今さらMCカートリッジ
- 2007/02/20 18:08
- カテゴリー:散財
先日,LPレコードを久々に聴いて,MCカートリッジを買ってみようという気に突然なりました。
MCカートリッジといえば,必ず名前の挙がるDL-103というDENONのカートリッジは放送局で使われるリファレンスで,特に特徴もない素直な音が特徴という定番です。
昔はそんなに高いものでもなかったと思うのですが,今は26000円。実売でも2万円ちょっとするというので,ちょっとした高級品が買えてしまう値段になっています。
もっと手軽にMCカートリッジを楽しむ方法はないものかと調べてみると,ありましたよ,私の大好きなオーディオテクニカから廉価版のMCカートリッジが。
AT-F3IIというカートリッジで,実売で9000円ほど。これならちょっと試してみようという気分にもなります。(というかこないだからちょっと試してみようが購入動機になり続けているように思いますね,やばいですね)
ご存じの通り,レコードを再生するには,イコライザアンプと呼ばれる専用のアンプが必要です。以前はアンプ本体に内蔵されていたのですが,省略されたものも随分増えました。レコードプレイヤーに内蔵されたものもよく見ますが,これなどはイコライザアンプが内蔵されていない今時のアンプに直結できることを売りにしています。
ところがイコライザアンプだけで済むのはMMカートリッジの話で,MCカートリッジにはMCヘッドアンプか昇圧トランスが必要になります。ややこしい世界です。
MCカートリッジはこうして敷居が少しだけ高いので,1万円というお手頃価格のAT-F3IIがどういった客層を狙ったものなのかよく分かりません。
MMカートリッジの経験で言えば,1万円を切るカートリッジは今ひとつという印象を拭えず,結局V15typeVに落ち着いたわけなので,MCカートリッジも1万円以下が残念なものになってしまう覚悟はしておかねばなりません。
とはいえ,これがDL-103にすれば期待通りなのかと言われれば,特徴がないのが特徴なわけですし,むしろがっかりするかも知れません。カートリッジ以外に機材が必要なMCカートリッジですから,1万円でも手を抜いていないだろうと考えて,買ってみることにします。
はて,ヘッドアンプも昇圧トランスも持ってないのにどうするのだと思われると思いますが,実は今使っている自作のイコライザアンプには,ゲインを切り替えてMCカートリッジにも対応できる仕組みがついています。本格的には昇圧トランスを用意するとして,とりあえず暫定でこのイコライザアンプで試してみようという作戦です。
買ってきたAT-F3IIは私にとってオーディオテクニカの初めてのカートリッジです。カートリッジのメーカーとしてスタートした,日本ではよく知られたメーカーの製品をこれまで1つも持っていなかったのは,偶然とはいえ意外に感じました。
一緒に買ってきたヘッドシェルのMG10にマウントし,トーンアームに取り付けます。針圧の調整を行って何枚かレコードをかけてみます。
V15typeVとの比較になりますが,その差ははっきりと分かります。
(1)伸びやかな音
V15typeVも決してナローレンジではありませんが,AT-F3IIに比べれば急激に高音が天井にぶつかるような印象を受けます。AT-F3IIはすーっと頭のてっぺんを抜けていくような高音を出してくれるカートリッジで,闇雲に高音を強調せず,あくまで自然に「のばす」ということを心がけているような感じがして,とても好印象でした。
(2)高い解像感
解像度の高さもあり,V15typeVとの比較でも,それぞれの楽器が綺麗に分離して,これまであまり目立たなかった音が良く聞こえるようになります。
(3)平面的な定位感
奥行き感についてはV15typeの方が好ましく,AT-F3IIは楽器の分離が良い上に,平面的に楽器が列びますので,目の前にわーっと広がる空間の広さは,特に奥行き方向でV15typeVの方が優れているように思います。(ただ,こうした奥行き感はチャネルセパレーションが悪い方が良く聞こえるものでもあるので,ひょっとしたらAT-F3IIのチャンネルセパレーションの方が良いということなのかも知れません)
(4)細い中域
中低域のエネルギーや密度の高さでAT-F3IIはV15typeVの足下にも及びません。V15typeVの場合,その中域のエネルギーがボーカルの存在感を非常に高めてくれるので,まるで目の前で歌っているかのような生々しさを味わうことが出来ますが,AT-F3IIではそこまでの張り出し感はなく,あくまで自然に音が出ているという感じです。
(5)まとめ
KennyDrewのピアノソロを聴いてみたのですが,ピアノの機種が変わったのか思うほど劇的な変化がありました。V15typeVではよく耳にする普通のピアノなわけですが,AT-F3IIではキンキンとした金属音が耳につくようになるため,華やかな印象を受けるのと,強弱の変化がより明確になります。
そんなわけで,MMCカートリッジの場合,安物になるほど磨りガラスを目の前に置いたようなもどかしさが増えるものなのに,MCカートリッジでは,いかに廉価なAT-F3IIでもすきっととても明瞭な音を出してきます。
その上で,レンジの広さや粒状感の少なさ,まるで高い秋の空を思わせる音を味わうことが出来るということに,まず感心しました。
よく言えば上品でおとなしく,しかし繊細であるという感じがしますし,悪く言ってしまえば「CDみたいな音」と言えなくもありません。
カートリッジによってこれほど音が変わってしまうと,なにが本当の音なのか迷ってしまうのですが,おそらくどれも本当の音なんだと思います。
私は,あまりジャンルによってカートリッジを交換しようとは思いません。ボーカルを生々しく聴いてみたい時には,V15typeVを使うと思いますが,今回のAT-F3IIの音が大変に気に入ったので,常用カートリッジとして使うつもりでいます。
カートリッジはの多くは手作りで作られます。その点では工業製品でありながら同時に工芸品のような側面もあります。
レコードやプレイヤーの生産台数は減りもせず増えもせずと言う状況のようですが,採算性が良い世界ではありませんし,職人さんはどんどんいなくなります。
このくらいの手頃さで,カートリッジを取り替える楽しみを味わえるのは,ここ数年が最後になるかも知れないです。
一応,タムラ製の昇圧トランスは以前に買ってあって,ケースに入れて組み立てれば使える状態になります。すでにケースの加工は済んでいるので,本当に組み立てだけ。1時間もあれば終わってしまう作業です。
イコライザアンプのゲインを上げてしまうと,ノイズやハムが目立ってしまいます。半導体アンプの性能が向上した今日でさえ,定番として使い続けられる昇圧トランスがどれほどのものなのか,今から楽しみです。