楽器仕込みのRIAAイコライザアンプを試す
- 2007/07/10 15:21
- カテゴリー:make:
とあるところで耳にしたのですが,アナログレコードを聴くために必須となるRIAAイコライザアンプで,K&Rという会社のキットが良い評判のようです。
このK&Rという会社,オーディオというより,ギターなどのエフェクタのキットで有名なんだそうです。
あっちの世界(エフェクタの世界)はなかなか道険しい物があるようで,同じJRCのNJM4558でも表面がツルツルのパッケージとザラザラのパッケージでは音が違うとまことしやかに信じられており,その筋ではツルツルパッケージが高値で取引されているとかいないとか。
音の善し悪しといっても,ピュアオーディオと違って,原音に忠実であることを一応の基準におくわけではなく,積極的に波形をいじる「エフェクタ」での話ですので,そこはもう測定もクソもなく,徹底的に感性の世界であるとしか言えません。
手作りエフェクタは今でも根強い人気を誇っているようで,30年ほど前から革新的な技術が登場するわけでもなく,ほとんど確立された回路を磨き上げて今日まで続いているということですし,それに音楽を聴くという「受け身」の立場というより,音楽を作るという,より研ぎ澄まされた耳と感性を持つ人がその善し悪しを論ずる世界でもあるので,私個人はずっと好感を持っています。
そんな世界に独自のこだわりと良心的な価格で評判になっているK&Rさんが,RIAAイコライザアンプを作っているそうです。価格はキットで6800円。うーん,中途半端な値段です。
汎用OP-AMPを使ったイコライザアンプならキットで6800円はやや高い,かといって部品1つ1つに高級品を使ったディスクリートのものなら安すぎます。どう位置づけたらよいやら難しいところですが,ホームページには回路の特徴だけではなく,きちんと詳細な測定データを掲示してあり,その自信の程がうかがえます。
RIAA偏差などは極めて優秀ですし,ダイナミックレンジやひずみ率も文句の付けようがありません。
NE5532とOP07というおなじみのOP-AMPを使ったものではありますが,低域のカーブをNF型で,高域のカーブをCR型で作るというハイブリッド型。確かにCR型を使って仕上げるには回路上のの工夫や実装が難しいですし,NF型は低域と高域の帰還率が違うために特性の差が大きく,高域の歪みっぽさが抜けません。この両方のいいとこ取りをするというのは非常に理にかなっています。
これにDCサーボをかけて完全DCアンプとしてあります。スペックも周波数特性が10~100kHz,RIAA偏差が±0.15dB(20~20kHz),SN比が84dB,歪率が0.0028% (1KHz 5mVrms)と,大変に現代的で立派なものです。
私もこれまでに,とりあえず補正できますよ程度のものから,現在使っているディスクリートのものまでいくつかイコライザアンプを作ってきましたが,数値的にこれだけ優れた物を作ってきたことはなく,一度試してみようと思いました。価格も6800円ですからね,自分で部品を集めて基板を作ると,こんな値段では作れません。
早速注文すると定形外郵便で数日後に届きました。代金は同封の振り込み用紙で行えばよいと言うことで,後払いなんですね。個人に近い形でやってらっしゃるはずなのに,前払いではないなんてきっと大変だろうなと思ったりします。
部品を見てみると,実はかなり厳選されていることに驚きました。抵抗がすべて金皮であることはまあよいとして,温度特性がきちんと管理されているんですね。オーディオ雑誌などで多くの製作記事を見ますが,温度特性をきちんと管理している記事はほとんど目にしません。
特にRIAAイコライザのカーブを決定する抵抗の精度と温度特性は0.1%・±15ppm/℃となっていて,個人レベルでは入手さえも難しいのではないかと思われる物を使っています。
コンデンサもフィルムコンデンサを中心に組み立てられており,カーブ決定用のコンデンサは1%誤差のものです。これだって入手は簡単ではありません。
電源に入る電解コンデンサも音響用のものを使っています。私などこんな高級な電解コンデンサだったら信号電流を流して使いますよ。もったいない。
基板もFP-4に金メッキ,片面ですが分厚く機械的にもしっかりしています。パターンも綺麗で申し分ありません。
これが6800円か・・・できるもんだなあと感心しました。
例えば,これがよくあるピュアオーディオのキットだったら,やれ抵抗はDALEのなんだとか,やれコンデンサはスプラーグのなんちゃらだとか,配線材はベルデンのなにやらシリーズだとか,そういう「ブランド」が先行してお値段29800円とかになるんでしょうが,このイコライザアンプは部品のブランドよりその素質を重視し,お金をかけるところとかけないところをきちんと分けて,極めて合理的に作ってあります。これは設計者の良心でしょう。大いに共感します。
キットですが,部品点数も少ないのでサクサクと1時間ほどで完成してしまいます。小学生の時に初めて作ったキットのように,純粋に楽しいと思う作業を済ませたところで,ケースや電源回路用の部品を秋葉原で調達します。
ケースはタカチのUC12でこれまで使っているイコライザアンプと同じ物です。電源回路はDC±9V~±15Vで20mA以上というスペックが必要ですが,面倒なので12Vの三端子レギュレータで済ませます。三端子レギュレータを嫌う人もいますが,ではその人がどんな電源回路を作っているかというと,ディスクリートでシリーズレギュレータを作ってあるだけだったりして,世の中どうなってるのかと思います。シャントレギュレータあたりを作ってあったりすると説得力もあるというものなんですが・・・
トランスは手持ちの物を使いますが,実はちょっとケースが小さすぎて収まらなかったため,今使っているイコライザアンプに入れたクリスキットのRコアトランスを外して使います。外されたイコライザアンプには,今回使う予定だったものを入れておきます。
電源回路は慣れたもので,特に回路図を書かなくてもさっさと作れてしまうほど簡単な物です。電圧は固定ですので調整も必要ありません。ただし,GNDだけはしっかり取っておきます。
全体のレイアウトを検討しますが,今回はかなり窮屈なケースに押し込みますので,トランスや交流電源からの誘導によるハムがとても心配です。基板との距離を出来るだけ離すことはもちろんですし,小信号のラインは可能な限り短く,また誘導を避けるように引き回します。Rコアのトランスを使えたことも漏洩磁束対策としてはいい方向に向かうと思います。
決まったら引き続きケースの穴あけを行いますが,これが楽しいやらしんどいやら面倒やらで,結局半日つぶれてしまいます。ACインレット用の角穴がいつも面倒なのですが,これだけでもシャシーパンチがないものかと,いつもいつも思います。
今回は塗装はしません(もともとヘアラインにアルマイト処理ですので塗装などしても無駄です)から,このまま組み立てに入ります。
ちょっとした配線ミスなどがあったりしましたが,組み立てと配線を終えて,確認作業です。電源電圧は問題なし,出力オフセット電圧の測定と調整も終わって,いきなりですが音を出してみましょう。
まず無音です。びっくりしたのはノイズの少なさ。壊れているのかと思いました。また心配していたハムもほとんど出てきません。助かりました。
ここまで来たらレコードを実際に再生してみたくなるのが,これ人情というもの。DL103を昇圧トランスにつなぎ,さらにイコライザアンプをつなぎます。
音を出して一発目の印象は,何とも現代的な,きらびやかな音だろうということでした。シンバルやハイハットのシャリシャリが心地よく,きちんと定位します。ボーカルはすーっと頭のてっぺんから抜けて行く伸びやかさがありますし,1つ1つの楽器が見えるように鮮明です。
CD的といえばよいでしょうか,ほんとにクリアな音がします。
いや,気のせいかも知れない,そう思ってこれまでのイコライザアンプ(シェルターのmodel216のデッドコピーです,すみません)に戻してみましたが,こちらはやはり以前の音です。頭の上にフタをされたような抑圧感がある一方で,ボーカルはぴくりともせず中央で艶を放っています。まさに肉声といってよいその存在感は,私がこれまでアナログレコードに求めてきたものです。
金属音は一気に奥に引っ込み,シンバルもハイハットも妙に耳障りになってしまいます。全体的に華がなくなり,小さなライブハウスを彷彿とさせる音は,善し悪しではなくもはや個性だろうと思います。
もう一度今回のイコライザアンプに戻します。やはりクリアですね。ボーカルの艶はなくなりますが,その代わり伸びが加わります。スケールの大きさも出てきますので,ジャズよりクラシックなどの方が向いているのかも知れません。
同様に,MCであるDL103とMMであるV15typeVxMRとで比べて見ましたが,今回のものはその差が出にくい感じです。MMとMCの個性の差を埋めるというか,どちらもとてもクリアに聴かせるので,私がMMに求めている中音域のエネルギー感は薄くなります。
以前のイコライザアンプはMCカートリッジの繊細さを殺してしまう代わりに中音域のパワーをたくましく前に出してくれるので,V15typeVxMRでジャズやロックを聴くとその躍動感に心ふるえるものがありました。
情報量は今回のイコライザアンプが圧勝です。特性も大変素晴らしく,文句の付けようがありませんが,前回のイコライザアンプのような個性がなく,それが良い場合と悪い場合に作用することは覚悟しておく必要があるかも知れません。
ロックやジャスの鑑賞には以前のものを,保存版の録音やクラシックには今回のものを使うという使い分けになりそうです。
実は,DL103というカートリッジの良さがこれまでよく分からなかったのです。日本の標準機であることは知っていますし,今なお根強いファンがいることも分かっていますが,どう考えても丸針で設計の古いカートリッジが現代に通用するはずはないと思いこんでいたのです。
しかし,今回のイコライザアンプと組み合わせてみて,本当の力というのはこれなんだなと思うようになりました。何も引かず何も足さない,これがこのイコライザアンプの個性であり,それがDL103の方向性と一致するわけですから,これほどストレートに情報を拾い上げてくれる組み合わせもないでしょう。結果はその通りになっています。
全部で1万円かかっていませんし,時間も手間もかかっていませんが,これは非常にいいものを手に入れることが出来ました。ますますもってアナログレコードが楽しくなってきます。
うちはとりあえず,DL103とV15typeVxMRでいいです。それ以外は気分で使うことにします。
いつも思うのですが,アナログのオーディオの世界は,一仕事終えると「ここまできたなあ」と感慨深くなることが多いです。お金をかけて一流品を揃えればことを,わざわざ遠回りして苦労しているだけの話で見る人が見れば馬鹿馬鹿しいことこの上ないのですが,それでもまだまだ中学生の時にその音に感激した叔父のシステムの足下にも及ばない現状に,またため息をつくのです。