8くらいの長さに収まっているので,すぐに慣れることが出来ました。

 むしろ軽さが画期的で,Zfcの軽さもあってか,ぱっと手に取ると「軽いな」と毎回思います。こういう取り回しの良さも,Zfcへの懐かしさの1つかも知れません。


・画質

 16-50mmの画質が素晴らしかったため,このレンズにも期待が高まっていました。実際に使ってみると,ちょっと物足りない感じがしました。印象としては広角側は良好,70mmくらいまでの中域は平凡で,140mmまでの望遠側は積極的になれない感じです。

 決して画質が悪いわけではないですし,Zマウントらしい切れもあって,価格に相応しい画質だとは思うのですが,色は期待ほどのってきませんし,コントラストも凡庸,グラデーションもごく普通の再現度です。詰まるところ便利ズームの妥協点を1つ減らしたものという感じだと思います。

 大事な事は,かつての便利ズームから,明るさへの妥協があったことです。望遠側でF6.3というスペックによる辛抱は思いのほか強く,それでこの画質かというがっかり感も,望遠側での不満に繋がっているように思います。

 繰り返しになりますが,広角側はF3.8と普通の明るさですし,少し絞ってF5.6くらいで使いますので,画質は文句なしです。APS-Cは広角側のレンズになにかと悩ましいものですので,28mm相当でこの画質なら,常用レンズにできると思います。


・機能的なところ

 まず手ぶれ補正。私は手ぶれ補正はあまり重要な機能と考えていません。手ぶれが押さえられても,被写体ブレを押さえなければならないシーンが多いので,結局シャッタースピードを高めなければいけないからです。

 ただ,手ぶれは画角が狭くなるほど影響が大きくなるのに対し,被写体ブレは画角に関係がありません(ただし被写体の大きさを同じにした場合です)から,望遠で1/60秒が使えるというのは,メリットだと思っています。

 私はあまり望遠を使いませんのでVRのメリットを感じてこなかったのですが,このレンズでの望遠側のVRにはとても自然なものがあり,知らず知らずのうちに助けられていることが多くありました。

 結論。便利ズームには手ぶれ補正は必須です。広角側から望遠側までシームレスに使うレンズだからこそ,気持ちも覚悟もシームレスでないといけないわけで,広角と望遠が出来るだけ同じ感覚で使えるようにするためには,やはり手ぶれ補正は必要だと思います。

 しかし,VRのスイッチやA/Mの切り替えスイッチは欲しかったです。Zfcではメニューに潜らないといけない設定だからこそ,スイッチが欲しいと思いました。特にA/Mは欲しかったです。

 というのも,マルチファンクションリングの滑らかさが素晴らしく,ここをフォーカスにして使えば,置きピンも楽しいだろうと思ったからです。もちろん,このリングを回せばMFに切り替わりますので目的は達成出来そうなものですが,初期設定ではシャッターボタンを押せばAFが働いてしまうので。不便なのです。

 設定をすればいいようなものですが,そうすると親指AFを使うことになります。でもこの親指AFって誰でも出来るものではありませんから,例えば娘が「ちょっと課して」と言ったときに,いちいち設定を変えているうちに,娘の気が変わってしまうこともあるわけです。

 こういう割り切りがあったことは,7万円のレンズでは残念な所だと思います。


・フードが別売り

 これも私は問題で,フードは付属して欲しかったと思います。多くのレンズ設計者がフードの常用を光学的にも事故を起こしたときの被害軽減にも役立つとして薦めているわけですが,そう高くもない花形フードをわざわざ別売りにすることも,ちょっと首をかしげてしまいます。

 それにですね,このフード,プラ製の花形フードの癖に,えらく格好いいんですよ。最近のレンズのデザインのトレンドはシグマが作ったと思いますが,そのシグマもフードそのもの,あるいはフードを装着したトータルの格好良さはまだまだだと思います。

 ですが,Zマウントのレンズはフードをしても格好がいいです。ずっと付けていたくなるようなうれしさがあります。だからこそ,付属して欲しかったなあと思うのです。


・寄れるレンズ

 NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VRの特徴の1つに,寄れるというのがあります。ズーム全域で20cmから40cmとかなり寄ることが出来て,撮影倍率は0.33倍と言いますから,35mm換算では実に0.5倍です。一昔前ならマクロレンズを名乗っても良いスペックです。

 近距離時の画質もなかなか良くて,しかもVRがききますから,マクロ撮影の定番である花も,見事に写しきります。これだけ寄れてこの画質なら,このレンズを持ち出すときの不安はほとんどなくなりますね。

 画角が大きく変化することもそうですが,寄れることも撮影者の「がっかり」を防止するものであるわけで,まさに便利ズームの真骨頂だと思います。


・欠点,期待外れ

 先にちょっと書きましたが,なんといっても「暗い」です。私はF6.3のレンズは暗すぎると思っていて,これまで手を出したことはありませんから,このレンズが初めてのF5.6より暗いレンズです。

 望遠側だけなのでどうにかなると思っていましたが,想像以上に厳しいです。

 NIKKOR Z DX 18-140mm f/3.5-6.3 VRは開放からシャープでガンガン使えるレンズです。ですので中域まではF5.6に収まってくれるのですが,さすがに望遠側のF6.3は非日常で,まるでF4の望遠をテレコンで使っているような,暗い気分にさせられました。

 このくらい暗いと,いくらVRがあるから,いくら高感度耐性があるからといっても,コントラストの低下や彩度の低下は避けられません。特に室内では使い物にならず,実質18-70mmくらいのレンズだと思わないといけないです。

 そうして明るさを犠牲にした望遠側は,画質も平凡です。積極的に使おうというシーンは限られます。

 そして,やっぱり価格です。質感が素晴らしいし画質も良いのですが,でもこのスペックで実売7万円は高いと思います。もう1万円安いと他の人にもお奨め出来るんですけどねえ。


・総評

 とにかく便利,それも妥協の少ない,真に散歩に相応しいレンズだと思います。機能的にZfcにマッチするレンズだけに,クラシックなデザイン(やっぱ43-86だろうなあ)のSpecialEditionが出れば大喜びだったんですが,そうでなくてもこのレンズの質感とデザインは持つ喜びも与えてくれると思います。

 画質は平均以上,広角側では高画質で,どんどん撮影したくなります。むしろ望遠側は緊急用と割り切っていた方が私は気楽でした。

 ただ,広角でAFが使えるレンズってなかなか貴重で,35mm換算で28mm相当の単焦点レンズが純正で手に入らない以上,手軽さではこのレンズ以外に選択肢がありません。そう考えた時に,やっぱZマウントは高いな,という印象を持ってしまうのです。


・最後に

 他に被るレンズではないですし,Zfcのカジュアルさと機動性を活かす良いレンズである事は間違いありません。ただ,このレンズではないといけないというシーンはちょっと想像が難しく,強いて言えば28mm相当のレンズが必要になったとき,くらいかなと思います。それが便利ズームの宿命なのですが,Fマウントでシグマの2万円ちょっとの17-50mmF2.8の画質が素晴らしかったことを考えると,もうちょっと心に響くレンズであって欲しかったと思います。

 しかし,小さいこと,軽いことは正義です。Zfcとの組み合わせは,最新の画質をこんなに手軽に持ち出せることを示してくれました。被写体の警戒感も薄れていることが表情からもわかりますし,周囲に対する遠慮も少しはましになります。

 実のところ,D850では便利ズームは使わず,ストイックの画質を追求する役割に特化し,普段使いはZfcでいこうと役割分担を考えていたので,このレンズを買ったわけですが,その目論見は一部達成出来たと思います。

 一部というのは,やっぱりD850の画質にはトータルでかなわないなあというZfcの問題に加えて,このレンズの暗さと画質の凡庸さにあります。使いこなせば面白くなるかも知れませんが,もうちょっと常用して使い込んでみたいと思います。

 

R3pro Saberでやっと今どきのDAPの世界に追いついた

 HiByR3pro Saberを購入したことで,新しい環境が一気にやってきました。それは非常に劇的とも言えて,知らないだけでこれほどまでにポータブルオーディオの世界は進化していたのかと思い知らされました。10年前とは大違いです。

 そして,その進化に,かつてはお家芸といわれた日本のメーカーがほとんど関わっていないこともショックではありました。要素技術や素材では日本のメーカーの存在も光っていますが,製品としてまとめ上げて最新の技術をリーズナブルに市場に送り出すことを得意としていた日本のメーカーの存在感がこれほど薄くなっているとは,驚きです。

(1)microSD
 可逆で音楽のすべてを手のひらに収めることを今回の目標に掲げた以上,大容量のストレージは必須です。全部取りこむのには512GBでギリギリなのですが,これくらいになると32GB程度を内蔵されても仕方がなく,内蔵を持たないR3proの潔さがかえって楽だと思います。

 DAPでは書き込みは遅くとも,読み出しが中心ですしビットレートもそれ程高くはありませんので,低速でも十分役に立つのですが,そうはいっても信頼性が低いと困りますので,選択が難しい所です。

 今回はSanDiskのUltraの512GBを選びました。並行輸入品なら7500円程度で買えますので,お買い得感があります。ただ,偽物を掴まされると怖いですから,お店は選ばないといけません。間違ってもamazonなんかで買ってはだめです。

 さすが512GB,CDはもちろん,カセットをデジタル化したものや,SACDを24bit/96kHzで録音したものなども含め,ほぼ保存することができました。SACDなんかはハイブリッドならCDDAも一緒に入れておきたいところですが,結局聴くのはどちらかだけですので,低音質の方は消すという方針で全部入れきりました。

 私のため込んだ音楽のすべてが,可逆でどこでも聴けるというのはすごいことで,同じような感動はかつて初代のiPodを買った時にも感じましたが,今回はそれ以上です。

 当時は圧縮してもすべてのCDを入れるほどのストレージはなかったのですが,数十枚のCDを持ち歩けることで起きる体験の根本的な変化に気が付いたときの衝撃は忘れません。

 この時は,そうはいっても圧縮音楽で,オーディオ機器としての音質もまだまだということもあり,あくまで据え置きのオーディオが主役で,ポータブルオーディオはあくまでサブという役割分担だったのですが,R3proを導入して見れば,データとしてはオリジナルと同じもので,しかも据え置きを越えるほどの高音質です。違いはもはやスピーカーを使うかどうか,ということくらいです。

 こうなってくるともうR3proは私のオーディオの主役であり,据え置きは欠点しか存在しない無用の長物となってしまう恐れがあります。LPレコードやカセットというレガシーなアナログ機器を扱うためだけに持っておく必要はありますが,CDプレイヤーやネットワークプレイヤーなどは,もう処分しても困らないでしょう。


(2)バランス接続
 R3には2.5mm4極のバランス接続用ヘッドホン端子があります。JEITAでは4.4mm5極が規定されているので標準化されたものとは違いますが,中国製の製品の多くが採用しているものですし,ケーブルも手に入りやすいです。

 私自身はバランス接続をしても,そんなに差はないだろうと思っていました。もちろん電気屋さんですので,バランス接続することの理論的なメリットは思いつきますし,望ましいのは確かだと思うのですが,それが聴感上どう影響するかは,半信半疑だったのです。

 私はソニーのMDR-M1STを使っていますが,これはMDR-1Aコンパチな端子を持っているので,MDR-1A用のバランス接続ケーブルがそのまま利用出来ます。amazonで探してみると,2.5mm4極のMDR-1A用ケーブルが見つかったので,試しに購入しました。3000円ほどだったと思います。

 試してみたのですが,まさかこんなに違うとは思いませんでした。

 まず,定位感が大きく改善されます。バランス接続では左右の音の市がさらに端っこまで広がるようになります。そして,それぞれの音の輪郭がはっきりとし,コントラストも向上します。

 それでいてきっちと奥行き感も豊かになり,音がセンターにじわっと集まる感じがなくなります。

 これは,セパレーションが大きく改善された結果でしょう。

 それから,低音と高音が同時に出た時の,高音の安定感です。低音のバスドラムに引っ張られて高音がへなへなになるのですが,それが押さえられます。これはGNDを共通にすることの弊害で大電流が流れ込んだGNDに電圧変動がおこるからでしょう。

 それから安定感です。音量の大小,周波数の高低に関係なく,一定の質の音が出てきます。これは,アンバランスでは押し出すだけだったものが,バランスだと押し出した一方で吸い込むことをやるからでしょう。

 これも,いろいろ理屈は考えつきますが,いわば排水を下水に流しておしまいにしてしまうと,大雨が降ってあふれることもあるし,ちょっとした変化で流れ方が変わってしまうことに例えてもいいと思います。

 排水の量を気にしなくてもいいようにするには,下水道ではなく直接海に投棄するくらいでないといけないのですが,それはなかなか大変です。そこで排水を専用のパイプで送り出し側に戻してやると,他から影響を受けませんし,他に影響を与えません。

 正確で精密な音を,こんなに手軽に楽しめるなんて,もっと早くにバランス接続しておくべきでした。バランス接続にしてデメリットはなにもありません。常用します。

 MDR-1Aは,スリーブがL-,その隣のリングがR-ですので,3極だとここがショートしてアンバランスになります。だから,MDR-1Aコンパチにしておけば両対応にくれます。これも好都合です。
 

(3)LDAC
 Bluetoothはビットレートが低く,音楽の伝送は基本的には圧縮されて行われます。それに,A2DPでは48kHzを越えるサンプリング周波数も,24bitのビット数も通りませんので,ハイレゾにはならないです。

 そこで,aptXやLDACといった,CDフォーマットをこえるフォーマットを通すことの出来るコーデックが広まりました。LDACはソニーが開発したもので,少しずつですが対応機器が増えてきています。

 R3proも対応機種ですが,実は私はノイズキャンセル性能をあてにして,WH-1000XM4を持っているので,LDACをすぐに試すことができます。

 で,試したのですが,どうも効き目がわかりません。AACやSBCと比べれば即座にわかるほど,普通にいい音ではあります。しかし,ケーブル接続,それもバランス接続と比べてしまうと,特にメリット感じないのです。

 デメリットは結構あり,やはり切れやすいです。ひどいときは30cmも離してしまえばブツブツ切れ始めますし,電子レンジで沈黙とか,環境に左右されることも大きいです。それならケーブルでの接続に割り切った方がずっと幸せです。


(4)MQA
 謎のハイレゾフォーマット,MQAにも対応します。サンプラーCDを3枚ほど買いましたが,デコーダがない我が家では,その効能は限定的であり,正直違いがわからないものでした。

 しかし,R3proにはデコーダが搭載されているので,MQAを正しく体験できます。早速試してみましょう。

 結果ですが,今ひとつ。違いがそんなに大きく感じられませんし,その僅かな違いも,良い差なのかどうでもいい差なのか,判然としません。結論としては,MQAは別にいらん,です。


(5)まとめ
 とまあ,すっかり乗り遅れていたDAPの世界を一通り試すことが出来て,どうにか追いついたように思います。本格的ではないにせよ,知っているだけで体験していないものは説得力もありませんし,本当にそれが良いものなら楽しまないのは損です。

 感じたのは,やはり良いものは支持されて残るという事です。HDCDは残らなかったですが,ハイレゾもバランス接続も残ります。こういう新しい技術がわずか2万円ちょっとの機器に搭載され,楽しめるようになっていることは,なんと良い時代になったものかと思います。

 コンパクトさや質感でワクワクし,音でドキドキして,とても楽しく使っていますが,気が付くと昔の音源を聴くのが楽しく,一通り聴いては,何時間も経過していることに気が付いて驚くという事がしばしばです。

 よく,高価なオーディオ機器に乗り換えると,昔のCDを一気に聴いてしまうといいますが,おそらくそれと同じ事だと思います。

 メモリカードまで入れればそれなりの投資になりましたが,十分なリターンがあるばかりか,同じ効果を得るのにこんなに安い価格で済む事に驚くほどです。DAPの世界,侮りがたいです。

HiBy R3pro Saberを買う

  • 2021/11/18 13:11
  • カテゴリー:散財

 そういえば,携帯音楽プレーヤーを買ったのって,いつ以来だろう。

 音楽から遠ざかっていた10年前に,ふとしたことからWalkmanのAシリーズを買ったものの,大容量のmicroSDが高価すぎて手が出ず,AACで聴くくらいならスマホとNASでいいよ,とほったらかしにしてあります。

 その前はずっとiPodを使っていましたが,これは結局iTunesとの連携が便利だったからで,FLACへ移行して可逆フォーマットに切り替えてからはiTunesの出番はなくなり,iPodも使うことがなくなりました。

 その前はと言うと,MDだったりカセットだったりするわけですが,それはもう昔話なのでここで語るのは面倒くさいです。

 こういう言い方は卑怯だと思うのですが,どうも最近の音楽にはまず最初にお金の臭いが鼻につき,食わず嫌いをしてしまいます。音楽制作のコストが極端に下がり,そのせいもあって音楽の価値も低下,手軽さと引き換えに大事されることもなくなったというのが,特に日本の音楽の世界かなと思っていて,そこが私を音楽から遠ざけていました。

 いや,相変わらず若い人がいい音楽を作っていることも,そこに熱意や一生懸命さがあることもわかってはいます。ただ,1980年代の試行錯誤による偶然のヒット曲から,どうすれば売れるかという仕組みが解明された今日とは,楽曲のバリエーションの豊かさに差が出るのは当然であり,「どれを聴いても同じに聞こえる」というのは,私がただ歳を取ったから,ということだけではないのではないかと,そんな風に思っています。

 この状況は,どんな音楽が売れるかがある程度解明されて,その通りに作ればそれなりに売れることがわかったことで,売れる音楽作りのメソッドから外れる勇気が音楽関係者に持たされていないことにあると思っていて,その「売れる曲」が好みだという人にとっては天国のような世界であっても,そこからはずれた人は,まるで音楽から愛されないのと同じようになるということです。

 幅広い人に支持されることより,お金を落としてくれる人向けに音楽を作ること,それは正しい事ですし,そもそもこんな話も「気のせい」なのかもしれないのですが,老若男女が口ずさみ,長年歌い継がれる音楽って,やっぱり少なくなっているっていう実感はありませんか?

 閑話休題。

 結局の所,我々人生を折り返した年寄りは,当時の事を振り返る事という目的のために若い頃に聴いた音楽をもう一度聴くことをするわけですが,それは手軽であることがなにより重要です。

 若いときには,レコードをかけるときの儀式が楽しくて仕方がなかったのですが,今はそれがあるからレコードをかける気にならないわけで,遠回りをありがたがることというのは,若者の特権みたいなものかも知れません。

 ただ,だからといってラジカセやスマホというのはなんとなく許せないものがあります。それは音質の問題でしょう。手軽であっても音質への妥協はプライドが許さないわけです。

 なんとわがままなことか。

 そこで私は考えました。そういえばDR-100mk3というPCMレコーダがある,これは音質も優秀だし,使い勝手も抜群。今どきSDカードなんか安いんだから,これでハイレゾ非圧縮で音楽を愉しめばいいんじゃないかと。

 ただ,この計画は早々に頓挫します。私のライブラリはFLACで600GBほど。がんばって500GBに押さえたとして,512GBのSDカードでいけそうです。しかし,残念な事にDR-100mk3はFLACには非対応です。

 よろしい,なら1TBのカードでいこう,と思う訳ですが,これもアウト。DR-100mk3は,こんなに大きなカードを認識しません。

 音質は抜群で,操作性もストレスフリーなDR-100mk3を情報出来ない悲しさは大きなものがありましたが,仕方がありません。なにか良い方法はないものか・・・

 ここで私は,長く興味を持つことがなかった携帯音楽プレーヤーへ視線を移すことになります。中国勢が世界シェアを持っていて。国内ではソニーだけが孤軍奮闘しているという話も,そもそもスマホに置き換わってその市場は風前の灯火であることも,耳にしてはいます。

 そう,スマホで十分なはずなのに,わざわざ音楽専用機を買い,しかもそれが中国製というのですから,これまでの考え方ではちょっと理解出来そうにありません。唯一の答えは,中国製の音楽プレーヤーの性能が抜群に上がり,すでにスマホを軽く追い抜いていることです。

 なら,試してみようと私は考えました。とはいえ,中国製品に10万円を出すのは抵抗がある世代の私は,失敗してもあきらめが付く金額で,一番良さそうなものを探すことにしました。

 いろいろ探したところ,私が選んだのは,HiByというメーカーの,R3proSaberという機種です。お値段は23000円ほど。ただし内蔵メモリはゼロなので,メモリカードの値段は考えないといけません。

 小さすぎず大きすぎず,手に収まるベストサイズであること,ESSのチップ(ES9218P)を使っていること,およそ考えつく機能を盛り込んであること,そしてandroidでないことと,私の望むものがすべて入っています。

 興味はあるけど手を出しそびれていた,例えばバランス接続であるとか,MQAデコード,LDACなども一通り備えていて,今あるコンテンツをもう一度楽しめそうな感じです。

 ちょっと悩んだのですが,買って後悔すべしと言う家訓を思い出し,翌日私の手元に届いたのでした。

 長くなったので,技術的な話は後日にしますが,最初にまとめてしまうと,この10年のDAPの音質は信じられないくらい向上していることに驚きました。それも十分な余裕を持って,楽々高音質なのです。

 384kHzに対応することから,44.1kHzや96kHz,24bitのコンテンツくらいなら余裕があり,無理をしていません。しみじみ「ああいい音だなあ」と自然に思えるのです。

 512GBのmicroSDに,私の持っている音楽をほぼ全部,FLACで詰め込んだことで,私のこれまでの音楽資産は手のひらに収まってしまいましたし,それを手の中で縦横無尽に聴くことが出来る利便性も手に入りました。

 そして,下手な据え置きよりもずっと良い音で,ずっと簡単に,聞きたいと機にさっと聴くことが出来るようになりました。電源とヘッドホンのケーブルで行動半径を制限されていたころには,もう戻れません。

 ということで,続きは後日。なにせオーディオ用のハードウェアでワクワクするなんて10年ぶりですからね,新鮮な気持ちで書く機会にしようと思います。

 

電気ポットが学習機能を持った

  • 2021/11/02 14:12
  • カテゴリー:散財

 これは,朝5時頃,たまたまトイレに起きた嫁さんの話です。

 生理現象に抗うことが出来なかった彼女は,寝室から出た時に異臭を感じました。

 ストレスなく生きるには感度を下げるのが合理的であるという持論の彼女をもってして,その異臭はぼーっとした頭をフル回転させるに相応しいものだったと言います。

 異臭とは,なにかが燃える臭いです。

 命の危険があるその臭いに,さすがに目が覚めた嫁さんは,ガスコンロ周辺を捜索しました。しかし,それまで炎を出していなかった機器が,突然炎を出すように動作する事はなかなか難しい事です。

 しばらくあたりを見回した彼女は,異臭と共にシューシューという異音を感じました。

 そして,背後にその原因を見るのです。

 原因は,電気ポットでした。

 この電気ポットはタイガー魔法瓶のPVQ-Hという製品で,容量3.0Lのモデルです。の2011年に購入したもので,もう10年になります。購入してかなり時間が経過したモデルですが,毎日使用しており,危険を感じたことは今までありません。

 恐ろしいことに,電気ポットがひたすら沸騰を続けており,あわてて電源をカットしたその時,ポットの水はほとんど残っていませんでした。僅かな水が沸騰する音と,普段燃えないものが燃えているときの,あの不快な臭いは,この異常事態が引き起こしたものでした。

 私が目覚めてから顛末を聞いたのですが,さすがに私も青ざめました。寝ている間にヒーターをカットするため,タイマーを仕掛けて9時間後に指定された温度になるように運用していたのですが,ヒーターがONになったあと,切る仕組みが動作せず空だきになってなる寸前になっていたようです。

この電気ポットで,家族の命と自宅を失いかねなかったと。そしてその可能性は,これまで経験した中で最も高い,危機的なものであったと。

 重大な事故が未然に防げたことは,もう嫁さんのおかげとしか言いようがありません。命の恩人といってもよいでしょう。今回の事故は,それくらい私を恐怖させました。

 幸いなにもなかったこと,購入して10年経過していることから,これ以上のアクションを起こすことはしませんが,二度のこのメーカーの製品は買いませんし,お奨めもしません。というより,このメーカーが最初から存在しなかったことにすると思いますが,そうなると次の電気ポットをどうするかが問題になります。

 この電気ポットは恐ろしいので通電せず,もうそのまま粗大ゴミに出しましたが,いつでもお湯があるという生活を捨てがたく,後継品の選定に入りました。

 しかし,私のような家電大好きの人にとっても,電気ポットというのは難易度の高い商品です。まず,製品の写真を見てもどれも同じ。メーカーの違いは全くわかりませんし,デザインも3つぐらいに分類すれば,どれかに含まれてしまいます。

 その割には値段はバラバラで,安いものは5000円くらいから,高いものは3万円近くもします。なんだこりゃ?

 細かいスペックを見ていきますが,はっきりいってどれも同じ。値段の違いがどこにあるのか,さっぱりわかりません。

 しかし,24時間通電するものであり,電気を熱に変える製品であることから,ちょっとしたことが1年分の電気代の違いとなって大きくなるはずです。安易な決め方をすると大損するのは,すでに経験済みです。

 しかし,決め手に欠きます。どれを勝っても一緒ならむしろ話は早いのですが,値段がこれだけ違ってくると,どうもしっくりこないのです。目立った機能差がない以上,価格差を認めるわけにはいきません。

 象印とタイガーという2大メーカーがそんな状態ななか,きらっと光るメーカーの製品が見つかりました。パナソニックです。

 気になったのは,学習機能。そう,ユーザーの使い方を自ら学習し,温度を維持すべき時を自分で判断して,節電をします。とうとう電気ポットに学習機能です。

 これまで,私は夕食後に9時間のタイマーを毎日セットしていました。夜のうちに60℃付近まで下がった温度は,朝6時頃には指定した85度に加熱されます。しかし,うっかり忘れることもしばしばありますし,夕食後にお湯が欲しい時もあり,不便な思いをしていました。

 これが自動化されるというなら,まさに正常進化でしょう。沸騰から保温を電気で行うポットが誕生し,真空保温で保温に必要なエネルギーを削減したものが第二世代なら,学習機能で積極的な節電は第三世代です。

 今回選んだのは2014年に登場したNC-SU224という2.2Lモデルなのですが,お値段は少し高めで,2.2Lモデルが18000円ほど。9月頃ならもう2000円ほどやすかったようなのですが,仕方がありません。

 デザインは電気ポットの様式をそのまま継承していますが,エルゴノミクスではないただ適当に丸いだけの電気ポットとは違い,合理的な平面をうまく持たせたところがパナソニックらしく,色も家電メーカーが選んだ色として好感触です。

 LCDの見やすさもさすが家電メーカーですし,ボタンも押しやすいので,この段階ですでにこの製品で正解だったように思えてきました。

 この製品は,水道水を使うことを考えて必ず100℃に沸騰する従来の機能に加えて,浄水やミネラルウォーターを使う場合に目的の保温温度まで加熱して維持する機能を持ち合わせています。100℃まで沸騰させなくてもいいので,かなりの節電になります。

 私が欲しかった機能にはこれがあったので,ここも○です。

 給湯の量をボタンの押し具合の強弱で制御出来ることも素晴らしいです。また,充電池を内蔵しているのでAC電源を外しても給湯が出来ます。沸騰後テーブルに置いておき,いつでもお茶が飲めるようにするという習慣がある家庭(私の実家がそうでした)では重宝するでしょうが,そうでない場合でも設定や学習内容が維持されるというのがうれしいです。

 最近はやりの蒸気レスは謳っていませんが,浄水を使う場合の設定では蒸気はそんなに出てきませんで,実質蒸気レスです。もちろん真空保温も持ってます。

 そしてなにより学習機能です。過去1週間の給湯のタイミングを記憶し,毎日その時間帯には指定した温度を維持するように制御するという便利機能です。

 いや,本当の所をいえば,最初は懐疑的だったのです。だってそうでしょう,RTCを持たないのに,ユーザーの行動パターンを学習して湯温を維持するタイミングを自分で判断するなんて,難しいでしょう。

 平日と休日で違うのはもちろん,夜中に給湯したものは例外とか,朝6時には確実に80℃になっていないといけないとか,時刻で制御しないと上手くいきそうにないですよね。

 もちろん,24時間のタイマーを持っていさえすれば,RTCでなくても大丈夫なんですけど,私ならRTCを内蔵し,学習プラス設定時刻でヒーターを管理するような設計をしたと思います。

 今どきのキッチン家電がRTCを持ち,最初に時刻合わせを必要とすることなど当たり前で,ユーザーも慣れています。せっかくここまでやったなら,ぜひRTCを持つ電気ポットに育ってほしいものです。

 まあ,それはさておき,早速試してみましょう。

 この電気ポットの学習機能は,長く使用されていない時間が続くと保温用ヒーターを切り,真空保温だけで温度を維持します。60℃以下にならないように,60℃になったら設定した温度まで加熱し,またしばらく使われない状態になったら保温を切るという仕組みです。

 そして使われた時間を記憶しておき,毎日その時刻の前に加熱を行って設定温度になるようにしてくれます。学習は1週間単位で行われ,最初の1週間は使われた時刻すべてで,それ以後は前の週のすべての使われた時間で,設定温度のお湯が準備されるのです。

 実際,朝65℃まで下がった状態で給湯すると,翌日の同じ時刻には指定してあった80℃を維持するよう,保温用のヒーターがONになってくれていました。

 これで1週間使い続ければ,我々家族の生活パターンを記憶し,80℃の温度を必要なタイミングで用意しておいてもらえそうです。これが自動化されるのは,本当に楽だと思います。

 しかし,1つ問題がありました。100℃に沸騰しないで,指定した温度までの加熱を行うモードで加熱後,学習省エネを設定してあるとき,水が減ってきたので水を追加すると,100℃まで沸騰してしまいました。

 沸騰と加熱を完全にモードで分けてくれていれば良かったのですが,そういうことでもないようで,現在どのモードにいるのか,どういう設定になっているのかがわからないのも困りました。

 いろいろ試してみましたが,60℃以下になると雑菌が増えてしまうので,60℃以下になったら加熱しないといけないわけですが,追加された水が水道水なのか浄水なのかはわからないので,水道水として扱い100℃まで沸騰するという動作になるようです。

 これを防いで,目的の温度に加熱するには,沸騰ボタンの二度押しという操作が必要になるようで,せっかく学習機能があるのに,完全自動にはなってくれませんでした。

 ということで,基本機能はもう当たり前なのでいちいち評価はしませんが,問題なく動作していますし,ボタンの配置も大きさも好ましく,LCDも見やすいですし,電源が抜けても停電してもしばらく設定や学習内容が維持されるというのもうれしいです。

 そして学習機能もわかりやすいアルゴリズムになっていますし,これで今のところ十分ですので,これから楽が出来そうです。

 ただ,消費電力が大きく異なってくる100℃までの沸騰が必要かそうでないかは,最初に設定し,グローバルな有効範囲を持つようになっていたら,もっとよいのになあと思いました。通常は指定した温度を維持するだけで,100℃にしたいときだけは手動で行うというとはっきりしていれば,勝手に100℃になることがないという安心感があって,よいと思いました。

 欲しい時にいちいちお湯を沸かすことなくさっと利用出来る電気ポットは,もう25年以上も使い続けている便利家電の1つです。電気代がかかるというのは事実ですが,その分便利になるのもまた確かなことで,当分使い続けることになると思います。

 

 私は,温かいものは幸せの条件の1つだと思っています。電気ポットは地味ですが,これがないと寒々しいものになると思っており,これがインテリジェント化することへの期待は大きいです。AIを搭載する必要があるかどうかは別にしても,もう少し賢く出来るだろうという伸びしろも感じるので,さらなる進化を期待したいと思います。

 

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