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やっぱり目の付け所がシャープ

  • 2008/10/17 19:58
  • カテゴリー:make:

 昨日,PC-E500というシャープのポケコンの電池電圧検出回路を「謎だ」と書いたのですが,気になってずっと動作を考えていました。

 電圧検出器は4.0Vのものが1つ,3.9kΩと39kΩの2本の抵抗で電池電圧(PC-E500の場合電池電圧と回路電圧はダイオードの電圧降下分だけの差で変化は同じです)とGNDを分圧し,その中点が電圧検出器に入力されています。

ファイル 226-1.jpg

 この回路で2つの電圧を検出し,1段階目ではBATTマークの点灯,2段階目では強制的な電源OFFと,2つの動作を行うようになっています。どちらも割り込みで処理をしていますから,CPUの割り込み入力端子に繋がっています。

 検出電圧は4.0Vのみ,割り込みも1本のみ,この状態でどうやって2つの電圧を判定しているのか・・・頭をひねって考えていました。そして,ようやく答えが出ました。

 え,こんなん簡単やんけ,ですって?こんなん当たり前やがな,ですって?

 いやー,私は頭が固いので,こういうパズルは苦手でして。


・フェイズ1~電源OFFの状態

ファイル 226-2.jpg

 39kΩの抵抗をずっとGNDに落としたままにしてしまうと,電源を切っていようがいまいが常に140uA程度の電流が抵抗に流れ続けてしまい,電池が消費されてしまいます。電源OFFのときなど,何の役にも立たない電流ですから,これをカットするためにCPUのGPIOをHighにしてあります。

 これはまあ,いいですね。


・フェイズ2~電源が入った

ファイル 226-3.jpg

 電源がONになると,GPIOをLowにし,図のように39kΩをGNDに落とします。すると電圧検出器の入力電圧は,抵抗によって分圧された電圧になります。仮に電池電圧が5Vだとすれば,4.55Vになります。

 電圧検出器は4.0VでCPUに割り込みを発生させますから,この電圧ならまだ割り込みは発生しません。


・フェイズ3~電圧が下がった

 このまま使い続けると,電圧が下がっていきます。電圧検出器の入力電圧が4.0Vになる電池電圧を計算すると,4.4Vと求まります。4.4Vになって割り込みが入ったら,CPUは画面にBATTマークを点灯させて,ユーザーに電池が減ったことを通知します。この段階ではまだ電源を強制的には切りません。1つ目の電圧検出が終わりました。

 そして,これがミソなのですが,GPIOをHighに切り替え,39kΩを電池電圧と同じにします。


・フェイズ4~さらに電圧が下がると

ファイル 226-2.jpg

 39kΩが電池電圧と同じなったために,電圧検出器の入力電圧はまた4.4Vに上昇します。CPUへの入力も復帰しますが,割り込みはかかりません。

 そして電圧がさらに下がり,電池電圧が4.0Vになった瞬間,同じ割り込み端子に2度目の割り込みが入ります。CPUはこの2度目の割り込みによって,電源を強制的にOFFするわけです。

 実際には,電池からダイオードを通っていますので,電池の電圧はすべて0.6Vほど高い電圧です。ということは,BATTマーク点灯は5.0V,強制電源OFFは4.6Vとなります。

 3.9kΩを大きくすればBATTマークの点灯する電圧が高くなり,同時に電源が切れるまでの差が広がります。逆に小さくすればBATTマークの点灯する電圧が下がり,電源が切れるまでの差は縮まります。

 どうですか・・・GPIOによって電源OFF時の無駄な電流をカットすることと,検出電圧を2つ用意するという2つの機能を実現出来ているんですね。いやー,私などは目からウロコがボロボロ落ちましたよ。見事ですね。

 PC-E500,PC-E550,PC-1480Uなど,同じ回路構成の派生機種や,製造時期の違いによって分圧抵抗の値もちょっとずつ違っていたりします。BATTマークを点灯させる電圧を何度か修正してあるということでしょう。どっちにしても,電源をOFFにする電圧は4.0Vということがはっきりしました。

 実は,PC-E500のエミュレータで,LowBattery割り込みを与えてみると,1度目の割り込みではBATTマーク点灯,2度目の割り込みでは電源OFFという動作をします。割り込みによってどういう動きをするかはファームウェアによるわけですが,そのファームウェアは実機のROMから吸い出したものを使っていますから,今回の答えで間違いないのではないかと思います。

 さて,この回路は電池の電圧とGPIOのHighの電圧が同じ,という条件で動いています。しかし,昇圧回路を組み込んで回路電圧を安定化したモダンな回路構成では,もうひとひねりが必要です。

 まず,電池電圧の検出は,電池端からショットキーダイオードを通して3.9kΩに与えます。これは,電池の電圧がGPIOのHighよりもいつも低くなることで発生する逆流を防止するためです。また,回路電圧は5.0Vで安定化してありますので,GPIOのHighは5.0Vとなります。

 同じような手順で考えてみると,


・フェイズ1
 GPIOはHighで,ダイオードがOFFなので電圧検出器の入力電圧は5.0V。よって割り込みは発生しないし,電流の消費もない。

・フェイズ2
 電源ONでGPIOはGNDに落とされる。これは先程と同じ。

・フェイズ3
 1回目の割り込みがかかるのは,先程と同じ4.4Vにショットキーダイオードの電圧降下分を加えた4.6V。4.6Vに達して割り込みが発生するとBATTマークを点灯し,GPIOをHighにする。

・フェイズ4
 GPIOがHighになったので電圧検出器の入力電圧は5.0Vになる。ここから電池の電圧が下がっても,ダイオードがONしないため電流が流れず,よって5.0Vのまま。


 ということになります。あれ,2度目の割り込みはかからないですね。

 実際の動きと違うので,LTSpiceという回路シミュレータを使って動作を見てみました。ショットキーダイオードを使うと実際と同じような動きをしますが,シリコンダイオードを使うと上に書いた状態になります。何が違うのか?

 そうですね,ショットキーダイオードは逆方向電流が多く流れるのです。シリコンダイオードは逆方向電流がほとんど流れないために,シミュレータの結果が上に書いた状態と一致します。

 しかし,ショットキーダイオードは品種によるのですが,今回のシミュレーションでは30uA程も流れてしまいます。試しに,ショットキーダイオードを1N5817にしてみると,以下のような感じの挙動を示します。


・フェイズ1
 GPIOはHighで,電池電圧が4.8Vとすると,電圧検出器の入力電圧は4.82Vと少し高め。割り込みは発生しない。

・フェイズ2
 電源ONでGPIOはGNDに落とされる。これは先程と同じ。電池電圧が4.8Vなら電圧検出器には4.3Vがかかる。まだ割り込みはかからない。

・フェイズ3
 1回目の割り込みがかかるのは,4.45V。この電圧で電圧検出器の電圧が4.0Vを割る。そしてGPIOをHighにする。

・フェイズ4
 GPIOがHighになることで電圧検出器には4.51Vがかかる。ここからさらに電池電圧が下がり,2度目の割り込みがかかるのは3.8V。


 ということで,なんとまあ1度目の割り込みは4.45V,2度目の割り込みは3.8Vという結果が出ました。実機によく似た状況が再現されています。ちなみにフェイズ4における逆方向電流は26.4uA。恐ろしいことに,この微弱な電流が電池に流れ込んでいるというわけです。液漏れしそう・・・

 さらに怖いのは,この電流は温度が上がるともっと増えます。当然検出電圧も変化するだろうし,電池も危険になります。ここにはショットキーダイオードは使えそうにないということが分かってきました。

 実に奥が深い。

 さらにもうひとひねりしないと,実用にならない感じがしてきました。

 それにしても,シャープはなかなか工夫上手ですね。回路電圧と電池電圧が同じであるという前提が制約としてあるとしても,1つの電圧検出器で2つの電圧を判定できるというのは,なかなかパズルっぽくて,いい勉強をさせてもらいました。

古いハンドヘルドマシンをエネループで動かす

  • 2008/10/16 18:48
  • カテゴリー:make:

 さて,X-07とPC-2001に昇圧回路を組み込んで,エネループを完全に使い切ることが出来るようになったのですが,1つ大事なことを忘れていました。

 それは,ニッケル水素電池は,1.0V以下にしてはいけないということです。いわゆる過放電という状態になってしまうと,ニッケル水素電池は簡単に劣化します。

 今回のスイッチングレギュレータは,下限電圧が2.0Vでも出力に6V付近を出してきます。2.0Vということは1セル当たり0.5V。これはもう液漏れしても文句は言えないレベルです。やばい。

 本来なら1セル当たり1.0Vになったところで電源をカットする回路を入れるべきなのですが,最低でもバッテリーアラームが出るようにしないといけません。

 少し考えてみたのですが,X-07もPC-2001も,電池の電圧を測定する機能を持っています。問題は測定するポイントを電池端子にすることと,検出電圧が高いことです。

 X-07は内部で4.6Vに安定化している関係上,4.8V付近でアラームが出ます。PC-2001は電池の電圧をそのまま供給しているので,やはり4.8V付近でアラームが出ます。

 そこで,これらの回路を改造し,電池端子の電圧が4.0Vになったらアラームが出るようにしてみます。

(1)X-07の場合

 X-07は,コンパレータで4.6Vの回路電圧を測定しています。1MΩと1.3MΩで分圧しているのですが,電源側の1MΩに2.2MΩを並列に繋ぐと,大体4Vでコンパレータが動作します。

 これを電池端子にくっつけてやれば理屈の上ではOkなのですが,果たして動作確認をすると,ちゃんと4.0Vで「LowBattery」の表示が出てきます。うまくいきました。

 ただ,どういうわけだか「CardLowBattery」というアラームも同時にでます。おかしいなあと思ってさらに調べてみました。

 X-07は,メモリカードに内蔵されたリチウム電池の電圧も本体側で監視できるようになっています。カードに搭載された電池の電圧が3.0Vを割ると,画面に「CardLowBattery」と出るようになります。ところが鈍くさいことに,カードを入れてない場合にも「CardLowBattery」が出るのです。

 これはうっとうしい。そこで昨年,カードの電圧低下をCPUに知らせる信号線をカット,本体電源低下の信号線を突っ込んで,本体の電圧が下がったら両方のメッセージが出るように,修理のついでに改造をしてあったことをすっかり忘れていました。(ただし,今までCardLowBattery表示が出たのを見たことがないのです・・・おかしいですね)

 そこで今回は改造箇所を元に戻し,カードの電圧検出点を電池端子に接続してみました。こうすると,4.0Vに下がると「LowBattery」が,さらに3.0Vまで下がると「CardLowBattery」が出てくる仕組みです。実際3.0Vまで下がってしまうとかなり危険なわけですが,遊ばせておくよりましでしょう。

 これでX-07もエネループ完全対応となりました。


(2)PC-2001の場合

 PC-2001の場合,電池端からシリコンダイオードを通して0.6V下がった電圧をそのまま回路に供給しています。コンパレータを使って回路電圧が4.8Vになったら「BAT」アイコンが消えるようになっています。

 4.8Vということですので実際は5.4V付近で「電池切れ」となってしまいますが,これではさっぱりダメですね。アルカリ電池でも1セル当たり0.9V位まで使い切るのが当たり前なのですが・・・

 まずはこのダイオードをショットキーダイオードにします。X-07は最初からショットキーダイオードになっていて(お金かかってます),しかも電圧の分圧回路は合計で2MΩ以上と無駄な電流消費を押さえ,しかも誤差1%の金属被膜抵抗が使われていました。

 PC-2001では5%のカーボン抵抗で分圧をしているようです。大丈夫なんか?と思って調べて見ると,温度補償にはサーミスタが,電圧の調整には可変抵抗が使われていました。X-07とは随分考え方が違うものです。

 可変抵抗を回してみると検出電圧を4.0Vに調整可能だったので,検出点を電池端子に付け替えて改造は終わりです。4.0Vになったら「BAT」アイコンが消えることを確認し,作業完了。

 これでPC-2001もエネループ完全対応になりました。


(3)PC-E500の場合

 PC-E500も電池からダイオードを通して5.4Vになったものをそのまま回路に供給しています。PC-2001と同じような構造ですが,当然それぞれのLSIがきちんと動作出来る電圧の範囲をはみ出す場合もあるわけで,結構綱渡りで動いている上に,電池を使い切れていません。

 電圧検出の仕組みはさすがに後の時代のものだけあり,専用のICが使われています。松下のMN1280QというICで,4.0VになったらLowになるICです。

 回路電圧を3.9kΩと39kΩで分圧し,MN1280Qの出力は割り込みに入っています。面白いのはこの分圧抵抗のGNDへの落とし方で,GNDではなくGPIOに繋がっています。

 電源をOFFにしているときにはここがHighになり,抵抗を通して無駄な電流は流れません。起動と同時にこのポートがLowになり,電圧検出ICに電源電圧がかかります。

 ただ,よく分からないことが1つあります。PC-E500は,電池の電圧が下がるとBATTマークが点灯します。この段階では電源は切れず,OFFにした後でも再度ONに出来ます。

 しかし,ここから0.2V程電圧を下げると,なんと電源が切れるのです。電源キーを押しても一瞬起動しますが,すぐにOFFになります。

 回路電圧が下がって動作しなくなっているんだろうと思うかも知れませんが,回路の電圧は安定化して供給しておき,電圧検出点の電圧だけを下げて試してみた結果です。

 腑に落ちないのは,電圧検出ICは単純に4.0Vを割ったかどうかを見るだけで,2段階の検出を行う能力はないことです。なのに,BATTマークを点灯させたあと,電源を落とすという機能が実現できています。

 GPIOでなにかやってるのだろうと考えてみましたが,電圧検出ICの出力はCPUの割り込みにただ1本だけ入っているので,動作が分岐することは考えられません。また,この検出点をオープンにすると,BATTマークは点灯しますが,電源は切れません。謎です。もう少し考えてみます。

 それで,今回もこの検出点を電池端に接続してやればよいのですが,注意しないといけないのは,GPIOでGNDに引っ張る構成ですから,GPIOがHighになった場合には電池端の方が電圧が低く,電池側に電流が逆流してしまいます。

 そこで,ショットキーダイオードを入れて逆流防止をします。

 試してみると,4.2VでBATTマーク点灯,4.0Vで電源OFFという結果になりました。一応問題のない動作をしているのですが,欲を言えばBATTマークは4.0Vで,電源OFFは3.8Vくらいで切れて欲しいところです。

 そこで分圧抵抗を調整しようと思ったのですが,なにせ電源側がGND側に比べて1/10の抵抗しかありませんから,分圧抵抗を使わず直接電圧検出ICに入れてやるしかありません。試してみると,BATTマークの点灯と同時に電源が切れてしまいます。またもや謎です。電圧検出ICが2レベルで,2本の割り込みがCPUに入っているなら分かるのですが,どうして分圧抵抗の有無でこんなに挙動が変わるのか,考えてみたのですがわかりません・・・

 とりあえず元の値にもどし,4.2Vで警告,4.0Vで動作停止という仕様のままに,組み立てることにしました。最終テストでも問題はなく,動作もきちんとしていますので,一応これでエネループ完全対応,ということにしておきましょう。なかなかすっきりしないことは不満ではありますが・・・


 ということで,結局アルカリ電池の特性に依存した形で電源供給を行うような思想の昔のマシンを,ニッケル水素電池に対応させるのは思った以上に面倒なことです。単純に電圧を上げてあげるだけではだめで,バッテリーアラームもそれなりに対応してあげないと電池を痛めてしまいます。本来なら電源カットの回路も必要です。

 今の電池で動作する機器は,ほとんどすべてがこうした電源回路や電圧監視回路が組み込まれているので心配はありませんし,きちんと電池を使い切ることも出来るのですが,20年ほど前まで,こうした贅沢な仕組みを持つ機器はまだまだ少数派であったことを,改めて感じました。

 そういえば,使い切った電池でもリモコンには使えるのですぐに捨てないで,と暮らしの手帳系の豆知識を耳にしたことはありませんか。

 これは,大きな電流を引っ張る機器では,内部抵抗による電圧降下が大きくて使えなくなっても,消費電流の小さなリモコンでは電圧降下が小さくて済むからだ,という理由が説明されています。

 それは確かに正解なのですが,今から20年前の状況を考えると,実は内部抵抗以前の問題として,きちんと電池を使い切っていない機器が案外多かったのではないかと思います。

 それは,本来ならエネルギー供給という役割だけのはずの電池に,電圧の安定化という機能も持たせ,しかもすぐに失われる安定化能力を確保するために,まだまだエネルギーを保っている電池を使い捨てるという事実です。今ならこんな製品は許されないことでしょう。

 そして,つくづくのんびりした時代だったのだなあと,昭和生まれの私は遠い目で高い秋の空を見上げるのです。

昇圧型スイッチングレギュレータを我らに

  • 2008/10/15 17:12
  • カテゴリー:make:

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 電子工作をやってきて,先日とうとう手に入れた技術が,電圧を上げることです。スイッチングレギュレータを使って昇圧,というやつですね。

 何だ今さらと思われるでしょうし,私自身もそういう気持ちなわけですが,手軽な方法がなかったのだから仕方がないと,居直ってみます。

 78xxシリーズという俗にいう三端子レギュレータが簡単に手に入るようになるまで,電子工作のアマチュア達は電源を安定化せず,電池で動かすか,あるいは変圧-整流-平滑という三段階で商用電源から作った非安定化電源を使っていました。

 もちろん,それなりの規模の安定化電源回路をディスクリートで作って搭載するマニアもいたのですが,動かしたい回路よりも安定化電源回路の方が規模がでかくなったりすると本末転倒です。

 そもそも電池はなかなか都合のいい電源で,安価で持ち運びもでき,そこそこ安定化されているし,電圧も手頃です。それにノイズもリプルも含みません。

 しかし,TTLのように電圧が一定でなければならないデバイスが使われるようになったり,電池では消費電流が大きいため不経済で商用電源やACアダプタを用いる場合には,やはり安定化電源回路が必要です。

 そこへ登場したのが三端子レギュレータです。80年代後半には100円程度の価格になっていましたが,変圧-整流-平滑の後にくっつけるだけで安定化電源が完成,しつこいリプルもあっさり除去と,一気に安定化された電源が身近な存在になりました。

 とはいえ,あくまで高い電圧から低い電圧を得るのに,その差分を熱にして捨ててしまうことで安定化するもったいない方式によるものに過ぎません。エネルギーを「変換」するという方法で安定化するスイッチングレギュレータは,アマチュアにはなかなか難易度が高いままでした。だから,高い電圧を低くすることは簡単でも,逆は夢のままだったのです。

 「初歩のラジオ」などの電子工作の雑誌で見たことがある昇圧系の記事として,LM3909を使ったチャージポンプ,フォワードコンバータを応用した電子蛍光灯,電子びっくり箱,そしてTL497を使ったDC-DCコンバータくらいがあったように記憶しています。

 TL497を使ったDC-DCコンバータは,確か電池1本か2本を9Vまで昇圧して006Pの代わりにするような便利グッズだったように思うのですが,大きなコイルやコンデンサが必要で,大げさになってしまったように思います。


 さて先日,動作確認のために昨年秋に修理したキヤノンのX-07とNECのPC-2001の2つの機種の電源を入れてみました。X-07は「BatteryLow」の表示が出てしまいましたし,PC-2001は表示が薄く,使い物になりません。

 こういう「動態保存機」を維持するのに,乾電池は不経済で,よって自己放電の少ないエネループが最適なのですが,残念なのは起電力が1.2Vと乾電池に比べて0.3Vも低いことです。

 この頃の電池で動くパソコンは,電池を4本使って6V作り,これをダイオードでドロップさせて5V付近を供給していますから,ニッケル水素電池を4本使って4.8Vを作っても,実は動作電圧範囲ギリギリなわけです。先のX-07もPC-2001も,電池を取り出して測ってみると,1.2V/本とまだまだ十分な電圧です。

 それでも動いているうちは良いのですが,少し電圧が下がるともう「電池切れ」というサインが出てきます。

 例えばですね,単三のアルカリ電池は1500mAの電流を1時間供給できると,一般的に言われています。しかし,これは新品の電池を0.9Vまで使い切った場合に1500mA引き出せるという意味で,これが1.3Vや1.2Vくらいで使えなくなってしまうと,まだまだ残っているのに電池を交換しないといけなくなるわけです。

 ニッケル水素電池の場合,終始電圧は1セルあたり1.0Vと言われています。ですが,X-07が電池切れのサインを出すのは1.15V程度です。ここで交換してしまうと,全然使い切れません。

 PC-2001に至っては,4.8V位ですでに電池切れマークが点灯し,液晶表示も薄くなっています。どう考えてもアルカリ電池でしか使えまないようです。でもエネループで使いたいしなあ。

 X-07は4.6VというギリギリICが動作する電圧をディスクリートで作った安定化電源回路で生成しているので真面目だなと思うのですが,PC-2001やPC-E500などでは,単三電池4本の6Vからダイオードを1つ入れて5.4Vに落とし,これをそのままCPUやRAMに突っ込んでいます。いやー,実に牧歌的な時代だったんだなあと,そんな風に思います。


 そんなある日,三端子の昇圧型DC-DCコンバータICがアマチュア達の間で流行っていると耳にしました。秋葉原や日本橋で買えないようなものはすでに珍しいものではなくなっており,気が付かないうちに我々の持っているポータブル機器に内蔵されているものなのですが,アマチュアが1個2個から気軽に購入できるこの手のICは,まだまだ遠い存在です。

 調べて見ると,それはHT7750AというICでした。台湾のHOLTEKというメーカーのもので,TO-92という2SC1815なんかと同じようなパッケージに入っています。見た目はそれこそ三端子レギュレータと同じで,実にアマチュア向けです。

 これにチョークコイル,ショットキーダイオード,そしてコンデンサを2つほどくっつけると,1Vあたりから5Vを作ることが出来るのです。いやー,夢のようです。

 しかもお値段は1つ60円程度。マルツ電波で買うと30個以上で単価50円になります。安い。アマチュア向けの定番になりそうな気がします。

 簡単にHT7750Aのスペックを紹介しておきましょう。

・PFM方式(周波数200kHz)
・最低動作電圧0.7Vtyp.
・効率85%typ.
・出力電圧誤差±2.5%typ.
・出力電圧は2.7,3.0,3.3,5.0の4種類
・出力電流は最大200mA
・消費電流5uAtyp.
・スイッチングFET内蔵
・CMOS

 うーん,なかなか良くできたICです。PFMというのはスイッチングレギュレータの回路方式の1つで,一般的にはPWMが使われていますが,PWMがスイッチング周波数を一定にし,デューティを可変して電圧を安定化するのに対し,PFMは周波数を可変して制御します。

 PWMは負荷が軽いときでも同じ周波数で発振しているのでIC自身の消費電流が多めになりがちで,これが軽負荷時の効率を悪化させます。しかしPFMは電圧が下がったらスイッチON,上がったらOFFで制御しますので,負荷が軽いときには周波数が下がり,自分自身の消費電流も大幅に低下します。PFMが軽負荷のスイッチングレギュレータで効率を稼げるのはこれが理由です。

 詳しい話は書きませんが,PFMはPWMに比べて動作が安定していて,発振しにくいことも利点です。ぱっと作ってそこそこの性能が誰でも出せる,というのは,半導体にとってはとても大事な性能の1つです。

 PFMは周波数が可変するのでノイズ対策が面倒になることもあり,実際の設計ではPFMとPWMを使い分ける,もしくは両方の機能を持つICを使うのですが,今回の私の用途ではPFMでちょうどよかったと言えます。

 効率85%というのは「低い」と思う人もいると思いますが,同期整流でもない昇圧型のDC-DCコンバータで85%を無調整でたたき出すというのは,私は大したものだと思います。昇圧型では頑張って作っても90%くらいが関の山ですし,素人がぱっと作って本当に85%取れるなら優秀でしょう。

 消費電流が5uAというのもばっちりですね。負荷が重いときはIC自身が消費する電流など大した影響はありませんが,軽負荷時には無視できなくなります。特に,今回のようにSRAMのバックアップを行う回路では数十uAの消費電流が長く続くことになりますから,とてもありがたいです。

 出力電圧は固定で,4つのうちから選びます。好きな電圧が得られないことは不自由ですが,ぱっと作って±2.5%以内の希望の電圧が出てくるというのは確実ですし,楽ちんです。少しなら電圧を調整出来ます(後述します)し,最大200mAまで取り出せるという手頃さも(放熱設計などを考えなくてよいという点も含めて)アマチュア向きにはちょうどよいと思います。

 で,これを使うと,4.8Vのニッケル水素電池から,アルカリ電池の6V並の電圧を生成できるようになり,PC-2001やX-07を救うことが出来るんではないか,と思い立ちました。古いハンドヘルドマシンに近代的な電源回路を内蔵するという試みですね。

 早速注文し,届くまでに仕様書を詳しく見てみます。100uHのチョークコイルと手持ちの300mAクラスのショットキーダイオード,そしてタンタルコンデンサを集めて,準備完了。

 この手の電源の設計はコイルの選定がキモです。少し乱暴な言い方ですが,取り出す電流が多いときにはインダクタンスを大きくしないといけません。しかし,インダクタンスを確保するには,簡単に言うとたくさんコイルを巻かないといけませんから,そうすると直流抵抗成分が増えて,効率が悪くなります。

 HT7750Aをマルツ電波で買った関係で一緒にコイルも調達しますが,ここは面実装品の背の低いコイルが買えるのがよいですね。東光のA921CYのうち,100uHのものを選びました。価格は90円。

 これらが届いてから早速組み立て開始です。

 HT7750Aは出力電圧が5V固定です。5Vではちょっと心許ないですから,あと少しだけ電圧を上げる工夫をしてみます。

 1つは出力電圧をコンパレータの入力に戻す端子に抵抗を入れることです。こうすると内部の分圧比が変わり,高い電圧が出てきます。適当にやってみると10V位まで電圧が出てきましたが,これってHT7750Aの耐圧を越えているので即却下です。なんか電圧もふらふらとして危なっかしいので,この方法は危険と判断しました。

 もう1つは,GNDを浮かせることです。ここに普通のダイオードを入れると,GNDが0.6Vほど(実際は流れる電流が小さいので0.7から0.8Vくらい)浮きます。これで簡単に5.6Vまで電圧をかさ上げ出来ました。このダイオードを流れる電流はICが消費するわずかな電流だけですので,小型のスイッチングダイオードでも構いません。

 三端子レギュレータではよく使われたテクニックでしたが,これで本当に正しいのかどうか,私にはわかりません。たぶん大丈夫だと思いますが・・・

 あと,ちょっと出力にノイズが多く,発振しやすくなっている可能性も心配だったので,0.1uFのパスコンをGNDと出力の間に入れてみました。目視でもノイズが減ったと分かるほどの変化があり,これは正解です。

 というわけで,4.8Vから6V付近をあっさり生成出来たことに気をよくし,モジュール化して4つほど作ってみました。

ファイル 224-2.jpg

 では評価してみましょう。

 無負荷時の消費電流は入力電圧が低いほど増えますが,3Vで30uAほど,4.5Vで15uAほどで,一応合格の範囲です。

 安定した電圧(実測で5.9V)を出力できる入力電圧の最低ラインは負荷40mA時で2.2V。ちなみにGNDをダイオードで浮かせているから2.2Vなのであって,単体の特性では1.5Vくらいからになると思われます。動作そのものは1Vくらいからするようですが,電圧も上がらず,電流も引けず,実際には使えません。

 効率ですが,下のような感じになりました。まずはダイオードでGNDを浮かせてあるものの結果です。

・入力:4.48V,57.6mA 出力:5.96V,35.4mA 効率:81.8%
・入力:3.02V,99.1mA 出力:5.90V,35.0mA 効率:69.0%

 入力3V時の効率が予想外に悪いです。効率がGNDを浮かせたことによるのであれば,この方法で電圧のかさ上げをするのは失敗ということになります。そこで,単体の特性を評価してみます。

・入力:4.49V,41.4mA 出力:5.16V,30.7mA 効率:85.7%
・入力:3.59V,51.4mA 出力:5.16V,30.6mA 効率:85.5%
・入力:3.02V,61.6mA 出力:5.16V,30.5mA 効率:84.7%

 ほぼスペック通りの結果になりました。こちらはなかなか良い感じです。

 この結果から考えると,やはりダイオードによるかさ上げは効率の悪化を招くようです。入力も出力もダイオード1つ分の0.7Vだけかさ上げされていますので,HT7750Aは0.7V低い電圧で動作し,しかもより重い負荷が繋がっていると見る事ができますが,それを加味して入力の電圧が4Vくらいあれば,80%以上の効率を確保することは出来そうです。

 今回のゴールはエネループ4本で6Vを得る,であり,ニッケル水素電池の終止電圧が1セルあたり1.0V,4本では4.0Vですから,これでもとりあえず実用にはなります。ギリギリセーフとしましょう・・・(プロの世界では通用しないです)

 さて,もう少し電流を引っ張ってみます。

・入力4.50V,130.2mA 出力5.26V,96.1mA 効率86.7%

 効率のピークは50mAくらいのはずなのですが,100mA引っ張って87%近くまで上がっています。うむー,スイッチングレギュレータは奥が深いですね。

 結論ですが,データシートの回路をそのまま組み立てるだけで85%の効率は簡単に確保出来ます。電流も100mAくらいなら楽々引っ張れそうですし,リプルも少なく,ノイズも小さいので,手軽で良くできたICだと思います。

 で,ダイオードによる電圧のかさ上げ作戦は,かさ上げされた分の電圧を差し引いて比較すると,4%から5%程度の効率の悪化があります。ただし動作そのものに支障はなく,4V以上で使うなら効率も80%は確保出来そうです。また,IC自身の消費電流は増えません。使い方次第では便利でしょう。


 というわけで,早速PC-2001とX-07に組み込んでみました。電池からの配線をぶった切り,間にこのモジュールを挟み込むだけです。

 結果は上々。PC-2001は見やすく,生き生きと動き出し,X-07も「LowBattery」の表示を出す事はなくなりました。

 これだけお手軽に昇圧回路が作れるようになると,いろんなものに応用が利きそうです。コストも全部で200円か300円かそんなもんですので,値段もお手軽です。これでようやく,昇圧回路を我が手にしたという実感がわきました。

 これでエネループを骨までしゃぶれる・・・そんな風に思って布団に入ったのですが,寝る前に少し考えてみると,まずいことが・・・

 以下次号。

PE-101Aと6V6シングルアンプ

  • 2008/10/07 12:36
  • カテゴリー:make:

 先日押し入れから6V6シングルアンプを引っ張り出して,PE-101Aに繋いで音を出してみてがっかりしたことを書きましたが,このままあきらめてしまうのもつまらないので,少し手を考えてみました。

 まず,このアンプの出力は約3.5W。効率90dBのPE-101Aとの組み合わせでは,小さい部屋ならまずまずの出力です。ただし,線の細さが面白くない,低音を下支えする安定感がないことが問題です。

 帰還量は現在約16dBと結構かけていますが,ダンピングファクタは約4.9と,なんとか合格点です。しかしやっぱりもう少し欲しいところでしょう。ちなみに初段管の6SL7については,歪みの小さくなる動作条件で動かしていることがはっきりしたので,ここは問題ないとして先に進めます。

 それで,前回も書きましたが3極管接続を行い,帰還量を減らすという作戦を実際にやってみたくなりました。出力が大幅に減るので心配ですが,まあやるだけやってみましょう。

 配線を変更する前に,ACケーブルをプラグ式に改良します。以前はシャシーが込み入った関係で直出しだったのですが,取り回しが面倒なのでメガネプラグにしました。

 これが終わってから,3極管接続への改造です。スクリーングリッドをプレートにくっつけるだけの話ですから,とても簡単なはずです。発振止めの100Ωをシリーズに入れることもあるようですが,私の場合は面倒な出入れません。出力も小さいので大丈夫でしょう。

 しかし,スクリーングリッドに電源を供給する回路が浮いてしまうわけですから,負荷が軽くなって電圧が上がります。そうするとコンデンサの耐圧を越えてしまうかも知れず,もしそうなるとコンデンサを外すなどの対応が必要です。

 幸い,350Vの耐圧に対し,300V程度で収まってくれたので,対策は必要なし。予定通りスクリーングリッドをプレートに接続します。

 プレート電圧を測定すると300V程度です。ん?確か6V6のスクリーングリッドの耐圧は285Vではなかったっけ?定格オーバーになってしまうとまずいです。調べてみると,6V6は後期には耐圧が315Vに引き上げられていることと,3極管接続ではプレートと同じ電圧でもよい(そうでないと3極管接続のプレート電圧がスクリーングリッドの耐圧に制限されただでさえ小さい出力がますます小さくなる)とされる説があるらしく,今回はとりあえずよしとしましょう。

 改造が終わり,各部の電圧を測定してスピーカを繋いでみます。音を出してみるとあきらかにこれまでとは異なる音です。

 低音のポンポンいう感じがなくなり,音圧は乏しいながらも頑張って下支えをしているような音です。ボーカルの角が取れた音は以前にも増してふくよかになり,聞き疲れしません。

 これはいい。3極管接続というのは思った以上によいです。

 ここで終わっても良かったのですが,帰還量の調整と測定をしないとダメだろうと,ささっと測定を始めてみました。

 まず最大出力は,目視による正弦波のクリップが始まるのが1kHzで0.98W。1.5Wくらいは取れるかなと思っていたので,予想以上に低いです。これで足りるかどうか少々心配です。

 ダンピングファクタは500Hz,8Ω負荷で約6.2。あれ,5極管接続とあんまり変わりません。

 ではゲインを見てみると,約5.9dBです。これもあまり変わりません。では,帰還量はいくつなんだと測定すると,これが8.93dBと小さくなっています。

 なんだか,なんの調整もしないで,ちょうど私が狙っていた点に落ち着いてくれていました。5極管接続では大きかったゲインを大量の負帰還で小さくしたものが,3極管接続では最終的なゲインはほぼ同じで,帰還量が減っている,ということは裸のゲインも小さかったということになります。

 Ep-Ip曲線を見てみれば,5極管接続と3極管接続で(同じ負荷なら)ゲインに差が出ることは当たり前なわけで,つくづく5極管(今気が付きましたが6V6はビーム4極管ですね)というのは感度も効率も高い,優秀な真空管だったんだなと実感しました。

 周波数特性はあまり関係ないと思いつつ,0.73W出力時で-3dBになった周波数は,下が9.8Hz,上が98.5kHzと全然問題なし。ただし20Hz以下の歪みの大きさは目を覆うばかりです。完全にトランスの性能が出てますね。

 高域が結構伸びているので,トランスを含むオーバーオールでの負帰還をかけた今回の回路では,発振するかも知れません。1uFのコンデンサを出力に繋いで1kHzの矩形波を入れてみましたが,元々きちんと位相補償を行ってあるので,今回もわずかにリンギングが出たくらいで済みました。これなら問題なしです。

 ということで,測定を始めるまではすごく面倒だったのですが,終わってみると特に定数の検討をすることもなく,さっと終わりました。こうして簡単でもいいから様子を見ておくと,安心です。

 そして組み立てを終えて,リスニングに使ってみましょう。聞き疲れをしないこと,ふくよかな中域にとても自然な感じがすること,小さな音でも全然平気で,何かしながら聴くのにぴったりという印象は相変わらず,いやむしろ強まったといえるでしょうか。遊びに来ていた友人も「これはBGMに最適」と同じような感想だったので,あながちウソでもないでしょう。

 それにしても1Wでも立派なものですね。真空管アンプは元々パワーが小さくても実用になると言われているのですが,それも今回実感しました。3極管接続ですからソフトディストーションであることも理由でしょう。BGMとして使うこと,元々ニアフィールドで使うこと,を考えると,出力を下げても音質を確保するという今回の目論見は正解だったと思います。

F-757を調整してみる

  • 2008/07/11 15:58
  • カテゴリー:make:

 最近,日曜日の午後など,特に聴きたい音楽があるわけでもないようなときは,FMラジオを聞くことがあったりします。

 エアチェックに耐えないような番組ばかりと旧来のファンは(私も含め)FMから遠ざかる一方ではありますが,少し考え方を変えてみるとその面白さに気が付きます。

 FM放送は,その特徴から高音質,ステレオ放送がウリでしたから,エアチェックを前提とした音楽放送を中心として親しまれてきたわけですが,FM放送の特徴は別に高音質というだけではありません。

 1つは混信がない。同じ周波数なら強い電波が勝ち,弱い電波は消されます。ということは,地域に密着した小さいサービスエリアを前提とする,地域放送局が成立するわけです。

 1つには電波の状況による,音量の変化が少ない。AMラジオとFMラジオを車の中で聞き比べれば分かりますが,AMラジオは走っていると音量の変化がけっこうあります。一方のFMラジオは,きちんと音がきこえていれば音量があまり変わりません。声を聞くときなどこれは結構重要で,カーラジオにFMというのは実に相性がよいのです。ということは,車の中で聞いていて楽しい番組が揃うことになります。

 高音質以外にも,FM変調をかけることで得られるメリットはあり,やはりFMは存在意義があるなあと,そんな風に思います。

 それで,以前は高音質一辺倒だった放送局側の考えも,こうした状況から個性が出てくるようになります。地域FMなどはその最たる例でしょうし,NHK-FMが比較的トラディショナルな方針であるのに対し,他の民放大手は娯楽性を高めています。

 それが技術的に,あるいは音質的にも大きな差となっており,NHK-FMの音質の高さはマニアの間では知らない人はいない程です。対してJ-WAVEなどは音質を積極的にいじって,車の中などで聞きやすくする先駆者でした。

 私のFMの受信環境は,ラジオなどという簡便なものがないおかしな状態ゆえ,F-757というパイオニア製の比較的高級なチューナーがメインです。F-757はAMステレオが受信できない以外はほとんど後継機F-777と同じで,F-777が中古市場でも大人気であることに私は結構気をよくしています。

 当時展示品かなにかを2,3万円で購入したことしか覚えていませんが,それまで使っていたアナログチューナーに比べて,受信性能も音質も安定性も格段に向上したことが印象に残っています。

 ところが,NHK-FMだけやたらと歪むのです。他は全然大丈夫なんですが,時報やピアノ,サ行の音が濁ります。これはとても辛いです。

 私の地域はいわゆる強電界地区ですので,大げさなアンテナを上げなくても十分とされているのですが,私は横着をして部屋に引き込まれているTVのアンテナから分配をして,FMチューナーに入れています。レベルは主要局すべてでS5,NHK-FMも例外ではありません。

 例えば,TOKYO-FMやJ-WAVEも同じように歪むなら,電波に問題があるという気がしたのですが,問題はNHK-FMだけです。それまで絶対の信頼を置いていたF-757に,ちょっと疑念が沸いてきました。

 いろいろ調べて見ると,やはりチューナーは経年変化に弱いらしいです。高級機ほど調整箇所も多く,20年も経てばまず再調整をしないと性能は出ないとのこと。

 しかし,調整をお願いするにはサービスセンターに持ち込む必要がありますし,F-757を購入してからすでに16年,断られてもおかしくない状況です。今後も維持していこうと思うなら,自分で調整くらい出来た方がいいです。

 調整そのものは難しくありません。むしろ楽だと思いますが,基準信号発生器と呼ばれる高価な測定器がなければ,全く手出しが出来ないのです。

 ともあれ,F-757のサービスマニュアルを探してみます。海外のマニアはなんでもかんでも自分でやる熱い人が多く,そのせいか海外サイトにはサービスマニュアルがよく出回っています。サービスマニュアルも著作物ですので限りなく黒に近いグレーなのですが・・・

 サービスマニュアルによる調整手順は予想通り簡単で,測定器さえあれば出来そうな感じです。

 さて,問題は基準信号発生器です。買うと言っても新品は数十万円,それで出来ることはFMラジオの調整だけ。いやー,これはさすがに買えないです。中古は数万円くらいで出てきますが,今欲しいといってすぐに見つかる訳ではありませんし,それに数万円で出来ることが相変わらずFMラジオの調整だけです。却下でしょう。

 ま,悩む前にふたを開けてみましょう。

 でかい1枚ものの片面基板が顔を出します。安いベークライトの基板です。ここにびっしりと部品がついています。調整可能なコイル,トリマコンデンサ,可変抵抗もおびただしい数になっていて,これすべてを調整するともう大変なことになると想像がつきます。これだから高周波はいやなんです。

 とりあえず,放送波でどうにかなるところまで調べてみます。まずStep1,フロントエンドのバリキャップ電圧の確認です。サービスマニュアルは海外仕様なのでこの通りの電圧にはなりませんが,PLL-ICとして同じソニーのCX7925を使っている他のチューナーを調べて,これに近い電圧になってるかどうかをみます。

 するとやはり結構ずれています。高い周波数側をあわせると低い周波数側があわなくなるので困ったものですが,そもそも国内向けの仕様が見つかりませんから仕方がありません。一応ここでは,90MHzの時に21.5Vになるようにしておきました。

 次にトラッキングです。76MHzと90MHzの2つの放送波をつかまえて,TP10の大きさが最大になるよう,交互に調整をします。しかし,そう都合良く76MHzと90MHzで放送をやってくれているわけはありません。76.1MHzと86MHzの2つを見つけ,これで調整を行います。結構ずれている感じです。

 次は中央付近の周波数を受信し,IF段の調整です。ちょうどNHK-FMの先代が83.1MHzなので,これを使います。TP10を見ながら,最大になるようにIFトランスを調整します。

 次は検波出力の調整。同じく83MHzを受信し,TP4とTP5の間の電圧がゼロになるよう,トランスのコアを抜き差しします。これも割合簡単です。

 さあ,次のステップで私の手は止まりました。モノラル時の歪率調整です。83MHzを受信し,音声出力端子の歪率が最小になるようにするのですが,歪率計がありません。低歪率な正弦波発振器もなければ,低歪率なFM送信機も基準信号発生器もありません。まさか1kHzの正弦波を流し続けてくれるような,そんな永久放送事故な放送局があるはずもなし。

 ただ,NHK-FMの歪みっぽさがこの段階で消えてくれればうれしいなあと,調整箇所であるトランスのコアをグリグリ回していたら,ペキッと嫌な音がしてコアがかけてしまいました・・・うわぁぁぁぁあ

 ・・・このSTEPは飛ばしましょう。サブバランス調整というのやります。これは簡単で,83MHzを受信してTP3が最小になるようにすればよいらしいです。楽勝。

 次はMPXのVCOです。TP7が38kHzになるように調整ですが,ここはPLLがロックすればよいので,多少いい加減でもどうにかなるでしょう。

 次はパイロットキャンセルの調整。ステレオ放送を受信し,漏れてくるパイロット信号19kHzが最小になるようにしますが,ステレオ放送で無音を出し続けてくれるような永久放送事故な放送局があるはずなし。次。

 えと,ステレオ時の歪率調整・・・出来ません。次。

 えとえと,ステレオ時のチャンネルセパレーション調整・・・1kHzの正弦波を方チャネルだけ流し続けてくれるような,しかも時々左右を入れ替えてくれるような,そんな怪奇現象のような放送局があるはずもなし。次。

 次は・・・ありません。

 ということで,肝心な調整が出来ずに終わってしまいました。コアもかけてしまいましたし,いろいろいじりましたから,このままほっとくわけにもいかないでしょう。どうにかせねば。

 足りないものは,歪率計,低歪率な正弦波,そしていろいろな設定が可能なFM送信機です。

 実は歪率計と正弦波発振器は,最近PCを利用して実現するフリーソフトが存在し,お金のない自作派は随分救われています。私も救われたかったのですが,Windowsの動いているマシンで一番高速なのは1.3GHzのCeleron。しかもGPU非搭載です。あまりに非力で使い物になりませんでした。

 しかし,ふと手元を見ると,そこには2.5GHzCore2Duo,GeForce8600搭載のMacBookProが!

 実はBootCampを試してみようとWindowsXPを入れてあったりしたので,これを使って歪率計と正弦波発振器を用意しましょう。正弦波発振器は出力をSPDIFにするとアナログ回路での歪みを無視できます。

 ただ歪率計(スペアナ)だけはそういうわけにもいかんので,ローランドのUA25を使ってUSBから入力します。

 試して見ると,これはすごい。スペアナなんて,サンプリング点を65536にしても18fpsで表示できています。32768にすればほぼリアルタイムですよ。すごい。ノイズフロアも-100dB以下と,実用上十分。オーディオに限って言えば,もう測定器級だといってもいいんじゃないでしょうか。

 問題はFM送信機,いわゆる基準信号発生器です。これは本当にどうにもなりません。

 まてよ,FMトランスミッタを使えないか・・・最近のワンチップFMトランスミッタは高性能化が進み,音質もかなり良くなっていると評判です。

 幸い,会社にSiliconLab社製の高性能な評価ボードがあったので,ちょっと借りてきました。これはUSBで様々な設定が可能で,周波数,送出レベル,デビエーション,入力のミュートやパイロット信号の有無など,およそ測定に必要なことはPCの画面上で切り替えることが出来ます。

 このボードの実測値を見てみると,明らかにチューナーの性能に負けています。しかし歪率は0.3%をちょっと上回る程度ですし,チャンネルセパレーションも40dBくらいです。これを基準に調整してもこの性能を上回れないのですが,でもこのボードで最善を尽くせば,実力はもっと上に来ている可能性もあります。

 ないよりまし,これでやってみましょう。ありがたいことに,このボードの音声入力はSPDIFが許されています。

 接続を済ませ,各種ソフトを入れて,早速試してみますと,予想以上の好印象です。調整箇所を動かせば,それに従ってすすーっとスペアナが変化します。正弦波そのものの歪みも小さく,案外いいところに調整が出来そうです。

 最終的に歪率は測定限界に近い0.3%まで追い込みました。このチューナーのスペックもこの程度ですから,ベストといってよいでしょう。また19kHzのパイロット信号の抑圧などはわかりやすく,目視でもノイズに埋もれる位のレベルに追い込めます。

 チャンネルセパレーションもしっかり調整。ただ,やっぱり結構漏れるみたいですね。送信側の問題かも知れないのでなんとも言えません。

 調整のための環境さえあれば,作業そのものはとても簡単。やはり調整前がベストになっていたわけではなく,若干のズレがありましたから,経年変化だけは避けられないようです。

 早速試聴です。はっきりいって,よくわかりません。もともと高音質を指向したソースも少なく,NHK-FMは相変わらず歪みだらけですので,よく分かりません。よく分からないのですが,気が付いたのが低音がしっかり出てることでしょうか。

 iPodを送信機に繋いで音を出してみましたが,アンテナを直結しているせいもあり,iPodを直接聞いているのとなにも変わりません。少なくともこの段階で,Hi-Fiオーディオ機器としてのFMチューナーであることに,私は自信を持ちました。

 となると,NHK-FMの強烈な歪みの原因ですね。どうもこれは,マルチパス障害のようなのです。

 なぜ民放ででないのか分かりませんが,テレビのVHFアンテナは,FM放送の帯域では指向性がちょうど180度反転します。直接波ではなく,むしろ積極的に反射波をつかまえているような状態なので,受信レベルが良くてもマルチパスが起きまくっているのは確かです。

 歪みになるか,ジュルジュルという音になるかは,直接波と反射波の到達時間差によるものがあり,また送信周波数にも関係がありますので,そう考えるとNHK-FMでだけ歪みが出るというのは納得出来ます。

 試しに,アンテナ端子と金属製のラックをくっつけてみると,歪みがなくなりました。やはりマルチパスですね・・・

 下手に素人がいい加減な機器で調整を行わずともよかったのかも知れません。ベストではなくても,十分な性能を持っていることは確かだったわけですし。

 問題の解決には,さらにFMアンテナを調達しないといけないことになりました。以前はマルチパスなど出なかったので,T型のフィーダーアンテナはすでに捨ててしまいましたし,賃貸ですから屋根上に7エレのFMアンテナなど上げるわけにはいきません。(そういえば実家では最初にあげた3エレ八木が台風に飛ばされ,5エレにしました・・・)

 ということで,まずはフィーダーアンテナを買ってきましょう。数百円で買えるはずです。昔はスーパーにも売ってたくらいだったのですが,最近はとんと見かけなくなりました。まだ売ってるのかと心配になって調べると,大手量販店にはありそうです。会社に帰りにでも買って来ることにします。

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